説明

自動分析システム

【課題】
検査室における緊急検査の受付けから結果出力までの時間(ターンアラウンドタイム)を短縮する。
【解決手段】
緊急検体が装置に投入される前の早い段階で、装置自身が緊急検査の発生を認識できる手段を設けるとともに、検体測定前に装置内で必要な準備プロセスをあらかじめ登録できる仕組みを設ける。これにより装置とは別の設備を使用する準備プロセスの時間帯に、装置内での準備プロセスを並行して行うことができ、緊急検体を装置に投入すると即時に検体測定を開始できるため、検査室における緊急検査の受付けから結果出力までの時間(ターンアラウンドタイム)を大幅に短縮することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料の成分を分析する自動分析装置に係り、特に緊急検査の効率的な運用が可能な自動分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
血液,尿などの生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置は、用手法に比しての分析の迅速性,再現性の高さにより、大病院,検査センターを中心に普及が著しい。このような自動分析装置では、入院,外来などの一般の患者検体や健康診断用の検体のように検査室のルーチン業務として測定する一般検体と、急患などに対応するための緊急検体とに区別され、自動分析装置においても一般検体に先立って緊急検体の分析が実行できるような機能を備えたものがある。このような機能を備えた自動分析装置は、例えば、特許文献1などに記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−346432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の緊急検体への対応は、一般検体に先立って緊急検体の分析を行うか、一般検体分析中に緊急検体を割り込ませて先に測定する、等、分析のスケジューリングを変更することにより実行されていた。しかし、緊急検体を一般検体よりも優先して測ったとしても、その時点で有効なキャリブレーションデータや精度管理データがなかったり、測定に必要な装置のメンテナンス等の事前準備が十分でない場合、結局、分析結果の報告が遅くなるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、検査室における緊急検査の受付けから結果出力までの時間(ターンアラウンドタイム)が短縮できる自動分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
検査室全体のワークフローを考えた場合、検査室が緊急検査発生を認識してから、緊急検体を装置に投入して分析スタートする前にいくつかの準備プロセスがある。この準備プロセスは自動分析装置とは別の設備を使用して行うものであって、例えば、検体の属性を臨床検査システムなどの上位コンピュータに入力する、検体を患者から採血する、採血した検体を遠心分離機にかけ血清を分離する、得られた血清を自動分析装置での測定用検体容器に分注する、などの準備である。
【0007】
このような準備プロセスを実行開始する際に、緊急検体が自動分析装置にセットされることが前もってわかるため、準備プロセス開始をトリガーとして自動分析装置側で必要なキャリブレーション,精度管理検体の測定,測定に必要な装置のメンテナンス等を開始することにより、実際に緊急検体が自動分析装置に到着した時点で自動分析装置側の測定準備が完了しているため、迅速な結果報告が可能となる。
【0008】
具体的には、例えば、自動分析装置において、緊急検体を装置に投入し分析スタート操作を行うのに先立って緊急検査の発生を事前に認識する手段を設ける。分析装置の操作部画面に緊急検査発生ボタンを設け、これを押すことにより緊急検査の発生を、緊急検体を装置に投入したり分析スタート操作を行う前に装置に認識させる。緊急検査発生認識後、あらかじめ登録された装置内の準備プロセスを緊急検体の装置投入前に行っておく。これにより装置とは別の設備で行っている準備プロセス、すなわち臨床検査システムへの検体属性登録,採血,遠心分離,検査容器への分注を行っている時間帯に装置内での準備プロセスを行うことができ、緊急検査の依頼から結果出力までの時間を短縮できる。
【0009】
緊急検査の発生を装置に事前に認識する手段としては、画面上のボタン以外の手段も可能である。例えば、検査室内の他の設備、すなわち臨床検査システムなどの上位コンピュータ,遠心分離機,検査容器への分注装置などと、装置をネットワークで接続することにより、他の設備で認識した緊急検査発生情報を、装置が受信することも可能である。
【0010】
また、公衆回線網を利用し検査室外にある携帯電話・PHSや、インターネットに接続した別のコンピュータから緊急検査発生情報を受信することも可能である。
【0011】
さらに、緊急検査の発生を認識した際に、装置内で行う準備プロセスをあらかじめ登録できる画面を設ける。これらの準備プロセスとして、装置のメンテナンスなど装置全体に関わる準備プロセスと、検査項目毎のキャリブレーション,精度管理用測定,試薬の事前攪拌など、検査項目単位で必要な準備プロセスの2種類を登録できるようにする。これにより、検査室や医療施設の運用条件に従い、緊急検査が発生する頻度の高い検査項目に対する準備プロセスを、任意に設定できる。さらに、緊急検査の発生を認識した時点で、既に装置に必要なメンテナンスが十分行われていたり、測定する検査項目に対する有効なキャリブレーションデータや精度管理データが存在している場合はそれらの準備プロセスを自動的にスキップするロジックを装置内に設けることにより、緊急検査効率の最適化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
検査室における緊急検査の受付けから結果出力までの時間(ターンアラウンドタイム)を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
まず、自動分析装置に緊急検査発生を認識させるための一手段として、緊急検査受付ボタンを説明する。図1に自動分析装置上の表示画面の一例を示した。図1において1−1は装置の状態を表すステータスライン、1−2はJOBメニューボタン、1−3はサブメニューシート、1−4は操作エリア、1−5はグローバルメニューエリアである。グローバルメニューエリアは自動分析装置に表示される複数の画面の、どの画面においても常に表示する共通表示エリアである。このグローバルメニューエリア1−5内に緊急検査受付ボタン1−6を設ける。これによりユーザが緊急検査の必要性を認識した時点で、装置がどの画面を表示している場合でも即時に緊急検査受付ボタン1−6を押すことができ、緊急検査の発生を装置に認識させることができる。
【実施例2】
【0015】
次に、自動分析装置に緊急検査発生を認識させるための他の手段の例を、図2を用いて説明する。
【0016】
2−1は検査室の設備構成の例である。2−2は自動分析装置、2−3は表示画面等を含む装置の操作部である。
【0017】
2−4は装置の分析部である。2−3の操作部のコンピュータを検査室内の別の設備、すなわち2−5に示した臨床検査システムなどの上位コンピュータ、2−6の遠心分離機、2−7の検体分注装置などと2−8のネットワークで接続する。これにより、これらの別設備が自動分析装置に先立って緊急検査の発生を認識した場合、装置はその情報をネットワーク通信により受信することができる。さらに、公衆回線網を利用して検査室外にあるデバイスから、緊急検査の情報を得ることも出来る。2−9は公衆回線網、2−10は携帯電話もしくはPHS、2−11は外部コンピュータを示す。これらの構成によれば、検査室外で認識した緊急検査の発生を装置でも即時に受信でき、より早い段階で装置内の準備動作を行うことが可能となる。
【実施例3】
【0018】
次に、緊急検査の発生を認識した際に必要な準備動作のうち装置全体に関わる事前準備動作の登録方法を図3を用いて説明する。図3は緊急検査用装置事前準備動作の登録画面の例である。3−1は登録可能な準備動作機能一覧の表示エリア、3−2は機能一覧のうち、緊急検査発生時にどの準備動作を自動的に行うかを選択するためのチェックボックスである。これによりオペレータは1つまたは複数の準備動作を選択することができ、3−3の更新ボタンを押すことにより、選択した内容は記憶装置に保存される。装置は緊急検査を認識すると、選択された準備動作を自動的に実行する。3−4の取消ボタンを押すと編集中の内容はキャンセルされる。
【実施例4】
【0019】
次に、緊急検査の発生を認識した際に必要な準備動作のうち、検査項目ごとに必要な準備動作の登録方法を図4および図5を用いて説明する。図4は緊急検査項目登録画面である。図4において、4−1は装置で測定可能な検査項目の一覧、4−2は緊急検査を行う検査項目の一覧である。4−1の検査項目の一つをマウス等で選択した状態で4−3追加ボタンを押すと選択した項目が緊急検査項目として4−2の緊急検査項目一覧に追加される。逆に4−2の緊急検査項目の一つを選択した状態で、4−4の解除ボタンを押すと選択された項目は緊急検査項目から解除される。4−5の更新ボタンを押すことにより、選択した内容は記憶装置に保存される。4−6の取消ボタンを押すと編集中の内容はキャンセルされる。図5は、図4の緊急検査項目登録画面で登録された検査項目ごとに必要な準備動作を選択する緊急検査項目毎準備動作登録画面である。5−1の緊急検査項目には、図4の緊急検査項目登録画面で登録した内容を表示する。5−1の緊急検査項目の一つを選択すると、項目ごとに必要な準備動作一覧5−2をプルダウンメニューなどで表示する。オペレータは当該検査項目測定時にどの準備動作を自動的に行うかをチェックボックスにより1つまたは複数選択することができる。5−3の更新ボタンを押すことにより、選択した内容は記憶装置に保存される。5−4の取消ボタンを押すと編集中の内容はキャンセルされる。図4,図5に示した設定機能を用いることにより装置は緊急検査を認識すると、設定された項目毎の準備動作を自動的に実行する。
【実施例5】
【0020】
次に、登録された準備動作が実際に必要かどうかを装置が判定し、不必要な準備動作をスキップする処理フローの例を図6を用いて説明する。図6は、装置全体に関わる準備動作として、“使用済反応容器廃棄”、緊急検査項目として検査項目‘AAA’が登録され、‘AAA’の測定に必要な事前準備として“キャリブレーション”が登録されている場合の例である。
【0021】
ステップ6−1で、装置データベース上の反応ディスクの情報を読み出す。
【0022】
ステップ6−2で、反応ディスク上に使用済反応容器が残っているかチェックする。残っていればステップ6−3へ進み、使用済反応容器の廃棄動作を実行するが、残っていなければ当該動作はスキップしステップ6−4へ進む。ステップ6−4で装置データベース上のキャリブレーション情報を読み出す。ステップ6−5で緊急検査項目‘AAA’の有効なキャリブレーションデータが既に存在するかどうかチェックする。存在しなければ、ステップ6−6に進みキャリブレーションを実施するが、既に存在していれば当該動作はスキップする。以上のような判定ロジックを装置内に組み込むことにより、不必要な動作は省略し、即時測定動作に入ることができ、試薬や消耗品の無駄遣いも防ぐことができる。
【実施例6】
【0023】
次に、本発明による検査室における緊急検査のターンアラウンドタイムの短縮効果について図7を用いて説明する。
【0024】
7−1に従来の技術による緊急検査の測定シーケンスの例を示す。検査室が緊急検査の発生を認識すると、依頼の登録,遠心分離,検体の分注などの準備プロセスが装置とは別の設備で行われる。その後分注した検体をオペレータが装置に投入する。すると装置は使用済み反応容器の廃棄,キャリブレーションなどの装置内の準備プロセスを実行した後、検体の測定を実行する。
【0025】
したがって、7−2に示す、従来の技術による緊急検査発生から結果出力までのターンアラウンドタイムt1は、別設備での準備プロセスと分析装置での準備プロセスと検体測定の3つの時間の合計になる。これに対し、本発明を適用した場合の緊急検査の測定シーケンスの例を7−3に示した。画面上のボタンや通信を介して、分析装置自身が、緊急検査の発生を事前に認識する。すると別設備での準備プロセスと分析装置での準備プロセスは時間的に並行して行えるため、7−4に示す、本発明適用時の緊急検査発生から結果出力までのターンアラウンドタイムt2は、従来のt1に比べ大幅に短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態における、自動分析装置に緊急検査発生を認識させるための一手段としての緊急検査受付ボタンの一例を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における、自動分析装置に緊急検査発生を認識させるための一手段としての自動分析装置と検査室内での他の設備との接続、および検査室外の他のデバイスとの接続の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における緊急検査用装置事前準備動作の登録画面の一例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態における緊急検査項目登録画面の一例を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態における緊急検査項目毎準備動作登録画面の一例を示す図である。
【図6】登録された準備動作が実際に必要かどうかを装置が判定し、不必要な準備動作をスキップするロジックを示すフローチャートである。
【図7】本発明を適用することによる検査室における緊急検査のターンアラウンドタイムの短縮効果について示した図である。
【符号の説明】
【0027】
1−1 装置の状態を表すステータスライン
1−2 JOBメニューボタン
1−3 サブメニューシート
1−4 操作エリア
1−5 グローバルメニューエリア
1−6 緊急検査受付ボタン
2−1 検査室の設備構成の例
2−2 自動分析装置
2−3 表示画面等を含む装置の操作部
2−4 装置の分析部
2−5 上位コンピュータ
2−6 遠心分離機
2−7 検体分注装置
2−8 ネットワーク
2−9 公衆回線網
2−10 携帯電話もしくはPHS
2−11 外部コンピュータ
3−1 登録可能な準備動作機能一覧の表示エリア
3−2 チェックボックス
3−3,4−5,5−3 更新ボタン
3−4,4−6,5−4 取消ボタン
4−1 装置で測定可能な検査項目の一覧
4−2 緊急検査を行う検査項目の一覧
4−3 追加ボタン
4−4 解除ボタン
5−1 緊急検査項目
5−2 項目ごとに必要な準備動作一覧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊急検査依頼の発生を認識する緊急検査依頼認識手段と、
該緊急検査依頼認識手段が緊急検査依頼を認識したことに基づき、該緊急検査に必要な準備動作の実行を自動分析装置に指示する指示手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析システム。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析システムにおいて、
前記準備動作は、キャリブレーション,精度管理,試薬の攪拌の中から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする自動分析システム。
【請求項3】
請求項2記載の自動分析システムにおいて、
前記準備動作を予め指定する指定手段を備えたことを特徴とする自動分析システム。
【請求項4】
請求項1記載の自動分析システムにおいて、
前記緊急検査に必要な準備動作を実行する緊急検査項目を予め登録する緊急検査項目登録手段を備えたことを特徴とする自動分析システム。
【請求項5】
請求項3記載の自動分析システムにおいて、
前記登録手段で登録した緊急検査項目毎に実行する準備動作の内容を予め登録する準備動作登録手段を備えたことを特徴とする自動分析システム。
【請求項6】
請求項4記載の自動分析システムにおいて、
前記準備動作登録手段で登録された準備動作のうち、準備動作実行時に不要な準備動作をスキップするように制御する制御手段を備えたことを特徴とする自動分析システム。
【請求項7】
請求項1記載の自動分析システムにおいて、
前記緊急検査依頼の情報を、緊急検査依頼認識手段と前記自動分析装置の間で伝達する伝達手段が、通信回線を利用したものであることを特徴とする自動分析システム。
【請求項8】
請求項6記載の自動分析システムにおいて、
前記通信回線が公衆回線であることを特徴とする自動分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−270940(P2009−270940A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121765(P2008−121765)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】