説明

自動分析装置

【課題】
開口部から攪拌棒を挿入して液を攪拌する攪拌機構を備えた自動分析装置において、液を付着させたまま攪拌棒を被攪拌液から引き上げると、分析精度が低下する。また、攪拌棒から液が飛散して装置信頼性を損なう恐れがある。
【解決手段】
攪拌棒を被攪拌液から引き上げるときの引き上げ速度が、攪拌棒が被攪拌液に接しているときに比べ、離れた後は高速とすることで、攪拌棒に付着する液量を低減し、分析精度向上に寄与する。また分析スループット数を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体中に含まれる微量物質の含まれる液の分析に好適な自動分析装置に係り、特に液の攪拌機構を備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液,尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う分析装置(以下、自動分析装置と呼称する)はサンプルと試薬との反応を促進させるため、サンプルと試薬の混合液に攪拌棒を浸漬させて回転させる機構を備えることが一般的である。攪拌棒は、攪拌対象となる容器中の攪拌液に浸漬し、回転するなどして攪拌混合作用を生じさせた後、引き上げて、次の分析のために洗浄される。近年、これらの自動分析装置に対し、単位時間に処理する数(スループット数)を低下させずに、分析精度を高くすることが求められている。この課題に対し、特許文献1では、洗浄槽への洗浄水供給停止後に攪拌棒を回転させ、洗浄液が被攪拌液に持ち込まれにくくする技術が記載されている。また、特許文献2では、ディスポーザブルチップを用いて効率よく適正に攪拌することができる、液体攪拌方法及び装置に関する技術が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−292398号公報
【特許文献2】特開2007−132855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術では、攪拌後に反応液が攪拌棒に付着する虞がある。また、特許文献2に記載の技術では、ディスポーザブルチップを、容器底面近くまで降下させて吐出する攪拌動作の終了後に、攪拌液から引き上げてディスポーザブルチップを廃棄する際、ディスポーザブルチップの外側に液滴を残さないために、液体吐出位置まで低速上昇し、その後、ディスポーザブルチップ内の液体を吐出仕切るまでタイムラグを設け、低速上昇して液面から離脱させ、原点まで高速上昇する。しかし、どの程度低速にすれば液滴が残らないのかわからないので際限なく低速にしてしまい、スループット数が低下する恐れがある。さらに、反応液の種類によっては、後述するように液滴ではなく液膜状に付着するために付着量が多くなっている恐れがある。また、吐出しきるためのタイムラグを設けているため、スループット数の低下に繋がる。なお攪拌棒に付着する液量が多い場合、反応液の液量が減少してしまい、攪拌後にさらに別の試薬を分注して反応させるような場合、反応液量比が変化して分析精度が低下する恐れがある。あるいは攪拌した液を別の反応に供するために吸引して使用する場合などは、攪拌毎に液が著しく減るためその分を見越して最初に多めに貯液しておかなければならず、液の消費量が増大する恐れがある。また、液を付着させたまま攪拌棒を洗浄槽に移動する場合、付着液が周囲に飛散して周辺環境を汚染し、装置自体の信頼性を損なう恐れがある。特にスループット数を維持するために攪拌棒を高速移動する場合には、付着液量が多いと飛散する液量も多くなる。
【0005】
本発明の目的は、攪拌後に攪拌棒に付着する反応液液量低減することにより、スループット数を維持したまま、分析精度が高く、装置信頼性が高く、液の消費量が少ない自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明では、攪拌棒を被攪拌物から引き上げるときの引き上げ速度を、攪拌棒が被攪拌物に接しているときに比べて高速とする。
【発明の効果】
【0007】
以上のような形態により、従来技術の少なくとも一つの課題について解決に寄与することができる自動分析装置を提供することができる。
【0008】
具体的には、例えば、攪拌棒を被攪拌物から引き上げるときの引き上げ速度を、攪拌棒が被攪拌物に接しているときに比べて高速とすることで反応液の持去る量を低減することにより、スループット数を維持したまま、分析精度が高く、装置信頼性が高く、液の消費量が少ない自動分析装置を提供することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1乃至図5を用いて実施例を説明する。
【0011】
本自動分析装置は、図1に示すように、小型の反応容器101を格納する反応ディスク102,サンプル容器104を収納するサンプルディスク103,試薬容器106を格納する試薬ディスク105,サンプル,試薬をそれぞれ反応容器101に分注するサンプル分注機構107,試薬分注機構108,試薬を一定の状態に保つための試薬攪拌機構120,分注されたサンプルと試薬(反応液)を反応容器101内で攪拌する攪拌機構109,反応容器101内の反応液の反応過程及び反応後の吸光度や蛍光発光などの光強度などを測定する手段である検出機構110,検査(測光)が終了した後に反応容器101を洗浄する洗浄機構119から構成される。これらの各構成要素は、検査を開始する前に、あらかじめコンソール113より入力された分析項目情報に基づいて、コントローラ112より作成されるプログラムにしたがって自動的に所定のタイミングで順次動作する。
【0012】
なお、上述したように本自動分析装置では、反応容器101に挿入してサンプルと試薬を攪拌する反応液の攪拌機構109と、試薬容器106に挿入して試薬を攪拌する試薬攪拌機構120の、2つの攪拌機構を備えている。試薬攪拌機構120は、試薬が試薬ディスク105中に格納されている間に複数液に分離したりして変質することを防ぐために一定間隔で攪拌するための手段であり、試薬を一定の状態にしておくためのものである。以下、反応液攪拌機構109をもとに述べるが、試薬攪拌機構120にも同様にあてはまるものとする。
【0013】
反応液攪拌機構109は、図2に示すように、表面積が広いパドル板200とパドル棒201から構成される攪拌棒202が、攪拌アーム203によって反応容器101から洗浄槽210に移動する機構となっている。攪拌アーム203とこれを支持するアーム回転軸204は、回転モータ225と、回転モータ225が載せられたアーム台座215を上下するリニア型モータ220によって、回転,上下移動をする。反応容器101中に挿入され反応液230に浸漬された攪拌棒202は、攪拌アームヘッド部分205に備えられた回転モータ(図示せず)によってその場で高速回転し、反応液230を攪拌する。攪拌動作が終ると攪拌棒202を洗浄槽210まで上昇,回転,下降により移動し、洗浄水流路211から洗浄水を流入,排出しながら洗浄し、次の攪拌動作に備える。攪拌が終った反応容器101は反応ディスク102が回転することによって移動し、次に攪拌されるべき反応容器を備えた新しい反応容器が攪拌場所に移動してくる。
【0014】
図3(A),(B)に、攪拌棒を攪拌液から引き上げる間の模式図を示す。攪拌棒202を引き上げたとき、反応液230の物性によっては、図3(A)に示したように、膜先端310からパドル板200の下側全てに液膜状に付着する。膜先端310は、攪拌終了後では反応液の液面320の位置に該当する。その結果、図3(B)に示すように付着液301として反応液230から持去られることがあった。図4に、引き上げ速度と付着液量の関係を示す。曲線Aは水のよう液の粘度が小さく表面張力の大きい液の場合、曲線Bは界面活性剤が多量に含まれた液の粘度が高く表面張力の小さい液の場合を示す。図4に示したように、引き上げ速度が大きいとき、付着液量は多い。また反応液230の粘度が高く表面張力の小さい液の場合に付着量は多い。このときの付着量をWとすると、重力g,液の密度ρ,尿液の粘度η,表面張力γ,パドル表面積S,引き上げ速度Vとの間には、
【0015】
【数1】

【0016】
の関係があることがわかった。
【0017】
そこで図5のように攪拌棒引き上げ動作を制御する。図5には、各時刻における攪拌棒の様子も合わせて示す。攪拌が終了した時刻を0とし、攪拌棒が上死点に到達する時刻をT2とし、その後は洗浄工程に移るために回転移動を開始する。従来は、時刻0からT2まで一定の速度V0で攪拌棒を引き上げていた。本実施例では、パドル板200先端が反応液液面320から完全に離液するまでの時刻をT1とすると、まずパドル板200が反応液に接している間(時刻0からT1まで)は低速V1で引き上げる。このとき従来に比べ引き上げ速度が遅いので、式(1)から攪拌棒に付着する液量が低減でき、高精度な分析に寄与できる。さらに付着量が少ないので、攪拌棒が経時変化などによって付着量が変動する場合にも変動の絶対量を減らすことになるため、影響を抑えることができる。次に、パドル板200が反応液230から離れる時刻T1から上死点到達時刻T2までは加速して高速V2で引き上げる。このとき上死点到達時刻T2は従来例と変わらないため、全体の引き上げ時間が長くならない。以上のように攪拌棒202を制御することによって、スループット数を維持したまま分析精度の高い分析装置を提供することができる。
【0018】
攪拌棒が離液する時刻T1は反応液の液面高さに依存する。液面高さは、サンプルや試薬の分注量を反応容器断面積と引き上げ速度V1で除すれば与えられるので、分注量と連動させることにより、コントローラからの自動処理が可能である。
【0019】
なお、引き上げ速度V1のときの付着量をW1とすると、式(1)より
【0020】
【数2】

【0021】
となり、V1の望ましい範囲を与えることができる。付着液量が攪拌後の反応液量の10%より多くなると、順次試薬を分注して反応させる場合に次の試薬との混合率が変わってしまうので分析精度に影響を与える。また、反応液量の0.1%程度であれば、容器開口部から自然蒸発や、光学的検出,サンプルや試薬分注の秤量精度の範囲内となる。したがって式(2)より引き上げ速度V1は攪拌後の反応液の液量をW0として、
【0022】
【数3】

【0023】
のようにすればよい。
【0024】
さらに、分析の項目ごとに反応液の物性が異なるため、分析項目に応じて引き上げ速度V1を変更することが好ましい。例えば水のように粘度が低く表面張力の大きく付着し難い液の場合には高速にし、界面活性剤濃度が高い表面張力が小さく粘度が高く付着しやすい液の場合には低速にする。このようにすることで、装置全体のスループット数維持に寄与できる。あるいは最も付着液量の多い反応液物性を想定し、そのときの付着液量を最低にするようなV1で全ての分析を行えば、コントローラへの負荷が減るので、信頼性の高い分析装置の提供に寄与できる。
【実施例2】
【0025】
図6を用いて実施例を説明する。図6は、図5に示したものと同様に、攪拌棒引き上げ動作の制御方法、および各時刻における攪拌棒の様子の別形態を示している。
【0026】
付着しやすい液の場合、図3に示したように、反応液は液膜状になってパドル板200に付着する。本図において液膜の膜厚は、重力によって液が垂れるので先端部分310から下面に向けて徐々に厚くなっている。したがって、この膜先端310部分の液膜厚みは元来薄いので、この領域を厚くしても付着液量全体への影響は小さい。そこで図6に示すように、まず引き上げ開始時は比較的高速なV21で引き上げる。次に液膜厚さに応じ、パドル板200の離液時刻T1までの間に速度V22まで徐々に減速しながら引き上げる。その後、実施例1と同様に加速して高速V2で引き上げる。以上のように初速の段階で高速にすることにより、一定低速で引き上げる場合に比べて引き上げ時間全体の短縮に効果がある。したがって、スループット数は維持しつつ分析精度の高い分析装置の提供に寄与できる。
【実施例3】
【0027】
図7を用いて第3の実施例を説明する。図7は、図5に示したものと同様に、攪拌棒引き上げ動作の制御方法、および各時刻における攪拌棒の様子の別形態を示している。
【0028】
図7に示すように、反応容器101底面での攪拌流動を重視し、攪拌棒202の先端のみにパドル板200が形成されている場合がある。パドル板200は平板状だけではなく、数枚の翼が取り付けられている場合もある。このような攪拌棒はパドル板200部分の表面積が大きいため、付着量が増大することが懸念される。ただし、パドル棒201部分は表面積が小さいため、相対的に付着量は少ない。そこでまず、パドル棒201部分が液面320に位置しているときは速度V31の高速で引き上げ、パドル板200部分が液面320に到達する直前から低速V32に速度を減速する。次にパドル板部分が液面にある時刻T3からT1までの間はV32の低速のまま引き上げ、パドル板200が離液した時刻T1以後は実施例1と同様に加速して高速V2で引き上げる。このようにすることにより付着量の多いパドル板部分での付着量を低減できることから、分析精度向上に繋がる。また、低速引き上げの時間が短くなることから引き上げ時間全体の短縮に効果があるため、分析装置のスループット数維持に寄与できる。
【実施例4】
【0029】
図8を用いて他の実施例を説明する。図8は、図5に示したものと同様に、攪拌棒引き上げ動作の制御方法、および各時刻における攪拌棒の様子の別形態を示している。
【0030】
図8(A)の攪拌終了後から攪拌棒202を引き上げていくとき、図8(B)に示すように、反応容器101の壁面801に付着液301が付着したパドル板200を近付けるように斜め上方に引き上げる。このとき、攪拌棒の上下移動と水平移動は独立した機構で制御されているので、引き上げ速度V1に影響はない。なお、離液時刻T1までは垂直に引き上げ、離液した直後から斜めに引き上げても良い。次に、図8(C)のように付着液の側面805が容器側壁801に接すると、不安定な自由表面よりも安定な固体表面である容器壁面801側に液が移動する。その結果、図8(D)のように液滴810のように付着し、付着液811はもとの付着液301に比べ液量が減る。この間、パドル板200が容器壁面901を傷つけないよう、付着液側面805のみが壁面801に接するように引き上げ動作を制御することが望ましい。その後、時刻T2まで攪拌棒を容器壁面とは逆の側に水平移動しつつ速度V2で引き上げる。なお、付着液滴810の位置は図9(E)に示すように、次の反応のための次の試薬が分注された後の液面820の下側になることが好ましい。液面820より上側になる場合、反応終了後に液滴810が垂れてくることによって時刻が遅れて反応が生じ、分析精度が低下する恐れがあるためである。以上のようにすることで、パドル板200に付着する液量をさらに減らすことができるので、分析精度の高い分析装置の提供に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態における分析装置全体の概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態における攪拌機構の断面概略図である。
【図3】本発明の一実施の形態における攪拌機構の断面概略図である。
【図4】本発明の一実施の形態における攪拌棒に付着する液量の概略図である。
【図5】本発明の一実施の形態における攪拌棒引き上げ動作の制御方法、および各時刻における攪拌棒の様子を示している。
【図6】本発明の他の実施形態における攪拌棒引き上げ動作の制御方法、および各時刻における攪拌棒の様子を示している。
【図7】本発明のさらに他の実施形態における攪拌棒引き上げ動作の制御方法、および各時刻における攪拌棒の様子を示している。
【図8】本発明のさらに他の実施形態における攪拌棒引き上げ動作の制御方法、および各時刻における攪拌棒の様子を示している。
【符号の説明】
【0032】
101 反応容器
102 反応ディスク
202攪拌棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有し攪拌すべき液が貯蔵されている容器を備え、該開口部から攪拌棒を挿入して液を攪拌する攪拌機構を備えた自動分析装置において、
前記攪拌棒を該被攪拌液から引き上げるときの引き上げ速度が、該攪拌棒が該被攪拌液に接しているときに比べ、離れた後は高速となるように制御する制御機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
開口部を有し攪拌すべき液が貯蔵されている容器を備え、該開口部から攪拌棒を挿入して液を攪拌する攪拌機構を備えた自動分析装置において、
前記攪拌棒先端が該被攪拌液から離れた前後に該攪拌棒の引き上げ速度が最小になるように制御する制御機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
開口部を有し攪拌すべき液が貯蔵されている容器を備え、該開口部から攪拌棒を挿入して液を攪拌する攪拌機構を備えた自動分析装置において、
該攪拌棒が該被攪拌液に接しているときの引き上げ速度が、該被攪拌液の液面にある該攪拌棒の濡れぶち長さが長いときに比べ短いときに高速となるように制御する制御機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
開口部を有し攪拌すべき液が貯蔵されている容器を備え、該開口部から攪拌棒を挿入して液を攪拌する攪拌機構を備えた自動分析装置において、
該攪拌棒を該被攪拌液から引き上げるときに、該攪拌棒が該被攪拌液を離れた後、該容器の壁面方向に該攪拌棒が移動しながら引き上げられ、該攪拌棒に付着した液の液面が容器壁面に接したのち、該攪拌棒が壁面から離れるように移動しながら引き上げるように制御する制御機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至4記載のいずれかに記載の自動分析装置において、
該攪拌棒を該被攪拌液から引き上げるときの該攪拌棒が該被攪拌液に接しているときの引き上げ速度Vが、重力g,該被攪拌物の粘度η,表面張力γ,密度ρ、および該攪拌液に接する部分の表面積S、該攪拌液の容量W0として下記となっていることを特徴とする自動分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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