説明

自動利得制御装置および自動利得制御方法

【課題】従来のものより受信特性の劣化を抑制することができる自動利得制御装置および自動利得制御方法を提供すること。
【解決手段】利得制御部4は、受信チェーン3毎の出力レベルを測定する出力レベル測定部30と、出力レベルの統計値に基づいて、各可変利得増幅器12に共通の共通利得を決定する共通利得決定部31と、各可変利得増幅器12に利得を設定する利得設定部32と、利得設定部32によって共通利得が設定された可変利得増幅器12を有する各受信チェーン3の出力レベルに基づいて、各可変利得増幅器12に個別の調整利得を共通利得より狭範囲で高精度に決定する調整利得決定部33とを有し、利得設定部32は、共通利得と調整利得とに基づいた利得を各可変利得増幅器12に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動利得制御装置および自動利得制御方法に関し、特に、複数の受信チェーンを備えた無線受信機用の自動利得制御装置および自動利得制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動利得制御装置としては、WLAN(Wireless LAN)パケットのMIMO(Multiple Input Multiple Output)部と非MIMO部との間でチャネル毎の受信パワーが変動するため、受信チャネル毎にMIMO部の先頭にあるAGC(Automatic Gain Control)用のプリアンブル信号を時間領域または周波数領域で巡回シフトさせながら各受信チェーンの出力レベルを測定することで、受信チェーン間の受信パワーの変動を抑えて、受信チェーンの出力特性を改善するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、図11に示すように、受信処理部202に接続され、アンテナ210、ダウンコンバータ211、可変利得増幅器212およびAD(Analog-Digital)変換器213を備えた複数の受信チェーン203に対して、受信チェーン203毎に利得制御部204を設けたものが開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、図12に示すように、受信処理部302に接続され、アンテナ310、ダウンコンバータ311、可変利得増幅器312およびAD変換器313を備えた複数の受信チェーン303に対して、1つの利得制御部304を設けたものが開示されている。
【0005】
すなわち、図11に示す自動利得制御装置は、受信チェーン203毎に利得制御部204を設け、各受信チェーン203の可変利得増幅器212の利得を個別に設定するようになっている。
【0006】
一方、図12に示す自動利得制御装置は、全ての受信チェーン303に対して1つの利得制御部304を設け、各受信チェーン303の可変利得増幅器312の利得を共通に設定するようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図11に示したような従来の自動利得制御装置は、干渉等の影響によって特定の受信チェーン203の出力レベルが他の受信チェーン203の出力レベルに対してかなり小さくなった場合、特定の受信チェーン203のSNR(Signal to Noise Ratio)もかなり低下するため、特定の受信チェーン203の出力レベルが他の受信チェーン203の出力レベルと同レベルになるまで受信信号が増幅される。
【0008】
この結果、受信信号に含まれるノイズ成分が大きく増幅されて後段の受信処理部202に入力されるため、受信特性が劣化する。このように、図11に示したような従来の自動利得制御装置は、受信特性が劣化してしまうことがあるといった課題があった。
【0009】
また、図12に示したような従来の自動利得制御装置は、全ての受信チェーン303の可変利得増幅器312の利得を同じ値に設定するため、干渉等の影響によって利得制御後の出力レベルが受信チェーン303間で大きく異なることがある。
【0010】
このため、図12に示したような従来の自動利得制御装置は、受信レベルが高い受信チェーン303では、AD変換時にオーバーフローが発生して受信特性が劣化してしまうことがあり、受信レベルが低い受信チェーン303では、信号の実効ビット数の減少により量子化雑音が増大して受信特性が劣化してしまうことがあるといった課題があった。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたもので、従来のものより受信特性の劣化を抑制することができる自動利得制御装置および自動利得制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の自動利得制御装置は、複数の受信チェーンにそれぞれ設けられた可変利得増幅器と、前記可変利得増幅器の利得を制御する利得制御部とを備えた無線受信機用の自動利得制御装置であって、前記利得制御部は、前記受信チェーン毎の出力レベルを測定する出力レベル測定部と、前記出力レベル測定部によって測定された出力レベルの統計値に基づいて、前記各可変利得増幅器に共通の共通利得を決定する共通利得決定部と、前記各可変利得増幅器に利得を設定する利得設定部と、前記利得設定部によって前記共通利得が設定された可変利得増幅器を有する各受信チェーンの出力レベルに基づいて、前記各可変利得増幅器に個別の調整利得を前記共通利得より狭範囲で高精度に決定する調整利得決定部と、を有し、前記利得設定部は、前記共通利得と前記調整利得とに基づいた利得を前記各可変利得増幅器に設定するように構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、従来のものより受信特性の劣化を抑制することができる自動利得制御装置および自動利得制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る自動利得制御装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る自動利得制御装置を構成する利得制御部を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る自動利得制御装置の自動利得制御動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】図3に示す自動利得制御動作で実行される第1の共通利得決定処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】図3に示す自動利得制御動作で実行される第2の共通利得決定処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】図5に示す第2の共通利得決定処理を説明するための概念図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る自動利得制御装置を構成する可変利得増幅器の他の態様を示すブロック図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る自動利得制御装置を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る自動利得制御装置を構成する利得制御部を示すブロック図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る自動利得制御装置を構成する第1可変利得増幅器の他の態様を示すブロック図である。
【図11】従来の自動利得制御装置を示すブロック図である。
【図12】従来の他の自動利得制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る自動利得制御装置1は、受信信号を処理する受信処理部2に接続され、複数の受信チェーン3と、利得制御部4とを備えている。なお、図1において、2つの受信チェーン3が図示されているが、本発明に係る自動利得制御装置を構成する受信チェーンの数を限定するものではない。
【0017】
受信チェーン3は、アンテナ10と、アンテナ10に受信されたRF(Radio Frequency)帯の受信信号をベースバンドの受信信号にダウンコンバートするダウンコンバータ11と、受信信号を増幅する可変利得増幅器12と、アナログの受信信号をディジタルの受信信号に変換するAD変換器13と、フィルタ14とを備えている。
【0018】
なお、本発明において、ダウンコンバータ11、AD変換器13およびフィルタ14は、受信チェーン3に必須の構成要件ではなく、本発明に係る自動利得制御装置の実装態様に応じて適宜設けられる。
【0019】
図2に示すように、利得制御部4は、受信チェーン3毎の出力レベルを測定する出力レベル測定部30と、各可変利得増幅器12に共通の共通利得を決定する共通利得決定部31と、各可変利得増幅器12に利得を設定する利得設定部32と、各可変利得増幅器12に個別の調整利得を決定する調整利得決定部33とを備えている。
【0020】
なお、図1において、2つの調整利得決定部33が図示されているが、本発明における調整利得決定部33は、受信チェーン3に対応して設けられる。また、本実施の形態において、出力レベルは、出力電力のことをいうが、本発明においては、出力レベルとして出力信号の振幅を適用してもよい。
【0021】
共通利得決定部31は、各出力レベル測定部30によって測定された出力レベルの統計値に基づいて、共通利得を決定するようになっている。本実施の形態において、統計値とは、各出力レベル測定部30によって測定された出力レベルの平均値のことをいうが、本発明においては、最大値、最小値または中間値等のように統計的に得られる値を用いてもよい。
【0022】
共通利得決定部31は、共通利得を格納するためのレジスタ31aを有し、制御目標とする範囲の上限値と下限値とが予め設定されている。共通利得決定部31は、出力レベルの統計値が上限値を超えた場合には、共通利得を減少させ、出力レベルの統計値が下限値を下回った場合には、共通利得を増加させ、統計値が上限値から下限値までの間に入った場合には、共通利得を決定するようになっている。
【0023】
調整利得決定部33は、調整利得を格納するためのレジスタ33aを有し、利得設定部32によって共通利得が設定された可変利得増幅器12を有する各受信チェーン3の出力レベルに基づいて、各可変利得増幅器12に個別の調整利得を共通利得より狭範囲で高精度に決定するようになっている。具体的には、調整利得決定部33は、予め定められた目標値を出力レベルで除することにより調整利得を決定するようになっている。
【0024】
例えば、共通利得決定部31が12dB単位の精度で共通利得を決定し、調整利得決定部33は、1.5dB単位の精度で調整利得を決定する。この場合には、利得設定部32によって可変利得増幅器12に設定される利得は、最上位ビットから48dB、24dB,12dB、6dB、3dB、1.5dBに対応する6ビットで表すことができ、共通利得決定部31が上位3ビットを決定し、調整利得決定部33が下位3ビットを決定するように構成する。
【0025】
すなわち、上述した例において、共通利得決定部31は、共通利得を0〜84dBの範囲で12dB単位にクリッピングするように構成され、調整利得決定部33は、目標値を出力レベルで除した結果を0〜10.5dBの範囲で1.5dB単位にクリッピングするように構成される。
【0026】
利得設定部32は、シーケンサ40と、各調整利得決定部33に対応する乗算器41およびマルチプレクサ42とを備え、各可変利得増幅器12に利得を設定するようになっている。なお、図2では、利得値をそのまま利得設定に用いているが、実際には利得値の対数値(dB)を設定するAGCアンプが多いため、その場合には、乗算器41の代わりに加算器を用いる。
【0027】
シーケンサ40は、共通利得決定部31の動作の開始および終了の指示、調整利得決定部33の動作の開始および終了の指示、マルチプレクサ42に対する選択信号の送信、受信処理部2との間の制御信号の送受信等を行うようになっている。
【0028】
乗算器41は、共通利得決定部31によって決定された共通利得と、調整利得決定部33によって決定された調整利得とを乗算するようになっている。
【0029】
マルチプレクサ42は、シーケンサ40から送信された選択信号に応じて、共通利得決定部31によって決定された共通利得と、乗算器41の乗算結果のうち何れか一方を選択するようになっている。このように、マルチプレクサ42によって選択された利得が各可変利得増幅器12に設定される。
【0030】
ところで、IEEE802.11nの無線LAN規格では、従来の11a規格の装置との互換性のため、HT−Mixedパケットフォーマットでは、11a互換の部分と11n専用の部分と含み、それぞれの部分に利得制御を目的とした領域、すなわち、L−STFおよびHT−STFといった利得制御領域が定義されている。HT−STFの期間はL−STFの半分のため、HT−STFで利得の調整に掛けられる時間は限られている。
【0031】
このような複数の利得制御領域を含むパケットを受信する場合には、シーケンサ40は、受信処理部2との間で送受信される制御信号に基づいて、パケットの最初の利得制御領域で、共通利得決定部31に共通利得を決定させ、マルチプレクサ42に共通利得を選択させるようになっている。
【0032】
さらに、シーケンサ40は、共通利得設定後に同パケットのすべての利得制御領域で、各調整利得決定部33に調整利得を決定させ、各マルチプレクサ42に乗算器41の乗算結果を選択させるようになっている。
【0033】
これにより、パケットの最初の利得制御領域では、比較的時間が掛かる共通利得の決定が1回だけ行われ、以降は、決定された共通利得が共通利得決定部31のレジスタ31aに格納され、同パケットの1番目の利得制御領域の共通利得設定後の期間と2番目以降の利得制御領域では、比較的時間が掛からない調整利得の決定だけが行われるため、各可変利得増幅器12の利得を設定する時間が短縮される。
【0034】
このように構成された自動利得制御装置1の自動利得制御動作について、図3乃至図5を用いて説明する。なお、以下に示す自動利得制御動作は、パケットを表す受信信号が自動利得制御装置1に受信されたときにスタートする。
【0035】
ここでは、何れかの出力レベル測定部30が予め定められた最低受信レベルを超えた場合に、パケットを表す受信信号が自動利得制御装置1に受信されたこととする。このため、自動利得制御動作がスタートする前に、可変利得増幅器12に最大利得が設定されていることが好ましい。
【0036】
また、ダウンコンバータ11における図示しないRF部から得られるRSSI(Receive Signal Strength Indication)信号に応じて、パケットを表す受信信号が自動利得制御装置1に受信されたこととしてもよい。この場合には、自動利得制御動作がスタートする前に、可変利得増幅器12に最大利得を設定しておく必要はない。
【0037】
図3において、まず、パケットの最初の利得制御領域において、受信チェーン3毎の出力レベルが各出力レベル測定部30によって測定される(ステップS1:レベル測定ステップ)。次に、出力レベル測定部30によって測定された出力レベルの統計値に基づいて、各可変利得増幅器12に共通の共通利得が共通利得決定部31によって決定され(ステップS2:共通利得決定ステップ)、共通利得決定部31によって決定された共通利得が利得設定部32によって各可変利得増幅器12に設定される(ステップS3:第1利得設定ステップ)。
【0038】
次に、共通利得設定後の同パケットのすべての利得制御領域において、共通利得が設定された可変利得増幅器12を有する各受信チェーン3の出力レベルに基づいて、各可変利得増幅器12に個別の調整利得が各調整利得決定部33によって共通利得より狭範囲で高精度に決定される(ステップS4:調整利得決定ステップ)。
【0039】
そして、共通利得と調整利得とに基づいた利得が利得設定部32によって各可変利得増幅器12に設定される(ステップS5:第2利得設定ステップ)。以降、自動利得制御動作は、当該パケットの受信が完了するまで利得制御領域毎にステップS4およびステップS5を実行し、利得制御領域以外はその直前の利得制御領域での共通利得と調整利得を維持し、当該パケットの受信が完了すると終了する。
【0040】
ここで、共通利得決定ステップで実行される共通利得決定処理について、図4を用いて詳細に説明する。なお、共通利得決定処理が実行される前に、制御目標とする範囲の上限値と下限値が予め設定されているものとする。また、共通利得をGtとし、共通利得の初期値を可変利得増幅器12の最大利得とし、共通利得の変更単位をαとする。
【0041】
まず、各出力レベル測定部30によって測定された出力レベルの統計値が共通利得決定部31によって算出される(ステップS10)。次に、算出された統計値が上限値を超えているか否かが共通利得決定部31によって判断され(ステップS11)、統計値が上限値を超えていると判断された場合には、共通利得Gtをαで除して新たな共通利得Gtとし(ステップS12)、共通利得決定処理は、ステップS10に戻る。
【0042】
一方、統計値が上限値を超えていないと判断された場合には、統計値が下限値を下回るか否かが共通利得決定部31によって判断され(ステップS13)、統計値が下限値を下回ると判断された場合には、共通利得Gtをαで乗じて新たな共通利得Gtとし(ステップS14)、共通利得決定処理は、ステップS10に戻る。一方、統計値が下限値を下回らないと判断された場合には、共通利得決定処理は、終了する。
【0043】
ここで、共通利得決定ステップで実行される他の共通利得決定処理について、図5を用いて詳細に説明する。なお、共通利得決定処理が実行される前に、制御目標とする範囲の上限値と下限値が予め設定されているものとする。また、共通利得をGtとし、共通利得の初期値をG0とし、共通利得の調整係数をGadjとし、調整係数をGadjの初期値をG0/2とする。
【0044】
まず、各出力レベル測定部30によって測定された出力レベルの統計値が共通利得決定部31によって算出される(ステップS20)。次に、算出された統計値が上限値を超えているか否かが共通利得決定部31によって判断され(ステップS21)、統計値が上限値を超えていると判断された場合には、共通利得Gtを調整係数Gadjで除して新たな共通利得Gtとし(ステップS22)、調整係数Gadjを2で除して新たな調整係数Gadjとし(ステップS23)、共通利得決定処理は、ステップS20に戻る。
【0045】
一方、統計値が上限値を超えていないと判断された場合には、統計値が下限値を下回るか否かが共通利得決定部31によって判断され(ステップS24)、統計値が下限値を下回ると判断された場合には、共通利得Gtを調整係数Gadjで乗じて新たな共通利得Gtとし(ステップS25)、調整係数Gadjを2で乗じて新たな調整係数Gadjとし(ステップS26)、共通利得決定処理は、ステップS20に戻る。一方、統計値が下限値を下回らないと判断された場合には、共通利得決定処理は、終了する。
【0046】
例えば、図6に示すように、共通利得Gtの初期値を96dBとすると、調整係数Gadjの初期値は48dBとなる。また、制御目標範囲は±6dBとする。ここで、各アンテナ10に入力された受信信号の全体の平均電力が−60dBmであると仮定する。
【0047】
この状態で、共通利得決定処理が実行されると、各受信チェーン3の可変利得増幅器12で増幅した信号の受信チェーン3間の平均出力レベルの測定値は、−60dBm+96dB=+36dBmとなる。これは、制御目標範囲を超えているので、共通利得Gt=96−48=48dB、調整係数Gadj=24dBに更新される。
【0048】
この更新値を用いて2回目の平均出力レベルを測定すると、その値は−60dBm+48dB=−12dBmとなる。これは、制御目標範囲を下回るので、共通利得Gt=48+24=72dB、調整係数Gadj=12dBに更新される。
【0049】
3回目も同様に処理を行うと、共通利得Gt=60dB、調整係数Gadj=6dBに更新される。これを用いて4回目の平均出力レベルを測定すると、その値は−60dBm+60dBm=0dBmとなり、制御目標範囲に収まるので、ここで共通利得決定処理が終了する。
【0050】
以上に説明したように、本実施の形態に係る自動利得制御装置1は、各受信チェーン3の出力レベルの統計値に基づいて、各可変利得増幅器12に共通の共通利得を決定して各可変利得増幅器12に利得を設定し、共通利得が設定された可変利得増幅器12を有する各受信チェーン3の出力レベルに基づいて、各可変利得増幅器12に個別の調整利得を共通利得より狭範囲で高精度に決定して各可変利得増幅器12に設定するため、従来のものより受信特性の劣化を抑制することができる。
【0051】
すなわち、全ての受信チェーン3の出力レベルに基づいて、全ての受信チェーン3に共通の共通利得を設定することによって利得の粗調整を行っているため、干渉により特定の受信チェーン3の出力レベルが他の受信チェーン3の出力レベルより大きく低下した場合でも、特定の受信チェーン3だけを過大に増幅することなく他の受信チェーン3と同じだけ増幅する。
【0052】
この結果、自動利得制御装置1は、SNRが低い信号を過大に増幅することにより受信信号に含まれるノイズ成分が大きく増幅されて後段の受信処理部2に入力され、受信特性が劣化するといった状態を抑制することができる。
【0053】
また、自動利得制御装置1は、共通利得の設定後、受信チェーン3毎の出力レベルと目標値との差から調整利得を決定し、調整利得と共通利得とを乗じた利得を各可変利得増幅器12に設定しているので、受信チェーン3間のレベル差が調整可能な範囲内であれば、可変利得増幅器12毎に異なる最適な利得を設定することができる。
【0054】
そのため、自動利得制御装置1は、利得制御後の受信チェーン3間の信号のばらつきによるAD変換時のオーバーフローや低レベル信号受信時の実効ビット数の減少による量子化誤差の増大に伴う受信特性の劣化を従来のものより抑制することができる。
【0055】
なお、可変利得増幅器12は、1つの可変利得増幅器によって構成してもよいが、図7に示すように、それぞれ異なる利得を有する複数の固定利得増幅器50a〜50cおよび各固定利得増幅器50a〜50cをオン/オフする複数のスイッチ51a〜51cよりなる第1可変利得増幅器50と、第1可変利得増幅器50によって増幅された信号を更に増幅する第2可変利得増幅器52とによって構成してもよい。
【0056】
例えば、可変利得増幅器12に設定される利得が、最上位ビットから48dB、24dB、12dB、6dB、3dB、1.5dBに対応する6ビットで表される場合、固定利得増幅器50aの利得を48dBとし、固定利得増幅器50bの利得を24dBとし、固定利得増幅器50cの利得を12dBとし、第2可変利得増幅器52の利得を0〜10.5dBとすることにより、前述したように、可変利得増幅器12が機能する。なお、固定利得増幅器とスイッチとの組み合せの数は、実装態様により任意である。
【0057】
(第2の実施の形態)
図8に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る自動利得制御装置100は、受信信号を処理する受信処理部2に接続され、複数の受信チェーン103と、利得制御部104とを備えている。なお、図1において、2つの受信チェーン103が図示されているが、本発明に係る自動利得制御装置を構成する受信チェーンの数を限定するものではない。
【0058】
なお、本実施の形態に係る自動利得制御装置100の各構成要件のうち、本発明の第1の実施の形態に係る自動利得制御装置1と同一な構成要件には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
受信チェーン103は、アンテナ10と、ダウンコンバータ11と、受信信号を増幅する第1可変利得増幅器112と、第1可変利得増幅器112によって増幅された受信信号を更に増幅する第2可変利得増幅器113と、AD変換器13と、フィルタ14とを備えている。
【0060】
図9に示すように、利得制御部104は、出力レベル測定部30と、共通利得決定部31と、各第1可変利得増幅器112および各第2可変利得増幅器113に利得を設定する利得設定部132と、調整利得決定部33とを備えている。
【0061】
利得設定部132は、シーケンサ140を備え、各第1可変利得増幅器112および各第2可変利得増幅器113に利得を設定するようになっている。シーケンサ140は、共通利得決定部31の動作の開始および終了の指示、調整利得決定部33の動作の開始および終了の指示、受信処理部2との間の制御信号の送受信等を行うようになっている。
【0062】
本発明の第1の実施の形態で説明したような複数の利得制御領域を含むパケットを受信する場合には、シーケンサ140は、受信処理部2との間で送受信される制御信号に基づいて、パケットの最初の利得制御領域で、共通利得決定部31に共通利得を決定させ、共通利得決定部31によって決定された共通利得を各第1可変利得増幅器112に設定するようになっている。
【0063】
さらに、シーケンサ140は、共通利得設定後、同パケットのすべての利得制御領域で、各調整利得決定部33に調整利得を決定させ、各調整利得決定部33によって決定された調整利得を各第2可変利得増幅器113に設定するようになっている。
【0064】
このように構成された自動利得制御装置100の自動利得制御動作は、図3乃至図5を参照して説明した本発明の第1の実施の形態に係る自動利得制御装置1の自動利得制御動作に基づいて容易に想到できるため説明を省略する。なお、本実施の形態における自動利得制御動作を実行する場合には、各第2可変利得増幅器113を予め任意の共通な初期値に設定しておくことが好ましい。
【0065】
以上に説明したように、本実施の形態に係る自動利得制御装置100は、本発明の第1の実施の形態に係る自動利得制御装置1と同様な作用効果を得ることができる。
【0066】
なお、図10に示すように、第1可変利得増幅器112は、1つの可変利得増幅器によって構成してもよいが、それぞれ異なる利得を有する複数の固定利得増幅器150a〜150cと、各固定利得増幅器150a〜150cをオン/オフする複数のスイッチ151a〜151cとによって構成してもよい。
【0067】
例えば、第1可変利得増幅器112に設定される利得が、最上位ビットから48dB、24dB,12dBに対応する3ビットで表される場合、固定利得増幅器150aの利得を48dBとし、固定利得増幅器150bの利得を24dBとし、固定利得増幅器150cの利得を12dBとすることにより、第1可変利得増幅器112は、利得が0〜84dBの範囲で12dB単位にクリッピングされる。なお、固定利得増幅器とスイッチとの組み合せの数は、実装態様により任意である。
【符号の説明】
【0068】
1、100 自動利得制御装置
2、202、302 受信処理部
3、103、203、303 受信チェーン
4、104、204、304 利得制御部
10、210、310 アンテナ
11、211、311 ダウンコンバータ
12、212、312 可変利得増幅器
13、213、313 AD変換器
14 フィルタ
30 出力レベル測定部
31 共通利得決定部
31a、33a レジスタ
32、132 利得設定部
33 調整利得決定部
40、140 シーケンサ
41 乗算器
42 マルチプレクサ
50、112 第1可変利得増幅器
50a〜50c、150a〜150c 固定利得増幅器
51a〜51c、151a〜151c スイッチ
52、113 第2可変利得増幅器
【先行技術文献】
【特許文献】
【0069】
【特許文献1】特許第4212548号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受信チェーンにそれぞれ設けられた可変利得増幅器と、前記可変利得増幅器の利得を制御する利得制御部とを備えた無線受信機用の自動利得制御装置であって、
前記利得制御部は、
前記受信チェーン毎の出力レベルを測定する出力レベル測定部と、
前記出力レベル測定部によって測定された出力レベルの統計値に基づいて、前記各可変利得増幅器に共通の共通利得を決定する共通利得決定部と、
前記各可変利得増幅器に利得を設定する利得設定部と、
前記利得設定部によって前記共通利得が設定された可変利得増幅器を有する各受信チェーンの出力レベルに基づいて、前記各可変利得増幅器に個別の調整利得を前記共通利得より狭範囲で高精度に決定する調整利得決定部と、を有し、
前記利得設定部は、前記共通利得と前記調整利得とに基づいた利得を前記各可変利得増幅器に設定する自動利得制御装置。
【請求項2】
前記利得設定部は、前記共通利得と前記調整利得との積を前記各可変利得増幅器の利得として設定することを特徴とする請求項1に記載の自動利得制御装置。
【請求項3】
前記可変利得増幅器は、第1可変利得増幅器と、前記第1可変利得増幅器によって増幅された信号を更に増幅する第2可変利得増幅器とを有し、
前記利得設定部は、前記第1可変利得増幅器に前記共通利得を設定し、前記第1可変利得増幅器の利得を維持した状態で、前記第2可変利得増幅器に前記調整利得を設定することを特徴とする請求項1に記載の自動利得制御装置。
【請求項4】
受信信号が表すパケットに複数の利得制御領域が含まれていることを条件として、
前記パケットの最初の利得制御領域で、前記共通利得決定部が前記共通利得を決定し、前記利得設定部が前記共通利得を前記各可変利得増幅器に設定し、
前記共通利得設定後、該パケットのすべての利得制御領域で、前記調整利得決定部が前記調整利得を決定し、前記利得設定部が前記共通利得と前記調整利得とに基づいた利得を前記各可変利得増幅器に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の自動利得制御装置。
【請求項5】
前記調整利得決定部は、予め定められた目標値を前記出力レベルで除することにより前記調整利得を決定することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の自動利得制御装置。
【請求項6】
前記共通利得決定部は、制御目標とする範囲の上限値と下限値とが予め設定され、前記各受信チェーンの出力レベルを統計した統計値が前記上限値を超えた場合には、前記共通利得を減少させ、前記統計値が前記下限値を下回った場合には、前記共通利得を増加させ、前記統計値が前記上限値から前記下限値までの間に入った場合には、前記共通利得を決定することを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載の自動利得制御装置。
【請求項7】
複数の受信チェーンにそれぞれ設けられた可変利得増幅器と、前記可変利得増幅器の利得を制御する利得制御部とを備えた無線受信機用の自動利得制御装置を用いた自動利得制御方法であって、
前記受信チェーン毎の出力レベルを測定する出力レベル測定ステップと、
前記出力レベル測定ステップによって測定された出力レベルの統計値に基づいて、前記各可変利得増幅器に共通の共通利得を決定する共通利得決定ステップと、
前記各可変利得増幅器に前記共通利得を設定する第1利得設定ステップと、
前記第1利得設定ステップで前記共通利得が設定された可変利得増幅器を有する各受信チェーンの出力レベルに基づいて、前記各可変利得増幅器に個別の調整利得を前記共通利得より狭範囲で高精度に決定する調整利得決定ステップと、
前記共通利得と前記調整利得とに基づいた利得を前記各可変利得増幅器に設定する第2利得設定ステップと、を有する自動利得制御方法。
【請求項8】
前記第2利得設定ステップでは、前記共通利得と前記調整利得との積を前記各可変利得増幅器の利得として設定することを特徴とする請求項7に記載の自動利得制御方法。
【請求項9】
前記可変利得増幅器は、複数の固定利得増幅器および複数のスイッチよりなる第1可変利得増幅器と、前記第1可変利得増幅器によって増幅された信号を更に増幅する第2可変利得増幅器とを有し、
前記第1利得設定ステップでは、前記第1可変利得増幅器に前記共通利得を設定し、前記第1可変利得増幅器の利得を維持した状態で、前記第2利得設定ステップで前記第2可変利得増幅器に前記調整利得を設定することを特徴とする請求項7に記載の自動利得制御方法。
【請求項10】
受信信号が表すパケットに複数の利得制御領域が含まれていることを条件として、
前記パケットの最初の利得制御領域で、前記共通利得決定ステップと前記第1利得設定ステップとを実行し、
前記共通利得設定後、該パケットのすべての利得制御領域で、前記調整利得決定ステップと前記第2利得設定ステップとを実行することを特徴とする請求項7乃至請求項9の何れかに記載の自動利得制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−5161(P2013−5161A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133286(P2011−133286)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】