自動利得制御装置
【課題】短時間で入力信号の振幅値を目標値に調整することができる自動利得制御装置を提供する。
【解決手段】入力信号を増幅または減衰して出力する信号振幅調整手段1と、信号振幅調整手段1の出力信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換手段2の出力に基づき利得または減衰値を決定する信号処理手段10とを備える。信号処理手段10は、信号振幅調整手段1に設定した過去の直近の複数個の利得または減衰値と、アナログデジタル変換手段2の出力信号の振幅値を検出する信号振幅検出手段3により検出された振幅値を時間平均した振幅代表値を入力し、振幅代表値を所定期間より短い更新周期で補正する平均値計算・補正手段11と、平均値計算・補正手段11の出力に応じて利得または減衰値を決定する利得または減衰値決定手段6とを備える。
【解決手段】入力信号を増幅または減衰して出力する信号振幅調整手段1と、信号振幅調整手段1の出力信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換手段2の出力に基づき利得または減衰値を決定する信号処理手段10とを備える。信号処理手段10は、信号振幅調整手段1に設定した過去の直近の複数個の利得または減衰値と、アナログデジタル変換手段2の出力信号の振幅値を検出する信号振幅検出手段3により検出された振幅値を時間平均した振幅代表値を入力し、振幅代表値を所定期間より短い更新周期で補正する平均値計算・補正手段11と、平均値計算・補正手段11の出力に応じて利得または減衰値を決定する利得または減衰値決定手段6とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号の振幅を再帰的に増幅あるいは減衰させ、目標とする振幅値の近傍となるよう調整して後続の信号処理装置に出力する自動利得制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来の自動利得制御装置の構成例を示す(引用文献1,2)。
図9において、入力信号x(t) は、フィードバック制御された信号振幅調整手段1で増幅または減衰し、A/D変換器2を介して後段の信号処理回路にデジタル信号yd(n)として出力される(nはインデックス)。フィードバック制御では、A/D変換器2の出力信号yd(n)を信号振幅検出部3に入力して振幅値を検出し、振幅値記憶部4に記憶した一定期間の振幅値から平均値計算部5で振幅平均値を計算し、利得または減衰値決定部6で振幅平均値と目標値との差を所定値以下とする利得または減衰値ad(n)を計算し、D/A変換器7でアナログ信号の利得または減衰値a(n) に変換して信号振幅調整手段1を連続制御する。
【0003】
ここで、信号振幅調整手段1を通過した信号をx(t)a(n)とし、A/D変換器2から出力されるデジタル信号yd(n)をxd(n)ad(n)とし、その振幅値Pd(n)をある一定期間で平均化した値を「振幅平均値Pd(n)」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3314723号公報
【特許文献2】特許第3793448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図10は、従来の自動利得制御装置の制御シーケンスを示す。
図10において、横軸はインデックスn、縦軸は振幅平均値Pd(n)を示す。フィードバック制御で用いる振幅平均値には、信号振幅調整手段1に直近に設定した利得または減衰値の効果を忠実に反映させる必要がある。このため振幅平均値を取得する期間内は、設定する利得または減衰値を一定としなければならない。図10では、信号振幅調整手段1に設定する利得または減衰値a(n) を、A/D変換器2のサンプル周期にしてNサンプルごとに更新する例を表す。同時に信号振幅の平均区間もNサンプルである。このNサンプル中は利得または減衰値a(n) は一定である。このため、再帰的に利得または減衰値a(n) を更新する際に、更新周期が長くなり(図10の場合はNサンプル) 、調整終了までの時間が長くなる問題があった。
【0006】
本発明は、信号振幅調整手段に設定する利得または減衰値の調整期間を短縮し、短時間で入力信号の振幅値を目標値に調整することができる自動利得制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、入力信号の振幅を増幅または減衰して出力する信号振幅調整手段と、信号振幅調整手段の出力信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換手段と、アナログデジタル変換手段の出力に基づき信号振幅調整手段に設定する利得または減衰値を決定し、信号振幅調整手段の出力信号の振幅を所定の範囲内に維持する信号処理手段とを備えた自動利得制御装置において、信号処理手段は、信号振幅調整手段に設定した過去の直近の複数個の利得または減衰値を記憶する利得または減衰値記憶手段と、アナログデジタル変換手段の出力から信号振幅調整手段の出力信号の振幅値を検出する信号振幅検出手段と、信号振幅検出手段により検出された振幅値を所定期間内で時間平均した振幅代表値を計算し、さらに利得または減衰値記憶手段から直近の複数個の利得または減衰値を入力し、振幅代表値を所定期間より短い更新周期で補正する平均値計算・補正手段と、平均値計算・補正手段の出力に応じて、信号振幅検出手段に設定する利得または減衰値を決定する利得または減衰値決定手段とを備える。
【0008】
また、平均値計算・補正手段は、所定期間内で時間平均した振幅代表値を、現在の時点で時間平均した振幅値を用いて再帰的に計算する構成である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、利得または減衰値の調整周期を信号振幅の時間平均する周期より短くすることにより、信号振幅調整期間を短縮し、短時間で入力信号の振幅レベルを目標値に制御することができる。これにより、無線通信などのデータ通信において、データ以外の部分(例えばプリアンブル)に要する時間を削減し、データ通信の遅延時間を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の自動利得制御装置の構成例を示す図である。
【図2】実施例1の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】実施例1の動作例を示すタイムチャートである。
【図4】実施例1の利得または減衰値ad(n)の計算例を示す図である。
【図5】実施例1および従来例の利得または減衰値ad(n)の計算例を示す図である。
【図6】実施例2の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】実施例2の利得または減衰値ad(n)の計算例を示す図である。
【図8】実施例2および従来例の利得または減衰値ad(n)の計算例を示す図である。
【図9】従来の自動利得制御装置の構成例を示す図である。
【図10】従来の自動利得制御装置の動作例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の自動利得制御装置の構成例を示す。
図1において、自動利得制御装置は、入力信号x(t) を増幅または減衰する信号振幅調整手段1、信号振幅調整手段1の出力信号x(t)a(n)をデジタル信号xd(n)ad(n)に変換するA/D変換器2、デジタル信号xd(n)ad(n)を入力して信号振幅調整手段1に設定する利得または減衰値a(n) を出力する信号処理手段10から構成される。信号処理手段10は、図9に示す従来構成と同様の信号振幅検出部3、振幅値記憶部4、利得または減衰値決定部6、D/A変換器7を備え、さらに平均値計算・補正部11、利得または減衰値記憶部12を備える。
【0012】
入力信号x(t) は時間tの関数である。xd(n)は、入力信号x(t) を一定周期でサンプリングしてA/D変換した値(nはインデックス) を示す。a(n) は、インデックスnで表現される時点での信号振幅調整手段1の利得または減衰値を示す。yd(n)は、入力信号x(t) を利得または減衰値a(n) で振幅調整した信号x(t)a(n)をA/D変換した出力信号を示すが、a(n) をA/D変換した値をad(n)とすると、近似的にxd(n)ad(n)と表すことができる。信号振幅検出部3は、yd(n)(=xd(n)ad(n))の振幅値Pd(n)を検出する。振幅値記憶部4は、直近の振幅値Pd(n)を所定数分だけ記憶し、要求に応じて出力する。利得または減衰値記憶部12は、利得または減衰値決定部6で得られた直近の所定数の利得または減衰値ad(n)を記憶し、要求に応じて出力する。
【0013】
平均値計算・補正部11は、振幅値記憶部4から読み出した振幅値Pd(n)を過去の連続した一定サンプル数で平均化し、利得または減衰値記憶手段12から読み出した利得または減衰値ad(n)に基づいて、平均期間中の利得または減衰値ad(n)の変動を加味して補正を加えた振幅平均値Pd(n)を計算し、利得または減衰値決定部6に出力する。利得または減衰値決定部6は、現在の振幅平均値Pd(n)から、次回の利得または減衰値を計算して出力する。
【0014】
上記のxd(n)、yd(n)、利得または減衰値ad(n)、振幅値Pd(n)、振幅平均値Pd(n)の関係を以下に定義する。
【0015】
【数1】
【0016】
ここで、関数f(s) は信号振幅検出部3において入力信号のサンプル値xd(n)ad(n)の絶対値|xd(n)ad(n)|を振幅値Pd(n)に変換する関数を表す。f(s) はその定義領域s≧0 において単調増加関数であり、式(4) 及び式(5) 中のf-1(s) はその逆関数を表す。また、Nは振幅値を平均化する期間中のA/D変換の総サンプル数を示す。信号処理手段10では、振幅値の系列{Pd(k)}と、利得または減衰値の系列{ad(k)}とから、所定期間中の振幅平均値Pd(n)を式(5) に従って計算し、その結果をもとに利得または減衰値を決定する。
【0017】
前記関数f(x) が瞬時電力を表す関数
f(x) =x2 …(6)
である場合、現在の振幅平均値Pd(n-1)および利得または減衰値ad(n-1)から次回の利得または減衰値ad(n)を決定するための演算式を以下に定義する。
【0018】
【数2】
【0019】
ここで、γはダンピングファクタであり、|1−γ|<1を満たす任意の定数とする。またPtgは、利得または減衰値の決定に際し、目標とする振幅の平均値である。利得または減衰値を決定するためのフローチャートを図2に示す。また、前記フローチャート実行時の、振幅平均値Pd(n)の時間変化の様子をタイミングチャートとして図3に示す。サンプル開始から数えてN+1番目のサンプルから、毎サンプル、式(7) に従い、利得または減衰値ad(n)を更新し、条件
【数3】
を満たした段階で更新を終了する。ここで、αおよびβは振幅平均値Pd(n-1)がどれだけPtgに近いかを判断するための指標である。両者とも1に近い値とする。
【0020】
図3に示したhは1以上の任意の整数をとりうる。しかし、高速に利得または減衰値を収束させたい場合はh=1とすることができる。図3の例では、利得または減衰値の更新を開始してから3回で収束を完了している。この場合、収束完了までサンプル数は信号振幅の平均時間を含めるとN+3hとなる。一方、従来例のように、利得または減衰値を更新するごとに、新たな信号振幅の平均計算を行う場合は、収束完了までのサンプル数は3(N+h)となる。本実施例と比べると、N>>hの場合、N+3h<<3(N+h)となるため、本実施例では収束完了までのサンプル数を大幅に削減することができる。
【0021】
図4は、利得または減衰値ad(n)の計算例を示す。ここでは、利得または減衰値ad(n)と、振幅平均値Pd(n)のサンプルインデックスnに対する推移を示す。本計算例に用いた各種パラメータを表1に示す。開始から9サンプル目n=41にて式(8) を満たし終了していることがわかる。
【0022】
【表1】
【0023】
本発明の効果を示すため、図4の計算例を従来例のそれと比較して図5に示す。従来例では表1と同一のパラメータを用いて計算した。従来例では、破線で示すように、信号振幅の平均周期N=32ごとでしか利得および減衰値ad(n)を更新できないため、終了までのサンプル数が多くなっている。図5では、本実施例の場合n=41で終了するのに対し、従来例の場合、n=320 でようやく終了となる。このように、本実施例では終了までの時間を短縮でき、通信のオーバヘッドを小さくすることで伝送遅延時間を短くすることができる。
【実施例2】
【0024】
実施例2の自動利得制御装置は、図1に示す実施例1の自動利得制御装置の構成例において、振幅の指標を表す関数f(x) とそれに付随した利得または減衰値の演算方法が異なる。
【0025】
上記のxd(n)、yd(n)、利得または減衰値ad(n)、振幅値Pd(n)、振幅平均値Pd(n)の関係は、実施例1の式(1) ,(2) ,(3) ,(4) ,(5) により定義する。
【0026】
この定義における関数f(x) が、瞬時電力のデシベル値を表す関数
f(x) =10 log10(x2) …(9)
である場合、現在の振幅平均値Pd(n-1)および利得または減衰値ad(n-1)から次回の利得または減衰値ad(n)を決定するための演算式を以下に定義する。
【0027】
【数4】
【0028】
ここで、γはダンピングファクタであり、|1−γ|<1を満たす任意の定数とする。またPtgは、利得または減衰値の決定に際し、目標とする振幅の平均値である。利得または減衰値を決定するためのフローチャートを図6に示す。サンプル開始から数えてN+1番目のサンプルから、毎サンプル、式(10)に従い、利得または減衰値ad(n)を更新し、条件
【数5】
を満たした段階で更新を終了する。ここで、αは振幅平均値Pd(n-1)がどれだけPtgに近いかを判断するための指標であり、0に近い値とする。
【0029】
図7は、利得または減衰値ad(n)の計算例を示す。ここでは、利得または減衰値ad(n)のデシベル値、20log10(ad(n)) と信号振幅の平均値のサンプルインデックスnに対する推移を示している。本計算例に用いた各種パラメータを表2に示す。開始から5サンプル目n=37にて式(11)を満たし終了していることがわかる。
【0030】
【表2】
【0031】
本発明の効果を示すため、図7の計算例を従来例のそれと比較して図8に示す。従来例では表2と同一のパラメータを用いて計算した。従来例では、破線で示すように、信号振幅の平均周期N=32ごとでしか利得または減衰値ad(n)を更新できないため、終了までのサンプル数が多くなっている。図8では、本実施例の場合n=37で終了するのに対し、従来例の場合、n=192 でようやく終了となる。このように、本実施例では終了までの時間を短縮でき、通信のオーバヘッドを小さくすることで伝送遅延時間を短くすることができる。
【実施例3】
【0032】
実施例3の自動利得制御装置は、図1に示す実施例1の自動利得制御装置の構成例において、振幅平均値Pd(n)の計算方法が異なる。
【0033】
上記のxd(n)、yd(n)、利得または減衰値ad(n)、振幅値Pd(n)、振幅平均値Pd(n)の関係は、実施例1の式(1) ,(2) ,(3) ,(4) ,(5) により定義する。
【0034】
また、単調増加関数f(x) をf(x) =x2 で定義し、実施例1と同一の手法、すなわち式(7) に従い、現在の振幅平均値Pd(n-1)および利得または減衰値ad(n-1)から次回の利得または減衰値ad(n)を決定する。実施例1では次回の振幅平均値Pd(n)を式(3) により求めるが、本実施例では演算数を削減するため以下の演算式を用いる。
【0035】
【数6】
【0036】
実施例1において振幅平均値Pd(n)の演算に必要な積和演算回数はNに対し表3の第2,3列のようになる。一方、本実施例の式(12)による場合、積和演算数は表3の第4,5列のようになり、演算数を削減できるため、消費エネルギを削減することができる。
【0037】
【表3】
【実施例4】
【0038】
実施例4の自動利得制御装置は、実施例2における振幅平均値Pd(n)の計算方法が異なる。
【0039】
単調増加関数f(x) をf(x) =20 log10xで定義し、実施例2と同一の手法、すなわち式(10)に従い、現在の振幅平均値Pd(n-1)および利得または減衰値ad(n-1)から次回の利得または減衰値ad(n)を決定する。実施例2では次回の振幅平均値Pd(n)を式(3) により求めるが、本実施例では演算数を削減するため以下の演算式を用いる。
【0040】
【数7】
【0041】
実施例2において振幅平均値Pd(n)の演算に必要な積和演算回数はNに対し表4の第2,3,4列のようになる。一方、本実施例の式(13)による場合、関数f(x) 、乗除、及び和の演算回数は表4の第5,6,7列のようになり演算数を削減できる。このため消費エネルギを削減することができる。
【0042】
【表4】
【符号の説明】
【0043】
1 信号振幅調整手段
2 A/D変換器
3 信号振幅検出部
4 振幅値記憶部
5 平均値計算部
6 利得または減衰値決定部
7 D/A変換器
10 信号処理手段
11 平均値計算・補正部
12 利得または減衰値記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号の振幅を再帰的に増幅あるいは減衰させ、目標とする振幅値の近傍となるよう調整して後続の信号処理装置に出力する自動利得制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来の自動利得制御装置の構成例を示す(引用文献1,2)。
図9において、入力信号x(t) は、フィードバック制御された信号振幅調整手段1で増幅または減衰し、A/D変換器2を介して後段の信号処理回路にデジタル信号yd(n)として出力される(nはインデックス)。フィードバック制御では、A/D変換器2の出力信号yd(n)を信号振幅検出部3に入力して振幅値を検出し、振幅値記憶部4に記憶した一定期間の振幅値から平均値計算部5で振幅平均値を計算し、利得または減衰値決定部6で振幅平均値と目標値との差を所定値以下とする利得または減衰値ad(n)を計算し、D/A変換器7でアナログ信号の利得または減衰値a(n) に変換して信号振幅調整手段1を連続制御する。
【0003】
ここで、信号振幅調整手段1を通過した信号をx(t)a(n)とし、A/D変換器2から出力されるデジタル信号yd(n)をxd(n)ad(n)とし、その振幅値Pd(n)をある一定期間で平均化した値を「振幅平均値Pd(n)」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3314723号公報
【特許文献2】特許第3793448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図10は、従来の自動利得制御装置の制御シーケンスを示す。
図10において、横軸はインデックスn、縦軸は振幅平均値Pd(n)を示す。フィードバック制御で用いる振幅平均値には、信号振幅調整手段1に直近に設定した利得または減衰値の効果を忠実に反映させる必要がある。このため振幅平均値を取得する期間内は、設定する利得または減衰値を一定としなければならない。図10では、信号振幅調整手段1に設定する利得または減衰値a(n) を、A/D変換器2のサンプル周期にしてNサンプルごとに更新する例を表す。同時に信号振幅の平均区間もNサンプルである。このNサンプル中は利得または減衰値a(n) は一定である。このため、再帰的に利得または減衰値a(n) を更新する際に、更新周期が長くなり(図10の場合はNサンプル) 、調整終了までの時間が長くなる問題があった。
【0006】
本発明は、信号振幅調整手段に設定する利得または減衰値の調整期間を短縮し、短時間で入力信号の振幅値を目標値に調整することができる自動利得制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、入力信号の振幅を増幅または減衰して出力する信号振幅調整手段と、信号振幅調整手段の出力信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換手段と、アナログデジタル変換手段の出力に基づき信号振幅調整手段に設定する利得または減衰値を決定し、信号振幅調整手段の出力信号の振幅を所定の範囲内に維持する信号処理手段とを備えた自動利得制御装置において、信号処理手段は、信号振幅調整手段に設定した過去の直近の複数個の利得または減衰値を記憶する利得または減衰値記憶手段と、アナログデジタル変換手段の出力から信号振幅調整手段の出力信号の振幅値を検出する信号振幅検出手段と、信号振幅検出手段により検出された振幅値を所定期間内で時間平均した振幅代表値を計算し、さらに利得または減衰値記憶手段から直近の複数個の利得または減衰値を入力し、振幅代表値を所定期間より短い更新周期で補正する平均値計算・補正手段と、平均値計算・補正手段の出力に応じて、信号振幅検出手段に設定する利得または減衰値を決定する利得または減衰値決定手段とを備える。
【0008】
また、平均値計算・補正手段は、所定期間内で時間平均した振幅代表値を、現在の時点で時間平均した振幅値を用いて再帰的に計算する構成である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、利得または減衰値の調整周期を信号振幅の時間平均する周期より短くすることにより、信号振幅調整期間を短縮し、短時間で入力信号の振幅レベルを目標値に制御することができる。これにより、無線通信などのデータ通信において、データ以外の部分(例えばプリアンブル)に要する時間を削減し、データ通信の遅延時間を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の自動利得制御装置の構成例を示す図である。
【図2】実施例1の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】実施例1の動作例を示すタイムチャートである。
【図4】実施例1の利得または減衰値ad(n)の計算例を示す図である。
【図5】実施例1および従来例の利得または減衰値ad(n)の計算例を示す図である。
【図6】実施例2の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】実施例2の利得または減衰値ad(n)の計算例を示す図である。
【図8】実施例2および従来例の利得または減衰値ad(n)の計算例を示す図である。
【図9】従来の自動利得制御装置の構成例を示す図である。
【図10】従来の自動利得制御装置の動作例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の自動利得制御装置の構成例を示す。
図1において、自動利得制御装置は、入力信号x(t) を増幅または減衰する信号振幅調整手段1、信号振幅調整手段1の出力信号x(t)a(n)をデジタル信号xd(n)ad(n)に変換するA/D変換器2、デジタル信号xd(n)ad(n)を入力して信号振幅調整手段1に設定する利得または減衰値a(n) を出力する信号処理手段10から構成される。信号処理手段10は、図9に示す従来構成と同様の信号振幅検出部3、振幅値記憶部4、利得または減衰値決定部6、D/A変換器7を備え、さらに平均値計算・補正部11、利得または減衰値記憶部12を備える。
【0012】
入力信号x(t) は時間tの関数である。xd(n)は、入力信号x(t) を一定周期でサンプリングしてA/D変換した値(nはインデックス) を示す。a(n) は、インデックスnで表現される時点での信号振幅調整手段1の利得または減衰値を示す。yd(n)は、入力信号x(t) を利得または減衰値a(n) で振幅調整した信号x(t)a(n)をA/D変換した出力信号を示すが、a(n) をA/D変換した値をad(n)とすると、近似的にxd(n)ad(n)と表すことができる。信号振幅検出部3は、yd(n)(=xd(n)ad(n))の振幅値Pd(n)を検出する。振幅値記憶部4は、直近の振幅値Pd(n)を所定数分だけ記憶し、要求に応じて出力する。利得または減衰値記憶部12は、利得または減衰値決定部6で得られた直近の所定数の利得または減衰値ad(n)を記憶し、要求に応じて出力する。
【0013】
平均値計算・補正部11は、振幅値記憶部4から読み出した振幅値Pd(n)を過去の連続した一定サンプル数で平均化し、利得または減衰値記憶手段12から読み出した利得または減衰値ad(n)に基づいて、平均期間中の利得または減衰値ad(n)の変動を加味して補正を加えた振幅平均値Pd(n)を計算し、利得または減衰値決定部6に出力する。利得または減衰値決定部6は、現在の振幅平均値Pd(n)から、次回の利得または減衰値を計算して出力する。
【0014】
上記のxd(n)、yd(n)、利得または減衰値ad(n)、振幅値Pd(n)、振幅平均値Pd(n)の関係を以下に定義する。
【0015】
【数1】
【0016】
ここで、関数f(s) は信号振幅検出部3において入力信号のサンプル値xd(n)ad(n)の絶対値|xd(n)ad(n)|を振幅値Pd(n)に変換する関数を表す。f(s) はその定義領域s≧0 において単調増加関数であり、式(4) 及び式(5) 中のf-1(s) はその逆関数を表す。また、Nは振幅値を平均化する期間中のA/D変換の総サンプル数を示す。信号処理手段10では、振幅値の系列{Pd(k)}と、利得または減衰値の系列{ad(k)}とから、所定期間中の振幅平均値Pd(n)を式(5) に従って計算し、その結果をもとに利得または減衰値を決定する。
【0017】
前記関数f(x) が瞬時電力を表す関数
f(x) =x2 …(6)
である場合、現在の振幅平均値Pd(n-1)および利得または減衰値ad(n-1)から次回の利得または減衰値ad(n)を決定するための演算式を以下に定義する。
【0018】
【数2】
【0019】
ここで、γはダンピングファクタであり、|1−γ|<1を満たす任意の定数とする。またPtgは、利得または減衰値の決定に際し、目標とする振幅の平均値である。利得または減衰値を決定するためのフローチャートを図2に示す。また、前記フローチャート実行時の、振幅平均値Pd(n)の時間変化の様子をタイミングチャートとして図3に示す。サンプル開始から数えてN+1番目のサンプルから、毎サンプル、式(7) に従い、利得または減衰値ad(n)を更新し、条件
【数3】
を満たした段階で更新を終了する。ここで、αおよびβは振幅平均値Pd(n-1)がどれだけPtgに近いかを判断するための指標である。両者とも1に近い値とする。
【0020】
図3に示したhは1以上の任意の整数をとりうる。しかし、高速に利得または減衰値を収束させたい場合はh=1とすることができる。図3の例では、利得または減衰値の更新を開始してから3回で収束を完了している。この場合、収束完了までサンプル数は信号振幅の平均時間を含めるとN+3hとなる。一方、従来例のように、利得または減衰値を更新するごとに、新たな信号振幅の平均計算を行う場合は、収束完了までのサンプル数は3(N+h)となる。本実施例と比べると、N>>hの場合、N+3h<<3(N+h)となるため、本実施例では収束完了までのサンプル数を大幅に削減することができる。
【0021】
図4は、利得または減衰値ad(n)の計算例を示す。ここでは、利得または減衰値ad(n)と、振幅平均値Pd(n)のサンプルインデックスnに対する推移を示す。本計算例に用いた各種パラメータを表1に示す。開始から9サンプル目n=41にて式(8) を満たし終了していることがわかる。
【0022】
【表1】
【0023】
本発明の効果を示すため、図4の計算例を従来例のそれと比較して図5に示す。従来例では表1と同一のパラメータを用いて計算した。従来例では、破線で示すように、信号振幅の平均周期N=32ごとでしか利得および減衰値ad(n)を更新できないため、終了までのサンプル数が多くなっている。図5では、本実施例の場合n=41で終了するのに対し、従来例の場合、n=320 でようやく終了となる。このように、本実施例では終了までの時間を短縮でき、通信のオーバヘッドを小さくすることで伝送遅延時間を短くすることができる。
【実施例2】
【0024】
実施例2の自動利得制御装置は、図1に示す実施例1の自動利得制御装置の構成例において、振幅の指標を表す関数f(x) とそれに付随した利得または減衰値の演算方法が異なる。
【0025】
上記のxd(n)、yd(n)、利得または減衰値ad(n)、振幅値Pd(n)、振幅平均値Pd(n)の関係は、実施例1の式(1) ,(2) ,(3) ,(4) ,(5) により定義する。
【0026】
この定義における関数f(x) が、瞬時電力のデシベル値を表す関数
f(x) =10 log10(x2) …(9)
である場合、現在の振幅平均値Pd(n-1)および利得または減衰値ad(n-1)から次回の利得または減衰値ad(n)を決定するための演算式を以下に定義する。
【0027】
【数4】
【0028】
ここで、γはダンピングファクタであり、|1−γ|<1を満たす任意の定数とする。またPtgは、利得または減衰値の決定に際し、目標とする振幅の平均値である。利得または減衰値を決定するためのフローチャートを図6に示す。サンプル開始から数えてN+1番目のサンプルから、毎サンプル、式(10)に従い、利得または減衰値ad(n)を更新し、条件
【数5】
を満たした段階で更新を終了する。ここで、αは振幅平均値Pd(n-1)がどれだけPtgに近いかを判断するための指標であり、0に近い値とする。
【0029】
図7は、利得または減衰値ad(n)の計算例を示す。ここでは、利得または減衰値ad(n)のデシベル値、20log10(ad(n)) と信号振幅の平均値のサンプルインデックスnに対する推移を示している。本計算例に用いた各種パラメータを表2に示す。開始から5サンプル目n=37にて式(11)を満たし終了していることがわかる。
【0030】
【表2】
【0031】
本発明の効果を示すため、図7の計算例を従来例のそれと比較して図8に示す。従来例では表2と同一のパラメータを用いて計算した。従来例では、破線で示すように、信号振幅の平均周期N=32ごとでしか利得または減衰値ad(n)を更新できないため、終了までのサンプル数が多くなっている。図8では、本実施例の場合n=37で終了するのに対し、従来例の場合、n=192 でようやく終了となる。このように、本実施例では終了までの時間を短縮でき、通信のオーバヘッドを小さくすることで伝送遅延時間を短くすることができる。
【実施例3】
【0032】
実施例3の自動利得制御装置は、図1に示す実施例1の自動利得制御装置の構成例において、振幅平均値Pd(n)の計算方法が異なる。
【0033】
上記のxd(n)、yd(n)、利得または減衰値ad(n)、振幅値Pd(n)、振幅平均値Pd(n)の関係は、実施例1の式(1) ,(2) ,(3) ,(4) ,(5) により定義する。
【0034】
また、単調増加関数f(x) をf(x) =x2 で定義し、実施例1と同一の手法、すなわち式(7) に従い、現在の振幅平均値Pd(n-1)および利得または減衰値ad(n-1)から次回の利得または減衰値ad(n)を決定する。実施例1では次回の振幅平均値Pd(n)を式(3) により求めるが、本実施例では演算数を削減するため以下の演算式を用いる。
【0035】
【数6】
【0036】
実施例1において振幅平均値Pd(n)の演算に必要な積和演算回数はNに対し表3の第2,3列のようになる。一方、本実施例の式(12)による場合、積和演算数は表3の第4,5列のようになり、演算数を削減できるため、消費エネルギを削減することができる。
【0037】
【表3】
【実施例4】
【0038】
実施例4の自動利得制御装置は、実施例2における振幅平均値Pd(n)の計算方法が異なる。
【0039】
単調増加関数f(x) をf(x) =20 log10xで定義し、実施例2と同一の手法、すなわち式(10)に従い、現在の振幅平均値Pd(n-1)および利得または減衰値ad(n-1)から次回の利得または減衰値ad(n)を決定する。実施例2では次回の振幅平均値Pd(n)を式(3) により求めるが、本実施例では演算数を削減するため以下の演算式を用いる。
【0040】
【数7】
【0041】
実施例2において振幅平均値Pd(n)の演算に必要な積和演算回数はNに対し表4の第2,3,4列のようになる。一方、本実施例の式(13)による場合、関数f(x) 、乗除、及び和の演算回数は表4の第5,6,7列のようになり演算数を削減できる。このため消費エネルギを削減することができる。
【0042】
【表4】
【符号の説明】
【0043】
1 信号振幅調整手段
2 A/D変換器
3 信号振幅検出部
4 振幅値記憶部
5 平均値計算部
6 利得または減衰値決定部
7 D/A変換器
10 信号処理手段
11 平均値計算・補正部
12 利得または減衰値記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号の振幅を増幅または減衰して出力する信号振幅調整手段と、
前記信号振幅調整手段の出力信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換手段と、
前記アナログデジタル変換手段の出力に基づき前記信号振幅調整手段に設定する利得または減衰値を決定し、前記信号振幅調整手段の出力信号の振幅を所定の範囲内に維持する信号処理手段と
を備えた自動利得制御装置において、
前記信号処理手段は、
前記信号振幅調整手段に設定した過去の直近の複数個の利得または減衰値を記憶する利得または減衰値記憶手段と、
前記アナログデジタル変換手段の出力から前記信号振幅調整手段の出力信号の振幅値を検出する信号振幅検出手段と、
前記信号振幅検出手段により検出された振幅値を所定期間内で時間平均した振幅代表値を計算し、さらに前記利得または減衰値記憶手段から直近の複数個の利得または減衰値を入力し、振幅代表値を前記所定期間より短い更新周期で補正する平均値計算・補正手段と、
前記平均値計算・補正手段の出力に応じて、前記信号振幅検出手段に設定する利得または減衰値を決定する利得または減衰値決定手段と
を備えたことを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動利得制御装置において、
前記平均値計算・補正手段は、前記所定期間内で時間平均した振幅代表値を、現在の時点で時間平均した振幅値を用いて再帰的に計算する構成である
ことを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項1】
入力信号の振幅を増幅または減衰して出力する信号振幅調整手段と、
前記信号振幅調整手段の出力信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換手段と、
前記アナログデジタル変換手段の出力に基づき前記信号振幅調整手段に設定する利得または減衰値を決定し、前記信号振幅調整手段の出力信号の振幅を所定の範囲内に維持する信号処理手段と
を備えた自動利得制御装置において、
前記信号処理手段は、
前記信号振幅調整手段に設定した過去の直近の複数個の利得または減衰値を記憶する利得または減衰値記憶手段と、
前記アナログデジタル変換手段の出力から前記信号振幅調整手段の出力信号の振幅値を検出する信号振幅検出手段と、
前記信号振幅検出手段により検出された振幅値を所定期間内で時間平均した振幅代表値を計算し、さらに前記利得または減衰値記憶手段から直近の複数個の利得または減衰値を入力し、振幅代表値を前記所定期間より短い更新周期で補正する平均値計算・補正手段と、
前記平均値計算・補正手段の出力に応じて、前記信号振幅検出手段に設定する利得または減衰値を決定する利得または減衰値決定手段と
を備えたことを特徴とする自動利得制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動利得制御装置において、
前記平均値計算・補正手段は、前記所定期間内で時間平均した振幅代表値を、現在の時点で時間平均した振幅値を用いて再帰的に計算する構成である
ことを特徴とする自動利得制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−209875(P2012−209875A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75699(P2011−75699)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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