説明

自動車のスライドレール干渉回避構造

【課題】スライドレールを車体パネルに近づけてもフロアカーペットのような敷物との干渉を避けることができ、見栄えを向上させることを課題とする。
【解決手段】スライドレールは、フロアパネル(車体パネル)上に固定されたロアレール(固定側レール)と、当該ロアレールに対してフロアパネルにおけるフロアマット(敷物)が敷設された面に沿う方向へスライド可能に支持されたアッパーレール(可動側レール)とを有し、スライド動するアッパーレールにおけるスライド方向の端部がフロアマットの縁部に当接したときに当該当接したフロアマットの縁部がフロアパネル側へ弾性屈曲してアッパーレールにおけるスライド方向の端部との干渉を回避するスライドレール干渉回避構造を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体パネル上に敷設された敷物と、車体パネル上でスライド動するスライドレールとの干渉を回避する自動車のスライドレール干渉回避構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、特に乗用自動車のフロアパネル上には、車室内を装飾して良好な意匠を得たり防音したりするためにフロアマットやフロアカーペットが敷設されている。この種のフロアマットやフロアカーペットは、敷設するパネルに合わせて外周がトリミングされ、必要に応じて3次元に成形されて、フロアパネルの車室側に敷設される。ここで、乗用自動車のフロアパネル上には、各種の部品(各種リテーナー、ブラケット、アクセサリー等)があらかじめ配設され、あるいは配設が予定されている。そのため、これらの部品周りにおけるフロアマットやフロアカーペットのトリミングは、これらの部品に隣接してできるだけ隙間を生じないようになされる。
【0003】
また、上記の部品の一部には、位置をずらすことができるよう、フロアパネル上にスライド式に設けられるものもある。たとえば、座席の支持レールでは、乗員が自身の体型に合わせて座席を自動車の前後方向にスライドできるように構成される例が多くみられる。この種の支持レールには、自動車の前後方向に所定長さのロアレールをフロアパネルに取り付けて固定し、座席を支持したアッパーレールを前記ロアレールに対して相対的に移動可能に取り付けたスライドレールが用いられている。昨今の乗用自動車では、座席の多様な配置とデッキフロア部の拡張による荷物の収納性を高めるために、座席のスライド量を多くする傾向があり、これに応じてスライドレールの長さも長くする傾向がある。
この種のスライド式の部品の周りでは、見栄え上、部品との間に隙間無くフロアマットやフロアカーペットを付設する必要があるとともに、部品がスライドした際の部品とフロアマット端縁あるいはフロアカーペット端縁とが干渉しないようにする必要がある。
【0004】
上記スライドレールを用いた技術として、特許文献1には、図6に示すように、フロアパネルに敷設されたフロアカーペット100の開口101を通して取付けられるシートスライドレールのスライドレッグ111を被覆するシートスライドレッグの被覆構造が開示されている。この被覆構造では、略L字状のスライドレッグ111を介してロアレールをフロアカーペット100の上面よりも高い位置でフロアパネル上に固定し、このロアレールの上側にアッパーレールをスライド嵌合して、シート(座席)110を前後方向にスライド可能にさせている。そして、同構造では、スライドレッグ111に対応するフロアカーペット100の一部にカバー部102を隆起させて形成し、カバー部102のスライドレッグ側の立壁面および立壁面に隣接する両側壁を切欠き、裏面側へ折り返して接合している。ここで、スライド動するアッパーレールの下面とフロアカーペットの上面との間に隙間が設けられているため、アッパーレールとフロアカーペットとが干渉しない。
【特許文献1】実開昭63−134836(実願昭62−27242号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、スライドレールがスライドレッグによってフロアカーペットの上面から浮いた位置に配置されるため、見栄えが優れているとは言えなかった。また、スライドレッグを被覆するフロアカーペットのカバー部が常にフロアカーペットの一般面より浮いた状態になるため、見栄えがよくない上に、乗員の足で擦過されてめくれるおそれがあった。
なお、意匠性を高めようとしてスライドレールの高さを下げてスライドレールの下面をフロアパネルと面一にするだけでは、スライドレールの前後動にともなってスライドレールの端部とフロアカーペットが干渉してしまう。
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、スライドレールを車体パネルに近づけてもフロアカーペットのような敷物との干渉を避けることができ、見栄えを向上させることが可能な自動車のスライドレール干渉回避構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、車体パネル上に敷設された敷物と、当該車体パネル上でスライド動するスライドレールとの干渉を回避する自動車のスライドレール干渉回避構造であって、前記スライドレールは、前記車体パネル上に固定された固定側レールと、当該固定側レールに対して前記車体パネルにおける前記敷物が敷設された面に沿う方向へスライド可能に支持された可動側レールとを有し、スライド動する前記可動側レールにおけるスライド方向の端部が前記敷物の縁部に当接したときに当該当接した敷物の縁部が前記車体パネル側へ弾性屈曲して前記可動側レールにおけるスライド方向の端部との干渉を回避することを特徴とする。
すなわち、車体パネル上に固定側レールが固定され、この固定側レールに対して支持された可動側レールは車体パネルにおける敷物が敷設された面に沿う方向へスライド動することが可能である。可動側レールがスライド動してスライド方向の端部が敷物の縁部に当接すると、当該当接した敷物の縁部は車体パネル側へ弾性屈曲する。これにより、可動側レールにおけるスライド方向の端部と、当接した敷物の縁部との干渉が回避される。また、可動側レールが前記スライド方向とは反対の方向にスライドすれば、弾性を示す敷物の縁部は復元力により元の位置に戻る。
【0008】
スライド式の部品が基準位置にある際に敷物の縁部とスライドレールの端部とが隙間無く隣接していても、可動側レールはスライドした際に敷物の縁部を車体パネル側へ弾性的に屈曲させて当該敷物の縁部に覆い被さる。敷物の縁部は、可動側レールの車体パネル側に配置されることから、端部が浮いた状態にならない。従って、見栄えが改善される。また、可動側レールと敷物とが重ならない位置では敷物の縁部が元の位置に戻るので、この点でも見栄えが向上する。
なお、敷物における車体パネル側とは反対側の面と可動側レールにおける車体パネル側の面との隙間をゼロmmに設計しても、雰囲気温度の影響等で敷物や当該敷物に隣接する部品が膨張したり、当該部品に過剰な力が加えられたりすると、設計外の干渉が生じることがある。このような場合でも、本発明の構造では、設計外の干渉による干渉分が自然に吸収される。
【0009】
上記車体パネルは、フロアパネル、ダッシュボード下部、これらの組み合わせ、等が考えられる。同車体パネルは、複数のパネルから構成してもよく、少なくとも、アウターパネルと、当該アウターパネルよりも車室側に設けられたインナーパネルと、から構成してもよい。
上記敷物は、カーペット、マット、これらの組み合わせ、等が考えられる。
上記車体パネルにおける敷物が敷設された面に沿う方向は、当該面に略平行な方向のみならず、当該面に並行する屈曲のある方向でもよい。
【0010】
前記敷物の端縁近傍が車体パネル側に弾性屈曲した際に弾性屈曲した敷物の端縁を受け入れる収容空間を車体パネルに形成すると、容易に干渉が回避される。
【0011】
前記敷物における可動側レールの端角と干渉する端縁近傍に前記可動側レールの幅に相当する幅の舌片を切り込み形成すると、敷物の縁部の屈曲動作がスムーズになる。また、前記舌片の付け根に弾性ヒンジを付加すると、敷物の縁部の屈曲動作がさらにスムーズになる。
【0012】
上記敷物の縁部と当接する可動側レールの端部が車体パネル側の角部とされていると、敷物の縁部が車体パネル側へ弾性屈曲しやすくなるので好適である。また、上記可動側レールの端部と当接する敷物の縁部が車体パネル側とは反対側の角部とされていても、敷物の縁部が車体パネル側へ弾性屈曲しやすくなるので好適である。
ここで、前記可動側レールのスライド方向の端部における車体パネル側の角部が面取りされていると、敷物の縁部が車体パネル側へスムーズに弾性屈曲するので好適である。また、前記可動側レールのスライド方向の端部に当接する敷物の縁部における車体パネル側とは反対側の角部が面取りされていても、敷物の縁部が車体パネル側へスムーズに弾性屈曲するので好適である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる発明によれば、スライドレールを車体パネルに近づけても当該車体パネル上の敷物との干渉を避けることができ、見栄えを向上させることが可能になる。
請求項2にかかる発明では、敷物とスライドレールとの干渉を避けることが容易になる。
請求項3にかかる発明では、繰り返しの曲げに対して、形状回復する作用を保たせながら敷物の縁部の屈曲動作を円滑にさせることが可能になる。
請求項4にかかる発明では、敷物の縁部を車体パネル側へ円滑に弾性屈曲させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面をもとに本発明の好適な実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる自動車のスライドレール干渉回避構造を示す垂直断面図である。図2〜図4は、変形例を示している。図5は、乗用自動車のデッキフロア部の外観をバックドア開口部から自動車の前方を臨む方向から見て示す斜視図である。なお、図5では、後部座席(リヤシート)30の背もたれを前倒し状態に図示している。また、図1は図5のA−Aの位置から垂直断面を見て示してあり、スライドレール20については側面視し、フロアマット10の舌片11については断面視している。
【0015】
自動車のデッキフロア部Lのフロアパネル(車体パネル)50上には、内装材としてのフロアマット(敷物)10が敷設されている。デッキフロア部のフロアマット(デッキマット)10は、例えば、平坦な樹脂基材(樹脂ハニカム基材など)と樹脂基材の表面を被覆する表皮材(不織布、織布など)とから構成することができ、弾性を有するマットとしている。弾性を示すためのフロアマットの基材としては、軟質の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂といった軟質の合成樹脂、天然樹脂、合成ゴム、硬質フェルト、これらの組み合わせ、等が考えられる。
このフロアマット10の下方には、フロアパネル上で下方へ凹んだ形状とされて非常用タイヤを収容する収納部が設けられている。フロアマット10は、この非常用タイヤの収納部上を含め略デッキフロア部の全面を覆い、その上側を平坦な意匠面に形成して乗員の荷物の収納部として供するように配置されている。
デッキフロア部Lのサイドの立壁等は、各種のデッキサイドトリム40を成形して配設することにより形成されている。
【0016】
デッキフロア部Lのフロアパネル50上には、当該フロアパネル50上で前後方向にスライド動するスライドレール20が例えばボルト等により取り付けられて固定されている。座席(シート)30は、スライドレール20の上にスライド可能に支持されて付設されている。
本実施形態のスライドレール干渉回避構造は、上記フロアマット10と上記スライドレール20との干渉を回避するために設けられている。
【0017】
デッキフロア部Lは、図5に示すように、座席30をスライド可能に支持するスライドレール20が切欠部がないとしたときのフロアマットの端縁よりも内側に入り込むようにフロアマット10とスライドレール20とが水平方向に隣接して配設され、本発明の干渉回避構造を適用するに特に適した構成とされている。本デッキフロア部Lにおいて、フロアマット10の端縁(端部)は、スライドレール20の端縁近傍でスライドレールを容れるために、スライドレール20に相似の輪郭となるように凹凸にトリミングされている。フロアマット10とスライドレール20の間にはほとんど隙間が無く、両者が隣接して配設されている。
【0018】
フロアマット10においてスライドレール20と干渉する可能性のある端縁ではスライドレール20に相当する幅の舌片(舌片部)11を切り込み形成し、干渉を回避する構造としている。なお、車幅方向内側にあるスライドレール20、すなわち、図5において左側の座席30を支持する一対のスライドレール20のうちの右側のスライドレール、および、右側の座席30を支持する一対のスライドレール20のうちの左側のスライドレールに当接可能な舌片11では、ロアレールの形状に合わせて長手方向を前後方向に向けてフロアマット10の前縁部から後方に向かって略長方形状に切り欠いた切欠部より後方に向かってそれぞれ一対の切れ込み11cが形成され、付け根11aから前側が舌片状とされて前縁部が下側に弾性屈曲可能とされている。これにより、フロアマット10の縁部の屈曲動作がスムーズに行われる。舌片11の幅(車幅方向の長さ)は、スライドレール20に順ずる幅としている。また、舌片11の前後方向の長さは、数ミリ〜数十ミリ程度とし、スライドレールのスライド量が大きい場合は長くする。
【0019】
以下、図5のA−A線断面図に相当する図1によって本発明のフロアマット10とスライドレール20の干渉回避構造の好ましい実施形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の干渉回避構造を適用したフロアマット10とスライドレール20の端末部の断面図を示している。
フロアマット10は、弾性のある樹脂などからなる基材10bと、この基材の表面に貼着された不織布等の表皮材10aとから構成することができる。スライドレール20は、フロアマット10の端縁10cに(隙間微小に)隣接して配設されている。フロアマットの基材10bの厚さは、上述した合成樹脂、天然樹脂、合成ゴム、硬質フェルト、これらの組み合わせ、の場合、5mm以上あると弾性が高くなって塑性変形したときに良好な復元力が得られるので好適である。基材10bとして表裏のライナー樹脂の間に所定の間隔をおいて立壁を形成したハニカム状基材を用いると、好適である。
本実施形態では、フロアパネル50を、車外側のアウターパネル50aと、当該アウターパネルよりも車室側に設けられたインナーパネル50bと、から構成している。そして、フロアパネルのインナーパネル50b上にフロアマットの端縁10cの位置に合わせて下方へ凹んだ形状の凹部を形成し、弾性屈曲したフロアマットの端縁10cを収容する収容空間51を形成している。
【0021】
スライドレール20は、ロアレール(固定側レール)21とアッパーレール(可動側レール)22とを有し、両レールが互いにスライド嵌合して摺動するようになっている。ロアレール21は、前後方向に向けて下方へ凹んだ溝形状に形成され、長手方向を前後方向に向けて、フロアパネルのインナーパネル50b上に例えばボルトで取り付けられて固定されている。アッパーレール22は、ロアレール21の溝内を滑動する形状に形成され、長手方向を前後方向に向けて、ロアレール21に対してフロアパネルのインナーパネル50bにおけるフロアマット10が敷設された上面に沿う前後方向へスライド可能に支持されている。アッパーレール22の上には、座席を支持する座席支持部材22aが搭載されるように締結されている。
ロアレール21の上面の高さは、フロアパネルのインナーパネル50bの上面に対して少し高い位置とされている。アッパーレール22の上面の高さは、ロアレール21の上面よりもわずかに高い位置とされている。スライドレール20(21,22)の高さはフロアパネルのインナーパネル50bの上面に対してあまり高くないほうが、車室内のスペースがむだにならず、見栄えもよく、安全性も良好であるので、好ましい。
【0022】
ロアレール21に相対するアッパーレール22のスライド量が大きく、フロアパネル50の上面に対するアッパーレール22の下面の高さが例えば35mm未満とあまり高くない位置にある場合、スライドしたアッパーレール22のスライド方向(図1の右方向)の端部22cにおけるフロアパネル側の端角(角部)22b(スライド方向の端部)と、フロアマット10の端縁(縁部)10cが干渉するおそれがある。このような場合、ロアレール21に対してスライド動可能に支持されたアッパーレール22がフロアマットの縁部10cに当接可能な高さにされていることになる。ここで、フロアマットとスライドレールとの干渉回避構造が無いと、図1に示すようにアッパーレール22がフロアマット側へスライドしたとき(一点鎖線で図示した22’の位置)にアッパーレールの端角22bがフロアマットの端縁10cに干渉し、フロアマットの端縁がめくれ上がって見栄えが低下したり、フロアマットの端縁が折れたり、座屈したりする可能性がある。なお、図1において、弾性屈曲していない状態におけるフロアマットの縁部10cの位置をL1(破線)で示し、下方へ弾性屈曲した状態におけるフロアマットの縁部10cの位置をL2で示している。
【0023】
本スライドレール干渉回避構造は、スライド動するアッパーレール22におけるスライド方向の端部22cがフロアマットの縁部10cに当接したときに、当該当接したフロアマットの縁部10cがフロアパネル50側へ弾性屈曲してアッパーレールにおけるスライド方向の端部22cとの干渉を回避する。言い換えると、本干渉回避構造は、アッパーレール22がフロアマット10の端縁10cを越えてスライドした際に、干渉するフロアマット10の端縁10c近傍が下方に屈曲して、フロアパネルに形成された収容空間51に配置されることで、この干渉を解消する。図1では、フロアパネルの端縁10cが位置L1から位置L2へ移動することになる。なお、敷物の縁部が弾性屈曲するとは、可動側レールから弾性限界以下の力が加えられて車体パネル側へ屈曲した敷物の縁部から当該力が取り去られるとすぐに消える弾性変形といえる。
以上により、アッパーレール22の端角22bとフロアマット10の端縁10cとの干渉が回避される。また、スライドレールが前進した際、フロアマット10の端縁10cは、弾性基材10bの弾性により元の位置L1に戻り、スライドレールとの間の隙間を見えにくくする作用がある。
【0024】
以上説明したように、本スライドレール干渉回避構造によると、アッパーレール22が後方向へスライドしてスライド方向の端部22cがフロアマットの縁部10cに接触すると、当該接触したフロアマットの縁部10cはフロアパネル50側へ弾性屈曲する。これにより、アッパーレールにおけるスライド方向の端部22cと、接触したフロアマットの縁部10cとの干渉が回避される。また、アッパーレール22がスライド方向とは反対の前方向にスライドすれば、弾性を示すフロアマットの縁部10cは復元力により元の位置に戻る。
【0025】
フロアマット10の端縁10cの下方への屈曲を円滑にし、また、元の位置への戻り性を高めるために、フロアマット10のアッパーレール22の端角22bと干渉する端縁10c近傍を、アッパーレール22の幅に相当する幅の舌片(舌片部)11に形成している。すなわち、フロアマット10に形成された舌片11は、アッパーレールの端部22cと接触する部分が当該アッパーレール22の幅に合わせた幅の舌片状に前後方向(スライド方向)へ切り込まれた形状とされている。これにより、フロアマット10の縁部10cの屈曲動作がスムーズに行われる。また、この舌片11の付け根(付け根部分)11aには、舌片11をフロアパネル側へ弾性屈曲させる弾性ヒンジ(ヒンジ部)12が形成されている。弾性ヒンジ12の形成方法としては、先端が鈍角の熱刃等でデッキマットの裏面側から所定深さに押し込んで、易屈曲性の薄肉ヒンジを形成する方法が適する方法などがある。図1では、フロアマット10の弾性の基材10bに対して下面から上方へ厚さ方向の途中まで薄肉化された薄肉ヒンジに形成した弾性ヒンジ12を示している。この弾性ヒンジ12は、フロアマット10の下面を見たときに長手方向を車幅方向(左右方向)に向けた溝形状に形成されている。
【0026】
この場合、フロアマットの基材10bにおける弾性ヒンジ12を形成した部位は、他の部位に対して相対的に曲げ弾性が弱められているために、繰り返しの曲げに対しても、円滑に屈曲動作し、また、形状回復する作用も保たれている。従って、ヒンジ部を形成することにより、繰り返しの曲げに対して、形状回復する作用を保たせながら敷物の縁部の屈曲動作を円滑にさせることが可能になる。
ここで、弾性ヒンジ12の深さが浅すぎると、ヒンジが硬く舌片がスライドレールと接したときに弾性屈曲の円滑性が低くなることがある。一方、弾性ヒンジの深さが深すぎると、弾性ヒンジの弾性回復力が不足し、アッパーレール22が前方向へ後退した後、舌片11がフロアマット10に面一に回復する復元力が低くなることがある。弾性ヒンジ12を厚さ方向で50%以下の深さに形成すると、良好な復元力が得られる。
【0027】
また、本実施形態では、アッパーレール22の上面をフロアマット10の上面よりも高くするとともに、アッパーレール22の下面をフロアマット10の下面より高く、かつ、フロアマット10の上面より低くしている。ここで、アッパーレール22におけるスライド方向の端部22cは、フロアパネル側(下側)の端角(角部)22bが丸角(後側端面から下面にかけて丸みを帯びたR状)に面取りされている。これにより、フロアマットの縁部10cがフロアパネル側へスムーズに弾性屈曲する。また、アッパーレール22におけるスライド方向の端部22cに当接するフロアマットの縁部10cは、フロアパネル側とは反対側(上側)の端角(角部)10dが丸角(前側端面から上面にかけて丸みを帯びたR状)に面取りされている。これにより、フロアマットの縁部10cがフロアパネル側へスムーズに弾性屈曲する。
なお、アッパーレールの端角22bやフロアマットの端角10dにおける面取りの形状は、平面状等でもよい。
【0028】
アッパーレール22が後方向へスライドしてスライド方向の端部22cが舌片11の縁部10cに当接すると、当該当接した舌片の縁部10cはフロアパネル50側へ弾性屈曲する。これにより、アッパーレールにおけるスライド方向の端部22cと、当接した舌片の縁部10cとの干渉が回避される。また、アッパーレール22がスライド方向とは反対の前方向にスライドすれば、弾性を示す舌片の縁部10cは復元力により元の位置に戻る。従って、スライドレール20をフロアパネル50に近づけても当該フロアパネル50上のフロアマット10との干渉を避けることができ、見栄えを向上させることが可能になる。
【0029】
図2は、変形例にかかるスライドレール干渉回避構造を図5のA−Aの位置から垂直断面を見て示している。図において、フロアマット10の舌片11の付け根に上述した実施形態と同様の弾性ヒンジ12が形成され、当該弾性ヒンジ12はフロアマット10の基材10bの下面から上方に向けて厚さ方向の途中まで薄肉化された形状とされている。また、前後方向において舌片11の付け根と先端部11bとの間に前記弾性ヒンジ12とは異なる弾性ヒンジ12が形成され、当該弾性ヒンジ12はフロアマットの基材10bの上面から下方に向けて厚さ方向の途中まで薄肉化された形状とされている。このように、弾性ヒンジ12をフロアマットの表裏に2箇所設けると、舌片11が図のように2箇所で折れるので、より大きな屈曲長さを確保することが可能となる。
また、スライドレール20のロアレール21の上をスライドするアッパーレール22の端角22bを後方寄りの下方(ないし下方寄りの後方)に向かって膨出した形状に形成し、かつ、丸角(後側端面から下面にかけて丸みを帯びたR状)に面取りしている。これにより、アッパーレール22の端角22bをより積極的にフロアマット10の端縁10cに当接させて、かつフロアマットの端縁10cをより円滑に下方に屈曲させる構造としている。
【0030】
図3と図4は、別の変形例にかかるスライドレール干渉回避構造を図5のA−Aの位置から垂直断面を見て示している。
図3は、長手方向を車幅方向(左右方向)に向けて弾性ヒンジ12を複数列並行するように設けた例を示している。本変形例では、各弾性ヒンジ12を直線状に形成し、平行に配置している。これにより、舌片11が各弾性ヒンジ12の部分でより鈍角となるように下方へ曲がるので、フロアマットの縁部の屈曲動作をより円滑にさせることが可能になる。
図4は、フロアマット10の下面において弾性ヒンジ12の部分に板バネ等の補助の弾性部材13を付加した例を示している。熱刃により形成した弾性ヒンジ12のみで形状回復力が不足する場合、補助の弾性体13を付加することにより弾性力を高めることができ、繰り返しの曲げに対して形状回復する作用を保たせながらフロアマットの縁部の屈曲動作を円滑にさせることが可能になる。
【0031】
図3および図4において、舌片11のスライドレールに当接する先端部11bにおける上側の端角11dを丸角に面取りしている。これにより、スライドレールの下に舌片11の先端部11bが円滑に入る。特に、基材10bの端面10cまで表皮材10aを巻き込み貼着することは、先端部の見栄えも向上するので適する。
【0032】
なお、本発明は、上記以外にも様々な変形例が考えられる。
スライドレールは、座席以外の部材をスライド可能に支持するものでもよい。従って、本スライドレール干渉回避構造は、フロアパネル上以外の車体パネル上にも設けることが可能であり、例えば、ダッシュボードの車室側等に設けられてもよい。また、スライド方向は、車幅方向(左右方向)、前後方向や左右方向から斜めにずれた方向でもよい。
干渉を回避する敷物としては、フロアカーペットのようなカーペット等でもよい。
【0033】
本発明のフロアマットとスライドレールの干渉回避構造は、フロアマットとスライドレールの端末を隙間無しに隣接して配設することが可能であり、見栄えが優れる構成になる。
構造が簡単であるため、繰り返し可動側レールを前後方向にスライド動させて敷物の縁部を弾性屈曲させても、屈曲動作の再現性が高く、敷物の縁部の耐久性も高い構造である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】フロアマットとスライドレールとの干渉を回避する干渉回避構造を示す垂直断面図。
【図2】変形例にかかるスライドレール干渉回避構造を示す垂直断面図。
【図3】弾性ヒンジの変形例を示す垂直断面図。
【図4】弾性ヒンジの変形例を示す垂直断面図。
【図5】デッキフロア部の外観を示す斜視図。
【図6】従来例にかかるスライドレール干渉回避構造を示す斜視図。
【符号の説明】
【0035】
10…フロアマット(敷物)、
10a…表皮材、10b…基材、10c…端縁(縁部)、10d…端角(車体パネル側とは反対側の角部)、
11…舌片(舌片部)、
11a…付け根(付け根部分)、11b…先端縁、11c…切れ込み、
12…弾性ヒンジ(ヒンジ部)、
13…板バネ、
20…スライドレール、
21…ロアレール(固定側レール)、22…アッパーレール(可動側レール)、22a…座席支持部材、22b…端角(車体パネル側の角部)、22c…スライド方向の端部、
30…座席、
40…デッキサイドトリム、
50…フロアパネル(車体パネル)、
51…収容空間、
L…デッキフロア部、
100…フロアカーペット、101…開口、102…カバー部、110…シート(座席)、111…スライドレッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体パネル上に敷設された敷物と、当該車体パネル上でスライド動するスライドレールとの干渉を回避する自動車のスライドレール干渉回避構造であって、
前記スライドレールは、前記車体パネル上に固定された固定側レールと、当該固定側レールに対して前記車体パネルにおける前記敷物が敷設された面に沿う方向へスライド可能に支持された可動側レールとを有し、
スライド動する前記可動側レールにおけるスライド方向の端部が前記敷物の縁部に当接したときに当該当接した敷物の縁部が前記車体パネル側へ弾性屈曲して前記可動側レールにおけるスライド方向の端部との干渉を回避することを特徴とする自動車のスライドレール干渉回避構造。
【請求項2】
前記車体パネル上には、前記弾性屈曲した敷物の縁部を収容する収容空間が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の自動車のスライドレール干渉回避構造。
【請求項3】
前記敷物には、前記可動側レールの端部と接触する部分が当該可動側レールの幅に合わせた幅の舌片状に前記スライド方向へ切り込まれた舌片部が形成されているとともに、当該舌片部の付け根部分に当該舌片部を前記車体パネル側へ弾性屈曲させるヒンジ部が形成されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の自動車のスライドレール干渉回避構造。
【請求項4】
前記可動側レールにおけるスライド方向の端部は、前記車体パネル側の角部が面取りされ、
前記可動側レールにおけるスライド方向の端部に当接する前記敷物の縁部は、前記車体パネル側とは反対側の角部が面取りされていることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の自動車のスライドレール干渉回避構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−205989(P2006−205989A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23632(P2005−23632)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000251060)林テレンプ株式会社 (134)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】