説明

自動車の緩衝装置

【課題】緩衝体をトリム材の裏面に一点で固着することが可能で、取付作業工数,部品点数を削減できると共に、緩衝体の成形金型の構造を簡素化できる自動車の緩衝装置の提供を図る。
【解決手段】緩衝体10の端壁12の中央部に凹設された取付脚部14をドアトリム2の裏面に突当てて、該取付脚部14の一点でトリム材2に取付けることにより、取付作業工数と部品点数が削減される。取付脚部14は角筒状の緩衝体10の型抜き方向に凹設されるので、成形金型にスライド構造の採用やスリーブピンの増加が伴わず、金型構造が簡素化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の車室側壁に設けられる緩衝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の側面衝突時における乗員保護対策として、従来、例えば特許文献1に示されているように、サイドドアのドアトリム裏面に固着されて該ドアトリムとドアインナパネルとの間の空間部に配置され、車両の側面衝突時にその衝突荷重でドアインナパネルとドアトリムとの間で圧潰変形して衝突エネルギーを吸収する緩衝体を配設した構造が知られている。
【0003】
前記緩衝体は合成樹脂材をもって、一側が開放した角筒状、例えば立方体ボックス形状に構成され、その開放部を前記ドアインナパネル側に向けてボックス底壁をドアトリム裏面の所要部位、例えば乗員の腰部,肩部等に対応したインパクトエリアに固着配置されていて、車両の側面衝突時にドアインナパネルが車室内側に向けて変形移動するのに伴って軸方向に圧潰変形して、衝突エネルギーを吸収しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−338627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サイドドアのドアアウタパネルとドアインナパネルとで形成される閉断面空間には、ドアウィンドウレギュレータやドアガードバー,およびドアロック装置のロッド類等のドア内機能部品が組込まれており、車両の側面衝突時には衝突位置,衝突方向等により前記ドア内機能部品が不規則にドアインナパネル側に移動し、従って、前記インパクトエリアでドアインナパネルが平坦面形状のまま車室側に向けて変形移動するとは限らない。
【0006】
一方、このインパクトエリアでドアトリム裏面に固着された緩衝体は、前述のようにそのボックス形状の開放部がドアインナパネル側に向けられているため、該ドアインナパネルが不規則に変形して前記開放部の周縁部に片当りした場合には、緩衝体の軸方向に衝突荷重が適正に作用しなくなる可能性がある。
【0007】
そこで、前記緩衝体をその開放部をドアトリム側に向けて該ドアトリムに固着することも考えられる。
【0008】
この場合、前記緩衝体のドアトリム裏面に対する固着手段として、該緩衝体の周側壁に前記開放部周縁の近傍で側方に張り出す複数個のブラケット片を突設し、これらブラケット片を介してドアトリム裏面にフック係着,クリップ係着あるいは熱カシメピン固着等により止着する取付構造を採用することができる。
【0009】
しかし、このように緩衝体の周側壁を複数個の取付部でドアトリム裏面に固着するのでは、取付作業工数および部品点数が嵩んでしまうことと、緩衝体の成形金型の構造が複雑となってコストアップを余儀なくされてしまう。
【0010】
また、前述のように緩衝体の周側壁に複数個のブラケット片を張り出し成形すると共に、これに止着部構造を付設するためには、前記成形金型にスライド構造を採用したりスリーブピン増加等が必要となって、前述のように金型構造が複雑となってしまうばかりでなく金型強度が低下する可能性がある。
【0011】
そこで、本発明は緩衝体をトリム材の裏面に一点で固着することが可能で、取付作業工数,部品点数を削減できると共に、該緩衝体の成形金型の構造を簡素化することができる自動車の緩衝装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の自動車の緩衝装置は、車室の側壁パネルの側面を覆うトリム材の裏面に装着され、車両の側面衝突時に衝突荷重を受けて圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する、一側が開放した角筒状の合成樹脂製の緩衝体であって、前記緩衝体はその開放部を前記トリム材の裏面に向けて配置され、該緩衝体の端壁中央部には、該緩衝体の空洞内を前記一側の開放部に向けて延出して、前記トリム材の裏面に固着される取付脚部が凹設されていることを主要な特徴としている。
【0013】
前記緩衝体はその開放部を前記トリム材の裏面に向けて配置し、前記取付脚部を該トリム材の裏面に突当てて適宜の止着部材により該取付脚部の一点でトリム材の裏面に取付けられる。
【0014】
この緩衝体の取付状態では該緩衝体の端壁が前記車室の側壁パネルに対向するため、車両の側面衝突時に該側壁パネルが変形移動すると、この端壁に衝接して衝突荷重を該端壁の面方向で受け、緩衝体の周側壁に軸方向に略均等に分散させる。これにより、緩衝体がその軸方向に整然と圧潰変形するようになる。
【0015】
この緩衝体の軸方向の圧潰変形にはその空洞内での前記取付脚部の圧潰変形が伴い、前記周側壁の圧潰変形と合わせて圧潰反力が増加して衝突エネルギー吸収量が増大される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、緩衝体の端壁中央部には、該緩衝体の空洞内を一側の開放部に向けて延出して凹設された取付脚部が設けられ、該緩衝体をその開放部をトリム材の裏面に向けて配置し、前記取付脚部を該トリム材の裏面に突当てて該取付脚部の一点でトリム材の裏面に取付けることができるので、取付作業工数および部品点数を削減してコストダウンに大きく寄与することができる。
【0017】
また、取付脚部は前記端壁の中央部に緩衝体の軸方向、即ち、型抜き方向に凹設されるので、緩衝体の成形金型にスライド構造の採用やスリーブピンの増加等が伴うことがなく、金型構造を簡素化できると共に金型強度の低下を招来することもない。
【0018】
そして、前記緩衝体の軸方向の圧潰変形による衝突エネルギー吸収作用には、該緩衝体の周側壁の圧潰変形と空洞内での前記取付脚部の圧潰変形が伴うので、圧潰反力が増加して衝突エネルギー吸収量を増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を自動車のサイドドアに適用した例におけるドアトリムを示す側面図。
【図2】緩衝体を示す斜視図。
【図3】緩衝体の平面図。
【図4】図3のA−A線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を自動車のサイドドアを例にとって図面と共に詳述する。
【0021】
図1,図4に示すように、サイドドアのドアインナパネル1は車室の側壁パネルの一部を構成し、車室側の側面にはトリム材としてのドアトリム2が装着されている。
【0022】
このドアトリム2は、適宜の合成樹脂材をもって成型金型により型成形されていて、車室側の側面にはクッションと表装を兼ねた表皮が貼合配設され、その上下方向中間部分にドアアームレスト3が車室側に向けて膨出成形されていると共に、下側部にドアポケット4が形成されている。
【0023】
また、前記ドアトリム2の裏面の前記所要のインパクトエリア、例えば図1に示す例では乗員の腰部に対応したインパクトエリアには、合成樹脂等からなる高衝撃吸収性能を持つ緩衝体10が配設されている。
【0024】
前記緩衝体10は、図2,図3に示すように一側が開放した角筒状、例えば適宜の型抜き勾配を有する四角筒状に形成されていて、車両の側面衝突時に前記ドアインナパネル1とドアトリム2との間で車幅方向に衝突荷重を受けると圧潰変形して、衝突エネルギーを吸収するものである。
【0025】
具体的には、前記緩衝体10はその周側壁11を横向きにして前記ドアインナパネル1とドアトリム2との間の空間部に配置され、前記衝突荷重に対して軸方向に圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収するもので、この衝突エネルギー吸収特性は緩衝体10の前記軸方向の変形ストロークと変形反力とによって一義的に定められる。
【0026】
この実施形態では、前記緩衝体10の周側壁11と端壁12とが連設した径方向の稜線aと、該周側壁11の軸方向の稜線bとが集合したコーナー部分にカット部13を形成し、前記緩衝体10の圧潰初期反力の急激な立上がりを抑制すると共に、後述のように周側壁11の開放部端側に突当て片24を設けることにより該緩衝体10の圧潰変形に前記カット部13を起点とした周側壁11の軸方向稜線bの亀裂が伴うことによって、容易に周側壁11が分断するのを防止することにより衝突初期から後期に亘って良好な衝突エネルギー吸収作用が得られるようにしている。
【0027】
そして、前記緩衝体10はその一側開放部をドアトリム2の裏面に向けて、該開放部周縁がドアトリム2の裏面に当接または近接した状態で該ドアトリム2に固着されている。
【0028】
具体的には、前記緩衝体10の端壁12の中央部には、該緩衝体10の空洞内を前記一側の開放部に向けて延出した取付脚部14が凹設されていて、この取付脚部14の端部を前記ドアトリム2の裏面に突合わせて、これら取付脚部14とドアトリム2の相互を適宜の止着手段20により取付けるように構成されている。
【0029】
前記取付脚部14は、本実施形態では前記端壁12に連設された複数個(図2,図3の例では4本)の脚片15と、これらの脚片15の端末に亘って連設されて前記ドアトリム2の裏面に突当てて固着される平坦な取付壁16とを備えている。
【0030】
この取付脚部14は、例えば前記所要の型抜き勾配を持つ先細の截頭円錐形の有底筒状体を基本形状として、その周側壁に適宜等間隔に切欠部17を設けた形状に凹設することによって、前記複数個の脚片15と取付壁16とを備えた構成とすることができる。
【0031】
前記取付脚部14のドアトリム2裏面への止着手段20としては、例えば図3,図4に示すようなフック係着構造を用いることができる。
【0032】
これは、ドアトリム2の裏面に一対のフック爪21を背合わせ状に突設する一方、前記取付脚部14の取付壁16にこれらのフック爪21がくぐり抜けて係止可能な係着孔22を設けてフック係着構造とすることができる。
【0033】
このフック係着構造によれば、前述のように緩衝体10をその一側開放部をドアトリム2の裏面に向けて前記取付脚部14の係着孔22とドアトリム2裏面のフック爪21とを合致させ、この状態で緩衝体10をドアトリム2に向けて叩打もしくは押圧することにより、前記フック爪21が弾性変形して係着孔22をくぐり抜け、その復元力で該係着孔22縁に係止することによってワンタッチで緩衝体10をドアトリム2の裏面に取付けることができる。
【0034】
前記フック爪21と係着孔22との係着をガタツキ(緩み)なく行わせるため、フック爪21の立設成形基部に前記取付脚部14の端面(取付壁16)に圧接する突当てリブ23が設けられている。
【0035】
また、本実施形態では前記緩衝体10の開放部の周縁部には、該開放部の径方向外側に向けて延出して、該緩衝体10の前記圧潰変形時にドアトリム2の裏面に面接触して、該ドアトリム2の面方向に圧潰荷重を分散可能な突当て片24が一体成形されている。
【0036】
図2,図3に示す例では、この突当て片24が前記開放部の全周縁にフランジ状に形成されているが、周縁方向に間欠的に複数ヶ所に設けた構成であってもよい。
【0037】
また、前記突当て片24にはその突当て面から僅かに突出してドアトリム2の裏面に線接触または点接触して当接する接触子25がリブ状に設けられ、車両の走行時振動等による突当て片24のバタツキを抑えて異音の発生を防止できるように構成されている。
【0038】
以上の構成からなる本実施形態の緩衝装置によれば、緩衝体10の端壁12の中央部には、該緩衝体10の空洞内を一側の開放部に向けて延出して凹設された取付脚部14が設けられ、該緩衝体10をその開放部をドアトリム2の裏面に向けて配置し、前記取付脚部14を該ドアトリム2の裏面に突当てて該取付脚部14の一点でドアトリム2の裏面に取付けることができるので、取付作業工数および部品点数を削減してコストダウンを図ることができる。
【0039】
また、取付脚部14は前記端壁12の中央部に緩衝体10の軸方向、即ち、型抜き方向に凹設されるので、該緩衝体10の成形金型にスライド構造の採用やスリーブピンの増設等が伴うことがなく、金型構造を簡素化できると共に金型強度の低下を招来することもない。
【0040】
そして、前記緩衝体10の軸方向の圧潰変形による衝突エネルギー吸収作用には、該緩衝体10の周側壁11の圧潰変形と空洞内での前記取付脚部14の圧潰変形が伴うので、圧潰反力が増加して衝突エネルギー吸収量を増大することができる。
【0041】
本実施形態では、前記取付脚部14は所要の型抜き勾配を持つ先細の截頭円錐形の有底筒状体を基本形状として、その周側壁に適宜等間隔に切欠部17を設けた形状に凹設することによって、複数個の脚片15と、ドアトリム2の裏面に結合される平坦な取付壁16とを連設した構造とされているため、この脚片15の個数,幅,板厚,突出高さ等の設定により前記衝突エネルギー吸収特性をニーズに合わせて容易に調整することが可能となる。
【0042】
ここで、緩衝体10の前記ドアトリム2裏面への取付状態では、該緩衝体10の端壁12がドアインナパネル1に対向するため、車両の側面衝突時に該ドアインナパネル1が変形移動すると、この端壁12に衝接して衝突荷重を該端壁12の面方向で受け、該緩衝体10の周側壁11に軸方向に略均等に分散させることができる。
【0043】
そして、この衝突荷重により緩衝体10の開放部の周縁がドアトリム2の裏面に圧接するが、該開放部の周縁部の突当て片24がカット部13を起点とした周側壁11の軸方向稜線bの亀裂により容易に周側壁11が分断するのを防止すると共に、ドアトリム2の裏面に面接触して緩衝体10の圧潰荷重がドアトリム2の面方向に分散されて、該開放部周縁の局部的なエッジ当りによるドアトリム2の突き破れを回避することができる。
【0044】
これにより、前記緩衝体10の周側壁11に衝突荷重が軸方向に適正に作用することと相俟って、該緩衝体10を軸方向に整然と圧潰変形させて衝突エネルギー吸収作用を適正に行わせることができる。
【0045】
なお、前記実施形態ではドアトリム2における着座乗員の腰部に対応したインパクトエリア裏面に緩衝体10を配設した例を示したが、この他、リヤサイドトリムにおける着座乗員の腰部およびまたは肩部に対応したインパクトエリア裏面に緩衝体10を配設して、前述と同様の効果を得ることができる。
【0046】
また、前記緩衝体10の取付脚部14は、前述のように端壁12の中央部に有底筒状体を基本形状として、その周側壁に複数の切欠部17を設けた形状に軸方向に凹設することによって、複数個の脚片15とそれらの端部間を連結した平坦な取付壁16とで構成されているが、これは、前記基本形状の有底筒状体のままの構造とすることも可能である。
【0047】
更に、緩衝体10として四角筒状のものを示したが、この他の多角形状に形成することも可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…ドアインナパネル(車室の側壁パネル)
2…ドアトリム(トリム材)
10…緩衝体
11…周側壁
12…端壁
14…取付脚部
15…脚片
16…取付壁
24…突当て片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の側壁パネルの側面を覆うトリム材の裏面に装着され、車両の側面衝突時に衝突荷重を受けて圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する、一側が開放した角筒状の合成樹脂製の緩衝体であって、
前記緩衝体はその開放部を前記トリム材の裏面に向けて配置され、該緩衝体の端壁中央部には、該緩衝体の空洞内を前記一側の開放部に向けて延出して、前記トリム材の裏面に固着される取付脚部が凹設されていることを特徴とする自動車の緩衝装置。
【請求項2】
前記取付脚部が、複数個の脚片と、これら脚片の端末に連設されて前記トリム材の裏面に突当てて固着される平坦な取付壁と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の自動車の緩衝装置。
【請求項3】
前記緩衝体の開放部の周縁には、該開放部の径方向外側に向けて延出して、該緩衝体の圧潰変形時に前記トリム材の裏面に面接触して該トリム材の面方向に圧潰荷重を分散可能な突当て片が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車の緩衝装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−84089(P2011−84089A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235934(P2009−235934)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)