説明

自動車の車体前部構造

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はフロントサイドメンバを支持する自動車の車体前部構造に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、自動車の車体前部の車幅方向両端下部近傍には、車体前後方向に沿ってフロントサイドメンバが配置されており、このフロントサイドメンバの支持剛性を向上するための自動車の車体前部構造の一例が実開昭60−13864号に記載されている。
【0003】図5に示される如く、この自動車の車体前部構造では、フロントフロアサイドメンバ70とフロントサイドメンバ72との結合部には、タイヤハウス74がとび出している。図6に示される如く、フロントフロアサイドメンバ70はフランジ70Aの上端縁部がタイヤハウス74と接合されている。このフロントフロアサイドメンバ70のフランジ70Aは、フロントフロアサイドメンバ70の一部が上方へ突出したものであり、フロントフロアサイドメンバ70の上部に設けられたダッシュパネル76とフロントフロアサイドメンバ70との間には、閉断面78が形成されている。この閉断面78内にはガセット80が設けられている。図7に示される如く、このガセット80は、一部がダッシュパネル76の裏面に当接しており、一部が車体下方向へ折り曲げられて、ダッシュパネル76及びフロントフロアサイドメンバ70と直角になっている。即ち、ダッシュパネル76とフロントフロアサイドメンバ70とで形成されるとともにタイヤハウス74をとり囲む閉断面78を分割する如く、ガセット80がバルクヘッド80Aを構成している。一方、ガセット80の端部80Bはサイドシル82の内側に溶着されている。
【0004】従って、この自動車の車体前部構造では、バルクヘッド80Aの存在により閉断面78が変形し難くく、フロントサイドメンバ72の後端部72Aを支持するダッシュパネル76及びフロントフロアサイドメンバ70の剛性が確保できるようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この自動車の車体前部構造では、フロントサイドメンバ72の後端部72Aが、閉断面78より上方でダッシュパネル76と接続されている。このため、フロントサイドメンバ72に作用する荷重、特に車体前後方向に作用する荷重に対して、所謂片持ち構造となっており、フロントサイドメンバ72の支持剛性が充分でなかった。
【0006】本発明は上記事実を考慮し、フロントサイドメンバの支持剛性を向上することができる自動車の車体前部構造を得ることが目的である。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の本発明の自動車の車体前部構造は、後端部がダッシュパネルに沿って延設されダッシュパネルとでフロントフロアサイドメンバに連結する第1の閉断面部を形成するフロントサイドメンバと、タイヤ格納部上方に車体前後方向に沿って配置され後端部がフロントピラーに連結されたカウルサイドメンバと、フロアトンネル部の頂部高さ位置に車幅方向に沿って配置されダッシュパネルとで前記第1の閉断面部と接続されるとともにこの接続部から車体上方外側へ延設され前記カウルサイドメンバと接続された第2の閉断面部を形成するダッシュパネルリインフォースメントメンバと、ダッシュパネルとで前記接続部とフロントピラーの下端部とを連結する第3の閉断面部を形成する補強部材と、前記接続部とフロントピラーの下端部との間に設定された前記タイヤ格納部のフランジ溶接部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
【作用】本発明の請求項1記載の自動車の車体前部構造では、フロントサイドメンバに作用した荷重は、第1の閉断面部によってフロントフロアサイドメンバに伝達される。また、第1の閉断面部と第2の閉断面部との接続部から、第2の閉断面部によってフロアトンネル部に伝達されるとともに、第3の閉断面部によってフロントピラーの下端部に伝達される。さらに、フロントサイドメンバに作用した荷重は、第2の閉断面部によって、カウルサイドメンバに伝達されカウルサイドメンバを経てフロントピラーに伝達される。
【0009】このように、本発明の自動車の車体前部構造では、フロントサイドメンバに作用した荷重は、フロアトンネル部と、フロントサイドメンバの下方に位置するフロントフロアサイドメンバ及びフロントピラーの下端部に伝達されるとともに、フロントサイドメンバの上方に位置するカウルサイドメンバにも伝達される。
【0010】従って、フロントサイドメンバに作用した荷重を、フロントサイドメンバの下方に位置するフロントフロアサイドメンバ及びフロントピラーの下端部のみに伝達する従来構造に比べ、フロントサイドメンバに作用した荷重を、フロントサイドメンバの上方に位置するカウルサイドメンバにも伝達できるので、フロントサイドメンバの支持剛性を向上することができる。また、本願発明の自動車の車体前部構造では、第2の閉断面部と第3の閉断面部とタイヤ格納部のフランジ溶接部により第1のトラス構造が形成されていると共に、カウルサイドメンバとフロントピラーとタイヤ格納部のフランジ溶接部により第2のトラス構造が形成されている。このことにより、フロントサイドメンバ周りのボデー剛性が向上し、フロントサイドメンバの支持剛性が更に向上する。また、本願発明の自動車の車体前部構造では、フロアトンネル部の頂部高さ位置に車幅方向に沿って形成された第2の閉断面部が、第1の閉断面部との接続部において、上方へ屈曲し、タイヤ格納部の上部に沿って延設されている。また、第3の閉断面部は、タイヤ格納部の下部に沿ってフロントピラーの下端部へ達している。即ち、フロアトンネル部の頂部高さ位置において、フロントピラーへ向けて略水平に補強メンバが延設された構成になっていない。この結果、タイヤ格納部後方のフロアトンネル部の頂部高さ位置において、閉断面部を形成するための補強メンバが車両後方へ張り出すことが無い。このため、車室容積を広くできる。
【0011】
【実施例】本発明の自動車の車体前部構造の一実施例について図1〜図4に従って説明する。なお、図中矢印FRは車体前方方向を、矢印INは車幅内方方向を、矢印UPは車体上方方向を示す。
【0012】図1に示される如く、自動車車体10の前部のエンジンルーム内には、車幅方向両端下部近傍に車体前後方向に沿ってフロントサイドメンバ12が配設されている。これらのフロントサイドメンバ12は車体前後方向へ延びる閉断面構造とされており、フロントサイドメンバ12の後端部は、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル14に溶着されている。また、フロントサイドメンバ12の後端部はダッシュパネル14に沿って車体下方後側へ向けて延設され、傾斜部12Aとされており、この傾斜部12Aの下端部は、ダッシュパネル14に沿って車体後方へ向けて延設され水平部12Bとされている。
【0013】図2に示される如く、フロントサイドメンバ12の傾斜部12Aと水平部12Bの長手方向から見た断面形状は、ダッシュパネル14(図1参照)側に開口部を向けたコ字状とされている。フロントサイドメンバ12の車幅方向外側壁部12Cの開口端部は、車幅方向外側へ向けて屈曲され、フランジ12Dとされており、このフランジ12Dはダッシュパネル14(図1参照)に溶着されている。フロントサイドメンバ12の車幅方向内側壁部12Eの開口端部は、車幅方向内側へ向けて屈曲され、フランジ12Fとされており、このフランジ12Fはダッシュパネル14(図1参照)に溶着されている。
【0014】従って、図1に示される如く、フロントサイドメンバ12はダッシュパネル14とで、後端部がフロントフロアサイドメンバ(図示省略)に連結する第1の閉断面部16を形成している。
【0015】図2に示される如く、フロントサイドメンバ12の車幅方向外側壁部12Cと車幅方向内側壁部12Eとの傾斜部12Aの車体上下方向略中央部には、車体後側から矩形状の切欠き18、19がそれぞれ形成されている。これらの切欠き18、19には、ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20が挿入されており、切欠き18、19の縁部に形成されたフランジ12G、12Hがダッシュパネルリインフォースメントメンバ20に溶着されている。
【0016】図1に示される如く、ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20は、図示を省略したフロアトンネル部の頂部高さ位置に、車幅方向に沿って配置されている。
【0017】図2に示される如く、ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20の長手方向から見た断面形状は、ダッシュパネル14(図1参照)側に開口部を向けたコ字状とされている。ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20の上壁部20Aの開口端部は、車体上側へ向けて屈曲され、フランジ20Bとされており、このフランジ20Bはダッシュパネル14(図1参照)に溶着されている。ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20の下壁部20Cの開口端部は、車体下側へ向けて屈曲され、フランジ20Dとされており、このフランジ20Dはダッシュパネル14(図1参照)に溶着されている。
【0018】従って、図1に示される如く、ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20はダッシュパネル14とで、第1の閉断面部16と接続された第2の閉断面部22を形成している。
【0019】図1に示される如く、ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20は、第1の閉断面部16と第2の閉断面部22との接続部23からタイヤ格納部26に沿って車体上方外側へ向けて延設されている。また、タイヤ格納部26の上方には、カウルサイドメンバ28が車体前後方向に沿って配置されており、このカウルサイドメンバ28の後端部28Aはフロントピラー30に連結されている。
【0020】ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20の上壁部20Aの車幅方向外側端部には、上側へ向けてフランジ20Eが形成されており、このフランジ20Eはカウルサイドメンバ28の車幅方向内側壁部28Bに溶着されている。また、ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20の下壁部20Bの車幅方向外側端部には、下側へ向けてフランジ20Fが形成されており、このフランジ20Fはカウルサイドメンバ28の車幅方向内側壁部28Bに溶着されている。さらに、ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20の前壁部20Gの車幅方向外側端部には、車体前側へ向けてフランジ20Hが形成されており、このフランジ20Eもカウルサイドメンバ28の車幅方向内側壁部28Bに溶着されている。
【0021】第1の閉断面部16と第2の閉断面部22との接続部23と、フロントピラー30の下端部30B、即ち、ロッカ32の前端部との間には、補強部材としてのトルクボックス34が設けられている。トルクボックス34の一般面34Aは、ダッシュパネル14の下面に溶着されており、トルクボックス34の一般面34Aのタイヤ格納部26側縁部は、下方へ向けて凹陥されて凹部34Bとされている。
【0022】図3に示される如く、トルクボックス34の凹部34Bのタイヤ格納部26側縁部は、車体上下方向上側へ向けて延設され、縦壁部34Cとされており、この縦壁部34Cの上端縁部34Dは、ダッシュパネル14に溶着されている。
【0023】図2に示される如く、トルクボックス34の凹部34Bと縦壁部34Cとの、フロントサイドメンバ12の車幅方向外側壁部12Cとの当接部には、トルクボックス34の外側へ向けてフランジ34Dが形成されており、このフランジ34Dはフロントサイドメンバ12の車幅方向外側壁部12Cに溶着されている。
【0024】図4に示される如く、トルクボックス34の車幅方向外側端部には縦壁部34Eが設けられている。図1に示される如く、この縦壁部34Eの上部は、フロントピラー30の下端部30Bの車幅方向内側部に沿って屈曲されており、フロントピラー30の下端部30Bの車幅方向内側部に溶着されている。
【0025】従って、トルクボックス34はダッシュパネル14とで、第1の閉断面部16と第2の閉断面部22との接続部23と、フロントピラー30の下端部30Bとを連結する第3の閉断面部36を形成しており、この第3の閉断面部36と第2の閉断面部22とによって、閉断面部が横向きY字状に形成されている。
【0026】次に本実施例の作用を説明する。本実施例の自動車の車体前部構造では、フロントサイドメンバ12に作用した荷重は、第1の閉断面部16によってフロントフロアサイドメンバに伝達される。また、第1の閉断面部16と第2の閉断面部22との接続部23から、第2の閉断面部22によってフロアトンネル部に伝達されるとともに、接続部23に連結された第3の閉断面部36によってフロントピラー30の下端部30Bに伝達される。さらに、フロントサイドメンバ12に作用した荷重は、第2の閉断面部22によってカウルサイドメンバ28に伝達され、カウルサイドメンバ28を経てフロントピラー30に伝達される。
【0027】このように、本実施例の自動車の車体前部構造では、フロントサイドメンバ12に作用した荷重は、フロアトンネル部と、フロントサイドメンバ12の下方に位置するフロントフロアサイドメンバ及びフロントピラー30の下端部30Bに伝達されるとともに、第2の閉断面部22によって、フロントサイドメンバ12の上方に位置するカウルサイドメンバ28にも伝達される。
【0028】従って、フロントサイドメンバ12に作用した荷重を、フロントサイドメンバ12の下方に位置するフロントフロアサイドメンバ及びフロントピラー30の下端部30Bのみに伝達する従来構造に比べ、フロントサイドメンバ12に作用した荷重を、フロントサイドメンバ12の上方に位置するカウルサイドメンバ28にも伝達できるので、フロントサイドメンバ12の支持剛性を向上することができる。
【0029】また、本実施例では、ダッシュパネルリインフォースメントメンバ20を車室外に設けたため、乗員の足元スペースを犠牲にすることがない。また、カウルサイドメンバ28とフロントサイドメンバ12との間及び、左右のフロントサイドメンバ12との間を、第2の閉断面部22によって、それぞれ略直線的に接続しているので、エンジンルームを形成する各骨格部材の組付剛性を向上することができる。また、本実施例では、第2の閉断面部22と第3の閉断面部36とタイヤ格納部26のフランジ溶接部26Aにより第1のトラス構造が形成されていると共に、カウルサイドメンバ28とフロントピラー30とタイヤ格納部26のフランジ溶接部26により第2のトラス構造が形成されている。このことにより、フロントサイドメンバ周りのボデー剛性が向上し、フロントサイドメンバ12の支持剛性が更に向上する。また、本実施例では、フロアトンネル部の頂部高さ位置に車幅方向に沿って形成された第2の閉断面部22が、第1の閉断面部16との接続部23において、上方へ屈曲し、タイヤ格納部26の上部に沿って延設されている。また、第3の閉断面部36は、タイヤ格納部26の下部に沿ってフロントピラー30の下端部30Bへ達している。即ち、フロアトンネル部の頂部高さ位置において、フロントピラー30へ向けて略水平に補強メンバが延設された構成になっていない。この結果、タイヤ格納部26の後方のフロアトンネル部の頂部高さ位置において、閉断面部を形成するための補強メンバが車両後方へ張り出すことが無い。このため、車室容積を広くできる。
【0030】
【発明の効果】本発明は、後端部がダッシュパネルに沿って延設されダッシュパネルとでフロントフロアサイドメンバに連結する第1の閉断面部を形成するフロントサイドメンバと、タイヤ格納部上方に車体前後方向に沿って配置され後端部がフロントピラーに連結されたカウルサイドメンバと、フロアトンネル部の頂部高さ位置に車幅方向に沿って配置されダッシュパネルとで第1の閉断面部と接続されるとともにこの接続部から車体上方外側へ延設されカウルサイドメンバと接続された第2の閉断面部を形成するダッシュパネルリインフォースメントメンバと、ダッシュパネルとで接続部とフロントピラーの下端部とを連結する第3の閉断面部を形成する補強部材と、を備えた構成としたので、フロントサイドメンバの支持剛性を向上することができると共に車室容積を広くできるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の自動車の車体前部構造を示す車体斜め後方内側から見た斜視図である。
【図2】図1の主要部品の分解斜視図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図1の4−4線断面図である。
【図5】従来例の自動車の車体前部構造を示す車体斜め後方内側から見た斜視図である。
【図6】図5の6−6線断面図である。
【図7】図5の7−7線断面図である。
【符号の説明】
10 自動車車体
12 フロントサイドメンバ
14 ダッシュパネル
16 第1の閉断面部
20 ダッシュパネルリインフォースメントメンバ
22 第2の閉断面部
23 接続部
28 カウルサイドメンバ
30 フロントピラー
34 トルクボックス(補強部材)
36 第3の閉断面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 後端部がダッシュパネルに沿って延設されダッシュパネルとでフロントフロアサイドメンバに連結する第1の閉断面部を形成するフロントサイドメンバと、タイヤ格納部上方に車体前後方向に沿って配置され後端部がフロントピラーに連結されたカウルサイドメンバと、フロアトンネル部の頂部高さ位置に車幅方向に沿って配置されダッシュパネルとで前記第1の閉断面部と接続されるとともにこの接続部から車体上方外側へ延設され前記カウルサイドメンバと接続された第2の閉断面部を形成するダッシュパネルリインフォースメントメンバと、ダッシュパネルとで前記接続部とフロントピラーの下端部とを連結する第3の閉断面部を形成する補強部材と、前記接続部とフロントピラーの下端部との間に設定された前記タイヤ格納部のフランジ溶接部と、を備えたことを特徴とする自動車の車体前部構造。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図7】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【特許番号】第2936877号
【登録日】平成11年(1999)6月11日
【発行日】平成11年(1999)8月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−67038
【出願日】平成4年(1992)3月25日
【公開番号】特開平5−270443
【公開日】平成5年(1993)10月19日
【審査請求日】平成9年(1997)7月23日
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【参考文献】
【文献】特開 昭62−181976(JP,A)
【文献】実開 平4−9378(JP,U)