説明

自動車の車室側壁構造

【課題】車両の側面衝突時における緩衝体の軸方向圧潰変形を適正に行わせて、衝突エネルギー吸収効果を高めることができる自動車の車室側壁構造の提供を図る。
【解決手段】車両の側面衝突によりドアインナパネル1が車室側に変形すると、緩衝体10の端壁12に衝接し、衝突荷重を面で受けて周側壁11に軸方向に略均等に分散させる。緩衝体10の軸方向に作用する衝突荷重により緩衝体10の開放部周縁がドアトリム2の裏面に圧接すると、開放部周縁の角部のカット部15を起点に圧潰変形が促され、角部の局部的なエッジ当りが回避されてドアトリム2の突き破れが回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車室側壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の側面衝突時における乗員保護対策として、従来、例えば特許文献1に示されているように、サイドドアのドアトリム裏面に緩衝体を固着し、車両の側面衝突時にその衝突荷重で緩衝体がドアトリムとドアインナパネルとの間で圧潰変形することにより、衝突エネルギーを吸収するようにした構造が知られている。
【0003】
緩衝体は合成樹脂材をもって、一側が開放した角筒状、例えば、矩形ボックス形状に形成されている。この緩衝体は、開放部をドアインナパネル側に向けてボックス端壁(開放部と反対側の壁)をドアトリム裏面の所要部位、例えば、乗員の腰部,肩部等に対応したインパクトエリアに固着して配置されている。これにより、車両の側面衝突時にドアインナパネルが車室内側に向けて変形移動するのに伴って軸方向に圧潰変形することによって、衝突エネルギーを吸収しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−338627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サイドドアのドアアウタパネルとドアインナパネルとで形成される閉断面空間には、ドアウィンドウレギュレータやドアガードバー、およびドアロック装置のロッド類等のドア内機能部品が組込まれている。このため、車両の側面衝突時には、衝突位置,衝突方向等によりドア内機能部品が不規則にドアインナパネル側に移動し、従って、インパクトエリアでドアインナパネルが平坦面形状のまま車室側に向けて変形移動するとは限らない。
【0006】
一方、このインパクトエリアでドアトリム裏面に固着された緩衝体は、そのボックス形状の開放部がドアインナパネル側に向けられている。このため、ドアインナパネルが不規則に変形して、緩衝体の開放部周縁に片当りした場合には、緩衝体の軸方向に衝突荷重が適正に作用しなくなる可能性がある。
【0007】
そこで、緩衝体をその開放部をドアトリム側に向けて該ドアトリムに固着することが考えられる。しかし、この場合、車両の側面衝突時に、緩衝体にその軸方向に衝突荷重が作用した際に、該緩衝体の開放部周縁、とりわけ、方形周縁の中でも剛性の高い角部でドアトリムが突き破れて、この場合も緩衝体の適正な圧潰変形が行われなくなる可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は車両の側面衝突時に緩衝体の軸方向に適正に衝突荷重を作用させることができると共に、該緩衝体の圧接によるトリム材の突き破れを回避できて、該緩衝体を軸方向に適正に圧潰変形させることができる自動車の車室側壁構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の自動車の車室側壁構造は、車室の側壁パネルの側面を覆って装着されたトリム材の裏面に、一側が開放した角筒状の合成樹脂製の緩衝体を固着し、車両の側面衝突時に前記緩衝体が衝突荷重を受けて圧潰変形することにより、衝突エネルギーを吸収可能とした構造であって、前記緩衝体は、その開放部をトリム材の裏面に向けて該トリム材に固着されていて、該緩衝体の開放部側周縁の角部には、カット部が形成されていることを主要な特徴としている。
【0010】
緩衝体の開放部と反対側の端壁が車室の側壁パネルに対向するため、車両の側面衝突時に側壁パネルが変形移動すると、この端壁に衝接して衝突荷重を端壁の面方向で受け、緩衝体の周側壁に軸方向に略均等に分散させる。これにより、緩衝体が軸方向に整然と圧潰変形するようになる。
【0011】
緩衝体の軸方向の圧潰変形に際し、開放部の周縁がトリム材の裏面に圧接するが、開放部側では、周縁の角部にカット部が形成されていて該角部の剛性が弱められているため、カット部を起点に圧潰変形して、トリム材に与える剪断応力が軽減されて該トリム材の突き破れが回避される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両の側面衝突時に車室の側壁パネルが車室側に向けて不規則に変形した場合でも、緩衝体の端壁がこれを面で受けて衝突荷重を周側壁に軸方向に略均等に分散させることができる。そして、この衝突荷重により緩衝体の開放部の周縁がトリム材の裏面に圧接するが、角部のカット部を起点に圧潰変形して、該角部によるトリム材の突き破れが回避されるため、緩衝体の周側壁に衝突荷重が軸方向に適正に作用することと相俟って、緩衝体を軸方向に整然と圧潰変形させて、衝突エネルギー吸収作用を適正に行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の自動車のサイドドアに適用した例におけるドアトリムを示す側面図。
【図2】緩衝体を示す斜視図。
【図3】緩衝体の要部を示す略示的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を自動車のサイドドアを例に採って図面と共に詳述する。
【0015】
図1〜図3に示すように、サイドドアのドアインナパネル1は車室の側壁パネルの一部を構成し、車室側の側面にはトリム材としてのドアトリム2が装着されている。
【0016】
ドアトリム2は、適宜の合成樹脂材をもって射出成形されていて、車室側の側面にはクッションと表装を兼ねた表皮が貼合配設され、その上下方向中間部分にドアアームレスト3が車室側に向けて膨出成形されていると共に、下側部にドアポケット4が形成されている。
【0017】
ドアトリム2の所要部位には、エラストマー樹脂等からなる高衝撃吸収性能を持つ緩衝体10が配設されている。
【0018】
緩衝体10は、一側が開放した角筒状、例えば矩形ボックス状に形成されていて、車両の側面衝突時にドアインナパネル1とドアトリム2との間で車幅方向に衝突荷重を受けると圧潰変形して、衝突エネルギーを吸収するものである。
【0019】
具体的には、緩衝体10はその周側壁11を横向きにしてドアインナパネル1とドアトリム2との間の空間部に配置され、上述の衝突荷重に対して軸方向に圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する。この衝突エネルギー吸収特性は、緩衝体10の軸方向の変形ストロークと変形反力とによって一義的に定められる。
【0020】
この実施形態では、図2に示すように緩衝体10の周側壁11と端壁12とが連設した径方向の稜線aと、周側壁11の軸方向の稜線bとが集合した角部にカット部13を形成している。これにより、緩衝体10の圧潰初期反力の急激な立上がりが抑制されると共に、緩衝体10の圧潰変形にカット部13を起点とした周側壁11の軸方向の稜線bの亀裂が伴うことによって、衝突初期から後期に亘って良好な衝突エネルギー吸収作用が得られるようにしている。
【0021】
そして、緩衝体10はその一側開放部をドアトリム2の裏面に向けて、開放部周縁がドアトリム2の裏面に当接または近接した状態で該ドアトリム2に固着されている。
【0022】
緩衝体10のドアトリム2の裏面への固着手段としては、例えば、図2,図3に示すピン6とブラケット片14とによる止着構造を採用することができる。ブラケット片14は、緩衝体10の車両前後方向の側壁(周側壁11の前,後壁)における開放部周縁の近傍に径外方向に張り出して形成される。一方、ピン6は、ドアトリム2の裏面にブラケット片14に対応して設けられた取付座部5に立設されている。ブラケット片14にはピン挿通孔14aが開設されており、ここにピン6を挿通してその突出端を熱カシメすることによって、ブラケット片14が取付座部5に結合される。
【0023】
ここで、緩衝体10の開放部側の周縁の角部には、端壁12側のカット部13と同様に、軸方向の稜線bを頂点としたカット部15を設けて、軸方向の稜線b周りの剛性を低下させている。
【0024】
本実施形態では、緩衝体10の開放部側の周縁には、径外方向に向けてフランジ部16が延設されている。フランジ部16は、車両の側面衝突による緩衝体10の圧潰変形時にドアトリム2の裏面に面接触して、ドアトリム2の面方向に圧潰荷重を分散し、ドアトリム2における剪断応力の軽減機能を発揮するものである。
【0025】
上述のカット部15は、フランジ部16に跨らないように該フランジ部16の延設基部に沿って形成され、緩衝体10が潰れ過ぎて衝突エネルギー吸収性能を損なわないようにしている。また、カット部15の開口面積はドアトリム2の強度・剛性に応じて任意に調整され、ドアトリム2が軽量化のために厚みを薄くして成形されていたり、発泡成形されているものであれば、カット部15の開口面積を大きくして、緩衝体10が潰れ易くされる。更に、カット部15は、図2の実線および鎖線に示すように緩衝体10の開放部側の周縁における全部の角部に設けてもよいし、必要な箇所のみに設けてもよい。例えば、緩衝体10の端壁12の中央から偏心して衝突荷重が作用した場合、衝突荷重が作用する部位と対向する軸方向稜線部bの角部からドアトリムへの剪断応力が高くなることから、衝突荷重が作用する部位と対向する軸方向稜線部bにカット部15を設ける。
【0026】
以上の構成からなる本実施形態の車室側壁構造によれば、車両の側面衝突により、車室側に向けて変形移動するドアインナパネル1と、乗員の慣性移動によって押圧力を受けるドアトリム2とにより緩衝体10が挟圧されて、その軸方向に衝突荷重が作用する。
【0027】
このとき、ドアインナパネル1が前述の理由により車室側に向けて不規則に凹凸変形した場合でも、緩衝体10の端壁12がドアインナパネル1に対向しているため、端壁12がこの変形移動するドアインナパネル1を面で受ける。即ち、衝突荷重を端壁12面で受けて、衝突荷重を周側壁11にその軸方向に略均等に分散させることができる。
【0028】
これにより、周側壁11が軸方向に圧潰変形して、衝突エネルギーの吸収作用を発揮する。
【0029】
ここで、緩衝体11は、その一般壁部に比較して、各隣接する壁部が連設した軸方向稜線b部分の軸方向剛性が高い。従って、緩衝体10が軸方向に圧潰変形した場合、ドアトリム2の裏面に圧接する開放部周縁における軸方向稜線bに対応した角部領域では、ドアトリム2に作用する圧潰荷重が高く、ドアトリム2の剪断応力が局部的に高くなる傾向にある。
【0030】
一方、本実施形態では、緩衝体10の開放部周縁における軸方向稜線bに対応した角部領域には、カット部15が設けられて剛性が低下されているので、このカット部15を起点に圧潰変形が促進される。これにより、ドアトリム2の剪断応力が軽減されて、ドアトリム2の局部的な突き破れが回避される。この結果、緩衝体10の周側壁11に衝突荷重が略均等に分散されて軸方向に適正に作用することと相俟って、緩衝体10を軸方向に整然と圧潰変形させて、衝突エネルギー吸収作用を適正に行わせることができる。
【0031】
特に、本実施形態にあっては、緩衝体10の開放部側の周縁にフランジ部16を備えていて、緩衝体10の軸方向の圧潰変形時にはこのフランジ部16がドアトリム2の裏面に面接触して圧接する。従って、緩衝体10の圧潰荷重がフランジ部16によってドアトリム2の面方向に分散され、開放部周縁の局部的なエッジ当りを無くして、ドアトリム2の剪断応力の軽減化をより効果的に行わせることが可能となる。
【0032】
なお、前記実施形態ではドアトリム2における着座乗員の腰部に対応したインパクトエリアの裏面に緩衝体10を配設した例を示したが、この他、リヤサイドトリムにおける着座乗員の腰部や肩部に対応したインパクトエリアの裏面に緩衝体10を配設して、前述と同様の効果を得ることができる。
【0033】
また、緩衝体10として、端壁12側の周縁角部にカット部13を備えた好ましい形態を例示したが、これに限定されることはなく、一側が開放した角筒状に形成されて、軸方向の圧潰変形により衝突エネルギーを吸収可能な緩衝体であれば、どのような多角形状,構造のものにも適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…ドアインナパネル(車室の側壁パネル)
2…ドアトリム
10…緩衝体
11…周側壁
15…カット部
16…フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の側壁パネルの側面を覆って装着されたトリム材の裏面に、一側が開放した角筒状の合成樹脂製の緩衝体を固着し、車両の側面衝突時に前記緩衝体が衝突荷重を受けて圧潰変形することにより、衝突エネルギーを吸収可能とした構造であって、
前記緩衝体は、その開放部を前記トリム材の裏面に向けて該トリム材に固着され、
前記緩衝体の開放部側周縁の角部には、カット部が形成されていることを特徴とする自動車の車室側壁構造。
【請求項2】
前記緩衝体は、その開放部側周縁に、トリム材の裏面に当接するフランジ部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車の車室側壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−230571(P2011−230571A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100682(P2010−100682)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)