説明

自動車前照灯用メタルハライドランプ

【課題】 白濁を抑制し、良好な寿命特性を保つことができる自動車前照灯用メタルハライドランプを提供する。
【解決手段】
本発明の自動車前照灯用メタルハライドランプは、内部に放電空間14が形成された放電部11、放電部11の両端に形成された一対の封止部12a、12bを有する気密容器1と、放電空間14に封入されたキセノンおよび金属ハロゲン化物2と、封止部12a、12bに一端が封着され、他端は放電空間14に対向配置された、直径R(mm)が0.32≦R≦0.40である直棒状の一対の電極3a2、3b2とを具備し、管軸が水平配置された状態で、始動時に安定時よりも略2倍以上の電力が供給点灯されるものであって、キセノンの封入圧が13atm以上であるとともに、水銀は本質的に含んでおらず、始動直後の最大電流値をISMAX(A)としたとき、ISMAX/R(A/mm)が7.5≦ISMAX/R≦9.4の関係を満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略水平の状態で点灯される自動車前照灯用メタルハライドランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
略水平の状態で点灯される自動車前照灯に用いられるメタルハライドランプは、特開2001−6610号公報(以下、特許文献1)や特開2003−173763号公報(以下、特許文献2)などにより知られている。このメタルハライドランプは、放電媒体としてキセノンと金属ハロゲン化物が封入され、水銀は封入されていない、いわゆる水銀フリーランプである。この水銀フリーランプは、従来の水銀入りのランプよりも明るさが得られにくい傾向があるため、全光束をアップさせるために放電空間内に高圧キセノンを封入しようとする試みがされている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−6610号公報特
【特許文献2】特開2003−173763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、キセノンを高圧封入した水銀フリーランプにおいて、寿命中の光束が急激に低下するという問題が生じている。この問題は、キセノンの封入圧が13atm以上になると、特に深刻になることがわかった。
【0005】
この問題について、発明者によって様々な検討が行われた結果、始動直後の高電力投入時に白濁が発生することが原因であることがわかった。すなわち、自動車前照灯に用いられるメタルハライドランプでは、点灯開始後、速やかに光束が立ち上がることを要求されているため、始動直後に安定時よりも高電力が投入されるが、この高電力供給時にこの問題が発生することをつきとめた。そこで、さらなる検討の結果、始動直後に電極に流れる電流値を規制することで、キセノンを高圧封入しても白濁を抑制でき、寿命特性を良好に保つことができることを見出したため、本発明を提案するに至った。
【0006】
本発明の目的は、白濁を抑制し、良好な寿命特性を保つことができる自動車前照灯用メタルハライドランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の自動車前照灯用メタルハライドランプは、内部に放電空間が形成された放電部、前記放電部の両端に形成された一対の封止部を有する気密容器と、前記放電空間に封入されたキセノンおよび金属ハロゲン化物を含む放電媒体と、前記封止部に一端が封着され、他端は前記放電空間に対向配置された一対の電極とを具備し、管軸が略水平に配置された状態で、始動時に安定時よりも略2倍以上の電力が供給点灯される自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、前記放電媒体中のキセノンの封入圧は13atm以上であるとともに、水銀は本質的に含んでおらず、始動直後の最大電流値をISMAX(A)、前記電極の直径をR(mm)としたとき、ISMAX/R(A/mm)が7.5≦ISMAX/R≦9.4の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、白濁を抑制でき、良好な寿命特性を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(第1の実施の形態)
以下に、本発明の自動車前照灯用メタルハライドランプの一実施形態である自動車前照灯用メタルハライドランプについて、図面を参照して説明する。図1は、本発明の自動車前照灯用メタルハライドランプの第1の実施の形態について説明するための図である。
【0010】
自動車前照灯に用いられるメタルハライドランプは、主要部として気密容器1を有する。気密容器1はランプ軸方向に細長い形状であって、その略中央部に略楕円形の放電部11が形成されている。放電部11の両端部には、板状の封止部12a、12bが形成されており、さらにその両端には、筒状の非封止部13a、13bが形成されている。なお、気密容器1としては、耐熱性と透光性を具備した材料、たとえば石英ガラスによって形成することができる。
【0011】
放電部11の内部には、軸方向において、中央部が略円柱状、その両端部がテーパ状の放電空間14が形成されている。この放電空間14の容積は自動車前照灯用としては、10mm〜40mmであるのが望ましい。
【0012】
放電空間14には、金属ハロゲン化物2及び希ガスとからなる放電媒体が封入されている。金属ハロゲン化物2は、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化スカンジウム(ScI)、ヨウ化亜鉛(ZnI)、臭化インジウム(InBr)で構成されている。なお、ヨウ化スカンジウム以外の金属ハロゲン化物に結合されているハロゲンについては、上記に限定されるものではなく、臭素、塩素、又は複数のハロゲンを組み合わせて使用してもよい。
【0013】
希ガスとしては、始動直後の発光効率が高く、主に始動用ガスとして作用するキセノンが封入されている。キセノンの封入圧力は、高くするほど明るさが増すため、13atm以上封入している。上限は特にないが、現状においては20atm程度が封入限界と考えられる。なお、キセノンの圧力は、水中で放電部11と封止部12a(又は封止部12b)の境界を破壊して放電空間14内部のキセノンを収集、測量し、その後に放電部11の内容積を測定することにより、算出することができる。
【0014】
ここで、放電空間14には、本質的に水銀は含まれていない。この「本質的に水銀を含まない」とは、水銀を全く含まないか、又は従来の水銀入りのメタルハライドランプと比較してもほとんど封入されていないに等しい程度の量、例えば1mlあたり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀量が存在していても許容するものとする。
【0015】
封止部12a、12bの内部には、マウント3a、3bが封止されている。
このマウント3a、3bは、金属箔3a1、3b1、電極3a2、3b2、コイル3a3、3b3、外部リード線3a4、3b4を一体的に構成してなる。
【0016】
金属箔3a1、3b1、例えば、モリブデンからなる薄い金属板である。
【0017】
電極3a2、3b2は、タングステンに酸化トリウムをドープしたトリエーテッドタングステン電極である。その基端側は金属箔3a1、3b1の放電部11側の端部にレーザー溶接によって接続されている。一方、先端側は放電空間14内で所定の電極間距離を保って、互いの先端同士が対向するように配置されている。ここで、所定の電極間距離としては、見た目上、すなわち実際の距離ではなく、ランプの外観上における距離で4.2mm程度であるのが望ましい。また、電極3a2、3b2の直径Rは、0.32mm〜0.40mmが好適である。なお、電極3a2、3b2は、本実施の形態のような直棒状であるのが望まれる。
【0018】
コイル3a3、3b3は、例えば、ドープタングステンからなり、封止部12a、12bに封着された電極3a2、3b2の軸部の軸周りに螺旋状に巻かれている。ただし、金属箔3a1、3b1と接続された電極3a2、3b2の軸部分にはコイル3a3、3b3は巻装しておらず、箔端から放電空間14方向に巻装している。
【0019】
外部リード線3a4、3b4は、例えば、モリブデンからなり、放電部11に対して反対側の金属箔3a1、3b1の端部に、溶接等により接続されている。そして、外部リード線3a4、3b4の他端側は、管軸に沿って封止部12a、12bの外部に延出し、非封止部13a、13bの略中央に位置しながらさらに外部方向に延びている。なお、前端側に延出したリード線3b4には、ニッケルからなるL字状のサポートワイヤ3cの一端が接続されている。そのサポートワイヤ3cの他端は、後述するソケット6の方向に延出している。そして、管軸と平行しているサポートワイヤ3cには、セラミックからなるスリーブ4が被覆されている。
【0020】
上記で構成された気密容器1の外側には、石英ガラスにチタン、セリウム、アルミニウム等の酸化物を添加することにより、紫外線を遮断性する作用を有する筒状の外管5が、管軸に沿って気密容器1と同心状に設けられている。それらの接続は、気密容器1両端の筒状の非封止部13a、13bと外管5の両端部を溶融することにより行なわれている。すなわち、気密容器1と外管5の両端には、溶着部51a、51bが形成されている。なお、気密容器1と外管5との間の空間には、例えば、窒素やネオン、アルゴン、キセノン等の希ガスを一種又は混合して封入したりすることができる。
【0021】
そして、気密容器1を内部に覆った状態の外管5の非封止部13a側には、ソケット6が接続される。これらの接続は、外管5の非封止部13a付近の外周面に装着された金属バンド71を、ソケット6の気密容器1保持側の開口端に形成された4本の金属製の舌片72(図1では、2本を図示)により挟持することによって行なわれている。そして、接続をさらに強固にするため、金属バンド71及び舌片72の接触点をレーザーによって溶接している。なお、ソケット6の底部には底部端子8a、側部には側部端子8bが形成されており、それぞれリード線3a4、サポートワイヤ3cが接続されている。
【0022】
これらで構成されたランプの底部端子8a、側部端子8bに点灯回路を接続し、電力を投入することにより、電極間においてアーク9が形成され、点灯状態となる。その際、自動車前照灯に用いられるメタルハライドランプでは、その使用上、ランプの管軸が略水平になるように配置される。「管軸が略水平」とは、点灯中に形成されるアーク9が浮力や対流の影響によって上方向に湾曲する程度に水平配置されている状態を意味する。なお、ランプの点灯電力は始動後の光束立ち上がりを早めるべく、図2に示したように安定時が約35Wであるのに対し、始動時はその2倍以上である約75Wに設定している。
【0023】
ここで、本発明のメタルハライドランプは、その課題を解決するために、始動直後の最大電流値をISMAX(A)、電極3a2、3b2の直径をR(mm)としたとき、ISMAX/R(A/mm)が7.5≦ISMAX/R≦9.4の関係を満たすように点灯される。この「始動直後」とは、電極間で放電が開始されたときから、その4秒後までを意味する。自動車用のメタルハライドランプでは、上述したように始動4秒間は高電力・高電流が投入され、放電部11に最も負荷がかかるためである。このISMAXは、図2では始動後約0.5秒時であるが、4秒光束をさらに高めるために始動4秒後の直前に一時的に高い電力を投入したような場合には、ISMAXは始動後4秒弱に現れる。つまり、ISMAX/Rは、用いる電極の直径のみならず、投入電力または電力制御などによっても変化させることが可能である。なお、図2のような時間的な電力・電流の変化は、オシロスコープにより得ることができ、ISMAXの値は同図から求めることができる。
【0024】
図3は、図1の自動車前照灯用メタルハライドランプの一仕様について説明するための図である。なお、以下の試験は特に言及しない限り寸法、材料等はこの仕様に基づいて行っている。
【0025】
放電容器1:石英ガラス製、放電空間14の内容積=26.9mm、内径A=2.49mm、外径B=6.19mm、長手方向の球体長C=7.8mm、
金属ハロゲン化物2:ScI=0.136mg、NaI=0.218mg、ZnI=0.045mg、InBr=0.001mg、
希ガス:キセノン=13.5atm、
水銀:0mg、
金属箔3a1、3b1:モリブデン製、
電極3a2、3b2:トリエーテッドタングステン製、直径R=0.38mm、電極間距離D=4.34mm(実際の電極間距離=3.74mm)、
コイル3a3、3b3:ドープタングステン製、
外部リード線3a4、3b4:モリブデン製、直径=0.4mm、
始動直後の最大投入電力=74W、始動直後の最大電流値ISMAX=2.9A、ISMAX/R=7.63(A/mm)、安定時電力=34.5W。
【0026】
図4は、ISMAX/Rを変化させたときの1000時間点灯後の照度維持率および4秒光束について説明するための図、図5は、図4をグラフ化した図である。試験条件は、自動車前照灯HID光源の規格であるJEL215に定められたEU120分モードの点滅サイクルである。なお、照度維持率とは、放電部11上部から放出される光束の時間的変化を示すものであり、JIS C 7612の「照度測定方法」に基づいて測定している。
【0027】
結果からわかるように、ISMAX/Rの値が大きいほど、照度維持率が低下する。照度維持率の低下の原因は、放電部11上部の内壁に発生した白濁が関係しており、また、白濁発生の原因は、アーク9による放電部11上部内壁面の加熱が考えられる。すなわち、ISMAX/Rの値が大きいと、アーク9のエネルギーが大きくなり、放電部11上部の内壁面が強く熱され、白濁が発生すると推測される。図5によれば、ISMAX/Rが9.4(A/mm)よりも大きくなると、照度維持率の低下が大きくなっているので望ましくない。一方、ISMAX/Rの値が小さいほど、放電部11の温度上昇が遅くなるために4秒光束が低くなってしまう。図5によれば、ISMAX/Rが7.5(A/mm)よりも小さくなると、4秒光束の低下が大きくなっているので望ましくない。したがって、ISMAX/R(A/mm)は、7.5≦ISMAX/R≦9.4に設定する必要がある
また、放電部11上部の白濁を抑制するために、アーク9の湾曲等の影響も考慮することが望ましい。すなわち、キセノンの封入圧P(atm)、電極間距離D(mm)、アーク9が形成される電極3a2、3b2の上端から放電部11の軸方向中央部分の上内壁までの距離L(mm)を好適に設計したものを組み合わせるとさらに効果的である。ただし、自動車前照灯の用途においては、電極間距離Dはほとんど変更することができない不変の値であるので、キセノンの封入圧Pと電極上端から放電部11上部の内壁面までの距離Lについてのみ考えればよい。そこで、発明者が試験を行った結果、距離Lが大きくなれば、キセノンの封入圧Pを高めても1000時間点灯後の白濁を抑制できるという傾向が得られた。そして、試験本数を増やしてキセノンの封入圧Pと距離をLの関係を調べたところ、図6に示したようにP≦60.25L−48.90を満たせば、1000時間点灯後の白濁が少なく、照度維持率が良好であることがわかった。なお、距離Lは設計の観点から1.20mmが限界であり、キセノン封入圧Pは13atm以上であるから、実際に実施可能な範囲は限られている。
【0028】
したがって、本実施の形態では、始動直後の最大電流値をISMAX(A)、前記電極の直径をR(mm)としたとき、ISMAX/R(A/mm)が7.5≦ISMAX/R≦9.4の関係を満たすことにより、白濁を抑制し、寿命特性を良好にしつつ、4秒光束の立ち上がりを早めることができる。
【0029】
また、キセノンの封入圧をP(atm)、前記電極の上端から前記放電部の軸方向中央部分の上内壁までの距離をL(mm)としたとき、P≦60.25L−48.90の関係を満たすことにより、さらに白濁を抑制することができ、良好な寿命特性を実現することができる。
【0030】
なお、本発明の実施の形態は上記に限られるわけではなく、例えば次のように変更してもよい。
【0031】
放電空間14の形状は、略楕円形であってもよい。
【0032】
電極3a2、3b2は、トリエーテッドタングステン電極に限らず、純タングステン、ドープタングステン、レニウムタングステンなどからなる電極であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の自動車前照灯用メタルハライドランプの第1の実施の形態について説明するための図。
【図2】電力と電流の時間的変化について説明するための図。
【図3】図1の自動車前照灯用メタルハライドランプの一仕様について説明するための図。
【図4】ISMAX/Rを変化させたときの1000時間点灯後の照度維持率および4秒光束について説明するための図。
【図5】図4をグラフ化した図。
【図6】キセノンの封入圧Pと電極の上端から放電部の軸方向中央部分の上内壁までの距離Lとの関係について説明するための図。
【符号の説明】
【0034】
1 気密容器
11 放電部
12a、12b 封止部
13a、13b 非封止部
14 放電空間
2 金属ハロゲン化物
3a、3b マウント
3a1、3b1 金属箔
3a2、3b2 電極
3a3、3b3 コイル
3a4、3b4 外部リード線
3c サポートワイヤ
4 スリーブ
5 外管
6 ソケット
71 金属バンド
72 舌片
8a 底部端子
8b 側部端子
9 アーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電空間が形成された放電部、前記放電部の両端に形成された一対の封止部を有する気密容器と、前記放電空間に封入されたキセノンおよび金属ハロゲン化物を含む放電媒体と、前記封止部に一端が封着され、他端は前記放電空間に対向配置された一対の電極とを具備し、管軸が略水平に配置された状態で、始動時に安定時よりも略2倍以上の電力が供給点灯される自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、
前記放電媒体中のキセノンの封入圧は13atm以上であるとともに、水銀は本質的に含んでおらず、
始動直後の最大電流値をISMAX(A)、前記電極の直径をR(mm)としたとき、ISMAX/R(A/mm)が7.5≦ISMAX/R≦9.4の関係を満たすことを特徴とする自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項2】
キセノンの封入圧をP(atm)、前記電極の上端から前記放電部の軸方向中央部分の上内壁までの距離をL(mm)としたとき、P≦60.25L−48.90の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−262855(P2008−262855A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105714(P2007−105714)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】