説明

自動車用ディスクブレーキの防錆カバー

【課題】 自動車のディスクブレーキが錆びるのを防止する防錆カバーとして、外気温が変化しても防錆カバーが脱落したり、破損したりするような不具合を防止し、また、防錆カバーの取付け作業等が簡単に行われるようにする。
【解決手段】 ホイールWの外側に被せられる防錆カバー1として、円盤状のカバー面2の外周部に、内側に折れ曲がるフランジ部3を形成し、カバー面2の所定箇所に凹部4と開口5を設けて、エアバルブvのステム部v1を開口5に挿通させる。開口5に対向するカバー面2の裏側周縁部と、これと位相が90度異なるカバー面2の裏側周縁部の合計3箇所に、裏側に向けて張り出す係合爪7を設け、この係合爪7が、ホイールWのリムフランジ部Wr外周面と、タイヤTのビード部Tbとの間に挿入されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ディスクブレーキが錆つくのを防止するための防錆カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車の輸出時等において長期間洋上を搬送する際、塩分や水分を含んだ空気がホイールディスクの開口部を通って車輪の内側に侵入し、ディスクブレーキのロータ等に錆びが発生するのを防止するため、ホイールディスクの外面に防錆カバーを装着して水分等の侵入を防ぐような技術が知られている。
例えば、特許文献1の技術では、ホイールディスクのリムフランジ部の外側に弾性的に嵌合可能な円盤状のキャップを設け、このキャップでホイールディスクに設けられる開口部を覆う構造や、開口部ごとに弾性的に嵌め込み可能なキャップを設けて各開口部を覆うような技術が開示されている。
また、特許文献2の技術では、防錆カバー本体を薄肉の柔軟性樹脂材料により成形し、防錆カバー本体の外周縁に、車輪のホイールディスクのリムフランジ部に密接するフランジ部を設けるとともに、防錆カバー本体の中央部に締結孔部を設け、この締結孔部を利用して、センターキャップによってホイールディスクのセンターキャップ挿入孔部に締結するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭56−36562号公報
【特許文献2】特開2007−333028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記特許文献1の技術の場合、輸出元と輸出先の外気温度の違いや、季節の変化などによる外気温度の変化等によってキャップの取り付け状態が変化し、キャップが脱落したり、破損したりするような不具合があった。
すなわち、キャップがホイールディスクのリムフランジの外側全周に嵌合する場合、外気温度の変化によってホイールディスクのリムフランジの径よりもキャップの径が小さくなるよう縮むと、キャップの取り外しや取り付けが困難になり、キャップ取り付け後であれば、キャップが破損する恐れがあった。
一方、逆にホイールディスクのリムフランジの径よりもキャップの径が大きくなるように変化すると嵌合の度合いが弱くなり、取り付け後であれば、キャップが脱落する恐れがあり、また、各開口部ごとにキャップを取り付ける場合にも前記と同様の不具合があり、しかも、一台の車両に対して複数のキャップが必要になるため、工数と手間がかかるという問題があった。
【0005】
また、前記特許文献2のような技術の場合、防錆カバーがセンターキャップによりホイールディスクに取り付けられる構造であるため、昨今のアルミホイールのようなセンタキャップレスのホイールには使用できないという問題があった。また、防錆カバーは、車輪のホイールディスクに形成されるリムフランジ部全周を、防錆カバー本体の外周縁全周に形成されるフランジ部で全て覆った状態でセンターキャップにより固定する必要があるため、取付け作業が煩雑になるという問題もあった。
【0006】
そこで本発明は、外気温が変化しても防錆カバーが脱落したり、破損したりするような不具合を防止するとともに、防錆カバーの取付け作業等が簡単に行われるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、自動車用ディスクブレーキを防錆するため自動車用ホイールの外側に装着される自動車用ディスクブレーキの防錆カバーにおいて、円盤状のカバー面の所定箇所に凹部を設け、この凹部に、ホイールのエアバルブを挿通させるための開口を形成するとともに、前記カバー面の周囲に、ホイールのリムフランジ部を覆うことのできるフランジ部を形成し、また、前記カバー面の凹部に対向するカバー面の周縁部の位置と、これと位相が90度異なるカバー面の周縁部の位置の合計3箇所に、ホイールのリムフランジ部外周面とタイヤのビード部との間に挿入可能な係合爪を形成し、前記3箇所の係合爪を車両用ホイールに係合させて防錆カバーを固定するようにした。
【0008】
そして、円盤状のカバー面の凹部の開口に、ホイールのエアバルブのステム部を挿通させて位置決めするとともに、3箇所の係合爪を、ホイールのリムフランジ部外周面とタイヤのビード部との間に挿入し防錆カバーを固定することにより、カバー面でホイール表面を覆いディスクブレーキを防錆する。この際、外気温の変化等によって防錆カバーの膨張率とホイールの膨張率が異なっても、膨張係数の違いによる伸び縮みの差は、部分的に係合する3箇所の係合爪の変形により容易に吸収される。
また、3箇所の係合爪を係脱させるだけで取り付け、取り外しができるため、これら作業が楽に行える。
なお、このような防錆カバーの材質としては、例えば保形性のある柔軟な樹脂材料等が好ましい。
【0009】
また本発明では、前記係合爪のうち、タイヤのビード部に接する部分に、タイヤに対して摩擦力を高めるための係止部を形成するようにした。
このような係止部としては、タイヤのビード部に接触する接触面部分に、係合爪の挿入方向に対して交差方向に延出する複数の溝を設けたり、同様な部分に複数の突起を設けたり、または、係合爪の先端部分を鋸状にする等によって構成する。
【0010】
また本発明では、前記カバー面に、中央領域の凹凸のない平坦な押圧面部と、この押圧面部の外側に同心円状に突起として設けられる複数の同心円状ビード部と、前記押圧面部の外側に所定角度置きに放射方向に突起として設けられる複数の放射線状ビード部とを形成するようにした。
そして、カバー面の複数の同心円状ビード部と放射線状ビード部によって防錆カバーの剛性を確保するとともに、中央領域の押圧面部を平坦にすることで、押圧面部を押圧した際、押圧効果を全周に均一に及ぼさせることができる。
【発明の効果】
【0011】
カバー面周縁部の3箇所の係合爪を、ホイールのリムフランジ部外周面とタイヤのビード部との間に挿入させて固定するようにしたため、ホイールディスクと防錆カバーの熱膨張率が変化する場合でも、係合爪の変形によって熱膨張差を吸収することができ、しかも取り付け、取り外し作業を簡素化することができる。
また、係合爪のうち、タイヤのビード部に接する部分に、タイヤとの摩擦力を高めるための係止部を設ければ、脱落防止等により効果的であり、カバー面に、凹凸のない押圧面部と、その外側の複数の同心円状ビード部と放射線状ビード部を設ければ、全体の剛性が確保され、また押圧効果も高まって好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る防錆カバーの側面図である。
【図2】本発明に係る防錆カバーの正面図である。
【図3】本発明に係る防錆カバーの背面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】図3のB−B線断面図である。
【図6】本発明の防錆カバーの取付け状態を、図3のA−A線方向で断面として説明する説明図である。
【図7】図6の係合爪部分を拡大した拡大図である。
【図8】係止部の一例を示す図7のC視図である。
【図9】係止部の別の例を示す説明図である。
【図10】係止部の更に別の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
本発明に係る自動車用ディスクブレーキの防錆カバーは、外気温が変化してホイールと防錆カバーの熱膨張差が生じても防錆カバーが脱落したり、破損したりするような不具合が防止できるようにされるとともに、取付け作業等を簡単に行うことができるようにされており、特に、ホイールのエアバルブのステム部を利用して位置決めするとともに、周縁の3箇所の係合爪をホイールのリムフランジ部外周とタイヤのビード部との間に挿入して固定することを特徴としている。
【0014】
すなわち、図1乃至図3に示すように、本防錆カバー1は、本実施例ではポリプロピレン樹脂等の保形性のある柔軟性素材から成形され、中央部が正面方向に向かって若干盛り上がる形態の円盤状のカバー面2と、このカバー面2の外周部に形成されるフランジ部3を備えており、このフランジ部3は、背面方向に向けて若干内側に折り曲げられた状態で斜め内側方向に形成されている。
【0015】
前記カバー面2は、中央領域が凹凸のない平坦な押圧面部2aとされ、この押圧面部2aの外側には、同心円状の複数の同心円状ビード部sと、所定角度置きに放射線方向に延出する複数の放射線状ビード部pとが、いずれも正面側に突出して形成されている。
【0016】
また、カバー面2の所定箇所には、背面側に向けて窪む凹部4が形成されており、この凹部4の中心部には、後述するホイールに装着されるエアバルブのステム部を挿通させるための開口5が形成され、この開口5の外側周縁には、中心点から放射方向に延びる複数のスリ割り溝6が形成されている。
【0017】
また、この凹部4の位置に対向する側のカバー面2の背面側周縁部と、これと位相が90度異なるカバー面2の背面側の縁部の合計3箇所には、背面方向に向けて斜め内側に延出する係合爪7が設けられ、この係合爪7が後述するホイールWのリムフランジ部Wr外周面とタイヤTのビード部Tbとの間に挿入できるようにされている。
【0018】
そしてこの係合爪7は、ホイールWのリムフランジ部Wrの外周面に倣って内側に湾曲した形状であり、且つ先端に向かってその厚みが薄くなるように構成されている。
【0019】
また、係合爪7のうち、タイヤTと接する面側には、図8に示すように、挿入方向と直角方向に係止部としての複数の溝部mが設けられており、タイヤTとの摩擦力を高めて、挿入状態から容易に抜け出さないようにしている。なお、このような係止部は、溝部mの代わりに、図9に示すように多数の突起tにしてもよく、図10に示すように、係合爪7先端を鋸状部gにしてもよい。
【0020】
なお、このような係合爪7が設けられる箇所のカバー面2において、図2、図3に示すように、一番外側の同心円状ビード部sは、係合爪7の箇所を避けて形成され、係合爪7が存在する箇所では、同心円状ビード部sを形成しないようにしている。
【0021】
以上のような防錆カバー1をホイールWに取り付ける要領について図6に基づき説明する。
作業者は、ホイールWに対して防錆カバー1を位置合わせした後、カバー面2の中央領域の押圧面部2aを押圧することで、防錆カバー1の周縁部をホイールWのリムフランジ部Wrに押し当て、防錆カバー1の外周のフランジ部3と係合爪7を外側に拡開させつつ、フランジ部3と係合爪7をリムフランジ部Wrの外周面に被せる。このとき、最も外側の同心円状ビード部sが係合爪7の箇所に存在しないため、係合爪7はスムーズに拡開され、取付けが容易である。
【0022】
次いで、押圧面部2aへの押圧を解除して、カバー面2に形成される前記開口5に、ホイールWに装着されるエアバルブvのステム部vを挿通させて防錆カバー1の位置決めを行う。この挿通位置決めは、カバー面2の内面がホイールWのリムフランジ部Wrの先端に当接することにより完了するが、このとき、防錆カバー1はホイールWに向けて接近することになり、これによって、防錆カバー1の係合爪7先端が、ホイールWのリムフランジ部Wrの外周曲面とタイヤTのビード部Tbとの間に圧入される。
【0023】
このとき、防錆カバー1の係合爪7がタイヤTのビード部Tbに圧接し、係合爪7に形成される複数の溝部m(または突起t、または鋸状部g)がビード部Tbに係合することで防錆カバー1が強固に固定される。
【0024】
以上のような要領により、防錆カバー1をホイールWに装着する際、防錆カバー1に部分的に設けられた係合爪7のみでホイールWに固定するようにしたため、ホイールWと防錆カバー1との膨張係数の違いによる伸び縮みの差は、係合爪7の変形により吸収することができる。すなわち、例えば、防錆カバー1がホイールWに比べてより大きく収縮した場合は、係合爪7が外側に拡がるように変形して破損等が防止され、しかも、係合爪7に形成される複数の溝部m(または突起t、または鋸状部g)がタイヤTのビード部Tbに強く圧接するため、タイヤTの空気圧との協同作用によって、防錆カバー1が脱落するのが抑制される。
【0025】
一方、ホイールWが防錆カバー1に比べてより大きく収縮する場合は、防錆カバー1をホイールWに取り付けるときに生じる係止爪7の弾発力(ホイールWのリムフランジ部Wr側に係止爪7が押圧される力)およびタイヤTの空気圧との協同作用によって、防錆カバー1の脱落が抑制される。
【0026】
また、防錆カバー1を取り付ける操作も、3箇所の係合爪7を拡開させるだけですむため簡単である。
【0027】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば、防錆カバー1の材質等は一例である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
自動車用ディスクブレーキの防錆カバーとして、ホイールとカバーの温度差による膨張係数の違いが大きいような場合でも、カバーが脱落したり、破損したりするような不具合がなく、また、装着作業も簡単であるため、特に輸出時などの防錆カバーとして今後の普及が期待される。
【符号の説明】
【0029】
1…防錆カバー、2…カバー面、3…フランジ部、4…凹部、5…開口、7…係合爪、m…溝部、W…ホイール、Wr…リムフランジ部、T…タイヤ、Tb…ビード部、v…エアバルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用ディスクブレーキを防錆するため自動車用ホイールの外側に装着される自動車用ディスクブレーキの防錆カバーであって、円盤状のカバー面の所定箇所に凹部が設けられ、この凹部に、ホイールのエアバルブを挿通させるための開口が形成されるとともに、前記カバー面の周囲には、ホイールのリムフランジ部を覆うことのできるフランジ部が形成され、また、前記カバー面の凹部に対向するカバー面の周縁部の位置と、これと位相が90度異なるカバー面の周縁部の位置の合計3箇所には、ホイールのリムフランジ部外周面とタイヤのビード部との間に挿入可能な係合爪が形成され、前記3箇所の係合爪を車両用ホイールに係合させて防錆カバーを固定するようにされることを特徴とする自動車用ディスクブレーキの防錆カバー。
【請求項2】
前記係合爪のうち、タイヤのビード部に接する部分には、タイヤに対して摩擦力を高めるための係止部が形成されることを特徴とする請求項1に記載の自動車用ディスクブレーキの防錆カバー。
【請求項3】
前記カバー面には、中央領域の凹凸のない平坦な押圧面部と、この押圧面部の外側に同心円状に突起として設けられる複数の同心円状ビード部と、前記押圧面部の外側に所定角度置きに放射方向に突起として設けられる複数の放射線状ビード部とが形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車用ディスクブレーキの防錆カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−92876(P2012−92876A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239371(P2010−239371)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】