説明

自動車用ハブキャップ

【課題】自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材にハブキャップが嵌着されて当該開口部が密封された後、当該ハブキャップに対して軸方向内側に向かう外力が加えられた場合であっても、ハブキャップが軸方向内側に向って押し込められることを効果的に防止できる自動車用ハブキャップ及び、車輪用軸受け端開口部の嵌合構造。
【解決手段】自動車用ハブキャップは、円板状部と、円板状部の周縁から前記軸受けの軸方向内側に向かって延びて前記外径側部材に嵌合される円筒状部とからなり、前記円筒状部の先端縁の近傍の所定の位置から当該先端縁に向かう部分が、前記円筒状部の当該先端縁の近傍の所定の位置から前記円板状部に向かう部分よりも肉薄の肉薄部に形成されている。
【選択図】図

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材に嵌着されて当該開口部を密封するキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車の車輪用軸受けに装着されるハブにはゴミや水、汚泥などが軸受け内部に浸入することを防止する目的でハブキャップが嵌着されている。
【0003】
図11(a)は、このようなハブキャップの嵌着構造の一例を説明するものである(特許文献1)。自動車の車輪用軸受け111の軸方向外側端(図11(a)中、右側端)に、軸受け111の径方向外側部材102によって開口部101が形成されている。この径方向外側部材102にハブキャップ100が嵌着され、開口部101が密封される。ハブキャップ100は円板状部104と、円板状部104の周縁から軸受けの軸方向内側(図11(a)中、左側)に向かって延びる円筒状部105を備えている。円筒状部105が図11(a)図示のように外径側部材102に嵌合され、開口部101が密封される。
【0004】
自動車の車輪用軸受けの軸方向外側端に形成される開口部101内には不図示のエンコーダやセンサー等の部材が配備されるのが一般的である。このため、図11(a)図示のように開口部101がハブキャップ100で密封されている状態で軸方向内側に向かう外力がハブキャップ100に加えられ、これによりハブキャップ100が軸方向内側に向って(図11中、右側から左側に向かって)押し込められると、ハブキャップ100が内部に配備されている部材に接触するおそれがある。
【0005】
図11(a)、(b)図示の従来のハブキャップ100では、円筒状部105に折り曲げ部106を形成し、これを径方向外側部材102の軸方向外側端面107に当接させることによってハブキャップ100の前述した押し込みを防止できるようになっていた。
【0006】
また、特許文献2に記載されているハブキャップ108では、径方向外側部材102に径方向に延びる当接面110が形成されていて、ハブキャップ108が径方向外側部材102に嵌着されて開口部101が密封された際に、円筒状部105の先端(軸受けの軸方向内側端)109が当接面110に当接する構造が示されている(図11(c))。
【0007】
この他に、特許文献3〜6にも、自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材に嵌着されて当該開口部を密封するキャップの嵌合構造が示されている。これは、キャップを軸方向内側に向けて前記外径側部材に圧入した後、キャップの円筒状部先端側(軸方向内側)をカシメ等によって塑性変形させ前記外径側部材に形成されている溝条に固定するものである。あるいは、外径側部材に装着するキャップの円筒状部に形成した係止突起を外径側部材に形成されている係止溝に係合しするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭62−108002号公報
【特許文献2】特開2003−65348号公報
【特許文献3】特開2006−177897号公報
【特許文献4】特開2004−211841号公報
【特許文献5】特開2009−228818号公報
【特許文献6】特開2008−196553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
軸受けの開口部がハブキャップで密封されている状態で軸方向内側に向かう外力がハブキャップに加えられた場合であってもハブキャップが軸方向内側に向って押し込められないようにする前記従来の提案は、ハブキャップの円筒状部に折り曲げ部を形成するものでは、製造が容易でなく、製造コスト上の問題があった。また、ハブキャップの円筒状部の先端を径方向外側部材に形成されている当接面に当接させる構造では、ハブキャップの円筒状部の長さ、径方向外側部材に当接面が形成される位置などを精度よくする必要があり、ここでも、製造上、製造コスト上の問題があった。
【0010】
また、特許文献3〜6に示されているものは、ハブキャップの押し込み防止を目的にするものではなく、加工が難しい、キャップを外径側部材に圧入することが容易でない、キャップと外径側部材との間の嵌合部に傷がつく、等の問題があった。
【0011】
この発明は、自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材にハブキャップが嵌着されて当該開口部が密封された後、当該ハブキャップに対して軸方向内側に向かう外力が加えられた場合であっても、ハブキャップが軸方向内側に向って押し込められることを効果的に防止できる自動車用ハブキャップを提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1記載の発明は、
自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材に嵌着されて当該開口部を密封するキャップであって、
円板状部と、円板状部の周縁から前記軸受けの軸方向内側に向かって延びて前記外径側部材に嵌合される円筒状部とからなり、
前記円筒状部の先端縁の近傍の所定の位置から当該先端縁に向かう部分が、前記円筒状部の当該先端縁の近傍の所定の位置から前記円板状部に向かう部分よりも肉薄の肉薄部に形成されている
ことを特徴とする自動車用ハブキャップである。
【0013】
請求項2記載の発明は、
前記肉薄部は、前記円筒状部の周方向に所定の間隔をあけた位置に形成されていることを特徴とする請求項1記載の自動車用ハブキャップである。
【0014】
請求項3記載の発明は、
自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材に嵌着されて当該開口部を密封するキャップであって、
円板状部と、円板状部の周縁から前記軸受けの軸方向内側に向かって延びて前記外径側部材に嵌合される円筒状部とからなり、
前記円筒状部の先端縁の近傍の所定の位置における前記円板状部の外周壁、あるいは内周壁に周方向に延びる溝条が形成されている
ことを特徴とする自動車用ハブキャップである。
【0015】
請求項4記載の発明は、
前記溝条は、前記円筒状部の周方向に所定の間隔をあけた位置に形成されていることを特徴とする請求項3記載の自動車用ハブキャップである。
【0016】
請求項5記載の発明は、
自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材に嵌着されて当該開口部を密封する自動車用ハブキャップと、前記径方向外側部材との嵌合構造であって、
前記径方向外側部材は、
前記軸方向外側の端部側に外周径が前記径方向外側部材の他の部分における外周径より小さい部分を備えており、当該軸方向外側の端部側の外周径が小さい部分と、他の部分との間に径方向に延びる外径側当接面が形成され、あるいは、
前記軸方向外側の端部側に内周径が前記径方向外側部材の他の部分における内周径より大きい部分を備えており、当該軸方向外側の端部側の外周径が大きい部分と、他の部分との間に径方向に延びる内径側当接面が形成され、
請求項1〜4のいずれか一項記載の自動車用ハブキャップが、前記径方向外側部材に対して軸方向内側に向かって圧入された際に、前記自動車用ハブキャップの円筒状部の先端が前記外径側当接面あるいは内径側当接面に当接した後、前記円筒状部の先端縁の近傍の所定の位置から前記先端縁に向かう部分が、前記円筒状部の先端縁の近傍の所定の位置から、径方向外側に向かって、あるいは径方向内側に向かって塑性変形する
ことを特徴とする車輪用軸受け端開口部の嵌合構造である。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材にハブキャップが嵌着されて当該開口部が密封された後、当該ハブキャップに対して軸方向内側に向かう外力が加えられた場合であっても、ハブキャップが軸方向内側に向って押し込められることを効果的に防止できる自動車用ハブキャップおよび、車輪用軸受け端開口部の嵌合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願の自動車用ハブキャップの一例を表わす図であって、(a)は、ハブキャップが車輪用軸受けの径方向外側部材に嵌着される前の状態を表わす一部を省略した断面図、(b)は、図1(a)図示の本発明の自動車用ハブキャップが径方向外側部材に嵌着された状態を表わす一部を省略した断面図、(c)は、径方向外側部材の内周面の構造が異なる場合の嵌着状態を表わす一部を省略した断面図。
【図2】図1図示の実施形態の変更例を表わす図であって、(a)は、ハブキャップが車輪用軸受けの径方向外側部材に嵌着される前の状態を表わす一部を省略した断面図、(b)は、図2(a)図示の本発明の自動車用ハブキャップが径方向外側部材に嵌着された状態を表わす一部を省略した断面図、(c)は、径方向外側部材の外周面の構造が異なる場合の嵌着状態を表わす一部を省略した断面図。
【図3】本願の自動車用ハブキャップの他の例を表わす図であって、(a)は、ハブキャップが車輪用軸受けの径方向外側部材に嵌着される前の状態を表わす一部を省略した断面図、(b)は、図3(a)図示の本発明の自動車用ハブキャップが径方向外側部材に嵌着された状態を表わす一部を省略した断面図、(c)は、径方向外側部材の内周面の構造が異なる場合の嵌着状態を表わす一部を省略した断面図。
【図4】図3図示の実施形態の変更例を表わす図であって、(a)は、ハブキャップが車輪用軸受けの径方向外側部材に嵌着される前の状態を表わす一部を省略した断面図、(b)は、図3(a)図示の本発明の自動車用ハブキャップが径方向外側部材に嵌着された状態を表わす一部を省略した断面図、(c)は、径方向外側部材の外周面の構造が異なる場合の嵌着状態を表わす一部を省略した断面図。
【図5】(a)、(b)は、それぞれ本発明の自動車用ハブキャップの更に他の例を表わす一部を省略した断面図。
【図6】互いに対向していて、転動体を介して相対回転する径方向外側部材と径方向内側部材とを備えている自動車の車輪用軸受けにおける径方向外側部材に対して本発明の自動車用ハブキャップが嵌合され、軸受けの軸方向外側端に形成される開口部が密封されている状態の一例を説明する一部を省略した断面図。
【図7】(a)は、図2図示の本発明の自動車用ハブキャップの外観の一例を表す図、(b)は、図4図示の本発明の自動車用ハブキャップの外観の一例を表す図。
【図8】本発明の自動車用ハブキャップが径方向外側部材に嵌着された他の状態を表わす図であって、(a)は、ハブキャップが車輪用軸受けの径方向外側部材に嵌着される前の状態を表わす一部を省略した断面図、(b)は、図1(a)図示の本発明の自動車用ハブキャップが径方向外側部材に嵌着された状態を表わす一部を省略した断面図。
【図9】本願の自動車用ハブキャップの更に他の例を表わす図であって、(a)は、ハブキャップが車輪用軸受けの径方向外側部材に嵌着される前の状態を表わす一部を省略した断面図、(b)は、図9(a)図示の本発明の自動車用ハブキャップが径方向外側部材に嵌着された状態を表わす一部を省略した断面図、(c)は、図9(a)図示の実施形態の変更例を表わす図であって、ハブキャップが車輪用軸受けの径方向外側部材に嵌着される前の状態を表わす一部を省略した断面図、(d)は、図9(c)図示の本発明の自動車用ハブキャップが径方向外側部材に嵌着された状態を表わす一部を省略した断面図、(e)は、図9(c)、(d)図示の本発明の自動車用ハブキャップの外観の一例を表す図。
【図10】(a)〜(f)は、図9(a)〜(d)図示の発明の自動車用ハブキャップの更に他の例を表わす一部を省略した断面図。
【図11】(a)は、従来の自動車用ハブキャップの嵌合構造の一例を説明する一部を省略した断面図、(b)は、ハブキャップの押し込みを防止する構造の従来例の一例を説明する一部を省略した拡大断面図、(c)は、ハブキャップの押し込みを防止する構造の従来例の他の例を説明する一部を省略した拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、図11を用いて説明した従来の自動車用ハブキャップ100及び、車輪用軸受け端開口部の嵌合構造と共通している箇所には図11と共通の符号をつけてその説明を省略することがある。
【0020】
自動車の車輪用軸受け111の軸方向外側端(図1〜図4及び、図6中、右側端)に、軸受け111の径方向外側部材102によって開口部101が形成されている。本発明の自動車用ハブキャップ1(以下、「キャップ1」と表すことがある)は、この径方向外側部材102に嵌着されて開口部101を密封するものである。
【0021】
キャップ1は、円板状部2と、円板状部の周縁から軸受け111の軸方向内側(図1(a)中、左側方向)に向かって延びて外径側部材102に嵌合される円筒状部3とを備えている。
【0022】
キャップ1は、金属製(例えば、金属製、アルミニウム製)であって、プレス加工、切削加工等によって製造することができる。キャップ1は、磁性体であっても、非磁性体であってもよい。
【0023】
キャップ1は、符号5で示す円筒状部3の先端縁4の近傍の所定の位置から先端縁4に向かう部分6が、符号7で示す円筒状部3の他の部分よりも肉薄の肉薄部に形成されている。符号7で示す円筒状部3の他の部分は、符号5で示す前記所定の位置から円板状部2に向かう部分である。
【0024】
肉薄部6は、図1(a)に示すように、円筒状部3の先端縁4側の内周径が、円筒状部3の符号7で示す部分の内周径より大きくなるようにして形成することができる。あるいは、肉薄部6は、図2(a)に示すように、円筒状部3の先端縁4側の外周径が、円筒状部3の符号7で示す部分の外周径より小さくなるようにして形成することができる。
【0025】
径方向外側部材102の軸方向外側の端部側の構造としては、図1(a)、あるいは図2(a)図示の構造が採用され得る。図1(a)図示の構造は、径方向外側部材102の軸方向外側の端部側に内径側当接面102cが形成されているものである。図2(a)図示の構造は、径方向外側部材102の軸方向外側の端部側に外径側当接面102fが形成されているものである。
【0026】
例えば、図に一例を示したように、図1(a)では、符号102aで示す部分が、符号102bで示す部分(すなわち、径方向外側部材102の軸方向外側の端部側における符号102aで示す部分の他の部分)より内周径が大きい構造になっている。そして、符号102aで示す部分と、符号102bで示す部分との間に、径方向に延びる内径側当接面102cが形成されている。また、図2(a)では、符号102dで示す部分が、符号102eで示す部分(すなわち、径方向外側部材102の軸方向外側の端部側における符号102dで示す部分の他の部分)より外周径が小さい構造になっている。そして、符号102dで示す部分と、符号102eで示す部分との間に径方向に延びる外径側当接面102fが形成されている。
【0027】
径方向外側部材102の軸方向外側の端部側の構造が図1(a)の状態であるときには、図1(a)に示す構造のキャップ1が嵌合される(図1(b)、(c))。径方向外側部材102の軸方向外側の端部側の構造が図2(a)の状態であるときには、図2(a)に示す構造のキャップ1が嵌合される(図2(b)、(c))。
【0028】
図1(a)〜(c)を用いて本発明の車輪用軸受け端開口部の嵌合構造の一例を説明する。
【0029】
キャップ1を用いて開口部101を密封するべく、キャップ1を径方向外側部材102に矢印20で示すように圧入すると、円筒状部3の先端縁4が径方向外側部材102の内径側当接面102cに当接する。そして、符号5で示す円筒状部3の先端縁4の近傍の所定の位置から先端縁4に向かう部分は肉薄部6になっているため、キャップ1の円筒状部3は図1(b)図示のように、符号5で示す部分から折れ曲がる。そして、図1(b)図示のように、内径側当接面102cに突き当たった状態になって嵌合状態となり、開口部101が密封される。
【0030】
この結果、図1(b)図示の状態となった後に、キャップ1に対して軸方向内側に向かう外力が矢印20で示すように加えられた場合であっても、キャップ1が軸方向内側に向って押し込められることは無くなる。
【0031】
すなわち、本発明の自動車用ハブキャップ1によれば、開口部101を密封すべくキャップ1を圧入すれば、キャップ1の円筒状部3の先端側(軸受け111の軸方向内側)が塑性変形する。そして、その後、キャップ1に対して軸方向内側に向かう外力が矢印20で示すように加えられた場合であっても、前記の塑性変形した部分における軸受け111の軸方向内側端が内径側当接面102cに突き当たり、キャップ1が軸方向内側に向って押し込められることは無い。
【0032】
図1(c)は、径方向外側部材102の内径側当接面102cに近接する内周面に窪み部102gが形成されている例を説明したものである。その他は、図1(b)図示の実施例と同一であるので説明を省略する。
【0033】
図2(a)〜(c)は、内径側当接面102cに替わって外径側当接面102fが径方向外側部材102に備えられていて、図2(a)に図示したキャップ1が嵌合される場合の一例を説明するもので、その他は、図1(a)〜(c)図示の実施例と同一であるので説明を省略する。
【0034】
前述したように、本発明による車輪用軸受け端開口部101の嵌合構造では、キャップ1を構成する円筒状部3の先端側(軸受け111の軸方向内側)が折れ曲がり易い形状、構造に形成されている。この結果、キャップ1が軸受け111の径方向外側部材102に対して軸方向内側に向かって圧入された際に、キャップ1の円筒状部3の先端が径方向外側部材102に形成されている外径側当接面102f、あるいは内径側当接面102cに当接した後、円筒状部3の先端縁4の近傍の所定の位置5から先端縁4に向かう部分が、円筒状部3の先端縁の近傍の所定の位置5から、径方向外側に向かって塑性変形する(図2(b)、(c)、あるいは径方向内側に向かって塑性変形する(図1(b)、(c)。
【0035】
図1、図2では、キャップ1を構成する円筒状部3の先端側が折れ曲がり易い形状、構造に形成されている例として、肉薄部6が形成されている例を説明したが、本発明はこのような構造に限られない。キャップ1が軸受け111の径方向外側部材102に対して軸方向内側に向かって圧入された際に、キャップ1の円筒状部3の先端が径方向外側部材102に形成されている外径側当接面102f、あるいは内径側当接面102cに当接した後、円筒状部3の先端縁4の近傍の所定の位置5から先端縁4に向かう部分が、円筒状部3の先端縁の近傍の所定の位置5から、径方向外側に向かって塑性変形する、あるいは径方向内側に向かって塑性変形することを可能にするものであれば、種々の形態が採用され得る。
【0036】
図3、図4図示の実施形態は、この一例として、円筒状部3の先端縁4の近傍の所定の位置5における円板状部3の外周壁(図4)、あるいは内周壁(図3)に周方向に延びる溝条10が形成されているものである。
【0037】
溝条10が形成されていることにより、キャップ1が軸受け111の径方向外側部材102に対して軸方向内側に向かって圧入された際、キャップ1の円筒状部3の先端が径方向外側部材102に形成されている外径側当接面102f、あるいは内径側当接面102cに当接した後、円筒状部3の先端縁4の近傍の所定の位置5から先端縁4に向かう部分が、円筒状部3の先端縁の近傍の所定の位置5(すなわち、溝条10が形成されている位置)から、径方向外側に向かって塑性変形する(図4(b)、(c))、あるいは径方向内側に向かって塑性変形する(図3(b)、(c)。
【0038】
図3、図4の実施形態におけるその他の事項に関しては、円筒状部3における溝条10が形成されている位置から先端縁4に向かう部分を符号6aで示し、溝条10が形成されている位置から円板状部2に向かう部分を符号7aで示している他は、図1、図2を用いて説明した前記実施例と同一であるので、その説明を省略する。
【0039】
なお、前述した肉薄部6、あるいは溝条10は円筒状部3の全周に渡って形成する必要は無い。すなわち、キャップ1が軸受け111の径方向外側部材102に対して軸方向内側に向かって圧入された際に、キャップ1の円筒状部3の先端が径方向外側部材102に形成されている外径側当接面102f、あるいは内径側当接面102cに当接した後、円筒状部3の先端縁4の近傍の所定の位置5から先端縁4に向かう部分が、円筒状部3の先端縁の近傍の所定の位置5から、径方向外側に向かって塑性変形する、あるいは径方向内側に向かって塑性変形することを可能にするものであれば、前述した肉薄部6、あるいは溝条10は円筒状部3の周壁において、所定の間隔をあけた位置に形成するものでもよい。
【0040】
図7(a)、(b)は、それぞれ、図2、図4図示の本発明の自動車用ハブキャップ1の外観の一例を表す図である。図7(a)図示のように、隣接する肉薄部6、6の間に切り欠き部11を形成することにより肉薄部6を円筒状部3の周壁において所定の間隔をあけた位置に形成することができる。また、図7(b)図示のように、隣接する溝条10、10の間の部分12は円筒状部3の他の部分と同一の肉厚にしておくことも可能である。
【0041】
また、図1、図2図示の実施形態と、図3、図4図示の実施形態とを組み合わせることによって、円筒状部3の先端側(軸受け111の軸方向内側)を折れ曲がり易い形状、構造にする事もできる。図5(a)、(b)は、図1、図2図示の実施形態と、図3、図4図示の実施形態とを組み合わせたものである。
【0042】
円筒状部3の先端縁4の近傍の所定の位置5における円板状部3の内周壁(図5(a)、あるいは外周壁(図5(b))に周方向に延びる溝条10が形成されていると共に、溝条10が形成されている位置5より先端縁4側が肉薄部6に形成されている。
【0043】
図5(a)、(b)図示のようにすれば、キャップ1が軸受け111の径方向外側部材102に対して軸方向内側に向かって圧入された際、キャップ1の円筒状部3の先端の塑性変形がより容易になる。
【0044】
図6は、互いに対向していて、転動体112を介して相対回転する径方向外側部材102と径方向内側部材113とを備えている自動車の車輪用軸受け111における径方向外側部材102に対して本発明の自動車用ハブキャップ1が嵌合され、軸受けの軸方向外側端に形成される開口部101が密封されている状態の一例を説明する一部を省略した断面図である。自動車用ハブキャップ1の円板状部3の先端側の構造には、図5(a)に図示した構造が採用されている。
【0045】
キャップ1を軸方向内側(図6中、左側)に向けて圧入した際、円筒状部3の先端側に形成されている肉薄部6が、溝条10が形成されている箇所から塑性変形し、それ以上、キャップ1は押し込まれなくなる。
【0046】
このため、図6図示のように径方向外側部材102にキャップ1が嵌合され、開口部101が密封された後に、キャップ1に対して軸方向内側(図6中、左側)に向かう外力が加えられた場合であっても、キャップ1が軸方向内側に向って押し込められることは無い。
【0047】
図6図示の実施形態では、径方向内側部材113の軸方向外側端の径方向外側面に環状の芯金114に取り付けられており、芯金114のフランジ部の軸方向外側面にエンコーダ115が配備されている。キャップ1に対して軸方向内側(図6中、左側)に向かう外力が加えられたときに、キャップ1が軸方向内側に押し込められてしまうと、エンコーダ115に接触するおそれがあるが、本発明によればそのような状態が生じることを未然に防止できる。
【0048】
図8は、本発明の自動車用ハブキャップが径方向外側部材に嵌着された他の状態を表わす図である。径方向外側部材102がその内周面に図1(c)、図3(c)に図示されているものと同様の構造を備えており、径方向外側部材102の内径側当接面102cに近接する内周面に窪み部102gが形成されている。嵌着されるキャップ1の円筒状部3の先端側は図5(b)に図示したもので説明している。
【0049】
キャップ1が軸受け111の径方向外側部材102に対して軸方向内側に向かって圧入された際、キャップ1の円筒状部3の先端が径方向外側部材102に形成されている内径側当接面102cに当接した後、円筒状部3の先端縁4の近傍の所定の位置5から先端縁4に向かう部分が、円筒状部3の先端縁の近傍の所定の位置5(すなわち、溝条10が形成されている位置)から、径方向外側に向かって塑性変形し、窪み部102g内に折れ曲がり、この塑性変形した部分における軸受け111の軸方向内側端が内径側当接面102cに突き当たる。
【0050】
この結果、キャップ1が径方向外側部材102に嵌着され、開口部101が密封された後、キャップ1に対して軸方向内側(図8中、左側)に向かう外力が加えられたときに、キャップ1が軸方向内側に押し込められなくなるだけでなく、キャップ1が軸受け111の軸方向外側に向かう動きも抑制することができる。すなわち、円筒状部3の先端が、径方向外側部材102の内径側当接面102cに近接する内周面に形成されている窪み部102g内に折れ曲がって侵入していることにより、キャップ1が軸受け111の軸方向外側に向かう動きが抑制される。
【0051】
なお、図8図示の実施形態では、キャップ1の円筒状部3の先端側が図5(b)に図示した構造になっている場合で説明したが、図2、図4図示の構造のものでも、径方向外側部材102の内周面が図1(c)、図3(c)に図示されている構造であるときには、キャップ1の圧入による嵌着後、キャップ1が軸方向内側及び、軸方向外側の両方向に向かう動きを効果的に抑制し、キャップ1を固定できる。
【0052】
図9、図10は、本発明の他の実施形態を説明するものである。前述した実施形態における円筒状部3の先端縁4の近傍の所定の位置5から先端縁4に向かう部分が、円板状部2の径方向内側に向かって縮径するように(図9(a)、(b))、あるいは径方向外側に向かって拡径するように(図9(c)、(d))、折れ曲がり部に形成されているものである。図9(e)は、図9(c)、(d)の実施形態における図7(a)、(b)に対応する図である。
【0053】
図9(a)〜(d)図示の実施形態においても、図1、2図示の実施形態(肉薄部を形成する)、図3、4図示の実施形態(溝条10を形成する)を組み合わせた形態にすることができる。図10(a)は図9(a)、(b)図示の実施形態に図1図示の実施形態(肉薄部を形成する)を組み合わせたものである。図10(b)は図9(a)、(b)図示の実施形態に図3図示の実施形態(溝条10を形成する)を組み合わせたものである。図10(c)は図9(a)、(b)図示の実施形態に図5(a)図示の実施形態(肉薄部と溝条10を形成する)を組み合わせたものである。図10(d)は図9(c)、(d)図示の実施形態に図2図示の実施形態(肉薄部を形成する)を組み合わせたものである。図10(e)は図9(c)、(d)図示の実施形態に図4図示の実施形態(溝条10を形成する)を組み合わせたものである。図10(f)は図9(c)、(d)図示の実施形態に図5(b)図示の実施形態(肉薄部と溝条10を形成する)を組み合わせたものである。
【0054】
以上、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 自動車用ハブキャップ
2 円板状部
3 円筒状部
4 円筒状部の先端縁
5 円筒状部の先端縁の近傍の所定の位置
6 肉薄部
7 円筒状部の肉薄部以外の部分
10 溝条
11 切り欠き部
102c 内径側当接面
102f 外径側当接面
100 自動車用ハブキャップ
111 軸受け
102 径方向外側部材
101 開口部
104 円板状部
105 円筒状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材に嵌着されて当該開口部を密封するキャップであって、
円板状部と、円板状部の周縁から前記軸受けの軸方向内側に向かって延びて前記外径側部材に嵌合される円筒状部とからなり、
前記円筒状部の先端縁の近傍の所定の位置から当該先端縁に向かう部分が、前記円筒状部の当該先端縁の近傍の所定の位置から前記円板状部に向かう部分よりも肉薄の肉薄部に形成されている
ことを特徴とする自動車用ハブキャップ。
【請求項2】
前記肉薄部は、前記円筒状部の周方向に所定の間隔をあけた位置に形成されていることを特徴とする請求項1記載の自動車用ハブキャップ。
【請求項3】
自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材に嵌着されて当該開口部を密封するキャップであって、
円板状部と、円板状部の周縁から前記軸受けの軸方向内側に向かって延びて前記外径側部材に嵌合される円筒状部とからなり、
前記円筒状部の先端縁の近傍の所定の位置における前記円板状部の外周壁、あるいは内周壁に周方向に延びる溝条が形成されている
ことを特徴とする自動車用ハブキャップ。
【請求項4】
前記溝条は、前記円筒状部の周方向に所定の間隔をあけた位置に形成されていることを特徴とする請求項3記載の自動車用ハブキャップ。
【請求項5】
自動車の車輪用軸受けにおいて当該軸受けの軸方向外側端に開口部を形成する当該軸受けの径方向外側部材に嵌着されて当該開口部を密封する自動車用ハブキャップと、前記径方向外側部材との嵌合構造であって、
前記径方向外側部材は、
前記軸方向外側の端部側に外周径が前記径方向外側部材の他の部分における外周径より小さい部分を備えており、当該軸方向外側の端部側の外周径が小さい部分と、他の部分との間に径方向に延びる外径側当接面が形成され、あるいは、
前記軸方向外側の端部側に内周径が前記径方向外側部材の他の部分における内周径より大きい部分を備えており、当該軸方向外側の端部側の外周径が大きい部分と、他の部分との間に径方向に延びる内径側当接面が形成され、
請求項1〜4のいずれか一項記載の自動車用ハブキャップが、前記径方向外側部材に対して軸方向内側に向かって圧入された際に、前記自動車用ハブキャップの円筒状部の先端が前記外径側当接面あるいは内径側当接面に当接した後、前記円筒状部の先端縁の近傍の所定の位置から前記先端縁に向かう部分が、前記円筒状部の先端縁の近傍の所定の位置から、径方向外側に向かって、あるいは径方向内側に向かって塑性変形する
ことを特徴とする車輪用軸受け端開口部の嵌合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−102100(P2011−102100A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258263(P2009−258263)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)