説明

自動車用冷却ファンの凍結ロック防止構造

【課題】 シュラウドリング部の下部に高温な流通媒体が流通する通過部を配置して、ファンロックを防止するファンシュラウドを提供する。
【解決手段】 ファン2が収容された筒状のシュラウドリング部9を有するファンシュラウド3において、シュラウドリング部9の下部に接して高温な流通媒体が流通する通過部(ホース10、ホース27)を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用冷却ファンの凍結ロック防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ファンが収容された筒状のシュラウドリング部を有するファンシュラウドの技術が公知になっている(特許文献1、2参照)。
このようなファンシュラウドでは、音振性能の向上やエンジン熱気の吹き返し防止を目的としてファン本体の外周部とシュラウドリング部の内周部との隙間を小さく設定すると、シュラウドリング部の下部内側に雪、凍結防止材、雨水等の水分が残留・凍結してファンロックが生じ、ファンの破損やヒューズ切れを引き起こす。
そこで、シュラウドリング部の下部内側に多孔質部材を設けることにより、ファンの音振性能を損なうことなく、ファンロックを防止することが提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2006−90243号公報
【特許文献2】特開2007−40110号公報
【特許文献3】特開2007−177625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の発明にあっては、多孔質部材をシュラウドリング部と予め別体で形成して設ける必要があるため、部品点数が増えてコストアップするという問題点があった。
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、シュラウドリング部の下部に高温な流通媒体が流通する通過部を配置して、エンジン始動による熱を利用して凍結水分を溶解してファンロックを防止するファンシュラウドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明では、ファンが収容された筒状のシュラウドリング部を有するファンシュラウドにおいて、前記シュラウドリング部の下部に接して高温な流通媒体が流通する通過部を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明では、ファンが収容された筒状のシュラウドリング部を有するファンシュラウドにおいて、シュラウドリング部の下部に接して高温な流通媒体が流通する通過部を配置しているので、シュラウドリング部の下部に高温な流通媒体が流通し、ファンロックを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
以下、実施例1を説明する。
図1は実施例1に係るファンシュラウドの正面図、図2は図1におけるS1−S1断面図、図3は実施例1に係るファンシュラウドの左側から見た斜視図、図4は実施例1に係るファンシュラウドの左下側から見た斜視図ある。
【0009】
先ず、全体構成を説明する。
図1〜4に示すように、実施例1の自動車用冷却ファンの凍結ロック防止構造では、ラジエータ1と、このラジエータ1の車両後方に配置されるファン2と、このファン2が装着されたファンシュラウド3とが備えられている。
【0010】
ラジエータ1は、上下一対の樹脂製のタンク4,5と、これら両タンク4,5の間に配置されたアルミ製のコア部6とから構成されている。
また、タンク4の後面の一端側には該タンク4内部と連通した状態で後方へ円筒状に突出した入力パイプP1が形成され、タンク5の後面には他端側には該タンク5内部と連通した状態で後方へ円筒状に突出した出力パイプP2が形成されている。
【0011】
ファンシュラウド3は、前方へ開口した略矩形状に形成される他、その中央壁にはファン開口部8を有して車両後方側へ突出した筒状のシュラウドリング部9が形成され、そのシュラウドリング部9の下側には出力パイプP2に接続されたホース10の一部(請求項の通過部に相当)が配設されている。
【0012】
ファン2は、ファン本体11とモータ12とから構成されている。
ファン本体11は、略鍋状のボス部13と、このボス部13の外周から外側へ突出形成された複数(実施例1では6つ)のブレード14と、各ブレード14の先端部同士を繋ぐ筒状のファンリング部7を有して樹脂で一体的に形成される所謂リングファンが採用されている。
また、ファンリング部7の外周部前方側には、外側へ突出する鍔状のスカート部15が形成されている。
なお、ブレード14の形状、形成数、形成位置、スカート部15の有無等については適宜設定できる。
【0013】
モータ12は、略円柱状に形成される他、その内部に配置された図示を省略する電装部品によって回転軸16がその軸周りに回転可能に設けられている。
また、回転軸16の先端には、前述したボス部13にインサート成形されたリング状の座部17がナット18等の締結手段で固定され、これによって、モータ12とファン本体11とが連結されている。
さらに、モータ12の外周部には、等角度間隔に三方向へ突出したブラケット19が設けられ、各ブラケット19はボルト等を介して固定されている。
【0014】
ファンシュラウド3は、車両前方側に開口された略箱状に樹脂製で一体的に形成され、シュラウドリング部9の外周部とファン固定部20の外周部を結合するように複数(実施例1では6つ)のファンステイ21a〜21fが等角度間隔で形成されている。
さらに、シュラウドリング部9とファンリング部7との隙間は極力小さくなるように形成されている。
【0015】
なお、実施例1では、ファンシュラウド3の後面とファンリング部7のスカート部15とが面一状態で配置される他、シュラウドリング部3にはスカート部15との接触を回避するための段部22が形成されているが、この限りではない。
【0016】
シュラウドリング部9の下側には、係止片23がファンシュラウド3から水平に突出し、係止片23とシュラウドリング部9の下側との間に前述したホース10の一部が挟まれ、これにより、ホース10がシュラウドリング部9に当接している。
具体的には、係止片23は、ファンシュラウド3と一体的に後方へ突出形成され、その先端部分には爪部24が上方に突起し、その先端が鉤状に形成されている。
そして、係止片23は、シュラウドリング部9との間にホース10の可撓性を利用してホース10を弾力保持し、爪部24がホース10の離脱を防止する構成となっている。
なお、実施例1のホース10は、出力パイプP2から上方に屈曲して水平な部分でシュラウドリング部9の下側と係止片23に挟持された後、後方へ屈曲しているが、この限りではない。
【0017】
次に、作用を説明する。
<ファン及びラジエータの作動について>
ファンシュラウド3は、車両のエンジンルーム前部に配置されたラジエータ1のコア部6の後面を覆う状態で車両に搭載される。
そして、ファン2のモータ12が駆動してファン本体11が回転することにより、強制風を発生させて、ラジエータ1のコア部6を冷却し、ファンとして機能する。
ラジエータ1は、エンジン側の接続管から入力パイプP1を介してタンク4内に流入した110℃前後の高温の流通媒体がコア部6のチューブとフィンの隙間を通過する車両走行風またはファン2による強制風と熱交換されて80℃前後まで冷却された後、タンク5内に流入して出力パイプP2及びホース10を介してエンジン側へ排出される。
この際、ホース10内に80℃前後の高温の冷却液が通過することとなる。
【0018】
<ファンロック防止について>
車両走行中において、ファン2付近に付着した雨水、雪、凍結防止剤等の水分は、ファン2の各部やシュラウドリング部9の内側を伝って流下する。
具体的には、図5(a)、(b)に示すように、ファンシュラウド3にはシュラウドリング部8の内側とファンリング部7によって形成される隙間25が全周に亘って均一に形成されており、この隙間25に流れた水26は流下してシュラウドリング部9の底部に貯留する(図5(c)参照)。
ここで、従来の発明にあっては、シュラウドリング部9の底部に貯留した水26が凍結してファンロックが発生する虞があった。
これに対し、実施例1では、ラジエータ1の高温な流通媒体が通過するホース10がシュラウドリング部9の下側に接するように配置されているので、ホース10からシュラウドリング部9に熱を伝達させて、シュラウドリング部9の周辺部位を暖めることができ、これによって、水26の凍結を防止してファンロックを防止できる。
【0019】
また、エンジン停止直後もホース10内の流通媒体が熱を帯びている間は、水26の凍結を防止できる。
【0020】
次に、効果を説明する。
以上説明したように、ファン2が収容された筒状のシュラウドリング部9を有するファンシュラウド3において、シュラウドリング部9の下部に接して高温な流通媒体が流通する通過部を配置しているので、シュラウドリング部9の下部に高温な流通媒体が流通し、ファンロックを防止することができる。
【実施例2】
【0021】
以下、実施例2を説明する。
実施例2において、実施例1と同一の構成部材については同一の符号を付してその説明は省略し、相違点を詳述する。
図6は実施例2に係るファンシュラウドの左側から見た斜視図、図7は実施例2に係るファンシュラウドの正面図である。
実施例2では、エンジン冷間時に、エンジンから排出された流通媒体をサーモスタットによる流路切換によりラジエータ1を回避してエンジンへ直接戻すバイパス通路の一部をシュラウドリング部9の下側に配置した構成である。
【0022】
なお、図6、7に示すように、バイパス通路を形成するホース27の一部をシュラウドリング部9の下側に配置する方法としては、実施例1と同様に係止片23とシュラウドリング部9の間に挟み込むことにより行う。
従って、実施例2では、実施例1と同様の作用・効果を得られることに加え、ラジエータ1の作動・停止に関わらず、エンジン稼働時にはホース27に常にエンジンを循環する高温な流通媒体が流れるため、ファンロックを防止できる。
また、エンジン始動前に水26が凍結している場合でも速やかに凍結を溶解でき、ファンを回転させることが可能である。
【0023】
以上、実施例を説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、実施例では、上下に配置されたタンク4,5の間にコア部6が配置された所謂ダウンフロー型のラジエータを採用したが、左右に配置されたタンク4,5の間にコア部6が配置された所謂パラレルフロー型のラジエータを採用しても良い。
また、入力ポートP1に接続されるホースの一部をシュラウドリング部9の下側に配設することもできる。
また、シュラウドリング部9の下側にオイルクーラのホースの一部を配設して、流通媒体をオイルクーラの流通媒体で代用しても良い。
また、シュラウドリング部9の下側に流通媒体の通過部を一体樹脂形成し、この通過部にラジエータ1のホース10を接続して流通媒体を導入する構成としても良い。
また、ホース10の配設方法は係止片23によらずに、ホース10自体をシュラウドリング部9下側に押し当てるように付勢配置することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1に係るファンシュラウドの正面図である。
【図2】図1におけるS1−S1断面図である。
【図3】実施例1に係るファンシュラウドの左側から見た斜視図である。
【図4】実施例1に係るファンシュラウドの左下側から見た斜視図である。
【図5】実施例1の作用を示す説明図である。
【図6】実施例2に係るファンシュラウドの左側から見た斜視図である。
【図7】実施例2に係るファンシュラウドの正面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ラジエータ
2 ファン
3 ファンシュラウド
4 タンク
5 タンク
6 コア部
7 ファンリング部
8 ファン開口部
9 シュラウドリング部
10 ホース
11 ファン本体
12 モータ
13 ボス部
14 ブレード
15 スカート部
16 回転軸
17 座部
18 ナット
19 ブラケット
20 ファン固定部
21a〜21f ファンステイ
22 段部
23 係止片
24 爪部
25 隙間
26 水
27 ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファンが収容された筒状のシュラウドリング部を有するファンシュラウドにおいて、
前記シュラウドリング部の下部に接して高温な流通媒体が流通する通過部を配置したことを特徴とする自動車用冷却ファンの凍結ロック防止構造。
【請求項2】
前記流通媒体をオイルクーラの流通媒体としたことを特徴とする請求項1記載の自動車用冷却ファンの凍結ロック防止構造。
【請求項3】
前記流通媒体をラジエータの流通媒体としたことを特徴とする請求項1記載の自動車用冷却ファンの凍結ロック防止構造。
【請求項4】
シュラウドリング部の下部に接して前記流通媒体が流通するホースを配設し、
前記ホースは、シュラウドリング部の下側に突設された係止片とシュラウドリング部の下側との間に挟持される構成とした請求項1〜3のうちのいずれか記載の自動車用冷却ファンの凍結ロック防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−174365(P2009−174365A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12341(P2008−12341)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)