説明

自動車用揮散持続性消臭材料

【課題】従来の自動車の車室内、特にエアーコンディショナーを設置した車室内において使用した場合、長期間にわたり安定した消臭効果を示し、しかもエアーコンディショナー回路に対して何ら悪影響を及ぼすことのない消臭材料を提供する。
【解決手段】フェノール系抗菌性化合物の少なくとも1種を有効成分として含浸させた繊維板からなる自動車用揮散持続性消臭材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車室内、特にエアーコンディショナー設置室内に配置して、エアーコンディショナー回路内から発生する臭気、例えばエバポレータにおける結露に起因する微生物の繁殖による臭気を長期間にわたって揮散して持続的に防止するための消臭材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車室内、特にエアーコンディショナーを設置した車室内では、エアーコンディショナーが稼動中にその回路内から発生する臭気や喫煙により発生する不快臭が充満するのを避けられない。現在では、乗車中、エアーコンディショナーは1年を通して常に稼動しており、外気内気よりフィルター部分に、雑多な埃や煙りが吸収され、蓄積されるため、比較的短期間で著しい臭気の発生をみる傾向がある。
【0003】
このような自動車の車室内の臭気を抑制する消臭剤として、これまで、活性炭、シリカゲルのような吸着性多孔質物からなる消臭材料や、天然又は合成の無機又は有機消臭性物質を支持体に担持させた消臭材料が知られているが、これらの消臭材料は吸着能力に限界があるため、一定期間内は消臭性を示すが、その後は消臭性を失うという欠点がある。
【0004】
このような欠点を改善したものとして、オルトフェニルフェノール、4‐クロロ‐3,5‐ジメチルフェノール、2‐メチル‐3‐クロロフェノール、メチルフェノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、イソプロピルメチルフェノール、8‐キノリノール及び安息香酸ナトリウムの中から選ばれた少なくとも1種の除菌成分を含有する粒状物を通気性包装体に収容した据置き型消臭剤が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
他方、着色剤と防菌、防黴成分からなるペレットと芳香、消臭剤を含むペレットの混合物を通気性包装シートに封入した防菌、防黴剤(特許文献2参照)や、エアーコンディショナー回路内に発生する細菌を抑制し、悪臭を防止するために、第三級カルボキシル基を有する炭素数8以上の脂肪酸のアルカリ金属塩を分散剤として抗菌剤を水性溶媒に分散させ、エアーコンディショナーの回路内に噴霧して固着させる方法(特許文献3参照)、室温で固体の気化性防菌性薬剤、例えばパラクロロメタキシレノールを基材シートに含浸させた防菌性包装材料(特許文献4参照)、常温揮散性を有するフェノール系化合物に、発色剤及び融点が30〜200℃の脂肪族アルコールを溶融混合させた溶融混合物を、有機系多孔質担体に担持させた抗菌製剤(特許文献5参照)が提案されている。
また、モーターや電気系統に悪影響を及ぼすことなく、エアーコンディショナー内に効率よく付着させ、タバコ臭その他の臭気を消失させるための、2‐メチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オン、1,2,3‐ベンズイソチアゾリン‐2‐オン、ベンゾトリアゾール、ダイアシッド(ハリマ化成社製)、セバシン酸などの有機系抗菌剤、有機カルボン酸又はその塩と天然抽出物との混合物からなる消臭剤、防錆剤及び界面活性剤を含有する原液にジメチルエーテルを噴射剤として配合したカーエアコン洗浄剤(特許文献5参照)などが提案されている。
しかしながら、これらの洗浄剤もその消臭作用は一時的又は制限的であり、長期間にわたって持続的に消臭作用を示すことはできない。
【0006】
【特許文献1】特開2002−263178号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開2002−369870号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平3−146063号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開平11−91829号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】特開2004−262898号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献6】特開2003−261900号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の自動車の車室内、特にエアーコンディショナーを設置した車室内において使用した場合、長期間にわたり安定した消臭効果を示し、しかもエアーコンディショナー回路に対して何ら悪影響を及ぼすことのない消臭材料を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、自動車の車室内で用いるための消臭材料を開発するために鋭意研究を重ねた結果、アミンのような悪臭源と結合しやすいヒドロキシル基を有効成分として用い、これを繊維板に含浸させたものが、揮発性及び除放性を有し、長期間にわたって消臭作用を持続して揮発し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、フェノール系抗菌性化合物の少なくとも1種を有効成分として含浸させた繊維板からなる自動車用揮散持続性消臭材料を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自動車内で発生する悪臭、特にエアコンディショナーで繁殖する細菌、黴の腐敗臭に起因する悪臭のみならず、吸入されるタバコ煙、汗、体臭由来の臭気を、長期間にわたって抑制し得る材料が提供される。
また、抗菌性物質を高濃度で含んでいるので、揮散量が多く、単に穴開けホルダーで固定するだけで包装されていないので、揮散が妨げられることなく、長期間にわたって揮散を持続して利用しうるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の消臭材料における有効成分としては、フェノール系抗菌性化合物が用いられる。この化合物は、分子量が200以下と低分子量で揮散性を有し、人体に安全で、エアーコンディショナー回路に対し悪影響を与えない上に、ヒドロキシル基を有するので、悪臭源の1つであるアミンとの結合性を有し、その除去を効果的に行うことができる。このような化合物としては、例えばo‐フェニルフェノール、m‐クレゾール、4‐クロロ‐3,5‐ジメチルフェノール、2‐メチル‐3‐クロロフェノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、イソプロピルメチルフェノール、8‐キノリノールなどを挙げることができる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0012】
次に、この有効成分を含浸させる繊維板としては、紙、パルプ、フェルトなどの板状体が用いられる。この板状体の形状は、方形、円形、長円形、菱形など任意の形状を選ぶことができるが、車室内の任意の場所に容易に配置できるように縦25〜35mm、横15〜25mm、厚さ2〜4mmの長方形状に形成するのが好ましい。
【0013】
この繊維板に対する有効成分の含有割合としては、通常、繊維板の質量に基づき10〜60質量%、好ましくは30〜50質量%の範囲が選ばれる。これよりも少ないと、消臭能力が不十分になるし、これよりも多くなると過剰分が滲出して、物体に接触したときにそれを汚染するおそれがある。また、この含有割合は、多くなるほど消臭効果の持続性は長くなる。
【0014】
本発明の消臭材料には、所望に応じ、悪臭の除去能力を向上させるために吸着性物質を含有させることができる。このような吸着性物質としては、例えば活性炭、黒鉛、カーボンブラック、ゼオライト、ケイ酸ゲルなどがある。
【0015】
これらの吸着性物質の含有量が多すぎると、本発明の消臭材料の性能がそこなわれるので、その含有量は繊維板の質量に基づき50質量%以下、好ましくは30質量%以下にするのがよい。
【0016】
また、本発明の消臭材料には、消臭効果を向上させるために植物抽出エキスを含ませることもできる。このような植物抽出エキスとしては、例えばペパーミントオイル、ティーツリーオイル、ローズマリーオイル、ヒバ油などを挙げることができる。これらの植物抽出エキスの含有割合としては、繊維板の質量に基づき0.01〜2質量%、好ましくは0.05〜1質量%の範囲で選ばれる。
【0017】
本発明の消臭材料は、車室内の任意の場所、助手席の足の位置、エアーコンディショナーの外側や内気吸入口周辺に配置して使用することができる。
【0018】
次に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これによりなんら限定されるものではない。
なお、実施例、比較例における抗菌性及び消臭性は次の方法により評価したものである。
【0019】
(1)抗菌性
本発明の消臭材料(30×20×3mm)をサンプル揮発用開孔容器に収容し、50℃に保った恒温器に保存した。
次いで、上記の抗菌性貼付材料を容器から取り出し、黒麹菌(A.niger)を全面に塗布した培地を入れたシャーレの蓋内側中心部に、両面接着テープで貼付し、25℃において3日間静置した。50℃で所定日数経過後の各消臭材料の効果を黒麹菌の繁殖が阻止された円の大きさを測定し、以下の基準で評価した。
○:50mm以上
△:30mm以上50mm未満
×:30mm未満
【0020】
(2)消臭性
5リットル容デシケータ中に小カップを置き、その中へ1%濃度のアンモニア−エタノール溶液0.1mlを入れた。次いで、(1)で用いたのと同じ消臭材料を所定日数経過後に容器から取り出し、それぞれ小カップの横に並べ、検知管を用いて30分放置後の臭気濃度を測定し、アンモニア臭の消臭率を以下の基準で評価した。この数値が高いほど消臭効果が高いことを意味する。
○:30%以上
△:20%以上30%未満
×:20%未満
【0021】
参考例
4‐クロロ‐3,5‐ジメチルフェノール0.23gを含浸させた、紙繊維からなる繊維板(30×20×3mm)を、空気通過窓(7×7mm)を設けたアルミニウム袋状体(50×50mm)に収納し、50℃に保った条件下で、4‐クロロ‐3,5‐ジメチルフェノールの含有量の経時的変化を測定した。その結果をグラフとして図1に示す。
次に、このグラフに基づいて、質量変化量(y)に対する日数(x)の近似式を求めたところ、
y=−0.0071x−0.02521
となった。
この式に基づいて、4‐クロロ‐3,5‐ジメチルフェノールがすべて揮散する日数を計算したところ288日となった。
このことから、4‐クロロ‐3,5‐ジメチルフェノールを有効成分として含浸させた繊維板は、少なくとも180日間は持続できることが推測できる。
【0022】
実施例
黒麹黴胞子を接種したポテトデキストロース寒天培地を用い、有効成分として2‐メチル‐3‐クロロフェノール、4‐クロロ‐3,5‐ジメチルフェノール又はo‐フェニルフェノールをそれぞれ40質量%含む紙繊維からなる繊維板(30×20×3mm)について、50℃で3日間、7日間、14日間、21日間及び30日間放置した後の各消臭材料の抗菌性及び消臭性を測定した。その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
比較例1
実施例における有効成分の代りに、2‐(4‐チアゾリル)‐ベンズイミダゾール、ジンクビス(2‐ピリジルチオ‐1‐オキシド)又はヘキサデシルピリジニウムクロリドを有効成分として用いる以外は、まったく実施例と同様に50℃で放置したのち、同様にして抗菌性及び消臭性を測定した。その結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
比較例2
2‐メチル‐3‐クロロフェノール、4‐クロロ‐3,5‐ジメチルフェノール又はo‐フェニルフェノールをパラフィンと混合し、全量に基づく含有量が0.1質量%の平均粒径3mmのビーズ状物を製造した。これを通気性布袋に収納し、実施例とほぼ同じ体積で用い、同様にして30日間黒麹黴の阻止状態を測定したが、いずれも30mm未満であり、低い抗菌性を示した。また、消臭性も20%未満であり、本発明の消臭材料より劣ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の消臭材料は、自動車の車室用、特にエアーコンディショナーを設置した室内における消臭材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】参考例における有効成分の含有量(g)の経時変化(日)を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール系抗菌性化合物の少なくとも1種を有効成分として含浸させた繊維板からなる自動車用揮散持続性消臭材料。
【請求項2】
フェノール性抗菌性化合物が、o‐フェニルフェノール、2‐メチル‐3‐クロロフェノール又は4‐クロロ‐3,5‐ジメチルフェノールである請求項1記載の自動車用揮散持続性消臭材料。
【請求項3】
繊維板の質量に基づき10〜60質量%の有効成分が含浸されている請求項1又は2記載の自動車用揮散持続性消臭材料
【請求項4】
繊維板が縦25〜35mm、横15〜25mm、厚さ2〜4mmのサイズを有する長方形である請求項1、2又は3記載の自動車用揮散持続性消臭材料。
【請求項5】
消臭成分として、植物エキスを含む請求項1ないし4のいずれかに記載の自動車用揮散持続性消臭材料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−148736(P2010−148736A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331439(P2008−331439)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000197975)石原薬品株式会社 (83)
【Fターム(参考)】