説明

自動車用窓ガラスの取り外し方法

【課題】軽自動車やワゴン車のリアサイドガラス等の比較的小型の自動車用窓ガラスを、簡単且つ迅速に低コストで取り外すことができる、自動車用窓ガラスの取り外し方法を提供すること。
【解決手段】自動車の内部から車体パネル2のガラス接着部分に沿って帯状ヒーター6を設置し、該帯状ヒーターを発熱させることにより、前記車体パネルのガラス接着部分を加熱して当該部分にある接着剤5を軟化させ、該軟化した接着剤を刃物により切断することにより、ガラス1を車体パネルから取り外すことを特徴とする自動車用窓ガラスの取り外し方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用窓ガラスの取り外し方法に関し、より詳しくは、軽自動車やワゴン車のリアサイドガラス等の比較的小型の自動車用窓ガラスを、簡単且つ迅速に取り外すための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用窓ガラスの取り外し方法に関する公知技術としては、先に本願出願人が考案した下記特許文献1に記載の方法が存在している。
この特許文献1に開示された方法は、フロントガラスやリアガラス等の比較的大きな窓ガラスを取り外す際には、従来の方法に比べて非常に簡単で作業を円滑に行うことができる優れた方法であったが、小型の窓ガラスに適用するには、作業が大掛かりとなるために作業性があまり良くないという欠点を有していた。
【0003】
実際のところ、自動車の車体修理の際には、軽自動車やワゴン車のリアサイドガラス等の比較的小型の窓ガラスの取り外しが必要となる場合が多い。
例えば、軽自動車やワゴン車のリアサイドガラス周辺のクォーターパネルを交換する場合、スポット溶接を剥がす必要があるが、スポット溶接はガラスが貼り付けてある車体の板金部分(車体パネル)に必ず存在するため、スポット溶接を剥がすためにはリアサイドガラスを取り外す必要がある。
【0004】
このように、車体修理においては比較的小型の窓ガラスの取り外しが必要となる場面が多い一方で、特許文献1に開示された方法は、上述した如く小型の窓ガラスに適用するには作業性があまりよくないため、現場において使用されることが少ないのが実状であった。
【0005】
また、特許文献1に開示された方法では、必ずモールをカッターナイフ等で切り取ってから作業をすすめる必要があるため、再度窓ガラスを取り付ける際には、新品のモールを購入しなければならず、その分だけコスト高になるとともに、省資源の観点からも好ましくなかった。
【0006】
自動車用窓ガラスの取り外し方法の他の例としては、遠赤外線ヒーター等によりガラスの外側から熱を加えることにより、ガラスと車体パネルを接着している接着剤を軟化させる方法がある。
しかしながら、この方法では、接着剤を軟化させるために時間がかかり、消費電力が多くなるため、作業効率及びコストの両面で好ましい方法とはいえなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−289582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、軽自動車やワゴン車のリアサイドガラス等の比較的小型の自動車用窓ガラスを、簡単且つ迅速に低コストで取り外すことができる、自動車用窓ガラスの取り外し方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、自動車の内部から車体パネルのガラス接着部分に沿って帯状ヒーターを設置し、該帯状ヒーターを発熱させることにより、前記車体パネルのガラス接着部分を加熱して当該部分にある接着剤を軟化させ、該軟化した接着剤を刃物により切断することにより、ガラスを車体パネルから取り外すことを特徴とする自動車用窓ガラスの取り外し方法に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記帯状ヒーターの設置工程において、該帯状ヒーターの周囲を囲う囲繞部と、前記車体パネルのガラス側の面に係止可能な係止部とが、バネ材により一体に形成された係止具を用意し、前記囲繞部内に帯状ヒーターを収容し、前記係止部を車体パネルのガラス側の面に係止することを特徴とする請求項1記載の自動車用窓ガラスの取り外し方法に関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記帯状ヒーターの設置工程において、該帯状ヒーターの周囲を囲う囲繞部と、前記車体パネルのガラス側の面に係止可能な係止部とが、金属製のバネ材により一体に形成されており、前記囲繞部に対して係止部が傾斜している第二の係止具を用意し、該第二の係止具の囲繞部内に帯状ヒーターを収容し、前記ガラスの角部において、前記係止部を車体パネルのガラス側の面に係止することを特徴とする請求項2記載の自動車用窓ガラスの取り外し方法に関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記刃物による接着剤の切断工程において、持ち手部と、該持ち手部の先端から延出する刃部とを有し、該刃部の先端部分が持ち手部に対して略直角に折曲されている切断具を使用することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の自動車用窓ガラスの取り外し方法に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記刃物による接着剤の切断工程において、直線状に形成されたフレームと、該フレームの両端に取り付けられた左右の脚部と、該フレームの左右の脚部の間に取り付けられた吸着部とからなり、前記脚部の下端には前記車体パネルのガラス側の面に係止可能な係止部が形成され、前記吸着部は、前記フレームに沿って移動可能なスライド部材と、該スライド部材に対して高さ調整可能に取り付けられるとともにガラス面に吸着可能な吸盤とを備えているガラス押し当て具を用意し、自動車の内部から、前記左右の脚部の係止部を夫々車体パネルのガラス側の面に係止し、前記吸着部の吸盤をガラス面に吸着させることにより、該ガラス面を車体から離れる方向に向けて押圧した状態とすることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の自動車用窓ガラスの取り外し方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、ガラスを車体パネルに接着している接着剤を帯状ヒーターにより加熱して軟化させた状態で、軟化した接着剤を刃物により切断することによって、接着剤を容易に且つ素早く切断することが可能となり、ガラスを車体パネルから簡単且つ迅速に取り外すことができる。
また、ガラス取り外しの際に、モールをカッターナイフ等で切り取る必要がないため、再度窓ガラスを取り付ける際に新品のモールを購入する必要がなく、コストを低減できるとともに、省資源化にも貢献することができる。
更に、帯状ヒーターにより直接車体パネルを加熱するため、遠赤外線ヒーター等を用いてガラス越しに加熱する方法に比べて、接着剤を短時間で軟化させることができ、消費電力が少なくて済み、非常に経済的である。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、帯状ヒーターの設置工程において、係止具によって帯状ヒーターを車体パネルに対して密接させることが可能となるため、帯状ヒーターからの発熱を効率良く接着剤へと伝えて軟化させることが可能となる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、帯状ヒーターを車体パネルに対して密接させることが困難であるガラスの角部において、帯状ヒーターの熱を金属製の第二の係止具の熱伝導を利用して接着剤へと伝えて軟化させることができる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、刃物による接着剤の切断工程において、持ち手部を両手で保持した状態で、持ち手部を車体に干渉させることなく、ガラスに対して平行に刃部を移動させることができるため、軟化した接着剤を容易に且つ短時間で切断することが可能となる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、刃物による接着剤の切断工程において、ガラスを車体から離れる方向に押しながら、接着剤を切断することができるため、切断に要する力が軽減され、接着剤を一層容易に且つ短時間で切断することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る自動車用窓ガラスの取り外し方法の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本発明に係る自動車用窓ガラスの取り外し方法は、フロントガラスやリアガラスの取り外し方法として用いることも可能ではあるものの、リアサイドガラス等のサイドガラスの取り外し方法として好適に用いられる方法である。
これは、フロントガラスやリアガラスは、2枚のガラスが樹脂シートを挟んで粘着剤で貼り合わされた所謂「合わせガラス」が使用されており、これに熱を加えるとガラスに使用されている粘着剤が先に軟化して合わせガラスが剥がれてしまう虞があるのに対して、サイドガラスは「強化ガラス」が使用されており、少々の熱が加わっても全く問題がないためである。
従って、以下の説明においては、本発明に係る方法をサイドガラスの取り外し作業に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る方法の作業前の状態(内貼りを外した状態)を示す図であって、(a)はサイドガラスとその周辺を自動車の内側から見た正面図、(b)はA−A線断面図である。
サイドガラス周辺は、ダッシュボード等の構造物が無いため、内貼りを外すと、図1に示すように、ガラス(1)とガラスが貼り付けられている車体の板金部分(車体パネル)(2)が現れる。図1(a)中の符号(2a)で表される実線は、車体パネル(2)の端部により形成される窓枠の輪郭線である。
【0021】
車体パネル(2)は、スポット溶接により一体化された内側パネル(21)と外側パネル(22)とからなり、図1(b)に示すように、ガラス(1)の外周縁と外側パネル(22)との間にはモール(3)が介装されている。尚、モール(3)は着脱可能なものと不可能なものがある。
【0022】
ガラス(1)の内側には、防水用のダムラバー(4)があり、モール(3)とダムラバー(4)の間には接着剤(5)がある。この接着剤(5)は、熱を加えると軟化するウレタン系接着剤であって、ガラス(1)を車体パネル(2)(外側パネル)に対して接着している。
ダムラバー(4)は、ガラス(1)に対しては粘着テープにより貼り付けられているが、車体パネル(2)(外側パネル)に対しては、押し付けられているだけで直接付着していない。
【0023】
本発明に係る方法では、図1に示すように内貼りを外した状態で、先ず、自動車の内部から車体パネル(2)のガラス(1)が接着された部分に沿って、帯状ヒーター(6)を設置する(図2参照)。
【0024】
図3は、帯状ヒーター(6)の一例を示す図であって、(a)は平面図、(b)(c)は断面図である。
帯状ヒーター(6)は、ニクロム線等の通電により発熱する線材(61)を、耐熱性に優れた被覆材(62)により被覆して、帯状に成形したものである。尚、線材(61)は、リード線(63)を介して電源と接続される。
図2(b)は、被覆材(62)としてシリコンゴムやフッ素ゴムが用いられているものを示しており、図2(c)は、被覆材(62)としてガラス繊維が用いられているものを示している。
【0025】
図2は、帯状ヒーター(6)を車体パネル(2)のガラス接着部分に沿って(即ち窓枠(2a)に沿って)設置した状態を示しており、(a)は正面図、(b)はA−A線断面図である。
帯状ヒーター(6)は、適当な間隔で配置された複数の係止具(7)を使用することにより、車体パネル(2)のガラス接着部分に沿って設置される。係止具(7)としては、文房具として市販されているクリップを用いてもよいし、図4に示すものを用いてもよい。
【0026】
図4(a)は係止具(7)の断面図であり、図4(b)は係止具(7)に帯状ヒーター(6)を装着した状態の断面図である。
係止具(7)は、帯状ヒーター(6)の周囲を囲う断面略長方形状の囲繞部(71)と、車体パネル(2)のガラス(1)側の面に係止可能な係止部(72)とが、金属製のバネ材により一体に形成されてなるものである。
【0027】
囲繞部(71)は、窓枠の下辺側に取り付けた際に(図2(b)参照)、帯状ヒーター(6)の裏側に配置される裏面部(7a)と、下側に配置される下面部(7b)と、表側に配置される表面部(7c)と、上側に配置される上面部(7d)とが、この順番に連続して一体に形成されている。
【0028】
表面部(7c)は、裏面部(7a)側に向けてくの字状に凹んでおり、この凹み部分の頂点が帯状ヒーター(6)の表面に当接する。
裏面部(7a)は、表面部(7c)よりも短く形成されており、上面部(7d)との間に隙間が形成されている。また、上面部(7d)は、下面部(7b)よりも長く形成されており、裏面部(7a)を超えて延びている。
上面部(7d)の延長端は下向き且つ内向きに折曲されており、この折曲部分が係止部(72)を構成している。
【0029】
係止具(7)を用いて帯状ヒーター(6)を車体パネル(2)に係止する際は、先ず、図4(b)に示すように、囲繞部(71)内に帯状ヒーター(6)を収容する。
次いで、係止具(7)の係止部(72)を車体パネル(2)(外側パネル)のガラス側の面に係止することにより、図2に示すように、帯状ヒーター(6)を車体パネル(2)のガラス接着部分に沿って固定することができる。
このとき、係止具(7)がバネ材から一体成形されていることにより、帯状ヒーター(6)が車体パネル(2)に対して緊密に押し付けられた状態となる。
【0030】
このように、複数の係止具(7)を適当な間隔で帯状ヒーター(6)に取り付けて車体パネル(2)に係止させることにより、図2(a)に示すように、帯状ヒーター(6)を車体パネル(2)のガラス接着部分に沿って(窓枠に沿って)設置することができる。
【0031】
しかし、帯状ヒーター(6)は厚さ方向の可撓性は高いが、幅方向の可撓性は低いため、図2(a)の設置状態では、ガラス(窓枠)のコーナー部分(角部)では帯状ヒーター(6)が浮き上がった状態となってしまう。
図5は、図2(a)の設置状態において、コーナー部分を矢印B方向に見た図であり、帯状ヒーター(6)が浮き上がって、車体パネル(2)との間に隙間が生じている様子を示している。
【0032】
コーナー部分で帯状ヒーター(6)が浮き上がった状態(図2(a)の設置状態)で、帯状ヒーター(6)に通電して発熱させたとしても、熱伝導により車体パネル(2)のガラス接着部分全体に熱が行き渡るが、本発明では、コーナー部分も確実に温めるために、上記係止具(7)とは別形状の第二の係止具を用いることが好ましい。
【0033】
図6(a)は第二の係止具(8)の断面図であり、図6(b)は第二の係止具(8)に帯状ヒーター(6)を装着した状態の断面図である。
第二の係止具(8)は、帯状ヒーター(6)の周囲を囲う断面略四角形状の囲繞部(81)と、車体パネル(2)のガラス側の面に係止可能な係止部(82)とが、金属製のバネ材により一体に形成されている。
【0034】
第二の係止具(8)が、上述した係止具(7)と大きく異なる点は、囲繞部(81)に対して係止部(82)が傾斜している点である。具体的には、30〜50°程度傾斜している。
囲繞部(81)は、窓枠の上辺側に取り付けた際に(図8(c)参照)、帯状ヒーター(6)の上側に配置される上面部(8a)と、表側に配置される表面部(8b)と、下側に配置される下面部(8c)と、裏側に配置される裏面部(8d)とが、この順番に連続して一体に形成されている。
【0035】
上面部(8a)は、下面部(8c)よりも短く形成されており、裏面部(8d)との間に隙間が形成されている。また、裏面部(8d)は、外向きにレの字状に折曲された後に更に外向きにコの字状に折曲されており、このコの字状に折曲された部分が係止部(82)を構成している。
【0036】
第二の係止具(8)を用いて帯状ヒーター(6)を車体パネル(2)(窓枠)のコーナー部分に係止する際は、先ず、図6(b)に示すように、囲繞部(81)内に帯状ヒーター(6)を収容する。
次いで、第二の係止具(8)の係止部(82)を、ガラス(1)の角部、即ち車体パネル(2)のコーナー部分において、車体パネル(2)(外側パネル)のガラス側の面に係止することにより、図7に示すように、帯状ヒーター(6)を車体パネル(2)のコーナー部分に固定することができる。
【0037】
図7は第二の係止具(8)を3つのコーナー部分に設置した状態を示す正面図であり、図8(a)はコーナー部分を矢印B方向に見た状態を示す図であり、図8(b)は矢印B部分の断面図であり、図8(c)は(a)図のC−C線断面図である。
上述したように、ガラス(窓枠)のコーナー部分(角部)では帯状ヒーター(6)が浮き上がった状態となるが、第二の係止具(8)は、囲繞部(81)に対して係止部(82)が傾斜しているため、浮き上がった状態の帯状ヒーター(6)を囲繞部(81)に収容することができる。
そのため、帯状ヒーターを車体パネルに対して密接させることが困難であるガラスの角部においても、帯状ヒーター(6)の熱を金属製の第二の係止具(8)の熱伝導を利用して車体パネルへと伝えることができる。
【0038】
このように、係止具(7)及び第二の係止具(8)を利用して、帯状ヒーター(6)を車体パネルのガラス接着部分の全周に沿って設置した後、帯状ヒーター(6)に通電して発熱させることにより、ガラス接着部分を加熱して当該部分にある接着剤(5)を軟化させる。
【0039】
次いで、接着剤(5)を刃物により切断することによって、ガラス(1)を車体パネル(2)から取り外す。このとき、接着剤(5)が加熱により軟化していることにより、刃物による切断作業を容易に且つ迅速に行うことが可能となる。
【0040】
接着剤(5)を切断するための刃物としては、市販のカッターナイフを用いてもよいが、専用の切断具を使用することが好ましい。
図9は専用の切断具(9)を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
切断具(9)は、人が両手で持つことができる棒状の持ち手部(91)と、該持ち手部(91)の先端から延出する刃部(92)とを有している。
刃部(92)は、その先端部分が持ち手部(91)に対して略直角に折曲されている。より具体的には、持ち手部(91)の長さ方向に所定長さ延出された後、持ち手部(91)の長さ方向に対して略直角方向に折曲されている。ここで、所定長さは、少なくとも刃部(92)により接着剤(5)を切断する際に、持ち手部(91)が係止具(7)に干渉しないだけの長さとされる(図10参照)。
【0041】
図10は、切断具(9)を使用して接着剤(5)を切断している状態を示す図である。
専用の切断具(9)を使用することにより、接着剤の切断工程において、持ち手部を両手で保持した状態で、持ち手部を車体に干渉させることなく、ガラスに対して平行に刃部を移動させることができる。
そのため、軟化した接着剤を容易に且つ短時間で切断することが可能となる。接着剤を切断した後の状態を図11に示す。
【0042】
また、本発明においては、刃物による接着剤の切断工程において、ガラス面を外部側(車体から離れる方向)に向けて押圧するガラス押し当て具を使用することが好ましい。
図12はガラス押し当て具(10)を示す図であって、(a)は押し当て具の構成要素の一つであるフレームの平面図、(b)は押し当て具全体の正面図、(c)は(b)のA−A線断面図、(d)は(b)のB−B線断面図である。
【0043】
ガラス押し当て具(10)は、直線状に形成されたフレーム(101)と、該フレーム(101)の両端に取り付けられてフレームを所定高さに保持する左右の脚部(102)と、該フレームの左右の脚部(102)の間に取り付けられた吸着部(103)とから構成されている。
【0044】
フレーム(101)は、矩形の下辺中央を切り欠いた断面形状を有する部材であって、その上面にはスリット(101a)が形成されている。
左右の脚部(102)の下端は、互いに反対側(外側)に向けて折曲されており、これら折曲部が、車体パネル(2)のガラス側の面に係止可能な係止部(102a)を形成している。また、上端には、フレーム(101)の内部下端に係止される鍔部(102b)が形成されており、脚部(102)をフレーム(101)に沿ってスライド移動させることが可能となっている。
【0045】
吸着部(103)は、フレーム(101)に沿って移動可能なスライド部材(103a)と、該スライド部材(103a)に対して高さ調整可能に取り付けられるとともにガラス面に吸着可能な吸盤(103b)とを備えている。
スライド部材(103a)は、断面上向きコの字状の部材であって、フレーム(101)の内部に収容されている。また、ネジ棒(103c)がスライド部材(103a)を上下方向に貫通している。
ネジ棒(103c)の上端部には摘み(103d)が取り付けられており、下端部には吸盤(103b)が取り付けられている。また、ネジ棒(103c)の中途部にはナット(103e)がその下面をスライド部材(103a)に当接させて螺着されている。
【0046】
図13は、ガラス押し当て具(10)のガラス面への取り付け状態を示す図である。
取り付け方法は、自動車の内部から、左右の脚部(102)の係止部(102a)を夫々車体パネル(2)のガラス側の面に係止してから、摘み(103d)を回してネジ棒(103c)を下方に螺進させ、吸着部(103)の吸盤(103b)をガラス面に押し付けて吸着させる。
これにより、ガラス(1)に対して外部側、即ち車体パネル(2)から離される方向に押圧力が作用するので、刃物による接着剤(5)の切断に要する力が更に軽減される。
【0047】
ガラスの一辺乃至二辺の接着剤が切断されると、ガラスと車体パネルの間に隙間が生じ、更に吸盤を押し付けることで隙間が広がっていくため、切断がより一層容易となる。
例えば、ガラスの四辺のうち、左辺と下辺のみを切断した状態で、吸盤をガラスに押し付けると、接着剤の軟化が十分でなくとも刃物に抵抗がかからないため、容易に切断可能となる。
車体とガラスが貼り付いた状態であると、刃物が接着剤に入っていくときに接着剤の逃げ場所が無いために刃物の入る余地が無いが、ガラス押し当て具により隙間を生じさせることにより切断が容易となる。
【0048】
ガラス押し当て具(10)は、脚部(102)及び吸着部(103)がフレーム(101)に沿ってスライド移動可能であるため、ガラスの幅に応じて脚部(102)及び吸着部(103)の位置を調節することができる。
【0049】
ガラス押し当て具(10)は、接着の状況に応じて、刃物により接着剤を切断する前に使用してもよいし、一部切断した後に使用してもよい。
【0050】
以下、本発明に係る自動車用窓ガラスの取り外し方法の実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
本発明に係る方法を使用して、軽自動車のサイドガラス(横約20cm×縦約40cm)の取り外し作業を以下の手順で行った。
内貼りを外した後、自動車の内部から車体パネルのガラスが接着された部分に沿って、上述した係止具及び第二係止具を使用して帯状ヒーターを設置し、帯状ヒーターに通電して発熱させることにより、前記ガラス接着部分を加熱した。
帯状ヒーターとしては、幅20mm×長さ1m、電力:200W/1mのガラス繊維を被覆材としたもの(図3(a)(c)参照)を使用し、ガラスの右辺、下辺、左辺に順次沿うように略U字状に配置した。
20分間の加熱(通電)の後、ガラス周辺の各部の温度を測定したところ、表1に示す通りであった。
【0051】
【表1】

【0052】
接着剤部分は露出していないため、温度が測定できなかったが、車体パネル(内側パネル)のヒーター付近の72℃よりは高温に達していたと思われる。
【0053】
温度測定後、すぐに接着剤の切断作業を開始した。
切断作業は、図9に示す切断具(9)を使用して図10に示すようにして行った。加熱された部分(三辺)の接着剤の切断に要した時間は約4分であった。
続いて、図12に示すガラス押し当て具(10)を使用して、残りの一辺の接着剤を同じ切断具(9)を使用して切断し、ガラスを車体パネルから取り外した。切断に要した時間は約3分であった。
ヒーターの設置や電源引き込み等に要した時間は約3分であったので、加熱時間と合わせると作業全体の所要時間は約30分であったが、加熱時間を除いた正味の作業時間は約10分であった。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同じ車両の対向面にあるサイドガラス(横約60cm×縦約40cm)の取り外し作業を行った。
実施例1と同じ帯状ヒーターを、図7に示すように配置した後、帯状ヒーターに通電して発熱させることにより、車体パネルのガラス接着部分を加熱した。
30分間の加熱(通電)後、各部の温度を測定したところ、ヒーター表面中央部の温度が若干高め(約210℃)であったが、その他の部分は表1に示す温度と余り変わらなかった(±0〜+2℃程度)。
【0055】
温度測定後、すぐに実施例1と同じ切断具を使用して接着剤(四辺)の切断作業を行った。尚、ガラス押し当て具は使用しなかった。
作業全体の所要時間は、四辺を加熱するために加熱時間を実施例1より10分長くしたことから約40分となったが、加熱時間を除いた正味の作業時間は約10分であった。
この実施例2では、ガラス押し当て具を使用しなくても作業を円滑に行うことができたが、これは気温が約20℃と比較的暖かかったためであり、真冬の環境下で作業する場合には、ガラス押し当て具を適所で使用することが必要であると思われる。
【0056】
以上の実施例より、本発明に係る方法によれば、加熱しない従来の方法に比べて作業時間が大幅に短縮できることが確認できた。
また、ヒーター温度に対してガラス及びモールの温度が低くなったのは、ガラスを直接加熱していない効果であると考えられる。また、モールに直接ヒーターを当てると瞬時に焼けてしまうが、本発明に係る方法ではこのような不都合が生じることがない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、自動車の車体修理の際に窓ガラスを取り外すために利用され、特に軽自動車やワゴン車のリアサイドガラス等の比較的小さな窓ガラスの取り外しのために好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る方法の作業前の状態(内貼りを外した状態)を示す図であって、(a)はサイドガラスとその周辺を自動車の内側から見た正面図、(b)はA−A線断面図である。
【図2】帯状ヒーターを車体パネルのガラス接着部分に沿って設置した状態を示しており、(a)は正面図、(b)はA−A線断面図である。
【図3】帯状ヒーターの一例を示す図であって、(a)は平面図、(b)(c)は断面図である。
【図4】(a)は係止具の断面図であり、(b)は係止具に帯状ヒーターを装着した状態の断面図である。
【図5】図2(a)の設置状態において、コーナー部分を矢印B方向に見た図である。
【図6】(a)は第二の係止具の断面図であり、(b)は第二の係止具に帯状ヒーターを装着した状態の断面図である。
【図7】第二の係止具を3つのコーナー部分に設置した状態を示す正面図である。
【図8】(a)はコーナー部分を矢印B方向に見た状態を示す図であり、(b)は矢印B部分の断面図であり、(c)は(a)図のC−C線断面図である。
【図9】専用の切断具を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図10】切断具を使用して接着剤を切断している状態を示す図である。
【図11】接着剤を切断した後の状態を示す断面図である。
【図12】ガラス押し当て具を示す図であって、(a)は押し当て具の構成要素の一つであるフレームの平面図、(b)は押し当て具全体の正面図、(c)は(b)のA−A線断面図、(d)は(b)のB−B線断面図である。
【図13】ガラス押し当て具のガラス面への取り付け状態を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 ガラス
2 車体パネル
21 内側パネル(車体パネル)
22 外側パネル(車体パネル)
5 接着剤
6 帯状ヒーター
7 係止具
71 囲繞部
72 係止部
8 第二の係止具
81 囲繞部
82 係止部
9 切断具
91 持ち手部
92 刃部
10 ガラス押し当て具
101 フレーム
102 脚部
103 吸着部
103a スライド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の内部から車体パネルのガラス接着部分に沿って帯状ヒーターを設置し、
該帯状ヒーターを発熱させることにより、前記車体パネルのガラス接着部分を加熱して当該部分にある接着剤を軟化させ、
該軟化した接着剤を刃物により切断することにより、ガラスを車体パネルから取り外す
ことを特徴とする自動車用窓ガラスの取り外し方法。
【請求項2】
前記帯状ヒーターの設置工程において、
該帯状ヒーターの周囲を囲う囲繞部と、前記車体パネルのガラス側の面に係止可能な係止部とが、バネ材により一体に形成された係止具を用意し、
前記囲繞部内に帯状ヒーターを収容し、前記係止部を車体パネルのガラス側の面に係止することを特徴とする請求項1記載の自動車用窓ガラスの取り外し方法。
【請求項3】
前記帯状ヒーターの設置工程において、
該帯状ヒーターの周囲を囲う囲繞部と、前記車体パネルのガラス側の面に係止可能な係止部とが、金属製のバネ材により一体に形成されており、前記囲繞部に対して係止部が傾斜している第二の係止具を用意し、
該第二の係止具の囲繞部内に帯状ヒーターを収容し、前記ガラスの角部において、前記係止部を車体パネルのガラス側の面に係止することを特徴とする請求項2記載の自動車用窓ガラスの取り外し方法。
【請求項4】
前記刃物による接着剤の切断工程において、
持ち手部と、該持ち手部の先端から延出する刃部とを有し、該刃部の先端部分が持ち手部に対して略直角に折曲されている切断具を使用することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の自動車用窓ガラスの取り外し方法。
【請求項5】
前記刃物による接着剤の切断工程において、
直線状に形成されたフレームと、該フレームの両端に取り付けられた左右の脚部と、該フレームの左右の脚部の間に取り付けられた吸着部とからなり、前記脚部の下端には前記車体パネルのガラス側の面に係止可能な係止部が形成され、前記吸着部は、前記フレームに沿って移動可能なスライド部材と、該スライド部材に対して高さ調整可能に取り付けられるとともにガラス面に吸着可能な吸盤とを備えているガラス押し当て具を用意し、
自動車の内部から、前記左右の脚部の係止部を夫々車体パネルのガラス側の面に係止し、前記吸着部の吸盤をガラス面に吸着させることにより、該ガラス面を車体から離れる方向に向けて押圧した状態とすることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の自動車用窓ガラスの取り外し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−126770(P2008−126770A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312154(P2006−312154)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(591128305)株式会社ビック.ツール (13)
【Fターム(参考)】