説明

自動車車体の組立方法および車体矯正治具

【課題】左右のフロントサイドメンバーの同士のスパンを拘束する矯正治具の使用を前提として、より一層左右のフロントサイドメンバーの同士のスパンの精度悪化を防止した車体の塗装方法を提供する。
【解決手段】フロントエンドモジュール構造を採用した車体に電着塗装を施すにあたり、フロントサイドメンバー8同士を矯正治具10で結合して両者間のスパンを拘束した状態の車体をオーブンを含む電着塗装工程を通過させる。矯正治具10によるフロントサイドメンバー8同士の車体前後方向での結合位置16を、矯正治具10を使用しないでオーブンを通過させた場合の熱変形に伴うフロントサイドメンバー8同士のスパン変位量xが、オーブンを通過させた場合の矯正治具10自体の熱変形量xj/2と等しくなる位置に設定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車における車体の組立方法とその車体矯正治具に関し、特に車幅方向強度部材であるラジエータコアサポートを母体として左右のヘッドランプユニットやラジエータ等の車体前部の機能部品をフロントエンドモジュールとして予めモジュール化した上で、これを塗装後の車体前面側から組み付けるようにしたいわゆるフロントエンドモジュール構造を採用する車体の組立方法とその車体組立に用いる車体矯正治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、フロントエンドモジュール構造を採用する自動車の車体においては、塗装後の車両組立工程においてフロントエンドモジュールが組み付けられるまでは車体前部がいわゆるオープン構造となっていて、特にエンジンコンパートメントの主要骨格部材である左右のフロントサイドメンバー同士を連結するものが存在せずに左右のフロントサイドメンバーが実質的に片持ち支持状態となっていることから、その左右のフロントサイドメンバー同士のスパン(ピッチ)の精度の悪化が懸念される。そこで、特許文献1,2に記載のように左右のフロントサイドメンバー同士を連結する治具を採用し、もってその左右のフロントサイドメンバー同士のスパンを矯正することが行われている。
【特許文献1】特開2003−2266号公報
【特許文献2】特開平9−309460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような従来の技術では、車体、特に車体前部のエンジンコンパートメントを構成している各種のパネルが鋼板製の場合には相応の効果が期待できるものの、エンジンコンパートメントを構成しているパネルの一部をアルミニウム系等の異種金属製のものに置き換えた場合には必ずしも十分な効果を期待することができなくなる。
【0004】
例えば、車体そのものは鋼板製のものであることを前提としつつ、エンジンコンパートメントの主要構成部品であるストラットハウジングをアルミ鋳物製のものに置き換えることが試みられているが、アルミニウム系材料の線膨張係数は鋼板の約2倍であるため、アルミ鋳物製のストラットハウジングが塗装焼き付け時、例えば電着塗装後のオーブンにて温度上昇すると鋼板製の車体に対して大きな熱変形を伴うことになる。
【0005】
その上、アルミ鋳物製のストラットハウジングとその周囲の鋼板製パネルとは異種金属パネル同士の接合となるため、その接合部にいわゆる電食防止を目的として接着剤を介装することが行われる。この接着剤としては構造用接着剤であるところの熱硬化型エポキシ系接着剤を使用することが多く、一般的には塗装工程(下塗り工程)の電着塗装時にオーブンにて例えば170℃×20分程度の条件下で加熱硬化される。
【0006】
このように、高温下でアルミ鋳物製のストラットハウジングが大きく熱変形した状態で接着剤が加熱硬化することになるため、そのストラットハウジングに対して接合部を有する左右のフロントサイドメンバー同士のスパンの精度悪化やばらつき(スパンセンター値のばらつきを含む)を防止することができなくなる。
【0007】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、左右のフロントサイドメンバーの同士のスパンを拘束する治具の使用を前提として、より一層左右のフロントサイドメンバー同士のスパンの精度悪化やばらつきの発生を未然に防止できるようにした自動車車体の組立方法とそれに用いる車体矯正治具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、車幅方向強度部材である少なくともラジエータコアサポートを母体として車体前部の複数の機能部品をフロントエンドモジュールとして予めモジュール化しておき、このフロントエンドモジュールを塗装後の車体前面より装着するようにしたフロントエンドモジュール構造の自動車の車体に塗装を施すにあたり、車体前部に車幅方向強度部材を有していない車体の左右のフロントサイドメンバー同士を矯正治具で連結してそのフロントサイドメンバー同士のなすスパンを拘束した状態でオーブンを含む塗装工程に車体を通過させるとともに、上記矯正治具によるフロントサイドメンバー同士の車体前後方向での連結位置として、矯正治具を使用しない状態の車体をオーブンを含む塗装工程を通過させた場合の熱変形に伴う左右のフロントサイドメンバー同士のスパン変位量がオーブンを含む塗装工程を通過させた場合の矯正治具自体の熱変形量と等しくなる位置に設定してあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、少なくとも塗装工程の前後での左右のフロントサイドメンバー同士のスパンの精度悪化やばらつきを大幅に抑制して、車体の精度向上に寄与できるほか、矯正治具の構造も併せて簡素化できる。加えて、熱膨張により精度が低下したフロントサイドメンバー等の修正に要する工数を大幅に削減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1〜6は本発明のより具体的な第1の実施の形態を示す図であり、特に図1は自動車の組立工程の概略を、図2は本発明の前提となる自動車の車体前部の概略構造、すなわちフロントエンドモジュール4を備えた車体前部の構造を、図3は図2の要部拡大図をそれぞれ示している。
【0011】
図1に示すように、自動車の組立工程は大きく分けて車体組立工程S10、塗装工程S20および車両組立工程S30等からなり、さらに車体組立工程S10はエンジンコンパートメント組立工程(図1ではENCON ASSY工程と略記)S11、ボデーメイン組立工程(図1ではB/M ASSY工程と略記)S12およびメタル工程S13に細分化されている。同様に、塗装工程S20は電着塗装工程(図1ではED塗装と略記)S21、中塗り塗装工程S22および上塗り塗装工程S23の三工程に細分化されている。さらに、車両組立工程S30は艤装工程(図1ではトリムインと略記)S31、フロントエンドモジュール取付工程(図1ではFEM取付け工程と略記)S32および足回り取付工程(図1ではSUSP取付け工程と略記)S33等に細分化されている。
【0012】
そして、図1のほか図2に示すように、車体(ボデー)1は、エンジンコンパートメント組立工程S11にてエンジンコンパートメント2が組み立てられた後に、そのエンジンコンパートメント2や図示しないフロアパネルおよびボデーサイド等のボデーメイン構成要素同士がボデーメイン組立工程S12にて相互に組み付けられ、さらにフロントフェンダー3のほかフード14やドア等の開閉体がメタル工程S13にて組み付けられる。その後、車体1は塗装工程S20を経た上で車両組立工程S30に搬入され、その車両組立工程S30の一部であるフロントエンドモジュール取付工程S32においてフロントエンドモジュール4が組み付けられる。
【0013】
このフロントエンドモジュール4は、図3にも示すように車幅方向強度部材であるラジエータコアサポート5とバンパーレインフォース(ファーストクロスメンバー)6を母体としてこれに左右のヘッドランプユニット7や図外のラジエータおよびその補機類等の車体前部での複数の機能部品を予め組み付けてモジュール化したものであって、上記のように車両組立工程S30の一部であるフロントエンドモジュール取付工程S32において塗装後の車体1に対しエンジンコンパートメント構成要素である左右のフロントサイドメンバー8およびフードリッジ9を締結部位としてボルト締結される。
【0014】
したがって、ラジエータコアサポート5がフロントエンドモジュール4単体での骨格部材として機能するが故に、フロントエンドモジュール4が車体1に組み付けられるまではその車体1の前部側にはラジエータコアサポート5やそれに類する車体幅方向の骨格部材(車幅方向強度部材)が付帯しておらず、車体1(エンジンコンパートメント2)の前端はいわゆるオープン構造となっていて、左右のフロントサイドメンバー8はいわゆる片持ち支持状態となっている。そのため、左右のフロントサイドメンバー8をはじめとしてフロントフェンダー3が組み付けられることになるフードリッジ9等の各部の位置精度にばらつきが生じやすい。
【0015】
そこで、エンジンコンパートメント2の前端がオープン構造であって且つ左右のフロントサイドメンバー8がいわゆる片持ち支持構造であることを前提として、フロントサイドメンバー8を主要素とする車体前部の形状精度が凍結されるまでの間、例えば170℃程度で加熱されることになる少なくともオーブンを含む電着塗装工程S21を経るまでの間、望ましくはフロントエンドモジュール4が組み付けられるまでの間、車幅方向強度部材であるラジエータコアサポート5に代えて、図5に示すような矯正治具10にて左右のフロントサイドメンバー8同士を連結してそのフロントサイドメンバー8同士のなすスパンを矯正・拘束し、もって左右のフロントサイドメンバー8同士のスパン(ピッチ)精度、ひいてはそのフロントサイドメンバー8を主要素とする車体前部のエンジンコンパートメント2各部の位置精度を保証しようとするのが本実施の形態の趣旨である。
【0016】
なお、上記フロントエンドモジュール4には後から図示しないバンパーフェイシアが組み付けられることになる。
【0017】
図1のほか図4,5に示すように、塗装工程S20の前の車体組立工程S10、より詳しくは車体組立工程S10の初期工程であるエンジンコンパートメント組立工程S11において、フードリッジ3やストラットハウジング11あるいは左右のサイドクロスメンバー8を主要素としてエンジンコンパートメント2が組み立てられた段階で、図5の矯正治具10を用いて左右のフロントサイドメンバー8の内側面同士を連結して両者のスパンW2(図6参照)を矯正・拘束する。
【0018】
なお、エンジンコンパートメント2の各構成要素が鋼板製のものであるのに対して、上記ストラットハウジング11はアルミ鋳物製のものが採用されていて、そのストラットハウジング11は、隣接する車体構造部材たる鋼板製のエンジンコンパートメント構成要素、例えばフードリッジ3やフロントサイドメンバー8に対しては、先に述べたように電食防止の観点から接着剤を介装した上で例えばセルフピアスリベット等にて結合される。
【0019】
矯正治具10は、図5に示すように例えば十分な剛性を有した角パイプ状(鋼材製)の治具本体12の両端に同じく鋼板製の矩形状のブラケット13を溶接等にて固定したもので、そのブラケット13には例えばボルト・ナット締結のためのボルト穴15が形成されており、ボルト・ナット締結をもって矯正治具10を介して左右一対のフロントサイドメンバー8同士が結合される。これにより、フロントサイドメンバー8同士の先端部が矯正治具10にて結合されることによりフロントサイドメンバー8が片持ち支持構造でなくなり、同時に車体前部のエンジンコンパートメント2もいわゆるオープン構造の形態ではなくなる。
【0020】
ここで、図6の(A),(B)に示すように、矯正治具10を使用しない場合には、左右のフロントサイドメンバー8同士が片持ち支持状態のままで後工程である塗装工程S20、例えば電着塗装工程S21のオーブンにて加熱処理されることから、それらのフロントサイドメンバー8は素材自体の熱変形のほかストラットハウジング11(図4参照)の接合部に採用されている接着剤の加熱硬化の影響を受けて変形し、特に図6の(A)に実線で示すように車体前方側ほど左右のフロントサイドメンバー8同士のスパンに関する熱変形量xが大きくなる傾向にある。
【0021】
そして、本実施の形態では、左右のフロントサイドメンバー8同士を矯正治具10にて連結した状態のままで以降のボデーメイン組立工程S12やメタル工程S13、さらには塗装工程S20に車体1を流すことを前提としていることから、後工程である電着塗装工程S21を含む塗装工程S20のオーブンにて矯正治具10が車体1全体とともに加熱処理されることを考慮し、図6の(B)に示すように、この矯正治具10を上記電着塗装工程S21のオーブン通過時と同等の加熱処理条件で加熱した場合の長手方向での熱変形量xjを予め解析し、その熱変形量(熱膨張に伴う長手方向の変形量)xjを予め定量的に把握しておく。
【0022】
なお、この熱変形量xjを左右のフロントサイドメンバー8に対応させて左右に振り分けるとそれぞれの熱変形量はxj/2となる。また、同図において、J2は常温(室温)状態での矯正治具10の全長を、J1は後工程である電着塗装工程S21のオーブンにて加熱処理された際の全長をそれぞれ示しており、両者の差であるJ1−J2=xjが矯正治具10の総熱変形量となる。
【0023】
同時に、図6の(A)に示すように、左右のフロントサイドメンバー8同士が片持ち支持状態にあるときの室温(常温)時における両者のスパンをW2とし、上記と同様に後工程である電着塗装工程S21のオーブンにて車体1全体が加熱処理されることを考慮し、左右のフロントサイドメンバー8同士を矯正治具10にて連結することなく片持ち支持状態のままで上記電着塗装工程S21のオーブン通過時と同等の加熱処理条件で加熱した場合のスパンに関する熱変形量xを予め解析して、そのスパンに関する熱変形量xを予め定量的に把握しておく。
【0024】
なお、図6の(A)において、W2は常温(室温)状態でのフロントサイドメンバー8同士のスパンを、W1は後工程である電着塗装工程S21のオーブンにて加熱処理された際のスパンをそれぞれ示しており、両者の差であるW1−W2=2xがフロントサイドメンバー8同士の総熱変形量となる。また、電着塗装工程S21以外の中塗りおよび上塗りの各塗装工程S22,S23においてもその都度車体1がオーブンにて加熱処理されることになるが、電着塗装時のオーブンでの加熱処理温度が最も高い温度に設定される。
【0025】
その上で、各フロントサイドメンバー8の長手方向(車体前後方向)において、上記矯正治具10の熱変形量xj/2がフロントサイドメンバー8側の熱変形量xと等しくなる位置を、車体前後方向における左右のフロントサイドメンバー8同士の矯正治具10による連結位置16として定める。そして、その連結位置16において図4,5に示すように矯正治具10をもって左右のフロントサイドメンバー8同士を堅固に連結・結合する。なお、図6の(A)における符号16aは上記熱変形後の連結位置を示す。
【0026】
したがって、図4,5の形態をもって車体1全体を後工程である塗装工程S20、例えば電着塗装工程S21のオーブンにて加熱処理した場合には、フロントサイドメンバー8同士のスパンは矯正治具10の全長とともに熱変形することになるものの、先に述べたようにx=xj/2の関係にあることから、フロントサイドメンバー8同士のスパンに関する熱変形量xと矯正治具10の熱変形量xj/2とが相殺されることになる。その結果として、矯正治具10には接着剤の加熱硬化による変形のほか、車体前部(エンジンコンパートメント2)を構成する板組の合わせ誤差等の影響による応力のみ作用することになり、その応力に対しては矯正治具10の剛性をもって十分に対抗することができるので、上記矯正治具10をもって少なくとも電着塗装の前後でのフロントサイドメンバー8同士のなすスパンの変形量を大幅に抑制して、そのフロントサイドメンバー8同士のスパンを確実に矯正することができる。
【0027】
ここで、先に述べたように電着塗装(下塗り)、中塗りおよび上塗りの各塗装工程S21〜S23のなかでは電着塗装工程S21のオーブンの加熱処理温度が最も高いので、少なくともオーブンを含む電着塗装工程S21を得た後は、先に述べた接着剤の硬化が完了して車体前部であるエンジンコンパートメント2の各部の形状精度が凍結されることになる。
【0028】
したがって、少なくとも図1に示したオーブンを含む電着塗装工程S21を経た後、望ましくはオーブンを含む電着塗装、中塗りおよび上塗りの各塗装工程S21〜S23を経た後、より望ましくはフロントエンドモジュール4を取り付ける直前に車両組立工程S30の艤装工程S31にて矯正治具10を取り外し、代わって次工程であるフロントエンドモジュール取付工程S32において図2の形態でフロントエンドモジュール4を組み付けることになる。
【0029】
図7,8は本発明の第2の実施の形態を示す図で、先の第1の実施の形態と共通する部分には同一符号を付してある。
【0030】
図7に示すように、本実施の形態では左右のフロントサイドメンバー8同士の連結部を各フロントサイドメンバー8の先端面8aに設定する一方、矯正治具20としてバー状の治具本体21の両端にフラットブラケット22を結合したものを用いている。そして、第1の実施の形態と同様に、図8に示すように左右のフロントサイドメンバー8同士が片持ち支持状態にあるときの室温(常温)時における両者のスパンをW2とし、後工程である電着塗装工程S21のオーブンにて車体1全体が加熱処理されることを考慮し、左右のフロントサイドメンバー8同士を矯正治具20にて連結することなく片持ち支持状態のままで上記オーブン通過時と同等の加熱処理条件で加熱した場合の各フロントサイドメンバー8先端でのスパンに関する熱変形量xを予め解析して、そのスパンに関する熱変形量xを予め定量的に把握しておく。
【0031】
その一方、矯正治具20についても、左右のフロントサイドメンバー8同士を連結している状態のままで後工程である電着塗装工程S2121のオーブンにて車体1全体とともに加熱処理されることを考慮し、図7に示すようにこの矯正治具20を上記オーブン通過時と同等の加熱処理条件で加熱した場合の長手方向での熱変形量xj/2を予め解析して、その熱変形量(熱膨張に伴う長手方向の変形量)xj/2を予め定量的に把握した上で、その熱変形量xj/2が上記フロントサイドメンバー8同士のスパンに関する熱変形量xと等しくなるように予め設定しておく。
【0032】
ここでは、図7の(B)に示すように、矯正治具20の主要素である治具本体21の一端部または長手方向中間部にその鋼材製の治具本体21とは線膨張係数が異なる部材、例えば鋳鉄、アルミニウム、ステンレス、インバー(ニッケル鋼の一種)等のいずれかまたはそれらの二種以上を組み合わせてなるエクステンション23を介装した上で、それらを例えば摩擦圧接、摩擦撹拌、液相拡散、ろう付け等の接合、またはボルト、リベット、クリンチング等の機械的結合手段にて結合して、少なくとも上記加熱処理時における矯正治具20の熱変形量xj/2が上記フロントサイドメンバー8同士のスパンに関する熱変形量xと等しくなるように予め調整・設定してある。なお、上記治具本体21とエクステンション23との継手部にスペーサを介装するようにすれば、車体幅方向での組立誤差を積極的に吸収することも可能となる。
【0033】
したがって、先の第1の実施の形態では、矯正治具10による左右のフロントサイドメンバー8同士の車体前後方向での連結位置を特定の位置とすることによって、x=xj/2の関係を満足させてフロントサイドメンバー8同士のスパンの精度を維持するものであるのに対して、第2の実施の形態では、線膨張係数の異なる複数の材質を組み合わせせて、全体としての線膨張係数を予め調整してあるいわゆる複合構造の矯正治具20を用いることでx=xj/2の関係を満たそうとするものであり、先の第1の実施の形態と同様の効果が得られることになる。
【0034】
なお、この第2の実施の形態では、矯正治具20による左右のフロントサイドメンバー8同士の車体前後方向での結合位置をフロントサイドメンバー8の先端面8aとしたが、結合位置は必ずしもフロントサイドメンバー8の先端面8aである必要はなく、熱変形量を定量的に把握できる位置であれば車体前後方向での任意の位置であっても良い。
【0035】
図9〜11は本発明の第3の実施の形態として先の第1の実施の形態の変形例を示す図で、第1の実施の形態と共通する部分には同一符号を付してある。
【0036】
この第3の実施の形態では、角パイプ状の治具本体31の両端にブラケット32を連結した矯正治具30を用いており、車体前後方向の所定の位置においてそのブラケット32を左右のフロントサイドメンバー8の上面に当てがった上でボルト・ナット締結等にて固定することで、その矯正治具30をもって左右のフロントサイドメンバー8同士を結合するようにしてある。そして、左右のフロントサイドメンバー8同士のスパンに関する熱変形量xと同じく矯正治具30の長手方向での熱変形量xj/2とを予め解析して定量的に把握しておき、両者が共に同等のものとなるように矯正治具30の取付位置およびその材料を選定することは先の第1の実施の形態と同様である。
【0037】
図11は上記矯正治具30の詳細を示しており、パイプ状の治具本体31には、矯正治具30の長手方向での内部応力を測定してその応力に応じた起電力を発生する圧電素子33と、この圧電素子33の起電力を駆動電流として直接入力して作動するモータ34と、そのモータ34の出力軸をナット部材としてそのナット部材に螺合するスクリューシャフト35をもって構成されたボールねじ36とが内蔵されていて、モータ34は治具本体31に固定されている。また、治具本体31の内部には複数のサポート37,38が内蔵されていて、圧電素子33は一方のサポート37とブラケット32との間に介装されている一方、スクリューシャフト35は他方のサポート38に回転可能に案内支持されていて、その先端はブラケット32に結合されている。
【0038】
そして、上記モータ34とボールねじ36とで直動型のアクチュエータを形成しており、またこのアクチュエータに圧電素子33を加えたものが矯正治具30の変位発生機構を形成している。
【0039】
ここで、加熱処理により矯正治具30が熱変形した際の左右のブラケット32間の取付スパンJ1(j2+xj)は、同じく加熱処理により熱変形した後の左右のフロントサイドメンバー8同士のスパンW1(W2+2x)と等しくなるように予め設定されていることは先に述べた通りである。したがって、加熱処理に伴って矯正治具30およびフロントサイドメンバー8側のスパンが共に熱変形したとしても、矯正治具30側の取付スパンJ1とフロントサイドメンバー8同士のスパンW1とが等しいかぎりにおいては、熱変形量以外には矯正治具30は特に伸縮しない。
【0040】
その一方、電着塗装工程S21におけるオーブンの温度分布やフロントサイドメンバー8の接合時における合わせ面の精度、特にアルミ鋳物製のストラットハウジング11(図9参照)の合わせ面精度の影響を受けて、フロントサイドメンバー8同士のスパンに関する熱変形量xがばらつくことがあり、その熱変形量xと矯正治具30側の熱膨張による熱変形量xj/2との間に差が生ずることになる。その結果として矯正治具30に引っ張りまたは圧縮の応力が発生することになる。
【0041】
この矯正治具30側で発生する応力はそのまま圧電素子33に作用して、その圧電素子33で上記応力に応じた起電力(電流)を発生させることになる。圧電素子33で発生する起電力は、矯正治具30に加わる応力が引っ張り応力となる場合と圧縮応力となる場合とでは電流が逆向きに流れるため、その起電力を駆動電力とするモータ34の回転方向も逆向きとなる。そこで、そのモータ34の回転トルクをボールねじ36を形成しているスクリューシャフト35の螺進力に変換し、もって矯正治具30に発生している応力と逆方向の変位を矯正治具30に発生させる。これにより、電着塗装工程S21におけるオーブンの温度分布やフロントサイドメンバー8の接合時における合わせ面の精度等の影響を最小限として、上記フロントサイドメンバー8のスパンに関する熱変形量xをほぼ一定に保つことができるようになる。その結果として、先の第1,第2の実施の形態と同様に左右のフロントサイドメンバー8同士のスパン精度が向上するほか、そのばらつきを吸収してスパン精度の均一化と安定化を図れるようになる。
【0042】
図12,13は本発明の第4の実施の形態を示し、図4,5に示した第1の実施の形態の矯正治具10に代わる別の矯正治具40の例を示している。より詳細には、先の第1の実施の形態では左右のフロントサイドメンバー8同士を互いに対向することになる内側の一つの面をもって相互に拘束・矯正するものであるのに対して、この第4の実施の形態では各フロントサイドメンバー8を抱持するかの如き形態でクランプしてその拘束・矯正を行うようにしたものである。
【0043】
図12に示すように、矯正治具40は、例えば十分な剛性を有した角パイプ状(鋼材製)の連結部材としての治具本体41の両端に各フロントサイドメンバー8を抱持するような形態でこれをクランプするためのクランプ手段としてのクランパー42を結合してある。
【0044】
図12のほか図13に示すように、クランパー42は略枠状のクランプブラケット57を主要素としていて、このクランプブラケット57は略L字状をなす二つ一組のブラケット素片43,44同士をヒンジピン45にて開閉可能に連結したものであり、一方のブラケット素片43に突出形成したフランジ部46とボルト47とをもって治具本体41の端部に着脱可能に連結してある。他方のブラケット素片44の端部にはクランプボルト48を設けてあるとともに、それに対応する一方のブラケット素片43の端部にはねじ穴49を形成してあり、双方のブラケット素片43,44同士を閉じた状態でボルト48をねじ穴49に締め込むことにより図13のようなクランプ状態を自己保持することができる。なお、図13のようにクランパー42をクランプ状態としたときには、二つで一組のブラケット素片43,44からなるクランプブラケット57はフロントサイドメンバー8の周囲を囲繞して、そのフロントサイドメンバー8の断面形状とほぼ相似形の枠状をなしている。
【0045】
一方のブラケット素片43には、フロントサイドメンバー8側に予め形成されているロケート穴(位置決め穴)50に係合可能な位置決め部材としてのロケートピン51のほか、当接部材として上下一対の拘束ピン52,53を設けてある。これに対して、他方のブラケット素片44には当接部材として三つの拘束ピン54,55,56を設けてある。そして、図13のようなクランパー42のクランプ状態においては、フロントサイドメンバー8を挟んでロケートピン51と拘束ピン54とが正対し、且つ拘束ピン52,55同士および拘束ピン53,56同士がフロントサイドメンバー8を挟んで正対するようにそれぞれの位置を設定してあり、ロケートピン51がいわゆるボックス断面形状をなすフロントサイドメンバー8の底面に、拘束ピン54がフロントサイドメンバー8の上面にそれぞれ当接するのに対して、それ以外の各拘束ピン52,53および55,56はフロントサイドメンバー8の折り曲げ位置である四隅の稜線の近傍にそれぞれ当接するように設定してある。
【0046】
ここで、ロケートピン51が定位置固定式のものであるのに対して各拘束ピン52〜56はいわゆる止めねじタイプのものであって、外周面に刻設したおねじ部をもって各ブラケット素片43,44側のめねじ部に進退移動可能に螺合させてある。したがって、各拘束ピン52〜56を回転操作すればその螺進作用をもって各拘束ピン52〜56の軸心方向位置が微調整可能となっている。
【0047】
また、治具本体41がフロントサイドメンバー8と材質が同じ例えば鋼板製のものであるのに対して、ブラケット素片43,44は先にも述べたインバー等の低熱膨張合金にて形成されているとともに、各拘束ピン52〜56はアルミニウム系材料あるいは樹脂等の熱膨張の大きな材料にて形成されている。その上、フロントサイドメンバー8に直接接触することになる各拘束ピン52〜56の先端面は、例えばフロントサイドメンバー8に対する塗膜の付着、特に電着塗装時の塗膜の付着を極力阻害しないように極小面積である必要があり、本実施の形態では各拘束ピン52〜56の先端面は球面状または円筒状のものとして形成してある。
【0048】
したがって、図13のように各クランパー42にてフロントサイドメンバー8を拘束した状態で電着塗装工程S21のオーブンにて加熱処理すれば、フロントサイドメンバー8が熱膨張し、同時に矯正治具40を形成している治具本体41のほか、クランパー42を形成しているブラケット素片43,44や各拘束ピン52〜56もまた熱膨張することになる。この場合、材質の違いのためにフロントサイドメンバー8に比べればプブラケット素片43,44の熱膨張は小さく、異材質の各拘束ピン52〜56のそれよりもまた小さいことになる。そのため、加熱処理前に各拘束ピン52〜56がフロントサイドメンバー8の該当部位に軽く当たる程度にそれぞれの位置を予め調整しておくだけで、加熱処理に伴って各拘束ピン52〜56がフロントサイドメンバー8の三面をもって拘束する力が発生し、その拘束力が熱膨張とともに増加することになる。
【0049】
特に、上記拘束ピン52〜56にロケートピン51を加えて全体としてフロントサイドメンバー8の四周全面で拘束しているため、そのフロントサイドメンバー8自体の捻れ等までも拘束することができるほか、四つの拘束ピン52〜56にてフロントサイドメンバー8のうち比較的強度に優れた周囲の稜線部近傍を拘束するようにしているため、稜線部以外の一般面が撓むのを未然に防止することが可能となる。また、クランパー42のクランプブラケット57自体が二つのブラケット素片43,44同士をヒンジピン45にて連結した開閉可能な構造となっているため、その取り扱い性にも優れたものとなる。
【0050】
因みに、上記のような材質の違いに基づく熱膨張の差を考慮しない場合には、各拘束ピン52〜56の締め付けトルクを管理する必要があるが、本実施の形態によれば、オーブンでの加熱処理前に各拘束ピン52〜56がフロントサイドメンバー8に当たる程度まで手あるいは自動工具にて各拘束ピン52〜56を回転操作するだけでフロントサイドメンバー8に対する拘束力を発生させることができる。
【0051】
ここで、上記矯正治具40の場合には各クランパー42によるフロントサイドメンバー8の拘束を優先し、各クランパー42と治具本体41との結合はその後に行うことがフロントサイドメンバー8に対する拘束力の安定化の上で望ましい。
【0052】
具体的には、それぞれのクランパー42と治具本体41とを相互に分離した状態で、最初に左右のクランパー42にてフロントサイドメンバー8を拘束するものとし、各クランパー42のブラケット素片43,44同士をヒンジピン45を回転中心として開いた状態でフロントサイドメンバー8を囲繞し、ロケートピン51とロケート穴50とを係合させて相対位置決めを行う。次いでブラケット素片43,44同士を閉じた上でボルト48を締め込んでブラケット素片43,44同士を固定する。その上で、先に述べたようにフロントサイドメンバー8に軽く当たる程度まで各拘束ピン52〜56を締め込む。
【0053】
そして、このような作業を左右のクランパー42のそれぞれについて行ったならば、治具本体41を左右のクランパー42に対してボルト47にて連結し、最終的には矯正治具40をもって左右のフロントサイドメンバー8同士を連結して拘束する。
【0054】
なお、左右いずれか一方のクランパー42と治具本体41との連結部、例えばフランジ部46とボルト47にて締結されることになる治具本体41側のボルト穴を予め車幅方向に長い長穴形状としておけば、車体前部での車幅方向での組立精度のばらつきを所定の範囲内で積極的に吸収することも可能となる。
【0055】
図14は本発明の第5の実施の形態として、図13に示した矯正治具40の変形例として別の矯正治具60の例を示している。なお、図14では図13に示したものと共通する部分には同一符号を付してある。
【0056】
この実施の形態では、クランパー61のクランプブラケット57を形成している一対のブラケット素片62,63について、ヒンジピン45およびボルト48による連結位置を図13のものとは異ならしめてあり、一方のブラケット素片63側に当接部材としての一対の拘束ピン55,56とともにロケートピン51を付帯させてある。また、他方のブラケット素片62には当接部材である拘束ピン54とともにブラケット素片63側の拘束ピン55,56と正対する位置に当接部材として定位置固定式の基準ピン64,65を設けてある。
【0057】
したがって、この実施の形態によれば、双方のブラケット素片62,63同士を閉じてボルト48にて固定した上で基準ピン64,65をフロントサイドメンバー8に当接させ、少なくとも車幅方向においては二つの拘束ピン55,56がフロントサイドメンバー8に当接するまでそれらの拘束ピン55,56の位置調整を行えば良く、先の第4の実施の形態のものと比べてフロントサイドメンバー8の拘束のための作業工数を減らすことが可能となる。
【0058】
図15は本発明の第6の実施の形態を示し、図12に示した矯正治具40に代えて、フロントサイドメンバー8の先端面8aを連結部として拘束する場合の矯正治具70の例を示している。
【0059】
図15に示すように、矯正治具70は、例えば十分な剛性を有した角パイプ状(鋼材製)の連結部材としての治具本体71の両端に各フロントサイドメンバー8の先端面8aに密着して相互に連結するためのブラケット72を結合したものである。その一方、ブラケット72は相手側となる左右のフロントサイドメンバー8の先端面8aの傾斜度合いに応じて平面視にて略くの字状に屈曲させてあるとともに、その折曲部72aにはフロントサイドメンバー8とのボルト74による結合のための長穴(車幅方向に長い穴)73を形成してある。
【0060】
そして、図16に示すように、その折曲部72aのうちフロントサイドメンバー8側の先端面8aと直接接触することになる面には、微小突起部として例えば断面が半円状の複数条のビード部75を形成してある。これは、左右のフロントサイドメンバー8同士を矯正治具70にて連結して拘束した場合に、両者の接触面積を可及的に小さくしつつ折曲部72aとフロントサイドメンバー8との間に隙間を積極的に確保して、例えば電着塗装時にその電着塗膜の付着が阻害される部分を極力少なくするように配慮したものである。
【0061】
また、図17に示すものは図16のビード部75に代えて折曲部72aの四隅に先端が球面状の微小なピン76を突設したものであり、さらに図18に示すものは同じく図16のビード部75に代えて多数の微小突起77を形成したものである。
【0062】
したがって、これらの図16〜18に示した矯正治具70によれば、フロントサイドメンバー8と矯正治具70側のブラケット72との接触が点または線接触のかたちとなるため、例えば電着塗装時に電着塗膜が付着する領域が拡大化されて、矯正治具70を用いたことによる電着塗装不具合の手直し工数を削減できる利点がある。
【0063】
図19〜21は本発明の第7の実施の形態を示し、図4,5に示した第1の実施の形態の矯正治具10に代わるさらに別の矯正治具80の例を示している。より詳細には、先の第1の実施の形態では左右のフロントサイドメンバー8同士を互いに対向することになる内側面をもって相互に拘束・矯正するものであるのに対して、この第7の実施の形態では図9と同様に各フロントサイドメンバー8の上面に矯正治具80を当てがった上でボルト・ナット締結にて固定して拘束・矯正するようにしたものである。
【0064】
すなわち、この第7の実施の形態では、角パイプ状(鋼材製)の治具本体81の両端にブラケット82を連結した矯正治具80を用いており、車体前後方向の所定の位置においてそのブラケット82を左右のフロントサイドメンバー8の上面に当てがった上でボルト・ナット締結にて固定することで、その矯正治具80をもって左右のフロントサイドメンバー8同士を結合するようにしてある。そして、左右のフロントサイドメンバー8同士のスパンに関する熱変形量xと同じく矯正治具80の長手方向での熱変形量xj/2とを予め解析して定量的に把握しておき、両者が共に同等のものとなるように矯正治具80の取付位置(図6の結合位置16)およびその材料を選定することは先の第1の実施の形態と同様である。
【0065】
上記ブラケット82にはボルト83を挿入するための単一または複数のボルト穴84を形成してある一方、フロントサイドメンバー8の上壁面にも矯正治具80との結合位置となるべき位置に同様にボルト穴を形成してあり、そのフロントサイドメンバー8側のボルト穴の周囲にはウエルドナット等のナット85を予め溶接固定してある。また、上記ブラケット82のうちフロントサイドメンバー8との当接面にはボルト穴84と同心円上に複数、例えば三つの突起部86を等ピッチで形成してある。これらの突起部86は先端が半球面状のものであって、その突出高さmは例えば2mm程度に設定してある。
【0066】
なお、上記ブラケット82側のボルト穴84は、フロントサイドメンバー8自体の組み付け誤差を吸収するために車幅方向沿った長穴とすることもある。また、上記複数の突起部86はブラケット82の切削加工時に同時に削り出しによって形成するか、あるいはブラケット82に対して先端が半球面状のピンを圧入することで形成される。さらに、上記突起部86は図22に示すようにボルト穴84の同心円上において四つの配置としてもよい。
【0067】
したがって、この第7の実施の形態によれば、左右のフロントサイドメンバー8同士を矯正治具80にて連結して拘束・矯正するべく、矯正治具80側のブラケット82と各フロントサイドメンバー8とをボルト・ナット83,85にて締結した場合、ブラケット82側の突起部86が各フロントサイドメンバー8の上面に点接触するかたちでそれらのブラケット82とフロントサイドメンバー8とが共締め固定されることになる。そのため、ボルト83の締め付け時にがたつきが発生することがなく、矯正治具80にて左右のフロントクロスメンバー8同士を拘束・矯正したままの状態で以降の各工程、例えば図1に示したようにボデーメイン組立工程S12やメタル工程S13、さらには塗装工程S20へとエンジンコンパートメント2あるいは車体1を順次搬送した場合、その搬送時の振動や塗装オーブンでの加熱時の応力が加わったとしても緩みが発生することがない。
【0068】
しかも、ブラケット82側の突起部86が各フロントサイドメンバー8に対して点接触していてその接触面積が最小化されているため、先の実施の形態と同様に塗装時の塗膜形成、特に電着塗装時の塗膜形成を妨げることがなく、いわゆる電着塗装不具合の手直し工数を削減できることになる。
【0069】
図23は本発明の第8の実施の形態を示し、先の第7の実施の形態と共通する部分には同一符号を付してある。
【0070】
この第8の実施の形態では、矯正治具80を形成している角パイプ状の治具本体81に溶接固定されることになるブラケット92にT溝(Tスロット)87を形成する一方、このT溝87に対して図20〜22と同様の複数の突起部86が形成された段付き円盤状のワッシャー88を遊嵌的に嵌合し、そのT溝87とワッシャー88との隙間の範囲内で当該ワッシャー88が動き得るような自由度を持たせたものである。
【0071】
この第8の実施の形態によれば、各フロントサイドメンバー8に対して矯正治具80を結合するべくにボルト83を締め込んだ場合に、ワッシャー88の突起部86がフロントサイドメンバー8の上壁面に点接触する点では先の第7の実施の形態と同様であるが、ボルト83の締め込みに伴ってワッシャー88が微妙に動きながらセンタリングされることになるので、フロントサイドメンバー8に対するワッシャー88の追従性がよく、がたつき防止および緩み防止効果の上でより有利となる。
【0072】
なお、上記第7,第8の実施の形態の突起部86によるいわゆる点接触構造は、図4,6,8に示した矯正治具10,20,30にも同様に適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】自動車の組立工程の概略を示す工程説明図。
【図2】本発明が適用されるフロントエンドモジュール構造の車体前部の分解斜視図。
【図3】図2の要部拡大図。
【図4】本発明の第1の実施の形態としてフロントサイドメンバーと矯正治具との相対位置関係を示す要部斜視図。
【図5】(A)は図4の要部拡大図、(B)は同図(A)における矯正治具の拡大図。
【図6】(A)は図4に示すフロントサイドメンバーの加熱時の熱変形挙動を示す平面説明図、(B)は矯正治具の同じく加熱時の熱変形挙動を示す平面説明図。
【図7】本発明の第2の実施の形態を示す図で、(A)はフロントサイドメンバーと矯正治具との相対位置関係を示す要部斜視図、(B)は矯正治具の加熱時の熱変形挙動を示す平面説明図。
【図8】図7に示すフロントサイドメンバーの加熱時の熱変形挙動を示す平面説明図。
【図9】本発明の第3の実施の形態としてフロントサイドメンバーと矯正治具との相対位置関係を示す要部斜視図。
【図10】図9に示すフロントサイドメンバーおよび矯正治具の加熱時の熱変形挙動を示す平面説明図。
【図11】図9に示す矯正治具の詳細を示す断面説明図。
【図12】本発明の第4の実施の形態としてフロントサイドメンバーと矯正治具との相対位置関係を示す要部斜視図。
【図13】図12のA部拡大断面説明図。
【図14】本発明の第5の実施の形態として図13の変形例を示す要部拡大断面説明図。
【図15】本発明の第6の実施の形態を示す図で、(A)はフロントサイドメンバーと矯正治具との相対位置関係を示す要部斜視図、(B)は同図(A)におけるB部の拡大斜視図。
【図16】図15の(B)の背面説明図。
【図17】図16の変形例を示す要部斜視図。
【図18】図16の別の変形例を示す要部斜視図。
【図19】本発明の第7の実施の形態を示す図で、フロントサイドメンバーと矯正治具との相対位置関係を示す要部斜視図。
【図20】図19に示す矯正治具の要部正面説明図。
【図21】図20の平面説明図。
【図22】図21における突起部の配置の変形例を示す平面説明図。
【図23】本発明の第8の実施の形態を示す図で、図20と同等部位の要部正面説明図。
【符号の説明】
【0074】
1…車体
2…エンジンコンパートメント
4…フロントエンドモジュール
5…ラジエータコアサポート(車幅方向強度部材)
7…ランプユニット(機能部品)
8…フロントサイドメンバー
8a…先端面
10…矯正治具
11…ストラットハウジング(車体構造部材)
12…治具本体
16…結合位置
20…矯正治具
21…治具本体
23…エクステンション
30…矯正治具
31…治具本体
33…圧電素子(変位発生機構)
34…モータ(アクチュエータ,変位発生機構)
35…スクリューシャフト
36…ボールねじ(アクチュエータ,変位発生機構)
40…矯正治具
41…治具本体(連結部材)
42…クランパー(クランプ手段)
43,44…ブラケット素片
45…ヒンジピン
50…ロケート穴(位置決め穴)
51…ロケートピン(位置決め部材)
52〜56…拘束ピン(当接部材)
57…クランプブラケット
60…矯正治具
62,63…ブラケット素片
64,65…基準ピン(当接部材)
70…矯正治具
71…治具本体(連結部材)
72…ブラケット
80…矯正治具
81…治具本体(連結部材)
82…ブラケット
86…突起部
88…ワッシャー
92…ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向強度部材である少なくともラジエータコアサポートを母体として車体前部の複数の機能部品をフロントエンドモジュールとして予めモジュール化しておき、このフロントエンドモジュールを塗装後の車体前面より装着するようにしたフロントエンドモジュール構造の自動車の車体に塗装を施すにあたり、
車体前部に車幅方向強度部材を有していない車体の左右のフロントサイドメンバー同士を矯正治具で連結してそのフロントサイドメンバー同士のなすスパンを拘束した状態でオーブンを含む塗装工程に車体を通過させるとともに、
上記矯正治具によるフロントサイドメンバー同士の車体前後方向での連結位置として、矯正治具を使用しない状態の車体をオーブンを含む塗装工程を通過させた場合の熱変形に伴う左右のフロントサイドメンバー同士のスパン変位量がオーブンを含む塗装工程を通過させた場合の矯正治具自体の熱変形量と等しくなる位置に設定してあることを特徴とする自動車車体の組立方法。
【請求項2】
少なくとも上記フロントサイドメンバーに隣接してフロントサイドメンバーとともに車体前部を形成している一部の車体構造部材がフロントサイドメンバーとは異なる材質のものであることを特徴とする請求項1に記載の自動車車体の組立方法。
【請求項3】
少なくとも上記フロントサイドメンバーとそれに隣接してフロントサイドメンバーとともに車体前部を形成している一部の車体構造部材との間に接着剤が介装されていることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車車体の組立方法。
【請求項4】
上記矯正治具によるフロントサイドメンバー同士の車体前後方向での連結位置として、矯正治具を使用しない状態の車体をオーブンを含む塗装工程を通過させた場合の熱変形に伴う左右のフロントサイドメンバー同士のスパン変位量がオーブンを含む塗装工程を通過させた場合の矯正治具自体の熱変形量と等しくなる位置に設定するのに代えて、
上記矯正治具によるフロントサイドメンバー同士の車体前後方向での連結位置を任意の位置とするとともに、矯正治具を使用しない状態の車体をオーブンを含む塗装工程を通過させた場合の上記任意の位置での熱変形に伴う左右のフロントサイドメンバー同士のスパン変位量がオーブンを含む塗装工程を通過させた場合の矯正治具自体の熱変形量と等しくなるように矯正治具の線膨張係数を予め調整してあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自動車車体の組立方法。
【請求項5】
上記矯正治具によるフロントサイドメンバー同士の車体前後方向での連結位置をフロントサイドメンバーの先端部とすることを特徴とする請求項4に記載の自動車車体の組立方法。
【請求項6】
車体が塗装工程を経た後であって且つ塗装後の車体に対しフロントエンドモジュールを組み付ける前に矯正治具を取り外すことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の自動車車体の組立方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の自動車車体の組立方法に用いる矯正治具であって、
フロントサイドメンバーに対して矯正治具が点接触または線接触をもって当接するように設定してあることを特徴とする車体矯正治具。
【請求項8】
請求項4または5に記載の自動車車体の組立方法に用いる矯正治具であって、
線膨張係数の異なる複数の部材を長手方向で接続して複合構造としてあることを特徴とする車体矯正治具。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の自動車車体の組立方法に用いる矯正治具であって、
左右のフロントサイドメンバー同士を矯正治具で連結してそのフロントサイドメンバー同士のスパンを拘束した状態の車体をオーブンを含む塗装工程を通過させた場合の熱変形に伴う左右のサイドメンバー同士のスパン変位量のばらつきを打ち消す機能を治具自体が有していることを特徴とする車体矯正治具。
【請求項10】
熱変形に伴い矯正治具の長手方向で発生する応力を打ち消すべくそれと逆方向の変位を発生する変位発生機構を内蔵していることを特徴とする請求項9に記載の車体矯正治具。
【請求項11】
上記変位発生機構は、熱変形に伴い矯正治具の長手方向で発生する応力に応じた起電力を発生する圧電素子と、その圧電素子が発生する起電力をエネルギーとして矯正治具の長手方向の変位を発生するアクチュエータとを備えていることを特徴とする請求項10に記載の車体矯正治具。
【請求項12】
上記アクチュエータは、圧電素子が発生する起電力をエネルギーとする電動モータと、その電動モータの回転出力に応じて螺進作用をなすボールねじから構成されていることを特徴とする請求項11に記載の車体矯正治具。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれかに記載の自動車車体の組立方法に用いる矯正治具であって、
左右のフロントサイドメンバーを抱持するように個別にクランプする一対のクランプ手段と、これら一対のクランプ手段同士を連結する連結部材とをもって構成されていて、
上記クランプ手段は、フロントサイドメンバーの周囲を囲繞する枠状のクランプブラケットに、そのクランプブラケットよりも線膨張係数が大きく且つクランプ時にフロントサイドメンバーの外周面に当接することになる当接部材を装着してあることを特徴とする車体矯正治具。
【請求項14】
上記当接部材はピン状のものであって、クランプブラケットに対する当接部材の軸心方向での位置が調整可能となっていることを特徴とする請求項13に記載の車体矯正治具。
【請求項15】
上記クランプ手段におけるクランプブラケットは、少なくともフロントサイドメンバーよりも線膨張係数の小さな材質のものであることを特徴とする請求項13または14に記載の車体矯正治具。
【請求項16】
上記クランプ手段におけるクランプブラケットには、フロントサイドメンバー側の位置決め穴に係合する位置決めピンを設けてあることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の車体矯正治具。
【請求項17】
上記フロントサイドメンバーに対する当接部材の接触面が球面または円筒面となっていることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の車体矯正治具。
【請求項18】
上記当接部材は、クランプ時にフロントサイドメンバーの稜線部近傍に当接するように設定してあることを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の車体矯正治具。
【請求項19】
上記クランプ手段におけるクランプブラケットは、少なくとも二つのブラケット素片同士をヒンジピンをもって連結することにより開閉可能な構造としてあることを特徴とする請求項13〜18のいずれかに記載の車体矯正治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2008−1341(P2008−1341A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322714(P2006−322714)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】