説明

自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置

【課題】開戸後安全に人の出入りや荷物の出し入れが行える程度の予め設定された時間内のみ、開戸状態を維持させ、設定時間経過後、自動的に引き戸を閉じるようにした自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置を提供すること。
【解決手段】開戸後、引き戸Dが自動的に閉じ方向に移動し、閉戸するようにした自動閉戸装置において、引き戸D側に、時間遅れをもって作動するストッパ12によって開戸状態を一時的に維持するように構成した開戸維持機構1を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置に関し、特に、引き戸を開いた後、付設の自動閉戸装置により自動的に閉戸する際、開戸状態を一定時間維持し、安全に人の出入りや荷物の出し入れが行えるようにした自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、引き戸を自動的に閉じる装置として、引き戸を天井部に配設した吊りレールにランナーを介して吊垂支持した吊り戸式がある。この引き戸を自動的に閉じる装置は、吊りレールを、一端側が他端側より低くなるように傾斜させて配置し、開いた引き戸をその自重と吊りレールの傾斜角とにより自動的に閉じるように構成したもの、あるいは引き戸の開口枠外側に引き戸の開閉操作に同期して上下するように索条を介してバランスウェイトを吊垂し、このバランスウェイトの重量にて自動的に閉じるように構成したもの等がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来の引き戸を自動的に閉じる装置においては、開いた引き戸は、傾斜したレールと引き戸の自重とにより、あるいはバランスウェイトにより自動的に閉じるようにしているが、引き戸を開き終わった時点で、あるいは開戸力を解いた時点で引き戸は、その自重又はバランスウェイトの作用により、直ちに閉じるようになる。
このため、開戸後、人が安全に出入りするのに要する時間だけ開戸状態を維持し、引き戸が妄りに閉じないようにするため、引き戸を手で支えるか、あるいは両手がふさがる場合には引き戸と開口枠との間に障害物を挟む等の操作をしなければならないという問題があった。
【0004】
本発明は、上記従来の自動閉戸装置の有する問題点に鑑み、開戸後安全に人の出入りや荷物の出し入れが行える程度の予め設定された時間内のみ、開戸状態を維持させ、設定時間経過後、自動的に引き戸を閉じるようにした自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本第1発明の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置は、開戸後、引き戸が自動的に閉じ方向に移動し、閉戸するようにした自動閉戸装置において、引き戸側に、時間遅れをもって作動するストッパによって開戸状態を一時的に維持するように構成した開戸維持機構を取り付けたことを特徴とする。
【0006】
また、同じ目的を達成するため、本第2発明の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置は、開戸後、引き戸が自動的に閉じ方向に移動し、閉戸するようにした自動閉戸装置において、引き戸側に、時間遅れをもって作動するストッパによって開戸状態を一時的に維持するように構成した開戸維持機構と、引き戸の開戸方向には軽快に動作し、閉じ方向に対しては一方向クラッチと歯車列とにより減速させるように構成した減速装置とを取り付けたことを特徴とする。
【0007】
この場合において、開戸維持機構を、引き戸の開閉操作により揺動するリンクと、このリンクの揺動により引き戸の閉方向の動作を一時停止させる一方向クラッチ、歯車列よりなるギヤ装置とから構成することができる。
【0008】
また、開戸維持機構を、引き戸の開閉操作により揺動するリンクと、このリンクの揺動により引き戸の閉方向の動作を一時停止させる一方向クラッチ、1コマ送り機構よりなるギヤ装置とから構成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本第1発明の引き戸の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置によれば、引き戸を開き終わったどの位置においても、引き戸に対する開戸力が解除されると、引き戸が自動閉戸装置により閉じる方向へ移動し始めるまでの間、予め設定した時間、引き戸は閉じることなく、開戸状態を維持するようになっているので、特に身体障害者や老人等、動作の緩慢な人に対しても、さらには車椅子での出入りも安全にすることができ、また構造が簡単で、引き戸上部に取り付けられるようになっているため、外部に露出することがないので美観を損ねることなく、容易に実施することができる。
【0010】
また、本第2発明の引き戸の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置によれば、引き戸を開き終わった位置で、引き戸に対する開戸力が解除されると、引き戸が自動閉戸装置により閉じる方向へ移動し始めるまでの間、予め設定した時間、引き戸は閉じることなく、開戸状態を維持するようになっており、また設定時間経過後、自動閉戸装置により引き戸は自動的に閉じるようになるが、このとき付設した減速装置により、引き戸は自動的に制動がかかるようになり、予め定めた緩速度にて閉じるので、特に身体障害者や老人、病人等、動作の緩慢な人に対しても、さらには車椅子での出入りも安全にすることができ、さらに構造が簡単で、引き戸上部に取り付けられるようになっているため、外部に露出することがないので美観を損ねることなく、既設の引き戸にも容易に実施することができる。
【0011】
また、引き戸の開閉操作により揺動するリンクと、このリンクの揺動により引き戸の閉方向の動作時のみ緩速駆動となるよう一方向クラッチ、歯車列より構成するギヤ装置とから構成しているので、構造が簡単で、開戸時の動作が軽快、円滑、確実となり、しかも開戸状態を一時的に確実に維持でき、安全な出入りができるものとなり、歯車列より構成する減速装置の歯車比を変えることにより簡単に開戸維持時間の調整を行うことができる。
【0012】
また、引き戸の開閉操作により揺動するリンクと、このリンクの揺動により引き戸の閉方向の動作時のみ緩速駆動となるよう一方向クラッチ、1コマ送り機構より構成しているので、1コマ送り機構の動作を調節することにより、簡単に開戸状態の維持時間を設定することができるとともに、装置を小型化することができるので、小型の引き戸にも適用することができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置の第1実施例の引き戸の閉戸状態のときの正面図である。
【図2】要部の拡大側面図である。
【図3】開戸維持機構の正面図である。
【図4】ギヤ装置を示し、(A)は断面図、(B)は正面図である。
【図5】吊りガイドレールにカムを取り付けた状態を示す正面図である。
【図6】自閉装置を示し、(A)は正面図、(B)は底面図、(C)は左側面図である。
【図7】減速装置を示し、(A)は一部破断した正面図、(B)は断面図である。
【図8】本発明の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置の第2実施例の開戸維持機構の正面図である。
【図9】同断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1〜図7に、本発明の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置の第1実施例を示す。
引き戸Dの形式は、特に限定されることはないが、この実施例では、吊り戸式とし、開口枠の上部に配設した吊りガイドレールGにて、引き戸Dの上部に取り付けた2〜3個(図示の実施例では2個)のランナーR1、R2を介して吊垂移動可能に支持するとともに、固定側、例えば開口枠側に開かれた引き戸Dを自動的に閉じるようにした自閉装置2を備え、さらに引き戸D側に、予め設定した時間、この開戸状態を維持するための一時開戸状態維持装置Aを備える。
【0016】
吊りガイドレールGは、引き戸Dの開閉時における全移動距離に対応した長さを有し、開口枠の上枠にビス止め等にて固定するようにしたレール台GBと、このレール台GBの下部に、ランナーR1、R2を移動可能に係止できるようにL字形状に一体に形成するレール片GRとより構成し、これは特に限定されることはないが、アルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いて引き抜き等にて一体に形成する。
【0017】
この一時開戸状態維持装置Aは、引き戸D側に取り付ける開戸維持機構1と、引き戸の移動により定位置で開戸維持機構1を作動するようにした吊りガイドレールGの前側面に固定するカム5とより構成する。
【0018】
一時開戸状態維持装置Aの主体となる開戸維持機構1は、図2〜図4に示すように、引き戸Dの上端で、ランナーR1、R2に支障のない位置に、特に限定されるものではないが、L字形をしたブラケットBを介して取り付ける。
この開戸維持機構1は、L字形をしたブラケットB内において、引き戸Dの開閉移動に応じて吊りガイドレールG側に設けたカム5により揺動するようにリンク軸11Sを介して揺動可能に支持するリンク11と、このリンク11の先端に取り付け、揺動するリンク11に応じて移動するようにしたラック15と、リンク基端側に取り付け、リンク11の揺動復帰を阻止するように作用するようにしたストッパ12と、引き戸Dの移動にてリンク11を押し上げ方向に揺動させる押上リンク13と、引き戸Dの開戸状態を予め設定された一定時間、維持するようにしたギヤ装置4とより構成される。
【0019】
リンク11は、その基端側を、L字形をしたブラケットB内にて、調整ねじ11cと固定ねじ11dとによりその取付位置を調整可能としたリンク軸台11Dに、リンク軸11Sを介して揺動可能に支持し、リンク11の一部とブラケットB間に引きばね14を張架し、これにより引き戸Dの開放動作に応じて押上リンク13を介して揺動したリンク11を、揺動前の閉戸状態の位置に、例えば図3に示す実線位置に自動的に復帰させるようにする。
なお、リンク11が押上リンク13により、図3に示す矢符U方向へ押し上げられ、揺動する際、その最大許容押上位置を規制するためブラケットBに板ばね製等のストッパ1SをブラケットBに突設することがある。
また、リンク11の基端側に軸11bを介して揺動可能に取り付けたストッパ12の先端を、特に限定されるものではないが、吊りガイドレールGのレール片GRの天面に対し、円滑に摺接するように円弧形状に、さらには摩擦抵抗の小さな樹脂チップを取り付けるようにして形成する。
【0020】
このストッパ12の長さを、押上リンク13の作用によりリンク11が揺動する前の位置、すなわち図3の実線位置において、吊りガイドレールGのレール片GRの天面位置に対し垂直位置となるストッパ12の下端面が、レール片GRに当接し、摺接可能となるようにして定め、引き戸Dの開放移動動作に応じて、図3に示す矢符U方向へ揺動するようにし、これによりストッパ12は、リンク11の揺動復帰を緩慢になるようにし、引き戸の開戸状態の時間を維持するようにする。
なお、ストッパ12には、復帰用の引きばね12Sを張架し、ストッパ12がデッドポイントとなる垂直位置から所定の傾動方向と反対に傾動しないようにするとともに、ストッパ12が作用するように、ストッパ12の揺動角度を規正する突起12TをブラケットBに突設する。
【0021】
また、押上リンク13は、軸11aを介してリンク11に揺動可能に支持するが、この場合、押上リンク13を支持する軸11aとリンク軸11S間の距離L1及び該リンク軸11Sとストッパを支持する軸11b間の距離L2とが等しくなるように設定し、これによりリンク11のバランスをとるようにする。さらに、押上リンク13の下端には、自由に回転するようにしてローラ13Rを支持する。このローラ13Rは吊りガイドレールGの側面に取り付けた直線状で上面が傾斜勾配を有するカム5の上面を摺接移動する際、押上リンク13をカム5の上面形状に応じて上下方向に移動させ、これによりリンク11を軸11bを中心として揺動させるようにする。
この上下方向に移動する押上リンク13が、常に垂直状態に規制されて移動できるよう、押上リンク13の両側面と当接摺動するようにガイド13G、13GがブラケットB側に突設する。
また、引き戸Dの閉戸方向への移動時には、ローラ13Rをカム5の前側面に沿って移動させ、これにより押上リンク13及びローラ13Rを吊りガイドレールGの前面方向へ突出するように揺動させ、押上リンク13及びローラ13Rがカム5に衝突するのを未然に防止するようにする。
【0022】
また、リンク先端に軸11eを介して支持したラック15は、特に限定されるものではないが、リンク先端部と共にギヤ装置4内に挿入され、下部がギヤ装置4から出没可能に配設するとともに、ギヤ装置4内に配設されたピニオン42と噛合し、リンク11の揺動によりギヤ装置4内のピニオン42を、正方向あるいは逆方向へ回転させるようにする。
【0023】
ギヤ装置4は、図4に示すように、ブラケットB内に配設固定したギヤ装置の箱型をした本体ケース40と、この本体ケース40内に回転可能に支持され、かつ挿入されるラック15と噛合するようにしたピニオン42と、一方向クラッチ43及び複数の歯車45、46、48とを組み合わせて構成する。
この歯車対の歯車45内にピニオン42のボス部を一方向クラッチ43を介して噛合し、ピニオン42の歯部を歯車45より突出させ、ピニオン42と噛合可能とし、さらにピニオン42を、軸44を介して本体ケース40に回転可能に支持するとともに、ラック15の移動によっても常にピニオン42との噛合状態が維持されるようにするため、該ラック15をピニオン42とローラ若しくはベアリング41間に摺動可能に挟み込み、ラック15を常にピニオン42側へ押圧するようにすることができる。
このローラ若しくはベアリング41は、軸41Sによりギヤ装置4の本体ケース40に回転可能に支持される。
これにより、ピニオン42、歯車45間に内蔵する一方向クラッチ43の作用にて引き戸Dの開戸方向に移動する一方向の揺動時にのみ、選択的にピニオン42を介して歯車列を回転させるようにする。
【0024】
また、軸44にて支持されるピニオン42には、一方向クラッチ43とピニオン42よりも大径の歯車45とを同軸的に支持し、ピニオン42が一方向に回転する際、一方向クラッチ43を介して歯車45を回転させ、反対方向の回転に際しては歯車45は回転しないように構成し、さらにこの歯車45には歯車46を噛合させて歯車対を形成し、この歯車対を2段以上配設し、歯車列を構成する。
この歯車46は、前記軸44と平行に配設する軸47に回転可能に支持するが、この2段以上の歯車対をコンパクトに配設するため、平行する2本の軸44、47により対峙するように支持するとともに、歯車46には小径の小歯車46aと大径の大歯車46bとを同軸上に形成し、小歯車46aには歯車45を噛合し、大歯車46bには軸44にて支持された歯車48の小歯車48aと噛合する。
【0025】
なお、この歯車48の大歯車48bには歯形を刻設しないフライホイールとする場合もある。このように互いに噛合する小歯車と大歯車との歯数比を、特に限定されることはないが、5〜10に設定することにより、ピニオン42の回転を徐々に増速して最終段の大歯車48bあるいはフライホイールを高速で回転するようにし、これによりリンク11の復帰時間を延ばし、引き戸の閉まり始めるまでの時間を長くし、開戸状態を維持できるようにする。
なお、この歯車対の歯数比を変えることにより、引き戸の閉まり始めるまでの時間を調節することができる。
【0026】
ところで、吊り戸式の引き戸Dは、引き戸の天面両端部位置に、あるいは大型の引き戸においては両端と中央部の3カ所に突設したランナーR1、R2を、前記吊りガイドレールGのレール片GRの天面に転動可能に支持することにより、引き戸Dが安定して吊垂走行できるようにし、またこの左右両端のランナーR1、R2間に、前記開戸維持機構1を配設し、引き戸Dを閉じる方向の端部の開口枠側に自閉装置2を配設し、この自閉装置2に巻収されたワイヤーロープ等の索条Wの端部を引き戸Dの一部、例えばランナーR2のケーシング等に固着するようにして張架し、引き戸Dの開閉動作時に円滑に巻き出し、巻き取りを行うことができるようにし、索条Wの巻取力により引き戸Dが自動的に閉じるようにする。
このとき、引き戸が高速で閉じないように減速装置3を作用させる。
【0027】
この自閉装置2は、特に限定されるものではないが、図6に示すように、取付プレート22を有する外ケース21により区画された箱状に形成し、その中に、前記索条Wを巻き取る巻取ドラム23及びその蓋24と、巻取ドラム23の内側に配設するとともに、その一端を固定し、索条Wを巻き取る方向に付勢する平板ばねを所要回数渦巻状に巻回したトーションスプリング(図示省略)と、このトーションスプリングの他端を固定する支軸26と、この支軸26を回転することによりトーションスプリングの付勢力を調節するハンドル25とで、その主要部が構成されている。
【0028】
この場合、トーションスプリングの材質、板厚、幅、巻回数等は、所要の長さの索条Wを巻き取るために必要とされる巻取ドラム23の索条Wの巻き取り方向の付勢力の大きさに応じて適宜選定又は設定するようにする。
また、外ケース21には、支軸26に固定したハンドル25の周回方向に沿って所定間隔で係止穴21b、21bを形成し、トーションスプリングの付勢力の大きさを調整し、このいずれかの係止穴21bにハンドル25を係止するようにする。
このハンドル25を係止穴21bとの係止、係止解除を容易に、かつ確実に行うため、ハンドル25を外ケース21外面に押圧するためのばね28を内蔵した押圧手段27をハンドルに備える。
【0029】
また、減速装置3は、ランナーR1、R2間に配設するか、あるいはランナーR1、R2のうち少なくともいずれか一方、例えばランナーR2のケーシング30内に配設する。この減速装置3の配置位置は限定されることはない。
以下、ランナーR2と一体にしてケーシング30内に配設して場合について説明する。
【0030】
この減速装置3は、図1に示すように、引き戸側に取り付け可能としたケーシング30内に、2本の軸31、32を平行に配設し、この一方の軸31に大歯車33を、その筒状をしたボス部33aを回動可能に嵌挿し、このボス部33aの外周にランナーR2を嵌挿し、この場合、ランナー内に、ランナーR2とボス部33aとの間に一方向クラッチ37を形成し、大歯車33の一方向に対してランナーR2を共に回動するも、反対方向の回転に対してはランナーR2を回動させないように構成し、さらに該軸31には、大歯車33と反対側面に小歯車34aと大歯車34bとを一体とした歯車34を、大歯車33及び一方向クラッチ37とは個別的に回動するように同軸上に支持し、また、他方の軸32には、大歯車33、小歯車34aと同時に噛合するように、大歯車35b、小歯車35aを一体とした歯車35と、大歯車34bと噛合し、かつフライホイール3Wを備えた小歯車36とを回動可能に支持し、構成する。
【0031】
この一方向クラッチ37は、特に限定されるものではないが、ランナーR2内に周回方向に傾斜して形成した溝38内にボール又はコロを嵌挿して構成し、これにより一方向にのみ、すなわち引き戸Dが閉じる方向にのみ、動力を大歯車33側に伝達するように構成する。
【0032】
吊りガイドレールGの前側面に固定するカム5は、図5に示すように、上面が引き戸Dの開き方向先端側が低くなるようにした傾斜面5aとし、傾斜面5aの後端側との高低差Hを付すようにし、傾斜面5a上をローラ13Rが、引き戸Dが開くX方向に摺接する際、ローラ13Rを介して押上リンク13を傾斜面5aの高低差Hだけ上方向へ移動させるようにし、このカム5を通過した位置ではリンク11は引きばね14の作用にて引き戻され、図1の実線位置に復帰した状態で、引き戸が完全に開かれるようにすると共に、後端側の側端面5bを傾斜面とする。
これにより引き戸Dが閉じられるY方向に移動するとき、リンク11が降下した位置を維持した状態で、引き戸Dの移動と共にY方向へ移動するとき、ローラ13Rは吊りガイドレールGの前側面に沿って移動し、該ローラ13Rがカム5の側端面5bと当接すると、該側端面5bの傾斜面に従ってローラ13Rがカム5の前面側へ押し出されるようになって、カム5との衝突を防ぎ、ローラ13Rの後退動作を可能とするものである。
なお、このカム5の配設位置は、特に限定されることはないが、図1に示すように、引き戸Dが完全に閉じられる直前と、引き戸Dが予め定めた位置に到来したとき、ローラ13Rはカム5と摺接するようにする。
【0033】
次に、この自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置の動作について説明する。
【0034】
引き戸Dを、図1に示す閉戸位置から開放方向へ(図1において左方向へ)移動すると、引き戸Dの移動量に応じて自閉装置2の索条Wが巻き戻されるとともに、トーションスプリングの付勢力が増すようになり、引き戸Dを自動的に閉じる方向に作用するようになる。そして引き戸Dの開放方向への移動により、吊りガイドレールG上を転動するランナーR2は、一方向クラッチ37の作用にてランナーR1と同様に空転して大歯車33側に動力を伝達しないので、軽快に回動し、引き戸Dには減速抵抗が生じず、軽く開くことができる。
また、引き戸Dの移動に応じて押上リンク13のローラ13Rも移動し、カム5の位置において、カム5の上面の傾斜面5aと摺接して移動するようになり、このカム5の形状に応じて押上リンク13をばねに抗して押し上げるようになって、リンク11を揺動する。
この場合、リンク先端に取り付けられたラック15により、このラック15と噛合されたピニオン42は回転するが、一方向クラッチ43により歯車列への回転は伝達されないので、引き戸Dは軽快に開くことができる。
【0035】
そして引き戸Dが、カム5の位置を過ぎ、さらに開かれる方向へ移動すると、自閉装置2の索条Wも引き続いてトーションスプリングの付勢力に打ち勝つようにして巻き戻され、軽快に引き戸Dは終点まで開くことができる。
このカム5を過ぎる位置までにリンク11は、設定された最大の揺動角θ2まで引きばね14を引張するようにして揺動するとともに、このリンク11に付設されたストッパ12の円弧形をした下端は、吊りガイドレールGのレール片GRの天面に沿って移動するとともに、リンク11の揺動角に応じて図3に示す矢符Z方向へ傾動し、突起12Tによって規正される最大角度θ1まで揺動する。
【0036】
そして、引き戸Dの開放が終了した時点、すなわち引き戸Dを開く力を解除した時点で、引き戸Dは自閉装置2の巻き戻されたトーションスプリングの付勢力により索条Wを巻き取るようになり、引き戸Dには閉じる方向に力が作用し、引き戸Dを閉じる方向へ移動するようになる。
【0037】
この場合、リンク11には、引きばね14の作用にて復帰する力が働くことにより、リンク11の先端に付設したラック15に噛合されたピニオン42が回転し、歯車45、46、48よりなる歯車列に伝達されている。
このリンク11の復帰方向時のピニオンの回転時には、ピニオン42と歯車45間に介在した一方向クラッチ43が作用するものとなって、ピニオン42の回転力は、歯車45、46、48よりなる歯車列に伝達され、これにより、リンク11の揺動復帰速度は減速され、リンク11の急峻な復帰が阻止される。
これにより、リンク11が引きばね14により図1に示す元の位置に復帰するまで、ストッパ12の下端がレール片GRの天面と摺接し、引き戸Dに制動をかけるようになり、引き戸Dは開き終えた位置で一時的に停止した状態、すなわち開戸状態を維持する。
【0038】
次に、リンク11が引きばね14により図1に示す元の位置に復帰すると、ストッパ12も垂直位置となりリンク11の押上力を阻止した状態となり、ラック15によるピニオン42の回転が停止し、一方向クラッチ43が解除され、引き戸Dは自閉装置2により設定された速度で閉じるようになる。
しかし、引き戸Dには減速装置3が付設され、引き戸Dの閉じ方向への移動には、一方向クラッチ37が作用し、ライナーR2の回転力が大歯車33側に伝達されるようになり、歯車列の作用にてフライホイールが高速で回転され、これによりライナーR2に制動をかけるようになって、引き戸Dの閉戸速度を減じ、緩速で閉戸するようになる。
【0039】
また、このとき、閉じる方向に移動する引き戸Dにより、リンク11に付設した押上リンク13及びローラ13Rがカム5の後端面と接する。
このカム5は、後端側の側端面5bが傾斜面となっているので、この傾斜面によりローラ13Rはカム5の前方向へ押し出されるようになり、カム5との衝突が回避され、引き戸Dは引き続き閉じ方向へ移動し、完全に閉戸されるものとなる。
なお、ローラ13Rが、カム5の位置を過ぎると元の位置に自動的に復帰し、次に引き戸を開く際、カム5の傾斜面5aとローラ13Rが接触、摺動可能となる。
【実施例2】
【0040】
また、図8〜図9に、本発明の開戸維持機構本体の第2実施例を示す。
この第2実施例における開戸維持機構1は、第1実施例よりもさらにコンパクトにしたもので、作用は同じである。
開戸維持機構1は、引き戸Dの上端部にL字形のブラケットBを介して取り付け、引き戸Dの開閉移動に応じて揺動するリンク11と、ストッパ12と、押上リンク13と、このリンクの揺動により駆動されるギヤ装置4Aとを組み込んで構成される。
【0041】
このリンク11は、第1実施例と同様に取付位置を調整可能としたリンク軸台11Dにリンク軸11Sを介して揺動可能に支持し、このリンク11の先端にぶら下げるようにラック15を取り付け、リンク基端側には軸11bを介してリンク11の揺動復帰を阻止するようにしたストッパ12を、また中間部には引き戸Dの移動にてリンク11を押し上げ方向に揺動させる押上リンク13を取り付ける。
このリンク11の揺動復帰用のばねを、第2実施例においてはキックばね14Sとし、これをブラケットBとリンク先端との間に配設し、キックばね14Sの作用により、リンク11を常に下方へ押し下げるようにする。
【0042】
また、ストッパ12の下端形状及び長さは、第1実施例と同様に、レール片GRの天面に対し円滑に摺接するように円弧形状に形成し、レール片GRの天面と当接時において略垂直状態となるようにし、引き戸Dの開放動作に応じて傾動するようにする。
押上リンク13の下端には、自由回転するローラ13Rを支持し、第1実施例と同様に、吊りガイドレールGの側面に取り付けたカム5の上面を摺接移動する際、押上リンク13を介してリンク11を揺動させるようにする。
また、リンク先端に軸11eを介して支持したラック15及びリンク先端を、引き戸Dの開戸状態を一時維持するようにしたギヤ装置4A内に挿入されるように配設し、リンク11の揺動時にギヤ装置4A内に納めたピニオンを回転させるようにする。
【0043】
第2実施例におけるギヤ装置4Aは、図8〜図9に示すように、ブラケットB内に配設固定されるとともに、ギヤ装置4Aの本体ケース40内に挿入されるラック15と噛合するようにしたピニオン42と、一方向クラッチ43と、増速用の歯車群、及び1コマ送り機構とより構成する。
軸44により回転可能に支持するピニオン42には、一方向クラッチ43を介してピニオン42と同軸上に歯車45を支持し、この歯車45に対し増速するようにして軸47に支持された1コマ送り機構のラチェットギヤ49を配設する。このラチェットギヤ49に1コマ送りカム50を配設する。
これにより高速で回転しようとするラチェットギヤ49を1歯ずつ確実に送るようにして設定された以上の速度で回転するのを阻止するようにする。
なお、ラック15の背面にはローラ若しくはベアリング41を配設し、ラック15が、リンク11の揺動に応じて移動しても常にピニオン42との噛合状態が維持されるようにする。
【0044】
次に、本第2実施例における作動について説明する。
この第2実施例においても自閉装置2、減速装置3の作動は、第1実施例と同様であるため、その詳細説明を省略する。
引き戸Dの開戸方向への移動により、リンク11に取り付けた押上リンク13は、カム5を介して押し上げられるようになってリンク11が揺動すると、ラック15にてピニオン42を回転させる。
この場合、ピニオン42が回転しても、一方向クラッチ43の作用にて歯車45への回転動力は伝達されない。このため、引き戸Dは、自閉装置2の索条Wを巻き戻すようにして開放する側へ軽快かつ円滑に移動する。
【0045】
引き戸の開放を所定位置まで行って停止したとき、第1実施例と同様に、引き戸Dは閉じ始める。引き戸Dがカム5の位置を過ぎると、リンク11は、キックばね14Sの作用にて復帰するようになり、リンク先端に取り付けたラック15の移動によってこれと噛合するピニオン42を回転させる。
この引き戸Dの閉じ方向への移動により一方向クラッチ43の作用により歯車45を介して1コマ送り機構のラチェットギヤ49が回転する。このとき、ラチェットギヤ49には、1コマ送りカム50が配設されているため、ラチェットギヤ49は1歯ずつ、すなわち1コマずつ、間欠的に回転するものとなって自動的に速度が規制され、引き戸Dの閉じ力がリンク11が復帰するまで一時的に停止するものとなる。
この引き戸が開戸状態で停止している時間は、リンク11が元の位置まで復帰するまでとなる。通常5〜10数秒程度に設定される。
【0046】
リンク11が元の位置まで復帰すると、第1実施例と同様に、引き戸Dは自閉装置2により設定された速度で閉戸するものとなる。
【0047】
以上、本発明の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置について、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、各実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置は、開戸後安全に人の出入りや荷物の出し入れが行える程度の予め設定された時間内のみ、開戸状態を維持させ、設定時間経過後、自動的に引き戸を閉じるようにできるという特性を有していることから、病院、老人介護施設等の自動閉戸装置が適用される施設において好適に用いることができるほか、その他の自動閉戸装置にも広く用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
A 一時開戸状態維持装置
D 引き戸
G 吊りガイドレール
1 開戸維持機構
11 リンク
12 ストッパ
13 押上リンク
14 引きばね
14S キックばね
15 ラック
2 自閉装置
3 減速装置
4 ギヤ装置
4A ギヤ装置
40 本体ケース
42 ピニオン
43 一方向クラッチ
45 歯車
46 歯車
48 歯車
49 1コマ送り機構のラチェットギヤ
50 1コマ送りカム
5 カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開戸後、引き戸が自動的に閉じ方向に移動し、閉戸するようにした自動閉戸装置において、引き戸側に、時間遅れをもって作動するストッパによって開戸状態を一時的に維持するように構成した開戸維持機構を取り付けたことを特徴とする自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置。
【請求項2】
開戸後、引き戸が自動的に閉じ方向に移動し、閉戸するようにした自動閉戸装置において、引き戸側に、時間遅れをもって作動するストッパによって開戸状態を一時的に維持するように構成した開戸維持機構と、引き戸の開戸方向には軽快に動作し、閉じ方向に対しては一方向クラッチと歯車列とにより減速させるように構成した減速装置とを取り付けたことを特徴とする自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置。
【請求項3】
開戸維持機構を、引き戸の開閉操作により揺動するリンクと、このリンクの揺動により引き戸の閉方向の動作を一時停止させる一方向クラッチ、歯車列よりなるギヤ装置とから構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置。
【請求項4】
開戸維持機構を、引き戸の開閉操作により揺動するリンクと、このリンクの揺動により引き戸の閉方向の動作を一時停止させる一方向クラッチ、1コマ送り機構よりなるギヤ装置とから構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の自動閉戸装置における一時開戸状態維持装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−163025(P2011−163025A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27782(P2010−27782)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000205476)大阪金具株式会社 (20)