説明

自動2輪車のフレ―ム

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本考案は、自動2輪車のフレームの構造に関する。
【0002】
【従来の技術】特に大型の自動2輪車においては、フレーム構成として、ステアリングヘッドに結合されかつエンジンを囲みこれを支持する左右のメインアッパー部材あるいは該メインアッパー部材と左右のメインアンダー部材から成るメインフレーム部分と、このメインフレーム部分の後上部から後方へ延びる左右のシートレール部材と、前記メインフレーム部分の後下部から後方上向きに延び前記左右のシートレール部材のそれぞれに結合される左右のリア部材とを主要構成メンバーとし、これらを適宜溶接等で結合して組立てるものが使用されている。また、前記メインフレーム部分の後下部には、後輪支持用のスイングアームを軸支するためのピボット部が設けられている。このような従来の自動2輪車のフレームは、例えば、特開昭63−269792号公報に開示されている。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】しかし、前述のようにヘッドパイプとピボット部との間にエンジンの両側を通る左右のメインアッパー部材を設けるツインチューブタイプのものでは、特に大型のエンジンを搭載する自動2輪車の場合、エンジン幅が広いためにフレーム全幅がかなり幅広くなってしまい、スタイリングやライディングポジションの自由度が狭くなってしまう。また、エンジンのプラグ交換等の作業の際には、前記メインアッパー部材等に支持されている部品(例えば、燃料タンク等)を取り外す必要があり、作業が煩雑になる。
【0004】本考案はこのような従来技術に鑑みてなされたものであり、本考案の目的は、車体の細身のスタイリングデザインが可能となり、充分なクリーナーろ過面積を確保するとともに、フレーム内部スペースの有効活用による構造の簡単化、小型軽量化及び部品点数の削減を図ることができ、さらに、エアクリーナーやプラグ等のメインテナンス性の向上を実現できる自動2輪車のフレームを提供することである。
【0005】
【課題解決のための手段】本考案の自動2輪車のフレームは、ステアリングヘッドからエンジンの所定距離上方を通過した後に下方へ曲がってエンジン後側の車体中央部へ延びるフレーム前部が1本の薄肉中空状のモノコック構造で形成され、前記モノコック構造のエンジン直上部分の断面形状は肉厚が約1.2〜3.2ミリで横幅が約300〜400ミリで高さが約100〜200ミリの四辺形の中空断面形状に選定され、前記モノコック構造の前部側面に空気導入用の吸入ダクトが接続される空気入口が形成され、前記モノコック構造の後部下面にエンジンへの吸気通路が接続される空気出口が形成され、前記モノコック構造の内部の前記空気入口と前記空気出口との間の位置にクリーナーエレメントが固定されている構成とすることにより、上記目的を達成するものである。
【0006】
【実施例】以下、図面を参照して本考案を具体的に説明する。図1は本考案を適用したフレームの一実施例を備えた自動2輪車の模式的側面図である。図1において、自動2輪車は、フレーム1の前端上部のステアリングヘッド2に軸支された前フォーク3に前車輪4を取り付け、フレーム1の中央下部のスイングアームブラケット5に軸支されたスイングアーム6に後車輪7を取り付け、フレーム1の前下部に取り付けたエンジン8で前記後車輪7を駆動するとともに前記前フォーク3の上端部に固定したハンドル9で操向するように構成されている。
【0007】前記スイングアーム6とフレーム1の後上部との間には後輪荷重を支持するためのリヤサスペンション10が装着され、フレーム1の後上部には運転者のシート11が装着されている。図1において、12は車体前部を覆うためのカウリング、13はフレーム1の前記シート11の下方に装着された燃料タンク、14はエンジン8から車体下部を通して車体後部へ延びる排気管を示す。
【0008】図2は図1中のフレーム1の構成を示す模式的斜視図である。図1および図2において、前記フレーム1は、前記ステアリングヘッド2と、該ステアリングヘッド2から前記エンジン8の上方を通して車体中央部へ延びるフレーム前部15と、車体中央部に配設され前記フレーム前部15の後端部に接続される箱部材16と、車体中央部から後方へ延びるフレーム後部17と、前記箱部材16に固定された左右のスイングアームブラケット5と、を溶接等で一体化した構造をしている。このフレーム1は、アルミ系合金または鉄系合金のプレス成形品やパイプ材を溶接、接着またはボルト締結などで一体的に組み付けた構造を有している。
【0009】前記フレーム前部15はエンジン8の上方を通る1本の薄肉中空体(モノコック構造)で構成されている。前記フレーム後部17は、略水平に後方へ延びる左右2本のシートレール18と、車体中央部の下部から後上がりに延びて前記各シートレール18の後端部または中間部に結合される左右2本の補強メンバー19とで形成されている。図示の例では、左右のシートレール18の前端は箱部材16に固定され、左右の補強メンバー19の前端は左右のスイングアームブラケット5を介して箱部材16に固定されている。なお、前記シートレール18および前記補強メンバー19は、直接的に前記箱部材16に接続してもよく、また、スイングアームブラケット5などの他の部材を介して前記箱部材16に接続してもよい。
【0010】前記薄肉中空体のフレーム前部15はエンジン8上方を通過した後の後半部分が下方へ曲がった湾曲形状をしており、その後端下部が箱部材16の上面に結合されている。このフレーム前部(薄肉中空体)15はエンジン吸気のエアクリーナーとして利用されており、その前部に形成された入口20には空気導入用の吸入ダクト21(図1)が接続され、その後部に形成された出口22には気化器23(図1)を含むダウンドラフトタイプの吸気通路30(図1)が接続されている。前記吸入ダクト21の他端はカウリング12の前面に開口しており、空気吸入のために走行時のラム圧を利用できるように構成されている。また、前記フレーム前部15の内部には、クリーナーエレメント24(図1)が設けられている。
【0011】図1および図2において、前記箱部材16は横長の直方体の中空体で形成されており、その両側端面(左右の端面)は開口している。この箱部材16の内部スペースは、バッテリー、アンティロックブレーキユニット、オイルタンク、冷却水タンクなどの比較的重量のある1個または複数個の車載装備品(図示の例ではバッテリー)25を収納保持するために使用される。前記箱部材16の両側の開口端面には、ボルト等の締結手段によって蓋部材26、26が着脱可能に固定されている。前記箱部材16内の装備品25は、前記蓋部材26、26のいずれかを取り外すことにより、出し入れ(または交換)することができる。
【0012】なお、前記箱部材16の片側面のみに開口を設け、該開口に蓋部材26を着脱可能に締結する構造にしてもよく、また、該箱部材16の内部には、比較的重量物の他、所望の小型軽量の装備品を収納してもよい。また、前記箱部材16は、できるだけ大きな容積にし、比較的重量のある複数の装備品を集中させて収納保持するように構成することが好ましい。さらに、この箱部材16の断面形状は、四角に限定されるものではなく、装備品を収納するのに適した形状であれば、台形、その他の多角形など種々の形状にしてもよい。
【0013】図3は図1中の線3−3に沿ったフレーム前部15とエンジン8の横断面図である。図3において、前記薄肉中空体のフレーム前部15の横断面は、左右幅Wが高さHより大きな形状をしており、その寸法形状は車種によって異なるが、例えば、肉厚tが1.2〜3.2ミリ、横幅Wが300〜400ミリ、高さHが100〜200ミリのような寸法形状に選定される。フレーム前部15の断面寸法(特にエンジン8の直上部分の断面寸法)をこのように選定すれば、図3に示すように、並列4気筒などエンジン8の幅が広い場合には、フレーム前部15の幅がエンジン8の幅より狭いか同等程度になるように選定することができる。
【0014】また、フレーム前部15の下面とエンジン8の最上部(例えば、点火プラグ)との隙間Sは、プラグ交換などのエンジン8の保守点検の作業を行ない得る程度の寸法、例えば、50〜150ミリ程度に設定されている。すなわち、燃料タンクや上部カバーなどの上方の部品を取り外すことなく、車体の側方からプラグ交換などのエンジン8の保守点検を行ない得るように構成されている。
【0015】以上説明した実施例によれば、フレーム前部15を薄肉中空体(モノコック構造)とし、該薄肉中空体15をエアクリーナーボックスとして利用するので、車体スペースの有効活用が可能になるとともに、部品の機能的な共用により部品点数の減少および車体の軽量化が可能となる。また、フレーム前部15がエンジン8の上方を通る構成にしたので、エンジン上部の左右を通る2本のアッパーチューブで構成する従来フレームを使用するものより、細身のスタイリングデザインが可能となり、ライディングポジションの自由度を向上させることができた。
【0016】また、フレーム前部15でエアクリーナーを構成するとともに該フレーム前部15とエンジン8との間に所望の隙間Sを設けたので、クリーニングエレメントや点火プラグのメインテナンスといった日常的な整備性を向上させることが可能となった。さらに、燃料タンク13をシート11の下方に配置したので、車両の重心位置が低くなり、走行時における車両の取り扱い性を向上させることができた。また、フレーム前部15を1本の薄肉中空体(モノコック構造)で構成したので、剛性の向上および軽量化が容易なフレーム構成が得られた。さらに、断面積の大きなフレーム前部15でエアクリーナーを構成したので、余分なスペースを必要とせずにエンジン8の吸気抵抗を減少させることもできた。
【0017】
【考案の効果】以上の説明から明らかなごとく、本考案の自動2輪車のフレームによれば、ステアリングヘッドからエンジンの所定距離上方を通過した後に下方へ曲がってエンジン後側の車体中央部へ延びるフレーム前部が1本の薄肉中空状のモノコック構造で形成され、前記モノコック構造のエンジン直上部分の断面形状は肉厚が約1.2〜3.2ミリで横幅が約300〜400ミリで高さが約100〜200ミリの四辺形の中空断面形状に選定され、前記モノコック構造の前部側面に空気導入用の吸入ダクトが接続される空気入口が形成され、前記モノコック構造の後部下面にエンジンへの吸気通路が接続される空気出口が形成され、前記モノコック構造の内部の前記空気入口と前記空気出口との間の位置にクリーナーエレメントが固定されている構成としたので、フレーム前部を1本のモノコック構造で形成することから車体の細身のスタイリングデザインが可能となり、フレーム自体でエアクリーナーを形成することから、充分なクリーナーろ過面積を確保するとともに、フレーム内部スペースの有効活用による構造の簡単化、小型軽量化及び部品点数の削減を図ることができ、さらに、エアクリーナーやプラグ等のメインテナンス性の向上を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案を適用したフレームの一実施例を備えた自動2輪車の模式的左側面図である。
【図2】本考案を適用した自動2輪車のフレームの一実施例の模式的斜視図である。
【図3】図1中の線3−3に沿ったフレーム前部とエンジンの模式的断面図である。
【符号の説明】
1 フレーム
2 ステアリングヘッド
5 スイングアームブラケット
6 スイングアーム
8 エンジン
9 ハンドル
11 シート
13 燃料タンク
15 フレーム前部
16 箱部材
17 フレーム後部
18 シートレール
19 補強メンバー
20 エンジン吸気の入口
22 エンジン吸気の出口
23 気化器
24 クリーナーエレメント
25 バッテリー等の装備品
26 蓋部材
30 吸気通路
W フレーム前部の幅
H フレーム前部の高さ
t フレーム前部の肉厚
S フレーム前部とエンジンとの間の隙間

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 ステアリングヘッド(2)からエンジン(8)の所定距離上方を通過した後に下方へ曲がってエンジン後側の車体中央部へ延びるフレーム前部(15)が1本の薄肉中空状のモノコック構造で形成され、前記モノコック構造のエンジン直上部分の断面形状は肉厚が約1.2〜3.2ミリで横幅が約300〜400ミリで高さが約100〜200ミリの四辺形の中空断面形状に選定され、前記モノコック構造(15)の前部側面に空気導入用の吸入ダクト(21)が接続される空気入口(20)が形成され、前記モノコック構造(15)の後部下面にエンジン(8)への吸気通路(30)が接続される空気出口(22)が形成され、前記モノコック構造(15)の内部の前記空気入口(20)と前記空気出口(22)との間の位置にクリーナーエレメント(24)が固定されていることを特徴とする自動2輪車のフレーム。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【登録番号】第2512877号
【登録日】平成8年(1996)7月9日
【発行日】平成8年(1996)10月2日
【考案の名称】自動2輪車のフレ―ム
【国際特許分類】
【出願番号】実願平3−92280
【出願日】平成3年(1991)10月15日
【公開番号】実開平5−34093
【公開日】平成5年(1993)5月7日
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【参考文献】
【文献】特開昭60−229882(JP,A)
【文献】実開平1−179092(JP,U)
【文献】実公昭35−33616(JP,Y1)