説明

自己プロセッシング性ペプチド切断部位を含む細胞特異的複製適格ウィルス・ベクター

自己プロセッシング性ペプチド切断配列を含む細胞特異的複製適格ウィルス・ベクターが提供される。標的複製適格ウィルス・ベクターは、同じ異種転写調節要素(TRE)の転写制御下にある2つ又は3つ以上の同時転写された遺伝子を含み、少なくとも第2の遺伝子が、自己プロセッシング性切断配列又は2A配列の翻訳制御下にある。ベクター構造の例はさらに、ウィルス・ベクターから自己プロセッシング性ペプチド配列を除去する手段を提供する付加的なタンパク質分解的切断部位を含んでよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年6月3日付けで出願された米国仮出願第60/475,005号の優先権を主張する。この仮出願明細書全体を参考のため本明細書中に引用する。
本発明は、異種転写調節要素(TRE)の転写制御下にある2つ又は3つ以上の同時転写された遺伝子を含む標的複製適格ウィルス・ベクターであって、少なくとも第2の遺伝子が、自己プロセッシング性切断配列又は2A配列の翻訳制御下にある、ウィルス・ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
単一のウィルス性又は非ウィルス性ベクターから2種又は3種以上のタンパク質を発現させるために、それぞれのタンパク質のための個々のプロモーター、又は内部リボソーム侵入部位(IRES)を一般に使用して、それぞれのタンパク質に対応するコード配列を発現させる。2つの遺伝子がIRES配列を介して連関される場合には、第2遺伝子の発現レベルを著しく低減させることがある(Furler他, Gene Therapy 8:864-873(2001))。
【0003】
ウィルス複製と関連する細胞毒性効果を利用した複製適格ウィルス・ベクターが目下のところ、癌治療薬として使用されている。「腫瘍溶解性ベクター」とも呼ばれるこのような複製適格ウィルス・ベクターは、典型的には、転写調節要素(TRE)の制御下にある、ウィルス複製に必須の遺伝子を含み、従ってTREが機能を発揮する細胞に、ウィルス複製を制限する。
【0004】
現在、内部リボソーム侵入部位(IRES)は典型的には、付加的なTREを必要とすることなしに、特異的プロモーターの制御下に2つ又は3つ以上のウィルス遺伝子を配置する手段として役立つ(Li, Y他、Cancer Research, 2001; 17:6428-6436; Zhang, J.他、Cancer Research, 200; 13:3743-3750)。また、内部リボソーム侵入部位を含む細胞特異的アデノウィルス・ベクターについて記載した国際公開第01/73093号明細書を参照されたい。同じプロモーターに作用可能式に連結された2つ又は3つ以上の遺伝子の転写を制御するためにIRESを使用すると、プロモーターに隣接する遺伝子に対して第2の遺伝子、第3の遺伝子などの発現レベルが低くなることがある。加えて、IRES配列は、ベクターのパッケージング制限に伴う問題を提起するのに十分に長いことがある。例えばECMV IRESの長さは507塩基対である。
【0005】
ポリプロテインの形態でタンパク質を連関させることが、ピコルナウィルス科を含む多くのウィルスの複製において採用される戦略である。翻訳時に、ウィルスでコードされたペプチドは、ポリプロテインの急速分子内(シス)切断を媒介することにより、不連続的な成熟タンパク質生成物を産出する。口蹄疫ウィルス(FMDV)は、約225 kDのポリプロテインをコードする単一の長いオープン・リーディング・フレームを発現させるピコルナウィルス科内の一群である。完全長翻訳生成物は、キャプシド・タンパク質前駆体(P1-2A)と、ポリプロテインの複製ドメイン2BC及びP3との間で発生する2A領域のC末端で、急速分子内(シス)切断を被り、そしてこの切断は、2A領域自体のプロテイナーゼ様活性によって媒介される(Ryan他, J. Gen. Virol 72:2727-2732(1991);Vakharia他, J. Virol. 61:3199-3207(1987))。FMDV 2Aによって切断活性を発現させるための必須アミノ酸残基を含む構造が設計されている(Ryan, 1991)。2Aドメインはまた、ピコルナウィルス群のアフトウィルス科及びカルジオウィルス科から特徴付けされている(Donnelly他, J. Gen. Virol. 78:13-21(1997))。
【0006】
口蹄疫ウィルス2A配列は、ポリプロテインの「切断」を媒介することが判っている小ペプチド(約18アミノ酸長)である(Ryan, MD他, EMBO, 1994; 4:928-933; Mattion, NM他, J Virology, 1996年11月; 第8124-8127頁;Furler, S他, Gene Therapy, 2001;8: 864-873; 及びHalpin, C他, The Plant Journal, 1999; 4: 453-459)。2A配列の切断活性は、プラスミド及び遺伝子治療ベクター(AAV及びレトロウィルス)を含む人工系において以前に実証されている(Ryan, MD他, EMBO, 1994; 4:928-933; Mattion, NM他, J Virology, Nov 1996; 第8124-8127頁;Furler, S他, Gene Therapy, 2001;8: 864-873; Halpin, C他, The Plant Journal, 1999; 4: 453-459; de Felipe, P他, Gene Therapy, 1999; 6: 198-208; de Felipe, P他, Human Gene Therapy, 2000; 11: 1921-1931; 及びKlump, H他, Gene Therapy, 2001; 8: 811-817)。
【0007】
2A配列は、同じプロモーターから2つ又は3つ以上の遺伝子を、本質的に等モル量で発現させるのを容易にする能力とともに、低減されたサイズという両方の利点を提供する。2A配列によって媒介された2つ又は3つ以上の遺伝子の発現を、ECMV IRESと直接比較することにより、2A配列を採用するカセット内で、ECMV IRESと比較して二次遺伝子がより高いレベルで発現されることが示された(Furler, S他, Gene Therapy, 2001;8: 864-873)。
【0008】
第1世代の腫瘍溶解性ウィルスは、ウィルス複製を特異的細胞タイプ、すなわち癌細胞に制限するために、細胞タイプ又は細胞状態に対して特異的な調節要素に依存する。しかし、2つ又は3つ以上の細胞タイプ又は細胞状態特異的調節要素を使用すると、その結果、より大きなウィルス複製特異性、及びより大きな標的細胞死滅、例えば癌細胞死滅がもたらされると考えられる。ウィルス・ベクター、例えばアデノウィルスのパッケージング制限と共に、2つ又は3つ以上の遺伝子生成物の制御された発現が必要となることにより、ベクター構造に関する選択肢が限定される。さらに、単一ベクター内部に2つのプロモーターを使用することにより、プロモーターの妨害が生じ、これが両遺伝子の不十分な発現を引き起こすおそれがある。
【0009】
従って、目下利用可能な技術(例えばIRESの使用)に固有の欠点を補正する複製適格ウィルス・ベクターとの関連において、改善された遺伝子発現系が今もなお必要である。本発明は、腫瘍溶解性ウィルスとの関連においてこの必要性に対処する。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、異種転写調節要素(TRE)の転写制御下で2つ又は3つ以上の同時転写された遺伝子を含む改善された複製適格ウィルス・ベクターであって、少なくとも第2の遺伝子が自己プロセッシング性切断部位の翻訳制御下にある、ウィルス・ベクターを提供する。1実施態様において、第1及び第2のウィルス遺伝子は単一のmRNAとして同時転写され、第2遺伝子はプロモーターに作用可能式に連結されず、自己プロセッシング性切断部位の翻訳制御下にある。この実施態様の1観点において、第1及び第2の遺伝子はウィルス複製に必須のウィルス遺伝子である。別の観点において、第1遺伝子はウィルス遺伝子であり、第2の遺伝子は治療遺伝子である。
【0011】
1実施態様の場合、本発明は、異種転写調節要素(TRE)の転写制御下にある必須アデノウィルス遺伝子を含む複製適格アデノウィルス・ベクターであって、必須遺伝子が、アデノウィルス初期遺伝子、例えばE1A、E1B又はE4、又はアデノウィルス後期遺伝子であり、そしてベクターがさらに自己プロセッシング性切断部位の翻訳制御下にある少なくとも第2遺伝子を含む、アデノウィルス・ベクターを提供する。
【0012】
この実施態様の1観点において、第1アデノウィルス遺伝子はE1Aであり、第2アデノウィルス遺伝子はE1Bである。任意には、複製に必須の同時転写アデノウィルス遺伝子のうちの1つ又は2つ以上、例えばE1Aに対応する内在性プロモーターが欠失且つ/又は突然変異させられることにより、遺伝子は異種TREの単独の転写制御下にあるようになる。
【0013】
別の観点において、本発明は、異種TREの制御下にある、ウィルス複製に必須のアデノウィルス遺伝子を含むアデノウィルス・ベクターであって、アデノウィルス遺伝子はE1Aであり、天然型(内在性)E1Aプロモーターは欠失させられ、そしてベクターはさらに、自己プロセッシング性切断部位の転写制御下にある少なくとも第2遺伝子を含む。
【0014】
関連する観点において、アデノウィルス遺伝子はE1Bであり、天然型(内在性)E1Bプロモーターは欠失させられ、E1B遺伝子は異種細胞特異的TREの転写制御下にあり、そしてベクターはさらに、自己プロセッシング性切断部位の転写制御下にある少なくとも第2遺伝子を含む。別の実施態様の場合、第1及び/又は第2のアデノウィルス遺伝子に対応するエンハンサー要素は不活性化され、或いは、アデノウィルス・ベクターは、その内在的サイレンサー要素を不活性にするTREを含む。
【0015】
開示されたベクター中で、細胞特異的発現を導く任意のTREを使用することができる。いくつかの実施態様の場合、標的細胞特異的TREは、細胞状態特異的TREである。さらに別の実施態様の場合、標的細胞特異的TREは、組織特異的TREである。TREの一例としては、前立腺癌細胞、乳癌細胞、ヘパトーマ細胞、メラノーマ細胞、膀胱細胞及び/又は結腸癌細胞に対して特異的なTREが挙げられる。TREの一例としては、細胞タイプ特異的TRE(例えばプロバシン(PB);PSA特異的プロモーター及び/又はPSA特異的エンハンサーを含む前立腺特異的抗原(PSA)TRE;アルファ-フェトプロテイン(AFP)TRE;ヒト・カリクレイン(hKLK2)TRE;チロシナーゼTRE;ヒト・ウロプラキンII(hUPII)TRE;癌胎児性抗原(CEA)TRE;メラニン細胞特異的プロモーター及び/又はメラニン細胞特異的エンハンサーを含むメラニン細胞特異的TRE;HER-2/neu TRE;肝臓特異的CRG-L2 TRE;PRL-3 TRE;ムチン(MUC1)TRE);又は細胞状態TRE(例えばE2F TRE、H19 TRE、又はテロメラーゼ(TERT)TRE)が挙げられる。
【0016】
好ましい自己プロセッシング性切断部位は、2A配列、例えば口蹄疫ウィルス(FMDV)に由来する2A配列を含む。
【0017】
別の好ましい観点において、ベクターは、第1遺伝子と第2遺伝子との間に配置された付加的なタンパク質分解的切断部位、例えばコンセンサス配列RXK(R)R(SEQ ID NO:10として提示)を有するフリン切断部位をコードする配列を含む。
【0018】
本発明はまた、治療ベクター又はコード配列(「トランス遺伝子」とも称される)、例えば細胞毒性遺伝子又はサイトカインに対応するコード配列を含むウィルス・ベクターを提供する。治療遺伝子は、第1ウィルス遺伝子と同じTREの転写制御下にあるか、又は第1ウィルス遺伝子及び第2ウィルス遺伝子と同じTREの転写制御下にあってよく、そして2A配列の転写制御下にあってもなくてもよい。
【0019】
加えて、本発明は、複製適格ウィルス・ベクターと医薬的に受容可能な賦形剤とを含む組成物及び宿主細胞を提供する。宿主細胞は、ベクターの増殖のために使用される細胞、及びベクターが治療目的のために導入される細胞を含む。
【0020】
別の観点において、異種TREの機能を可能にする哺乳動物細胞に対して特異的な複製適格ウィルス・ベクターを増殖させる方法が提供される。この方法は、本発明のウィルス・ベクターと、異種TREの機能を可能にする哺乳動物細胞とを合体させることにより、ウィルス・ベクターが細胞に侵入し、ウィルスが増殖されるようにすることを含む。
【0021】
別の観点において、細胞と本発明の複製適格ウィルス・ベクターとを接触させることにより、標的細胞上に選択的細胞毒性を付与するための方法が提供され、これにより、ベクターは、細胞に侵入してその中で複製する結果、これらの細胞に対する細胞毒性をもたらす。
【0022】
本発明はさらに、腫瘍細胞、例えば標的腫瘍細胞の成長を抑制する方法であって、腫瘍細胞と、本発明の複製適格ウィルス・ベクターとを接触させて、ベクターが腫瘍細胞内に侵入し、これらの細胞に対する選択的細胞毒性を示すようにすることを含む、方法を提供する。
【0023】
さらに別の観点において、標的細胞の遺伝子型を修飾する方法であって、細胞と本発明の複製適格ウィルス・ベクターとを接触させることを含み、ウィルス・ベクターが細胞に侵入してその中で複製する、方法が提供される。
【0024】
発明の詳細な説明
定義
特に断りのない限り、本明細書中に使用される全ての用語は、当業者に使用される場合と同じ意味を有し、本発明の実施は、当業者によく知られているコンベンショナルな微生物学技術及び組換えDENa技術を採用する。
【0025】
本明細書中に使用される「ベクター」という用語は、DNA又はRNA分子、例えばプラスミド、ウィルス又は他のベクターであって、異種又は組換えDNA配列を含有し、そして異なる宿主細胞間を転移するように構成されたものを意味する。「発現ベクター」及び「遺伝子治療ベクター」は、細胞内で異種DNA断片を組込んで発現させるのに効果的な任意のベクターを意味する。クローニングベクター又は発現ベクターは、付加的な要素を含んでよく、例えば発現ベクターは、2つの複製系を有してよく、ひいては、2つの生物内、例えば発現のためにヒト細胞内で、そしてクローニング及び増幅のために原核宿主内で維持されることが可能になる。細胞中への核酸導入にとって効果的である任意の好適なベクターを採用することができるので、タンパク質又はポリペプチド発現は結果として、例えばウィルス・ベクター又は非ウィルス・プラスミド・ベクターをもたらす。発現にとって効果的な任意の細胞、例えば昆虫細胞又は真核細胞、例えば酵母又は哺乳動物細胞が、本発明を実施する上で有用である。
【0026】
「ウィルス構造」又は「ウィルス・ベクター」、例えば「アデノウィルス構造」又は「アデノウィルス・ベクター」は、いくつかの形態、例えばDNA、シンプレックス内に封入されたDNA、リポソーム内に封入されたDNA、ポリリシンと複合されたDNA、合成ポリカチオン性分子と複合されたDNA、トランスフェリンと複合されたDNA、及び分子を免疫学的に「マスキング」し且つ/又は半減期を増大させるためにPEGのような化合物と複合されたDNA、及び非ウィルス性タンパク質と接合されたDNA、のうちのいずれかを成すポリヌクレオチド構造である。好ましくは、ポリヌクレオチドはDNAである。本明細書中に引用される「DNA」は、A、T、C及びGを含むだけではなく、これらの類似体又はこれらの塩基の修飾形態、例えばメチル化ヌクレオチド、ヌクレオチド間修飾形態、例えば非荷電連関及びチオエート、糖類似体の使用、及び修飾型及び/又は別のバックボーン構造、例えばポリアミドをも含む。本発明の目的上、ウィルス・ベクターは、標的細胞内で複製適格である。
【0027】
「複製適格ウィルス・ベクター」は、相補のヘルパー遺伝子の不存在において複製することができるウィルス起源のポリヌクレオチド構造を意味する。
【0028】
本発明のウィルス・ベクターに関して本明細書中に使用される「複製適格」という用語は一般に、特定タイプの細胞又は組織内で優先的に複製するが、しかし他のタイプ内ではより低い程度に複製するか又は全く複製しないアデノウィルス・ベクター及び粒子を意味する。本発明の1実施態様の場合、アデノウィルス・ベクター及び/又は粒子は腫瘍細胞又は異常増殖性組織、例えば充実性腫瘍及びその他の新生物内で選択的に複製する。これらは、米国特許第5,677,178号、同第5,698,443号、同第5,871,726号、同第5,801,029号、同第5,998,205号及び同第6,432,700号の各明細書に開示されたウィルスを含む。これらの開示内容全体を参考のため本明細書中に引用する。このようなウィルスは「腫瘍溶解性ウィルス」又は「腫瘍溶解性ベクター」を意味することもあり、また「細胞溶解性」又は「細胞変性」であると考えることもでき、そして標的細胞の「選択的細胞溶解」をもたらすと考えることもできる。
【0029】
「異種DNA」及び「異種RNA」という用語は、細胞に対して内在性(天然型)でないヌクレオチド、又はこれらのヌクレオチドが内在するゲノムの一部を意味する。一般に、さらに下で説明するように、形質導入、感染、トランスフェクション、又は形質転換などによって、異種DNA又はRNAが細胞に加えられる。このようなヌクレオチドは一般に1つ以上のコード配列を含むが、しかしそのコード配列は発現されるのを必要としない。「異種DNA」という用語は、「異種コード配列」又は「トランス遺伝子」を意味することがある。
【0030】
本明細書中に使用される「遺伝子」又は「コード配列」は、適切な調節配列に作用可能式に連結されると、in vitro又はin vivoでポリペプチド内に転写(DNA)され翻訳(mRNA)される核酸配列を意味する。遺伝子は、コード領域に先行する領域及び後続する領域、例えば5'未翻訳(5'UTR)配列又は「リーダー」配列及び3'UTR配列又は「トレイラー」配列、並びに個々のコード・セグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含んでも含まなくてもよい。
【0031】
組換えDNA構造又はベクターに関して本明細書中に使用される「作用可能式に連結」という用語は、選択されたコード領域の作用制御に関して互いに機能的に関連する、組換えDNA構造又はベクターのヌクレオチド成分を意味する。一般に、「作業連関」DNA配列は隣接しており、分泌リーダーの場合には隣接していて、しかもリーディング・フレーム内にある。しかしながら、エンハンサーは隣接している必要はない。
【0032】
「プロモーター」は、RNAポリメラーゼの結合を導き、これによりRNA合成を促進するDNA配列、すなわち転写を導くのに十分な極小配列である。プロモーター、及び対応するタンパク質又はポリペプチドの発現は、細胞タイプ特異的、組織特異的、又は種特異的であってよい。また本発明の核酸構造又はベクター内には、エンハンサー配列も含まれる。エンハンサー配列はプロモーター配列と隣接していてもいなくてもよい。エンハンサー配列は、プロモーター依存性遺伝子発現に影響を与え、そして天然型遺伝子の5'又は3'領域内に配置されてよい。
【0033】
「エンハンサー」は、隣接遺伝子の転写を刺激又は阻害するシス作用性要素である。転写を阻害するエンハンサーは、「サイレンサー」とも呼ばれる。エンハンサーは、コード配列から、そして転写済領域の下流側の位置から数キロ塩基対(kb)までの距離全体にわたっていずれの配向においても機能することができる(すなわちコード配列と連携することができる)。
【0034】
「調節可能なプロモーター」は、シス又はトランス作用性因子によって影響される活性を有する任意のプロモーター(例えば外部シグナル又は外部作用物質のような誘発性プロモーター)である。
【0035】
「構成的プロモーター」は、ほとんどの時に多くの又は全ての組織/細胞タイプにおいてRNA生成を導く任意のプロモーター、例えば、哺乳動物細胞内でクローニング型DNA挿入体の構成的発現を促進するヒトCMV前初期エンハンサー/プロモーター領域である。
【0036】
「転写調節タンパク質」、「転写調節因子」及び「転写因子」は、本明細書中では互いに置き換え可能に使用され、DNA応答要素と結合し、これにより関連遺伝子の発現を転写調節する核タンパク質を意味する。転写調節タンパク質は一般には、DNA応答要素に直接的に結合するが、いくつかの事例において、DNAとの結合は、別のタンパク質と結合することにより間接的に行われてよい。この別のタンパク質はDNA応答要素に結合するか又は結合される。
【0037】
本明細書中に使用される「内部リボソーム侵入部位」又は「IRES」は、シストロン(タンパク質コード領域)の開始コドン、例えばATGへの直接的な内部リボソーム侵入を促進し、これによりキャップ非依存性の遺伝子翻訳をもたらす要素を意味する。例えばJackson R. J., Howell M. T., Kaminski A.(1990) Trends Biochem Sci. 15(12):477-83)及びJackson R. J.及びKaminski A.(1995) RNA 1(10);985-1000を参照されたい。本明細書中に記載された例は、任意のIRES要素の使用に関する。IRESは、シストロンの開始コドンへの直接的な内部リボソーム侵入を促進することができる。本明細書中に使用される「IRESの翻訳制御下」は、翻訳がIRESと連携し、そしてキャップに依存せずに進行することを意味する。
【0038】
「自己プロセッシング性切断部位」又は「自己プロセッシング性切断配列」は、本明細書中において、翻訳後又は共翻訳プロセッシング性切断部位又は配列として定義される。このような「自己プロセッシング性切断」部位又は配列は、2A部位、配列又はドメイン、又は2A様部位、配列又はドメインによって本明細書中で例示されるDNA配列又はアミノ酸配列を意味する。本明細書中に使用される「自己プロセッシング性ペプチド」は、自己プロセッシング性切断部位又は配列をコードするDNA配列のペプチド発現生成物として定義される。このペプチド発現生成物は、翻訳されると、自己プロセッシング性切断部位を含むタンパク質又はポリペプチドの急速分子内(シス)切断を媒介することにより、不連続的な成熟タンパク質又はポリペプチド生成物を産出する。
【0039】
「多シストロン転写物」は、2つ以上のタンパク質コード配列又はシストロンを含有するmRNA分子を意味する。2つのコード領域を含むmRNAは「二シストロン転写物」と呼ばれる。「5'-近位」コード領域又はシストロンは、翻訳開始コドン(通常AUG)を有するコード領域であり、この領域は、多シストロンmRNA分子の5'-末端に最も近接している。「5'-遠位」コード領域又はシストロンは、その翻訳開始コドン(通常AUG)がmRNAの5'-末端に最も近接する開始コドンではない領域又はシストロンである。「5'-遠位」及び「下流」という用語は、mRNA分子の5'-末端には隣接しないコード領域を意味するために同義的に使用される。
【0040】
本明細書中に使用される「同時転写される」は、2つ(又は3つ以上)のポリヌクレオチドコード領域が、単一の転写制御要素の転写制御下にあることを意味する。
【0041】
本明細書中に使用される「付加的なタンパク質分解的切断部位」という用語は、自己プロセッシング性切断部位に隣接して本発明の発現構造内に組込まれる配列、例えば2A又は2A様配列であって、自己プロセッシング性切断配列による切断の後に残った付加的なアミノ酸を除去する手段を提供する配列を意味する。本明細書中に記載された「付加的なタンパク質分解的切断部位」の一例としては、コンセンサス配列RXK(R)R(SEQ ID NO:10)を有するフリン切断部位が挙げられる。このようなフリン切断部位は、内在性スブチリシン様プロテアーゼ、例えばフリン、及びタンパク質分泌経路内のその他のセリン・プロテアーゼによって切断することができる。
【0042】
本明細書中に使用される「転写応答要素」又は「転写調節要素」又は「TRE」は、ポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、TREが機能するのを可能にする宿主細胞内で、作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を増大させる配列である。TREはエンハンサー及び/又はプロモーターを含むことができる。「転写調節配列」はTREである。「標的細胞特異的転写応答要素」又は「標的細胞特異的TRE」は、特定のタイプの細胞、すなわち標的細胞内で優先的に機能を発揮するポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列である。従って、標的細胞特異的TREは、標的細胞特異的TREが機能するのを可能にする標的細胞内で、作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列を転写する。
【0043】
本明細書中に使用される「標的細胞特異的」、「腫瘍細胞特異的」及び「細胞状態特異的」は、細胞タイプ特異性、組織特異性、発生段階特異性、及び腫瘍特異性、並びに所与の標的細胞の癌状態に対する特異性を含むものとする。「標的細胞特異的TRE」は、細胞タイプ特異的又は細胞状態特異的TRE又は「複合」TREであってよい。「複合TRE」という用語は、細胞タイプ特異的TRE及び細胞特異的TREの両方を含むTREを含む。標的細胞特異的TREは、例えばSV40又はサイトメガロウィルス(CMV)プロモーターを含む異種成分を含むこともできる。「特異的」とは、TREが機能するのを可能にする細胞内で、TREが優先的に機能を発揮し、すなわち、作用可能式に連結されたポリヌクレオチドに、TREが転写活性化を付与することを意味する。言うまでもなく、このような「特異性」とは絶対的である必要はなく、標的細胞内の優先的な複製を必要とする(本明細書中以下でさらに定義する)。
【0044】
本明細書中に使用される「細胞状態特異的TRE」は、細胞状態特異的TREが機能するのを可能にする細胞内で、優先的に機能を発揮し、すなわち作用可能式に連結されたポリヌクレオチドに、転写活性化を付与する。このような細胞は例えば、異常な生理学的状況を含む、特定の生理学的状態を示す細胞である。「細胞状態」はこのように、可逆性且つ/又は進行性である、細胞の所与又は特定の生理学的状況(又は状態)を意味する。生理学的状況は内部又は外部から発生させることができる。例えば生理学的状況は代謝状況(例えば低酸素条件に対する応答における状況)であってよく、又は生理学的状況は熱又は電離放射線によって発生させることもできる。いくつかの実施態様の場合、細胞状態に応じて、TREは低酸素条件(低酸素状態);細胞周期の或る特定段階、例えばS期;高温;電離放射線において、又はその時間中に機能を発揮する。細胞状態特異的応答要素を含有するアデノウィルス・ベクターは、国際公開第00/15820号パンフレットに記載されている。この内容を参考のため本明細書中に明示的に引用する。換言すれば、「細胞状態」は、正常条件下では不可逆的である細胞分化状態に関する「細胞タイプ」とは区別される。
【0045】
標的細胞特異的TREの「機能性部分」は、作用可能式に連結された遺伝子又はコード領域に標的細胞特異的転写を付与して、作用可能式に連結された遺伝子又はコード領域が標的細胞内に優先的に発現されるようになっている部分である。
【0046】
「転写活性化」又は「転写の増大」は、転写が標的細胞内の基礎レベルを、約2倍以上、好ましくは約5倍以上、好ましくは約10倍以上、より好ましくは約20倍以上、より好ましくは約50倍以上、より好ましくは約100倍以上、より好ましくは約200倍以上、さらにより好ましくは約400倍〜500倍以上、さらにより好ましくは約1000倍以上だけ上回ることを意味する。基礎レベルは一般に、非標的細胞(すなわち異なる細胞タイプ)の活性レベル(もしあれば)、又は標的細胞系内で試験した、標的細胞特異的TREを欠くリポーター構造の活性レベル(もしあれば)である。
【0047】
「形質転換」は典型的には、腫瘍遺伝子を発現させ、従って連続成長モード、例えば腫瘍細胞に変換された異種DNA又は細胞を含む細菌を意味するために使用される。細胞を「形質転換」するのに使用されるベクターは、プラスミド、ウィルス、又はその他のビヒクルであってよい。
【0048】
典型的には、細胞は、細胞内に異種DNA(すなわちベクター)を投与、導入又は挿入するために使用される手段に応じて、「形質導入」、「感染」、「トランスフェクト」又は「形質転換」された細胞と呼ばれる。「形質導入」、「トランスフェクト」又は「形質転換」されたという用語は、異種DNAの導入方法とは無関係に、本明細書中で相互置き換え可能に使用することができる。
【0049】
本明細書中に使用される「安定的に形質転換された」「安定的にトランスフェクトされた」及び「トランスジェニック」という用語は、ゲノム内に組入れられた非天然型(異種)核酸配列を有する細胞を意味する。安定的なトランスフェクションは、トランスフェクトされたDNAがゲノム内に安定的に組入れられた娘細胞の個体群から成る細胞系又はクローンが確立されることにより実証される。いくつかの事例の場合、「トランスフェクション」は安定的ではなく、すなわち、一時的である。一時的トランスフェクションの場合、外生的又は異種DNAが発現されるが、導入された配列はゲノム内に組入れられることはなく、エピソーム性であると考えられる。
【0050】
「宿主細胞」は、本発明のウィルス・ベクターのレシピエントであり得る、又はレシピエントであった個々の細胞又は細胞培養を含む。宿主細胞は、単一宿主細胞の子孫を含み、子孫は、自然、偶然、又は任意の突然変異及び/又は変化に基づき、必ずしも元の親細胞と完全に同一(形態学的特性又は総DNA相補体において)である必要はない。宿主細胞は、本発明のアデノウィルス・ベクターをin vivo又はin vitroでトランスフェクト又は感染された細胞を含む。
【0051】
本明細書中に使用される「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、相互置き換え可能に使用することができ、典型的には、本発明の自己プロセッシング性切断部位含有ベクターを使用して発現される当該「タンパク質」及び「ポリペプチド」を典型的に意味する。このような「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、さらに下で説明するように、研究、診断又は治療目的で有用な任意のタンパク質又はポリペプチドであってよい。
「複製」及び「増殖」は、相互置き換え可能に使用され、本発明のウィルス・ベクターが再生又は増殖する能力を意味する。これらの用語は当業者によく理解される。本発明の目的上、複製は、ウィルス・タンパク質、例えばアデノウィルス・タンパク質の生成に関与し、そして一般にはウィルス再生に関する。当業者には標準的な、そして本明細書に記載したアッセイ、例えばバースト・アッセイ又はプラーク・アッセイを用いて、複製を測定することができる。「複製」及び「増殖」はウィルス製造過程に直接的又は間接的に関与する任意の活性を含む。このウィルス製造過程の一例としては、ウィルス遺伝子発現;ウィルス・タンパク質、核酸又はその他の成分の生成;完成ウィルス内へのウィルス成分のパッケージング;及び細胞溶解が挙げられる。
【0052】
本明細書中に使用される「優先的に複製する」又は「優先的な複製」は、ウィルス・ベクターが非標的細胞よりも標的細胞内で多く複製することを意味する。複製適格ウィルス・ベクターに関する「標的」という用語は、ウィルス・ベクターが非標的細胞に対して標的細胞において優先的に複製することを意味する。好ましくは、ウィルス・ベクターは、非標的細胞よりも標的細胞内で著しく高い速度で;好ましくは約2倍以上速く、好ましくは約5倍以上速く、より好ましくは約10倍以上速く、さらにより好ましくは約50倍以上速く、さらにより好ましくは約100倍以上速く、さらにより好ましくは約400〜500倍以上速く、さらにより好ましくは約1000倍以上速く、最も好ましくは約1 x 106以上速く複製する。より好ましくは、ウィルスは標的細胞内だけで複製する(すなわち、非標的細胞内では複製しないか又は極めて低いレベルで複製する)。
【0053】
「転写制御下」は、当業者にはよく理解される用語であり、ポリヌクレオチド配列、通常はDNA配列の転写が、その配列が、転写の開始又は促進に関与する要素に作用可能に(作用上)連関されていることに依存することを示す。
【0054】
「E3領域」(「E3」と相互置き換え可能に使用)は、当業者にはよく理解される用語であり、E3生成物(本明細書中で論議する)をコードするアデノウィルス・ゲノム領域を意味する。一般に、E3領域は、アデノウィルス・ゲノムの約28583と30470との間に配置される。E3領域は、種々の刊行物、例えばWold他(1995) Curr. Topics Microbiol. Immnol. 199:237-274に記載されている。いくつかの実施態様の場合、本発明の組換えアデノウィルス・ベクターは、E3コード領域、例えばE3-6.7 KDa、gp19 KDa、11.6 KDa(ADP)、10.4 KDa(RIDα)、14.5 KDa(RIDβ)、及びE3-14.7 KDaにおける突然変異又は欠失、又はE1b遺伝子の欠失、例えばE1b 19kDタンパク質をコードする遺伝子の欠失、例えばSEQ ID NO:12として提示された欠失を含む。他の実施態様の場合、本発明の組換えアデノウィルス・ベクターは、E3-6.7 KDa、gp19 KDa、11.6 KDa(ADP)、10.4 KDa(RIDα)、14.5 KDa(RIDβ)、及びE3-14.7 KDaから選択されたE3コード領域を含むベクターを提供することにより、1つ以上の天然型E3タンパク質に対応するコード配列を含む。
【0055】
E3領域の「一部」は、E3領域全体よりも少ないことを意味し、例えばポリヌクレオチド欠失、並びにE3領域の1つ又は2つ以上のポリペプチド生成物をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0056】
「E1B 19-kDa領域」(E1B 19-kDaゲノム領域と相互置き換え可能に使用される)は、E1B 19-kDa生成物をコードするアデノウィルスE1B遺伝子のゲノム領域を意味する。野生型Ad5に従って、E1B 19-kDa領域は、ヌクレオチド1714とヌクレオチド2244との間に配置された261bp領域である。E1B 19-kDa領域は、例えばRao他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:7742-7746に記載されている。本発明は、E1B 19-kDa領域の全て又は一部の欠失、並びにE1B 19-kDa領域が突然変異させられている実施態様を含む。
【0057】
本発明の組成物及び方法
本発明は、複製に必須のウィルス遺伝子を発現させる二シストロン又は多シストロン・カセット内に自己プロセッシング性切断部位又は配列を組込む複製適格ウィルス・ベクター、及び/又は治療遺伝子を提供する。これらのベクターは、同じプロモーターの転写制御下での2つ又は3つ以上の遺伝子の発現を改善すること、並びに、IRESを使用して典型的に得られるよりも均等な2つ又は3つ以上の遺伝子の発現を可能にするという利点を提供する。自己プロセッシング性切断部位の使用はまた、それぞれの遺伝子のための別個のプロモーターの必要性を排除し、これによりプロモーター妨害の可能性を排除する。本発明の、自己プロセッシング性切断部位を含有する複製適格ウィルス・ベクターを、ベクターの標的細胞特異的送達、具体的には癌細胞に対して特異的な送達のために使用することもできる。
【0058】
従って、本明細書中に記載された本発明は、2A又は2A様配列によって本明細書中に例示された、自己プロセッシング性切断部位を含有する改善された複製適格ウィルス・ベクター系を提供する。改善されたこの複製適格ウィルス・ベクター系は、単一のプロモーターの転写制御下で2つ又は3つ以上の遺伝子を発現させる機会を提供するので、タンパク質は高い効率で翻訳と同時に切り離される。このような自己プロセッシング性タンパク質/ポリペプチド/ペプチド発現戦略は、複製適格ウィルス・ベクター系及びこれを使用する方法に容易に適用可能である。
【0059】
同じプロモーターの転写制御下にある2つ又は3つ以上の遺伝子は、アデノウィルス遺伝子又は異種遺伝子(トランス遺伝子)であってよく、プロモーターは天然型アデノウィルス・プロモーター又は異種プロモーター(構成的、誘発性であり、細胞タイプ、細胞状態又は組織に対して特異的である)であってよい。
【0060】
転写調節要素(TRE)
細胞及び組織に対して特異的な転写調節要素(TRE)、並びにこれらの同定、分離、特徴付け、遺伝子操作の方法、及び作用可能式に連結されたコード配列を調節するための使用が当業者に知られている。
【0061】
単一遺伝子の転写調節配列から、TREを誘導することができる。種々異なる遺伝子に由来する配列を組合わせて、機能性TREを生成することができ、或いは、TREを合成的に生成することができる(例えばCTP4プロモーター)。TREは、組織又は腫瘍内に存在する細胞のタイプに応じて、組織特異的、腫瘍特異的、発生段階特異的及び細胞状態特異的などであってよい。このようなTREをまとめて、本明細書中では組織特異的又は標的細胞特異的と呼ぶことができる。本明細書中により詳細に記載されたように、標的細胞特異的TREは、任意の数の形態を含むことができる。これらの形態の一例としては、標的細胞特異的プロモーター及び標的細胞特異的エンハンサー;異種プロモーター及び標的細胞特異的エンハンサー;標的細胞特異的プロモーター及び異種エンハンサー;異種プロモーター及び異種エンハンサー;及び前記のものの多量体が挙げられる。所望の標的特異的転写活性が得られる限り、標的細胞特異的TREのプロモーター及びエンハンサー成分は、任意の配向を成し、且つ/又は当該コード配列から任意の距離を置くことができる。転写活性は、当業者に知られた数多くの方法で測定することができるが(下でより詳細に説明する)、しかし一般には、標的細胞特異的TREの制御下にある(すなわち標的細胞特異的TREに作用可能式に連結された)コード配列のmRNA又はタンパク質生成物を検出及び/又は定量することにより、測定される。
【0062】
本発明中でさらに論議するように、標的細胞特異的TREは種々の長さ及び種々の配列組成を有することができる。標的細胞特異的TREは、細胞、例えば前立腺細胞、肝細胞、メラノーマ細胞などの制限された個体群(又はタイプ)において優先的に機能を発揮する。従っていくつかの実施態様の場合、使用されるTREは、下記細胞タイプ;前立腺;肝臓;肺;尿路上皮(膀胱);結腸;肺;卵巣;膵臓;胃;及び子宮のいずれかにおいて優先的に機能を発揮する。
【0063】
当業者には容易に理解されるように、TREは、ポリヌクレオチド配列であり、そしてそのようなものとして、種々の配列順列に関して機能を示すことができる。ヌクレオチド置換、付加及び欠失の方法は当業者に知られており、容易に利用可能な機能アッセイ(例えばCAT又はルシフェラーゼ・リポーター遺伝子アッセイ)は、配列変異体が必要な細胞特異的転写調節機能を示すかどうかを当業者が見極めるのを可能にする。これにより、核酸置換、付加及び/又は欠失を含む、機能上保存されたTRE変異体を、本明細書中に開示されたベクターにおいて使用することができる。従って、変異型TREは標的細胞内で機能し続けるが、しかし最大機能を示す必要はない。事実、所望の結果を達成するために、TREの転写活性の最大活性化が常に必要であるとは限らず、そしてTRE断片によってもたらされる誘発レベルが、特定の用途にとって十分である場合がある。例えば、疾患状態の治療又は緩和のために使用される場合、例えば標的細胞が特に悪性ではなく且つ/又は疾患規模が比較的限られているならば、最大未満の応答で十分なことがある。
【0064】
或る塩基修飾は、結果として発現レベル及び/又は細胞特異性を高めることができる。例えば、TRE内部の核酸配列の欠失又は付加は、これらが通常の形態で存在する場合よりも互いに接近、又は互いに離反するように、転写調節タンパク質結合部位を動かすことができ、或いはこれらの部位を回転させて、これらがDNA螺旋の互いに対向する側に位置するようにすることができ、これにより、TRE結合転写因子間の空間的関係を変化させ、結果として、当業者に知られているように転写を増減させることができる。このように、理論に縛られたくはないが、本開示は、TREに特定の修飾を施す結果として、細胞特異性の向上を含む発現レベルの調節がTREによって導かれる可能性を検討する。発現レベル向上を達成することは、より攻撃的な新生物成長形態の事例において、且つ/又は、より迅速且つ/又は攻撃的な細胞死滅パターンが必要とされる場合(例えば免疫不全患者の場合)に特に望ましい。
【0065】
本発明のベクターにおいて使用するためのTREは、サイレンサーを含んでも含まなくてもよい。サイレンサー(すなわち当業者に知られた負調節要素)の存在は、非標的細胞における転写(ひいては複製)を遮断するのを助けることができる。従って、サイレンサーの存在は、非標的細胞内の複製をより効果的に防止することにより、細胞特異的ベクターの複製を向上させることができる。或いは、サイレンサーの欠如により、標的細胞内の複製を刺激し、ひいては、標的細胞特異性を高めることもできる。
【0066】
TREによって導かれる転写活性(阻害及び向上の両方を含む)を、当業者に知られた(そして下でより詳細に説明される)数多くの方法で測定することができるが、しかし一般には、TREの制御下にある(すなわちTREに作用可能式に連結された)配列によってコードされたmRNA及び/又はタンパク質生成物を検出及び/又は量化することにより、測定される。
【0067】
本発明中で論議するように、TREは種々の長さ及び種々の配列組成を有することができる。異種TREのサイズは、ウィルス・ベクターのキャパシティによって部分的に見極められる。このキャパシティは、検討されるベクター形態に依存する。TREには、一般に最小サイズが好ましい。それというのも最小サイズは、望ましい他の配列、例えばトランス遺伝子及び/又は付加的な調節配列を挿入するための潜在的な空間を提供するからである。好ましい実施態様の場合、このような付加的な調節配列は、自己プロセッシング性切断配列、例えば2A又は2A様配列である。
【0068】
例えば、アデノウィルス・ベクターは、合計でゲノムサイズの約105%又は約1.8 kbまでの余剰配列でパッケージングすることができ、この場合、ウィルス配列の欠失は必要とならない。アデノウィルス・ゲノムから非必須配列が除去される場合には、付加的な4.6 kbの挿入体を許容することができる(すなわち、総挿入キャパシティが約6.4 kbである場合)。
【0069】
アデノウィルス・ベクターの場合、非特異的複製を最小限に抑えるために、内在性(アデノウィルス)TRE(すなわち天然型E1A及び/又はE1Bプロモーター)をベクターから除去するのが好ましい。標的細胞特異的複製を容易にすることの他に、内在性TREの除去は、ベクター内のより大きな挿入キャパシティを提供する。このようなキャパシティは、アデノウィルス・ベクターがウィルス粒子内部にパッケージングされるようになっている場合に特に重要である。さらにより重要なのは、内在性TREの欠失が組換え事象の可能性を防止し、これにより異種TREが欠失させられ、そして内在性TREが、そのそれぞれのアデノウィルス・コード配列の転写制御の役目を引受ける(ひいては非特異的複製を可能にする)ことである。1実施態様の場合、1つ又は2つ以上のアデノウィルス遺伝子の内在性転写制御配列が欠失させられ、1つ又は2つ以上の異種TREによって置換されるように、アデノウィルス・ベクターが構成される。しかしながら、十分な細胞特異的複製優先が保存されているならば、アデノウィルス・ベクター内で内在性TREを維持することができる。これらの実施態様は、内在性TREと、複製に必要な遺伝子コード・セグメントとの間に異種TREを挿入することにより構成される。所要の細胞特異的複製優先は、異種TREの機能を可能にする細胞内のアデノウィルス・ベクターの複製と、異種TREの機能を可能にしない細胞内のアデノウィルス・ベクターの複製とを比較するアッセイを実施することにより見極められる。
【0070】
一般に、TREは標的細胞内のベクターの複製を、TREの不存在における複製基礎レベルと比較して、約2倍以上、好ましくは約5倍以上、好ましくは約10倍以上、より好ましくは約20倍以上、より好ましくは約50倍以上、より好ましくは約100倍以上、より好ましくは約200倍以上、さらにより好ましくは約400倍〜500倍以上、さらにより好ましくは約1000倍以上だけ増大させることになる。許容可能な差異は、実験によって(例えばRNAブロット・アッセイ、RNase保護アッセイ又は当業者に知られたその他のアッセイを用いて、mRNAレベルを測定することにより)見極めることができ、そしてベクターの予定の用途及び/又は所望の結果に依存することになる。
【0071】
特異的標的細胞に向けられた複製適格ウィルス・ベクターは、標的細胞内で優先的に機能を発揮するTREを使用して、発生させることができる。本発明の1実施態様の場合、標的細胞特異的又は細胞状態特異的な異種TREは、腫瘍細胞特異的である。ベクターは、単一の腫瘍細胞特異的TRE、又は腫瘍細胞特異的であり且つ同じ細胞内で機能を発揮する複数の異種TREを含むことができる。別の実施態様の場合、ベクターは、腫瘍細胞特異的である1つ又は2つ以上の異種TREを含み、さらに、組織特異的である1つ又は2つ以上の異種TREを含み、これにより全てのTREが同じ細胞内で機能を発揮する。
【0072】
腫瘍溶解性アデノウィルス・プラットフォームの好ましい実施態様の場合、自己プロセッシング性切断配列、例えば2A又は2A様配列を含有する二シストロン又は多シストロン・カセットが、アデノウィルス初期ウィルス遺伝子(E1A, E1B, E2, E3,及び/又はE4)、又はウィルス寿命サイクルにおいて後期に発現される遺伝子(線維、ペントン及びヘクソン)を含む。
【0073】
或る特定の事例において、例えば癌性標的細胞の比較的不応性の性質又は特定の攻撃性に基づいて、細胞毒活性の度合い及び/又は速度を高めることが望ましい場合がある。細胞毒性に関与するウィルス遺伝子の一例としては、アデノウィルス死タンパク質(ADP)遺伝子が挙げられる。本明細書中に開示される別の実施態様の場合、アデノウィルスは、その内在的プロモーター内の欠失又は内在的プロモーターの欠失を有するアデノウィルスE1B遺伝子を含む。本明細書中に開示される他の実施態様の場合、E1Bの19-kDa領域が欠失される。
【0074】
細胞毒性が高められた標的細胞を提供するために、細胞毒性効果を有する1つ又は2つ以上のトランス遺伝子がベクター内に存在してよい。これに加えて、又はその代わりに、任意には異種TREの選択的転写制御下で、そして任意には自己プロセッシング性切断配列、例えば2A又は2A様配列の転写制御下で、細胞毒性及び/又は細胞死に関与するアデノウィルス遺伝子、例えばアデノウィルス死タンパク質(ADP)遺伝子をベクター内に含めることができる。このことは、異種遺伝子又はトランス遺伝子、例えばHSV-tk及び/又はシトシン・デアミナーゼ(cd)及び/又はニトロレダクターゼの標的細胞特異的細胞毒活性と、細胞特異的発現とを結び付けることにより達成することもできる。HSV-tkを形質導入した後、抗ウィルス薬ガンシクロビルに対して条件付きで感受性であるように、癌細胞を誘発することができる。ガンシクロビルはHSV-tkによって、細胞酵素によりそのトリホスフェート形態に変換され、そして複製哺乳動物細胞のDNA内に組込まれ、DNA複製の阻害及び細胞死を引き起こす。シトシン・デアミナーゼは細胞が、5-フルオロシトシン(5-FC)を代謝して化学治療薬5-フルオロウラシル(5-FU)にすることができるようにする。アデノウィルス・ベクターを介して導入することができる他の所望のトランス遺伝子は、細胞毒性タンパク質をコードする遺伝子、例えばジフテリア毒素、リシン又はアブリンのA鎖(Palmiter他(1987)Cell 50: 435; Maxwell他(1987)Mol. Cell. Biol. 7:1576; Behringer他(1988)Genes Dev. 2:453; Messing他(1992) Neuron 8: 507; Piatak他(1988)J. Biol. Chem. 263: 4937; Lamb他(1985)Eur. J. Biochem. 148: 265; Frankel他(1989) Mol. Cell. Biol. 9:415);アポトーシスを開始することができる因子をコードする遺伝子(例えばFas、Bax、カスパーゼ、TRAIL、及びFasリガンドなど);腫瘍サプレッサー遺伝子、例えばp53, RB, p16, p17及びW9など;数ある能力の中でも、増殖に必須のタンパク質、例えば構造タンパク質をコードするmRNA、又は転写因子に関するアンチセンス転写物又はリボザイムをコードする配列;病原体が細胞内増殖する場合のウィルス・タンパク質又はその他の病原性タンパク質;ヌクレアーゼ(例えばRNase A)又はプロテアーゼ(例えばトリプシン、パパイン、プロテイナーゼK、カルボキシペプチダーゼなど)の遺伝子工学的細胞質変異体をコードする遺伝子、抗血管形成遺伝子、例えばエンドスタチン、アンギオスタチン、sVEGFR3、VEGF-TRAP、又は融合誘導遺伝子、例えばGaLV外膜タンパク質、V22及びVAVなどを含む。
【0075】
多数の異種治療遺伝子又はトランス遺伝子のうちのいずれかを、本発明の複製適格ウィルス・ベクター内に含むことができる。これらのベクターの一例としては、サイトカイン、抗原、及び膜貫通タンパク質など、例えばIL-1, -2, -6, -12, GM-CSF, G-CSF, M-CSF, IFN-α, -β, -χ, TNF-α, -β, TGF-α, -β, NGF, 及びMDA-7(メラノーマ分化関連遺伝子-7、mda-7/インターロイキン-24)などが挙げられる。
【0076】
典型的には、上記二シストロン又は多シストロン・カセットは、転写応答要素、一般には癌又は腫瘍細胞内で優先的に発現される、細胞タイプ又は細胞状態に関連する転写調節要素の制御下に置かれる。従って、所与の構造内に含まれる治療遺伝子は、治療を受ける癌のタイプに応じて変化することになる。
【0077】
当業者に知られているように、TREの活性は誘発性であってよい。誘発性TREは一般に、誘発因子の不存在において低い活性を示し、そして誘発因子の存在においてアップ・レギュレートされる。誘発因子は例えば、核酸、ポリペプチド、小分子、有機化合物及び/又は環境条件、例えば温度、圧力、低酸素状態を含む。誘発性TREは、発現が或る特定の時点又は或る特定の場所でのみ望ましい場合、又は誘発物質を使用して発現レベルを滴定することが望ましい場合に好ましいことがある。例えば、本明細書中及びPCT/US98/04080(参考のため本明細書中に明示的に引用する)に記載されるように、PSE-TRE、PB-TRE及びhKLK2-TREの転写活性は、アンドロゲンによって誘発可能である。従って、本発明の1実施態様において、アデノウィルス・ベクターは誘発性異種TREを含む。
【0078】
本発明において使用されるTREは、種々の形態で存在することができる。TREは多量体を含むことができる。例えば、TREは、縦列を成す2つ以上、3つ以上、4つ以上、又は5つ以上の標的細胞特異的TREを含むことができる。これらの多量体は、異種プロモーター及び/又はエンハンサー配列を含有することもできる。或いはTREは、1つ又は2つ以上のエンハンサー領域と共に、1つ又は2つ以上のプロモーター領域を含むこともできる。TRE多量体は、種々異なる遺伝子に由来するプロモーター及び/又はエンハンサー配列を含むこともできる。所望の標的細胞特異的転写活性が得られる限り、TREのプロモーター及びエンハンサー成分は、互いに対して任意の配向を成していてよく、且つ/又は当該コード配列から任意の距離を置いていてよい。
【0079】
本明細書で使用される、特異的遺伝子に由来するTREは、TREが由来する遺伝子によって参照され、その遺伝子を発現させる宿主細胞内で作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を調節するポリヌクレオチド配列である。例えば、本明細書で使用される「ヒト腺カリクレイン転写調節要素」又は「hKLK2-TRE」はポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、hKLK2-TREが機能するのを可能にする宿主細胞、例えばアンドロゲン受容体を発現させる細胞(好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞)、例えば前立腺細胞内の作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を増大させる配列である。従って、hKLK2-TREはアンドロゲン受容体の結合に対して応答性であり、そして、hKLK2プロモーター及び/又はhKLK2エンハンサーの少なくとも一部(すなわちARE又はアンドロゲン受容体結合部位)を含む。ヒト腺カリクレイン・エンハンサー及びこのエンハンサーを含むアデノウィルス・ベクターは、国際公開第99/06576号パンフレットに記載されている。これを参考のため本明細書中に明示的に引用する。
【0080】
本明細書で使用される「プロバシン(PB) 転写調節要素」又は「PB-TRE」は、ポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、PB-TREが機能するのを可能にする宿主細胞、例えばアンドロゲン受容体を発現させる細胞(好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞、さらにより好ましくは前立腺細胞)内の作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を選択的に増大させる配列である。従って、PB-TREはアンドロゲン受容体の結合に対して応答性であり、そして、PBプロモーター及び/又はPBエンハンサーの少なくとも一部(すなわちARE又はアンドロゲン受容体結合部位)を含む。アンドロゲンを発現させる細胞に対して特異的なアデノウィルスは、国際公開第98/39466号パンフレットに記載されている。これを参考のため本明細書中に明示的に引用する。
【0081】
本明細書で使用される「前立腺特異的抗原(PSA)転写調節要素」又は「PSA-TRE」は、ポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、PSA-TREが機能するのを可能にする宿主細胞、例えばアンドロゲン受容体を発現させる細胞(好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞、さらにより好ましくは前立腺細胞)内の作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を選択的に増大させる配列である。従って、PB-TREはアンドロゲン受容体の結合に対して応答性であり、そして、PSAプロモーター及び/又はPSAエンハンサーの少なくとも一部(すなわちARE又はアンドロゲン受容体結合部位)を含む。前立腺において活性の組織特異的エンハンサー、及びアデノウィルス・ベクター内での使用は、国際公開第95/19434号パンフレット及び同第97/01358号パンフレットに記載されている。これらのそれぞれを参考のため本明細書中に明示的に引用する。
【0082】
本明細書で使用される「癌胎児性抗原(CEA)転写調節要素」又は「CEA-TRE」は、ポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、CEA-TREが機能するのを可能にする宿主細胞、例えばCEAを発現させる細胞(好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞)内の作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を選択的に増大させる配列である。従って、CEA-TREはCEA生成細胞と関連する転写因子及び/又は補因子に対して応答性であり、そして、CEAプロモーター及び/又はCEAエンハンサーの少なくとも一部を含む。癌胎児性抗原を発現させる細胞に対して特異的なアデノウィルス・ベクターは、国際公開第93/39467号パンフレットに記載されている。これを参考のため本明細書中に明示的に引用する。
【0083】
本明細書で使用される「アルファ-フェトプロテイン(AFP)転写調節要素」又は「AFP-TRE」は、ポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、AFP-TREが機能するのを可能にする宿主細胞、例えばAFPを発現させる細胞(好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞)内の(作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の)転写を選択的に増大させる配列である。従って、AFP-TREはAFP生成細胞と関連する転写因子及び/又は補因子に対して応答性であり、そして、AFPプロモーター及び/又はエンハンサーの少なくとも一部を含む。アルファ-フェトプロテインを発現させる細胞に対して特異的なアデノウィルス・ベクターは、国際公開第98/39465号パンフレットに記載されている。これを参考のため本明細書中に明示的に引用する。
【0084】
本明細書で使用される「ムチン遺伝子(MUC)転写調節要素」又は「MUC1-TRE」は、ポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、MUC1-TREが機能するのを可能にする宿主細胞、例えばMUC1を発現させる細胞(好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞)内の(作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の)転写を選択的に増大させる配列である。MUC1-TREはMUC1生成細胞と関連する転写因子及び/又は補因子に対して応答性であり、そして、MUC1プロモーター及び/又はエンハンサーの少なくとも一部を含む。
【0085】
本明細書で使用される「尿路上皮細胞特異的転写応答要素」又は「尿路上皮細胞特異的TRE」は、ポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、尿路上皮特異的TREが機能するのを可能にする宿主細胞、すなわち標的細胞内の作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を増大させる配列である。種々の尿路上皮細胞特異的TREが知られており、尿路上皮細胞と関連する細胞タンパク質(転写因子及び/又は補因子)に対して応答性であり、そして、尿路上皮特異的プロモーター及び/又は尿路上皮特異的エンハンサーの少なくとも一部を含む。尿路上皮細胞特異的転写調節配列は、ヒト又は齧歯類ウロプラキン(UP)、例えばUPI, UPII及びUPIIIなどを含む。ヒト尿路上皮細胞特異的ウロプラキン転写調節配列及びこれらの配列を含むアデノウィルス・ベクターは、国際公開第01/72994号パンフレットに記載されている。これを参考のため本明細書中に明示的に引用する。
【0086】
本明細書で使用される「メラニン細胞特異的転写応答要素」又は「メラニン細胞特異的TRE」は、ポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、メラニン細胞特異的TREが機能するのを可能にする宿主細胞、すなわち標的細胞内の作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を増大させる配列である。種々のメラニン細胞特異的TREが知られており、メラニン細胞と関連する細胞タンパク質(転写因子及び/又は補因子)に対して応答性であり、そして、メラニン細胞特異的プロモーター及び/又はメラニン細胞特異的エンハンサーの少なくとも一部を含む。メラニン細胞特異的TREの活性を測定し、ひいては所与の細胞がメラニン細胞特異的TREが機能するのを可能にするかどうかを見極める方法を本明細書に記載する。本発明を実施する際に使用するためのメラニン細胞特異的TREの例は、チロシナーゼ遺伝子、チロシナーゼ関連タンパク質-1遺伝子の5'-フランキング領域に由来するTRE、チロシナーゼ関連タンパク質-2遺伝子の5'-フランキング領域に由来するTRE、MART-1遺伝子の5'-フランキング領域に由来するTRE、又はメラノーマにおいて異常に発現される遺伝子の5'-フランキング領域に由来するTREを含む。
【0087】
別の観点において、本発明は、アデノウィルス複製に必須の遺伝子に作用可能式に連結されたPRL-3遺伝子に由来する転移性結腸癌特異的TREを含む複製適格アデノウィルス・ベクターを提供する。本明細書に使用される「PRL-3遺伝子に由来する転移性結腸癌特異的TRE」又は「PRL-3 TRE」は、ポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、PRL-3 TREが機能するのを可能にする宿主細胞、例えば細胞(好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞、さらにより好ましくは転移性結腸癌細胞)内の作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を選択的に増大させる配列である。転移性結腸癌特異的TREは、1つ又は2つ以上の調節配列、例えばエンハンサー、プロモーター、及び転写因子結合部位などを含んでよい。これらの調節配列は同じ又は異なる遺伝子に由来することができる。1つの好ましい観点において、PRL-3 TREはPRL-3プロモーターを含む。1つの好ましいPRL-3 TREは、国際公開第04/009790号パンフレット(これを参考のため本明細書中に明示的に引用する)に記載された、PRL-3遺伝子に対応する翻訳開始コドンの上流の0.6kbの配列に由来する。
【0088】
別の観点において、本発明は、アデノウィルス複製に必須の遺伝子に作用可能式に連結されたCRG-L2遺伝子に由来する肝臓癌特異的TREを含む複製適格アデノウィルス・ベクターを提供する。本明細書に使用される「CRG-L2遺伝子に由来する肝臓癌特異的TRE」又は「CRG-L TRE」は、ポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列であって、CRG-L2が機能するのを可能にする宿主細胞、例えば細胞(好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞、さらにより好ましくは肝細胞癌細胞)内の作用可能式に連結されたポリヌクレオチド配列の転写を選択的に増大させる配列である。肝細胞癌特異的TREは、1つ又は2つ以上の調節配列、例えばエンハンサー、プロモーター、及び転写因子結合部位などを含んでよい。これらの調節配列は同じ又は異なる遺伝子に由来することができる。1つの好ましい観点において、米国仮出願第60/511,812号明細書(これを参考のため本明細書中に明示的に引用する)に記載されているように、CRG-L2 TREは、CRG-L2遺伝子に対応する翻訳開始コドンの上流の0.8kbの配列に由来するか、又は0.8kbの配列(残基119-803)内部に含有された0.7 kbの配列に由来するか;又は、0.8kbの配列に由来するEcoRIからNcoIまでの断片に由来してよい。
【0089】
別の観点において、本発明は、アデノウィルス複製に必須の遺伝子に作用可能式に連結されたEBV特異的転写調節要素(TRE)を含む複製適格アデノウィルス・ベクターを提供する。1観点において、米国仮出願第60/423,203号明細書(これを参考のため本明細書中に明示的に引用する)に記載されているように、EBV特異的TREは、LMP1, LMP2A又はLMP2B遺伝子に対応する翻訳開始コドンの上流の配列に由来する。EBV特異的TREは、1つ又は2つ以上の調節配列、例えばエンハンサー、プロモーター、及び転写因子結合部位などを含んでよい。これらの調節配列は同じ又は異なる遺伝子に由来することができる。
【0090】
さらに別の観点において、本発明は、アデノウィルス複製に必須の遺伝子に作用可能式に連結された低酸素応答性要素(「HRE」)を含む複製適格アデノウィルス・ベクターを提供する。HREは、転写複合体HIF-1又は低酸素誘発性因子-1のための結合部位を含む転写調節要素である。この転写調節要素は、血管内皮成長因子を含むいくつかの遺伝子、及びエノラーゼ-1を含む糖分解酵素をコードするいくつかの遺伝子の調節領域と相互作用する。従って1実施態様において、国際公開第00/15820号パンフレット(これを参考のため本明細書中に明示的に引用する)にさらに記載されているように、アデノウィルス・ベクターは、細胞状態特異的TRE、例えばHREの転写制御下にあるアデノウィルス遺伝子、好ましくは複写に必須のアデノウィルス遺伝子を含む。
【0091】
内部リボソーム侵入部位(IRES)
単一のウィルス性又は非ウィルス性ベクターから2種又は3種以上のタンパク質を発現させるために、内部リボソーム侵入部位(IRES)配列を一般に使用して、第2、第3、第4の遺伝子などを発現させる。IRESの使用は多くの人々によって最先端技術と考えられているが、2つの遺伝子がIRESを介して連関されると、第2遺伝子の発現レベルがしばしば著しく低減される(Furler他, Gene Therapy 8:864-873(2001))。事実、同じプロモーターに作用可能式に連結された2つ又は3つ以上の遺伝子の転写を制御するためにIRESを使用すると、プロモーターに隣接する遺伝子に対して第2の遺伝子、第3の遺伝子などの発現レベルが低くなることがある。加えて、IRES配列は、ベクターのパッケージング制限に伴う問題を提起するのに十分に長いことがある。例えばECMV IRESの長さは507塩基対である。
【0092】
IRES要素は、ピコルナ・ウィルスmRNA中で最初に発見された(Jackson R. J., Howell M. T., Kaminski A.(1990) Trends Biochem Sci. 15(12):477-83)及び(Jackson R. J.及びKaminski A.(1995) RNA 1(10);985-1000)。当業者によって一般に採用されるIRESの例は、一般には表Iで参照されるもの、並びに米国特許第6,692,736号明細書に記載されたものを含む。当業者に知られたIRESの一例としては、ピコルナ・ウィルスから得ることができるIRES(Jackson他, 1990)及びウィルス性又は細胞性mRNA源、例えば免疫グロブリン重鎖結合タンパク質(BiP)、血管内皮成長因子(VEGF)(Huez他(1998) Mol. Cell. Biol. 18(11):6178-6190)、線維芽細胞成長因子2(FGF-2)、及びインスリン様成長因子(IGFII)、翻訳開始因子eIF5G及び酵母転写因子TFIID及びHAP4、及びNovagenから商業的に入手可能な脳心筋炎ウィルス(EMCV)(Duke他(1992) J. Virol 66(3):1602-9)が挙げられる。IRESは、種々異なるウィルス、例えばカルジオウィルス、ライノウィルス、アフトウィルス、HCV、フレンド・マウス白血病ウィルス(FrMLV)及びモロニー・マウス白血病ウィルス(MoMLV)においても報告されている。本明細書中に使用される「IRES」という用語は、変異形がシストロンの開始コドンへの直接的な内部リボソーム侵入を促進できる限り、IRES配列の機能性変異形を含む。IRESは哺乳動物性、ウィルス性又は原生動物性であってよい。
【0093】
表1. IRESに関する参考文献
【表1】

【0094】
IRESは、下流側シストロンの開始コドンへの直接的な内部リボソーム侵入を促進し、キャップ非依存性翻訳をもたらす。こうして、下流側シストロンを、二シストロン(又は多シストロン)mRNAから発現させることができ、この場合、ポリプロテインの切断又はモノシストロンmRNAの発生を必要とすることはない。一般に使用される内部リボソーム侵入部位は、約40ヌクレオチド長であり、一次配列の中程度の保存と、二次構造の強度の保存とによって特徴付けられる。IRESの最も有意な一次配列特徴は、ピリミジンに富んだ部位であり、この部位の開始位置は、IRESの3'末端から約25個のヌクレオチド分だけ上流側にある。Jackson R. J.他, 1990を参照されたい。
【0095】
3つの主要なピコルナ・ウィルス・クラスが同定され特徴付けられている:(1)カルジオ-及びアフトウィルスのクラス(例えば脳心筋炎ウィルス、Jang他(1990) Gene Dev 4:1560-1572);(2)エンテロ-及びライノウィルスのクラス(例えばポリオウィルス、Borman他(1994) EMBO J. 13:314903157);及び(3)A型肝炎ウィルス(HAV)クラス、Glass他(1993) Virol 193:842-852)。最初の2つのクラスに関しては2つの一般原理が当てはまる。第1に、IRESの450ヌクレオチド配列のほとんどが、リボソーム結合及び翻訳開始につながる特定の二次及び三次構造を維持するように機能する。第2に、リボソーム侵入部位は、保存オリゴピリミジン域から約25個のヌクレオチド分だけ下流側で、IRESの3'末端にAUGトリプレットが配置される。翻訳開始は、リボソーム侵入部位(カルジオウィルス)又は次の下流側AUG(エンテロ/ライノウィルス・クラス)で生じることができる。開始はアフトウィルス内の両部位で生じる。
【0096】
HCV及びペスチウィルス、例えばウシ・ウィルス性下痢ウィルス(BVDV)又は古典的なブタ・コレラ・ウィルス(CSFV)はそれぞれ341 nt及び370 nt長の5'-UTRを有している。これらの5'-UTR断片は、同様のRNA二次構造を形成し、そして中程度に効率的なIRES機能を有することができる(Tsukiyama-Kohara他(1992)J. Virol. 66:1476-1483; Frolov I他, (1998) RNA 4:1418-1435)。最近の研究が示したところによれば、フレンド・マウス白血病ウィルス(MLV) 5'-UTR及びラット・レトロトランスポゾン・ウィルス様30S(LV30)配列は、レトロウィルス起源のIRES構造を含有する(Torrent他(1996) Hum Gene Ther 7:603-612)。
【0097】
真核細胞の場合、翻訳は通常、開始因子の制御下で、キャップされたmRNA 5'末端からリボソームが走査することにより開始される。しかし、いくつかの細胞mRNAが、キャップ非依存性翻訳を媒介するためのIRES構造を有することが判っている(van der Velde他(1999) Int J Biochem Cell Biol. 31:87-106)。その例は、免疫グロブリン重鎖結合タンパク質(Bip)(Macejak他(1991) Nature 353:90-94)、ショウジョウバエのアンテナペディアmRNA(Oh他(1992) Gene and Dev 6:1643-1653)、線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)(Vagner他(1995) Mol Cell Biol 15:35-44)、血小板由来成長因子B(PDGF-B)(Bernstein他(1997)J Biol Chem 272:9356-9362)、インスリン様成長因子II(Teerink他(1995) Biochim Biophys Acta 1264:403-408)、及び翻訳開始因子eIF4G(Gan他(1996)J Biol Chem 271:623-626)である。最近では、血管内皮成長因子(VEGF)もIRES要素を有することが判った(Stein他(1998) Mol Cell Biol 18:3112-3119; Huez他(1998) Mol Cell Biol 18:6178-6190)。
【0098】
実施例2に示すように、IRES配列を試験して、2A配列と比較することができる。1プロトコル例において、IRES、試験されるべき2A又は2A様配列の翻訳制御下に置かれた1つのトランス遺伝子、例えばPF-4又はVEGF-TRAPを用いて、試験ベクター又はプラスミドを生成する。IRES-又は2A-リポーター遺伝子配列を含有するベクター又はプラスミドを細胞にトランスフェクトし、アッセイを実施してトランス遺伝子の存在を検出する。一例において、試験プラスミドは、CMVプロモーターによって転写駆動された、同時転写されたPF-4及びVEGF-TRAPのコード配列を含む。PF-4又はVEGF-TRAPコード配列は、IRES、試験されるべき2A又は2A様配列によって翻訳駆動される。当業者に知られた手段によって、宿主細胞に試験ベクター又はプラスミドを一時的にトランスフェクトし、宿主細胞をトランス遺伝子の発現に関してアッセイする。
【0099】
当業者に知られた標準的な組換え法及び合成法を用いて、IRESを調製することができる。クローニングの便宜上、使用されるべきIRES断片の末端内に制限部位を遺伝子工学的に作成することができる。
【0100】
内部リボソーム侵入部位はまた、複製適格又は複製欠陥ベクター系内のトランス遺伝子の発現を制御するための一般的なメカニズムであることが判っている[Tahara H他, J. Immunol. 1995年6月15日;154(12):6466-74; Urabe M.他, Gene. 1997年10月24日;200(1-20):157-62;及びZhou Y.他, Hum Gene Ther. 1998年2月10日;9(3):287-93]。内部リボソーム侵入部位の有用性は、多シストロン・カセット内の下流側シストロンの発現レベルが低いことにより制限される(Zhou Y.他, Hum Gene Ther. 1998及びMizuguchi H.他, Mol Ther. 2000年4月; 1(4):376-82)。腫瘍溶解性アデノウィルスの場合、IRES(203塩基対の既知の最小配列)は、スペースが制限されたゲノム内で貴重な空間を消費することがある(Urabe M.他, Gene. 1997年10月24日;200(1-20):157-62)。
【0101】
自己プロセッシング性切断部位又は配列
上に定義された「自己プロセッシング性切断部位」又は「自己プロセッシング性切断配列」は、DNA又はアミノ酸配列であって、翻訳時に、自己プロセッシング性切断部位を含むポリペプチドの急速分子内(シス)切断が発生し、その結果、不連続的な成熟タンパク質又はポリペプチド生成物を産出する。このような「自己プロセッシング性切断部位」は、翻訳後又は共翻訳プロセッシング性切断部位と呼ぶこともできる。この部位は、本明細書中では2A部位、配列又はドメインによって例示される。2A部位、配列又はドメインは、エステル結合の加水分解を促進するリボソームの活性を修飾し、これにより翻訳複合体からポリペプチドを放出して、不連続的な下流翻訳生成物の合成が進行するのを可能にすることにより、翻訳効果を実証することが報告されている(Donnelly, 2001)。或いは、2A部位、配列又はドメインは、それ自体のC末端をシスで切断して一次切断生成物を生成することにより、「自己タンパク質分解」又は「切断」を実証する(Furler; Palmenberg, Ann. Rev. Microbiol. 44:603-623(1990))。
【0102】
口蹄疫ウィルス2Aオリゴペプチドは、リボソーム・スキップ・メカニズムを通して2つの配列タンパク質の翻訳を媒介することが以前に実証されている(Donnelly, ML他, J Gen Virol 2001年5月;82(Pt 5):1013-25; Szymczak AL.他, Nat Biotechnol. 2004年5月;22(5):589-94., Klump H.他, Gene Ther. 2001年5月;8(10):811-7;De Felipe P他, Hum. Gene Ther. 2000年9月1日;11(13): 1921-1931; Halpin, C他, Plant J. 1999年2月;17(4):453-9; Mattion, NM他, J Virol. 1996年11月; 70(11):8124-7;及びde Felipe, P他, Gene Ther. 1999年2月;6(2):198-208)。複数のタンパク質が単一のオープン・リーディング・フレーム(ORF)としてコードされる。二シストロン系内での翻訳中、上流遺伝子の3'末端にFMDV 2A配列が存在することにより、下流側シストロンとのペプチド結合形成が無効になり、その結果、「リボソーム・スキップ」が生じ、そして、翻訳されたFMDV 2Aオリゴペプチドが下流側タンパク質に付着される(Donnelly, ML他, J Gen Virol. 2001年5月;82(Pt 5):1013-25)。プロセッシングが、90〜99%もの高さであると評価される化学量論的状態で発生し、その結果、モル当量に近い両タンパク質種が生じる(Donnelly, ML他, J Gen Virol. 2001年5月;82(Pt 5):1027-41)。さらに、欠失分析によって、アミノ酸配列依存性プロセッシング活性が、FMDV 2AオリゴペプチドのC末端の小区分に局在化された(Ryan, MD他, EMBO J. 1994年2月15日; 13(4):928-933)。ピコルナ・ウィルス群のほとんどの員(FMDVが属する)が、個々のタンパク質を生成するための類似の共翻訳プロセッシング・メカニズムを使用する(Donnelly, ML他, J Gen Virol. 2001年5月;82(Pt 5):1027-41)。実際に、刊行物には、13アミノ酸という小さな断片がリボソーム・スキップを引き起こし得ることが示されている(Ryan, MD他, EMBO J. 1994 2月15日; 13(4):928-933)。二シストロン・ベクター系内にペプチドの切断変異体を組込むことにより、プロセッシング活性のほとんど全てが非ウィルス・ベクター系内でも保存されることが実証された(Donnelly, ML他, J Gen Virol. 2001年5月;82(Pt 5):1027-41)。これらのタイプの要素を戦略的に配置することにより、単一プロモーター下で、最大4つの遺伝子が効率的に発現された(Szymczak AL他, Nat Biotechnol. 2004年5月;22(5):589-94.)。従って、自己プロセッシング性切断部位、例えばFMDV 2Aオリゴペプチドは、IRESのサイズ及び効率に関する制約を克服するための利点を提供する。
【0103】
このメカニズムは本発明の部分ではないが、2A様配列の活性は、ペプチド結合の形成を防止するコドン間のリボソーム・スキップに関与することができる(de Felipe他, Human Genen Therapy 11: 1921-1931(2000); Donnelly他, J. Gen. Virol;82:1013-25;(2001))。しかし、このドメインはむしろ自己分解酵素のように作用する(Ryan他, Virol. 173:35-45(1989))。口蹄疫ウィルス(FMDV)2Aコード領域を発現ベクター内にクローニングし、そして標的細胞内にトランスフェクトする研究において、小麦胚芽溶解物及びトランスジェニック・タバコ植物 (Halpin他, USSN 5,846,767; 1998及びHalpin他, The Plant Journal 17:453-459, 1999);Hs 683 ヒト・グリオーマ細胞系(de Felipe, P他, Gene Therapy 6: 198-208, 1999)(以後「de Felipe II」と呼ぶ);ウサギ網状赤血球溶解物及びヒトHTK-143細胞(Ryan他, EMBO J.13:928-933(1994);及び昆虫細胞(Roosien他, J. Gen. Virol. 71:1703-1711, 1990)中に、人工リポーター・ポリプロテインのFMDV 2A切断が示された。異種ポリプロテインのFMDV-2A媒介型切断は、IL-12に関して示されている(p40/p35ヘテロ二量体;Chaplin他, J. Interferon Cytokine Res. 19:235-241, 1999)。この参考文献は、トランスフェクトされたCOS-7細胞において、FMDV 2Aが、p40-2A-p35ポリプロテインを切断することにより、IL-12と関連する活性を有する生物学的機能性サブユニットp40とp35とにすることを媒介したことを実証する。
【0104】
FMDV 2A配列は単独で、又は異なるIRES配列との組合わせでレトロウィルス・ベクター内に組込まれることにより、二シストロン、三シストロン及び四シストロン・ベクターを構成した。動物における2A媒介型遺伝子の発現効率は、a-シヌクレイン及びEGFP又はCu/Znスーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD-1)、及びFMDV 2A配列を介して連関されたEGFPをコードする組換えアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを使用して、Furler(2001)によって実証された。EGFP及びa-シヌクレインは、2A配列を含むベクターから、対応するIRES系ベクターと比べて著しく高いレベルで発現されたのに対して、SOD-1は、同程度のレベル又は僅かに高いレベルで発現された。Furlerはまた、2A配列が、2A含有AAVベクターをラット黒質内に注入した後、in vivoで二シストロン遺伝子を発現させることを実証した。
【0105】
本発明の場合、自己プロセッシング性切断部位をコードするDNA配列は、例えばエンテロウィルス、ライノウィルス、カルジオウィルス、アフトウィルス、又は口蹄疫ウィルス(FMDV)を含むピコルナウィルスに由来するウィルス配列によって例示される。好ましい実施態様の場合、自己プロセッシング性切断部位コード配列は、FMDVに由来する。自己プロセッシング性切断部位は例えば、2A及び2A様部位、配列又はドメインを含む(Donnelly他, J. Gen. Virol. 82:1027-41(2001)。
【0106】
本発明のベクター構造に対応する2つ又は3つ以上の異種DNA配列の間で2A配列をポジショナル・サブクローニングすると、単一プロモーターとの作用可能式な連結により、2つ又は3つ以上のオープン・リーディング・フレームの送達及び発現が可能になる。FMDV 2Aは、FMDVゲノム内で機能することにより、それ自体のC末端で単一の切断を導き、ひいてはシスで機能するポリプロテイン領域である。FMDV 2Aドメインは典型的には、約19アミノ酸長(LLNFDLLKLAGDVESNPGP(SEQ ID NO:1);TLNFDLLKLAGDVESNPGP(SEQ ID NO:2);Ryan他, J. Gen. Virol. 72:2727-2732(1991))であることが報告されているが、13アミノ酸という僅かな残基(LKLAGDVESNPGP(SEQ ID NO:3))を有するオリゴペプチドも、天然型FMDVポリプロテイン・プロセッシングにおける役割と同様に、2A C末端での切断を媒介することが判った。或いは、本発明によるベクターは、他の2A様領域に対応するアミノ酸残基をコードすることもできる。このような他の2A様領域は、Donnelly他, J. Gen. Virol. 82:1027-41(2001)に論じられている通りであり、例えばピコルナウィルス、昆虫ウィルス、C型ロタウィルス、トリパノゾーマ反復配列又は細菌Thermatoga maritimaに由来する2A様ドメインを含む。
【0107】
2A配列の変化を、ポリプロテインの効率的なプロセッシングを媒介する能力に関して研究した(Donnelly ML他, 2001)。2A配列の一例として、下記表2に示された配列が挙げられる。
【0108】
表2. 2A配列例の表
【表2】

【0109】
自己プロセッシング性切断配列、例えば2A配列又はその変異体の明確な利点は、自己プロセッシング性ポリプロテインを発現させるベクターを生成する際にこれらの配列を使用することである。本発明の1実施態様の場合、自己プロセッシング性切断配列によって連関されるアデノウィルスE1A及びE1Bに由来するDNAセグメントを含むアデノウィルス・ベクターが提供される。関連実施態様の場合、ベクターはさらに、フリン・コンセンサス認識部位R-X-(K/R)-R-を含有するペプチドに対応するコード配列を含むことができる。
【0110】
2Aコード配列のサイズが小さいことは、コード配列のためのパッケージング・キャパシティが制限されたベクター、例えば複製適格アデノウィルスにおけるその使用を有利にする。2部分から成るプロモーターが排除されることにより、各コード配列の発現レベルを低減し且つ/又は損なうおそれのあるプロモーター妨害が低減される。
【0111】
2A又は2A様ドメインの明確な利点は、自己プロセッシング性ポリプロテインをもたらす腫瘍溶解性(複製適格)ウィルス・ベクター内でこれらのドメインを使用することである。本発明の構造を通して得られる自己プロセッシング性ポリプロテインを含むいずれのタンパク質/ポリペプチド/ペプチドも、2Aドメイン内のポリプロテインのタンパク質分解的切断様メカニズムに従って、ほぼ等モル量で発現される。これらのタンパク質は、ベクター自体に対して、互いに対して、又は2A配列の起源に対して異種であってよく、ひいては2A活性は異種タンパク質とFMDV誘導型ポリプロテインとを、機能能力又は切断媒介能力において差別することはない。
【0112】
2A又は2A様配列は、二シストロン又は多シストロン・カセット内の要素として、腫瘍溶解性ウィルス構造内に組込むことができる。このようなカセットは、2つ又は3つ以上の内在性ウィルス遺伝子、1つ又は2つ以上の異種コード配列又はトランス遺伝子にカップリングされた1つ又は2つ以上の内在性ウィルス遺伝子、又は2つ又は3つ以上のカップリングされたトランス遺伝子を組込むことになる。
【0113】
本発明は、自己プロセッシング性切断部位、例えば2A又は2A様ポリペプチドをコードする核酸配列変異体、及び親(天然型)ヌクレオチドのコドンに対して、アミノ酸のうちの1つ又は2つ以上に対応するコドンが異なる、核酸コード配列を使用することを検討する。このような変異体は、具体的に検討され、本発明に含まれる。自己プロセッシング性ペプチド及びポリペプチドの配列変異体も、本発明の範囲に含まれる。
【0114】
本明細書中に使用される「配列同一性」という用語は、配列アラインメント・プログラムを使用して整列されたときの、2つ又は3つ以上の整列された配列の間の核酸又はアミノ酸配列の同一性を意味する。「%相同性」及び「%同一性」という用語は、本明細書中に相互置き換え可能に使用され、配列アラインメント・プログラムを使用して整列されたときの、2つ又は3つ以上の整列された配列の間の核酸又はアミノ酸配列の同一性レベルを意味する。例えば80 %相同性は、定義済条件下で定義済アルゴリズムによって見極められた80%配列同一性と同じものを意味する。
【0115】
比較のための最適な配列アラインメントは、例えば、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482(1981)の局所的相同性アルゴリズム、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48: 443(1970)の相同性アラインメント・アルゴリズム、Pearson & Lipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444(1988)の相同性検索方法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.のGAP, BESTFIT, FASTA及びTFASTA)、National Center for Biotechnology Information (http://www. ncbi. nlm. nig. gov/)において公に利用可能なソフトウェアを用いたBLASTアルゴリズム、Altshul他, J. Mol. Biol. 215:403-410(1990)、又は、目視検査(全体的にAusubel他(前出)参照)によって行うことができる。本発明の目的上、比較のための最適な配列アラインメントは、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482(1981)の局所的相同性アルゴリズムによって最も好ましく実施される。Altschul, S.F., 1990及びAltschul, S.F., 1997も参照されたい。
【0116】
2つ又は3つ以上の核酸又はタンパク質配列との関連における「同一」又は「同一性」パーセントという用語は、本明細書中に記載された配列比較アルゴリズムのうちの1つ、例えばSmith-Watermanアルゴリズム又は目視検査によって測定して、最大一致に関して比較して整列させたときに同じでものである2つ又は3つ以上の配列又はサブ配列、又は同じものである特定のパーセンテージのアミノ酸残基又はヌクレオチドを有する2つ又は3つ以上の配列又はサブ配列を意味する。
【0117】
本発明によれば、天然型配列に対する配列同一性が80, 85, 88, 89, 90, 91, 92, 93, 94, 95, 96, 97, 98, 99%又はそれ以上である自己プロセッシング性切断ポリペプチド及びポリペプチド自体をコードする配列変異体も含まれる。
【0118】
2つの配列が中緊縮性から高緊縮性のハイブリダイゼーション及び洗浄条件下で互いに特異的ハイブリッド形成する場合、核酸配列は、基準核酸配列と「選択的にハイブリッド形成可能」であると考えられる。ハイブリダイゼーション条件は、核酸結合複合体又はプローブの溶融温度(Tm)に基づく。例えば「最大緊縮性」は典型的にはおよそTm-5℃(プローブのTmを5℃下回る温度)で発生し;「高緊縮性」は、Tmをおよそ5〜10℃下回る温度で発生し;「中間緊縮性」は、プローブのTmをおよそ10〜20℃下回る温度で発生し;そして「低緊縮性」は、Tmをおよそ20〜25℃下回る温度で発生する。機能的には、最大緊縮性条件を用いることにより、ハイブリダイゼーション・プローブと厳密な同一性又は厳密に近い同一性を有する配列を同定することができるのに対し、高緊縮条件は、プローブと80%又はそれ以上の配列同一性を有する配列を同定するために使用される。
【0119】
中緊縮性及び高緊縮性ハイブリダイゼーション条件は当業者によく知られている(例えばSambrook他, 1989, 第9及び11章、及びAusubel, F.M.他, 1993参照)。高緊縮性条件の一例は、50%ホルムアミド、5X SSC、5X デンハルト溶液、0.5 % SDS及び100 mg/ml 変性キャリヤDNA中で約42℃でハイブリダイゼーションを行い、続いて2X SSC及び0.5% SDS中で室温において2回、そしてこれに加えて0.1 X SSC及び0.5% SDS中で42℃において2回洗浄することを含む。本明細書中に記載された2Aポリペプチドと同じ生体活性を有するポリペプチドをコードし、中緊縮性から高緊縮性のハイブリダイゼーション条件下でハイブリッド形成する2A配列変異体は、本発明の範囲に入ると考えられる。
【0120】
遺伝子コードの縮重の結果、同じタンパク質、ポリペプチド又はペプチド、例えば2A又は2A様ペプチドをコードする多数のコード配列を提供することができる。例えば、トリプレットCGTは、アミノ酸アルギニンをコードする。アルギニンは或いは、CGA, CGC, CGG, AGA及びAGGによってコードされる。従って、コード領域内のこのような置換は、本発明の範囲における配列変異体に含まれることは明らかである。
【0121】
さらに言うまでもなく、このような配列変異体は、高緊縮条件下で親配列とハイブリッド形成してもしなくてもよい。このようなハイブリッド形成は、例えば配列変異体が親ヌクレオチドによってコードされたアミノ酸のそれぞれに対応する異なるコドンを含む場合に可能になる。とはいえ、このような変異体は具体的に検討され、本発明に含まれる。
【0122】
自己プロセッシング性ペプチド配列の除去
自己プロセッシング性ペプチド、例えば2A又は2A様配列の使用に関連する1つの懸念は、発現されたポリペプチドのC末端が自己プロセッシング性ペプチドに由来するアミノ酸、すなわち2A由来アミノ酸残基を含有することである。これらのアミノ酸残基は、宿主に対して「外来」のものであり、2A又は2A様配列を含有するタンパク質がin vivo(すなわち、本発明による腫瘍溶解性ベクターのin vivo投与との関連において)で発現されると免疫応答を引き起こすおそれがある。
【0123】
本発明は、標的複製適格ウィルス・ベクター、例えばアデノウィルス・ベクターであって、第1タンパク質又はポリペプチド・コード配列(第1又は5'ORF)と、自己プロセッシング性切断部位との間に、発現されたタンパク質生成物中に存在する自己プロセッシング性切断部位由来アミノ酸残基を除去する手段として、付加的な蛋白質分解的切断部位を提供するように遺伝子工学的に作り出されたベクターを含む。
【0124】
付加的な蛋白質分解的切断部位の例は、コンセンサス配列RXK(R)R(SEQ ID NO:10)を有するフリン切断部位である。フリン切断部位は、内在性スプチリシン様プロテアーゼ、例えばフリン及びその他のセリン・プロテアーゼによって切断することができる。例えばUSSN 10/831,302を参照されたい(参考のため本明細書中に明示的に引用する)。この文献では、第1ポリペプチドと自己プロセッシング性2A配列との間にフリン切断部位RAKR(SEQ ID NO:11)を導入することにより、第1発現タンパク質のC末端に位置する自己プロセッシング性2Aアミノ酸残基を効率的に除去できることが実証される。加えて、2A配列を含有するプラスミド、及び2A配列に隣接するフリン切断部位を使用することは、2A配列を単独で含有するプラスミドよりも高いレベルのタンパク質を発現させることが判った。この改善は、タンパク質のC末端から2Aアミノ酸残基が除去されると、より長い2A-又は2A様配列、又はその他の自己プロセッシング性配列を使用することができる点で、更なる利点を提供する。
【0125】
本発明の複製適格ウィルス・ベクターのin vivo投与に続いて、異なる種を起源とする2A-又は2A様配列によって誘発される不所望の免疫応答を回避するために、第1タンパク質のコード配列と自己プロセッシング性ペプチドのコード配列との間に、タンパク質分解的切断部位のコード配列を挿入する(当業者に知られた標準的な方法を使用)ことにより、結果として生じたウィルス・ベクターから自己プロセッシング性ペプチド配列を除去することができる。
【0126】
組換えDNA技術を用いて発現させることができる、当業者に知られた任意の付加的なタンパク質分解的切断部位を、本発明を実施する上で採用することができる。ポリペプチド又はタンパク質をコードする配列と自己プロセッシング性切断配列との間に挿入することができる付加的なタンパク質分解的切断部位の例は、下記のものを含む:
a) フリン・コンセンサス配列又は部位:RXK(R)R(SEQ ID NO:10);
b) フリン切断部位RAKR(SEQ ID NO:11);
c) Xa因子切断配列又は部位:IE(D)GR(SEQ ID NO:12);
d) シグナル・ペプチダーゼI切断配列又は部位:例えばLAGFATVAQA(SEQ ID NO:13);及び
e) トロンビン切断配列又は部位:LVPRGS(SEQ ID NO:14)。
【0127】
本発明のウィルス・ベクターの調製
本発明のウィルス・ベクターは、当業者にとって標準的な組換え技術を用いて調製することができる。一般には、当該ウィルス遺伝子、好ましくはウィルス複製遺伝子に、そしてアデノウィルスの場合には1つ又は2つ以上の初期複製遺伝子(後期遺伝子を使用することもできる)に、標的細胞特異的TREが挿入される。標的細胞特異的TREは、オリゴヌクレオチド合成法(標的が既知の場合)又は組換え法(例えばPCR及び/又は制限酵素)を用いて調製することができる。天然型ウィルス配列内に位置する、又はPCR又は部位特定的突然変異誘発法のような方法によって導入される好都合な制限部位は、標的細胞特異的TREのための挿入部位を提供する。従って、標的細胞特異的TREをアニール(すなわち挿入)するための好都合な制限部位を、標準的な組換え法、例えばPCRを用いて、UP-TREの5'及び3'末端上に遺伝子工学的に作り出すことができる。
【0128】
本発明のウィルス・ベクターを形成するために使用されるポリヌクレオチドは、当業者にとって標準的な方法、例えば化学合成法、組換え法を用いて、且つ/又は、生物源から得ることができる。
【0129】
2つのプラスミド、すなわち一方がアデノウィルスの左手部分を提供し、他方が右手部分を提供し、これらの一方又は両方が、標的細胞特異的TREの制御下にある1つ以上のアデノウィルス遺伝子を含有する、2つのプラスミドを相同組換え又はin vitroライゲーションすることにより、標的細胞特異的TREの制御下にある所望の要素(例えばE1A)と一緒に、全ての複製必須要素を含有するアデノウィルスが好都合に調製される。相同組換えが用いられる場合には、2つのプラスミドは約500 bp以上の配列オーバーラップを共有すべきである。所望に応じて各プラスミドを個別に操作し、続いて適格な宿主内で共トランスフェクトし、必要に応じて相補体形成遺伝子を提供し、又はアデノウィルス増殖のために標的細胞特異的TREから転写開始する適切な転写因子を提供する。プラスミドは一般に、適切な形質導入手段、例えばカチオン性リポソームを使用して、好適な宿主細胞、例えば293細胞内に導入される。或いは、アデノウィルス・ゲノムの右手部分と左手部分とをin vitroでライゲートすることにより、アデノウィルス・ゲノムの全ての複製必須部分を含有する組換えアデノウィルス誘導体を構成することもできる。Berkner他(1983) Nucleic Acid Research 11: 6003-6020; Bridge他(1989) J. Virol. 63:631-638。
【0130】
本発明の複製適格ウィルス・ベクター
本発明のアデノウィルス・ベクターは標的細胞特異的TREを含む。標的細胞特異的TREは、特定の標的細胞内における作用可能式に連結された遺伝子の優先的発現を導く。標的細胞の例は新生細胞であるが、細胞毒活性を維持することが望ましく且つ/又は許容され得る任意の細胞が標的細胞であってもよい。標的細胞特異的TREを含むウィルス・ベクターと、標的細胞及び非標的細胞の混合物とをin vivo又はin vitroで合体させることにより、ベクターは標的細胞内で優先的に複製し、細胞毒性及び/又は細胞溶解性効果を引き起こす。標的細胞が選択的細胞毒活性及び/又は細胞溶解活性に基づいて崩壊されると、ベクターの複製は著しく低減され、暴走状態の感染及び望ましくない傍観者効果の確率を低くする。望ましくない標的細胞、例えば標的細胞特異的TREが機能を発揮する癌細胞の存在に関して、混合物(例えば生検又はその他の適切な生体試料)を持続的にモニタリングするために、in vitro培養を保持することができる。本発明のウィルス・ベクターをex vivo手順で使用することもできる。標的細胞を含む所望の生体試料を、哺乳動物から取り出し、標的細胞特異的TREを含む本発明のウィルス・ベクターに暴露し、次いで哺乳動物内に戻す。
【0131】
開示されたベクターは、1つ又は2つ以上のTREが機能を発揮する標的細胞内で複製が優先的に増強されるように設計される。TREが同じ標的細胞内で機能を発揮する限り、2つ以上のTREがベクター内に存在することができる。しかし、2つ以上のタイプの標的細胞内で所与のTREが機能を発揮できることに留意することが重要である。例えば、CEA-TREは、数ある細胞タイプの中でも、胃癌細胞、結腸直腸癌細胞、膵臓癌細胞、及び肺細胞癌内で機能する。
【0132】
本発明の複製適格ウィルス・ベクターは、遺伝子間自己プロセッシング性切断部位を含む。この切断部位は、2つ又は3つ以上の遺伝子の翻訳と連関し、ひいては2つ又は3つ以上の所望の遺伝子の発現を駆動するために同一の制御領域を使用するベクター構造を上回る改善をもたらす。本発明の改善されたベクターは、相同制御領域の存在に基づく相同組換えの可能性を実質的に最小限に抑える。本発明を例示するために、自己プロセッシング性切断部位を有するアデノウィルス・ベクターを本明細書中に記載する。本発明のウィルス・ベクターは現行技術を上回る数多くの利点を提供する。これらの利点は下記のものを含む:(1)自己プロセッシング性切断部位、例えば第2のTRE又はIRESではなく2A配列を使用することにより、付加的な遺伝子、例えば治療遺伝子のためのベクター内に付加的なスペースを提供すること;(2)現行技術、例えばIRESを用いて達成されるものと比較して、2A配列が、二シストロン又は多シストロン・カセット内での第2遺伝子生成物の改善された発現を媒介することができること;及び(3)自己プロセッシング性切断部位、例えば2A又は2A様配列を含むベクターが安定的であり、いくつかの実施例では、2A配列を含有しないベクターよりも良好な特異性を提供すること。
【0133】
従って、本発明の1観点において、本明細書中に開示されたウィルス・ベクターは、1つ以上の自己プロセッシング性切断部位、例えば2A配列を二シストロン又は多シストロン転写物内部に含み、転写物の生成は、異種の標的細胞特異的TRE又は別のプロモーター(例えば高レベル発現を可能にする内在性ウィルス・プロモーター又は構成的プロモーター、例えばCMVプロモーター)によって調節される。2A配列の制御下にある第2ウィルス遺伝子を含むウィルス・ベクター、例えばアデノウィルス・ベクターの場合、2A配列の翻訳制御下にある遺伝子の内在性プロモーターが欠失させられて、内在性プロモーターが第2遺伝子の転写を妨害しないようにすることが好ましい。また、第2遺伝子が2A配列を有するフレーム内にあることも好ましい。
【0134】
複製適格ウィルス・ベクターの細胞内への導入
本発明の複製適格ウィルス・ベクターは、癌治療法において有用である。本発明のウィルス・ベクターは、例えばネイクド・ポリヌクレオチド(例えばDNA)構造を含む種々の形態で使用することができる。ウィルス・ベクターは或いは、細胞内への侵入を容易にするための物質、例えばカチオン性リポソーム又はその他のカチオン性化合物、例えばポリリシンと複合されたポリヌクレオチド構造;感染性ウィルス粒子(ベクターをより免疫原性にすることができる)内にパッケージングされたポリヌクレオチド構造;その他の粒子状ウィルス形態、例えばHSV又はAAV内にパッケージングされたポリヌクレオチド構造;免疫応答を増強又は減衰するための物質(例えばPEG)と複合されたポリヌクレオチド構造;in vivoトランスフェクション、例えばDOTMA(登録商標)、DOTAP(登録商標)及びポリアミンを促進する物質と複合されたポリヌクレオチド構造を含むこともできる。
【0135】
ウィルス・ベクターは、種々の方法で標的細胞に送達することができる。これらの方法の一例としては、リポソーム、当業者に知られた一般的なトランスフェクション法、例えばリン酸カルシウム沈降、エレクトロポレーション、直接注入、及び静脈内輸液が挙げられる。in vitro(ex vivo)技術は、リン酸カルシウムを使用したトランスフェクション、培養された細胞内へのマイクロインジェクション(Capecchi, Cell 22;479-488[1980])、エレクトロポレーション(Shigekawa他, BioTechn., 6:742-751[1988])、リポソーム媒介型遺伝子導入(Mannino他, BioTechn., 6:682-690[1988])、及び脂質媒介型遺伝子導入などを含む。
【0136】
送達手段は、特定のウィルス・ベクター(その形態を含む)並びに標的細胞のタイプ及び位置(すなわち細胞がin vitro(すなわちex vivo)であるか又はin vivoであるか)に大きく依存することになる。アデノウィルス・ポリヌクレオチドを含むアデノウィルス・ベクターが、全アデノウィルス(キャプシドを含む)内にパッケージングされる場合、アデノウィルス自体を採用して、ターゲッティングをさらに向上させることができる。例えば、アデノウィルス線維、シャフト又はヘクソン・タンパク質を修飾して、細胞毒性及び/又は細胞溶解の細胞特異性をさらに高めることができる。
【0137】
本発明の組換えベクターをin vivoに導入する送達ルートの一例としては、腫瘍内、静脈内、皮内、又は皮下注射が挙げられる。ex vivo遺伝子導入の場合、標的細胞を宿主から取り出し、そして本発明のベクター及び当業者によく知られた方法を用いて、ラボラトリー内で遺伝子修飾し、次いで細胞が導き出された患者にこれらの細胞を戻す。
【0138】
投与されるべきウィルス・ベクターの量は、いくつかの因子、例えば投与経路、患者の状態、疾患の攻撃度、採用された特定の標的細胞特異的TRE、及び特定のベクター構造(すなわち、どのウィルス遺伝子が標的細胞特異的TREの制御下にあるか)、並びにウィルス・ベクターが他の治療法とともに使用されるかどうか、に依存することになる。
【0139】
パッケージングされたウィルスとして投与される場合、典型的には約104〜約1014、好ましくは約104〜約1012、より好ましくは約104〜約1010を投与することができる。ポリヌクレオチド構造として投与される(すなわちウィルスとしてパッケージングされない)場合、約0.01 μg〜約100 μg、好ましくは約0.1 μg〜約500 μg、より好ましくは約0.5 μg〜約200 μgを投与することができる。2つ以上のウィルス・ベクターを同時に又は順次投与することができる。投与は典型的には、応答をモニタリングしながら定期的に行われる。投与は例えば腫瘍内、静脈内、腹腔内で行うことができる。
【0140】
パッケージングされたアデノウィルスとして投与される場合、ベクターは、生理学的に許容可能な適切なキャリヤ内で、約104〜約1014の投与量で投与することができる。感染多重度は一般に、約0.001〜100の範囲になる。ポリヌクレオチド構造として投与される(すなわちウィルスとしてパッケージングされない)場合、約0.01 μg〜約1000 μgのアデノウィルス・ベクターを投与することができる。
【0141】
所期用途及び宿主の免疫応答可能性に応じて、ウィルス・ベクターを1回又は2回投与することができ、或いは、複数の注射として同時に投与することもできる。免疫応答が望ましくない場合、種々の免疫抑制剤を採用することにより、免疫応答を減少させ、これにより強い免疫応答なしに反復投与を可能にする。別のウィルス形態、例えばHSVとしてパッケージングされる場合、投与されるべき量は、その特定のウィルスに関する標準的な知識(例えば刊行物から容易に得ることができる)に基づき、そして経験的に決定することができる。
【0142】
一般に、医薬的に受容可能な賦形剤中にウィルス・ベクターを含む製薬組成物が投与される。医薬的に受容可能な賦形剤が一般には当業者に知られている。
【0143】
本発明のウィルス・ベクターは単独で、又は他の活性物質、例えば所望の目的を推進する化学治療薬、放射線及び/又は抗体と共に使用することができる。膀胱腫瘍成長を抑制するのに適した化学治療薬の例は、BCG(カルメット・ゲラン菌);マイトマイシン-C;シスプラチン;チオテパ;ドキソルビシン;メトトレキサート;パクリタキセル(TAXOL(登録商標));イホスファミド;硝酸ガリウム;ゲムシタビン;カルボプラチン;シクロホスファミド;ビンブラスチン;ビンクリスチン;フルオロウラシル;エトポシド;ブレオマイシンである。組合わせ療法の例は、CISCA(シクロホスファミド、ドキソルビシン及びシスプラチン);CMV(シスプラチン、メトトレキサート、ビンブラスチン);MVMJ(メトトレキサート、ビンブラスチン、ミトキサントロン、カルボプラチン);CAP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、シスプラチン);MVAC(メトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシン、シスプラチン)を含む。放射線を化学治療薬と組合わせてもよく、例えば放射線とシスプラチンとを組み合わせることができる。化学治療薬の投与は一般に膀胱内(膀胱内へ直接)又は静脈内で行われる。
【0144】
本発明の複製適格ウィルス・ベクターの有用性
本発明のベクターは種々様々な目的に使用することができる。これらの目的は、所期又は所望の結果と共に変化する。従って本発明は、例えば治療法、ワクチン、及び好ましい実施態様の場合には癌治療を含む種々の方法のうちのいずれかを含む。例えば、脳、肝臓、血管、筋肉、心臓、肺、前立腺、皮膚、充実性腫瘍、転移性腫瘍、癌腫、又はリウマチ関節を含む種々様々な器官を標的として、複製適格(組換え)ウィルス・ベクターをin vivo送達することができる。
【0145】
1実施態様の場合、細胞と、本明細書中に記載されたウィルス・ベクターとを接触させることにより、標的細胞特異的TREが機能するのを可能にする細胞、好ましくは癌細胞上に選択的細胞毒性を付与する方法が提供される。当業者にとって標準的なアッセイ、例えば色素排除、3H-チミジン組込み、及び/又は溶解を用いて、細胞毒性を測定することができる。
【0146】
別の実施態様の場合、標的細胞特異的TREが機能するのを可能にする細胞、好ましくは標的癌細胞に対して特異的なウィルス・ベクターを増殖する方法が提供される。可能な標的細胞のリストは、例えば結腸、肺、子宮頚部、卵巣、胃、腎臓、膀胱、膵臓、頭頚部、リンパ腫及び白血病を含む任意のタイプの癌と関連する細胞を含む。これらの方法は、ウィルス・ベクターと細胞との合体を伴い、これによりウィルスは癌細胞内で選択的に増殖される。言うまでもなく、本発明の複製適格ウィルス・ベクターは、1つ以上の細胞タイプ特異的調節要素及び/又は細胞状態特異的調節要素を含むことにより、標的癌細胞内の選択的複製を容易にする。
【0147】
本発明はさらに、腫瘍細胞、好ましくは標的細胞特異的TREが機能するのを可能にする腫瘍細胞の成長を抑制する方法であって、腫瘍細胞と本発明のウィルス・ベクターとを接触させて、ウィルス・ベクターが腫瘍細胞に侵入し、腫瘍細胞に対する選択的細胞毒性を示すようにすることを含む、方法を提供する。これらの方法の場合、ウィルス・ベクターは他の腫瘍抑制治療法、例えば化学治療薬、放射線及び/又は抗体と共に使用してもしなくてもよい。
【0148】
本発明はまた、本明細書中に記載されたウィルス・ベクターの有効量を患者に投与する治療法を提供する。ウィルス・ベクターのin vivo投与は、癌と診断された患者の治療に有用であり、癌を発生させるおそれがあると考えられる患者においても有用であり得る。本発明のウィルス・ベクターを投与する適合性は、特に評価可能な臨床パラメーター、例えば血清徴候及び組織生検の組織学的試験に応じて見極められる。
【0149】
別の実施態様は、標的細胞特異的TREが細胞混合物中で機能するのを可能にする細胞を死滅させる方法であって、細胞混合物と、本発明のウィルス・ベクターとを合体させることを含む、方法を提供する。細胞混合物は一般には、正常細胞と、標的細胞特異的TREが機能するのを可能にする癌細胞との混合物であり、in vivo混合物又はin vitro混合物であり得る。
【0150】
本発明はまた、標的細胞特異的TREが機能するのを可能にする細胞、例えば生体試料中の癌細胞を検出する方法を含む。これらの方法は、試験環境にあるか臨床環境にあるかにかかわりなく、患者(すなわち哺乳動物)の臨床的及び/又は生理学的状態をモニタリングするのに特に有用である。1方法において、生体試料の細胞をウィルス・ベクターと接触させ、そしてベクターの複製を検出する。或いは、リポーター遺伝子が標的細胞特異的TREの制御下にあるウィルス・ベクターと、試料とを接触させることもできる。ウィルス・ベクターが生体試料中に導入されると、リポーター遺伝子の発現が、標的細胞特異的TREが機能するのを可能にする細胞の存在を示す。或いは、細胞生存に条件付きで必要とされる遺伝子が標的細胞特異的TREの制御下に置かれているウィルス・ベクターを構成することもできる。この遺伝子は例えば抗生物質抵抗性をコードすることができる。後で生体試料を抗生物質で処理する。抗生物質抵抗性を発現させる生き残った細胞の存在は、標的細胞特異的TREの機能を可能にする細胞の存在を示す。好適な生体試料は、標的細胞特異的TREが機能するのを可能にする細胞、例えば癌細胞が存在し得る、又は存在する疑いがある試料である。一般に哺乳動物の場合、好適な臨床試料は、標的細胞特異的TREが機能するのを可能にする癌性細胞、例えば癌細胞が存在する疑いがある試料である。このような試料は、針生検又はその他の外科的処置によって得ることができる。接触させられるべき細胞は、アッセイの条件、例えば選択的富化及び/又は可溶化を促進するように、処理することができる。これらの方法において、標的細胞特異的TREの機能を可能にする細胞は、当業者にとって標準的なウィルス増殖検出in vitroアッセイを用いて検出することができる。このような標準アッセイの一例としては、バースト・アッセイ(ウィルス収量を測定)又はプラーク・アッセイ(1細胞当たりの感染性粒子を測定)が挙げられる。当業者に知られた標準アッセイ(例えばPCR、及びサザン・ブロットなど)で、特異的ウィルスDNA複製を測定することにより、増殖を検出することもできる。
【0151】
本発明はまた、標的細胞の遺伝子型を修飾する方法であって、標的細胞と、本明細書中に記載されたウィルス・ベクターと接触させることを含み、ウィルス・ベクターは細胞に侵入する、方法を提供する。
【0152】
本発明はまた、患者における腫瘍細胞マーカーのレベルを低下させる方法であって、本発明のウィルス・ベクターを患者に投与することを含み、ウィルス・ベクターは、標的細胞特異的TREが機能するのを可能にする細胞に対して選択的に細胞毒性である、方法を含む。例えばPSA及びCEAを含む腫瘍血清マーカー、及びCK-20及びHer2/neuのような腫瘍細胞マーカー、並びにその他のマーカーを、免疫アッセイでモニタリングすることができる。例えば、体液の酵素免疫測定法(ELISA)、又は腫瘍細胞マーカーに対して特異的な抗体を使用した、細胞の免疫染色が採用される。一般に、被験患者から生体試料を得て、好適なアッセイ、例えばELISAを生体試料上で実施する。これらの方法の場合、アデノウィルス・ベクターは他の腫瘍抑制治療法、例えば化学治療薬、放射線及び/又は抗体と共に使用してもしなくてもよい。
【0153】
組成物及びキット
本発明はまた、本明細書中に記載されたウィルス・ベクターを含有する、製薬組成物を含む組成物を含む。このような組成物は、例えば患者における形質導入度及び/又は細胞死滅効果を測定するときに、in vivo投与するのに有用である。組成物は、本発明のウィルス・ベクターと、好適な溶剤、例えば生理学的に許容可能な緩衝液とを含む。これらは当業者によく知られている。他の実施態様の場合、これらの組成物は医薬的に受容可能な賦形剤を含む。医薬的に受容可能な賦形剤中に本発明の有効量のウィルス・ベクターを含むことができるこれらの組成物は、単位投与形態、滅菌腸管外溶液又は懸濁液、滅菌非腸管外溶液又は経口溶液又は懸濁液、及び水中油又は油中水エマルジョンなどの形態で患者に全身又は局所投与するのに適している。腸管外及び非腸管外薬物送達のための配合は当業者によく知られており、Remington's Pharmaceutical Sciences, 19th Edition, Mack Publishing (1995)に示されている。組成物はまた、本発明のウィルス・ベクター(ウィルス、例えばアデノウィルスとしてパッケージングされたものを含む)の凍結乾燥及び/又は液体で戻された形態を含む。
【0154】
本発明はまた、上述のような本発明のウィルス・ベクター組成物を含有するキットを含む。これらのキットは、診断及び/又はモニタリングの目的、好ましくはモニタリングの目的で使用することができる。これらのキットを使用する手順は、臨床検査室、実験室、医者又は個人の患者によって実施することができる。例えば、本発明によって実現されたキットは、好適な生体試料、例えば生検標本内の膀胱癌細胞の存在を検出するのを可能にする。
【0155】
本発明のキットは、好適なパッケージング内に、本明細書中に記載されたウィルス・ベクター組成物を含む。キットは任意には、手順において有用な付加的な成分を提供する。これらの付加的な成分の一例としては、緩衝液、現像試薬、ラベル、反応表面、検出手段、対照試料、指示書、及び説明的情報が挙げられる。
【0156】
本発明の目的は、一連の試験によって達成された。これらの試験のうちのいくつかを下記の非限定的な例で説明する。
【0157】
試験
材料及び方法
細胞:293細胞をMicrobix(Ontario, Canada)から得た。A549, Hep3B, Lovo, Panc 1, SW780, WI-38及びMRC-5細胞をATCC(Manassas, VA)から得た。HRE細胞をCambrex(East Rutherford, New Jersey)から得た。293, A549, Hep3B, Lovo, Panc 1, SW780, WI-38及びHRE細胞を、RPMI 1640中に維持する。RPMI 1640には、10%ウシ胎仔血清、100単位/mL ペニシリン、100マイクログラム/mL ストレプトマイシン、及び2.05 mM L-グルタミンが補足されている。MRC-5細胞をEMEM中に維持する。EMEMには、10%ウシ胎仔血清、100単位/mL ペニシリン、100マイクログラム/mL ストレプトマイシン、及び2 mM L-グルタミンが補足されている。全ての細胞を37℃、5% CO2で成長させる。
【0158】
ウィルスの増幅、同定及び滴定:共トランスフェクションから生じた、増幅された粗ウィルス溶解物を293細胞上で継代培養し、これに固形培地をオーバーレイすることにより、単一プラークを得る。プラークをA549細胞上でさらに2回継代培養し、これを使用することにより、A549細胞を感染させた。感染させられたA549細胞の広範囲の肉眼観察可能な溶解に続いて、粗ウィルス溶解物を捕集し、PCRによって分析し、これに続いて、予測構造特性に関してPCRアンプリコンを制限マッピングした。予測構造特性とマッチングする分離物を確認したら、粗ウィルス溶解物を使用して、より大きい容積のA549細胞を感染させることにより、粗ウィルス溶解物ストックを生成する。滴定及び構造確認に続いて、粗ウィルス溶解物ストックを使用して、ローラーボトル内に播種されたA549細胞を感染させる。広範囲の肉眼観察可能な溶解が生じたら、細胞ペレットを捕集し、CsCl勾配によってウィルスを精製し、透析し、そして最後に貯蔵のためにARCA緩衝液中に再懸濁させる。
ウィルス同定:Blood Mini Kit(Qiagen; Valencia, CA)を使用して、増幅されたウィルス・ストックからウィルス・ゲノムDNAを精製する。Ad5ゲノム(Genbank #AY339865)の位置133〜152及び6148〜6168にそれぞれ対応するプライマー66.114.2(5'-gtggcggaacacatgtaagc)及び27.20.2(5'-aatatcaaatcctcctcgttt)を使用して、精製されたウィルス・ゲノムDNAからPCR生成物を増幅する。次いで、PCR生成物をNew England Biolabs制限エンドヌクレアーゼBstX I及びAcc Iで制限マッピングする。
【0159】
滴定:粗ウィルス溶解物の濃度を、標準的なプラーク・アッセイ(1mL当りのプラーク形成単位)によって測定する。精製されたウィルスの濃度をウィルス粒子及びプラーク形成単位の両方で測定する。ウィルス粒子の場合、溶解されたウィルスの連続希釈物をDNA質量に関して分光光度計で測定する。次いで、Mittereder他[25]によって概要を示された式によって、粒子数を検出する:
OD260 x 希釈係数 x (1.1 x 1012) = 粒子数/mL
【0160】
ウィルス収量:精製されたウィルス溶解物を使用して、2の感染多重度(MOI)で6-ウェル組織培養皿内に5 x 10e5細胞で、24時間早く播種された細胞系パネルを感染させる。形質導入から4時間後に、細胞をDulbeccoのリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、続いて新鮮な培地に戻す。形質導入から72時間後、細胞を上澄み中に掻き入れ、そして捕集する。溶解物全体に凍結/解凍を3サイクル施し、次いで、6-ウェル組織培養皿内に5 x 10e5細胞で、24時間早く播種された293細胞上に溶解物全体を連続希釈する。感染から4時間後、上澄みを吸引し、そしてウェルに固形培地をオーバーレイする。固形培地はRPMI、0.75%低融点アガロース、ペニシリン/ストレプトマイシン、及びL-グルタミンを含有する。感染から7日後に、第2オーバーレイを各ウェルに加える。感染から10日後にプラークを視覚的にスコアリングして平均することにより、プラーク形成単位数を得る。
【0161】
ウェスタン・ブロット:精製されたウィルス溶解物を使用して、10のMOIで6-ウェル組織培養皿内に5 x 10e5細胞で、24時間早く播種されたA 549細胞を感染させる。感染から24時間後に、細胞を上澄み中に掻き入れ、捕集し、そしてペレット化する。Complete, Mini Protease Inhibitor Cocktail(Roche; Indianapolis, IN)を補足した溶解緩衝液(100 mM NaCl, 20mM Tris ph 7.5, 10mM EDTA, 1%デオキシコール酸)中に、細胞ペレットを再懸濁する。試料のタンパク質濃度を、タンパク質アッセイ・キット(Bio-Rad; Hercules, CA)で評価する。E1Aの検出のために、各試料から得られた総タンパク質10マイクログラムに、NuPage MOPS流動緩衝液(Invitrogen)中で、PAGE(4-12% NuPage Novex Bis-Tris SDS-PAGE)(Invitrogen; Carlsbad, CA)を施す。画分をInvitrolon PVDF膜(Invitrogen)に移し、この膜をモノクローナルE1A一次抗体(Neomarkers; Fremont, CA)又はポリクローナルE1A一次抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)でプローブし、続いてホースラディッシュ・ペルオキシダーゼと接合された二次抗体でプローブする。結合された複合体を、Enhanced Chemiluminescence Plus システム(Amersham; 英国Buckinghamshire)で検出する。E1B 55Kの検出を下記の点を除いて、上記のように実施する。一次抗体はE1B 55K(Oncogene Research Products; Boston, MA)に対してモノクローナルである。
【0162】
細胞生存可能性アッセイ:CsClで精製されたウィルス・ストックを使用して、96-ウェル組織培養皿内に1 x 10e4細胞/ウェル(Corning)で播種された細胞系パネルを感染させる。ウィルスを係数5だけ連続希釈し、1000〜0.00256のMOI範囲をもたらす。感染から7日後、腫瘍細胞系上で製造者の指示書(Promega)に基づいて、MTSアッセイを行う。次いで、未感染細胞によるMTSからホルマザンへの相対変換パーセンテージとして、吸収レベルを評価する(100%生存可能性、最大期待変換値が割り当てられる)。感染から10日後に、上記手順を正常細胞系に対して繰り返す。
【実施例】
【0163】
実施例1
自己プロセッシング性切断配列OV 1504構造(OV 1504)を含むウィルス構造の構成
1実施例において、下記プロトコルに基づいて、E2Fプロモーターの制御下でE1A及びE1Bを発現させる二シストロン又は多シストロン・カセット内の2A要素をクローニングすることにより、ウィルス・ベクターを構成した:
【0164】
OV 1504.11.M.2.2.C(図2A):Rb欠陥経路を有する細胞に対して特異的な複製適格アデノウィルス・ベクターのE1A領域とE1B領域との間に、口蹄疫ウィルス2A(FMDV 2A)オリゴペプチドを導入した。pXC1(逆方向末端反復、パッケージング配列、及びpBR322バックボーン内のE1a及びE1b遺伝子を含む、nt 22〜5790のAd5の野生型左手末端を含有するプラスミド;Microbix)を修飾することにより、プラットフォーム・プラスミドCP624(国際公開第98/39465号パンフレット及び同第01/73093号パンフレット)を形成した。CP624は、接合部にSal I部位を有するE1A/E1B遺伝子間領域内の100塩基対の欠失、E1Aの上流側にAge I部位を有する内在性E1Aプロモーターの欠失、及びE1Aポリアデニル化シグナルの欠失を有する。プライマー1405.77.1
(5'-ataccggtggtaccatccggacaaagcctgcgcg)及び1405.77.2
(5'-agaccggtcgagggctcgatcccgctccg)を用いたPCRによって、ヒトゲノムDNAからヒトE2F-1プロモーター(SEQ ID NO:15)を増幅した。プライマー:
1244.39.1:(5'-aagtcgaccggtaccgtggcggagggactggggac);及び
1244.39.2:(5'-aagtcgaccggtgcgggggtggccggggccaggg)
を用いたPCRによって、pGRN316(Geron; Menlo Park, CA)
からヒト・テロメラーゼ転写酵素(hTERT)プロモーター(SEQ ID NO:16)を増幅した。ヒトE2F-1プロモーターをAge I部位の間に配置し(従ってヒトE2F-1プロモーターはE1A発現を制御する)、そしてhTERTプロモーターをSal I部位の間に配置する(従ってhTERTプロモーターはE1B発現を制御する)ことにより、CP624を修飾した。プライマー:
1460.138.3:(5'-tgtgtctagagaatgcaatag);及び
1460.138.4:(5'-gatatatgtcgactggcctggggcgtttacagc)
を用いたPCRによって、CP1498から、Xba I部位からオープン・リーディング・フレーム末端までのE1AのC末端を増幅し、Sal I部位を、E1Aコード領域を有するフレーム内の断片の3'末端に移した。プライマー:
1460.138.1:(5'-atgcagcgtcgacgctccagtaaagcagactcta);及び
1460.138.2:(5'-catgatcgtcgactggacctgggttgctctcaac)
を用いたPCRによって、pTREF1ADC101H2ALPREから、84塩基対FMDV 2AセグメントをPCR増幅し、Sal I部位を両末端に置いた。プライマー:
1460.138.5:(5'-atgcagcgtcgacgctccagtaaagcagactcta);及び
1460.138.6:(5'-catgatcgtcgactggacctgggttgctctcaac)
を用いたPCRによって、CP1498から、開始コドンからHind IIIまでのE1B 55kのコード領域を増幅し、E1B 55kを有するフレーム内の断片の5'末端にSal I部位を動かした。修飾されたE1A、FMDV 2A、及びE1B 55k断片をプラスミドpGEM-3z(Promega; Madison, WI)中に集成することにより、プラスミドpGEM-3z. E1A.2A. E1Bを産出した。集成されたpGEM-3z. E1A.2A. E1B部分カセットをXba IによってHind III消化物に放出し、CP1498の同じ部位間の領域の代わりに置くのに使用した結果、プラスミドCP1486となった。CP1486はヒトE2F-1プロモーターの転写制御下にある単一オープン・リーディング・フレーム内でE1A、FMDV 2A、及びE1B 55kをコードする多シストロン・カセットを含有する。
【0165】
CP1486とプラスミドpBHGE3(nts 188から1339までが欠失していることを除いて完全野生型のAd5ゲノムを含有するプラスミド)(Microbix)とを組換えることにより、完全長ウィルス・ゲノムを得た。OV1054.11.M.2.2.Cと称される、結果として得られるウィルスは、ヒトE2F-1プロモーターの転写制御下にあるE1A-FMDV 2A-E1B 55k多シストロン・カセットを特徴とする(図2A)。2アミノ酸スペーサー(-VD-)が、E1B 55kの開始コドンからFMDV 2Aの保存C末端(-NPGP-)を分離し、その結果、接合部-NPGPVDM-が生じる。
【0166】
OV 1057(図2B):下記の点を除いて、OV 1504.11.M.2.2.Cと同様に、OV 1057を構成した。プライマー1460.136.1及び
1460.180.2:(5'-catgatcgggccctggacctgggttgctctcaac)を用いたPCRによって、pTREF1ADC101H2ALPREから、FMDV 2Aの別の78塩基対変異体を増幅し、Sal I末端及びApa I末端をPCR生成物上に置いた。プライマー1460.180.4:(5'-gatgcatgtcgactagggcccatggagcgaagaaacccatctg);及び1460.138を用いたPCRによって、CP1498から、開始コドンからHind III部位までのE1B 55kのコード領域を増幅し、PCR生成物の5'末端にApa I部位を置いた。これらの断片を、前にOV 1504.11.M.2.2.Cの構成に使用されたE1A断片と一緒に集成することにより、プラスミドpGEM-3z.E1A-2A(c).E1Bを生成した。集成されたpGEM-3z.E1A-2A(c).E1B部分カセットをXba IによってHind III消化物に放出し、CP1498の同じ部位間の領域の代わりに置くのに使用した結果、プラスミドCP1520となった。CP1520はヒトE2F-1プロモーターの転写制御下にある単一オープン・リーディング・フレーム内でE1A、FMDV 2A、及びE1B 55kをコードする多シストロン・カセットを含有する。
【0167】
CP1520とプラスミドpBHGE3とを組換えることにより、完全長ウィルス・ゲノムを得た。OV 1057と称される、結果として得られるウィルスは、ヒトE2F-1プロモーターの転写制御下にあるE1A-FMDV 2A-E1B 55k多シストロン・カセットを特徴とする(図2B)。E1B 55kの開始コドンからFMDV 2Aの保存C末端(-NPGP-)を分離するアミノ酸スペーサーはなく、その結果、接合部-NPGPM-が生じる。
【0168】
OV 945(図2C):下記の点を除いて、OV 1504.11.M.2.2.Cの構成と同様に、OV 945を構成した。プライマーA(5'-GACGTCGACTAATTCCGGTTATTTTCCA)及びB(5'-GACGTCGACA TCGTGTTTTTCAAAGGAA)を用いたPCRによって、pCITE-3a(Novagen; Madison, WI)からEMCV IRESの修飾変異体を増幅し、Sal I部位をPCR生成物の5'末端と3'末端とに置いた。この修飾型EMCV IRESをCP624のSal I部位内に挿入し、ヒトE2F-1プロモーターをAge I部位内に挿入し、そしてSal I(Klenow)からBgl IIまでの断片の代わりに、E1B 19k ORFのほとんどを欠失しているBssH II(Klenow)からBgl IIまでのより小さな断片を置くことにより、プラスミドCP1493を産出した。CP1493は、ヒトE2F-1プロモーターの転写制御下にある天然型E1A領域、E1B領域の翻訳を媒介するEMCV IRES、及びE1B 19kコード領域における大きな欠失を特徴とする。
【0169】
CP1493とpBHGE3とを組換えることにより、完全長ウィルス・ゲノムを得た。OV 945と称される、結果として得られるウィルスは、ヒトE2F-1プロモーターの転写制御下、並びにMCV IRESによって媒介されるE1B 55kの翻訳下にあるE1A及びE1B 55kを特徴とする(図2C)。
OV 1056(図2D):下記の点を除いて、OV 1504.11.M.2.2.Cの構成と同様に、OV 1056を構成した。プライマー1460.180.1:
(5'-atgccgtatgcctcatacaggatggagcgaagaaacccatctgagc)及び1460.138.6を用いたPCRによって、pXC1から、開始コドンからHind III部位までのE1B 55kコード領域を増幅し、これによりEcoN IをPCR生成物の5'末端に置いた。次いで、pGEM-3z.AB中のE1B断片の代わりに、EcoNからHind III消化物を介して、同じ酵素で消化されたE1B 55k PCR生成物を置くことにより、プラスミドpGEM-3z.AEBを産出した。pGEM-3z.AEBのXba IからHind IIIまでの断片を、CP1498の等価領域の代わりに置くのに使用することにより、プラスミドCP1488を産出した。CP1488は、天然型E1Aコード領域、天然型E1Bプロモーター、及びE1B 55kコード領域とオーバーラップしないE1B 19kコード領域部分の完全な欠失を含有する。CP1488において、E1B 55kは天然型プロモーターに隣接しており、その開始コドンは、前はE1B 19kの開始コドンが占めていた位置にある。
【0170】
CP1488とプラスミドpBHGE3とを組換えることにより、完全長ウィルス・ゲノムを得た。OV 1056と称される、結果として得られるウィルスは、ヒトE2F-1プロモーターの転写制御下にある天然型E1A領域、E1B 19kコード領域の非オーバーラップ部分の欠失、及び天然型E1Bプロモーターの転写制御下にあるE1B 55kを特徴とする(図2D)。
【0171】
OV 1504.11.M.1.1.B(図2E):A549細胞を介したOV 1504.11.M粗ウィルス溶解物の第2継代培養に続いて単一プラークからOV 1504.11.M.1.1.Bを分離した。これは、ヒトE2F-1プロモーターの転写制御下にあるE1Aを有し、その他の点では野生型Ad5と同一であると考えられる。
【0172】
実施例2
2AとTKとを含む腫瘍溶解性ウィルスの構成
別の実施例において、下記プロトコルに基づいて、hUPIIプロモーターの制御下でE1A及びチミジン・キナーゼを発現させる二シストロン・カセット内の2A要素をクローニングすることにより、ウィルス・ベクターを構成する:
【0173】
(a)配列特異的プライマーを用いてPCRによって、鋳型pTREF1ADC101H2ALPREからE1A/2A及び2A/TK接合部を形成して増幅することにより、PCR生成物2A INTを形成し;
(b)配列特異的プライマーを用いてPCRによって、2A INTのTK「アーム」を延ばし、
(c)配列特異的プライマーを用いてPCRによって、2A INTのE1A「アーム」を延ばし、
(d)2つのアームを混合し、配列特異的プライマーを用いて増幅することにより、5'Xba I末端及び3'Hpa I末端を特徴とする最終PCR生成物E1A-2A-TKを形成し、
(e)PCR生成物E1A-2A-TKを制限酵素Xba I及びHpa Iで切断し、そして同様に切断されたベクターCP1131内にクローニングすることにより、CP1512を産出し;そして
(f)Qiagen Superfectによって、線状化CP1512(Nru I)を線状化CP1412(Cla I)と共トランスフェクトし、そして線状化CP1512(Nru I)を線状化pBHGE3(Cla I)と共トランスフェクトすることにより、それぞれOV1083及びOV1082を産出する。
【0174】
実施例3
自己プロセッシング性切断配列を含むウィルス構造の試験
ウィルスの設計:複製、タンパク質発現、及び転写調節された腫瘍溶解性アデノウィルスの細胞毒性に対するFMDV 2Aオリゴペプチドの(E1A-E1B多シストロン・カセット内の)組込み効果を評価した。(ヒトE2F-1プロモーターの転写制御下にある)FMDV 2A二シストロン・カセットを含有するベクターを、同様に転写調節されたベクターと比較した。それぞれの事例において、E1A 19及び/又は55kの発現は、異なるメカニズムに依存する。これらのベクター及びこれらに関連する対照を下で説明し、図2A-Fに図式的に示す。
【0175】
OV 1504.11.M.2.2.C及びOV 1057は、ヒトE2F-1プロモーターの転写制御下にあるE1A- FMDV 2A-E1B 55kカセットの種々異なる変異体を含有する。バックグラウンドとしては、E1Aは、コードされた5つの関連タンパク質(一般に13S, 12S, 11S, 10S及び9Sと呼ばれる)に対応する、選択的スプライシングされた5つのメッセージから成る転写単位である (Shenk, T.(1996)Fundamental Virology, 第979-1016頁)。9Sを除いて、これらのタンパク質は、同じN-及びC-末端を共有する。リボソーム「スキップ」部分として、FMDV 2Aは、所与のカセット内で「尾部」として上流側タンパク質に付着されたままである。従って、2A配列に対応するアミノ酸は、E1Aタンパク質13S, 12S, 11S及び10SのそれぞれのC末端に加えられることになる。
【0176】
E1Bに関しては、選択的スプライシングを介して、2つのタンパク質(E1B 19kD及び55kD)を発現させる。この場合にも、FMDV 2Aによって媒介された共翻訳プロセッシングは、単一の長いオープン・リーディング・フレームを必要とする。従ってE1Bの19kコード領域を欠失させ(従って、55kコード領域の開始コドンはFMDV 2A末端に隣接し、この末端を有するフレーム内に位置する)ことにより、多シストロン・カセット内の単一オープン・リーディング・フレームを保存する。
【0177】
FMDV 2Aオリゴペプチドに関しては、以前の研究が示すところによれば、その主要プロセッシング活性を19アミノ酸領域のc末端に局在化させることができる。FMDV 2Aプロセッシング活性は、新規の「スキップ」(保存配列-NPGP-の末端G及びPの間)によって発生すると考えられるので、われわれは、FMDV 2Aのc末端から第2遺伝子の開始コドンまでのスペースの差異が、観察されたプロセッシング活性に影響を与えるかどうかを見極めることにした。第2翻訳生成物の生成効率の潜在的な差異を試験するために、FMDV 2Aオリゴペプチドの2つの異なるC末端を設計した。OV 1057の場合、保存アミノ酸配列-NPGP-を、E1B 55Kの開始コドンにすぐ隣接して配置した。OV 1504.11.M.2.2.Cの場合、2つの付加的なアミノ酸(V, D)を-NPGP-配列と、E1B 55kの開始コドンとの間に導入した。
【0178】
2A以外のメカニズムを介してE1Bタンパク質の一方又は両方を発現させる、いくつかの同様のベクターを比較のために使用した。OV945は、E1B 55kの翻訳を媒介するためにECMV IRESを含むのに対して、19kの発現は、そのコード領域における欠失を介して絶やされる。OV1056及びOV 1504.11.M.1.1.Bは両方とも、天然型E1Bプロモーターを維持する。OV1056の場合、19kコード領域は、55kとオーバーラップしない領域の欠失によって完全に除去されている。このようなものとして、55kの開始コドンは、前に19kの開始コドンによって占められていた位置を占める。OV 1504.11.M.1.1.Bにおいてはこのような欠失は形成されず、その結果、異種E2F-1プロモーターを除いて野生型Ad5と同一のベクターがもたらされる。
【0179】
この研究において、組換えアデノウィルス・ゲノムの左手側及び右手側の(293細胞における)相同組換えによって、ウィルスを生成した。A549細胞を介した各ベクターの分離及び複数回の継代培養に続いて、ストックをA549細胞中で増幅し、そしてそれぞれの構造を検証した。このために、野生型アデノウィルス5ゲノム内の配列に対して特異的なプライマーを使用して、各ウィルス・ゲノムの修飾された領域をカバーする大きいPCRアンプリコンを生成した(図3A)。各ゲノムに対する修飾は、増幅された領域に含まれるので、アンプリコンのサイズはわずかに変化するべきである。加えて、部位使用頻度がゲノムに加えられた特定の修飾に依存する制限酵素を用いて、アンプリコンをマッピングした。この場合、BstX I及びAcc Iは、アンプリコンのそれぞれに適用されると、明確な、容易に同定可能な消化パターンを産出する(図3B及び3C)。その結果生じる各ベクターの消化パターンは予測された通りであった。
【0180】
腫瘍細胞系及び正常細胞系の両方のパネルにおいてウィルス複製を評価することにより、ベクターのそれぞれからのウィルス子孫の生成を試験した。細胞を2のMOIで感染させ、そして感染から72時間後に捕集した。細胞溶解物を調製し、そしてこれらを293細胞を感染させた。293細胞は、アデノウィルス複製のためにトランス相補性を提供する細胞系である。これらの腫瘍溶解性ベクターは腫瘍選択的E2F-1プロモーターによって駆動されるので、ウィルス生成は正常細胞において、非選択的野生型ウィルスOV802と比較して著しく低くなると予測される。実際、OV 1504.11.M.2.2.C及びOV1057の複製は野生型と比較して、正常細胞系WI-38及びHREにおいて、それぞれ約140〜320倍及び490〜1160倍だけ減衰された(表3)。
【0181】
表3. ウィルス収量アッセイ(PFU/細胞)
【表3】

【0182】
E2F転写調節された他のベクター、OV945及びOV1056も同様に減衰された。外生的メカニズムを使用してE1B 55Kを発現させるベクターの中で、腫瘍細胞中のウィルス収量を、天然型E1Bプロモーターを使用するウィルス収量と比較すると、生成された子孫ウィルスの量は、ほぼ1〜4倍変化しただけであった。これらの結果は、ECMV IRES又は天然型E1BプロモーターによってE1B発現が媒介されるE2F制御型ウィルスと一緒に見た場合、FMDV 2A媒介型翻訳が、複製の選択性を著しくは変化させないことを示す。
【0183】
既述のように、多シストロン・カセットの翻訳プロセッシングを媒介するためにFMDV 2Aを使用すると、下流側のシストロンの発現を増大させるという点で潜在的な利点が提供される。一連の関連ベクターと比較して、OV1054.11.M.2.2.C及びOV1057からのE1A及びE1B 55kの発現レベルを見極めるために、10のMOIで、A549細胞にそれぞれのウィルスを別々に感染させた。感染から24時間後、細胞を捕集して溶解物を調製した(上記の通り)。次いでウェスタン・ブロットを実施することにより、E1A及びE1B 55kタンパク質の発現を見極めた。
【0184】
E1B 55k発現のために使用された下流側の要素の影響に関して、E1Aの発現をモニタリングした。FMDV 2Aを含有するベクターは、野生型E1Bプロモーター又はIRESを有するベクターによって生成されたものと比較して、低減された相対レベルを合成するように思われる(図5A)。OV1054.11.M.2.2.C及びOV1057からの溶解物中では、E1Aタンパク質は、これらが不変の形態(すなわちFMDV 2A「尾部」を欠く形態)で発現されるであろうと予期される位置では検出されなかった。その代わりに、等しい数の種が、約3kDだけ上流側にシフトされた位置で検出された。このサイズは、FMDV 2Aの予測サイズ2.7kDとおおよそマッチングする。とりわけ、100kD範囲付近で、より大きい2つのバンドが目に見える。これらはおそらく、97kD及び104kDのE1A-FMDV 2A-E1B 55kポリペプチドを表す。これらのポリペプチドは、E1Aの異なるスプライス変異体を含有する、プロセッシングされていない多シストロンmRNAの翻訳から生じるものであるはずである。これらのポリペプチドは目で見えはするものの、極めて少数の総検出可能種であると思われる。このことは、FMDV 2A媒介型プロセッシングの相対効率を示し、そして他の発現系を用いた以前に発表された報告を確証する。
【0185】
ウェスタン・ブロット分析によって、E1B 55kの発現を見極めた。OV945感染型細胞からの55Kの発現が、ウェスタン・ブロットによって辛うじて検出可能であった。このことは非定量アッセイの検出の限界を表しているとも言える。或いは、IRESからの非効率的な遺伝子発現が以前に実証されており、前記のような発現レベルが予測可能な結果であることを示唆している。対照的に、E1A-FMDV 2A-E1B 55kベクター、OV1054.11.M.2.2.C及びOV1057からの55Kの発現レベルは、OV945(図5B)の発現レベルと比較してより高く、このことは、FMDV 2A配列を含むカセットからの下流側遺伝子の発現が、IRESを含むカセットからの発現よりも効率的であることを示唆した。アデノウィルス・ベクターのパッケージング・キャパシティに対する制約を考えると、2A系の効率がより高ければ高いほど、やはり、より小さなサイズが得られるという利点が提供される。
【0186】
MTSアッセイを上述のように実施して、OV1054.11.M.2.2.C及びOV1057の細胞毒性を、他のE2F制御型ウィルス並びにOV802の細胞毒性と比較した。細胞パネルに、濃度範囲全体にわたるそれぞれのウィルスを別々に感染させた。未感染対照と比較して、腫瘍細胞の生存可能性を7日目に定量化した。これらの結果を図6A、6B及び6Cに示す。未感染対照と比較して、正常細胞の生存可能性を10日目に再び定量化した(図6D)。試験された細胞系の中で、E1Bプロモーター及び19K ORFを含有するベクター、野生型OV802及びOV1054.11.M.1.1.Bは、他のベクターと比較して、一般に最も強力な応答を示し、最も低いEC50値(細胞個体群の50%を死滅させるウィルスの濃度)を有した。他の4つのベクターは同様のウィルス死滅度を示した。Panc I細胞で得られた結果は、OV1056がOV802及びOV1054.11.M.1.1.Bと毒性において類似している点で例外であった。
【0187】
ここに提供された結果が示すように、自己プロセッシング性切断配列、例えば2A配列を使用することにより、E1B発現がIRES又は天然型E1Bプロモーターによって媒介される他のウィルスと類似の反復選択性を示す機能性腫瘍溶解性ウィルスを生成することができ、複数のタンパク質、この場合はE1A及びE1B 55Kを発現させることができ、そして細胞毒性及びウィルス収量が影響されることはない。従ってこれらの結果は、自己プロセッシング性切断配列、例えば2A配列の使用が、効率的なタンパク質発現を達成するための腫瘍溶解性ベクターに対する実行可能な選択肢であることを確証する。自己プロセッシング性切断配列、例えば2A配列は、IRES又は第2プロモーターの使用に依存する標準ベクター構造と比較して使用される。2Aコード配列のサイズが小さいことにより、コード配列及び調節配列のためのパッケージング・キャパシティが制限されている複製適格アデノウィルス中でこの配列を使用することが有利になる。加えて、2部分から成るプロモーターの必要性が排除されることにより、各コード配列の発現レベルを低減し且つ/又は損なうおそれのあるプロモーター妨害が低減され、そしてIRESの必要性が排除されることにより、単一TREの転写制御下における第2タンパク質に対応するコード配列の発現が著しく増大することになる。
【0188】
表4. (配列リスト用)配列表
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1A】E2Fプロモーターの制御下でE1A及びE1Bを発現させる二シストロン・カセット内の2A要素を示す概略図である(図1A)。
【図1B】E2Fプロモーターの制御下でE1A及びGM-CSFを発現させる二シストロン・カセット内の2A要素を示す概略図である(図1B)。
【図1C】テロメラーゼ・プロモーターの制御下でE1B55K及びGM-CSFを発現させる二シストロン・カセット内の2A要素を示す概略図である(図1C)。
【図1D】アデノウィルス主要後期プロモーターの制御下で線維及びGM-CSFを発現させる二シストロン・カセット内の2A要素を示す概略図である(図1D)。
【図1E】内在性E3プロモーターの制御下で、別のスプライシングによってCD及びGM-CSFが発現される二シストロン・カセット内の2A要素を示す概略図である(図1E)。
【図1F】内在性E4プロモーターの制御下で、E4 ORF1 及びGM-CSFを、続いてE4 ORF2-7を発現させる二シストロン・カセット内の2A要素を示す概略図である(図1F)。
【図1G】主要後期プロモーターの制御下でペントン及びGM-CSFを発現させる二シストロン・カセット内の2A要素を示す概略図である(図1G)。
【図1H】主要後期プロモーターの制御下でヘクソン及びGMCSFを発現させる二シストロン・カセット内の2A要素を示す概略図である(図1H)。
【図1I】及び内在性E2プロモーターの制御下で、E2A 及びGM-CSFを、続いてE2Bを発現させる二シストロン・カセット内の2A要素を示す概略図である(図1I)。
【0190】
【図2A】図2A〜Eは、E1A/E1B接合部及びE1B領域に種々の修飾が加えられたE1A-FMDV 2A-E1B 55kカセットを特徴とするE2F制御型ベクターの例を示す概略図であり、図2Aは、OV1054.11(M.2.2.C)の概略図である。
【図2B】図2A〜Eは、E1A/E1B接合部及びE1B領域に種々の修飾が加えられたE1A-FMDV 2A-E1B 55kカセットを特徴とするE2F制御型ベクターの例を示す概略図であり、図2Bは、OV1057の概略図である。
【図2C】図2A〜Eは、E1A/E1B接合部及びE1B領域に種々の修飾が加えられたE1A-FMDV 2A-E1B 55kカセットを特徴とするE2F制御型ベクターの例を示す概略図であり、図2Cは、OV945の概略図である。
【図2D】図2A〜Eは、E1A/E1B接合部及びE1B領域に種々の修飾が加えられたE1A-FMDV 2A-E1B 55kカセットを特徴とするE2F制御型ベクターの例を示す概略図であり、図2Dは、OV1056の概略図である。
【図2E】図2A〜Eは、E1A/E1B接合部及びE1B領域に種々の修飾が加えられたE1A-FMDV 2A-E1B 55kカセットを特徴とするE2F制御型ベクターの例を示す概略図であり、図2Eは、OV1054.11(M.1.1.B)の概略図である。
【図2F】図2A〜Eは、E1A/E1B接合部及びE1B領域に種々の修飾が加えられたE1A-FMDV 2A-E1B 55kカセットを特徴とするE2F制御型ベクターの例を示す概略図であり、図2Fは、OV802(wt Ad5)の概略図である。
【0191】
【図3A】図3A〜Cは、野生型アデノウィルス5ゲノム内の配列に対して特異的なプライマーを使用して、A549細胞を各ベクターが複数回通過した後のOV802、OV1054.11.M.2.2C及びOV1057ベクターをPCR分析した結果(図3A)、及び制限酵素BstX I及びAcc Iでそれぞれ処理した後のOV802、OV1054.11.M.2.2.C及びOV1057ベクターをPCR分析した結果(図3B及び3C)を示す図である。
【図3B】図3A〜Cは、野生型アデノウィルス5ゲノム内の配列に対して特異的なプライマーを使用して、A549細胞を各ベクターが複数回通過した後のOV802、OV1054.11.M.2.2C及びOV1057ベクターをPCR分析した結果(図3A)、及び制限酵素BstX I及びAcc Iでそれぞれ処理した後のOV802、OV1054.11.M.2.2.C及びOV1057ベクターをPCR分析した結果(図3B及び3C)を示す図である。
【図3C】図3A〜Cは、野生型アデノウィルス5ゲノム内の配列に対して特異的なプライマーを使用して、A549細胞を各ベクターが複数回通過した後のOV802、OV1054.11.M.2.2C及びOV1057ベクターをPCR分析した結果(図3A)、及び制限酵素BstX I及びAcc Iでそれぞれ処理した後のOV802、OV1054.11.M.2.2.C及びOV1057ベクターをPCR分析した結果(図3B及び3C)を示す図である。
【0192】
【図4】図4は、腫瘍細胞系及び正常細胞系の両方のパネルを使用して、OV802、OV945、OV1056、OV1057及びOV1054ベクターによるウィルス生成を試験するウィルス産出アッセイの結果を示す図である。これらの結果をPFU/細胞として報告し、そして表3に要約する。
【0193】
【図5A】図5A及びBは、それぞれE1A(図5A)及びE1B 55k(図5B)に対する抗体を使用して行われた、OV945、OV1057、OV1054.11.M.2.2.C、OV1056、OV1054.11.M.1.1.B及びOV802ベクターを感染されたA549細胞によるアデノウィルス・タンパク質の発現に関するウェスタン・ブロット分析結果を示す。
【図5B】図5A及びBは、それぞれE1A(図5A)及びE1B 55k(図5B)に対する抗体を使用して行われた、OV945、OV1057、OV1054.11.M.2.2.C、OV1056、OV1054.11.M.1.1.B及びOV802ベクターを感染されたA549細胞によるアデノウィルス・タンパク質の発現に関するウェスタン・ブロット分析結果を示す。
【0194】
【図6A】図6A〜Cは、SW 780細胞(図6A)、Panc I細胞(図6B)、LoVo細胞(図6C)及びMRC5細胞(図6D)内でそれぞれOV945、OV802、OV1057、OV1054.11.M.2.2.C、OV1054.11.M.1.1.B及びOV1056ベクターを感染させた後のMTS細胞毒性アッセイの結果を示す。
【図6B】図6A〜Cは、SW 780細胞(図6A)、Panc I細胞(図6B)、LoVo細胞(図6C)及びMRC5細胞(図6D)内でそれぞれOV945、OV802、OV1057、OV1054.11.M.2.2.C、OV1054.11.M.1.1.B及びOV1056ベクターを感染させた後のMTS細胞毒性アッセイの結果を示す。
【図6C】図6A〜Cは、SW 780細胞(図6A)、Panc I細胞(図6B)、LoVo細胞(図6C)及びMRC5細胞(図6D)内でそれぞれOV945、OV802、OV1057、OV1054.11.M.2.2.C、OV1054.11.M.1.1.B及びOV1056ベクターを感染させた後のMTS細胞毒性アッセイの結果を示す。
【図6D】図6A〜Cは、SW 780細胞(図6A)、Panc I細胞(図6B)、LoVo細胞(図6C)及びMRC5細胞(図6D)内でそれぞれOV945、OV802、OV1057、OV1054.11.M.2.2.C、OV1054.11.M.1.1.B及びOV1056ベクターを感染させた後のMTS細胞毒性アッセイの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞溶解性複製適格アデノウィルス・ベクターであって、順番に:左ITR、第1アデノウィルス遺伝子に対応するコード配列に作用可能式に連結された異種転写調節要素(TRE)、自己プロセッシング性切断部位をコードする配列、第2アデノウィルス遺伝子に対応するコード配列、及び右ITRを含む、アデノウィルス・ベクター。
【請求項2】
前記第1アデノウィルス遺伝子が、複製に必須のアデノウィルス遺伝子である、請求項1に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項3】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、初期遺伝子である、請求項2に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項4】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、E1A、E1B、E2及びE4から成る群から選択されている、請求項3に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項5】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、E1A又はE1Bである、請求項4に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項6】
E1A又はE1Bがその内在性プロモーターの突然変異又は欠失を有する、請求項5に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項7】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、後期遺伝子である、請求項2に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項8】
前記第2アデノウィルス遺伝子が、複製に必須のアデノウィルス遺伝子である、請求項1に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項9】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、初期遺伝子である、請求項8に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項10】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、E1A、E1B、E2及びE4から成る群から選択されている、請求項9に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項11】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、E1A又はE1Bである、請求項10に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項12】
E1A又はE1Bがその内在性プロモーターの突然変異又は欠失を有する、請求項11に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項13】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、後期遺伝子である、請求項7に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項14】
前記自己プロセッシング性切断部位をコードする配列が、2A配列を含む、請求項4に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項15】
前記2A配列が口蹄疫ウィルス(FMDV)配列である、請求項14に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項16】
前記2A配列が、アミノ酸残基LLNFDLLKLAGDVESNPGP(SEQ ID NO:1)又はTLNFDLLKLAGDVESNPGP(SEQ ID NO:2)を含むオリゴペプチドをコードする、請求項15に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項17】
さらに、付加的なタンパク質分解的切断部位を含み、前記切断部位が、コンセンサス配列RXK(R)R(SEQ ID NO:10)を有するフリン切断部位である、請求項15記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項18】
前記異種TREが、組織特異的プロモーター、腫瘍特異的プロモーター、発生段階特異的プロモーター及び細胞状態特異的プロモーターから成る群から選択されたプロモーターを含む、請求項4に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項19】
前記異種TREがさらに、エンハンサーを含む、請求項18記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項20】
前記異種TREが、E2F応答プロモーター、TERTプロモーター、前立腺特異的抗原(PSA)転写調節要素(PSA-TRE)、プロバシン転写調節要素(PB-TRE)、ヒト腺カリクレイン転写調節要素(HKLK2-TRE)、癌胎児性抗原転写調節要素(CEA-TRE)、アルファ-フェトプロテイン転写調節要素(AFP-TRE)、ウロプラキンII転写調節要素(UPII-TRE)、PRL-3転写調節要素TRE(PRL-3TRE);メラニン細胞特異的転写応答要素(メラニン細胞TRE)、及びCRG-L2転写調節要素(CRG-L2 TRE)から成る群から選択される、請求項4に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項21】
前記異種TREがE2F応答プロモーターである、請求項20に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項22】
前記E2F応答プロモーターがSEQ ID NO:15を含む、請求項21に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項23】
前記異種TREがTERTプロモーターである、請求項20に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項24】
前記TERTプロモーターがヒトTERTプロモーターである、請求項23に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項25】
前記TERTプロモーターがSEQ ID NO:16又はSEQ ID NO:17を含む、請求項24に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項26】
E1B遺伝子が、19-kDa領域の欠失を有する、請求項5に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項27】
さらに、E3コード領域における突然変異又は欠失を含む、請求項4に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項28】
1つ以上のE3コード領域が前記バックボーンから欠失させられている、請求項27に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項29】
前記バックボーン内のE3領域が、天然型E3タンパク質のうちの1つ以上をコードする、請求項4に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項30】
前記E3コード領域が、E3-6.7 KDa、gp19 KDa、11.6 KDa(ADP)、10.4 KDa(RIDα)、14.5 KDa(RIDβ)、及びE3-14.7 KDaから成る群から選択される、請求項29に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項31】
前記バックボーン内のE3コード領域が、天然型E3タンパク質の全てをコードする、請求項29に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項32】
請求項15に記載のアデノウィルス・ベクターを含む、分離された宿主細胞。
【請求項33】
請求項22に記載のアデノウィルス・ベクターを含む、分離された宿主細胞。
【請求項34】
請求項25に記載のアデノウィルス・ベクターを含む、分離された宿主細胞。
【請求項35】
請求項15に記載の複製適格アデノウィルス・ベクターと、医薬的に受容可能な賦形剤とを含む、組成物。
【請求項36】
請求項22に記載の複製適格アデノウィルス・ベクターと、医薬的に受容可能な賦形剤とを含む、組成物。
【請求項37】
請求項25に記載の複製適格アデノウィルス・ベクターと、医薬的に受容可能な賦形剤とを含む、組成物。
【請求項38】
細胞溶解性複製適格アデノウィルス・ベクターであって、順番に:左ITR、アデノウィルス遺伝子に対応するコード配列に作用可能式に連結された異種転写調節要素(TRE)、自己プロセッシング性切断部位をコードする配列、トランス遺伝子に対応するコード配列、及び右ITRを含む、アデノウィルス・ベクター。
【請求項39】
前記アデノウィルス遺伝子が、複製に必須のアデノウィルス遺伝子である、請求項38に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項40】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、初期遺伝子である、請求項39に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項41】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、E1A、E1B、E2及びE4から成る群から選択されている、請求項40に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項42】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、E1A又はE1Bである、請求項41に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項43】
E1A又はE1Bがその内在性プロモーターの突然変異又は欠失を有する、請求項42に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項44】
前記複製に必須のアデノウィルス遺伝子が、後期遺伝子である、請求項39に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項45】
前記トランス遺伝子が細胞毒性遺伝子である、請求項41に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項46】
前記細胞毒性遺伝子が、アデノウィルス性死滅タンパク質(ADP)遺伝子である、請求項45に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項47】
前記トランス遺伝子がGM-CSFである、請求項41に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項48】
前記自己プロセッシング性切断部位をコードする配列が、2A配列を含む、請求項41に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項49】
前記2A配列が口蹄疫ウィルス(FMDV)配列である、請求項48に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項50】
前記2A配列が、アミノ酸残基LLNFDLLKLAGDVESNPGP(SEQ ID NO:1)又はTLNFDLLKLAGDVESNPGP(SEQ ID NO:2)を含むオリゴペプチドをコードする、請求項49に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項51】
さらに、付加的なタンパク質分解的切断部位を含み、前記切断部位が、コンセンサス配列RXK(R)R(SEQ ID NO:10)を有するフリン切断部位である、請求項41記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項52】
前記異種TREが、組織特異的プロモーター、腫瘍特異的プロモーター、発生段階特異的プロモーター及び細胞状態特異的プロモーターから成る群から選択されたプロモーターを含む、請求項41に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項53】
前記異種TREはさらに、エンハンサーを含む、請求項52記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項54】
前記異種TREが、E2F応答プロモーター、TERTプロモーター、前立腺特異的抗原(PSA)転写調節要素(PSA-TRE)、プロバシン転写調節要素(PB-TRE)、ヒト腺カリクレイン転写調節要素(HKLK2-TRE)、癌胎児性抗原転写調節要素(CEA-TRE)、アルファ-フェトプロテイン転写調節要素(AFP-TRE)、ウロプラキンII転写調節要素(UPII-TRE)、PRL-3転写調節要素TRE(PRL-3TRE);メラニン細胞特異的転写応答要素(メラニン細胞TRE)、及びCRG-L2転写調節要素(CRG-L2 TRE)から成る群から選択される、請求項41に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項55】
前記異種TREがE2F応答プロモーターである、請求項54に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項56】
前記E2F応答プロモーターがSEQ ID NO:15を含む、請求項55に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項57】
前記異種TREがTERTプロモーターである、請求項41に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項58】
前記TERTプロモーターがヒトTERTプロモーターである、請求項57に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項59】
前記TERTプロモーターがSEQ ID NO:16又はSEQ ID NO:17を含む、請求項58に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項60】
E1B遺伝子が、19-kDa領域の欠失を有する、請求項43に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項61】
さらに、E3コード領域における突然変異又は欠失を含む、請求項41に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項62】
E3コード領域のうちの1つ以上が前記バックボーンから欠失させられている、請求項61に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項63】
前記バックボーン内のE3領域が、天然型E3タンパク質のうちの1つ以上をコードする、請求項41に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項64】
前記E3コード領域が、E3-6.7 KDa、gp19 KDa、11.6 KDa(ADP)、10.4 KDa(RIDα)、14.5 KDa(RIDβ)、及びE3-14.7 KDaから成る群から選択される、請求項63に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項65】
前記バックボーン内のE3コード領域が、天然型E3タンパク質の全てをコードする、請求項63に記載のアデノウィルス・ベクター。
【請求項66】
請求項49に記載のアデノウィルス・ベクターを含む、分離された宿主細胞。
【請求項67】
請求項56に記載のアデノウィルス・ベクターを含む、分離された宿主細胞。
【請求項68】
請求項59に記載のアデノウィルス・ベクターを含む、分離された宿主細胞。
【請求項69】
請求項49に記載の複製適格アデノウィルス・ベクターと、医薬的に受容可能な賦形剤とを含む、組成物。
【請求項70】
請求項56に記載の複製適格アデノウィルス・ベクターと、医薬的に受容可能な賦形剤とを含む、組成物。
【請求項71】
請求項59に記載の複製適格アデノウィルス・ベクターと、医薬的に受容可能な賦形剤とを含む、組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図1H】
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【図1I】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【公表番号】特表2007−525949(P2007−525949A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515081(P2006−515081)
【出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/017313
【国際公開番号】WO2004/108893
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(597078983)セル ジェネシス インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】