自己修復システムを有する画像形成装置
【発明の詳細な説明】
【0001】目次1.産業上の利用分野2.従来の技術3.発明が解決しようとする課題4.課題を解決するための手段5.作用(5−1)課題を解決するための手段(5−2)「作業スクリプトの詳細化」の内容と作用6.実施例(6−1)システム構成の概要(6−2)システムの動作の概要(6−3)具体的な対象機械の構成および状態(6−4)実体モデルと数学モデル(6−5)故障診断の手法(6−6)修復作業の実行(6−7)事例の検索による故障修復処理(6−8)修復計画の推論(6−9)副次的影響の推論(6−10)その他7.発明の効果
【0002】
【産業上の利用分野】この発明は、自己修復システムを有する画像形成装置に関するものである。より詳しくは、近年盛んに研究が行われている人工知能、知識工学を利用して、装置が(動作状態等を自己診断し、)自己修復し得るようにした画像形成装置に関するものである。
【0003】
【従来の技術】精密機械や産業機械等の開発分野においては、保全作業の省力化や自動運転の長期化を実現するために、最近、人工知能(ArtificialIntelligence:いわゆるAI)技術を利用したエキスパートシステムの研究が盛んに行われている。エキスパートシステムの中には、装置に故障が生じたか否かを自己診断し、また生じた故障を自己修復するものが見受けられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、従来のエキスパートシステム(自動調節システムや故障診断システム)は、基本的には、或るセンサの出力に基づいて対応するアクチュエータを作動させるようになっていた。つまり、予め定めるセンサおよびアクチュエータの組合わせにより、一種の自動調節や故障診断がなされていた。よって、基本的には、或るセンサは特定のアクチュタと対応しており、両者の関係は固定的であった。それゆえ、(1)センサのパラメータとアクチュエータのパラメータとの関係は数値的に明示されていなければならないこと。
【0005】(2)上記(1)の理由から、センサのパラメータとアクチュエータのパラメータとの関係は対象に強く依存しており、汎用性に乏しく、様々な対象に対して利用ができないこと。
(3)各センサ同士のパラメータ間または各アクチュエータ同士のパラメータ間の関係は制御と無関係である。したがって、対応するセンサのパラメータとアクチュエータのパラメータとの関係のみに基づく単純な制御しか行えず、対処できる故障が予め限定されていて、未知の故障は扱えないこと。
【0006】(4)上記(3)の理由から、任意のアクチュエータを操作したことにより生じ得る他のアクチュエータパラメータへの副次的影響を予測できないこと。
等の問題点があった。このように、従来の自動調節システムや故障診断システムでは、予測故障AはセンサAおよびアクチュエータAの組Aに基づいて行われ、予測故障BはセンサBおよびアクチュエータBの組Bに基づいて行われ、予測故障CはセンサCおよびアクチュエータCの組Cに基づいて行われるという具合に、それぞれ独立したセンサおよびアクチュエータの組に基づく故障診断が行われ、またそれに基づく故障修復が行われていたにすぎなかった。
【0007】そこで、本件出願人は、従来システムの欠点を解消した画像形成装置のための新規な自己診断および自己修復システムについて特許出願を行った(たとえば特願平2−252191号(特開平4−130459号)参照)。この先願にかかる画像形成装置のための自己診断および自己修復システムは、2つの大きな特徴を備えている。
【0008】1つは、対象機械をパラメータを用いて定性的に表わし、その定性データを用いて対象機械の故障診断を行うこと、つまり、定性モデルベースドシステム(Qualitative Model Based System:以下、「QMS」という)による故障診断を行っていることである。そしてもう1つは、QMS処理を行うと、故障診断の結果は「故障症状」と「故障」とによって階層的に分類されるので、それを事例として記憶する。また、同じ故障症状および故障に属する複数の事例に対しては共通的な修復作業を施せることが多いので、修復に必要な作業を、最小限の単位で、ルール形式で表わす。そして、その作業単位の集合を作業スクリプトとして登録し、その故障症状および故障に属する複数の事例によって共有させる。そのようにして得られた事例ベースを利用して、事例ベース修復計画システム(Case Based Planing System:以下「CBS」という)を作っていることである。その結果、故障症状と故障とによって階層的に分類された事例から今回の故障症状と故障とが当てはまる事例を選択して、選択した事例およびその事例に対応する作業スクリプトに基づいて修復作業が行われる。
【0009】ところで、先願発明においては、CBSにおける事例は、「故障症状」と「故障」とによって分類されているが、事例はさらに細かく分類することが可能と思われる。そして、事例をさらに細かく分類することにより、事例を参照する際に、或る事例の参照に失敗した場合、失敗した事例と同じ分類に属する事例を選択することを避け、事例選択に関する成功率を向上させることができるはずである。
【0010】本願の発明者は、かかる事例分類に関する詳細化という点に着目し、この発明を完成した。この発明の目的は、一言で言えば、CBSにおける事例選択に関する成功率を向上させ、より迅速に自己修復作業が実行可能なシステムを有する画像形成装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】上述の目的を実現するために、この発明の画像形成装置は、画像形成装置の故障を修復するための作業を記載した事例を、類に分けて記憶する事例記憶手段と、各類の故障修復への適用優先度を記憶する優先度記憶手段と、画像形成装置に故障が生じたとき、生じた故障に対応した事例を選択し、選択した事例が複数ある場合には、生じた故障と事例との対応度の大小によって適用順位を決め、対応度の等しいものがあるときは、適用優先度の高い類に属する事例を優先するように適用順位を決める適用順位決定手段と、適用順位決定手段で決定された順位に従って、事例を故障修復に適用する手段と、事例を適用して故障修復をした結果、失敗したときは、その事例が属する類を記憶しておき、その後に故障修復に適用する事例が、失敗にかかる事例と同じ類に属する場合には、その事例の適用を省略する手段と、事例の適用結果に応じて、優先度記憶手段に記憶されているその事例が属する類の適用優先度を更新する手段とを有する。
【0012】
【作用】
(5−1)課題を解決するための手段の作用この発明にかかる画像形成装置においては、故障を修復するための作業を記載した事例が、類に分けて記憶されている。類分けは、事例が定性的に到達可能な範囲内か否かに基づいてなされている。また、各類の故障修復への適用優先度が記憶されている。
【0013】画像形成装置に故障が生じたときには、その故障に対応した事例、たとえば状態パラメータの一致度が所定の一致度よりも大きな事例が選択される。選択された事例が複数ある場合には、対応度の大小、たとえば状態パラメータの一致度の高い順に適用順位が決定される。対応度の等しい事例があるときには、それらの事例に関しては、適用優先度の高い類に属する事例が優先されるように適用順位が付される。そして決定された適用順位に従って、事例が適用され、故障修復が図られる。
【0014】事例を適用して故障修復を行った結果、修復作業が成功しなかった場合には、その後に適用する事例は、失敗した事例が属する類の事例は省略され、異なる類に属する事例が選ばれる。この理由は、上述のように、同じ類に属する事例は、互いに定性的に到達可能な範囲内にあるから、或る類に属する事例を適用して故障修復を行った結果、その修復作業が成功しなかった場合は、定性的に到達可能な同一範囲内の他の事例に基づく故障修復を行っても、修復作業は失敗する蓋然性が高いことに基づく。それゆえ、かかる同じ類に属する事例の適用による無駄な時間を省略するようにした。
【0015】また、事例を故障修復に適用した結果、修復作業が成功した場合は、適用した事例の属する類の適用優先度が高くなるように更新される。一方、修復作業が失敗した場合は、適用した事例の属する類の適用優先度が低くなるように更新される。これにより、適用優先度は、今回適用したことにより修復作業が成功した事例の属する類の事例が最も高くなり、次回の故障修復時に、その類に属する事例が優先的に選択される。
【0016】(5−2)「作業スクリプトの詳細化」の内容と作用この発明にかかる画像形成装置は、基本的にはCBSを有している。なお、CBSの基本的な構成については、本願出願人の先願発明に開示されているが、本願明細書においても、後述する実例において詳しく説明する。CBSでは、前述したように、実際の修復作業の最小単位の操作を表現する方法として、ルール形式で記述された「作業スクリプト」が定義される。そして、事例を拡大解釈することを目的として、「作業スクリプトの詳細化」という操作が導入される。作業スクリプトの詳細化とは、作業スクリプトに対して仮説推論による論理的な操作を加えることであり、事例の状況と現在の状況との差異を発見し、その差異を解消することによって現在の状況を事例の状況と定性的に等しくするための操作である。
【0017】より具体的に説明する。図1に示すように、たとえばパラメータAおよびパラメータBで表わされる二次元空間において、FSで示す円内が装置が正常な状態のパラメータ空間であるとする。そして、事例1の場合は、パラメータAおよびパラメータBで表わされる状態位置がCS1であり、故障が生じている。そこで、作業スクリプトに記述された修復作業C1Rを施すことにより、事例1の状態位置CS1は正常なパラメータ空間FS内に移り、修復作業が成功する。
【0018】事例2では、パラメータAおよびパラメータBによって表わされる状態位置がCS2であり、この状態に対して作業スクリプトに記述された修復作業C2Rを施すことにより、この状態位置を正常なパラメータ空間FS内に移すことができる。作業スクリプトに記述された修復作業C1Rは、事例の状況がCS1で示す位置にある場合に対して有効な修復作業である。同様に、作業スクリプトに記述された修復作業C2Rは、事例の状況がCS2の位置にある場合に対して有効な修復作業である。
【0019】ところで、新たに診断された現在の故障の状況が、CS3で示す状況の場合には、作業スクリプトに記述された修復作業C1RもC2Rもそのまま適用することはできない。そこで、現在の状況CS3と、事例1の状況CS1との差異を発見して、CS3をCS1の状況まで移すための操作C3R1を作業スクリプトに追加する。これが作業スクリプトの詳細化である。あるいは、現在の状況CS3を事例2の状況CS2に移すための修復作業C3R2を追加する。これが作業スクリプトの詳細化である。そして、現在の状況CS3をたとえば事例1の状況CS1に移すことができれば、その状況に対しては修復作業C1Rを適用すれば、装置を正常な状態であるパラメータ空間FS内に移すことができる。
【0020】今、現在の状況CS3を修復作業C3R1を行うことによって事例1の状況CS1に移すことができ、さらに修復作業C1Rを行うことによってパラメータ空間FS内に移すことができたとすれば、それは作業スクリプトの詳細化を行うことによって、事例の参照に成功したということである。したがってこの場合は、作業スクリプトの詳細化によって事例参照に成功した状況、つまり現在の状況CS3と、もともとの事例、つまり事例1の状況CS1とは、定性的に到達可能な同一範囲内にあったと考えることができる。このような定性的に到達可能な同一範囲内にある事例は、同じ類に属すると定義する。
【0021】一方、現在の状況CS3を事例2の状況CS2に移そうとしたが、それがうまくいかなかった場合には、現在の状況CS3と事例2の状況CS2とは、もともと、定性的に到達不可能な関係である。それゆえ、この関係にあるものは、違う類に属すると定義する。また、或る状況において、参照に失敗した事例と参照に成功した事例とは、定性的に到達不可能であり、違う類に属すると定義する。また、事例の参照にすべて失敗し、QMSによって新たに生成された事例は、それまでの事例からは定性的に到達不可能であり、違う類に属すると定義する。
【0022】本願出願人の先願発明にかかるCBSでは、図2に示すように、事例は、「故障症状」と「故障」とによって階層的に分離されていたのに対し、上述のような定義の結果、この発明では、図3に示すように、事例は、「故障症状」、「故障」および「類」によって、より詳細に、階層的に分類される。次に、具体的な事例分類の例を示す。
【0023】図4を参照して説明する。一例として、CS1からCS5までの5つの事例が存在するとする。このうち、CS1、CS3およびCS4は、QMSにより生成された修復事例であり、CS2はCS1から、CS5はCS4から、それぞれ、事例推論による詳細化を経て得られた事例であるとする。この場合、5つの事例は〔CS1,CS2〕、〔CS3〕、〔CS4,CS5〕の3つの類に分類される。
【0024】今、任意の状況Sにおいて、これらの事例を参照する場合、状況Sとこれらの事例の状況との定性的な距離が近いと思われる順で事例参照に関する順位が与えられる。その順位付けの結果は、CS2、CS1、CS4、CS3、CS5の順であったとする。このとき、まず事例CS2を参照し、その参照に失敗した場合は、事例CS1は参照しない。これは、事例参照に失敗した原因は、与えられた状況Sが事例CS2の定性的到達可能範囲にないものと判断したもので、同じ類に属する事例CS1についても同様であると考えることに基づいている。したがって、すべての事例参照に失敗する場合は、その参照は、CS2、CS4、CS3の順で行われることになる。
【0025】このように、事例の分類に「類」の概念を導入し、事例の分類の詳細化を図ることにより、参照すべき事例の選択に関する成功率を高めることができる。また、事例選択のための時間の短縮化を図ることができる。ところで、図3に示すように、この発明では、事例集合は類ごとに分類されている。そして、同一の類に属する事例は、定性的に到達可能な範囲内にある。よって、たとえば事例CS1と事例CS4とは定性的に到達不可能な関係である。それゆえ、このように定性的に到達不可能な関係にある事例(たとえばCS1とCS4)が同じ作業スクリプト集合を共有するのは不自然である。そこで、この発明においては、異なる類に属する事例集合には、それぞれ異なる作業スクリプト集合を割り当てることにする。つまり、図5で示すように、定性的に到達可能な事例集合ごとに、作業スクリプト集合を共有するようにされている。
【0026】このことは、別の観点から見ると、定性的に到達不可能な関係にある事例同士は、故障の根本原因が異なっていると考えられるので、共通の類に属する事例ごとに作業スクリプト集合を割り当てる作業スクリプト集合の多重化は、故障の根本原因によって作業スクリプト集合を分離する作業であるとみることができる。さらに、この発明においては、事例検索効率を向上させるために、故障症状および故障が等しく、類が異なる事例に対して、類の類似性に基づいて、事例適用の優先順位を繰り上げるという処理を施している。
【0027】各事例は、QMSの故障診断の結果である「故障症状」と「故障」とによって階層的に分類されている。そして、さらに、事例推論による修復が繰返される過程で「類」ごとに分類されていく。それゆえ、結果として、「類」ごとに事例を分類する作業は、故障診断における「故障」の分類がさらに細かくされたことになる。
【0028】ところで、「類」は、上述のように、定性的に到達不可能な位置にある状態間の関係であり、故障の根本原因の相違と考えることができる。しかしながら、実際の機械システムを考察すると、故障の根本原因が同じでありながら、発現する故障症状が異なることも多い。たとえば、複写機を例にとると、「メインチャージが上がるとかぶりが発生するが、ドラムにリークしてリセットがかかることがある」場合もあれば、「メインチャージが上がるとかぶりが発生するが、ドラムにリークし画像が乱れることがある」場合もある、というように、「リセットがかかる」という故障症状が発現することもあれば、「画像が乱れる」という故障症状が発現することもある。さらに、装置は、故障の根本原因が除去されていない限り、同一の故障原因により出現する故障症状の頻度が高い。
【0029】それゆえ、或る故障症状に関して或る類の事例を適用して修復に成功した結果から、異なる故障症状に関しても、類似した類に属する事例を適用すれば、適正な修復作業が得られる可能性が高いと考えられる。それゆえ、或る故障症状に関して或る類の事例を適用して修復を行い、それが成功した場合、異なる故障症状に属する事例につき、修復を行った事例と類似した類に属する事例がある場合、その事例の適用に関する優先順位を繰り上げる処理を行う。
【0030】つまり、「類」による分類は、「故障症状」および「故障」というQMSに基づく分類の「枠組を越えている」ので、異なる故障症状に関する事例であっても「類」が類似している場合がある。ここに、「類」の類似とは、各類ごとに、その類に属する事例が共通の特徴を有していることである。具体的には後述する実施例で詳細に説明するが、その類に属する事例の「修復前の状況」から共通部分を取り出すことによって、類の特徴抽出が行われる。異なる故障症状の類に属する事例同士を比較し、類に含まれるすべて事例の「修復前の状況」がその特徴を共通にしているとき、それらの類は類似すると判断し、事例適用に関する優先順位の繰り上げ処理を行う。
【0031】たとえば図6に示すように、事例集合Aの特徴がPであり、事例集合Bの特徴がQである場合において、PがQに含まれるとき(P∈Q)、事例集合Aは事例集合Bに類似すると判断される。なお、この場合において、必ずしも事例集合Bは事例集合Aに類似する(QはPに含まれるQ∈P)わけではない。かかる類の類似性によって事例の適用順位を繰り上げることにより、事例に基づく修復において、全体的な事例適用の成功率を向上させることができる。
【0032】
【実施例】
(6−1)システム構成の概要図7は、この発明の一実施例のシステム構成を示すブロック図である。このシステムには、対象機械である画像形成装置上に設置された複数のセンサ1a,1b,1cおよび対象機械の機能状態等を変化させるための複数のアクチュエータ6a,6b,6cが含まれている。
【0033】複数のセンサ1a,1b,1cは、それぞれ、この対象機械の作動によって生じる対象機械の要素または該機械要素間の関連状態の変化を検出するためのものである。複数のセンサ1a,1b,1cからそれぞれ取込まれる情報は、増幅回路2で増幅され、A/D変換回路3でアナログ信号からディジタル信号に変換され、システム制御回路10へ与えられる。
【0034】システム制御回路10には、ディジタル信号/シンボル変換部11、故障診断部12、故障シミュレーション部13、対象モデル記憶部14、修復計画部15およびシンボル/ディジタル信号変換部16が含まれている。また、修復計画部15には事例ベース記憶部17および作業スクリプト記憶部18が接続されている。
【0035】ディジタル信号/シンボル変換部11は、A/D変換回路3から与えられるディジタル信号を、定性的な情報に変換するためのものである。すなわち、ディジタル信号を、たとえば、ノーマル,ハイおよびローの3つのシンボルのいずれかに変換するための変換機能が備えられている。センサ1a,1b,1cから与えられる信号を、シンボル化されたこのような定性的な情報に変換することにより、故障診断に対するアプローチが容易になる。なお、シンボルは、この例のようにノーマル,ハイおよびローの3つに限らず、オンおよびオフまたはA,B,CおよびD等の他の表現であってもよい。変換部11においてディジタル信号がシンボルに変換される際には、対象モデル記憶部14に記憶されている対象機械に特有の特徴データが参照される。この特徴データおよび信号変換の詳細については、後述する。
【0036】故障診断部12および故障シミュレーション部13は、ディジタル信号/シンボル変換部11で変換されたシンボルを対象モデル記憶部14に記憶されている故障診断知識と比較することにより、故障の有無を判別し、かつ故障診断を行い、その結果として、対象機械の故障状態を、定性的な情報、すなわちシンボルによって表現し出力する構成部である。
【0037】修復計画部15、事例ベース記憶部17および作業スクリプト記憶部18は、故障がある場合に、故障診断の結果である「故障症状」および「故障」に基づいて、修復計画を推論し、修復作業を導出するための構成部である。修復計画を推論し、修復作業を導出するにあたっては、事例ベース記憶部17に記憶された過去の修復成功に関する事例が検索され、検索された成功事例を実行するための作業スクリプト(修復作業の最小単位の操作を表現するもので、ルール形式で記載された修復操作を行なうための作業単位の連なり;詳しくは後述する。)が作業スクリプト記憶部18から選択される。また、対象モデル記憶部14に記憶されている定性データ(後に詳述する)が活用される。
【0038】修復計画部15から出力される修復作業は、シンボル/ディジタル信号変換部16において、対象モデル記憶部14の記憶情報が参照されて、ディジタル信号に変換される。そして、ディジタル信号は、D/A変換回路4でアナログ信号に変換され、アクチュエータ制御回路5に与えられる。アクチュエータ制御回路5は、与えられるアナログ信号、すなわちアクチュエータ制御命令に基づいて、複数のアクチュエータ6a,6b,6cを選択的に動作させ、修復作業を実行させる。
【0039】(6−2)システムの動作の概要図8は、図7におけるシステム制御回路10の処理を表わすフローチャートである。次に、図8を参照して、図7R>7のシステム制御回路10の処理の概要について説明をする。センサ1a,1bまたは1cの検出信号は、増幅され、かつディジタル信号に変換されて、たとえば所定の読込みサイクルごとにシステム制御回路10に読込まれる(ステップS1)。
【0040】読込まれたディジタル信号は、ディジタル信号/シンボル変換部11においてシンボル化される(ステップS2)。このシンボル化は、対象モデル記憶部14に予め設定されている特徴データ、すなわち対象機械に特有の基準値データに基づいてなされる。たとえば、対象モデル記憶部14には、対象機械に特有の基準値データとして、各センサ1a,1b,1cの出力範囲が、次のように設定されている。
【0041】すなわち、センサ1a:出力ka1 未満=ロー出力ka1 〜ka2 =ノーマル出力ka2 を超過=ハイセンサ1b:出力kb1 未満=ロー出力kb1 〜kb2 =ノーマル出力kb2 を超過=ハイセンサ1c:出力kc1 未満=ロー出力kc1 〜kc2 =ノーマル出力kc2 を超過=ハイと設定されている。ディジタル信号/シンボル変換部11では、対象モデル記憶部14に設定されている上記対象機械に特有の基準値データに基づいて、読込まれたディジタル信号を、それぞれ、「ロー」「ノーマル」または「ハイ」というシンボルに変換する。
【0042】次いで、故障診断部12において、変換されたシンボルの評価がされ、故障の有無判別および故障症状の特定がされる(ステップS3)。シンボルの評価による故障の有無判別および故障症状の特定には、対象モデル記憶部14に記憶されている故障診断知識が活用される。故障診断知識とは、たとえば、特定のパラメータは、たとえばノーマルでなければならないという設定条件である。当該特定のパラメータがノーマルでない場合、故障あり、と判別され、該特定のパラメータが何かによって、故障症状が特定される。故障がない場合には、ステップS1,S2およびS3のルーチンが繰返される。
【0043】ステップS3において故障ありと判別された場合には、対象機械の状態の推論、すなわち故障診断および故障状態のシミュレーションがされる(ステップS4)。具体的には、対象モデル記憶部14に記憶されている、装置を構成する各要素の挙動または属性および各要素間の結合関係を定性的に表わした定性データに基づいて、故障診断部12において、故障を引起こしているパラメータが検索され、故障シミュレーション部13において、検索されたパラメータが故障原因であると仮定して、故障状態のシミュレーションがされる。さらに、故障診断部12において、シミュレーション結果と現在のパラメータ値とが比較され、検索されたパラメータが故障原因であるという仮定の正当性が判断される。以上の処理が、検索される複数のパラメータ全てに対して行われる。
【0044】故障の有無判別、故障診断および故障状態のシミュレーションの結果、対象機械の「故障症状」および「故障」が決定される。ここに、「故障症状」とは、対象機械の出力状況等(たとえば、複写機を例にとると、「コピー画像が薄い」等)の変化であり、「故障」とは、シンボルの変化原因となる対象機械の機構や構造の変化(たとえば、複写機を例にとると、「ハロゲンランプの光量低下」等)である。
【0045】次いで、修復計画部15によって、故障診断および故障状態のシミュレーション結果に基づいて、事例ベース記憶部17に記憶された多数の事例の検索が行われる(ステップS5)。そして、現在の対象機械の状態に近い事例の検出がされ、適用順位が決められる(ステップS6)。この事例の検出は、故障症状および故障が一致しているか否かに基づいて行われる。また、適用順位の決定では、同じ類に属する事例が複数ある場合、優先度の一番高い事例だけが適用される。
【0046】そして、適用順位付けがされた事例に基づく修復作業が実行される(ステップS7)。修復作業においては、必要に応じて、事例の修正や修復作業の修正、つまり作業スクリプトの詳細化がなされ、修正された事例は、同じ類に属する新たな事例として登録される。そして事例に基づく修復作業が成功した場合には処理は終了する(ステップS8でYES)が、事例に基づく修復作業が成功しなかった場合(ステップS8でNO)には、QMSによる修復方法の推論がなされ(ステップS9)、さらに、副次的影響のシミュレーションがなされ(ステップS10)、修復計画が決定されて、その決定に基づく修復作業が実行される(ステップS11)。
【0047】ステップS9〜S11における推論および作業の実行は、QMSによるものであり、CBSにおける事例を利用したものではないが、このQMSによる推論に基づく修復作業が成功した場合には、その修復結果は、別の類に属する新たな事例として、事例ベース記憶部17に登録される。次に、故障診断および故障修復の仕方について、具体例を参照しながら詳細に説明をする。以下の説明では、一例として、小型普通紙用複写機における感光体ドラム周辺部を対象機械とした場合の仕方を説明する。
【0048】(6−3)具体的な対象機械の構成および状態図9は、具体的な対象機械を表わす図解図である。図9において、21は感光体ドラム、22は主帯電チャージャ、23は原稿照明用のハロゲンランプ、24は現像装置、25は転写チャージャである。この実施例では、たとえば3つのセンサ1a,1b,1cが設けられている。すなわち、センサ1aは感光体ドラム21を露光する光の量を測定するためのAEセンサ、センサ1bは感光体ドラム21の表面電位を測定する表面電位センサ、センサ1cは用紙上にコピーされた画像の濃度を測定するための濃度計である。
【0049】また、図9に示されていないが3種類のアクチュエータが設けられている。すなわち、感光体ドラム21の主帯電電圧を変化させるための主帯電ボリュームVR1、ハロゲンランプ23の光量を制御するためのランプボリュームAVRおよび感光体ドラム21とコピー用紙間の転写電圧(転写チャージャ25の転写電圧)を制御するための転写ボリュームVR2という3つのボリュームが、アクチュエータとして設けられている。
【0050】さらに、図9に示す3つのセンサ1a,1b,1cおよび3つのアクチュエータには、図7に示すものと同じシステム制御回路10が接続されている。
(6−4)実体モデルと対象モデルところで、図9に示す対象機械を物理的な視点から捕え、実体レベルでその対象機械を複数個の要素の結合として表現し、各要素の挙動および属性ならびに各要素間の結合関係をパラメータを用いて定性的に表わすと、表1に示す通りとなる。この表1のような表現形式を「実体モデル」と呼ぶことにする。
【0051】
【表1】
【0052】また、実体モデルを抽象化して、各パラメータの結合ツリーとして表わした図10に示す表現を「数学モデル」と呼ぶことにする。そして、「実体モデル」と「数学モデル」とを併せて「対象モデル(定性モデル)」と呼ぶことにする。「対象モデル」は、後述する故障修復のためにも活用される、画像形成装置に共通の定性データである。
【0053】定性データとしての実体モデルおよび数学モデルの各内容は、対象モデル記憶部14(図7参照)に記憶されている。また、対象モデル記憶部14には、実体モデルに含まれているパラメータのうちの所定のパラメータに関して、たとえば工場出荷の際に測定された基準値データが記憶されている。この基準値データは、この画像形成装置に特有の特徴データである。
【0054】たとえば、この機械では、図11のように、パラメータX、VS 、OS 、Vn について、それぞれ、ロー、ノーマル、ハイの範囲を特定する基準値データが記憶されている。なお、この実施例では、上記の基準値データは、後の故障診断や故障修復過程におけるセンシングデータや機械の動作状態の変化等に応答して、更新され得るようにされている。
【0055】また、対象モデル記憶部14には、変換されたシンボルに基づいて、対象機械が正常に動作しているか否かを判定するための基準となる故障診断知識の一例としての評価機能知識が記憶されている。なお、評価機能知識、換言すれば故障診断知識は、対象装置に特有のものであってもよいし、特有のものでなく、広く画像形成装置に共通のものであってもよい。
【0056】この実施例の評価機能知識には、以下の知識が含まれている。
画像濃度OS =ノーマル、かぶり度OS ’<ノーマル、分離性能Sp <ノーマルここに、Os 、OS ’、Sp が上記条件でない場合には、対象機械は正常に動作していないことになる。
【0057】さて、通常動作における対象機械のディジタル化されたセンサ情報が次の値である場合を考える。
AEセンサ1aの値X=23表面電位センサ1bの値Vs =380濃度計1cの値Os =7また、光学濃度D=0の白紙原稿を使用したときの濃度計1cの値Os =かぶり度Os ’、ハロゲンランプを消した状態での表面電位センサ1bの値Vs =暗電位Vn 、と定め、それらの値は、それぞれ、かぶり度Os ’=50暗電位Vn =590であったとする。
【0058】なお、これらかぶり度Os ’および暗電位Vn の測定は、マニュアル操作によって行われてもよいし、一定条件時、たとえば対象機械の電源がオンされる都度、またはコピー開始前毎に、センサによって自動的に測定されるようにプログラミングされていてもよい。この実施例では、後者が採用されている。AEセンサ1a、表面電位センサ1bおよび濃度計1cによって得られた各値X、Vs 、Os 、Os ’、Vn は、それぞれ、ディジタル信号/シンボル変換部11においてシンボルに変換される。変換は、前述したように、各センサ1a,1bまたは1cから与えられるディジタル値が、対象モデル記憶部14に記憶されている特徴データとしての基準値データと比較されることにより行われ、ノーマル、ハイまたはローの3種類のいずれかのシンボルに変換される。
【0059】この実施例では、各パラメータは次のようにシンボル化される。
X=ノーマルVs =ローOs =ローVn =ロー故障診断部12において、これらのシンボル化された各パラメータが、対象モデル記憶部14に記憶されている故障診断知識の一例としての機能評価知識と比較される。その結果、画像濃度Os がノーマルでないから、故障ありと判定され、故障症状は「画像濃度が低い(Os =ロー)」であると判断される。そして続いて、「Os =ロー」を故障症状として、故障診断、つまり故障の推論がされる。
【0060】(6−5)故障診断の手法故障診断は、まず故障シミュレーション部13において、図10の数学モデルを用いて行われ、Os =ローを引起こす可能性のあるパラメータが探索される。図10における数学モデルで、Os を低下させる可能性があるパラメータを指摘すると、図12に示すようになる。図1212において、上向き矢印または下向き矢印が付されたパラメータが、パラメータOs =ローを引起こす可能性のあるパラメータであり、上向き矢印のものはそのパラメータが上昇した場合に、下向き矢印のものはそのパラメータが低下した場合に、Os =ローを引起こす。
【0061】次に、数学モデルにおいて探索されたOs =ローを引起こす可能性のある各パラメータζ,Ds ,Vt ,γ0 ,Vb ,Vs ,Vn ,X,β,HL ,Dについて、故障診断部12でパラメータの変化を引起こす原因の検出がされる。この検出は、表1の実体モデルに基づいて行われ、この実施例では、次のような故障候補が推論される。すなわち、Vt =ロー:→転写トランスの不良ζ =ロー:→用紙の劣化Vb =ハイ:→現像バイアスの不良γ0 =ロー:→トナーの劣化Vn =ロー:→主帯電電圧の不良HL =ハイ:→ハロゲンランプの設定不良D =ロー:→原稿が薄い上記故障候補のうちの「矢印→」の右側に記載された知識、すなわち、転写トランスの不良、用紙の劣化、現像バイアスの不良、…等の知識は、故障知識であり、この知識は、画像形成装置に共通の定性データに含まれている。なお、パラメータのうち、βは感光体の感度であり、これが上昇することはないから除外されている。Ds ,Vs およびXは、他のパラメータによって表わされるから、これも除外されている。
【0062】そして、故障診断部12においてされた上記の推論に対して、故障シミュレーション部13において、故障状態のシミュレーションが行われる。故障状態のシミュレーションとは、上記推論された故障が生じたときの対象機械の状態を、それぞれ、推論することである。より具体的には、Os =ローを引起こす原因、つまり故障が、たとえば転写トランスの不良であると仮定し、正常状態のモデルに対してVt =ローを設定する。そして、その状態における各パラメータに与えられる影響を数学モデル上で検討するのである。
【0063】たとえばVt =ローを設定した場合、Os =ローおよびSp =ローとなり、他のパラメータはすべてノーマルであるから、これは、センサから得られるVs =ローおよびVn =ローと矛盾する。それゆえ、その故障の推論が誤っているという結果を得る。同様にして、ζ=ローを正常状態の数学モデル上に設定し、その結果をセンサから得られるシンボルと比較する。この場合も、数学モデル上ではVs =ノーマル、Vn =ノーマルに対し、センサからのシンボルはVs =ロー、Vn =ローであるから、矛盾があり、その故障の推論は誤りであると判定される。
【0064】このようにして、全ての故障候補について、故障状態のシミュレーションが行われ、故障の推論が正しいか否かが確認される。その結果、本例の場合には、故障を「主帯電電圧の不良(Vn =ロー)」とした場合に、現実の対象機械の状態と一致した結果が得られ、かつそれ以外の故障候補はすべて現実の装置の状態と矛盾するとの結論を得る。
【0065】よって、この場合の故障は、主帯電電圧の不良であると断定できる。そのときの対象機械の各パラメータの状況を示すと、表2のとおりとなる。
【0066】
【表2】
【0067】表2に表わすパラメータの状況を数学モデル上にトレースすると、図13が得られる。図13において、各パラメータの右側に付された下向き矢印はロー、上向き矢印はハイ、Nはノーマルを表わしている。
(6−6)修復作業の実行次に、故障診断部12および故障シミュレーション部13で行われた故障診断の結果に基づいて、修復作業が実行される。
【0068】以下、図14〜図20に示すフローチャートの流れに従って、修復作業について、順を追って説明をする。
(6−7)事例の検索による故障修復処理修復作業に先立ち、まず、前述した手法に従う故障診断がされる(ステップS21)。その結果、発生している故障症状が「画像濃度が低い(Os =ロー)」で、その故障症状を引き起こす原因である故障は「主帯電電圧の不良」と診断されたとする。そのときの各パラメータ状況を表2に示す。
【0069】次いで、上記故障診断の結果に基づいて、適用すべき事例を決定する処理が行われる(ステップS22)。このステップS22に示す処理の具体的内容を図17のフローチャートに示す。図17を参照して、事例ベース記憶部17(図7参照)に記憶された事例の中から、故障診断結果に適合する事例が検出される(ステップS221)。事例ベース記憶部17に記憶されている事例は、前述したように、故障症状および故障によって、階層的に分類されているとともに、類分けがされている。この記憶されている事例の一例を、表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】表3に示すように、「画像濃度が低い」という故障症状に対しては、「主帯電電圧の不良」という故障または「ハロゲンランプ設定不良」という故障のいずれかが考えられる。主帯電電圧の不良の場合、類C1,C2,C3に分類された4つの事例001,002、004、003が登録されている。また、3つの類C1、C2、C3には優先度が付されており、この例ではC3、C2、C1の順で優先度が付されている。さらに、複数の事例が属する類C1は、特徴が記憶されている。この類C1の特徴とは、類C1に属する複数の事例に共通の特徴である。この内容については後に詳述する。
【0072】ハロゲンランプの設定不良の場合、類はC4の1つで、その類C4に属する事例も005の1つだけである。なお、事例が1つしか属さない類は特徴を抽出できないので、特徴はない。同様に、「画像かぶり」という故障症状の場合は、「主帯電電圧の不良」または「ハロゲンランプ設定不良」という2つの故障が考えられる。そして、「主帯電電圧の不良」の場合は、事例を2つの類C5またはC6に分類でき、類C5に属する事例は006,008,009という3つの事例がある。また、類C6に属する事例は007という事例である。そして、類C5とC6とでは、類C6の優先度が高くされている。さらに、類C5に属する3つの事例の共通の特徴が抽出されて記憶されている。
【0073】一方、故障が「ハロゲンランプ設定不良」の場合は、類C7に属する1つの事例010のみが登録されている。さて、上記ステップS221では、表3に示す階層的に分類された事例から、故障診断により得られた故障症状「画像濃度が低い」および故障「主帯電電圧の不良」に属する事例001、002、004、003が検出される。
【0074】これら検出された4つの事例の中身を、表4、表5、表6および表7に示す。表4〜表7に示すように、各事例には、事例番号、修復前のパラメータの状況、修復後のパラメータの状況、故障症状、故障、修復作業番号、適用成功数および適用失敗数が記憶されている。
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
【0079】そこで、現在の装置の状態を表わす表2のパラメータ状況と、表4〜表7の各修復前の状況に記憶されたパラメータ状況とが比較される(ステップS222)。比較の結果は、事例001ではすべてのパラメータ状況が表2のパラメータ状況と一致している。事例002ではβが異なっている。事例003ではHL 、X、βおよびSP が異なっている。事例004ではHL 、X、Vn およびSP が異なっている。
【0080】したがって、事例適用に関する優先順位は、001→002→003,004、と決められる。次いで、同じ類内でのパラメータ状況の一致度の低い事例が削除される(ステップS223)。この場合、事例001および002は、共に類C1に属しており、事例001に比べて事例002は、パラメータ状況の一致度が低いので、事例の適用順位に関し、事例002は削除される。この結果、適用順位は、001→003,004となる。
【0081】次いで、パラメータ状況の一致度が同じ事例の有無が判別される(ステップS224)。上述の場合、事例003および事例004は、パラメータ状況の一致度が同じである。そこで、事例003と事例004とを適用するにあたり、どちらを先に適用するかについては、事例003および004が属する類C3およびC2の優先度(表3参照)が参酌される(ステップS225)。この場合、類C2の優先度は「2」で、類C3の優先度は「1」であるから、事例004に比べて事例003の適用が優先される。
【0082】パラメータ状況の一致度が同じ事例がない場合は、ステップS225の処理は割愛される。そして、最終的に、事例の適用順位として、001→003→004という順位付けがされる(ステップS226)。そして、この適用すべき事例を決定するための処理はリターンされる。
【0083】以上の図17を参照して説明した適用すべき事例の決定処理に代え、図18に示すフローチャートに従った処理により、適用すべき事例を決定してもよい。図18に示すフローチャートにおいて、図17に示すフローチャートと同じステップ番号の処理、すなわちステップS221〜S224およびS225,S226の処理は、前述の図17における説明と全く同じ内容である。
【0084】図18のフローチャートに示す処理の特徴は、ステップS224において、修復前のパラメータ状況と現在の装置のパラメータ状況(表2)との一致度が同じ事例が複数ある場合における優先順位の決め方として、ステップS2241およびS2242の処理が挿入されていることである。具体的には、パラメータ状況の一致度が同じ事例が複数ある場合(ステップS224においてYES)には、各事例に登録されている適用成功数および/または適用失敗数が参酌される(ステップS2241)。上述の具体例の場合、事例003および004はパラメータ状況の一致度が同じである。そこで、まず、両事例003、004の適用成功数をみる。事例003は、表6に示すように、適用成功数が「3」であり、事例004は、表7に示すように、適用成功数は「1」である。それゆえ、適用成功数の多い事例003が優先される。もし、適用成功数が等しい場合には、適用失敗数の少ない事例が優先される。
【0085】適用成功数の参酌、または適用成功数および適用失敗数の参酌の結果、複数の事例に対して適用に関する優先付けが決定できれば(ステップS2242においてYES)、検出された全事例に対し、適用に関する優先順位が付される(ステップS226)。もし、ステップS2241において、適用成功数および適用失敗数を参酌しても、それらがいずれも等しくて優先順位が決定できない場合(ステップS2242においてNO)には、その事例が属する類の優先度が参酌され、優先順位が決められる(ステップS225,S226)。
【0086】このように、事例の適用成功数の参酌、または適用成功数および適用失敗数の参酌に基づいて適用に関する優先順位を決めるやり方は、特に、過去に数多くの修復作業が実行されている場合において、その過去の修復作業における結果を参酌することになり、過去の修復作業の回数が多いほど有益である。さて、図14に戻って説明を続ける。
【0087】適用すべき事例が決定された後(ステップS22)、決定された事例001およびこの事例001に対応する作業スクリプトが、作業スクリプト記憶部18(図7参照)から読出され、ワークレジスタに設定される(ステップS23)。先に述べたように、事例は、類に分けられており、同じ類に属する事例は、同じ作業スクリプトを共有している。事例001の場合、類C1に属していて、類C1には下記の表8に示す作業スクリプトが対応付けられている。
【0088】
【表8】
【0089】表8に示すように、作業スクリプトには、インデックスとなる類C1が表記され、複数の作業1,2,3,…が列挙されている。各作業はルール形式で記述されており、前件部状況、前件部操作および後件部状況からなっている。各作業は、前件部状況のときに、前件部操作を行うと、後件部状況が得られるという意味である。
【0090】具体例を表8を参照して説明すると、たとえば作業番号1の場合、前件部状況としては、パラメータHL =ハイという状況であり、この状況において、ランプボリュームAVRを低下させるという前件部操作を行うことにより、パラメータHL =ノーマルというパラメータ変化、つまり後件部状況が得られるという内容になっている。
【0091】なお、作業スクリプトは、類ごとに設定され、最小単位の作業が列挙されたものであるから、類の数だけ作業スクリプトは存在する。図14を参照して、事例001および表8の作業スクリプトがワークレジスタに設定されると(ステップS23)、次に、修復計画部15(図7参照)によって、ワークレジスタに設定された事例001の修復前のパラメータの状況(表43参照)と装置の現状を表わすパラメータの状況(表2参照)とが比較され、両者が完全に一致しているか否かが確認される(ステップS24)。
【0092】今、事例001の修復前のパラメータ状況は、装置のパラメータ状況と完全に一致しているから、処理はステップS25へ進み、表4に示す事例001の「修復作業」の欄に記載された番号「2」の作業が、表8に示す作業スクリプトから選ばれて実行される。つまり、パラメータVn =ローという前件部状況において、主帯電ボリュームVR1を上昇させるという前件部操作が行われる(ステップS25)。
【0093】その操作の結果、作業スクリプトに記載された後件部状況、つまりパラメータVn =ノーマルという状況が得られたか否かによって、作業が成功したか否かの判別がされる(ステップS26)。作業が成功と判別された場合には(ステップS26でYES)、さらに、次の作業があるか否かの判別がされる(ステップS27)。表4で示す事例001の「修復作業」の欄には、上述の作業番号「2」しか記載されていないから、次の作業はなしと判別される。もし、事例の「修復作業」の欄に次の作業番号が記載されていれば、処理は、ステップS25に戻り、その作業番号の作業が作業スクリプトから選ばれて実行され、その作業が成功したか否かの判別がされるという処理が繰返される(ステップS25,S26)。
【0094】ステップS27において、次の作業がなくなったと判別されると、事例001における「適用成功数」の欄の数値が「1」増加され、成功数の更新登録がされる(ステップS28)。そして、その後、類の優先度の操作(その1)が行われる(ステップS29)。ステップS29で行われる類の優先度の操作(その1)の手順を、図19のフローチャートに示す。
【0095】次に、図19を参照して、類の優先度の操作(その1)の仕方について、具体的に説明する。これまでの処理によって、故障症状「画像濃度が低い」で、故障「主帯電電圧の不良」であった装置に対し、事例001を適用することによって修復作業を行った結果、それが成功した。それゆえ、この成功事例001が属する類の優先度が上げられる(ステップS291)。各事例は、既に説明した表3に示すように、類ごとに分けて登録されており、かつ、類ごとの優先度が設定されている。この説明にかかる具体例の場合、事例001の属する類C1の優先度は、表3に示すように、「3」であった。しかし、今回、事例001に基づく修復作業が成功したので、表9に示すように、事例001が属する類C1の優先度は、「3」から「1」に上げられる。つまり、もっとも優先度が高くされる。また、それに伴い、故障症状「画像濃度が低い」で故障「主帯電電圧の不良」に属する他の類C2およびC3の優先度が操作される。具体的には、類C3の優先度は「1」から「2」に、類C2の優先度は「2」から「3」に1つずつシフトされる。よって、この故障症状および原因に属する3つの類C1,C2およびC3の類間の優先度は、C1、C3およびC2の順序に変更される。
【0096】
【表9】
【0097】次に、成功した事例001が属する類C1の特徴Pが読出される(ステップS292)。この類C1の特徴Pとは、次の内容をいう。すなわち、類C1に属する複数の事例001および002の各修復前の状況を表わすパラメータ値に関して、たとえば「ノーマルでない」ということで共通しているパラメータがこの類の特徴として抽出される。
【0098】類C1に属する2つの事例001および002の中身は、それぞれ、表4および表5に示すとおりである。表4に示す事例001の修復前の状況に列記されたパラメータのうち、ノーマルでないパラメータは、Vn 、Vs 、Ds 、Os およびSP である。一方、表5に示す事例002の修復前の状況に列記されたパラメータのうち、ノーマルでないパラメータは、β、Vn 、Vs 、Ds、Os およびSP である。よって、これら2つの事例001および002において共通的にノーマルでないパラメータは、パラメータVn 、Vs 、Ds 、Os およびSP であり、これがその類の特徴Pとして抽出され、記憶されている。なおこの場合において、抽出されるパラメータは、ノーマルでなければよく、あるパラメータに関して、事例001ではハイであるが、事例002ではローである場合も、そのパラメータは特徴となるパラメータとして抽出される。
【0099】あるいは、各修復前の状況を表わすパラメータのうち、「ノーマルである」ということで共通しているパラメータを抽出し、類の特徴としてもよい。なお、類の特徴は、その類に属する事例が複数ある場合において初めて抽出され得るものであり、その類に属する事例が1つしかない場合には、特徴は抽出不可能である。
【0100】ステップS292では、事例C1の特徴P、すなわち修復前の状況において、パラメータVn 、Vs 、Ds 、Os およびSP がノーマルでないという内容が読出され、ワークレジスタへストアされる。次いで、類C1が属する故障症状と異なる故障症状に属する類の有無が判別される(ステップS293)。この具体例の場合、表9に示すように、類C1が属する故障症状「画像濃度が低い」とは異なる故障症状「画像かぶり」に属する類としては、類C5、C6およびC7が存在する。
【0101】異なる故障症状に属する類がある場合には(ステップS293でYES)、その類の特徴Qが検出される(ステップS294)。具体的には、まず類C5の特徴Qが表9(この表9は、事例ベース記憶部17に記憶されている。)から検出される。類C5の特徴Qは、パラメータVn 、Vs 、Ds およびOs がノーマルでないということである。
【0102】次いで、ステップS292でワークレジスタに記憶された類C1の特徴Pと、ステップS294で検出された類C5の特徴Qとが比較され、特徴Pは特徴Qに類似するか否かの判別がされる(ステップS295)。特徴Pが特徴Qに類似するとは、特徴Pを構成するすべてのパラメータが特徴Qを構成するすべてのパラメータに含まれている場合をいう。この具体例では、特徴Pを構成するパラメータにはSP が含まれているが、特徴Qを構成するパラメータには当該パラメータSP は含まれていないので、特徴Pは特徴Qに類似しない。よってこの具体例の場合、ステップS295の処理はNOである。
【0103】ステップS295において、もし特徴Pが特徴Qに類似する場合(たとえば、特徴Pを構成するパラメータはVn 、Vs およびDs であり、特徴Qを構成するパラメータはVn 、Vs およびDs であるかまたはこれに加えてその他のパラメータが含まれている場合)には、処理はステップS296へ進む。ステップS296では、その類C5の優先度にフラグが付けられる。このフラグ付けは、後述するステップS298において、類の優先度を更新する場合に、優先度を更新すべき類であることを表示するために付されるものである。
【0104】次いで、処理をすべき類が他にあるか否かの判別がされる(ステップS297)。処理をすべき類は、類C5の他に、類C6およびC7があるから、類C6およびC7に対して、それぞれ、ステップS294からの処理が順に行われる。なお、この具体例では、類C6にもC7にも、それぞれ、単一の事例しか属していないので、これら類C6,C7の特徴は抽出できないから、これら類C6,C7の優先度にフラグが付されるわけではない。
【0105】ステップS297において他に類がなくなった場合には、ステップS298へ進み、フラグ付けされた類の優先度が上がるように、その類が属する故障症状および故障に含まれる類の優先度が更新される。この具体例では、類C5の優先度にはフラグが付けられていない(ステップS295でNOへ進んだから。)ので、表9に示すように、類C5と類C6との優先度は変わらない。しかし、もし、ステップS296において類C5の優先度にフラグ付けがされたとすれば、ステップS298においては、類C5の優先度が「1」にされ、それに伴って、残りの類C6の優先度は「1」から「2」に下げられることになる。
【0106】さて、図14のステップS26に戻って、作業が実行されても、その作業に記載の後件部状況が得られなかった場合は、作業失敗と判別され(ステップS26でNO)、その事例の「適用失敗数」の欄(たとえば表4参照)の数値が「1」増加するように失敗数が更新される(ステップS30)。そして、次の優先順位の事例の有無が判別され(ステップS31)、次の事例がある場合には(ステップS31でYES)、次の事例に対して、ステップS23からの処理が行われる。
【0107】ステップS31で、次の適用優先順位の事例がなくなった場合には、QMS処理が行われる(ステップS32)。このQMS処理は、後に詳述する副次的影響を考慮した処理であることが好ましい。そして、QMS処理が成功したか否かの判別がされ(ステップS33)、QMS処理が成功したと判別されると(ステップS33でYES)、QMS処理によって得られたデータに基づいて新たな事例が作成される(ステップS34)。この作成された新たな事例に対しては、新たな類が作られ、事例番号が付けられて登録される(ステップS35)。
【0108】表10に新たな事例の登録例を示す。表10において、新たな事例030は、それまでの類C1,C2,C3とは異なる新しい類C10に属するものとして登録されている。
【0109】
【表10】
【0110】さらに、新事例030が属する類の優先度は「1」とされ、最も高い優先度が与えられる。そして、それに伴い、故障症状「画像濃度が低い」で故障「主帯電電圧の不良」に属する他の類の優先度が順次シフトされる。つまり、表10に示すように、類C1の優先度は1から2に、類C2の優先度は3から4に、類C3の優先度は2から3に変えられる(ステップS36)。
【0111】ステップS33において、QMS処理が不成功に終わった場合は、新事例の作成はされず、処理は終了する。さて、図14のステップS24において、適用すべき事例の修復前のパラメータ状況が故障装置のパラメータ状況と完全に一致していない場合には、処理は、図15のステップS37へ進む。
【0112】図15を参照して、ステップS37では、適用すべき事例、この適用すべき事例をたとえば事例001とすれば、表4で示す事例001の「修復作業」の欄に記載された番号「2」の作業が、表8に示す類C1の作業スクリプトから取り出され、指定される。そして、作業2の前件部状況Vn =ローと、表2に示す故障装置のパラメータVn の状況とが比較され、両パラメータ状況の一致または不一致が判別される(ステップS38)。
【0113】この具体例の場合、故障装置のパラメータ状況は指定された作業2の前件部状況と一致しているから、作業2が実行される(ステップS39)。ステップS39における作業の実行後、作業が成功したか否かが判別され(ステップS40)、成功した場合には次の作業の有無が判別される(ステップS41)。ステップS38において、もし、故障装置のパラメータVn がノーマルであったとすれば、作業2の前件部状況であるVn =ローと一致していない。かかる場合、装置のパラメータ状況を作業の前件部状況と一致させるために、ステップS42〜S45で述べる追加処理1が実行される。
【0114】すなわち、処理はステップS42へ進み、表8に示す作業スクリプトにおいて、故障装置のパラメータ状況を作業2の前件部状況に一致させられるような別の作業があるか否かの検索がされる。つまり、この具体例の場合、故障装置のパラメータ値Vn =ノーマルをローにすることができる作業があるか否かが判別される。
【0115】表8を見ると、作業5によって、パラメータVn をノーマルからローにできることがわかる。よって、ステップS43ではYESと判断され、表4で示す事例001の「修復作業」の欄が「2」から「5,2」に仮訂正され、該仮訂正をしたことを表わすために、フラグAがセットされる(ステップS44)。次いで、仮訂正により加えられた作業5が実行され(ステップS45)、該作業5が成功したか否かの判別がされる(ステップS40)。この作業5の実行に成功した場合には(ステップS40でYES)、次の作業の有無が判別される(ステップS41)。この場合、次の作業として作業2が存在するから、処理は再びステップS37へ進み、次の作業2が指定され、その前件部状況と故障装置のパラメータ状況とが比較される。その結果、故障装置のパラメータ状況は、ステップS45における作業5の実行によって、Vn =ローとされたので、作業2の前件部状況と一致している。よって、ステップS38で、YESと判別され、作業2が実行される(ステップS39)。
【0116】ところで、ステップS39またはS45において、前件部操作が実行されてもなお後件部状況が得られなかった場合には、作業は失敗したと判断される(ステップS40)。換言すれば、ある作業を行った結果のパラメータ状況(作業後の故障装置のパラメータ状況)がその作業において設定されているパラメータ状況(後件部状況)にならなかった場合、その作業は失敗と判別される。
【0117】そしてこのときは、以下の図16の流れに沿って説明するような作業失敗の原因を回避するための追加処理2が実行される。すなわち、まず、失敗にかかる適用事例と同じ故障症状および故障に属する全ての事例が検索されるとともに、それら事例のうち、「修復作業」の欄に、失敗にかかる作業番号が記載されている全ての事例が検出される(ステップS51)。
【0118】今、具体例に沿ってわかりやすく説明するために、失敗にかかる適用事例が001とすれば、表3に示すように、その事例と同じ故障症状および故障に属する事例は、002,003,004であり、いずれの事例も、「修復作業」の欄に、事例001の失敗にかかる作業番号2と同じ作業番号2が記載されている(表4、表5、表6および表7参照)。よって、事例002〜004が検出される(ステップS51)。
【0119】そして、失敗にかかる適用事例001および検出された事例002,003,004の修復前のパラメータ状況を比較して、パラメータ状況の共通点が抽出されるとともに、抽出された共通点が表2に示す故障装置のパラメータ状況と比較される(ステップS52)。そしてその結果、各事例における修復前のパラメータ状況の共通点と、故障装置のパラメータ状況との相違点の有無が判別される(ステップS53)。
【0120】表4〜表7に示す事例001〜004と、表2に示す故障装置のパラメータ状況とを比較しても、この具体例の場合そのようなパラメータは見つからない。そこで、今仮に、事例001〜004の修復前のパラメータ状況において、共通してVt =ローであると仮定して、以下の説明をすることにする。そうすると、ステップS53において、事例001〜004の修復前のパラメータ状況における共通点であり、かつ、故障装置のパラメータ状況との差異として、パラメータVt が取り上げられる。すなわち、各事例001〜004の修復前のパラメータ状況においては、共通的にVt =ローであるが、故障装置のパラメータ状況では、Vt =ノーマルである。
【0121】それゆえ、ステップS53ではYESと判別され、パラメータVt =ローが、今回の作業の失敗原因であると仮説され、このパラメータVt をローからノーマルにすることのできる作業が、表8に示す作業スクリプトの中から検索され(ステップS54)、その有無が判別される(ステップS55)。表8の作業スクリプトを見ると、作業3によって、パラメータVt をローからノーマルに変更できることがわかるから、作業有りと判別される(ステップS55でYES)。
【0122】そしてこの場合には、失敗にかかる適用事例001(表4参照)の「修復作業」の欄が仮訂正され、作業番号「2」に先立ち、作業番号「3」が挿入される。また、この仮訂正をしたことを表わすため、フラグBがセットされる(ステップS56)。次いで、作業3が実行される(ステップS57)。そして、作業3が実行された結果、Vt =ノーマルになった場合、作業成功と判別される(ステップS58でYES)。
【0123】この場合において、Vt =ノーマルは、作業2の前件部状況として必須の条件である。よって、表8に示す作業スクリプトの作業2の前件部状況にVt =ノーマルが追加されるよう訂正され、表8の作業スクリプトは、下記の表11に示すように書換えられる(ステップS59)。
【0124】
【表11】
【0125】表11に示す作業スクリプトでは、作業2の前件部状況が「Vn =ロー、(かつ、)Vt =ノーマル」になっている。そして、再び、図15に示すステップS37からの処理が行われる。図16のステップS58において、作業が成功しなかったと判別された場合には、他にパラメータVt をローからノーマルにすることのできる作業が表8に示す作業スクリプトの中にあるか否かが判別され(ステップS60)、作業があればステップS56からの処理が繰返される。
【0126】また、ステップS60で他の作業がないと判別されたとき、または、ステップS53において異なるパラメータがないと判別されたとき、または、ステップS55において作業はないと判別されたとき、あるいはまた図15に示すステップS43において作業がないと判別されたときには、いずれも、ステップS61へ進み、フラグAおよびBがリセットされる。また、この場合、事例適用に失敗したので、事例の「適用失敗数」の欄の数値が「1」増加される(ステップS62)。そして、他の事例、すなわち次の適用優先順位の事例があるか否かが判別される(ステップS63)。
【0127】そして、次の事例がある場合には(ステップS63でYES)、その事例および対応する作業スクリプトがワークレジスタに設定され(ステップS64)、図15に示すステップS37からの処理が行われる。一方、ステップS63において、次の適用優先順位の事例がないと判別された場合には、処理は図14に示すステップS32へと進み、QMS処理が行われる。
【0128】さて、図15に戻って、ステップS41で次の作業がないと判別された後の処理について説明をする。この場合、フラグAまたはBの状態が判別される(ステップS46)。状態判別の結果、フラグAもBもセットされていないと判別される場合とは、それまでの処理において、故障装置のパラメータ状況と選択された作業の前件部状況とが一致しており、その作業を実行した結果作業が成功した場合である。それゆえ、この場合は、ステップS47で、適用した事例、たとえば事例001の「適用成功数」の欄の数値が「1」増加される。そして、類の優先度の操作(その1)が実行される(ステップS48)。このステップS48における類の優先度の操作(その1)は、図14のステップS29において行った操作と全く同じ操作である。それゆえ、ステップS48の操作の具体的な内容については、説明が重複しないよう、ここでは省略する。
【0129】一方、ステップS46において、フラグAまたはBのいずれかがセットされていると判別された場合を考える。フラグAがセットされている場合とは、ステップS42〜S45の追加処理1が行われた場合である。具体的には、事例の「修復作業」の欄に記載の番号の作業を、作業スクリプトから選択して、その作業を行おうとしたけれども、故障装置のパラメータ状況がその作業の前件部状況と一致していないので、その作業を行うことができず、その作業を行う前に、故障装置のパラメータ状況を上記前件部状況と一致させるための別の作業を行ってうまくいった場合である。換言すれば、先に説明した「作業スクリプトの詳細化」という操作を導入し、その詳細化によって事例参照に成功した場合である。
【0130】一方、フラグBがセットされている場合とは、ステップS51〜S59の追加処理2が行われた場合である。具体的には、選択された作業における前件部状況の特定が不十分であったために作業が成功しなかった場合に、その作業の前件部状況を特定するとともに、それに合うように故障装置のパラメータ状況を変化させる作業があり、それら作業を行うことによって故障装置のパラメータ状況と選択された事例の前件部状況との差異がなくなり、作業が成功した場合である。この場合も、広い意味で、「作業スクリプトの詳細化」という操作を導入した結果、詳細化によって事例参照に成功した状況であるといえる。
【0131】それゆえ、フラグAまたはBがセットされている場合とは、「作業スクリプトの詳細化」という操作が導入され、定性的に到達可能な範囲内において、元の事例が修正されて新たな事例が生成されたということを意味している。そして、この生成された新たな事例は、元の事例と同じ類に属すると考えるべきである。この点については、この発明の概要のところでも述べたとおりである。
【0132】そこで、ステップS46においてフラグAまたはBがセットされていると判別された場合には、ステップS49へ進み、生成された新たな事例が元の事例と同じ類に登録され、その後、フラグAおよび/またはBはリセットされる。表12にこの新たな事例が登録された後の事例ベース記憶部17(図7参照)の記憶内容の一例を示す。表12に示すように、類C1に属する事例として、新たに、事例040が登録されている。
【0133】
【表12】
【0134】また、この新事例040の内容を、表13に示す。
【0135】
【表13】
【0136】この表13に示す事例040の前件部状況を事例001の前件部状況(表4参照)と比較すると、パラメータVt =ローである点が、事例001と異なっている。それゆえ、この事例040を適用するにあたっては、まず、パラメータVt をローからノーマルにする必要があるので、この事例040の「修復作業」の欄には「3,2」という作業番号が記載されている。
【0137】そしてその後、類の優先度の操作(その2)が実行され(ステップS50)、処理は終わる。次に、ステップS50における類の優先度の操作(その2)の具体的処理手順につき、図20ならびに表12および表13を参照して説明する。類の優先度の操作(その2)では、まず、現在参照していた事例、たとえば事例001が属する類C1の中に、生成された新事例の事例番号040が登録される(ステップS501)。表12に示すとおり、類C1の事例番号の欄に、「001,002」に加え、「040」が追加される。
【0138】そして、今回の事例適用においては、この新事例040を適用した結果修復処理が成功したので、この新事例040を含む類C1の優先度が最も高められる。すなわち、類C1の優先度の欄は、それまでの「2」から「1」に書換えられる(ステップS502)。また、類C1の優先度を「1」としたことに伴い、この類と同じ「故障」に属する残りの類C2,C3,C10の優先度も、順次シフトされる。その結果、類C2の優先度は「4」のまま、類C3の優先度は「3」のまま、類C10の優先度は「1」から「2」にシフトされる。
【0139】次に、今回新事例が追加登録された類C1に属する各事例(新事例も含む)、この具体例では事例001,002,040という3つの事例における各修復前の状況が照会され、この類C1の特徴P1 が抽出される(ステップS503)。特徴P1 の抽出の仕方は、先に説明した特徴の抽出の仕方と同様である。念のために、具体例を参照しながら説明する。表4に示す事例001、表5に示す事例002および表13に示す事例040の各修復前の状況に記憶されたパラメータ状況を比較する。そして、ノーマルでないパラメータ、すなわちローまたはハイのパラメータを抽出し、抽出されたパラメータのうち事例001,002および040に共通して取り出されたパラメータが、特徴P1 を構成するパラメータとして抽出される。具体的には、パラメータVn 、Vs 、Ds およびOs が特徴P1 を構成するパラメータとして抽出される。そしてこの特徴P1 を構成するパラメータは、表12の類C1の特徴として登録される。
【0140】次いで、今回抽出された特徴P1 は、この類C1の特徴として既に登録されていた特徴Pと一致するか否かの判別がされる。先に登録されていた類C1の特徴Pは、表3に示すように、Vn 、Vs 、Ds 、Os およびSP であり、SP を含んでいる点で、今回抽出された特徴P1 とは一致していない。よってこの具体例の場合は、ステップS504でNOと判別される。
【0141】そして、この場合は、表12に示すように、類C1の特徴は、今回抽出された特徴P1 に書換えられる。つまり、今回抽出された特徴P1 が類C1の特徴として再登録される(ステップS506)。次に、類C1が属する故障症状「画像濃度が低い」と異なる故障症状に属する類の有無が判別される(ステップS506)。この具体例の場合、表12に示すように、異なる故障症状に属する類としては、故障症状「画像かぶり」に属する類C5、C6およびC7が存在する。それゆえ具体例では、ステップS506においてYESと判別される。
【0142】そしてその場合、類C5,C6,C7の各特徴と、上述した類C1の特徴P1 とが順次比較される。具体的には、まず、類C5の特徴Qが検出される(ステップS507)。この特徴Qは、表12に示すとおり、パラメータVn 、Vs 、Ds およびOs がノーマルでないという内容である。
【0143】次いで、類C1の特徴P1 と類C5の特徴Qとが比較され、特徴Pは特徴Qに類似するか否かの判別がされる(ステップS508)。この具体例では、表12に示すように、特徴P1 はパラメータVn、Vs 、Ds およびOs で構成されており、特徴QはパラメータVn 、Vs 、Ds およびOs で構成されている。よって、P1 =Qである。したがって、特徴P1 は特徴Qに類似する。よって、類C5の優先度にフラグ付けがされる(ステップS509)。
【0144】次いで、処理をすべき類が他にあるか否かの判別がされる(ステップS510)。処理をすべき類は、類C5の他に、C6,C7があるので、これらが順次、ステップS507〜S510のステップに従って処理される。なお、類C6およびC7には、いずれも、1つの事例しか属していないので、これら類の特徴はないから、これら類C6,C7の優先度にフラグが付されるわけではない。
【0145】次いで、ステップS511において、フラグ付けがされた類C5を含む故障「主帯電電圧の不良」に属する2つの類C5およびC6の優先度が更新される。具体的には、特徴P1 と類似する特徴Qを有する類C5の優先度が最優先され、類C5の優先度は「2」から「1」へ変更される。また、それに伴い、類C6の優先度は「1」から「2」へ変更される。
【0146】このように、今回適用に成功した事例が属する類C1の優先度が上げられると共に、その事例が属する故障症状とは異なる故障症状に属する類において、今回適用に成功した事例と類似する特徴を有する類の優先度が高められる。この結果、「類」の利用による事例検索効率の向上を図ることができる。なぜならば、「類」による事例の分類は、「故障症状」および「故障」による事例の分類、換言すればQMS処理による事例分類の枠組みを越えているので、その枠組みを越えた別の分類方法によって類分けされた事例に対し、共通の特徴を有するものについて事例適用に関する優先順位を繰り上げる。そうすると、実際の機械システムにおいてしばしば発生する、根本原因は同じでありながら発現する故障症状が異なるという現象に効率よく対処することができるのである。
【0147】また、図17を参照して説明した適用すべき事例を決定する処理において、ステップS222で装置のパラメータと事例の修復前のパラメータとを比較し、その結果、ステップS223で、同じ類内でのパラメータ状況の一致度の低い事例を削除していた。図18に示す適用すべき事例を決定する処理においても同様であった。
【0148】しかし、適用すべき事例を決定する処理は、これに限らず、ステップS223で行っている同じ類内でのパラメータ状況の一致度の低い事例を削除するという処理を省略してもよい。つまり、図17または図1818に示す適用すべき事例を決定する処理において、ステップS223の処理を省略してもよい。ステップS223の処理を省略した場合、適用すべき事例には、同じ類に属する複数の事例が含まれている場合がある。それゆえこの場合は、先に適用した事例が失敗する度に、次に適用する事例が先に適用した失敗にかかる事例と同じ類に属するか否かを判別すればよい。具体的には、図14R>4に示すステップS30から後の処理に少し修正を加えるとともに、図16に示すステップS62から後の処理に少し修正を加えればよい。
【0149】図21(A)および(B)に、修正を加える処理の具体例を示す。次に、図21を参照して説明すると、ステップS30において、失敗数が更新された後、その失敗にかかる事例の属する類がバッファメモリ等に記憶される(ステップS100)。そしてその後、次の優先順位の事例の有無が判別される(ステップS31)。そして次の事例がある場合には(ステップS31でYES)、次の事例が失敗に係る事例と同じ類に属するか否かの判別がされる(ステップS101)。次の事例が失敗にかかる事例と同じ類に属しなければ、処理はステップS23(図14)へ進み、次の事例が失敗にかかる事例と同じ類に属する場合は、ステップS31へ戻り、その事例のさらに次の優先順位の事例の有無が判別される。このようにして、事例を適用する直前に、適用する事例が失敗にかかる事例と同じ類に属するか否かが判別され、同じ類に属するなら、その事例の適用は省く。同様に、図21(B)を参照して、ステップS62において失敗数の増加処理がされた後、その失敗にかかる事例の属する類がバッファメモリ等に記憶される(ステップS102)、そして、他の事例、すなわち次の適用優先順位の事例の有無が判別され、次の事例がある場合には(ステップS63でYES)、次の適用優先順位の事例は、ステップS102で記憶された失敗にかかる事例が属する類と同じ類に属するか否かの判別がされる(ステップS103)。次の適用優先順位の事例が失敗にかかる事例の属する類と同じ類に属しなければ、処理はステップS64(図16)へ進む。しかし、次の適用優先順位の事例が、失敗にかかる事例が属する類と同じ類に属する場合には、処理は、ステップS63へ戻り、その事例よりもさらに次の適用優先順位の事例があるか否かの判別がされる。この結果、事例を適用する直前に、その事例が、失敗にかかる事例が属する類と同じ類か否かの判別がされ、同じ類であれば、その適用が省略される。
【0150】修復作業の実行にあたって、以上説明した事例の検索および事例の適用という手法を採用することは、上記具体例で説明したような小形普通複写機等の装置に対して特に有効である。なぜならば、小形普通複写機に代表されるような装置は、その構成系中に、制御対象として不安定な要素(たとえば化学的変化を積極的に利用すること等)を有している。それゆえ、構成系が置かれる状態の変化、たとえば環境変化や構造上の劣化等によって、センサのパラメータおよびアクチュエータのパラメータ間の関係が変化する可能性がある。上記具体例の説明における事例の検索は、かかるパラメータ間の変化を装置がランニング中に収集し、それを使った一種の学習を行わせ、知識のチューニングをしているということができるから、上記のパラメータ間の変化が生じても、それに有効に対処した修復作業を行うことができる。つまり、対象機械のパラメータ間の関係が変化した場合、その変化に基づいて事例が修正されて新しい事例が作成され、また、作業スクリプトの内容が修正されているのである。
【0151】(6−8)修復計画の推論次に、14図のステップS32に示すQMS処理の仕方およびその処理における副次的影響の推論について説明をする。故障判別の結果、「画像濃度が低い(Os =ロー)」が故障症状として取上げられたから、修復の目標は、Os を上昇させることである。
【0152】そこで、図10に示す数学モデル上の関係から、Ds を上昇させるか、Vt を上昇させるか、または、ζを上昇させるかによって、修復目標であるOs を上昇させることができると推論される。次に、Ds を上昇させることを目標に推論を行うと、Vs を上昇させるか、Vb を下降させるか、または、γ0 を上昇させるかのいずれかの結論を得る。このように、数学モデルに基づいて、推論が繰返されることにより、修復操作の候補を数学モデル上で得ることができる。得られた結果は、表14に示すとおりである。
【0153】
【表14】
【0154】ところで、数学モデルに基づいて得られた修復候補には、実現できるものと実現できないものとがある。たとえば、D:原稿の光学濃度は変更できないし、β:感光体の感度も変更し難い。
【0155】γ0 :トナーの感度も変更できないし、ζ:用紙の感度も変化不可能である。また、この具体例では、Vb :バイアス電圧も、アクチュエータがないから変化不可能である。もちろん、アクチュエータを追加することにより、Vb は変化可能にすることができる。
【0156】さらに、X:原稿反射光量の対数Vs :露光後のドラムの表面電位Ds :ドラム上でのトナー濃度については、それ自体の変更は不可能で、間接的に他のパラメータを変化させることで変化させられるだけであり、ここでは修復候補から除外する。
【0157】なお、この具体例では直接関係ないが、Asp:分離用AC電圧の振幅も、アクチュエータ追加により、変化させることができる。以上の次第で、この具体例では、修復候補として、Vt :転写電圧Vn :主帯電後の表面電位HL :ハロゲンランプ出力光量の対数がとりあげられる。
【0158】一方、対象モデル記憶部14には、修復計画知識として、次の知識が予め記憶されている。すなわち、(a)Vt を上昇させる→転写トランスのコントロール電圧を上げる(b)Vt を下降させる→転写トランスのコントロール電圧を下げる(c)Vn を上昇させる→主帯電トランスのコントロール電圧を上げる(d)Vn を下降させる→主帯電トランスのコントロール電圧を下げる(e)HL を上昇させる→ハロゲンランプコントロール信号を高電圧側にシフトする(f)HL を下降させる→ハロゲンランプコントロール信号を低電圧側にシフトする。
である。この対象モデル記憶部14に記憶された修復計画知識は、この装置に特有の特徴データである。該修復計画知識を数学モデルに基づいて得られた修復候補に適用することにより、Os を上昇させるための修復操作として、(a)Vt を上昇させる→転写トランスのコントロール電圧を上げる(c)Vn を上昇させる→帯電トランスのコントロール電圧を上げる(f)HL を下降させる→ハロゲンランプコントロール信号を低電圧側にシフトするの3方法が得られる。
【0159】画像濃度OS を単に上昇させるだけであれば、これら3方法のうちのいずれの方法を実行しても、修復が可能である。しかしながら、対象機械は、画像濃度OS を上昇させることにより、種々の副次的な影響を受けることが考えられる。そこで、この実施例では、以下に説明するように、副次的な影響の推論を、数学モデルに基づいて行っている。
【0160】(6−9)副次的影響の推論修復計画の推論において導かれた3つの修復計画を数学モデル上に展開すると、図22ないし図27が得られる。つまり、(a)Vt を上昇させた場合が図22および図23(図23はD=0とした場合のOs ’が数学モデル上で表わされている)、(c)Vn を上昇させた場合は、図24および図25(図25はD=0とした場合のOs ’が数学モデル上で表わされている)、(f)HL を下降させた場合は図26および図27(図27はD=0とした場合のOs ’が数学モデル上で表わされている)となる。
【0161】そして、数学モデルに基づいて機能評価を行うと、次の状態が推論される。すなわち、(1)Vt を上昇させた場合(図22、図23)
(a)出力画像濃度が上昇する。
(b)D=0のとき、Os ’>ノーマルの場合がある。つまり、かぶりが発生する可能性がある。
【0162】(c)Sp >ノーマルとなり、分離不良が発生する可能性がある。
(2)Vnを上昇させた場合(図24、図25)
(a)出力画像濃度が上昇する。
(b)D=0のとき、Os ’>ノーマルとなり、かぶりが発生する可能性がある。
(3)HLを下降させた場合(図26、図27)
(a)出力画像濃度が上昇するだけで、他の副次的な影響はない。
【0163】よって、修復計画部15では、副次的な影響の最も少ない修復計画、すなわちHLを下降させるという修復計画が選択される。この修復計画は、故障診断で得られた故障を解消するための操作と一致している。つまり、見方を変えると、故障診断における故障の推論は、装置が故障したときの現実の状態を数学モデル上でトレースし、装置が故障したときの各構成要素の状態を把握することによって、故障を推定していたのに対し、修復計画の推定では、装置が故障状態ではなく、装置が正常であるという前提に立って、数学モデル上で装置の状態をトレースし、それに基づいて修復計画を推論している。そして、上述の具体例では、故障診断における推論でも、修復計画における推論でも、結果として同じ故障および修復計画が得られたわけである。
【0164】しかし、場合によっては、故障診断の推論が故障状態の装置を前提にしているのに対し、修復計画の推論は正常状態の装置を前提にしているため、両者によって得られる結果が異なることがある。かかる場合は、故障診断の推論過程で得られる結論と矛盾しないものだけを修復計画の推論の際に選択するようにすれば、修復計画の推論処理をより短時間で行える。
【0165】上述の場合において、もしHLを下降させるという修復計画が選択できない場合、たとえばハロゲンランプコントロール信号を低電圧側にシフトするためのAVRのボリュームが既に下限であった場合には、次に副次的影響の少ない(2)のVnを上昇させるという修復計画が選択される。しかしながら、Vnを上昇させるという修復計画が選択された場合には、かぶり発生の可能性という副次的影響が予測されているので、図25の数学モデルにおいて、Os ’を下降させるためにはいずれのパラメータを操作すればよいかが図25の数学モデルに基づいて検討され、かつ、修復計画知識に基づいて操作が選択される。その結果、HL を上昇させるか、Vn を下降させるか、Vt を下降させるかが選ばれ、かぶり発生を防止することを含めた修復計画が行われる。
【0166】つまり、図28に示すように、副次的影響を仮定して、修復操作の推論を展開する。図28に示されるような修復操作の推論展開においては、(a)数学モデル上で以前の修復計画と矛盾する枝は選択しない(b)最も副次的影響の少ないものを選択する(c)ループを形成したものはその時点で展開を止めるという知識に基づいた展開が行われる。
【0167】図28では、結局、(1)Vn↑→HL↑→Vn↑のループ、および(2)Vn↑→Vt↓→Vn↑のループ、の2つの修復計画が残る。今、(1)のループが修復計画として行われた場合において、画像濃度が適正な濃度、すなわちOsがノーマルになったとする。かかる場合、VnおよびHL は上昇されているから、画像濃度Osがノーマルに戻った修復前の状態において、センサ1bによって測定される表面電位の値は、最初に測定される値に比べてかなり高いものに変化しているはずである。しかしながら、修復作業が成功したわけであるから、修復後のパラメータVsの状態はノーマルにシンボル化されなければならない。よって、かかる場合、修復が終了した時点で、センサ1bによって測定される測定値に基づき、図11示すパラメータVsのシンボル化のための基準データが変更され、たとえば図29に示すデータに書換えられる。このように、基準データの更新が、修復作業終了後に必要に応じてなされる。
【0168】この実施例において、図28における前述した(1)のループが行われる場合、具体的には、主帯電ボリュームVR1が操作されて感光体ドラム21の表面電位が上昇され、それによって得られるコピーにかぶれが発生すると、ランプボリュームAVRが操作されてハロゲンランプの光量が増加され、コピーの画像濃度が薄められる。
【0169】そして、主帯電ボリュームVR1およびランプボリュームAVRを交互に適宜上昇させながら、画像濃度が正常になったとき、すなわちパラメータOsがノーマルになったことがセンサ1cである濃度計の検出出力から得られたとき、修復処理は終了される。さらに、上記2つの修復計画が実行不可能な場合は、さらに、上述した(3)のVtを上昇させるという修復計画が選択され、その副次的影響であるかぶり発生と、分離不良の2つを仮定した故障診断が行われ、修復計画が選択される。
【0170】そして、選択された修復計画が行われ、ループ処理の場合には、ループ上にあるパラメータの操作が限度に達した時点で失敗と判断される。また、この実施例の場合は、具体例でも説明したように、Osがノーマルになった時点で修復終了が判別され、その状態で修復は停止される。上述した副次的影響の推論においては、修復計画の推論において導かれた3つの修復計画を順次数学モデル上に展開し、3つの修復計画のそれぞれについて、まとめて、副次的影響が推論されている。このような副次的影響の推論の仕方に代え、次のような処理を行ってもよい。
【0171】すなわち、修復計画の推論において、たとえば3つの修復計画が導き出されたとする。その場合、3つの中から1つの修復計画だけをとりあげ、該修復計画に基づいてアクチュエータ手段を作動された場合に生じるかもしれない副次的な影響をシミュレートし、シミュレートされた副次的な影響は、修復計画によって選択されたアクチュエータ手段以外のアクチュエータ手段を作動させることによって除去できるか否かを判別する。そして、副次的な影響は除去できると判別されたときには、修復計画によって選択されたアクチュエータを実際に作動させ、修復を実行するとともに、副次的な影響を他のアクチュエータ手段を作動させることによって除去するのである。
【0172】この結果、修復計画で導き出された他の2つの計画に基づく副次的影響のシミュレートはする必要がなく、全体として、修復操作時間を短縮できる。上述の場合において、もし、第1番目に選択した修復計画について、副次的な影響をシミュレートし、シミュレートされた副次的な影響が他のアクチュエータ手段を作動させることによって除去できないと判別された場合、その第1番目の修復計画は断念して、次に第2番目の修復計画をとりあげ、該2番目の修復計画に基づいて選択されたアクチュエータ手段を作動させた場合に生じるかもしれない副次的な影響をシミュレートし、シミュレートされた副次的な影響は、そのアクチュエータ手段以外のアクチュエータ手段を作動させることによって除去できるか否かを判別し、副次的な影響が除去できるときには、該第2番目の修復計画に基づく修復作業を行う。
【0173】このように、修復計画の推論において導かれた複数の修復計画のうち、或る1つ目の修復計画を取出し、その場合の副次的な影響を推論し、副次的な影響が除去できる場合には、直ちにその1つ目の修復計画に基づく修復を実行するようにするのである。そして、もしその修復計画では、副次的な影響が大きすぎる場合には、それを断念し、次の修復計画を選び、その場合の副次的な影響をシミュレートするのである。
【0174】かかる場合、修復計画の推論において導かれた複数の修復計画のうち、いずれの修復計画をまず選択するかについては、たとえば、故障診断において得られた故障原因を参酌して選択するのが好ましい。以上の実施例では、アクチュエータのパラメータ数が少ないため、修復自体がかなりの制限を受けているが、アクチュエータのパラメータ数を増やすことによってさらに修復の柔軟性および可能性を向上させることができる。
【0175】以上説明した具体例において、いずれかの修復作業が成功した場合には、成功した後の装置の状態が正常な状態であると判定されるわけであるから、各センサから与えられるディジタルデータ値によって各パラメータの基準値データ(図11に示す基準値)が更新され、新たな基準値データに基づいてパラメータがシンボル化されるようにするのが好ましい。
【0176】(6−10)その他また、上述の具体例では、各アクチュエータの作動範囲については特に触れなかったが、対象モデル記憶部14に記憶されている装置に特有の特徴データの中に、アクチュエータの作動範囲を設定する作動範囲データを含ませておけば、アクチュエータの出力状態が記憶されている作動範囲内のときはアクチュエータ操作可能と判別でき、アクチュエータの出力状態が記憶されている作動範囲の上限または下限に達した場合に、アクチュエータ操作不能と判定して、修復作業の正否判定に利用することができる。
【0177】さらに、上述の具体例では、センサ出力が変化したことに基づいて、自動的に自己診断を行い、自己修復を行うシステムをとりあげたが、画像形成装置に自己診断モードの設定キー等を設け、該自己診断モード設定キーが操作された場合にのみ、自己診断および/または自己修復が行われるようにしてもよい。
【0178】
【0179】またこの発明においては、修復計画の推論をする際に、アクチュエータの調整範囲を考慮して、実際に調整可能なアクチュエータだけを選択するようにしてもよい。より具体的に説明すると、アクチュエータがたとえばAVRの場合、AVRの下限値を「0」、上限値を「100」とし、AVRの設定状態が0〜100のいずれかの整数値で検出できるような構成にする。また、対象モデル記憶部14にAVRの下限値「0」および上限値「100」を設定しておく。したがって、AVRが調整されて或る状態になったとき、AVRの調整状態は、その調整状態に対応した0〜100のいずれかの整数値データとして把握される。
【0180】修復計画部15では、AVRの調整状態に応じて得られる0〜100のいずれかの整数値データにより、AVRの調整状態を把握し、AVRを故障修復用のアクチュエータとして選択できるか否かを判別する。つまり、対象モデル記憶部14に記憶されたAVRの下限値および上限値と現在の調整状態値とが比較され、AVRはさらに下限方向に、または上限方向に作動させることができるか否かが判別されるのである。
【0181】よって、複数個の各アクチュエータに対し、またはその中の任意のアクチュエータに対し、このような構成を採用することにより、修復計画の推論結果が、実際に作動させることのできるアクチュエータ手段の組合わせとして出力され、実用的な修復計画の推論ができるという利点がある。なお、作動範囲の設定の仕方は、上述の説明は一例であり、他の方法で作動範囲を設定し、実際のアクチュエータの状態と比較してもよい。
【0182】また、修復計画部15において、設定されたアクチュエータの調整可能範囲と実際の調整値とを比較するのみでなく、故障診断部12において、故障診断を行う際に、設定されたアクチュエータの調整可能範囲と実際の調整値とを比較し、それを参照するようにしてもよい。さらにまた、この発明の実施例にかかる画像形成装置においては、自己診断モード設定手段として、たとえばマニュアル操作される自己診断モード設定キーまたはスイッチを設けておき、該自己診断モード設定キーまたはスイッチが操作されたときにのみ、上述した自己診断または自己診断および自己修復を行うようにすることができる。
【0183】自己診断モード設定キーまたはスイッチの配置位置は、任意の場所でよいが、好ましくは、通常の画像形成のための操作キー等とは異なる位置、たとえば画像形成装置に備えられている前面パネルを開いた状態で操作できる装置内部等に設けるのがよいであろう。
【0184】
【発明の効果】この発明によれば、画像形成装置に故障が生じたか否かが判別され、故障が生じているときは、その故障症状、故障原因および装置の状態が推論される。そして、推論結果に基づいて、予め記憶されている複数の事例が検索され、故障修復に最も適した事例が検出され、事例に基づいた故障修復処理が行われる。
【0185】事例に基づく故障修復処理では、画像形成装置に生じた故障に対応して複数の事例が選択されると、適用順位が決定される。適用順位付けは、故障と事例との対応度の大小に応じてなされ、対応度の等しい事例間は、適用優先度の高い類の事例が優先される。そして適用順位の若い順位に事例を適用して修復作業を行う。この場合に、同じ類に属する事例が複数ある場合、適用順位の若い事例が適用され、その結果故障修復が成功しなかった場合には、その類に属する他の事例は適用されないので、修復作業が失敗する蓋然性の高い事例の適用を省くことができ、事例選択に関する成功率を向上させることができる。そして、より迅速な自己修復作業が行える。
【0186】また、事例の適用結果に応じて、その事例が属する類の適用優先度が更新される。実際の機械システムにおいては、前回の故障に関連して次の故障が生じることが多いことが経験的にわかっている。そこで、事例適用に関する優先度を上述のように更新することにより、生じ得る故障に対し、適切な事例を優先して選択し続けることができる。
【0187】また、この発明によれば、故障原因は、画像形成装置に共通の定性データに基づいてなされるので、明示的に記述されていない未知の故障をも扱うことのできる自己診断修復システムを有する画像形成装置とすることができる。さらに、この発明にかかる自己診断修復システムは、或る特定の画像形成装置に対してではなく、多くの機種の画像形成装置に対して共通的に適用することができ、結果的に安価な自己診断および自己修復システムを有する画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明における「作業スクリプトの詳細化」を説明するための図である。
【図2】先願発明にかかる事例ベース修復計画システムにおける事例の分類の仕方を説明するための図解図である。
【図3】この発明にかかる事例ベース修復計画システムにおける事例の分類の仕方を説明するための図解図である。
【図4】事例の分類に「類」の概念を導入した場合における類分けの仕方を説明するための図である。
【図5】類分けされた事例と作業スクリプトの関係を表わす図解図である。
【図6】互いに異なる故障症状に属する事例集合Aが事例集合Bに類似するための用件を説明するための図解図である。
【図7】この発明の一実施例のシステム構成を示すブロック図である。
【図8】図7に示すシステム制御回路の処理動作の概要を表わすフローチャートである。
【図9】この発明の一実施例にかかる小型の普通紙用の複写機の概略構成と、その複写機に備えられた3つのセンサを説明するための図である。
【図10】この発明の一実施例にかかる複写機の数学モデルを表わす図である。
【図11】この発明の一実施例にかかる複写機において、各パラメータをシンボル化する場合に必要な各パラメータの基準値データを表わす図である。
【図12】上述した数学モデル上における故障診断のための展開を表わす図である。
【図13】上述した数学モデル上における故障診断のための展開を表わす図である。
【図14】この発明の一実施例における事例を適用した修復作業の処理の一部を表わすフローチャートである。
【図15】この発明の一実施例における事例を適用した修復作業の処理の一部を表わすフローチャートである。
【図16】この発明の一実施例における事例を適用した修復作業の処理の一部を表わすフローチャートである。
【図17】この発明の一実施例における適用すべき「事例を決定するための処理」の一例を表わすフローチャートである。
【図18】この発明の一実施例における適用すべき「事例を決定するための処理」の他の例を表わすフローチャートである。
【図19】この発明の一実施例における「類の優先度の操作(その1)」の処理を表わすフローチャートである。
【図20】この発明の一実施例における「類の優先度の操作(その2)」の処理を表わすフローチャートである。
【図21】この発明の一実施例において、類ごとに適用する事例を1つだけにするための他の制御を説明する部分的なフローチャートである。
【図22】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図23】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図24】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図25】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図26】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図27】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図28】この発明の一実施例において、修復計画を選択する場合の操作を表わす図である。
【図29】この発明の一実施例において、修復計画を選択する操作を行った結果、図11に示す基準値データを更新した場合の更新後の基準値データを表わす図である。
【符号の説明】
1a,1b,1c センサ
6a,6b,6c アクチュエータ
10 システム制御回路
11 ディジタル信号/シンボル変換部
12 故障診断部
13 故障シミュレーション部
14 対象モデル記憶部
15 修復計画部
16 シンボル/ディジタル信号変換部
17 事例ベース記憶部
18 作業スクリプト記憶部
【0001】目次1.産業上の利用分野2.従来の技術3.発明が解決しようとする課題4.課題を解決するための手段5.作用(5−1)課題を解決するための手段(5−2)「作業スクリプトの詳細化」の内容と作用6.実施例(6−1)システム構成の概要(6−2)システムの動作の概要(6−3)具体的な対象機械の構成および状態(6−4)実体モデルと数学モデル(6−5)故障診断の手法(6−6)修復作業の実行(6−7)事例の検索による故障修復処理(6−8)修復計画の推論(6−9)副次的影響の推論(6−10)その他7.発明の効果
【0002】
【産業上の利用分野】この発明は、自己修復システムを有する画像形成装置に関するものである。より詳しくは、近年盛んに研究が行われている人工知能、知識工学を利用して、装置が(動作状態等を自己診断し、)自己修復し得るようにした画像形成装置に関するものである。
【0003】
【従来の技術】精密機械や産業機械等の開発分野においては、保全作業の省力化や自動運転の長期化を実現するために、最近、人工知能(ArtificialIntelligence:いわゆるAI)技術を利用したエキスパートシステムの研究が盛んに行われている。エキスパートシステムの中には、装置に故障が生じたか否かを自己診断し、また生じた故障を自己修復するものが見受けられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、従来のエキスパートシステム(自動調節システムや故障診断システム)は、基本的には、或るセンサの出力に基づいて対応するアクチュエータを作動させるようになっていた。つまり、予め定めるセンサおよびアクチュエータの組合わせにより、一種の自動調節や故障診断がなされていた。よって、基本的には、或るセンサは特定のアクチュタと対応しており、両者の関係は固定的であった。それゆえ、(1)センサのパラメータとアクチュエータのパラメータとの関係は数値的に明示されていなければならないこと。
【0005】(2)上記(1)の理由から、センサのパラメータとアクチュエータのパラメータとの関係は対象に強く依存しており、汎用性に乏しく、様々な対象に対して利用ができないこと。
(3)各センサ同士のパラメータ間または各アクチュエータ同士のパラメータ間の関係は制御と無関係である。したがって、対応するセンサのパラメータとアクチュエータのパラメータとの関係のみに基づく単純な制御しか行えず、対処できる故障が予め限定されていて、未知の故障は扱えないこと。
【0006】(4)上記(3)の理由から、任意のアクチュエータを操作したことにより生じ得る他のアクチュエータパラメータへの副次的影響を予測できないこと。
等の問題点があった。このように、従来の自動調節システムや故障診断システムでは、予測故障AはセンサAおよびアクチュエータAの組Aに基づいて行われ、予測故障BはセンサBおよびアクチュエータBの組Bに基づいて行われ、予測故障CはセンサCおよびアクチュエータCの組Cに基づいて行われるという具合に、それぞれ独立したセンサおよびアクチュエータの組に基づく故障診断が行われ、またそれに基づく故障修復が行われていたにすぎなかった。
【0007】そこで、本件出願人は、従来システムの欠点を解消した画像形成装置のための新規な自己診断および自己修復システムについて特許出願を行った(たとえば特願平2−252191号(特開平4−130459号)参照)。この先願にかかる画像形成装置のための自己診断および自己修復システムは、2つの大きな特徴を備えている。
【0008】1つは、対象機械をパラメータを用いて定性的に表わし、その定性データを用いて対象機械の故障診断を行うこと、つまり、定性モデルベースドシステム(Qualitative Model Based System:以下、「QMS」という)による故障診断を行っていることである。そしてもう1つは、QMS処理を行うと、故障診断の結果は「故障症状」と「故障」とによって階層的に分類されるので、それを事例として記憶する。また、同じ故障症状および故障に属する複数の事例に対しては共通的な修復作業を施せることが多いので、修復に必要な作業を、最小限の単位で、ルール形式で表わす。そして、その作業単位の集合を作業スクリプトとして登録し、その故障症状および故障に属する複数の事例によって共有させる。そのようにして得られた事例ベースを利用して、事例ベース修復計画システム(Case Based Planing System:以下「CBS」という)を作っていることである。その結果、故障症状と故障とによって階層的に分類された事例から今回の故障症状と故障とが当てはまる事例を選択して、選択した事例およびその事例に対応する作業スクリプトに基づいて修復作業が行われる。
【0009】ところで、先願発明においては、CBSにおける事例は、「故障症状」と「故障」とによって分類されているが、事例はさらに細かく分類することが可能と思われる。そして、事例をさらに細かく分類することにより、事例を参照する際に、或る事例の参照に失敗した場合、失敗した事例と同じ分類に属する事例を選択することを避け、事例選択に関する成功率を向上させることができるはずである。
【0010】本願の発明者は、かかる事例分類に関する詳細化という点に着目し、この発明を完成した。この発明の目的は、一言で言えば、CBSにおける事例選択に関する成功率を向上させ、より迅速に自己修復作業が実行可能なシステムを有する画像形成装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】上述の目的を実現するために、この発明の画像形成装置は、画像形成装置の故障を修復するための作業を記載した事例を、類に分けて記憶する事例記憶手段と、各類の故障修復への適用優先度を記憶する優先度記憶手段と、画像形成装置に故障が生じたとき、生じた故障に対応した事例を選択し、選択した事例が複数ある場合には、生じた故障と事例との対応度の大小によって適用順位を決め、対応度の等しいものがあるときは、適用優先度の高い類に属する事例を優先するように適用順位を決める適用順位決定手段と、適用順位決定手段で決定された順位に従って、事例を故障修復に適用する手段と、事例を適用して故障修復をした結果、失敗したときは、その事例が属する類を記憶しておき、その後に故障修復に適用する事例が、失敗にかかる事例と同じ類に属する場合には、その事例の適用を省略する手段と、事例の適用結果に応じて、優先度記憶手段に記憶されているその事例が属する類の適用優先度を更新する手段とを有する。
【0012】
【作用】
(5−1)課題を解決するための手段の作用この発明にかかる画像形成装置においては、故障を修復するための作業を記載した事例が、類に分けて記憶されている。類分けは、事例が定性的に到達可能な範囲内か否かに基づいてなされている。また、各類の故障修復への適用優先度が記憶されている。
【0013】画像形成装置に故障が生じたときには、その故障に対応した事例、たとえば状態パラメータの一致度が所定の一致度よりも大きな事例が選択される。選択された事例が複数ある場合には、対応度の大小、たとえば状態パラメータの一致度の高い順に適用順位が決定される。対応度の等しい事例があるときには、それらの事例に関しては、適用優先度の高い類に属する事例が優先されるように適用順位が付される。そして決定された適用順位に従って、事例が適用され、故障修復が図られる。
【0014】事例を適用して故障修復を行った結果、修復作業が成功しなかった場合には、その後に適用する事例は、失敗した事例が属する類の事例は省略され、異なる類に属する事例が選ばれる。この理由は、上述のように、同じ類に属する事例は、互いに定性的に到達可能な範囲内にあるから、或る類に属する事例を適用して故障修復を行った結果、その修復作業が成功しなかった場合は、定性的に到達可能な同一範囲内の他の事例に基づく故障修復を行っても、修復作業は失敗する蓋然性が高いことに基づく。それゆえ、かかる同じ類に属する事例の適用による無駄な時間を省略するようにした。
【0015】また、事例を故障修復に適用した結果、修復作業が成功した場合は、適用した事例の属する類の適用優先度が高くなるように更新される。一方、修復作業が失敗した場合は、適用した事例の属する類の適用優先度が低くなるように更新される。これにより、適用優先度は、今回適用したことにより修復作業が成功した事例の属する類の事例が最も高くなり、次回の故障修復時に、その類に属する事例が優先的に選択される。
【0016】(5−2)「作業スクリプトの詳細化」の内容と作用この発明にかかる画像形成装置は、基本的にはCBSを有している。なお、CBSの基本的な構成については、本願出願人の先願発明に開示されているが、本願明細書においても、後述する実例において詳しく説明する。CBSでは、前述したように、実際の修復作業の最小単位の操作を表現する方法として、ルール形式で記述された「作業スクリプト」が定義される。そして、事例を拡大解釈することを目的として、「作業スクリプトの詳細化」という操作が導入される。作業スクリプトの詳細化とは、作業スクリプトに対して仮説推論による論理的な操作を加えることであり、事例の状況と現在の状況との差異を発見し、その差異を解消することによって現在の状況を事例の状況と定性的に等しくするための操作である。
【0017】より具体的に説明する。図1に示すように、たとえばパラメータAおよびパラメータBで表わされる二次元空間において、FSで示す円内が装置が正常な状態のパラメータ空間であるとする。そして、事例1の場合は、パラメータAおよびパラメータBで表わされる状態位置がCS1であり、故障が生じている。そこで、作業スクリプトに記述された修復作業C1Rを施すことにより、事例1の状態位置CS1は正常なパラメータ空間FS内に移り、修復作業が成功する。
【0018】事例2では、パラメータAおよびパラメータBによって表わされる状態位置がCS2であり、この状態に対して作業スクリプトに記述された修復作業C2Rを施すことにより、この状態位置を正常なパラメータ空間FS内に移すことができる。作業スクリプトに記述された修復作業C1Rは、事例の状況がCS1で示す位置にある場合に対して有効な修復作業である。同様に、作業スクリプトに記述された修復作業C2Rは、事例の状況がCS2の位置にある場合に対して有効な修復作業である。
【0019】ところで、新たに診断された現在の故障の状況が、CS3で示す状況の場合には、作業スクリプトに記述された修復作業C1RもC2Rもそのまま適用することはできない。そこで、現在の状況CS3と、事例1の状況CS1との差異を発見して、CS3をCS1の状況まで移すための操作C3R1を作業スクリプトに追加する。これが作業スクリプトの詳細化である。あるいは、現在の状況CS3を事例2の状況CS2に移すための修復作業C3R2を追加する。これが作業スクリプトの詳細化である。そして、現在の状況CS3をたとえば事例1の状況CS1に移すことができれば、その状況に対しては修復作業C1Rを適用すれば、装置を正常な状態であるパラメータ空間FS内に移すことができる。
【0020】今、現在の状況CS3を修復作業C3R1を行うことによって事例1の状況CS1に移すことができ、さらに修復作業C1Rを行うことによってパラメータ空間FS内に移すことができたとすれば、それは作業スクリプトの詳細化を行うことによって、事例の参照に成功したということである。したがってこの場合は、作業スクリプトの詳細化によって事例参照に成功した状況、つまり現在の状況CS3と、もともとの事例、つまり事例1の状況CS1とは、定性的に到達可能な同一範囲内にあったと考えることができる。このような定性的に到達可能な同一範囲内にある事例は、同じ類に属すると定義する。
【0021】一方、現在の状況CS3を事例2の状況CS2に移そうとしたが、それがうまくいかなかった場合には、現在の状況CS3と事例2の状況CS2とは、もともと、定性的に到達不可能な関係である。それゆえ、この関係にあるものは、違う類に属すると定義する。また、或る状況において、参照に失敗した事例と参照に成功した事例とは、定性的に到達不可能であり、違う類に属すると定義する。また、事例の参照にすべて失敗し、QMSによって新たに生成された事例は、それまでの事例からは定性的に到達不可能であり、違う類に属すると定義する。
【0022】本願出願人の先願発明にかかるCBSでは、図2に示すように、事例は、「故障症状」と「故障」とによって階層的に分離されていたのに対し、上述のような定義の結果、この発明では、図3に示すように、事例は、「故障症状」、「故障」および「類」によって、より詳細に、階層的に分類される。次に、具体的な事例分類の例を示す。
【0023】図4を参照して説明する。一例として、CS1からCS5までの5つの事例が存在するとする。このうち、CS1、CS3およびCS4は、QMSにより生成された修復事例であり、CS2はCS1から、CS5はCS4から、それぞれ、事例推論による詳細化を経て得られた事例であるとする。この場合、5つの事例は〔CS1,CS2〕、〔CS3〕、〔CS4,CS5〕の3つの類に分類される。
【0024】今、任意の状況Sにおいて、これらの事例を参照する場合、状況Sとこれらの事例の状況との定性的な距離が近いと思われる順で事例参照に関する順位が与えられる。その順位付けの結果は、CS2、CS1、CS4、CS3、CS5の順であったとする。このとき、まず事例CS2を参照し、その参照に失敗した場合は、事例CS1は参照しない。これは、事例参照に失敗した原因は、与えられた状況Sが事例CS2の定性的到達可能範囲にないものと判断したもので、同じ類に属する事例CS1についても同様であると考えることに基づいている。したがって、すべての事例参照に失敗する場合は、その参照は、CS2、CS4、CS3の順で行われることになる。
【0025】このように、事例の分類に「類」の概念を導入し、事例の分類の詳細化を図ることにより、参照すべき事例の選択に関する成功率を高めることができる。また、事例選択のための時間の短縮化を図ることができる。ところで、図3に示すように、この発明では、事例集合は類ごとに分類されている。そして、同一の類に属する事例は、定性的に到達可能な範囲内にある。よって、たとえば事例CS1と事例CS4とは定性的に到達不可能な関係である。それゆえ、このように定性的に到達不可能な関係にある事例(たとえばCS1とCS4)が同じ作業スクリプト集合を共有するのは不自然である。そこで、この発明においては、異なる類に属する事例集合には、それぞれ異なる作業スクリプト集合を割り当てることにする。つまり、図5で示すように、定性的に到達可能な事例集合ごとに、作業スクリプト集合を共有するようにされている。
【0026】このことは、別の観点から見ると、定性的に到達不可能な関係にある事例同士は、故障の根本原因が異なっていると考えられるので、共通の類に属する事例ごとに作業スクリプト集合を割り当てる作業スクリプト集合の多重化は、故障の根本原因によって作業スクリプト集合を分離する作業であるとみることができる。さらに、この発明においては、事例検索効率を向上させるために、故障症状および故障が等しく、類が異なる事例に対して、類の類似性に基づいて、事例適用の優先順位を繰り上げるという処理を施している。
【0027】各事例は、QMSの故障診断の結果である「故障症状」と「故障」とによって階層的に分類されている。そして、さらに、事例推論による修復が繰返される過程で「類」ごとに分類されていく。それゆえ、結果として、「類」ごとに事例を分類する作業は、故障診断における「故障」の分類がさらに細かくされたことになる。
【0028】ところで、「類」は、上述のように、定性的に到達不可能な位置にある状態間の関係であり、故障の根本原因の相違と考えることができる。しかしながら、実際の機械システムを考察すると、故障の根本原因が同じでありながら、発現する故障症状が異なることも多い。たとえば、複写機を例にとると、「メインチャージが上がるとかぶりが発生するが、ドラムにリークしてリセットがかかることがある」場合もあれば、「メインチャージが上がるとかぶりが発生するが、ドラムにリークし画像が乱れることがある」場合もある、というように、「リセットがかかる」という故障症状が発現することもあれば、「画像が乱れる」という故障症状が発現することもある。さらに、装置は、故障の根本原因が除去されていない限り、同一の故障原因により出現する故障症状の頻度が高い。
【0029】それゆえ、或る故障症状に関して或る類の事例を適用して修復に成功した結果から、異なる故障症状に関しても、類似した類に属する事例を適用すれば、適正な修復作業が得られる可能性が高いと考えられる。それゆえ、或る故障症状に関して或る類の事例を適用して修復を行い、それが成功した場合、異なる故障症状に属する事例につき、修復を行った事例と類似した類に属する事例がある場合、その事例の適用に関する優先順位を繰り上げる処理を行う。
【0030】つまり、「類」による分類は、「故障症状」および「故障」というQMSに基づく分類の「枠組を越えている」ので、異なる故障症状に関する事例であっても「類」が類似している場合がある。ここに、「類」の類似とは、各類ごとに、その類に属する事例が共通の特徴を有していることである。具体的には後述する実施例で詳細に説明するが、その類に属する事例の「修復前の状況」から共通部分を取り出すことによって、類の特徴抽出が行われる。異なる故障症状の類に属する事例同士を比較し、類に含まれるすべて事例の「修復前の状況」がその特徴を共通にしているとき、それらの類は類似すると判断し、事例適用に関する優先順位の繰り上げ処理を行う。
【0031】たとえば図6に示すように、事例集合Aの特徴がPであり、事例集合Bの特徴がQである場合において、PがQに含まれるとき(P∈Q)、事例集合Aは事例集合Bに類似すると判断される。なお、この場合において、必ずしも事例集合Bは事例集合Aに類似する(QはPに含まれるQ∈P)わけではない。かかる類の類似性によって事例の適用順位を繰り上げることにより、事例に基づく修復において、全体的な事例適用の成功率を向上させることができる。
【0032】
【実施例】
(6−1)システム構成の概要図7は、この発明の一実施例のシステム構成を示すブロック図である。このシステムには、対象機械である画像形成装置上に設置された複数のセンサ1a,1b,1cおよび対象機械の機能状態等を変化させるための複数のアクチュエータ6a,6b,6cが含まれている。
【0033】複数のセンサ1a,1b,1cは、それぞれ、この対象機械の作動によって生じる対象機械の要素または該機械要素間の関連状態の変化を検出するためのものである。複数のセンサ1a,1b,1cからそれぞれ取込まれる情報は、増幅回路2で増幅され、A/D変換回路3でアナログ信号からディジタル信号に変換され、システム制御回路10へ与えられる。
【0034】システム制御回路10には、ディジタル信号/シンボル変換部11、故障診断部12、故障シミュレーション部13、対象モデル記憶部14、修復計画部15およびシンボル/ディジタル信号変換部16が含まれている。また、修復計画部15には事例ベース記憶部17および作業スクリプト記憶部18が接続されている。
【0035】ディジタル信号/シンボル変換部11は、A/D変換回路3から与えられるディジタル信号を、定性的な情報に変換するためのものである。すなわち、ディジタル信号を、たとえば、ノーマル,ハイおよびローの3つのシンボルのいずれかに変換するための変換機能が備えられている。センサ1a,1b,1cから与えられる信号を、シンボル化されたこのような定性的な情報に変換することにより、故障診断に対するアプローチが容易になる。なお、シンボルは、この例のようにノーマル,ハイおよびローの3つに限らず、オンおよびオフまたはA,B,CおよびD等の他の表現であってもよい。変換部11においてディジタル信号がシンボルに変換される際には、対象モデル記憶部14に記憶されている対象機械に特有の特徴データが参照される。この特徴データおよび信号変換の詳細については、後述する。
【0036】故障診断部12および故障シミュレーション部13は、ディジタル信号/シンボル変換部11で変換されたシンボルを対象モデル記憶部14に記憶されている故障診断知識と比較することにより、故障の有無を判別し、かつ故障診断を行い、その結果として、対象機械の故障状態を、定性的な情報、すなわちシンボルによって表現し出力する構成部である。
【0037】修復計画部15、事例ベース記憶部17および作業スクリプト記憶部18は、故障がある場合に、故障診断の結果である「故障症状」および「故障」に基づいて、修復計画を推論し、修復作業を導出するための構成部である。修復計画を推論し、修復作業を導出するにあたっては、事例ベース記憶部17に記憶された過去の修復成功に関する事例が検索され、検索された成功事例を実行するための作業スクリプト(修復作業の最小単位の操作を表現するもので、ルール形式で記載された修復操作を行なうための作業単位の連なり;詳しくは後述する。)が作業スクリプト記憶部18から選択される。また、対象モデル記憶部14に記憶されている定性データ(後に詳述する)が活用される。
【0038】修復計画部15から出力される修復作業は、シンボル/ディジタル信号変換部16において、対象モデル記憶部14の記憶情報が参照されて、ディジタル信号に変換される。そして、ディジタル信号は、D/A変換回路4でアナログ信号に変換され、アクチュエータ制御回路5に与えられる。アクチュエータ制御回路5は、与えられるアナログ信号、すなわちアクチュエータ制御命令に基づいて、複数のアクチュエータ6a,6b,6cを選択的に動作させ、修復作業を実行させる。
【0039】(6−2)システムの動作の概要図8は、図7におけるシステム制御回路10の処理を表わすフローチャートである。次に、図8を参照して、図7R>7のシステム制御回路10の処理の概要について説明をする。センサ1a,1bまたは1cの検出信号は、増幅され、かつディジタル信号に変換されて、たとえば所定の読込みサイクルごとにシステム制御回路10に読込まれる(ステップS1)。
【0040】読込まれたディジタル信号は、ディジタル信号/シンボル変換部11においてシンボル化される(ステップS2)。このシンボル化は、対象モデル記憶部14に予め設定されている特徴データ、すなわち対象機械に特有の基準値データに基づいてなされる。たとえば、対象モデル記憶部14には、対象機械に特有の基準値データとして、各センサ1a,1b,1cの出力範囲が、次のように設定されている。
【0041】すなわち、センサ1a:出力ka1 未満=ロー出力ka1 〜ka2 =ノーマル出力ka2 を超過=ハイセンサ1b:出力kb1 未満=ロー出力kb1 〜kb2 =ノーマル出力kb2 を超過=ハイセンサ1c:出力kc1 未満=ロー出力kc1 〜kc2 =ノーマル出力kc2 を超過=ハイと設定されている。ディジタル信号/シンボル変換部11では、対象モデル記憶部14に設定されている上記対象機械に特有の基準値データに基づいて、読込まれたディジタル信号を、それぞれ、「ロー」「ノーマル」または「ハイ」というシンボルに変換する。
【0042】次いで、故障診断部12において、変換されたシンボルの評価がされ、故障の有無判別および故障症状の特定がされる(ステップS3)。シンボルの評価による故障の有無判別および故障症状の特定には、対象モデル記憶部14に記憶されている故障診断知識が活用される。故障診断知識とは、たとえば、特定のパラメータは、たとえばノーマルでなければならないという設定条件である。当該特定のパラメータがノーマルでない場合、故障あり、と判別され、該特定のパラメータが何かによって、故障症状が特定される。故障がない場合には、ステップS1,S2およびS3のルーチンが繰返される。
【0043】ステップS3において故障ありと判別された場合には、対象機械の状態の推論、すなわち故障診断および故障状態のシミュレーションがされる(ステップS4)。具体的には、対象モデル記憶部14に記憶されている、装置を構成する各要素の挙動または属性および各要素間の結合関係を定性的に表わした定性データに基づいて、故障診断部12において、故障を引起こしているパラメータが検索され、故障シミュレーション部13において、検索されたパラメータが故障原因であると仮定して、故障状態のシミュレーションがされる。さらに、故障診断部12において、シミュレーション結果と現在のパラメータ値とが比較され、検索されたパラメータが故障原因であるという仮定の正当性が判断される。以上の処理が、検索される複数のパラメータ全てに対して行われる。
【0044】故障の有無判別、故障診断および故障状態のシミュレーションの結果、対象機械の「故障症状」および「故障」が決定される。ここに、「故障症状」とは、対象機械の出力状況等(たとえば、複写機を例にとると、「コピー画像が薄い」等)の変化であり、「故障」とは、シンボルの変化原因となる対象機械の機構や構造の変化(たとえば、複写機を例にとると、「ハロゲンランプの光量低下」等)である。
【0045】次いで、修復計画部15によって、故障診断および故障状態のシミュレーション結果に基づいて、事例ベース記憶部17に記憶された多数の事例の検索が行われる(ステップS5)。そして、現在の対象機械の状態に近い事例の検出がされ、適用順位が決められる(ステップS6)。この事例の検出は、故障症状および故障が一致しているか否かに基づいて行われる。また、適用順位の決定では、同じ類に属する事例が複数ある場合、優先度の一番高い事例だけが適用される。
【0046】そして、適用順位付けがされた事例に基づく修復作業が実行される(ステップS7)。修復作業においては、必要に応じて、事例の修正や修復作業の修正、つまり作業スクリプトの詳細化がなされ、修正された事例は、同じ類に属する新たな事例として登録される。そして事例に基づく修復作業が成功した場合には処理は終了する(ステップS8でYES)が、事例に基づく修復作業が成功しなかった場合(ステップS8でNO)には、QMSによる修復方法の推論がなされ(ステップS9)、さらに、副次的影響のシミュレーションがなされ(ステップS10)、修復計画が決定されて、その決定に基づく修復作業が実行される(ステップS11)。
【0047】ステップS9〜S11における推論および作業の実行は、QMSによるものであり、CBSにおける事例を利用したものではないが、このQMSによる推論に基づく修復作業が成功した場合には、その修復結果は、別の類に属する新たな事例として、事例ベース記憶部17に登録される。次に、故障診断および故障修復の仕方について、具体例を参照しながら詳細に説明をする。以下の説明では、一例として、小型普通紙用複写機における感光体ドラム周辺部を対象機械とした場合の仕方を説明する。
【0048】(6−3)具体的な対象機械の構成および状態図9は、具体的な対象機械を表わす図解図である。図9において、21は感光体ドラム、22は主帯電チャージャ、23は原稿照明用のハロゲンランプ、24は現像装置、25は転写チャージャである。この実施例では、たとえば3つのセンサ1a,1b,1cが設けられている。すなわち、センサ1aは感光体ドラム21を露光する光の量を測定するためのAEセンサ、センサ1bは感光体ドラム21の表面電位を測定する表面電位センサ、センサ1cは用紙上にコピーされた画像の濃度を測定するための濃度計である。
【0049】また、図9に示されていないが3種類のアクチュエータが設けられている。すなわち、感光体ドラム21の主帯電電圧を変化させるための主帯電ボリュームVR1、ハロゲンランプ23の光量を制御するためのランプボリュームAVRおよび感光体ドラム21とコピー用紙間の転写電圧(転写チャージャ25の転写電圧)を制御するための転写ボリュームVR2という3つのボリュームが、アクチュエータとして設けられている。
【0050】さらに、図9に示す3つのセンサ1a,1b,1cおよび3つのアクチュエータには、図7に示すものと同じシステム制御回路10が接続されている。
(6−4)実体モデルと対象モデルところで、図9に示す対象機械を物理的な視点から捕え、実体レベルでその対象機械を複数個の要素の結合として表現し、各要素の挙動および属性ならびに各要素間の結合関係をパラメータを用いて定性的に表わすと、表1に示す通りとなる。この表1のような表現形式を「実体モデル」と呼ぶことにする。
【0051】
【表1】
【0052】また、実体モデルを抽象化して、各パラメータの結合ツリーとして表わした図10に示す表現を「数学モデル」と呼ぶことにする。そして、「実体モデル」と「数学モデル」とを併せて「対象モデル(定性モデル)」と呼ぶことにする。「対象モデル」は、後述する故障修復のためにも活用される、画像形成装置に共通の定性データである。
【0053】定性データとしての実体モデルおよび数学モデルの各内容は、対象モデル記憶部14(図7参照)に記憶されている。また、対象モデル記憶部14には、実体モデルに含まれているパラメータのうちの所定のパラメータに関して、たとえば工場出荷の際に測定された基準値データが記憶されている。この基準値データは、この画像形成装置に特有の特徴データである。
【0054】たとえば、この機械では、図11のように、パラメータX、VS 、OS 、Vn について、それぞれ、ロー、ノーマル、ハイの範囲を特定する基準値データが記憶されている。なお、この実施例では、上記の基準値データは、後の故障診断や故障修復過程におけるセンシングデータや機械の動作状態の変化等に応答して、更新され得るようにされている。
【0055】また、対象モデル記憶部14には、変換されたシンボルに基づいて、対象機械が正常に動作しているか否かを判定するための基準となる故障診断知識の一例としての評価機能知識が記憶されている。なお、評価機能知識、換言すれば故障診断知識は、対象装置に特有のものであってもよいし、特有のものでなく、広く画像形成装置に共通のものであってもよい。
【0056】この実施例の評価機能知識には、以下の知識が含まれている。
画像濃度OS =ノーマル、かぶり度OS ’<ノーマル、分離性能Sp <ノーマルここに、Os 、OS ’、Sp が上記条件でない場合には、対象機械は正常に動作していないことになる。
【0057】さて、通常動作における対象機械のディジタル化されたセンサ情報が次の値である場合を考える。
AEセンサ1aの値X=23表面電位センサ1bの値Vs =380濃度計1cの値Os =7また、光学濃度D=0の白紙原稿を使用したときの濃度計1cの値Os =かぶり度Os ’、ハロゲンランプを消した状態での表面電位センサ1bの値Vs =暗電位Vn 、と定め、それらの値は、それぞれ、かぶり度Os ’=50暗電位Vn =590であったとする。
【0058】なお、これらかぶり度Os ’および暗電位Vn の測定は、マニュアル操作によって行われてもよいし、一定条件時、たとえば対象機械の電源がオンされる都度、またはコピー開始前毎に、センサによって自動的に測定されるようにプログラミングされていてもよい。この実施例では、後者が採用されている。AEセンサ1a、表面電位センサ1bおよび濃度計1cによって得られた各値X、Vs 、Os 、Os ’、Vn は、それぞれ、ディジタル信号/シンボル変換部11においてシンボルに変換される。変換は、前述したように、各センサ1a,1bまたは1cから与えられるディジタル値が、対象モデル記憶部14に記憶されている特徴データとしての基準値データと比較されることにより行われ、ノーマル、ハイまたはローの3種類のいずれかのシンボルに変換される。
【0059】この実施例では、各パラメータは次のようにシンボル化される。
X=ノーマルVs =ローOs =ローVn =ロー故障診断部12において、これらのシンボル化された各パラメータが、対象モデル記憶部14に記憶されている故障診断知識の一例としての機能評価知識と比較される。その結果、画像濃度Os がノーマルでないから、故障ありと判定され、故障症状は「画像濃度が低い(Os =ロー)」であると判断される。そして続いて、「Os =ロー」を故障症状として、故障診断、つまり故障の推論がされる。
【0060】(6−5)故障診断の手法故障診断は、まず故障シミュレーション部13において、図10の数学モデルを用いて行われ、Os =ローを引起こす可能性のあるパラメータが探索される。図10における数学モデルで、Os を低下させる可能性があるパラメータを指摘すると、図12に示すようになる。図1212において、上向き矢印または下向き矢印が付されたパラメータが、パラメータOs =ローを引起こす可能性のあるパラメータであり、上向き矢印のものはそのパラメータが上昇した場合に、下向き矢印のものはそのパラメータが低下した場合に、Os =ローを引起こす。
【0061】次に、数学モデルにおいて探索されたOs =ローを引起こす可能性のある各パラメータζ,Ds ,Vt ,γ0 ,Vb ,Vs ,Vn ,X,β,HL ,Dについて、故障診断部12でパラメータの変化を引起こす原因の検出がされる。この検出は、表1の実体モデルに基づいて行われ、この実施例では、次のような故障候補が推論される。すなわち、Vt =ロー:→転写トランスの不良ζ =ロー:→用紙の劣化Vb =ハイ:→現像バイアスの不良γ0 =ロー:→トナーの劣化Vn =ロー:→主帯電電圧の不良HL =ハイ:→ハロゲンランプの設定不良D =ロー:→原稿が薄い上記故障候補のうちの「矢印→」の右側に記載された知識、すなわち、転写トランスの不良、用紙の劣化、現像バイアスの不良、…等の知識は、故障知識であり、この知識は、画像形成装置に共通の定性データに含まれている。なお、パラメータのうち、βは感光体の感度であり、これが上昇することはないから除外されている。Ds ,Vs およびXは、他のパラメータによって表わされるから、これも除外されている。
【0062】そして、故障診断部12においてされた上記の推論に対して、故障シミュレーション部13において、故障状態のシミュレーションが行われる。故障状態のシミュレーションとは、上記推論された故障が生じたときの対象機械の状態を、それぞれ、推論することである。より具体的には、Os =ローを引起こす原因、つまり故障が、たとえば転写トランスの不良であると仮定し、正常状態のモデルに対してVt =ローを設定する。そして、その状態における各パラメータに与えられる影響を数学モデル上で検討するのである。
【0063】たとえばVt =ローを設定した場合、Os =ローおよびSp =ローとなり、他のパラメータはすべてノーマルであるから、これは、センサから得られるVs =ローおよびVn =ローと矛盾する。それゆえ、その故障の推論が誤っているという結果を得る。同様にして、ζ=ローを正常状態の数学モデル上に設定し、その結果をセンサから得られるシンボルと比較する。この場合も、数学モデル上ではVs =ノーマル、Vn =ノーマルに対し、センサからのシンボルはVs =ロー、Vn =ローであるから、矛盾があり、その故障の推論は誤りであると判定される。
【0064】このようにして、全ての故障候補について、故障状態のシミュレーションが行われ、故障の推論が正しいか否かが確認される。その結果、本例の場合には、故障を「主帯電電圧の不良(Vn =ロー)」とした場合に、現実の対象機械の状態と一致した結果が得られ、かつそれ以外の故障候補はすべて現実の装置の状態と矛盾するとの結論を得る。
【0065】よって、この場合の故障は、主帯電電圧の不良であると断定できる。そのときの対象機械の各パラメータの状況を示すと、表2のとおりとなる。
【0066】
【表2】
【0067】表2に表わすパラメータの状況を数学モデル上にトレースすると、図13が得られる。図13において、各パラメータの右側に付された下向き矢印はロー、上向き矢印はハイ、Nはノーマルを表わしている。
(6−6)修復作業の実行次に、故障診断部12および故障シミュレーション部13で行われた故障診断の結果に基づいて、修復作業が実行される。
【0068】以下、図14〜図20に示すフローチャートの流れに従って、修復作業について、順を追って説明をする。
(6−7)事例の検索による故障修復処理修復作業に先立ち、まず、前述した手法に従う故障診断がされる(ステップS21)。その結果、発生している故障症状が「画像濃度が低い(Os =ロー)」で、その故障症状を引き起こす原因である故障は「主帯電電圧の不良」と診断されたとする。そのときの各パラメータ状況を表2に示す。
【0069】次いで、上記故障診断の結果に基づいて、適用すべき事例を決定する処理が行われる(ステップS22)。このステップS22に示す処理の具体的内容を図17のフローチャートに示す。図17を参照して、事例ベース記憶部17(図7参照)に記憶された事例の中から、故障診断結果に適合する事例が検出される(ステップS221)。事例ベース記憶部17に記憶されている事例は、前述したように、故障症状および故障によって、階層的に分類されているとともに、類分けがされている。この記憶されている事例の一例を、表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】表3に示すように、「画像濃度が低い」という故障症状に対しては、「主帯電電圧の不良」という故障または「ハロゲンランプ設定不良」という故障のいずれかが考えられる。主帯電電圧の不良の場合、類C1,C2,C3に分類された4つの事例001,002、004、003が登録されている。また、3つの類C1、C2、C3には優先度が付されており、この例ではC3、C2、C1の順で優先度が付されている。さらに、複数の事例が属する類C1は、特徴が記憶されている。この類C1の特徴とは、類C1に属する複数の事例に共通の特徴である。この内容については後に詳述する。
【0072】ハロゲンランプの設定不良の場合、類はC4の1つで、その類C4に属する事例も005の1つだけである。なお、事例が1つしか属さない類は特徴を抽出できないので、特徴はない。同様に、「画像かぶり」という故障症状の場合は、「主帯電電圧の不良」または「ハロゲンランプ設定不良」という2つの故障が考えられる。そして、「主帯電電圧の不良」の場合は、事例を2つの類C5またはC6に分類でき、類C5に属する事例は006,008,009という3つの事例がある。また、類C6に属する事例は007という事例である。そして、類C5とC6とでは、類C6の優先度が高くされている。さらに、類C5に属する3つの事例の共通の特徴が抽出されて記憶されている。
【0073】一方、故障が「ハロゲンランプ設定不良」の場合は、類C7に属する1つの事例010のみが登録されている。さて、上記ステップS221では、表3に示す階層的に分類された事例から、故障診断により得られた故障症状「画像濃度が低い」および故障「主帯電電圧の不良」に属する事例001、002、004、003が検出される。
【0074】これら検出された4つの事例の中身を、表4、表5、表6および表7に示す。表4〜表7に示すように、各事例には、事例番号、修復前のパラメータの状況、修復後のパラメータの状況、故障症状、故障、修復作業番号、適用成功数および適用失敗数が記憶されている。
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
【0079】そこで、現在の装置の状態を表わす表2のパラメータ状況と、表4〜表7の各修復前の状況に記憶されたパラメータ状況とが比較される(ステップS222)。比較の結果は、事例001ではすべてのパラメータ状況が表2のパラメータ状況と一致している。事例002ではβが異なっている。事例003ではHL 、X、βおよびSP が異なっている。事例004ではHL 、X、Vn およびSP が異なっている。
【0080】したがって、事例適用に関する優先順位は、001→002→003,004、と決められる。次いで、同じ類内でのパラメータ状況の一致度の低い事例が削除される(ステップS223)。この場合、事例001および002は、共に類C1に属しており、事例001に比べて事例002は、パラメータ状況の一致度が低いので、事例の適用順位に関し、事例002は削除される。この結果、適用順位は、001→003,004となる。
【0081】次いで、パラメータ状況の一致度が同じ事例の有無が判別される(ステップS224)。上述の場合、事例003および事例004は、パラメータ状況の一致度が同じである。そこで、事例003と事例004とを適用するにあたり、どちらを先に適用するかについては、事例003および004が属する類C3およびC2の優先度(表3参照)が参酌される(ステップS225)。この場合、類C2の優先度は「2」で、類C3の優先度は「1」であるから、事例004に比べて事例003の適用が優先される。
【0082】パラメータ状況の一致度が同じ事例がない場合は、ステップS225の処理は割愛される。そして、最終的に、事例の適用順位として、001→003→004という順位付けがされる(ステップS226)。そして、この適用すべき事例を決定するための処理はリターンされる。
【0083】以上の図17を参照して説明した適用すべき事例の決定処理に代え、図18に示すフローチャートに従った処理により、適用すべき事例を決定してもよい。図18に示すフローチャートにおいて、図17に示すフローチャートと同じステップ番号の処理、すなわちステップS221〜S224およびS225,S226の処理は、前述の図17における説明と全く同じ内容である。
【0084】図18のフローチャートに示す処理の特徴は、ステップS224において、修復前のパラメータ状況と現在の装置のパラメータ状況(表2)との一致度が同じ事例が複数ある場合における優先順位の決め方として、ステップS2241およびS2242の処理が挿入されていることである。具体的には、パラメータ状況の一致度が同じ事例が複数ある場合(ステップS224においてYES)には、各事例に登録されている適用成功数および/または適用失敗数が参酌される(ステップS2241)。上述の具体例の場合、事例003および004はパラメータ状況の一致度が同じである。そこで、まず、両事例003、004の適用成功数をみる。事例003は、表6に示すように、適用成功数が「3」であり、事例004は、表7に示すように、適用成功数は「1」である。それゆえ、適用成功数の多い事例003が優先される。もし、適用成功数が等しい場合には、適用失敗数の少ない事例が優先される。
【0085】適用成功数の参酌、または適用成功数および適用失敗数の参酌の結果、複数の事例に対して適用に関する優先付けが決定できれば(ステップS2242においてYES)、検出された全事例に対し、適用に関する優先順位が付される(ステップS226)。もし、ステップS2241において、適用成功数および適用失敗数を参酌しても、それらがいずれも等しくて優先順位が決定できない場合(ステップS2242においてNO)には、その事例が属する類の優先度が参酌され、優先順位が決められる(ステップS225,S226)。
【0086】このように、事例の適用成功数の参酌、または適用成功数および適用失敗数の参酌に基づいて適用に関する優先順位を決めるやり方は、特に、過去に数多くの修復作業が実行されている場合において、その過去の修復作業における結果を参酌することになり、過去の修復作業の回数が多いほど有益である。さて、図14に戻って説明を続ける。
【0087】適用すべき事例が決定された後(ステップS22)、決定された事例001およびこの事例001に対応する作業スクリプトが、作業スクリプト記憶部18(図7参照)から読出され、ワークレジスタに設定される(ステップS23)。先に述べたように、事例は、類に分けられており、同じ類に属する事例は、同じ作業スクリプトを共有している。事例001の場合、類C1に属していて、類C1には下記の表8に示す作業スクリプトが対応付けられている。
【0088】
【表8】
【0089】表8に示すように、作業スクリプトには、インデックスとなる類C1が表記され、複数の作業1,2,3,…が列挙されている。各作業はルール形式で記述されており、前件部状況、前件部操作および後件部状況からなっている。各作業は、前件部状況のときに、前件部操作を行うと、後件部状況が得られるという意味である。
【0090】具体例を表8を参照して説明すると、たとえば作業番号1の場合、前件部状況としては、パラメータHL =ハイという状況であり、この状況において、ランプボリュームAVRを低下させるという前件部操作を行うことにより、パラメータHL =ノーマルというパラメータ変化、つまり後件部状況が得られるという内容になっている。
【0091】なお、作業スクリプトは、類ごとに設定され、最小単位の作業が列挙されたものであるから、類の数だけ作業スクリプトは存在する。図14を参照して、事例001および表8の作業スクリプトがワークレジスタに設定されると(ステップS23)、次に、修復計画部15(図7参照)によって、ワークレジスタに設定された事例001の修復前のパラメータの状況(表43参照)と装置の現状を表わすパラメータの状況(表2参照)とが比較され、両者が完全に一致しているか否かが確認される(ステップS24)。
【0092】今、事例001の修復前のパラメータ状況は、装置のパラメータ状況と完全に一致しているから、処理はステップS25へ進み、表4に示す事例001の「修復作業」の欄に記載された番号「2」の作業が、表8に示す作業スクリプトから選ばれて実行される。つまり、パラメータVn =ローという前件部状況において、主帯電ボリュームVR1を上昇させるという前件部操作が行われる(ステップS25)。
【0093】その操作の結果、作業スクリプトに記載された後件部状況、つまりパラメータVn =ノーマルという状況が得られたか否かによって、作業が成功したか否かの判別がされる(ステップS26)。作業が成功と判別された場合には(ステップS26でYES)、さらに、次の作業があるか否かの判別がされる(ステップS27)。表4で示す事例001の「修復作業」の欄には、上述の作業番号「2」しか記載されていないから、次の作業はなしと判別される。もし、事例の「修復作業」の欄に次の作業番号が記載されていれば、処理は、ステップS25に戻り、その作業番号の作業が作業スクリプトから選ばれて実行され、その作業が成功したか否かの判別がされるという処理が繰返される(ステップS25,S26)。
【0094】ステップS27において、次の作業がなくなったと判別されると、事例001における「適用成功数」の欄の数値が「1」増加され、成功数の更新登録がされる(ステップS28)。そして、その後、類の優先度の操作(その1)が行われる(ステップS29)。ステップS29で行われる類の優先度の操作(その1)の手順を、図19のフローチャートに示す。
【0095】次に、図19を参照して、類の優先度の操作(その1)の仕方について、具体的に説明する。これまでの処理によって、故障症状「画像濃度が低い」で、故障「主帯電電圧の不良」であった装置に対し、事例001を適用することによって修復作業を行った結果、それが成功した。それゆえ、この成功事例001が属する類の優先度が上げられる(ステップS291)。各事例は、既に説明した表3に示すように、類ごとに分けて登録されており、かつ、類ごとの優先度が設定されている。この説明にかかる具体例の場合、事例001の属する類C1の優先度は、表3に示すように、「3」であった。しかし、今回、事例001に基づく修復作業が成功したので、表9に示すように、事例001が属する類C1の優先度は、「3」から「1」に上げられる。つまり、もっとも優先度が高くされる。また、それに伴い、故障症状「画像濃度が低い」で故障「主帯電電圧の不良」に属する他の類C2およびC3の優先度が操作される。具体的には、類C3の優先度は「1」から「2」に、類C2の優先度は「2」から「3」に1つずつシフトされる。よって、この故障症状および原因に属する3つの類C1,C2およびC3の類間の優先度は、C1、C3およびC2の順序に変更される。
【0096】
【表9】
【0097】次に、成功した事例001が属する類C1の特徴Pが読出される(ステップS292)。この類C1の特徴Pとは、次の内容をいう。すなわち、類C1に属する複数の事例001および002の各修復前の状況を表わすパラメータ値に関して、たとえば「ノーマルでない」ということで共通しているパラメータがこの類の特徴として抽出される。
【0098】類C1に属する2つの事例001および002の中身は、それぞれ、表4および表5に示すとおりである。表4に示す事例001の修復前の状況に列記されたパラメータのうち、ノーマルでないパラメータは、Vn 、Vs 、Ds 、Os およびSP である。一方、表5に示す事例002の修復前の状況に列記されたパラメータのうち、ノーマルでないパラメータは、β、Vn 、Vs 、Ds、Os およびSP である。よって、これら2つの事例001および002において共通的にノーマルでないパラメータは、パラメータVn 、Vs 、Ds 、Os およびSP であり、これがその類の特徴Pとして抽出され、記憶されている。なおこの場合において、抽出されるパラメータは、ノーマルでなければよく、あるパラメータに関して、事例001ではハイであるが、事例002ではローである場合も、そのパラメータは特徴となるパラメータとして抽出される。
【0099】あるいは、各修復前の状況を表わすパラメータのうち、「ノーマルである」ということで共通しているパラメータを抽出し、類の特徴としてもよい。なお、類の特徴は、その類に属する事例が複数ある場合において初めて抽出され得るものであり、その類に属する事例が1つしかない場合には、特徴は抽出不可能である。
【0100】ステップS292では、事例C1の特徴P、すなわち修復前の状況において、パラメータVn 、Vs 、Ds 、Os およびSP がノーマルでないという内容が読出され、ワークレジスタへストアされる。次いで、類C1が属する故障症状と異なる故障症状に属する類の有無が判別される(ステップS293)。この具体例の場合、表9に示すように、類C1が属する故障症状「画像濃度が低い」とは異なる故障症状「画像かぶり」に属する類としては、類C5、C6およびC7が存在する。
【0101】異なる故障症状に属する類がある場合には(ステップS293でYES)、その類の特徴Qが検出される(ステップS294)。具体的には、まず類C5の特徴Qが表9(この表9は、事例ベース記憶部17に記憶されている。)から検出される。類C5の特徴Qは、パラメータVn 、Vs 、Ds およびOs がノーマルでないということである。
【0102】次いで、ステップS292でワークレジスタに記憶された類C1の特徴Pと、ステップS294で検出された類C5の特徴Qとが比較され、特徴Pは特徴Qに類似するか否かの判別がされる(ステップS295)。特徴Pが特徴Qに類似するとは、特徴Pを構成するすべてのパラメータが特徴Qを構成するすべてのパラメータに含まれている場合をいう。この具体例では、特徴Pを構成するパラメータにはSP が含まれているが、特徴Qを構成するパラメータには当該パラメータSP は含まれていないので、特徴Pは特徴Qに類似しない。よってこの具体例の場合、ステップS295の処理はNOである。
【0103】ステップS295において、もし特徴Pが特徴Qに類似する場合(たとえば、特徴Pを構成するパラメータはVn 、Vs およびDs であり、特徴Qを構成するパラメータはVn 、Vs およびDs であるかまたはこれに加えてその他のパラメータが含まれている場合)には、処理はステップS296へ進む。ステップS296では、その類C5の優先度にフラグが付けられる。このフラグ付けは、後述するステップS298において、類の優先度を更新する場合に、優先度を更新すべき類であることを表示するために付されるものである。
【0104】次いで、処理をすべき類が他にあるか否かの判別がされる(ステップS297)。処理をすべき類は、類C5の他に、類C6およびC7があるから、類C6およびC7に対して、それぞれ、ステップS294からの処理が順に行われる。なお、この具体例では、類C6にもC7にも、それぞれ、単一の事例しか属していないので、これら類C6,C7の特徴は抽出できないから、これら類C6,C7の優先度にフラグが付されるわけではない。
【0105】ステップS297において他に類がなくなった場合には、ステップS298へ進み、フラグ付けされた類の優先度が上がるように、その類が属する故障症状および故障に含まれる類の優先度が更新される。この具体例では、類C5の優先度にはフラグが付けられていない(ステップS295でNOへ進んだから。)ので、表9に示すように、類C5と類C6との優先度は変わらない。しかし、もし、ステップS296において類C5の優先度にフラグ付けがされたとすれば、ステップS298においては、類C5の優先度が「1」にされ、それに伴って、残りの類C6の優先度は「1」から「2」に下げられることになる。
【0106】さて、図14のステップS26に戻って、作業が実行されても、その作業に記載の後件部状況が得られなかった場合は、作業失敗と判別され(ステップS26でNO)、その事例の「適用失敗数」の欄(たとえば表4参照)の数値が「1」増加するように失敗数が更新される(ステップS30)。そして、次の優先順位の事例の有無が判別され(ステップS31)、次の事例がある場合には(ステップS31でYES)、次の事例に対して、ステップS23からの処理が行われる。
【0107】ステップS31で、次の適用優先順位の事例がなくなった場合には、QMS処理が行われる(ステップS32)。このQMS処理は、後に詳述する副次的影響を考慮した処理であることが好ましい。そして、QMS処理が成功したか否かの判別がされ(ステップS33)、QMS処理が成功したと判別されると(ステップS33でYES)、QMS処理によって得られたデータに基づいて新たな事例が作成される(ステップS34)。この作成された新たな事例に対しては、新たな類が作られ、事例番号が付けられて登録される(ステップS35)。
【0108】表10に新たな事例の登録例を示す。表10において、新たな事例030は、それまでの類C1,C2,C3とは異なる新しい類C10に属するものとして登録されている。
【0109】
【表10】
【0110】さらに、新事例030が属する類の優先度は「1」とされ、最も高い優先度が与えられる。そして、それに伴い、故障症状「画像濃度が低い」で故障「主帯電電圧の不良」に属する他の類の優先度が順次シフトされる。つまり、表10に示すように、類C1の優先度は1から2に、類C2の優先度は3から4に、類C3の優先度は2から3に変えられる(ステップS36)。
【0111】ステップS33において、QMS処理が不成功に終わった場合は、新事例の作成はされず、処理は終了する。さて、図14のステップS24において、適用すべき事例の修復前のパラメータ状況が故障装置のパラメータ状況と完全に一致していない場合には、処理は、図15のステップS37へ進む。
【0112】図15を参照して、ステップS37では、適用すべき事例、この適用すべき事例をたとえば事例001とすれば、表4で示す事例001の「修復作業」の欄に記載された番号「2」の作業が、表8に示す類C1の作業スクリプトから取り出され、指定される。そして、作業2の前件部状況Vn =ローと、表2に示す故障装置のパラメータVn の状況とが比較され、両パラメータ状況の一致または不一致が判別される(ステップS38)。
【0113】この具体例の場合、故障装置のパラメータ状況は指定された作業2の前件部状況と一致しているから、作業2が実行される(ステップS39)。ステップS39における作業の実行後、作業が成功したか否かが判別され(ステップS40)、成功した場合には次の作業の有無が判別される(ステップS41)。ステップS38において、もし、故障装置のパラメータVn がノーマルであったとすれば、作業2の前件部状況であるVn =ローと一致していない。かかる場合、装置のパラメータ状況を作業の前件部状況と一致させるために、ステップS42〜S45で述べる追加処理1が実行される。
【0114】すなわち、処理はステップS42へ進み、表8に示す作業スクリプトにおいて、故障装置のパラメータ状況を作業2の前件部状況に一致させられるような別の作業があるか否かの検索がされる。つまり、この具体例の場合、故障装置のパラメータ値Vn =ノーマルをローにすることができる作業があるか否かが判別される。
【0115】表8を見ると、作業5によって、パラメータVn をノーマルからローにできることがわかる。よって、ステップS43ではYESと判断され、表4で示す事例001の「修復作業」の欄が「2」から「5,2」に仮訂正され、該仮訂正をしたことを表わすために、フラグAがセットされる(ステップS44)。次いで、仮訂正により加えられた作業5が実行され(ステップS45)、該作業5が成功したか否かの判別がされる(ステップS40)。この作業5の実行に成功した場合には(ステップS40でYES)、次の作業の有無が判別される(ステップS41)。この場合、次の作業として作業2が存在するから、処理は再びステップS37へ進み、次の作業2が指定され、その前件部状況と故障装置のパラメータ状況とが比較される。その結果、故障装置のパラメータ状況は、ステップS45における作業5の実行によって、Vn =ローとされたので、作業2の前件部状況と一致している。よって、ステップS38で、YESと判別され、作業2が実行される(ステップS39)。
【0116】ところで、ステップS39またはS45において、前件部操作が実行されてもなお後件部状況が得られなかった場合には、作業は失敗したと判断される(ステップS40)。換言すれば、ある作業を行った結果のパラメータ状況(作業後の故障装置のパラメータ状況)がその作業において設定されているパラメータ状況(後件部状況)にならなかった場合、その作業は失敗と判別される。
【0117】そしてこのときは、以下の図16の流れに沿って説明するような作業失敗の原因を回避するための追加処理2が実行される。すなわち、まず、失敗にかかる適用事例と同じ故障症状および故障に属する全ての事例が検索されるとともに、それら事例のうち、「修復作業」の欄に、失敗にかかる作業番号が記載されている全ての事例が検出される(ステップS51)。
【0118】今、具体例に沿ってわかりやすく説明するために、失敗にかかる適用事例が001とすれば、表3に示すように、その事例と同じ故障症状および故障に属する事例は、002,003,004であり、いずれの事例も、「修復作業」の欄に、事例001の失敗にかかる作業番号2と同じ作業番号2が記載されている(表4、表5、表6および表7参照)。よって、事例002〜004が検出される(ステップS51)。
【0119】そして、失敗にかかる適用事例001および検出された事例002,003,004の修復前のパラメータ状況を比較して、パラメータ状況の共通点が抽出されるとともに、抽出された共通点が表2に示す故障装置のパラメータ状況と比較される(ステップS52)。そしてその結果、各事例における修復前のパラメータ状況の共通点と、故障装置のパラメータ状況との相違点の有無が判別される(ステップS53)。
【0120】表4〜表7に示す事例001〜004と、表2に示す故障装置のパラメータ状況とを比較しても、この具体例の場合そのようなパラメータは見つからない。そこで、今仮に、事例001〜004の修復前のパラメータ状況において、共通してVt =ローであると仮定して、以下の説明をすることにする。そうすると、ステップS53において、事例001〜004の修復前のパラメータ状況における共通点であり、かつ、故障装置のパラメータ状況との差異として、パラメータVt が取り上げられる。すなわち、各事例001〜004の修復前のパラメータ状況においては、共通的にVt =ローであるが、故障装置のパラメータ状況では、Vt =ノーマルである。
【0121】それゆえ、ステップS53ではYESと判別され、パラメータVt =ローが、今回の作業の失敗原因であると仮説され、このパラメータVt をローからノーマルにすることのできる作業が、表8に示す作業スクリプトの中から検索され(ステップS54)、その有無が判別される(ステップS55)。表8の作業スクリプトを見ると、作業3によって、パラメータVt をローからノーマルに変更できることがわかるから、作業有りと判別される(ステップS55でYES)。
【0122】そしてこの場合には、失敗にかかる適用事例001(表4参照)の「修復作業」の欄が仮訂正され、作業番号「2」に先立ち、作業番号「3」が挿入される。また、この仮訂正をしたことを表わすため、フラグBがセットされる(ステップS56)。次いで、作業3が実行される(ステップS57)。そして、作業3が実行された結果、Vt =ノーマルになった場合、作業成功と判別される(ステップS58でYES)。
【0123】この場合において、Vt =ノーマルは、作業2の前件部状況として必須の条件である。よって、表8に示す作業スクリプトの作業2の前件部状況にVt =ノーマルが追加されるよう訂正され、表8の作業スクリプトは、下記の表11に示すように書換えられる(ステップS59)。
【0124】
【表11】
【0125】表11に示す作業スクリプトでは、作業2の前件部状況が「Vn =ロー、(かつ、)Vt =ノーマル」になっている。そして、再び、図15に示すステップS37からの処理が行われる。図16のステップS58において、作業が成功しなかったと判別された場合には、他にパラメータVt をローからノーマルにすることのできる作業が表8に示す作業スクリプトの中にあるか否かが判別され(ステップS60)、作業があればステップS56からの処理が繰返される。
【0126】また、ステップS60で他の作業がないと判別されたとき、または、ステップS53において異なるパラメータがないと判別されたとき、または、ステップS55において作業はないと判別されたとき、あるいはまた図15に示すステップS43において作業がないと判別されたときには、いずれも、ステップS61へ進み、フラグAおよびBがリセットされる。また、この場合、事例適用に失敗したので、事例の「適用失敗数」の欄の数値が「1」増加される(ステップS62)。そして、他の事例、すなわち次の適用優先順位の事例があるか否かが判別される(ステップS63)。
【0127】そして、次の事例がある場合には(ステップS63でYES)、その事例および対応する作業スクリプトがワークレジスタに設定され(ステップS64)、図15に示すステップS37からの処理が行われる。一方、ステップS63において、次の適用優先順位の事例がないと判別された場合には、処理は図14に示すステップS32へと進み、QMS処理が行われる。
【0128】さて、図15に戻って、ステップS41で次の作業がないと判別された後の処理について説明をする。この場合、フラグAまたはBの状態が判別される(ステップS46)。状態判別の結果、フラグAもBもセットされていないと判別される場合とは、それまでの処理において、故障装置のパラメータ状況と選択された作業の前件部状況とが一致しており、その作業を実行した結果作業が成功した場合である。それゆえ、この場合は、ステップS47で、適用した事例、たとえば事例001の「適用成功数」の欄の数値が「1」増加される。そして、類の優先度の操作(その1)が実行される(ステップS48)。このステップS48における類の優先度の操作(その1)は、図14のステップS29において行った操作と全く同じ操作である。それゆえ、ステップS48の操作の具体的な内容については、説明が重複しないよう、ここでは省略する。
【0129】一方、ステップS46において、フラグAまたはBのいずれかがセットされていると判別された場合を考える。フラグAがセットされている場合とは、ステップS42〜S45の追加処理1が行われた場合である。具体的には、事例の「修復作業」の欄に記載の番号の作業を、作業スクリプトから選択して、その作業を行おうとしたけれども、故障装置のパラメータ状況がその作業の前件部状況と一致していないので、その作業を行うことができず、その作業を行う前に、故障装置のパラメータ状況を上記前件部状況と一致させるための別の作業を行ってうまくいった場合である。換言すれば、先に説明した「作業スクリプトの詳細化」という操作を導入し、その詳細化によって事例参照に成功した場合である。
【0130】一方、フラグBがセットされている場合とは、ステップS51〜S59の追加処理2が行われた場合である。具体的には、選択された作業における前件部状況の特定が不十分であったために作業が成功しなかった場合に、その作業の前件部状況を特定するとともに、それに合うように故障装置のパラメータ状況を変化させる作業があり、それら作業を行うことによって故障装置のパラメータ状況と選択された事例の前件部状況との差異がなくなり、作業が成功した場合である。この場合も、広い意味で、「作業スクリプトの詳細化」という操作を導入した結果、詳細化によって事例参照に成功した状況であるといえる。
【0131】それゆえ、フラグAまたはBがセットされている場合とは、「作業スクリプトの詳細化」という操作が導入され、定性的に到達可能な範囲内において、元の事例が修正されて新たな事例が生成されたということを意味している。そして、この生成された新たな事例は、元の事例と同じ類に属すると考えるべきである。この点については、この発明の概要のところでも述べたとおりである。
【0132】そこで、ステップS46においてフラグAまたはBがセットされていると判別された場合には、ステップS49へ進み、生成された新たな事例が元の事例と同じ類に登録され、その後、フラグAおよび/またはBはリセットされる。表12にこの新たな事例が登録された後の事例ベース記憶部17(図7参照)の記憶内容の一例を示す。表12に示すように、類C1に属する事例として、新たに、事例040が登録されている。
【0133】
【表12】
【0134】また、この新事例040の内容を、表13に示す。
【0135】
【表13】
【0136】この表13に示す事例040の前件部状況を事例001の前件部状況(表4参照)と比較すると、パラメータVt =ローである点が、事例001と異なっている。それゆえ、この事例040を適用するにあたっては、まず、パラメータVt をローからノーマルにする必要があるので、この事例040の「修復作業」の欄には「3,2」という作業番号が記載されている。
【0137】そしてその後、類の優先度の操作(その2)が実行され(ステップS50)、処理は終わる。次に、ステップS50における類の優先度の操作(その2)の具体的処理手順につき、図20ならびに表12および表13を参照して説明する。類の優先度の操作(その2)では、まず、現在参照していた事例、たとえば事例001が属する類C1の中に、生成された新事例の事例番号040が登録される(ステップS501)。表12に示すとおり、類C1の事例番号の欄に、「001,002」に加え、「040」が追加される。
【0138】そして、今回の事例適用においては、この新事例040を適用した結果修復処理が成功したので、この新事例040を含む類C1の優先度が最も高められる。すなわち、類C1の優先度の欄は、それまでの「2」から「1」に書換えられる(ステップS502)。また、類C1の優先度を「1」としたことに伴い、この類と同じ「故障」に属する残りの類C2,C3,C10の優先度も、順次シフトされる。その結果、類C2の優先度は「4」のまま、類C3の優先度は「3」のまま、類C10の優先度は「1」から「2」にシフトされる。
【0139】次に、今回新事例が追加登録された類C1に属する各事例(新事例も含む)、この具体例では事例001,002,040という3つの事例における各修復前の状況が照会され、この類C1の特徴P1 が抽出される(ステップS503)。特徴P1 の抽出の仕方は、先に説明した特徴の抽出の仕方と同様である。念のために、具体例を参照しながら説明する。表4に示す事例001、表5に示す事例002および表13に示す事例040の各修復前の状況に記憶されたパラメータ状況を比較する。そして、ノーマルでないパラメータ、すなわちローまたはハイのパラメータを抽出し、抽出されたパラメータのうち事例001,002および040に共通して取り出されたパラメータが、特徴P1 を構成するパラメータとして抽出される。具体的には、パラメータVn 、Vs 、Ds およびOs が特徴P1 を構成するパラメータとして抽出される。そしてこの特徴P1 を構成するパラメータは、表12の類C1の特徴として登録される。
【0140】次いで、今回抽出された特徴P1 は、この類C1の特徴として既に登録されていた特徴Pと一致するか否かの判別がされる。先に登録されていた類C1の特徴Pは、表3に示すように、Vn 、Vs 、Ds 、Os およびSP であり、SP を含んでいる点で、今回抽出された特徴P1 とは一致していない。よってこの具体例の場合は、ステップS504でNOと判別される。
【0141】そして、この場合は、表12に示すように、類C1の特徴は、今回抽出された特徴P1 に書換えられる。つまり、今回抽出された特徴P1 が類C1の特徴として再登録される(ステップS506)。次に、類C1が属する故障症状「画像濃度が低い」と異なる故障症状に属する類の有無が判別される(ステップS506)。この具体例の場合、表12に示すように、異なる故障症状に属する類としては、故障症状「画像かぶり」に属する類C5、C6およびC7が存在する。それゆえ具体例では、ステップS506においてYESと判別される。
【0142】そしてその場合、類C5,C6,C7の各特徴と、上述した類C1の特徴P1 とが順次比較される。具体的には、まず、類C5の特徴Qが検出される(ステップS507)。この特徴Qは、表12に示すとおり、パラメータVn 、Vs 、Ds およびOs がノーマルでないという内容である。
【0143】次いで、類C1の特徴P1 と類C5の特徴Qとが比較され、特徴Pは特徴Qに類似するか否かの判別がされる(ステップS508)。この具体例では、表12に示すように、特徴P1 はパラメータVn、Vs 、Ds およびOs で構成されており、特徴QはパラメータVn 、Vs 、Ds およびOs で構成されている。よって、P1 =Qである。したがって、特徴P1 は特徴Qに類似する。よって、類C5の優先度にフラグ付けがされる(ステップS509)。
【0144】次いで、処理をすべき類が他にあるか否かの判別がされる(ステップS510)。処理をすべき類は、類C5の他に、C6,C7があるので、これらが順次、ステップS507〜S510のステップに従って処理される。なお、類C6およびC7には、いずれも、1つの事例しか属していないので、これら類の特徴はないから、これら類C6,C7の優先度にフラグが付されるわけではない。
【0145】次いで、ステップS511において、フラグ付けがされた類C5を含む故障「主帯電電圧の不良」に属する2つの類C5およびC6の優先度が更新される。具体的には、特徴P1 と類似する特徴Qを有する類C5の優先度が最優先され、類C5の優先度は「2」から「1」へ変更される。また、それに伴い、類C6の優先度は「1」から「2」へ変更される。
【0146】このように、今回適用に成功した事例が属する類C1の優先度が上げられると共に、その事例が属する故障症状とは異なる故障症状に属する類において、今回適用に成功した事例と類似する特徴を有する類の優先度が高められる。この結果、「類」の利用による事例検索効率の向上を図ることができる。なぜならば、「類」による事例の分類は、「故障症状」および「故障」による事例の分類、換言すればQMS処理による事例分類の枠組みを越えているので、その枠組みを越えた別の分類方法によって類分けされた事例に対し、共通の特徴を有するものについて事例適用に関する優先順位を繰り上げる。そうすると、実際の機械システムにおいてしばしば発生する、根本原因は同じでありながら発現する故障症状が異なるという現象に効率よく対処することができるのである。
【0147】また、図17を参照して説明した適用すべき事例を決定する処理において、ステップS222で装置のパラメータと事例の修復前のパラメータとを比較し、その結果、ステップS223で、同じ類内でのパラメータ状況の一致度の低い事例を削除していた。図18に示す適用すべき事例を決定する処理においても同様であった。
【0148】しかし、適用すべき事例を決定する処理は、これに限らず、ステップS223で行っている同じ類内でのパラメータ状況の一致度の低い事例を削除するという処理を省略してもよい。つまり、図17または図1818に示す適用すべき事例を決定する処理において、ステップS223の処理を省略してもよい。ステップS223の処理を省略した場合、適用すべき事例には、同じ類に属する複数の事例が含まれている場合がある。それゆえこの場合は、先に適用した事例が失敗する度に、次に適用する事例が先に適用した失敗にかかる事例と同じ類に属するか否かを判別すればよい。具体的には、図14R>4に示すステップS30から後の処理に少し修正を加えるとともに、図16に示すステップS62から後の処理に少し修正を加えればよい。
【0149】図21(A)および(B)に、修正を加える処理の具体例を示す。次に、図21を参照して説明すると、ステップS30において、失敗数が更新された後、その失敗にかかる事例の属する類がバッファメモリ等に記憶される(ステップS100)。そしてその後、次の優先順位の事例の有無が判別される(ステップS31)。そして次の事例がある場合には(ステップS31でYES)、次の事例が失敗に係る事例と同じ類に属するか否かの判別がされる(ステップS101)。次の事例が失敗にかかる事例と同じ類に属しなければ、処理はステップS23(図14)へ進み、次の事例が失敗にかかる事例と同じ類に属する場合は、ステップS31へ戻り、その事例のさらに次の優先順位の事例の有無が判別される。このようにして、事例を適用する直前に、適用する事例が失敗にかかる事例と同じ類に属するか否かが判別され、同じ類に属するなら、その事例の適用は省く。同様に、図21(B)を参照して、ステップS62において失敗数の増加処理がされた後、その失敗にかかる事例の属する類がバッファメモリ等に記憶される(ステップS102)、そして、他の事例、すなわち次の適用優先順位の事例の有無が判別され、次の事例がある場合には(ステップS63でYES)、次の適用優先順位の事例は、ステップS102で記憶された失敗にかかる事例が属する類と同じ類に属するか否かの判別がされる(ステップS103)。次の適用優先順位の事例が失敗にかかる事例の属する類と同じ類に属しなければ、処理はステップS64(図16)へ進む。しかし、次の適用優先順位の事例が、失敗にかかる事例が属する類と同じ類に属する場合には、処理は、ステップS63へ戻り、その事例よりもさらに次の適用優先順位の事例があるか否かの判別がされる。この結果、事例を適用する直前に、その事例が、失敗にかかる事例が属する類と同じ類か否かの判別がされ、同じ類であれば、その適用が省略される。
【0150】修復作業の実行にあたって、以上説明した事例の検索および事例の適用という手法を採用することは、上記具体例で説明したような小形普通複写機等の装置に対して特に有効である。なぜならば、小形普通複写機に代表されるような装置は、その構成系中に、制御対象として不安定な要素(たとえば化学的変化を積極的に利用すること等)を有している。それゆえ、構成系が置かれる状態の変化、たとえば環境変化や構造上の劣化等によって、センサのパラメータおよびアクチュエータのパラメータ間の関係が変化する可能性がある。上記具体例の説明における事例の検索は、かかるパラメータ間の変化を装置がランニング中に収集し、それを使った一種の学習を行わせ、知識のチューニングをしているということができるから、上記のパラメータ間の変化が生じても、それに有効に対処した修復作業を行うことができる。つまり、対象機械のパラメータ間の関係が変化した場合、その変化に基づいて事例が修正されて新しい事例が作成され、また、作業スクリプトの内容が修正されているのである。
【0151】(6−8)修復計画の推論次に、14図のステップS32に示すQMS処理の仕方およびその処理における副次的影響の推論について説明をする。故障判別の結果、「画像濃度が低い(Os =ロー)」が故障症状として取上げられたから、修復の目標は、Os を上昇させることである。
【0152】そこで、図10に示す数学モデル上の関係から、Ds を上昇させるか、Vt を上昇させるか、または、ζを上昇させるかによって、修復目標であるOs を上昇させることができると推論される。次に、Ds を上昇させることを目標に推論を行うと、Vs を上昇させるか、Vb を下降させるか、または、γ0 を上昇させるかのいずれかの結論を得る。このように、数学モデルに基づいて、推論が繰返されることにより、修復操作の候補を数学モデル上で得ることができる。得られた結果は、表14に示すとおりである。
【0153】
【表14】
【0154】ところで、数学モデルに基づいて得られた修復候補には、実現できるものと実現できないものとがある。たとえば、D:原稿の光学濃度は変更できないし、β:感光体の感度も変更し難い。
【0155】γ0 :トナーの感度も変更できないし、ζ:用紙の感度も変化不可能である。また、この具体例では、Vb :バイアス電圧も、アクチュエータがないから変化不可能である。もちろん、アクチュエータを追加することにより、Vb は変化可能にすることができる。
【0156】さらに、X:原稿反射光量の対数Vs :露光後のドラムの表面電位Ds :ドラム上でのトナー濃度については、それ自体の変更は不可能で、間接的に他のパラメータを変化させることで変化させられるだけであり、ここでは修復候補から除外する。
【0157】なお、この具体例では直接関係ないが、Asp:分離用AC電圧の振幅も、アクチュエータ追加により、変化させることができる。以上の次第で、この具体例では、修復候補として、Vt :転写電圧Vn :主帯電後の表面電位HL :ハロゲンランプ出力光量の対数がとりあげられる。
【0158】一方、対象モデル記憶部14には、修復計画知識として、次の知識が予め記憶されている。すなわち、(a)Vt を上昇させる→転写トランスのコントロール電圧を上げる(b)Vt を下降させる→転写トランスのコントロール電圧を下げる(c)Vn を上昇させる→主帯電トランスのコントロール電圧を上げる(d)Vn を下降させる→主帯電トランスのコントロール電圧を下げる(e)HL を上昇させる→ハロゲンランプコントロール信号を高電圧側にシフトする(f)HL を下降させる→ハロゲンランプコントロール信号を低電圧側にシフトする。
である。この対象モデル記憶部14に記憶された修復計画知識は、この装置に特有の特徴データである。該修復計画知識を数学モデルに基づいて得られた修復候補に適用することにより、Os を上昇させるための修復操作として、(a)Vt を上昇させる→転写トランスのコントロール電圧を上げる(c)Vn を上昇させる→帯電トランスのコントロール電圧を上げる(f)HL を下降させる→ハロゲンランプコントロール信号を低電圧側にシフトするの3方法が得られる。
【0159】画像濃度OS を単に上昇させるだけであれば、これら3方法のうちのいずれの方法を実行しても、修復が可能である。しかしながら、対象機械は、画像濃度OS を上昇させることにより、種々の副次的な影響を受けることが考えられる。そこで、この実施例では、以下に説明するように、副次的な影響の推論を、数学モデルに基づいて行っている。
【0160】(6−9)副次的影響の推論修復計画の推論において導かれた3つの修復計画を数学モデル上に展開すると、図22ないし図27が得られる。つまり、(a)Vt を上昇させた場合が図22および図23(図23はD=0とした場合のOs ’が数学モデル上で表わされている)、(c)Vn を上昇させた場合は、図24および図25(図25はD=0とした場合のOs ’が数学モデル上で表わされている)、(f)HL を下降させた場合は図26および図27(図27はD=0とした場合のOs ’が数学モデル上で表わされている)となる。
【0161】そして、数学モデルに基づいて機能評価を行うと、次の状態が推論される。すなわち、(1)Vt を上昇させた場合(図22、図23)
(a)出力画像濃度が上昇する。
(b)D=0のとき、Os ’>ノーマルの場合がある。つまり、かぶりが発生する可能性がある。
【0162】(c)Sp >ノーマルとなり、分離不良が発生する可能性がある。
(2)Vnを上昇させた場合(図24、図25)
(a)出力画像濃度が上昇する。
(b)D=0のとき、Os ’>ノーマルとなり、かぶりが発生する可能性がある。
(3)HLを下降させた場合(図26、図27)
(a)出力画像濃度が上昇するだけで、他の副次的な影響はない。
【0163】よって、修復計画部15では、副次的な影響の最も少ない修復計画、すなわちHLを下降させるという修復計画が選択される。この修復計画は、故障診断で得られた故障を解消するための操作と一致している。つまり、見方を変えると、故障診断における故障の推論は、装置が故障したときの現実の状態を数学モデル上でトレースし、装置が故障したときの各構成要素の状態を把握することによって、故障を推定していたのに対し、修復計画の推定では、装置が故障状態ではなく、装置が正常であるという前提に立って、数学モデル上で装置の状態をトレースし、それに基づいて修復計画を推論している。そして、上述の具体例では、故障診断における推論でも、修復計画における推論でも、結果として同じ故障および修復計画が得られたわけである。
【0164】しかし、場合によっては、故障診断の推論が故障状態の装置を前提にしているのに対し、修復計画の推論は正常状態の装置を前提にしているため、両者によって得られる結果が異なることがある。かかる場合は、故障診断の推論過程で得られる結論と矛盾しないものだけを修復計画の推論の際に選択するようにすれば、修復計画の推論処理をより短時間で行える。
【0165】上述の場合において、もしHLを下降させるという修復計画が選択できない場合、たとえばハロゲンランプコントロール信号を低電圧側にシフトするためのAVRのボリュームが既に下限であった場合には、次に副次的影響の少ない(2)のVnを上昇させるという修復計画が選択される。しかしながら、Vnを上昇させるという修復計画が選択された場合には、かぶり発生の可能性という副次的影響が予測されているので、図25の数学モデルにおいて、Os ’を下降させるためにはいずれのパラメータを操作すればよいかが図25の数学モデルに基づいて検討され、かつ、修復計画知識に基づいて操作が選択される。その結果、HL を上昇させるか、Vn を下降させるか、Vt を下降させるかが選ばれ、かぶり発生を防止することを含めた修復計画が行われる。
【0166】つまり、図28に示すように、副次的影響を仮定して、修復操作の推論を展開する。図28に示されるような修復操作の推論展開においては、(a)数学モデル上で以前の修復計画と矛盾する枝は選択しない(b)最も副次的影響の少ないものを選択する(c)ループを形成したものはその時点で展開を止めるという知識に基づいた展開が行われる。
【0167】図28では、結局、(1)Vn↑→HL↑→Vn↑のループ、および(2)Vn↑→Vt↓→Vn↑のループ、の2つの修復計画が残る。今、(1)のループが修復計画として行われた場合において、画像濃度が適正な濃度、すなわちOsがノーマルになったとする。かかる場合、VnおよびHL は上昇されているから、画像濃度Osがノーマルに戻った修復前の状態において、センサ1bによって測定される表面電位の値は、最初に測定される値に比べてかなり高いものに変化しているはずである。しかしながら、修復作業が成功したわけであるから、修復後のパラメータVsの状態はノーマルにシンボル化されなければならない。よって、かかる場合、修復が終了した時点で、センサ1bによって測定される測定値に基づき、図11示すパラメータVsのシンボル化のための基準データが変更され、たとえば図29に示すデータに書換えられる。このように、基準データの更新が、修復作業終了後に必要に応じてなされる。
【0168】この実施例において、図28における前述した(1)のループが行われる場合、具体的には、主帯電ボリュームVR1が操作されて感光体ドラム21の表面電位が上昇され、それによって得られるコピーにかぶれが発生すると、ランプボリュームAVRが操作されてハロゲンランプの光量が増加され、コピーの画像濃度が薄められる。
【0169】そして、主帯電ボリュームVR1およびランプボリュームAVRを交互に適宜上昇させながら、画像濃度が正常になったとき、すなわちパラメータOsがノーマルになったことがセンサ1cである濃度計の検出出力から得られたとき、修復処理は終了される。さらに、上記2つの修復計画が実行不可能な場合は、さらに、上述した(3)のVtを上昇させるという修復計画が選択され、その副次的影響であるかぶり発生と、分離不良の2つを仮定した故障診断が行われ、修復計画が選択される。
【0170】そして、選択された修復計画が行われ、ループ処理の場合には、ループ上にあるパラメータの操作が限度に達した時点で失敗と判断される。また、この実施例の場合は、具体例でも説明したように、Osがノーマルになった時点で修復終了が判別され、その状態で修復は停止される。上述した副次的影響の推論においては、修復計画の推論において導かれた3つの修復計画を順次数学モデル上に展開し、3つの修復計画のそれぞれについて、まとめて、副次的影響が推論されている。このような副次的影響の推論の仕方に代え、次のような処理を行ってもよい。
【0171】すなわち、修復計画の推論において、たとえば3つの修復計画が導き出されたとする。その場合、3つの中から1つの修復計画だけをとりあげ、該修復計画に基づいてアクチュエータ手段を作動された場合に生じるかもしれない副次的な影響をシミュレートし、シミュレートされた副次的な影響は、修復計画によって選択されたアクチュエータ手段以外のアクチュエータ手段を作動させることによって除去できるか否かを判別する。そして、副次的な影響は除去できると判別されたときには、修復計画によって選択されたアクチュエータを実際に作動させ、修復を実行するとともに、副次的な影響を他のアクチュエータ手段を作動させることによって除去するのである。
【0172】この結果、修復計画で導き出された他の2つの計画に基づく副次的影響のシミュレートはする必要がなく、全体として、修復操作時間を短縮できる。上述の場合において、もし、第1番目に選択した修復計画について、副次的な影響をシミュレートし、シミュレートされた副次的な影響が他のアクチュエータ手段を作動させることによって除去できないと判別された場合、その第1番目の修復計画は断念して、次に第2番目の修復計画をとりあげ、該2番目の修復計画に基づいて選択されたアクチュエータ手段を作動させた場合に生じるかもしれない副次的な影響をシミュレートし、シミュレートされた副次的な影響は、そのアクチュエータ手段以外のアクチュエータ手段を作動させることによって除去できるか否かを判別し、副次的な影響が除去できるときには、該第2番目の修復計画に基づく修復作業を行う。
【0173】このように、修復計画の推論において導かれた複数の修復計画のうち、或る1つ目の修復計画を取出し、その場合の副次的な影響を推論し、副次的な影響が除去できる場合には、直ちにその1つ目の修復計画に基づく修復を実行するようにするのである。そして、もしその修復計画では、副次的な影響が大きすぎる場合には、それを断念し、次の修復計画を選び、その場合の副次的な影響をシミュレートするのである。
【0174】かかる場合、修復計画の推論において導かれた複数の修復計画のうち、いずれの修復計画をまず選択するかについては、たとえば、故障診断において得られた故障原因を参酌して選択するのが好ましい。以上の実施例では、アクチュエータのパラメータ数が少ないため、修復自体がかなりの制限を受けているが、アクチュエータのパラメータ数を増やすことによってさらに修復の柔軟性および可能性を向上させることができる。
【0175】以上説明した具体例において、いずれかの修復作業が成功した場合には、成功した後の装置の状態が正常な状態であると判定されるわけであるから、各センサから与えられるディジタルデータ値によって各パラメータの基準値データ(図11に示す基準値)が更新され、新たな基準値データに基づいてパラメータがシンボル化されるようにするのが好ましい。
【0176】(6−10)その他また、上述の具体例では、各アクチュエータの作動範囲については特に触れなかったが、対象モデル記憶部14に記憶されている装置に特有の特徴データの中に、アクチュエータの作動範囲を設定する作動範囲データを含ませておけば、アクチュエータの出力状態が記憶されている作動範囲内のときはアクチュエータ操作可能と判別でき、アクチュエータの出力状態が記憶されている作動範囲の上限または下限に達した場合に、アクチュエータ操作不能と判定して、修復作業の正否判定に利用することができる。
【0177】さらに、上述の具体例では、センサ出力が変化したことに基づいて、自動的に自己診断を行い、自己修復を行うシステムをとりあげたが、画像形成装置に自己診断モードの設定キー等を設け、該自己診断モード設定キーが操作された場合にのみ、自己診断および/または自己修復が行われるようにしてもよい。
【0178】
【0179】またこの発明においては、修復計画の推論をする際に、アクチュエータの調整範囲を考慮して、実際に調整可能なアクチュエータだけを選択するようにしてもよい。より具体的に説明すると、アクチュエータがたとえばAVRの場合、AVRの下限値を「0」、上限値を「100」とし、AVRの設定状態が0〜100のいずれかの整数値で検出できるような構成にする。また、対象モデル記憶部14にAVRの下限値「0」および上限値「100」を設定しておく。したがって、AVRが調整されて或る状態になったとき、AVRの調整状態は、その調整状態に対応した0〜100のいずれかの整数値データとして把握される。
【0180】修復計画部15では、AVRの調整状態に応じて得られる0〜100のいずれかの整数値データにより、AVRの調整状態を把握し、AVRを故障修復用のアクチュエータとして選択できるか否かを判別する。つまり、対象モデル記憶部14に記憶されたAVRの下限値および上限値と現在の調整状態値とが比較され、AVRはさらに下限方向に、または上限方向に作動させることができるか否かが判別されるのである。
【0181】よって、複数個の各アクチュエータに対し、またはその中の任意のアクチュエータに対し、このような構成を採用することにより、修復計画の推論結果が、実際に作動させることのできるアクチュエータ手段の組合わせとして出力され、実用的な修復計画の推論ができるという利点がある。なお、作動範囲の設定の仕方は、上述の説明は一例であり、他の方法で作動範囲を設定し、実際のアクチュエータの状態と比較してもよい。
【0182】また、修復計画部15において、設定されたアクチュエータの調整可能範囲と実際の調整値とを比較するのみでなく、故障診断部12において、故障診断を行う際に、設定されたアクチュエータの調整可能範囲と実際の調整値とを比較し、それを参照するようにしてもよい。さらにまた、この発明の実施例にかかる画像形成装置においては、自己診断モード設定手段として、たとえばマニュアル操作される自己診断モード設定キーまたはスイッチを設けておき、該自己診断モード設定キーまたはスイッチが操作されたときにのみ、上述した自己診断または自己診断および自己修復を行うようにすることができる。
【0183】自己診断モード設定キーまたはスイッチの配置位置は、任意の場所でよいが、好ましくは、通常の画像形成のための操作キー等とは異なる位置、たとえば画像形成装置に備えられている前面パネルを開いた状態で操作できる装置内部等に設けるのがよいであろう。
【0184】
【発明の効果】この発明によれば、画像形成装置に故障が生じたか否かが判別され、故障が生じているときは、その故障症状、故障原因および装置の状態が推論される。そして、推論結果に基づいて、予め記憶されている複数の事例が検索され、故障修復に最も適した事例が検出され、事例に基づいた故障修復処理が行われる。
【0185】事例に基づく故障修復処理では、画像形成装置に生じた故障に対応して複数の事例が選択されると、適用順位が決定される。適用順位付けは、故障と事例との対応度の大小に応じてなされ、対応度の等しい事例間は、適用優先度の高い類の事例が優先される。そして適用順位の若い順位に事例を適用して修復作業を行う。この場合に、同じ類に属する事例が複数ある場合、適用順位の若い事例が適用され、その結果故障修復が成功しなかった場合には、その類に属する他の事例は適用されないので、修復作業が失敗する蓋然性の高い事例の適用を省くことができ、事例選択に関する成功率を向上させることができる。そして、より迅速な自己修復作業が行える。
【0186】また、事例の適用結果に応じて、その事例が属する類の適用優先度が更新される。実際の機械システムにおいては、前回の故障に関連して次の故障が生じることが多いことが経験的にわかっている。そこで、事例適用に関する優先度を上述のように更新することにより、生じ得る故障に対し、適切な事例を優先して選択し続けることができる。
【0187】また、この発明によれば、故障原因は、画像形成装置に共通の定性データに基づいてなされるので、明示的に記述されていない未知の故障をも扱うことのできる自己診断修復システムを有する画像形成装置とすることができる。さらに、この発明にかかる自己診断修復システムは、或る特定の画像形成装置に対してではなく、多くの機種の画像形成装置に対して共通的に適用することができ、結果的に安価な自己診断および自己修復システムを有する画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明における「作業スクリプトの詳細化」を説明するための図である。
【図2】先願発明にかかる事例ベース修復計画システムにおける事例の分類の仕方を説明するための図解図である。
【図3】この発明にかかる事例ベース修復計画システムにおける事例の分類の仕方を説明するための図解図である。
【図4】事例の分類に「類」の概念を導入した場合における類分けの仕方を説明するための図である。
【図5】類分けされた事例と作業スクリプトの関係を表わす図解図である。
【図6】互いに異なる故障症状に属する事例集合Aが事例集合Bに類似するための用件を説明するための図解図である。
【図7】この発明の一実施例のシステム構成を示すブロック図である。
【図8】図7に示すシステム制御回路の処理動作の概要を表わすフローチャートである。
【図9】この発明の一実施例にかかる小型の普通紙用の複写機の概略構成と、その複写機に備えられた3つのセンサを説明するための図である。
【図10】この発明の一実施例にかかる複写機の数学モデルを表わす図である。
【図11】この発明の一実施例にかかる複写機において、各パラメータをシンボル化する場合に必要な各パラメータの基準値データを表わす図である。
【図12】上述した数学モデル上における故障診断のための展開を表わす図である。
【図13】上述した数学モデル上における故障診断のための展開を表わす図である。
【図14】この発明の一実施例における事例を適用した修復作業の処理の一部を表わすフローチャートである。
【図15】この発明の一実施例における事例を適用した修復作業の処理の一部を表わすフローチャートである。
【図16】この発明の一実施例における事例を適用した修復作業の処理の一部を表わすフローチャートである。
【図17】この発明の一実施例における適用すべき「事例を決定するための処理」の一例を表わすフローチャートである。
【図18】この発明の一実施例における適用すべき「事例を決定するための処理」の他の例を表わすフローチャートである。
【図19】この発明の一実施例における「類の優先度の操作(その1)」の処理を表わすフローチャートである。
【図20】この発明の一実施例における「類の優先度の操作(その2)」の処理を表わすフローチャートである。
【図21】この発明の一実施例において、類ごとに適用する事例を1つだけにするための他の制御を説明する部分的なフローチャートである。
【図22】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図23】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図24】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図25】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図26】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図27】上述の数学モデル上における副次的影響推論のための展開を表わす図である。
【図28】この発明の一実施例において、修復計画を選択する場合の操作を表わす図である。
【図29】この発明の一実施例において、修復計画を選択する操作を行った結果、図11に示す基準値データを更新した場合の更新後の基準値データを表わす図である。
【符号の説明】
1a,1b,1c センサ
6a,6b,6c アクチュエータ
10 システム制御回路
11 ディジタル信号/シンボル変換部
12 故障診断部
13 故障シミュレーション部
14 対象モデル記憶部
15 修復計画部
16 シンボル/ディジタル信号変換部
17 事例ベース記憶部
18 作業スクリプト記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】画像形成装置の故障を修復するための作業を記載した事例を、類に分けて記憶する事例記憶手段と、各類の故障修復への適用優先度を記憶する優先度記憶手段と、画像形成装置に故障が生じたとき、生じた故障に対応した事例を選択し、選択した事例が複数ある場合には、生じた故障と事例との対応度の大小によって適用順位を決め、対応度の等しいものがあるときは、適用優先度の高い類に属する事例を優先するように適用順位を決める適用順位決定手段と、適用順位決定手段で決定された順位に従って、事例を故障修復に適用する手段と、事例を適用して故障修復をした結果、失敗したときは、その事例が属する類を記憶しておき、その後に故障修復に適用する事例が、失敗にかかる事例と同じ類に属する場合には、その事例の適用を省略する手段と、事例の適用結果に応じて、優先度記憶手段に記憶されているその事例が属する類の適用優先度を更新する手段と、を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】画像形成装置の故障を修復するための作業を記載した事例を、類に分けて記憶する事例記憶手段と、各類の故障修復への適用優先度を記憶する優先度記憶手段と、画像形成装置に故障が生じたとき、生じた故障に対応した事例を選択し、選択した事例が複数ある場合には、生じた故障と事例との対応度の大小によって適用順位を決め、対応度の等しいものがあるときは、適用優先度の高い類に属する事例を優先するように適用順位を決める適用順位決定手段と、適用順位決定手段で決定された順位に従って、事例を故障修復に適用する手段と、事例を適用して故障修復をした結果、失敗したときは、その事例が属する類を記憶しておき、その後に故障修復に適用する事例が、失敗にかかる事例と同じ類に属する場合には、その事例の適用を省略する手段と、事例の適用結果に応じて、優先度記憶手段に記憶されているその事例が属する類の適用優先度を更新する手段と、を有することを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図29】
【図6】
【図9】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図29】
【図6】
【図9】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【特許番号】第2693314号
【登録日】平成9年(1997)9月5日
【発行日】平成9年(1997)12月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−251062
【出願日】平成3年(1991)9月30日
【公開番号】特開平5−88457
【公開日】平成5年(1993)4月9日
【出願人】(000006150)三田工業株式会社 (13,173)
【参考文献】
【文献】特開 昭58−66967(JP,A)
【文献】特開 昭58−94012(JP,A)
【文献】特開 昭58−221856(JP,A)
【文献】特開 昭62−35916(JP,A)
【文献】特開 昭63−233655(JP,A)
【文献】特開 平3−27058(JP,A)
【文献】特開 平3−7963(JP,A)
【文献】特開 昭62−52601(JP,A)
【文献】特開 平1−219697(JP,A)
【文献】特開 平1−169611(JP,A)
【文献】特開 昭62−23328(JP,A)
【文献】特開 平1−278865(JP,A)
【文献】特開 平1−291918(JP,A)
【文献】特開 平2−235074(JP,A)
【文献】特開 平2−302828(JP,A)
【文献】特開 平4−74224(JP,A)
【文献】特開 平2−113262(JP,A)
【文献】特開 昭63−70268(JP,A)
【文献】特開 平4−130330(JP,A)
【登録日】平成9年(1997)9月5日
【発行日】平成9年(1997)12月24日
【国際特許分類】
【出願日】平成3年(1991)9月30日
【公開番号】特開平5−88457
【公開日】平成5年(1993)4月9日
【出願人】(000006150)三田工業株式会社 (13,173)
【参考文献】
【文献】特開 昭58−66967(JP,A)
【文献】特開 昭58−94012(JP,A)
【文献】特開 昭58−221856(JP,A)
【文献】特開 昭62−35916(JP,A)
【文献】特開 昭63−233655(JP,A)
【文献】特開 平3−27058(JP,A)
【文献】特開 平3−7963(JP,A)
【文献】特開 昭62−52601(JP,A)
【文献】特開 平1−219697(JP,A)
【文献】特開 平1−169611(JP,A)
【文献】特開 昭62−23328(JP,A)
【文献】特開 平1−278865(JP,A)
【文献】特開 平1−291918(JP,A)
【文献】特開 平2−235074(JP,A)
【文献】特開 平2−302828(JP,A)
【文献】特開 平4−74224(JP,A)
【文献】特開 平2−113262(JP,A)
【文献】特開 昭63−70268(JP,A)
【文献】特開 平4−130330(JP,A)
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