説明

自己免疫性皮膚炎発現マウス

【課題】本発明の目的は、主として、新規な自己免疫性皮膚炎発現マウス、及び当該マウスを用いた自己免疫性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、BALB/c系マウス(好ましくは、BALB/c−aly/alyマウス)由来の単核球を免疫不全マウスに移植することにより得られる、自己免疫性皮膚炎発現マウス、及び当該マウスに被験物質を投与し、当該被験物質による、自己免疫性皮膚炎の治療効果を調べることを含む、自己免疫性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な自己免疫性皮膚炎発現マウスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自己免疫性皮膚炎の病態は、複数の因子により形成されることが知られている。例えば、STAT3(signal transducers and activators of transcription 3)、IKK2(IκB kinase 2)が病態の形成に関与していることが報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2を参照)。
【0003】
これまでにも自己免疫性皮膚炎を発現するマウスが報告されている。例えば、特定の遺伝子発現を人為的に操作することにより自己免疫性皮膚炎を発現するマウス、特定の細胞集団を免疫不全マウスに移植することにより自己免疫性皮膚炎を発現するマウスが報告されている。
具体的には、特定の遺伝子発現を人為的に操作することにより自己免疫性皮膚炎を発現するマウスとしては、角化細胞特異的にSTAT3を発現するトランスジェニックマウス、上皮細胞特異的にIKK2をノックアウトしたマウスが報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2を参照)。また、特定の細胞集団を免疫不全マウスに移植することにより自己免疫性皮膚炎を発現するマウスとしては、minor MHC(major histocompatibility complex:主要組織適合性抗原)が不適合なマウスのCD4(+)CD45RBhighTリンパ球をC.B−17/Icr−scid/scidマウスに移植したマウス、インターフェロン−γをノックアウトしたBALB/cマウスのCD4(+)CD45RBhighTリンパ球をC.B−17/Icr−scid/scidマウスに移植したマウスが報告されている(例えば、非特許文献3、非特許文献4を参照)。
【0004】
しかしながら、上述したように自己免疫性皮膚炎は複数の因子により病態が形成されるものであるため、特定の遺伝子発現を人為的に操作した病態発現マウスが発症する自己免疫性皮膚炎が、ヒト等での自己免疫性皮膚炎を正確に反映しているか否かは不明である。また、上述したCD4(+)CD45RBhighTリンパ球を免疫不全マウスに移植したマウスは、重篤な慢性炎症性腸炎を発症するために移植後の生存期間は短い。
【0005】
【非特許文献1】Sigetoshi Sanoら、“Nature Medicine”、2005年、11巻、p.43−49
【非特許文献2】Athanasios Stratisら、“Journal of Clinical Investigation”、2006年、116巻、p.2094−2104
【非特許文献3】Michael P.Schonら、“Nature Medicine”、1997年、3巻、p.183−188
【非特許文献4】Kenneth Hongら、“The Journal of Immunology”、1999年、162巻、p.7480−7491
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、主として、新規な自己免疫性皮膚炎発現マウス、及び当該マウスを用いた自己免疫性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、例えば、下記1、2に記載の発明を見出し、本発明を完成した。
1.BALB/c系マウス由来の単核球を免疫不全マウスに移植することにより得られる自己免疫性皮膚炎発現マウス(以下、「本発明マウス」という)。
2.上記1のマウスに被験物質を投与し、当該被験物質による、自己免疫性皮膚炎の治療効果を調べることを含む、自己免疫性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法(以下、「本発明スクリーニング方法」という)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
I.本発明マウス
【0009】
本発明における「自己免疫性皮膚炎」は、主にTヘルパー1(以下、「Th1」という)型の炎症性細胞が病態の形成に関与する皮膚炎を意味する。自己免疫性皮膚炎としては、例えば、乾癬、急性皮膚炎、慢性皮膚炎、扁平苔癬又は菌状息肉症を挙げることができる。
【0010】
Th1型の炎症性細胞としては、例えば、単球、マクロファージ、好中球、リンパ球を挙げることができる。
【0011】
本発明マウスの作成に用い得る「BALB/c系マウス」としては、特に制限されず、例えば、BALB/c−aly/alyマウス、BALB/cA系の各亜系マウス、BALB/cB系の各亜系マウス及びBALB/cCrマウスを挙げることができる。それらの中で、特にBALB/c−aly/alyマウスが好ましい。なお、BALB/c−aly/alyマウスは、日本新薬株式会社より入手することが可能である。また、平成19年4月からは、日本クレア株式会社から販売される予定であるから、そこから入手することも可能である。
【0012】
本発明マウスの作成に用い得る「単核球」としては、BALB/c系マウス由来の単核球であれば特に制限されず、例えば、CD25(−)単核球、CD4(+)CD25(−)単核球及びCD11b(−)CD25(−)単核球を挙げることができる。それらの中で、特にCD4(+)CD25(−)単核球及びCD11b(−)CD25(−)単核球が好ましい。
【0013】
上記「単核球」の調製方法としては、特に制限されず、例えば、BALB/c系マウスの脾臓、骨髄、リンパ節、末梢血又は胸腺を用いて、常法により調製することができる。
【0014】
CD25(−)単核球又はCD11b(−)CD25(−)単核球は、例えば、BALB/c系マウスの脾臓より調製した単核球より、蛍光標識した抗マウスCD11b抗体及び/又は抗マウスCD25抗体を用いて、常法により調製することができる。
【0015】
CD4(+)CD25(−)単核球は、例えば、BALB/c系マウスの脾臓より調製した単核球より、市販のキットを用いて、CD4(+)CD25(+)単核球を除去することにより調製することができる。
【0016】
本発明マウスの作成に用い得る「免疫不全マウス」としては、特に制限されず、例えば、市販されている免疫不全マウスや、特許文献又は非特許文献で報告されている免疫不全マウスを挙げることができる。市販されている免疫不全マウスとしては、例えば、C.B−17/Icr−scid/scidマウス、BALB/c−Rag2−/−マウス、BALB/c−Rag2−/−Il2−/−マウス、NOD.CB17−scid/scidマウス、NOD.CB17−scid/scid Rag1−/−マウス、NOD.CB17−scid/scid Rag1−/−Il2−/−マウス、NOD.CB17−scid/scid B2m−/−マウス、NOD.CB17−scid/scid Tg(HLA−A2)マウス、AF−nu/nuマウス、Crlj:CD1−Foxn1nuマウス、CAnN.Cg−Foxn1nuマウス、BALB/cA−nu/nuマウス、F344N−rnu/rnuマウス、CTS/Shiマウス及びKSNマウスを挙げることができる。それらの中で、特にC.B−17/Icr−scid/scidマウスが好ましい。
【0017】
単核球の移植方法としては、特に制限されず、例えば、尾静脈、腹腔又は皮下より投与する方法を挙げることができる。それらの中で、特に尾静脈より投与する方法が好ましい。
【0018】
免疫不全マウスに移植する単核球の細胞数としては、移植する単核球の性質や免疫不全マウスの種類、性別、週齢等により異なるが、例えば、1×10個〜1×10個の範囲内が適当であり、5×10個〜1×10個の範囲内が好ましく、1×10個〜5×10個の範囲内がより好ましい。
【0019】
本発明マウスの飼育条件は、例えば、SPF(Specific Pathogen Free)条件下で飼育することができる。
【0020】
本発明マウスは、下記(1)〜(3)の特徴を有する:
(1)自己免疫性皮膚炎を自然発症すること、
(2)皮膚炎発症後6ヶ月以上生存すること、
(3)病変が皮膚に限局すること。
【0021】
また、本発明マウスは、上記(1)〜(3)の特徴に加えて、下記(1)〜(8)の特徴を有していることが好ましい:
(1)病変部位の表皮が肥厚(Acanthosis)すること、
(2)病変部位の角化細胞が分化異常(Parakeratosis)、過増殖(Hyperkeratosis)を起こすこと、
(3)病変部位にTh1型の炎症性細胞が浸潤すること、
(4)病変部位のTh1型サイトカインの産生量が、非病変部位の産生量の5倍以上であること、
(5)病変部位において、Th1型サイトカインの産生量が、Tヘルパー2(以下、「Th2」という)型サイトカインの産生量の10倍以上であること、
(6)病変部位のインターロイキン(以下、「IL」という)−23の産生量が、非病変部位の産生量の5倍以上であること、
(7)病変部位の活性型STAT3の活性が、非病変部位の活性の3倍以上であること、
(8)非病変部位において、過剰創傷治癒現象(Koebner Phenomena)が生じること。
【0022】
上記「自然発症する」とは、特定の遺伝子発現を人為的に操作することなく、SPF環境下で自然に症状が生じることをいう。
【0023】
Th1型のサイトカインとしては、例えば、インターフェロン(以下、「IFN」という)−γ、IL−2及びTNF−βを挙げることができる。
【0024】
Th2型のサイトカインとしては、例えば、IL−4、IL−5、IL−6、IL−9、IL−10及びIL−13を挙げることができる。
【0025】
上記「過剰創傷治癒現象」とは、皮膚炎を発症している動物の非病変部位に物理的、化学的、生物的な刺激(例えば、擦過、紫外線、薬剤、のみ、ダニ)が加わることによりその部位が病変化する現象をいう。なお、角化細胞に活性型STAT3を過剰発現させることにより、過剰創傷治癒現象が生じることが報告されている(例えば、Sigetoshi Sanoら、“Nature Medicine”、2005年、11巻、p.43−49を参照)。
【0026】
病変部位でのTh1型サイトカインの産生量は、非病変部位の産生量の5倍以上であることが適当であり、10倍以上であることが好ましく、40倍以上であることがより好ましい。
【0027】
病変部位のTh1型サイトカインの産生量は、病変部位のTh2型サイトカインの産生量の10倍以上であることが適当であり、50倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがより好ましい。
【0028】
病変部位のIL−23の産生量は、非病変部位の産生量の5倍以上であることが適当であり、10倍以上であることが好ましく、20倍以上であることがより好ましい。
【0029】
病変部位の活性型STAT3の活性は、非病変部位の活性の3倍以上であることが適当であり、5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましい。
【0030】
II.本発明スクリーニング方法
【0031】
本発明スクリーニング方法における「被験物質の投与方法」は、適宜選択することができる。例えば、静脈、経口、経皮、皮内、皮下、筋肉、髄腔、腹腔又は気道から被験物質を投与することができる。また、投与回数も適宜選択することができる。例えば、単回、反復又は持続的に投与することができる。
【0032】
本発明スクリーニング方法における「治療効果を調べる方法」としては、例えば、肉眼により皮膚炎の症状を観察する方法、病変部位の組織切片を観察する方法、病変部位における角化細胞が産生する因子を測定する方法、病変部位におけるTリンパ球が産生する因子を測定する方法、病変部位における単球系細胞(例えば、単球、マクロファージ、樹状細胞)が産生する因子を測定する方法を挙げることができる。
【実施例】
【0033】
以下に、調製例、実施例、比較例及び試験例を掲げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に示される範囲に限定されるものではない。
【0034】
調製例1 BALB/c−aly/alyマウス由来の単核球懸濁液の調製
皮膚炎を発症したBALB/c−aly/alyマウス(18〜25週齢、雌)(日本新薬社製)を頚椎脱臼法により安楽死させた後、脾臓を採取した。採取した脾臓を、血清を含まないRPMI1640培地(Invitrogen社製)(以下、「無血清培地」という)1mLを入れたシャーレに入れ、氷上にて2枚のスライドガラスで挟み、穏やかにすり潰した。
得られた懸濁液に9mLの無血清培地を加え、格子径100μmのナイロンメッシュを通し、大きな組織片を除去した。得られた懸濁液を800×g、4℃の条件下で10分間遠心した後、沈降した細胞分画を1mLの赤血球溶解液(e−bioscience社製)で懸濁し、氷上で5分間放置し、赤血球を溶血させた。そこに0.5%牛胎仔血清アルブミン(Roche社製)、2mM EDTA・2Na(Ethylenediaminetetraacetic acid disodium salt)を含むリン酸緩衝液(以下、「緩衝液A」という)9mLを加え、格子径40μmのナイロンメッシュを通し、溶血した赤血球の凝固塊を除去した。得られた懸濁液を800×g、4℃の条件下で10分間遠心した後、沈降した細胞分画を15mLの緩衝液Aで懸濁し、格子径40μmのナイロンメッシュを通すことにより、単核球懸濁液を調製した。
【0035】
調製例2 BALB/c−aly/alyマウス由来のCD4(+)CD25(−)単核球懸濁液の調製
CD4(+)CD25(+)Regulatory T Cell Isolation Kit(Miltenyi Biotec社製)を用いて、調製例1で調製した単核球懸濁液よりCD4(+)CD25(−)単核球を除去することにより、CD4(+)CD25(−)単核球懸濁液を調製した。
得られたCD4(+)CD25(−)単核球中の総細胞数を測定した。また、PE(R−Phycoerythrin)標識した抗マウスCD25抗体(Miltenyi Biotec社製)、FITC(Fluorescein Isothiocyanate)標識した抗マウスCD4抗体(Becton Dickinson社製)を用いて、フローサイトメーター(FACS Calibur;Becton Dickinson社製、以下同じ)により純度を測定した。その結果、純度は90%以上であった。
【0036】
調製例3 BALB/c−aly/alyマウス由来のCD11b(−)CD25(−)単核球懸濁液の調製
調製例1で調製した単核球1×10個を340μLの緩衝液Aに懸濁し、そこへ50μLのFITC標識した抗マウスCD11b抗体(Becton Dickinson社製、以下同じ)及び110μLのPE標識した抗マウスCD25抗体(Miltenyi Biotec社製、以下同じ)を加え、遮光下で、4℃にて20分間静置した。
その後、5mLの緩衝液Aを加え細胞を洗浄し、800×g、4℃の条件下で10分間遠心した。同様の操作を繰り返した。沈降した細胞分画を300μLの緩衝液Aで懸濁し、100μLの抗PEマイクロ磁気ビーズ(Miltenyi Biotec社製)と100μLの抗FITCマイクロ磁気ビーズ(Miltenyi Biotec社製)とを加え、遮光下で、4℃にて15分間静置した。
その後、5mLの緩衝液Aを加え細胞を洗浄し、800×g、4℃の条件下で10分間遠心した。沈降した細胞分画を500μLの緩衝液Aで懸濁し、磁性体カラムLD(Miltenyi Biotec社製)及び磁力分離システム(Miltenyi Biotec社製)を用いて、単核球分画よりFITC標識した抗マウスCD11b抗体及びPE標識した抗マウスCD25抗体で標識した細胞を除去することにより、CD11b(−)CD25(−)単核球懸濁液を調製した。
得られたCD11b(−)CD25(−)単核球懸濁液中の総細胞数を測定した。また、FITC標識した抗マウスCD11b抗体及びPE標識した抗マウスCD25抗体を用いて、フローサイトメーターにより純度を測定した。その結果、純度は90%以上であった。
【0037】
調製例4 BALB/cByJマウス由来のCD4(+)CD25(−)単核球懸濁液の調製
(1)単核球懸濁液の調製
BALB/c−aly/alyマウスの代わりにBALB/cByJマウス(18〜22週齢、雌)(日本クレア社製)を用いて、調製例1と同様に単核球懸濁液を調製した。
(2)CD4(+)CD25(−)単核球懸濁液の調製
上記(1)で調製した単核球懸濁液を用いて、調製例2と同様にCD4(+)CD25(−)単核球懸濁液を調製した。
【0038】
調製例5 Aly/Nsc−aly/alyマウス由来のCD4(+)CD25(−)単核球懸濁液の調製
(1)単核球懸濁液の調製
BALB/c−aly/alyマウスの代わりにAly/Nsc−aly/alyマウス(28週齢、雌)(日本クレア社製)を用いて、調製例1と同様に単核球懸濁液を調製した。
(2)CD4(+)CD25(−)単核球懸濁液の調製
上記(1)で調製した単核球懸濁液を用いて、調製例2と同様にCD4(+)CD25(−)単核球懸濁液を調製した。
【0039】
実施例1 本発明マウスの作成(1)
調製例1で調製した単核球懸濁液を用いて、2.5×10個/200μLの細胞懸濁液を調製した。当該懸濁液をC.B−17/Icr−scid/scidマウス(8〜10週齢、雌)(日本クレア社製)の尾静脈より投与することにより、本発明マウスを作成した。なお、本発明マウスは、SPF環境下で飼育した。
【0040】
実施例2 本発明マウスの作成(2)
調製例2で調製した単核球懸濁液を用いて、5×10個〜5×10個/200μLの細胞懸濁液を調製した。当該懸濁液を用いて、実施例1と同様に本発明マウスを作成した。
【0041】
実施例3 本発明マウスの作成(3)
調製例3で調製した単核球懸濁液を用いて、1×10個〜2.5×10個/200μLの細胞懸濁液を調製した。当該懸濁液を用いて、実施例1と同様に本発明マウスを作成した。
【0042】
実施例4 本発明マウスの作成(4)
調製例4で調製した単核球懸濁液を用いて、5×10個〜1×10個/200μLの細胞懸濁液を調製した。当該懸濁液を用いて、実施例1と同様に本発明マウスを作成した。
【0043】
比較例1 比較対照用マウスの作成
調製例5で調製した単核球懸濁液を用いて、5×10個〜1×10個/200μLの細胞懸濁液を調製した。当該懸濁液を用いて、実施例1と同様に比較対照用マウスを作成した。
【0044】
試験例1 皮膚炎発症の評価
実施例1で作成した本発明マウスは、移植後8〜10週で、全例(3匹)に眼周囲の発赤が認められた。実施例2で作成した本発明マウスは、移植後4〜6週で、全例(21匹)に眼周囲の発赤が認められた。実施例3で作成した本発明マウスは、移植後3〜4週で、全例(4匹)に眼周囲の発赤が認められた。実施例4で作成した本発明マウスは、移植後15週目で、6匹中3匹に眼周囲の発赤が認められた。なお、比較例1で作成した比較対照用マウスは、移植後25週を経過しても皮膚炎を発症しなかった。
実施例1〜4で作成した本発明マウスは、発症後も6ヶ月以上にわたり皮膚炎症状を維持しながら生存した。
【0045】
試験例2 病理所見の評価
実施例2で作成した本発明マウスを移植後8週間飼育した後、病変部位等の組織像を病理学的に評価した。
(1)評価方法
皮膚病変部位として後背部皮膚、四肢内側皮膚、腹側皮膚、鼻周辺部及び耳介を、一般臓器として胸腺、肺、肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、顎下リンパ節、腸間膜リンパ節、心臓、小腸及び唾液腺をそれぞれ評価した。各組織は、常法に従い、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。なお、評価には、9匹の本発明マウスを用いた。
(2)結果
図1、2に本発明マウスの後背部皮膚及び耳介のヘマトキシリン・エオジン染色した組織像をそれぞれ示す。
観察した全ての個体で、後背部皮膚の上皮の肥厚が認められた。内、6匹については、角化細胞の分化異常及び増殖が認められた。本発明マウス8匹で、真皮層に単球、マクロファージ様細胞、好中球、リンパ球様細胞等の炎症性細胞の浸潤が認められた。四肢内側皮膚、腹側皮膚、鼻周辺部及び耳介においても同様の所見が認められた。なお、全ての個体において病変部位への好酸球、肥満細胞の浸潤は認められなかった。
観察した全ての個体で、リンパ節の皮質−髄質境界領域に炎症性細胞の浸潤が認められた。本発明マウス8匹で、肝臓の胆管周囲に軽度の炎症性細胞の浸潤が認められた。本発明マウス5匹で、膵臓の小葉膵管に軽度の炎症性細胞の浸潤が認められた。また、本発明マウス3匹で、下顎腺に炎症性細胞の浸潤が認められた。その他の組織では、異常な所見は認められなかった。
【0046】
試験例3 サイトカインの産生量の評価
実施例2で作成した本発明マウスの後背部皮膚におけるIFN−γ、IL−4及びIL−23の産生量を評価した。
(1)評価方法
i)組織抽出液の調製
実施例2で作成した本発明マウスを頚椎脱臼法により安楽死させた後、後背部皮膚より直径11mmの円形領域を採取した。蛋白分解酵素阻害剤[Complete(登録商標);Roche社製]を溶解した生理食塩水(大塚製薬社製)1mL中で、採取した組織を氷上で約7等分し、これを5mLのプラスチックチューブに移し、ホモジナイザー(NS−310E;NITI−ON社製、以下同じ)を用いて粉砕した。更に、超音波粉砕機(SONIFER 250;BRANSON社製、以下同じ)を用いて粉砕した後、1.5mLのチューブに移し、13,000×g、4℃の条件下で20分間遠心し、組織抽出液を得た。
なお、陰性対照として、移植を行っていないC.B−17/Icr−scid/scidマウスの後背部皮膚を用いた。
ii)サイトカインの産生量の測定
IFN−γ、IL−4及びIL−23の産生量は、サンドイッチELISAキット(IFN−γ及びIL−23;e−Bioscience社製、IL−4;R&D systems社製)を用いて、添付文書に従い測定した。
(2)結果
図3に示すように、本発明マウスの後背部皮膚(病変部位)におけるIFN−γ及びIL−23の産生量は、陰性対照の産生量より高かった。一方、IL−4の産生量は、本発明マウスと陰性対照との間で差はなかった。また、病変部位において、IFN−γの産生量は、IL−4の産生量より高かった。
【0047】
試験例4 過剰創傷治癒現象の評価
実施例2で作成した本発明マウスにおける過剰創傷治癒現象を、活性型STAT3の活性及び組織像から評価した。
(1)評価方法
i)核抽出液の調製
実施例2で作成した本発明マウスを頚椎脱臼法により安楽死させた後、後背部非病変皮膚(部位1)、後背部病変皮膚(部位2)より直径11mmの円形領域を採取した。また、実施例2で作成した本発明マウスの後背部を刷毛し、外見上皮膚炎を発症していない臀部に近い部位をプラスチック片で10回軽く擦過した。この操作を3日おきに3回繰り返し、最終擦過の1週間後に安楽死させた後、後背部非病変部位(部位3)より同様にして円形領域を採取した。
採取した組織を、Nuclear Extraction Kit(CHEMICON社製)のCytoplasmic Lysis Buffer(以下、「緩衝液B」という)1mL中で、氷上で約7等分し、これを5mLのプラスチックチューブに移し、ホモジナイザーを用いて粉砕した。800×g、4℃の条件下で10分間遠心した後、上清を除去し、1mLの緩衝液Bで懸濁した。再度、ホモジナイザーを用いた粉砕工程及び遠心分離操作を行った。得られた沈降画分を300μLの緩衝液Bで懸濁し、超音波粉砕機を用いて更に粉砕した後、13,000×g、4℃の条件下で10分間遠心した。得られた上清を0.45μmのフィルターに通し、核抽出液を得た。
なお、陰性対照として、移植を行っていないC.B−17/Icr−scid/scidマウスの後背部皮膚を用いた。
ii)活性型STAT3の活性の測定
活性型STAT3の活性は、Trans AM STAT3 Kit(Active Motif社製)を用いて、添付文書に従い測定した。
(2)結果
図4に示すように、本発明マウスの後背部病変皮膚(部位2)及び後背部非病変皮膚(部位3)における活性型STAT3の活性は、陰性対照及び後背部非病変皮膚(部位1)における活性型STAT3の活性より高かった。また、本発明マウスの後背部非病変皮膚(部位1)における活性型STAT3の活性は、陰性対照における活性型STAT3の活性より高かった。
図5に示すように、本発明マウスの後背部非病変皮膚(部位3)のヘマトキシリン・エオジン染色した組織像から、当該部位では自然発症した病変部位と同様の表皮の肥厚、角化細胞の分化異常、過増殖が認められた。
以上より、本発明マウスには、非病変部位において過剰創傷治癒現象を生じることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本発明マウスの後背部皮膚の組織像を表す。
【0049】
【図2】図2は、本発明マウスの耳介の組織像を表す。
【0050】
【図3】図3は、サイトカインの産生量を表す。縦軸は吸光度を示す。
【0051】
【図4】図4は、活性型STAT3の活性を表す。縦軸は吸光度を示す。
【0052】
【図5】図5は、本発明マウスの後背部皮膚の組織像を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BALB/c系マウス由来の単核球を免疫不全マウスに移植することにより得られる自己免疫性皮膚炎発現マウス。
【請求項2】
BALB/c系マウスがBALB/c−aly/alyマウス、BALB/cA系の各亜系マウス、BALB/cB系の各亜系マウス又はBALB/cCrマウスである、請求項1に記載の自己免疫性皮膚炎発現マウス。
【請求項3】
移植される単核球がCD25(−)単核球である、請求項1又は2のいずれかに記載の自己免疫性皮膚炎発現マウス。
【請求項4】
移植される単核球がCD4(+)CD25(−)単核球である、請求項1又は2のいずれかに記載の自己免疫性皮膚炎発現マウス。
【請求項5】
移植される単核球がCD11b(−)CD25(−)単核球である、請求項1又は2のいずれかに記載の自己免疫性皮膚炎発現マウス。
【請求項6】
免疫不全マウスがC.B−17/Icr−scid/scidマウス、BALB/c−Rag2−/−マウス、BALB/c−Rag2−/−Il2−/−マウス、NOD.CB17−scid/scidマウス、NOD.CB17−scid/scid Rag1−/−マウス、NOD.CB17−scid/scid Rag1−/−Il2−/−マウス、NOD.CB17−scid/scid B2m−/−マウス、NOD.CB17−scid/scid Tg(HLA−A2)マウス、AF−nu/nuマウス、Crlj:CD1−Foxn1nuマウス、CAnN.Cg−Foxn1nuマウス、BALB/cA−nu/nuマウス、F344N−rnu/rnuマウス、CTS/Shiマウス又はKSNマウスである、請求項1〜5のいずれかに記載の自己免疫性皮膚炎発現マウス。
【請求項7】
自己免疫性皮膚炎が乾癬、急性皮膚炎、慢性皮膚炎、扁平苔癬又は菌状息肉症である、請求項1〜6のいずれかに記載の自己免疫性皮膚炎発現マウス。
【請求項8】
次の(1)〜(3)の特徴を有する自己免疫性皮膚炎発現マウス:
(1)自己免疫性皮膚炎を自然発症すること、
(2)皮膚炎発症後6ヶ月以上生存すること、
(3)病変が皮膚に限局すること。
【請求項9】
更に次の(1)〜(8)の特徴を有する、請求項8に記載の自己免疫性皮膚炎発現マウス:
(1)病変部位の表皮が肥厚すること、
(2)病変部位の角化細胞が分化異常、過増殖を起こすこと、
(3)病変部位にTヘルパー1型の炎症性細胞が浸潤すること、
(4)病変部位のTヘルパー1型のサイトカインの産生量が、非病変部位の産生量の5倍以上であること、
(5)病変部位において、Tヘルパー1型のサイトカインの産生量が、Tヘルパー2型のサイトカインの産生量の10倍以上であること、
(6)病変部位のインターロイキン−23の産生量が、非病変部位の産生量の5倍以上であること、
(7)病変部位での活性型STAT3の活性が、非病変部位の活性の3倍以上であること、
(8)非病変部位において、過剰創傷治癒現象が生じること。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のマウスに被験物質を投与し、当該被験物質による、自己免疫性皮膚炎の治療効果を調べることを含む、自己免疫性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法。
【請求項11】
自己免疫性皮膚炎が乾癬、急性皮膚炎、慢性皮膚炎、扁平苔癬又は菌状息肉症である、請求項10に記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−220229(P2008−220229A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61195(P2007−61195)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】