説明

自己接着性歯科修復組成物

(i)組成物の全重量に対して、10〜40重量%の以下の式(I)の加水分解案定重合性モノマーの混合物[式中、Rは、炭素原子1〜20個と、任意選択で、窒素、酸素およびイオウ原子の群から選択される原子1〜5個とを有するm+n価の有機基であり、Aは、独立に、以下の式(II)(式中、Lは、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基または以下の式(III)(式中、R’は、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、Xは、O、S、NH、あるいはR’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’であり、aは0または1である。)の基であり、Mは、以下の式(IV)(式中、Yは、O、S、NH、あるいはR’’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’’であり、bは、0〜3の整数であり、cは、0または1であり、dは、0〜3の整数であり、ただし、bが0である場合、YはOになることができない。)の基であり、xは、0または1であり、yは、0または1であり、ただし、xおよびyは共に1になることができなく、ただし、Lまたは式(III)の基が水素原子である場合、xは1になることができなく、ただし、xが0である場合、aもまた0であり、ただし、yが0である場合、bは0を超え、またはcは0である。)の部分を表し、Bは、独立に酸性基を表し、mは、1〜5の整数であり、nは、0〜3の整数であり、m+nは少なくとも2である。]と、(ii)組成物の全重量に対して、60〜90重量%のフィラーと、(iii)開始剤系とを含み、nが0を超える式(I)のモノマー部分は、混合物の全重量に対して少なくとも1重量%である自己接着性歯科修復組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科修復硬化後の全寿命期間にわたり機械的耐性が大である自己接着性歯科修復組成物に関する。歯科修復組成物は、自己接着性歯科複合材であっても、フィラー含有自己接着性シーラーであっても、自己接着性セメントあってもよい。本発明の歯科修復組成物は、硬化前の貯蔵安定性が高く、象牙質に対する接着強度および硬化後の長期機械的耐性が大である、一体型組成物であってもよい。本発明はまた、歯科修復組成物、詳細には、自己接着性歯科複合材を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィラーを含む歯科接着材は、公知である。EP−A 0 335 645には、分子内に酸性基を有するビニルモノマーおよび前記ビニルモノマーと共重合可能なビニルモノマーを含むモノマー混合物と、フィラーと、自己硬化開始剤系とを含む接着組成物が開示されている。EP−A 0 335 645の接着組成物は、2パック系として取り扱われ、貯蔵される。すなわち、液体成分と粉末成分が独立に、2つの異なるパックに充填され、硬化および結合ステップの際に、液体および粉末成分の必要量がパックから取り出され、一緒に混練される。得られる象牙質に対する接着強度は1.9MPa未満である。
【0003】
多官能性アミド系の歯科材料は、米国特許第6953832号で公知であり、その歯科材料は、特定の重合性アミドと、任意選択でジペンタエリトリトールペンタメタクリロイロキシ二水素ホスフェートなど強酸性重合性モノマーとを含む。フィラー含有組成物が示唆されている。しかし、米国特許第6953832号には、自己接着性複合材は開示されていない。
【0004】
歯科複合材を使用することによって天然歯牙材料が置換される。従って、歯科複合材料では、歯科修復硬化後の全寿命期間にわたり機械的耐性が大であることが必要である。機械的強度を提供し、複合材の重合収縮を低減するために、歯科複合材は、大量のフィラーを含む。フィラー量が多いので、未硬化複合材の粘度は通常高く、硬化複合材の象牙質に対する接着力は低い。
【0005】
粘度が高いので、高フィラー歯科複合材は、通常、2パック組成物として提供することができない。というのは、複合材を施用する前に、パックを十分均一に混合することが困難であろうと思われるからである。
【0006】
さらには、複合材に酸性接着モノマーを組み込むことによって、複合材の接着性を増加させると、酸性基含有成分のために重合性モノマーが加水分解するので、1パック複合材の硬化前の保存期間が短縮される。さらには、硬化後も、酸性基が硬化複合材全体に残存することになるので、酸性が、硬化複合材修復後の全期間中存在し、加水分解性基が活性化する可能性が継続することになる。
【0007】
硬化複合材と歯牙の間を接着結合することによって、境界ギャップの形成を回避する目的で、複合材は、通常、歯科接着剤などの結合剤で処理された歯の表面に施用される。歯科接着剤を施用することによって、追加のステップが発生するので、追加の時間が必要になり、接着剤と複合材の間に界面が追加されることが問題の発生源になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP−A 0 335 645
【特許文献2】米国特許第6953832号
【特許文献3】WO02/13768
【特許文献4】WO03/013444
【特許文献5】WO03/035013
【特許文献6】WO2004/078100
【特許文献7】WO2005/063778
【特許文献8】EP 05 022 930.1
【特許文献9】EP 06 021 540.7
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明の課題は、優れた貯蔵安定性および長期間の機械的耐性を有し、事前に結合剤を施用することなく1パック組成物として歯科表面上に直接施用できる、自己接着性歯科複合材、フィラー含有自己接着性シーラー、または自己接着性セメントなどの自己接着性歯科修復組成物を提供することである。
【0010】
従って、本発明は、
(i)組成物の全重量に対して、10〜40重量%の以下の式(I)の加水分解安定重合性モノマーの混合物と、
R(A)(B) (I)
[式中、
Rは、炭素原子1〜20個と、任意選択で、窒素、酸素およびイオウ原子の群から選択される原子1〜5個とを有するm+n価の有機基であり、
Aは、独立に、以下の式(II)の部分を表し、
【化1】

(式中、
Lは、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基または以下の式(III)の基であり、
【化2】

(式中、
R’は、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、
Xは、O、S、NH、あるいはR’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’であり、
aは0または1である。)
Mは、以下の式(IV)の基であり、
【化3】

(式中、
Yは、O、S、NH、あるいはR’’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’’であり、
bは、0〜3の整数であり、
cは、0または1であり、
dは、0〜3の整数であり、
ただし、bが0である場合、YはOになることができない。)
xは、0または1であり、
yは、0または1であり、
ただし、xおよびyは共に1になることができなく、
ただし、Lまたは式(III)の基が水素原子である場合、xは1になることができなく、
ただし、xが0である場合、aもまた0であり、
ただし、yが0である場合、bは0を超え、またはcは0である。)
Bは、独立に酸性基を表し、
mは、1〜5の整数であり、
nは、0〜3の整数であり、
m+nは少なくとも2である。]
(ii)組成物の全重量に対して、60〜90重量%のフィラーと、
(iii)開始剤系と
を含み、nが0を超える式(I)のモノマー部分は、前記混合物の全重量に対して少なくとも1重量%である自己接着性歯科修復組成物、特に自己接着性歯科複合材を提供する。
【0011】
さらには、本発明は、
(i)組成物の全重量に対して、10〜40重量%の以下の式(I)の加水分解安定重合性モノマーの混合物と、
R(A)(B) (I)
[式中、
Rは、炭素原子1〜20個と、任意選択で、窒素、酸素およびイオウ原子の群から選択される原子1〜5個とを有するm+n価の有機基であり、
Aは、独立に、以下の式(II)の部分を表し、
【化4】

(式中、
Lは、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基または以下の式(III)の基であり、
【化5】

(式中、
R’は、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、
Xは、O、S、NH、あるいはR’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’であり、
aは0または1である。)
Mは、以下の式(IV)の基であり、
【化6】

(式中、
Yは、O、S、NH、あるいはR’’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’’であり、
bは、0〜3の整数であり、
cは、0または1であり、
dは、0〜3の整数であり、
ただし、bが0である場合、YはOになることができない。)
xは、0または1であり、
yは、0または1であり、
ただし、xおよびyは共に1になることができなく、
ただし、Lまたは式(III)の基が水素原子である場合、xは1になることができなく、
ただし、xが0である場合、aもまた0であり、
ただし、yが0である場合、bは0を超え、またはcは0である。)
Bは、独立に酸性基を表し、
mは、1〜5の整数であり、
nは、0〜3の整数であり、
m+nは少なくとも2である。]
(ii)組成物の全重量に対して、60〜90重量%のフィラーと、
(iii)開始剤系と
を混合するステップを含み、nが0を超える式(I)のモノマー部分は、前記混合物の全重量に対して少なくとも1重量%である自己接着性歯科修復組成物、特に歯科複合材を調製するための方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の歯科複合材などの自己接着性歯科修復組成物は、加水分解安定重合性モノマーの混合物を含む。この混合物は、少なくとも酸性重合性モノマーを含む。好ましくは、この混合物は、少なくとも架橋重合性モノマーと酸性重合性モノマーとを含む。重合性モノマーは加水分解安定性である。具体的には、重合性モノマーは、室温でpH3の水性媒体中で1ケ月以内に加水分解するエステル基などの基を主鎖中に含まない。
【0013】
重合性モノマーは、式(I)の化合物である。式(I)のモノマーは、部分Rと、最高5つまでの重合性置換基Aと、任意選択で最高3つまでの酸性基Bとを含む。従って、mは1〜5の整数であり、nは0〜3の整数である。mとnの和は少なくとも2である。従って、単一の重合性置換基Aの場合、重合性モノマーは、1つの酸性基を含む。
【0014】
部分Aは、炭素原子1〜20個と、任意選択で、窒素、酸素およびイオウ原子の群から選択される原子1〜5個とを有する有機基である。好ましい実施形態では、Rは、炭素原子1〜6個を有する有機基である。この有機基は、少なくとも価数2であり、置換基AおよびBの全数に対応する。従って、Rは、2価(n=2)、3価(n=3)、4価(n=4)、5価(n=5)、または6価(n=6)であってよい。好ましいRは、2価または3価であり、最も好ましくは、2価である。Aは、脂肪族および/または芳香族であってよい炭化水素基であってよい。Rの炭素原子の全量が20を超えないという条件で、この炭化水素基は、C1〜4アルキル基1〜6個によって置換されてもよい。アルキル基の具体的な例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチルまたはtert−ブチルである。好ましい実施形態では、炭化水素基は、脂肪族もしくは芳香族エーテル結合、ケト基、カルボン酸基、またはヒドロキシル基の形態で炭化水素基中に酸素原子1〜5個を含んでよい。エステル基は、重合性モノマーの加水分解安定性の点で部分R中では好ましくない。脂肪族基の場合、Rは、直鎖もしくは分枝鎖のアルキレン基であっても、シクロアルキレン基であってもよい。芳香族基の場合、Rは、アリーレン基であっても、ヘテロアリーレン基であってもよい。具体的には、Rは、2価の置換または非置換C〜C20アルキレン基、置換または非置換C6〜14アリーレン基、置換または非置換C〜C20シクロアルキレン基、置換または非置換C7〜20アリーレンアルキレンアリーレン基であってよい。好ましくは、Rは、酸素原子2〜4個を含んでよく、かつC1〜4アルキル基1〜6個で置換されてもよい飽和脂肪族C2〜20炭化水素鎖を表し、あるいはRは、C1〜4アルキル基1〜6個で置換されてもよい置換または非置換C7〜20アリーレンアルキレンアリーレン基であってよい。
【0015】
式(I)の重合性モノマーは、少なくとも1つ、最高5個の重合性置換基Aを含む。1つを超えるAが存在する場合、Aは、それぞれ独立に、以下の式(II)の部分を表す。従って、一実施形態では、Aはすべて同一である。さらなる実施形態では、重合性置換基Aは、相互に異なる。
【0016】
式(II)では、Aは、重合性二重結合を含む。カルボニル基は、二重結合に隣接してもよい。従って、xは0または1であってよく、yは0または1であってよい。同じ重合性二重結合に隣接した2つのカルボニル基は、1つの置換基A内に存在することができない。従って、xとyは、共に1になることができない。
【0017】
置換基Aは、部分Lおよび部分Mをさらに含む。Lは、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基または式(III)の基である。C1〜6アルキル基の具体的な例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチルまたはtert−ブチルである。C3〜8シクロアルキル基の例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。C6〜14アリール基の具体的な例は、フェニルまたはナフチルである。C1〜6アルキル基、C3〜14シクロアルキル基、およびC6〜14アリール基は、任意選択で、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、およびフェニル基から選択される1つまたは複数の基で置換されてよい。C1〜4アルキル基の例として、炭素原子1〜4個を有する直鎖または分枝アルキル基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルを挙げることができる。C1〜4アルコキシ基の例として、炭素原子1〜4個を有する直鎖または分枝アルキル基、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、およびtert−ブトキシを挙げることができる。
【0018】
Lが式(III)の基である場合、R’は、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基である。C1〜6アルキル基の具体的な例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチルまたはtert−ブチルである。C3〜8シクロアルキル基の例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。C6〜14アリール基の具体的な例は、フェニルまたはナフチルである。C1〜6アルキル基、C3〜14シクロアルキル基、およびC6〜14アリール基は、任意選択で、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、およびフェニルから選択される1つまたは複数の基で置換されてよい。C1〜4アルキル基の例として、炭素原子1〜4個を有する直鎖または分枝アルキル基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルを挙げることができる。C1〜4アルコキシ基の例として、炭素原子1〜4個を有する直鎖または分枝アルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、およびtert−ブトキシを挙げることができる。
【0019】
Lが式(III)の基である場合、Xは、O、S、NH、あるいはR’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’である。C1〜6アルキル基の具体的な例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチルまたはtert−ブチルである。C3〜8シクロアルキル基の例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。C6〜14アリール基の具体的な例は、フェニルまたはナフチルである。C1〜6アルキル基、C3〜14シクロアルキル基、およびC6〜14アリール基は、任意選択で、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、およびフェニルから選択される1つまたは複数の基で置換されてよい。C1〜4アルキル基の例として、炭素原子1〜4個を有する直鎖または分枝アルキル基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルを挙げることができる。C1〜4アルコキシ基の例として、炭素原子1〜4個を有する直鎖または分枝アルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、およびtert−ブトキシを挙げることができる。
【0020】
Lが式(III)の基である場合、aは0または1である。
【0021】
式(II)の基では、Mは式(IV)の基である。式(IV)のb、c、およびdが0である場合、Mは単結合を表す。
【0022】
Mが単結合でない場合、式(IV)のYは、O、S、NH、あるいはR’’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’’である。C1〜6アルキル基の具体的な例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチルまたはtert−ブチルである。C3〜8シクロアルキル基の例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。C6〜14アリール基の具体的な例は、フェニルまたはナフチルである。C1〜6アルキル基、C3〜14シクロアルキル基、およびC6〜14アリール基は、任意選択で、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、およびフェニルから選択される1つまたは複数の基で置換されてよい。C1〜4アルキル基の例として、炭素原子1〜4個を有する直鎖または分枝アルキル基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルを挙げることができる。C1〜4アルコキシ基の例として、炭素原子1〜4個を有する直鎖または分枝アルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、およびtert−ブトキシを挙げることができる。
【0023】
Mが単結合でない場合、bは0〜3の整数であり、cは0または1であり、dは0〜3の整数である。
【0024】
式(IV)では、bが0であり、yが1である場合、Yは酸素原子になることができない。そうでない場合は、置換基Aの重合性二重結合は、加水分解性エステル結合に結合すると思われる。さらには、アルデヒド基は、重合性二重結合に隣接することができない。従って、Lまたは式(III)の基が水素原子である場合、xは1になることができない。さらには、酸素、イオウおよび窒素などのヘテロ原子は、重合性二重結合に隣接することができない。従って、xが0である場合、aもまた0であり、yが0である場合、bが0を超える、またはcが0である。
【0025】
式(I)の化合物は、同じでも異なっていてもよく、かつ独立に、酸性基を表す最高3個の置換基Bを含んでよい。好ましくは、酸性基は、スルホン酸基、リン酸エステル基、ホスホン酸基、およびカルボン酸基から選択される。
【0026】
式(I)の加水分解安定重合性モノマーの混合物は、組成物の全重量に対して、10〜40重量%の量で自己接着性歯科修復組成物内に含まれる。より好ましくは、15〜35重量%の量が含まれる。
【0027】
式(I)のモノマーの好ましい群は、nが0であり、Aが、式(II)の部分であり、式中、Lは、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、xは0であるものである。より好ましくは、この群では、Aが、式(II)の部分であり、式中、yは1であり、Mが、式(IV)の部分であり、式中、Yは、NH、あるいはR’’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’’であり、bは、0であり、cは、1であり、dは、0〜3の整数である。
【0028】
式(I)のモノマーのさらなる好ましい群は、nが0であり、Aが式(II)の部分であり、式中、xは1であるものである。より好ましくは、Lが式(III)の基であり、式中、R’は、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、Xは、O、S、NH、あるいはR’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’であり、aは1である。
【0029】
式(I)のモノマーのさらなる好ましい群は、nが0を超え、Aが、式(II)の部分であり、式中、Lは、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、xは0であるものである。より好ましくは、Aが、式(II)の部分であり、式中、yは0であり、Lは水素原子であり、Mが、式(IV)の基であり、式中、YはOであり、bおよびcは1であり、dは0〜3の整数である。
【0030】
式(I)のモノマーのさらなる好ましい群は、Aが、式(II)の部分であり、式中、yは0であり、Lは水素原子であり、Mが、式(IV)の基であり、式中、Yは、NH、あるいはR’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’であり、bは、0であり、cは、1であり、dは、0〜3の整数であるものである。
【0031】
本発明の自己接着性歯科修復組成物はフィラーを含む。フィラーは、無機もしくは有機フィラー、またはそれらの組合せであってよい。適切な無機粒状フィラーとして、溶融シリカ、石英、結晶性シリカ、非晶質シリカ、ソーダガラスビーズ、ガラスロッド、セラミック酸化物、粒状シリケートガラス、放射線不透過ガラス(バリウムおよびストロンチウムガラス)、および合成鉱物を挙げることができる。シランカップリング剤と反応する材料が好ましいが、微粉砕材料および粉末状ヒドロキシルアパタイトを用いることも可能である。ポリマーで被覆したコロイダルまたはサブミクロンシリカもフィラーとして使用可能である。好ましくは、フィラーは無機フィラーであり、好ましくは、バリウムアルモボロシリケートガラス、ストロンチウムアルミノナトリウムフルオロホスホロシリケートガラス、La、ZrO、BiPO、CaWO、BaWO、SrF、および/またはBiを含む。適切な有機フィラーとして、ポリテトラフルオロエチレン粒子などのポリマー造粒物が挙げられる。組成物が歯牙の多様な色合いにマッチングするのを可能にする少量の顔料を含ませることができる。フィラー粒子は、一般に、直径が約5ミクロン未満、好ましくは、3μm未満、好ましくは、0.1〜1μmの範囲であると思われる。本発明の硬化組成物の放射線不透過性は、少なくとも3mm/mmAl、好ましくは、少なくとも5〜7mm/mmAl、最も好ましくは、少なくとも7mm/mmAlである。
【0032】
フィラーは、好ましくは、60〜90重量%、より好ましくは、70〜85重量%の量において歯科修復材料中に含ませることができる。
【0033】
本発明に記載の自己接着性歯科修復組成物は、重合開始剤系を含む。開始剤は、特に限定されず、好ましくは、光開始剤であってよい。具体的には、カンファーキノンを挙げることができる。
【0034】
本発明に記載の自己接着性歯科修復組成物は、水溶性有機溶媒および/または水を含むことができる。水溶性有機溶媒は、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールおよび/またはアセトンおよびメチルエチルケトンなどのケトンから選択することができる。特に好ましくは、アセトン、エタノールおよび/またはtert−ブタノールである。好ましくは、修復組成物中の溶媒および水の全量は、0.5〜20重量%の範囲である。
【0035】
好ましくは、式(I)の化合物の分子量は、100〜1000の範囲、より好ましくは、最高500である。
【0036】
本発明に記載の自己接着性歯科修復組成物は、反応性希釈剤をさらに含んでよい。反応性希釈剤の具体的な例は、(メタ)アクリル酸およびイタコン酸から選択される。
【0037】
少なくとも90MPaの曲げ強度、少なくとも300MPaの圧縮強度、および少なくとも3MPaの象牙質に対する接着強度を有する前記請求項のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【0038】
本発明に記載の自己接着性歯科修復組成物は、好ましくは、一体型組成物である。一体型組成物であることによって、本発明の修復組成物は、貯蔵できる1つだけの容器に入れることができ、いかなる混合をもせずに、かつ施用する前に特別の装置を必要とせずに修復組成物を施用することが可能である。
【0039】
式(I)の加水分解安定重合性モノマーは、WO02/13768、WO03/013444、WO03/035013、WO2004/078100、WO2005/063778、EP 05 022 930.1、およびEP 06 021 540.7に開示の方法に従って、調製することができる。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
自己接着性修復物(SAR)用の一体型光硬化ペーストの調製
以下の自己接着性複合材を調製することができる。
成分 g 重量%
N,N’−ビスアクリルアミド−N,N’−ジエチル−1,3−プロパン
33.24 11.70
3,(4),8,(9)−ビス(アクリルアミドメチル)トリシクロ−5.2.1.02.6デカン 16.75 5.90
ペンタエリトリトールトリアリルエーテルモノホスフェート
2.85 1.00
2−アクリルアミド−2−メチル−プロパン−スルホン酸 1.74 0.61
tert−ブチルヒドロキノン 0.016 0.006
カンファーキノン 0.23 0.08
アシルホスフィンオキシド(L−TPOルシリン) 0.58 0.20
4−ジメチルアミノベンゾニトリル 0.27 0.09
水 28.4 10.00
ストロンチウムアルモフルオロシリケートガラス 200.0 70.41
合計 284 100
【0041】
自己接着性複合材は、少なくとも90MPaの曲げ強度、少なくとも300MPaの圧縮強度、および少なくとも3MPaの象牙質に対する接着強度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)組成物の全重量に対して、10〜40重量%の以下の式(I)の加水分解安定重合性モノマーの混合物と、
R(A)(B) (I)
[式中、
Rは、炭素原子1〜20個と、任意選択で、窒素、酸素およびイオウ原子の群から選択される原子1〜5個とを有するm+n価の有機基であり、
Aは、独立に、以下の式(II)の部分を表し、
【化1】


(式中、
Lは、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基または以下の式(III)の基であり、
【化2】


(式中、
R’は、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、
Xは、O、S、NH、あるいはR’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’であり、
aは0または1である。)
Mは、以下の式(IV)の基であり、
【化3】


(式中、
Yは、O、S、NH、あるいはR’’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’’であり、
bは、0〜3の整数であり、
cは、0または1であり、
dは、0〜3の整数であり、
ただし、bが0である場合、YはOになることができない。)
xは、0または1であり、
yは、0または1であり、
ただし、xおよびyは共に1になることができなく、
ただし、Lまたは式(III)の基が水素原子である場合、xは1になることができなく、
ただし、xが0である場合、aもまた0であり、
ただし、yが0である場合、bは0を超え、またはcは0である。)
Bは、独立に酸性基を表し、
mは、1〜5の整数であり、
nは、0〜3の整数であり、
m+nは少なくとも2である。]
(ii)組成物の全重量に対して、60〜90重量%のフィラーと、
(iii)開始剤系と
を含み、nが0を超える式(I)のモノマー部分は、混合物の全重量に対して少なくとも1重量%である自己接着性歯科修復組成物。
【請求項2】
Bが、スルホン酸基、リン酸エステル基、ホスホン酸基、およびカルボン酸基から選択される、請求項1に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項3】
Rが、炭素原子1〜6個を有するm+n価の有機基である、請求項1または2に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項4】
nが0であり、Aが、式(II)の部分であり、式中、Lは、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、xは0である、式(I)のモノマーを含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項5】
Aが、式(II)の部分であり、式中、yは1であり、Mが、式(IV)の部分であり、式中、Yは、NH、あるいはR’’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’’であり、bは、0であり、cは、1であり、dは、0〜3の整数である、請求項4に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項6】
nが0であり、Aが式(II)の部分であり、式中、xは1である、式(I)のモノマーを含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項7】
Lが式(III)の基であり、式中、R’は、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、Xは、O、S、NH、あるいはR’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’であり、aは1である、請求項6に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項8】
nが0を超え、Aが、式(II)の部分であり、式中、Lは、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、xは0である、式(I)のモノマーを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項9】
Aが、式(II)の部分であり、式中、yは0、Lは水素原子であり、Mが、式(IV)の基であり、式中、YはO、bおよびcは1であり、dは0〜3の整数である、請求項8に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項10】
Aが、式(II)の部分であり、式中、yは0、Lは水素原子であり、Mが、式(IV)の基であり、式中、Yは、NH、あるいはR’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’であり、bは0であり、cは1であり、dは0〜3の整数である、請求項8に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項11】
フィラーが含まれ、該フィラーが、無機フィラーであり、好ましくは、バリウムアルモボロシリケートガラス、ストロンチウムアルミノナトリウムフルオロホスホロシリケートガラス、La、ZrO、BiPO、CaWO、BaWO、SrF、および/またはBiを含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項12】
水を含む、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項13】
式(I)の化合物の分子量が100〜1000の範囲である、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項14】
反応性希釈剤をさらに含む、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項15】
反応性希釈剤が、(メタ)アクリル酸およびイタコン酸から選択される、請求項14に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項16】
少なくとも90MPaの曲げ強度、少なくとも300MPaの圧縮強度、および少なくとも3MPaの象牙質に対する接着強度を有する、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項17】
一体組成物である、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項18】
自己接着性歯科複合材、フィラー含有自己接着性シーラー、または自己接着性セメントである、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物。
【請求項19】
(i)組成物の全重量に対して、10〜40重量%の以下の式(I)の加水分解安定重合性モノマーの混合物と、
R(A)(B) (I)
[式中、
Rは、炭素原子1〜20個と、任意選択で、窒素、酸素およびイオウ原子の群から選択される原子1〜5個とを有するm+n価の有機基であり、
Aは、独立に、以下の式(II)の部分を表し、
【化4】

(式中、
Lは、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基または以下の式(III)の基であり、
【化5】

(式中、
R’は、水素原子、C1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、またはC6〜14アリール基であり、
Xは、O、S、NH、あるいはR’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’であり、
aは0または1である。)
Mは、以下の式(IV)の基であり、
【化6】

(式中、
Yは、O、S、NH、あるいはR’’’がC1〜6アルキル基、C3〜8シクロアルキル基、C6〜14アリール基であるNR’’’であり、
bは、0〜3の整数であり、
cは、0または1であり、
dは、0〜3の整数であり、
ただし、bが0である場合、YはOになることができない。)
xは、0または1であり、
yは、0または1であり、
ただし、xおよびyは共に1になることができなく、
ただし、Lまたは式(III)の基が水素原子である場合、xは1になることができなく、
ただし、xが0である場合、aもまた0であり、
ただし、yが0である場合、bは0を超え、またはcは0である。)
Bは、独立に酸性基を表し、
mは、1〜5の整数であり、
nは、0〜3の整数であり、
m+nは少なくとも2である。]
(ii)組成物の全重量に対して、60〜90重量%のフィラーと、
(iii)開始剤系と
を混合するステップを含み、
nが0を超える式(I)のモノマー部分は、混合物の全重量に対して少なくとも1重量%である、請求項1乃至18のいずれか1項に記載の自己接着性歯科修復組成物を調製するための方法。

【公表番号】特表2010−518037(P2010−518037A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548621(P2009−548621)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000916
【国際公開番号】WO2008/095694
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(502289695)デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー. (28)
【Fターム(参考)】