説明

自己組織化する遷移金属錯体のナノ薄膜

【目的】多層二分子膜の層間において、金属錯体を自己組織化させることにより、有機−無機複合組織が構築されているが、金属はその組織化構造の根幹を成す結合形成の中心的な役割を担っており、その種類や性質を自由に選んで活用することは、困難であった。
【構成】配位子骨格に多重水素結合部位を導入して、その自己組織化能を利用することにより、種類に囚われず様々な遷移金属イオンを取り込んで形成する有機-無機複合膜組織の構築を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織化する遷移金属錯体のナノ薄膜構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多層二分子膜の層間において、金属錯体を自己組織化させることにより、有機−無機複合組織が構築されている。これら無機成分の自己組織化は、架橋型配位結合によってなされ、その金属周りの配位構造により次元構造も制御できることが知られている。しかし、その場合、金属はその組織化構造の根幹を成す結合形成の中心的な役割を担っており、その種類や性質を自由に選んで活用することは、困難であるという欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、かかる欠点を解決することを目的として創案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らはかかる目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、配位子骨格に多重水素結合部位を導入して、その自己組織化能を利用することにより、種類に囚われず様々な遷移金属イオンを取り込んで形成する有機-無機複合膜組織の構築を実現した。
DAD型(D = プロトンドナー, A =プロトンアクセプター)の三重水素結合部位を有する金
属錯体は長鎖のアルキル基を有するカウンターカチオンと水溶液中で混合することにより、
金属錯体の水素結合による自己集合と疎水的相互作用による二分子膜の形成が同時に起こ
り、自発的にナノ薄膜構造体へと組み上がる。その際、金属はその組織化構造の根幹を成
す結合形成の中心的な役割を担っていないため、その種類や性質を自由に選んで入れ替え
ることが可能である。
自己集合の様式は、たとえばPh4P+[CoIII{Ph(bu)2}]-(Ph4P+=テトラフェニルホスフェート、Ph(bu)2 = オルトフェニレンビスビウレタト)の単結晶X線構造解析によって得られた図1に示す無限シート構造がある。
【発明の効果】
【0005】
種類に囚われず様々な遷移金属イオンを取り込んで形成する有機-無機複合膜組織の構築できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0007】
DAD型(D = プロトンドナー, A =プロトンアクセプター)の三重水素結合部位を有するK+[CoIII{Ph(bu)2}]-と、C18MeIm+Cl- (C18MeIm+ = 1-オクタデシル-3-メチルイミダゾリウム)を水溶液中において1:1で混合すると速やかに紫色に変化し、次いで約30分後に金属光沢の様な斑のある銀色の溶液に変化した。吸収スペクトル変化から、混合直後に軸配位していた水分子が脱離して、反磁性種の六配位八面体構造から常磁性種である平面四配位構造に変化したことが示された。このサンプルについてSEM観察を行ったところ、厚さが15 nmで幅と長さが数mmオーダーの長方形の薄膜構造が確認された。これを図2に示す。
【0008】
[CoIII{ph(bu)2}]-は、C18MeIm+をカウンターカチオンとすることで、錯体まわりに疎水場を形成し、配位していた水分子の脱離と水素結合可能な環境の形成を可能にした。
中心金属、酸化数、配位数の変化により様々な色を発現した。これらの結果を図3〜図5に示す。
図3は、中心金属をコバルト三価イオンとニッケル二価イオンを変換した場合である。この場合色は、シルバーからシルキーに変化した。
図4は、中心金属のコバルトの酸化数を三価から二価へ還元した場合である。この場合色は、シルバーからイエローに変化した。
図5は、中心金属のコバルト三価イオンに対して軸配位子を添加した場合である。この場合色は、シルバーからゴールドに変化した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】自己集合の様式を示す図である。
【図2】サンプルのSEM観察の図である。
【図3】中心金属をコバルト三価イオンとニッケル二価イオンを変換した場合の色の変化を示す図である。
【図4】中心金属のコバルトの酸化数を三価から二価へ還元した場合の色の変化を示す図である。
【図5】中心金属のコバルト三価イオンに対して軸配位子を添加した場合の色の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配位子骨格に多重水素結合部位を導入して、その自己組織化能を利用することにより、中心金属として様々な金属イオンを取り込んで形成することを特徴とする有機-無機複合膜組織。
【請求項2】
請求項1において中心金属として遷移金属を用いたことを特徴とする有機-無機複合膜組織。
【請求項3】
遷移金属の種類を変えることで分光学的性質、磁気的性質及び電気化学的性質が変化することを特徴とする特許請求の範囲第1項または第2項に記載の有機-無機複合膜組織。
【請求項4】
中心金属の酸化数を変えることで分光学的性質及び磁気的性質が変化することを特徴とする特許請求の範囲第1項〜第3項に記載のいずれかに記載の有機-無機複合膜組織。
【請求項5】
中心金属に対して軸配位子を添加することで分光学的性質、磁気的性質及び電気化学的性質が変化することを特徴とする特許請求の範囲第1項〜第4項に記載のいずれかに記載の有機-無機複合膜組織。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−124349(P2006−124349A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317430(P2004−317430)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 53巻2号」に発表
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】