説明

自立メソポーラスカーボン薄膜。

【課題】電極材料、電極触媒、センサー、吸着材料等として有用な、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有する、新規な自立メソ多孔体カーボン薄膜を提供する。
【解決手段】下記工程を組み合わせることにより得られ、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有する自立メソポーラスカーボン薄膜。
(i)界面活性剤と、熱硬化性樹脂前駆体とその架橋剤からなるカーボン前駆体との混合物を基板上に塗布しその薄膜を形成する工程
(ii)該薄膜を、20〜25 ℃、大気圧条件下で、乾燥する工程
(iii)乾燥した薄膜を加熱してカーボン前駆体をポリマー化する工程
(iv)ポリマー化された薄膜を焼成炭化する工程
(v)焼成炭化されたカーボン薄膜を基板から剥離する工程
(vi)剥離した自立カーボン薄膜を更に焼成炭化する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料、電極触媒、センサー、吸着材料等として有用な、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を持つ新規な自立炭素膜に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、規則性メソポーラスシリカ材料は、細孔径 2 〜 50 nmのメソ孔が狭い細孔径分布で2ないし3次元的に規則的に並んだ構造を有するものである。
通常、界面活性剤の自己組織化やメソ構造を鋳型として合成される材料であり、その細孔径分布がシャープであること、細孔表面を種々の有機官能基で修飾できることから、触媒、フィルタや各種センサーへの応用が試みられている。
【0003】
このように、メソポーラスシリカ材料は、ミクロ孔およびマクロ孔とは異なる反応場を提供し、特異的な反応を期待することが出来る。
以上のようにメソポーラスシリカ材料は反応場として大きな可能性を有する材料であるが、メソポーラスシリカ材料を電気化学的反応の反応場(電極材料)として利用するためには、材料自体が電気伝導性を有していることが必要である。
【0004】
しかしながら、通常シリカ系の材料は電極反応に十分な電気伝導性を有しない。また、メソポーラスシリカは結晶性が低いため、熱や酸・アルカリの条件に対して比較的脆弱であることが知られており、反応場として利用するには、多くの制約が存在する。
【0005】
一方、メソ多孔体カーボンは、高い電気伝導性、高い物理的・化学的強度を有しており応用への制約が小さいため、例えば、規則的メソ細孔を有するメソ多孔体カーボン粒子を固体高分子形燃料電池(PEFC)の触媒担体に用いた場合、メソ細孔もしくは規則的メソ細孔を有しない担体を用いた場合と比べて、異なる電気化学的特性を示すことが知られている。
ところで、このようなメソ多孔体カーボンは、従来、規則的な構造を持つメソポーラスシリカテンプレートを合成し、それを鋳型として転写することで調製されるのが一般的である(特許文献1)。
【0006】
この場合、メソポーラスシリカの細孔部分にカーボン前駆体がロッド状に形成され、それらが炭化されたカーボンロッドによって結合されている状態になる。つまり、メソ多孔体カーボンのメソ細孔と言われている部分は鋳型の壁の部分になり、鋳型の孔径を変えても、壁面厚さへの影響が小さく、結果として2〜3nm程度の孔径を持つメソ多孔体カーボンしか合成できない。
【0007】
また、界面活性剤とカーボン前駆体を含む溶液をシリコン基板上に塗布した後、該塗布膜を乾燥、焼成・炭化することにより、メソ細孔を有するカーボン膜を基板上に製膜する方法も提案されている(特許文献2)。
【0008】
しかしながら、この文献で得られる薄膜は、メソ細孔を有するものの非自立性のものであり、自立したメソ多孔体カーボン薄膜についての調製法については何ら記述するところがなく、またこの方法では、メソ細孔の開口部の向きに対して特に言及が無く、一般には膜面に対して平行なものが得られるだけであり、膜面に対して垂直なものは得られないといった難点があった。
【0009】
【特許文献1】特開2006−335596号公報
【特許文献2】特開2005−314223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、電極材料、電極触媒、センサー、吸着材料等として有用な、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有する、新規な自立メソ多孔体カーボン薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、界面活性剤とカーボン前駆体の自己組織化を利用する直接合成において特有なプロセスを採用すると、意外にも、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有する、新規な自立メソ多孔体カーボン薄膜が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち、この出願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉下記工程を組み合わせることにより得られ、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有する自立メソ多孔体カーボン薄膜。
(i)界面活性剤と、熱硬化性樹脂前駆体とその架橋剤からなるカーボン前駆体との混合物を基板上に塗布しその薄膜を形成する工程
(ii)該薄膜を、15 〜 30 ℃、大気圧条件下で乾燥する工程
(iii)乾燥した薄膜を加熱してカーボン前駆体をポリマー化する工程
(iv)ポリマー化された薄膜を焼成炭化する工程
(v)焼成炭化されたカーボン薄膜を基板から剥離する工程
(vi)剥離した自立カーボン薄膜を更に焼成炭化する工程
〈2〉基板が多孔性アルミナであることを特徴とする上記〈1〉に記載の自立メソ多孔体カーボン薄膜。
〈3〉熱硬化性樹脂前駆体がフェノール類であり、架橋剤がアルデヒド類であることを特徴とする上記〈1〉に記載の自立メソ多孔体カーボン薄膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自立メソ多孔体カーボン薄膜は、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有することから、メソ細孔本来の機能が十分に発揮され、センサー、電極、触媒担体、分離膜として有効に使用することができる。
また、基板上に設けられた薄膜と異なり、自立膜であることから、その応用において、基板の材質の物性(例えば、熱、化学的耐久性、光学特性、誘電率、透磁率等)による制約を受けないため適用分野が拡がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の自立メソ多孔体カーボン薄膜は、下記工程を組み合わせることにより得られ、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有することを特徴としている。
(i)界面活性剤と、熱硬化性樹脂前駆体とその架橋剤からなるカーボン前駆体との混合物を基板上に塗布しその薄膜を形成する工程
(ii)該薄膜を、15 〜30 ℃、大気圧条件下で、乾燥する工程
(iii)乾燥した薄膜を加熱してカーボン前駆体をポリマー化する工程
(iv)ポリマー化された薄膜を焼成炭化する工程
(v)焼成炭化されたカーボン薄膜を基板から剥離する工程
(vi)剥離した自立カーボン薄膜を更に焼成炭化する工程
【0014】
本発明でいう、自立メソ多孔体カーボン薄膜とは、基板の有無に拘わらず、その形状を保持できる機械的強度を有し、電気伝導性を有する、2〜50nmの規則性メソ細孔を有するカーボン薄膜を意味する。
また、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造とは、薄膜の膜面の法線方向に細孔の長軸方向が平行であることを意味する。
このような特有な自立メソ多孔体カーボン薄膜は、上記(i)〜(vi)の工程を有機的に組み合わせることによって合成される。
以下、これらの工程を順次説明する。
【0015】
(i)の工程では、界面活性剤と、熱硬化性樹脂前駆体とその架橋剤からなるカーボン前駆体との混合物を調製し、これを基板上に塗布しその薄膜を形成するものである。
界面活性剤としては、特に制限はないが、カーボン前駆体との自己組織化において有効的に働くという点からみて、非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド(PEO−PPO−PEO)或はポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド(PPO−PEO−PPO)からなる分子量約2000から約13000程度の様々な重合比のトリブロック共重合体の他、アルキル基のカーボン数が12から18のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポチオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン等を使用することができる。特に、本反応系ではトリブロック共重合体或はポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用が好ましい。
【0016】
本発明のカーボン前駆体は熱硬化性樹脂前駆体とその架橋剤からなる。
熱硬化性樹脂としては、炭素含有化合物であって、界面活性剤の存在下でポリマー化し、焼成・炭化後にカーボンメソ多孔体となるものであれば、いずれのものも使用できるが、易ポリマー化の点からみて、ベンゼン環にOH基を有する有機化合物とCO基を有する有機化合物を併用することが好ましい。
ベンゼン環にOH基を有する有機化合物としては、たとえば、フェノール、レソルシノール等のフェノール類が好ましい。特にレゾルシノールが好ましい。
架橋剤としては、CO基を有する有機化合物、たとえば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類が例示される。特にホルムアルデヒドが好ましい。
カーボン前駆体と界面活性剤の使用割合は特に制約されないが、前駆体としてレソルシノールとホルムアルデヒドを使用した場合には、たとえば、重量比で、レソルシノール:ホルムアルデヒド:界面活性剤=1:0.31:0.57とするのがよい。
【0017】
また、本発明においては、界面活性剤とカーボン前駆体の混合物は有機溶媒/水に溶解させておくことが好ましい。有機溶媒としては、反応物質を溶解し、また水と混ざり合うものであれば、特に制限はなく、たとえば、アルコールなどが用いられる。本発明で好ましく使用される有機溶媒は、エタノールである。
また、オルト酢酸トリエチルなどの反応促進剤や反応助剤を用いることが好ましい。
【0018】
上記カーボン前駆体が塗布される基板としては、後段の(iii)の工程において、薄膜を剥離することが可能な基板であれば制約されないが、アルミナ、多孔質アルミナ、石英、サファイア、シリコン、カーボン基板などが挙げられる。この中でも、多孔質アルミナを用いることが最も好ましい。この理由は現時点では明らかではないが、多孔質アルミナの有するポアがメソ細孔の垂直配列に影響を与え、垂直配向した規則的メソ細孔を有する自立炭素薄膜が形成され易くなることによると考えている。
なお、基板の形状は限定されず、平板状でも曲率をもったものでもよい。
【0019】
また、基板上に、前記カーボン前駆体と界面活性剤の混合物の薄膜を形成する方法は、特に制約されず、たとえば、ディップコーティング法やスピンコーティング法、含浸法を採ればよい。
薄膜の形成温度すなわち前記薄膜前駆体を塗布する温度は、特に制限はないが20 〜 25 ℃とするのがよい。
【0020】
(ii)の工程は、上記で得られる薄膜を乾燥する工程である。この工程は、メソ構造の配向のために極めて重要な工程であり、そのために乾燥温度は、15 〜 30 ℃、好ましくは20 〜 25 ℃に、乾燥圧力は、大気圧下とすることが必要である。乾燥時間は 6 〜 24 時間、好ましくは 12 〜 15 時間とすることが好ましい。
このような乾燥条件を採用しないと、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有する自立メソ多孔体カーボン薄膜を得ることが困難となる。
なお、この乾燥工程では、適度な乾燥速度を維持するために、乾燥空気などを送風することが好ましい。
【0021】
(iii)の工程は、上記で得られる乾燥薄膜を加熱してカーボン前駆体をポリマー化する工程である。この工程は、(ii)の工程で乾燥した前駆体薄膜を有する基板を、イナートガスオーブンで空気中、たとえば100 〜 120 ℃、3 〜 12時間加熱、好ましくは、105 ℃、6時間加熱し、レソルシノールとホルムアルデヒドからなるカーボン前駆体をポリマー化する工程である。この工程は、(ii)の過程で生成したブロックコポリマーとカーボン前駆体からなる自己組織体(メソ構造)を固定化する工程である。この工程の結果、カーボン前駆体は、半透明のオレンジ色のポリマーとなり、カーボン前駆体のポリマー薄膜が被覆された基板が得られる。
【0022】
(iv)の工程は、上記で得られるポリマー化された薄膜を焼成炭化する工程である。この工程では、(iii)で得られたポリマー薄膜が被覆された基板を、アルゴンガス雰囲気下で加熱し、自己組織化体中の酸素原子・水素原子の脱離を伴う反応によって、ポリマー薄膜を炭化させる工程である。この炭化工程は、たとえば、室温(20 〜 30 ℃)から400 ℃まで、好ましくは1 〜 2 ℃/minで昇温後、300 〜 400 ℃、好ましくは400℃で3 〜 6時間保持することで行なわれる。1 〜 2 ℃/minの比較的ゆっくりとした速度で昇温することにより(ii)および(iii)の工程で得られた、自己組織体(メソ構造)が維持されたままカーボン化が進む。この工程の結果、カーボン前駆体ポリマー薄膜は、濃茶褐色〜黒色のカーボン膜になる。
【0023】
(v)の工程は、上記で得られる焼成炭化されたカーボン薄膜を基板から剥離する工程である。この工程では、(iv)の工程後、基板表面に形成される濃茶褐色〜黒色のカーボン膜をアルミナ膜から剥離させる工程である。この工程を経ることによって自立カーボン膜が得られる。
この剥離工程はたとえば、機械的な剥離(ピンセットやカミソリで基板から物理的に取り除く)もしくは基板をエッチングして除去するなどの方法によっておこなえばよい。
【0024】
(vi)の工程は、剥離した自立カーボン薄膜を更に焼成炭化する工程である。この工程では、(v)で得られたカーボン自立膜を、アルゴンガス雰囲気下、磁性るつぼ中で、たとえば 600 〜 800 ℃まで1 〜 4 ℃/minで昇温後、600 〜 800 ℃で3 〜 6時間保持し、カーボン化を進める。最終的にカーボンメソ多孔体膜は黒色の自立薄膜として得られる。この工程によって、自立カーボン膜のカーボン化が進行し、物理的・化学強度が向上し、高い電気伝導性をもつカーボン膜が得られる。
【0025】
本発明で得られる自立メソ多孔体カーボン薄膜は、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有するものであり、メソ細孔は、2〜50nm好ましくは 5〜20 nmである。メソ細孔の数や密度は特に制約されないが、通常、細孔の開口部同士の距離(壁間距離)が10nm〜25 nmである。
本発明の自立メソ多孔体カーボン薄膜は、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有することから、メソ細孔本来の機能が十分に発揮され、センサー、電極、触媒担体、分離膜として有効に使用することができる。
また、基板上に設けられた薄膜と異なり、自立膜であることから、その応用において、基板の材質の特性(例えば、熱・物理的・化学的耐久性、光学特性、誘電率、透磁率等)による制約を受けないため適用分野が拡がる。
【実施例】
【0026】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明する。
【0027】
実施例1
(カーボン前駆体の合成)
1.65 gのレソルシノール(和光純薬製)を4.35 g超純水(Milli Q)・5.75 gエタノール(和光純薬製)・0.15 mL 5 M塩酸(和光純薬製)に溶解させた。この溶液に、0.945 gのPluronic F-127 (SIGMA製)を加え、完全に溶解させた。その後、1.2 gのオルト酢酸トリエチル(和光純薬製)と1.35 gの37 % ホルムアルデヒド (和光純薬製)を加えて、約30 ℃で20分攪拌し、カーボン前駆体を得た。
(カーボン膜の合成)
磁性蒸発皿中に置いた、ポーラスアルミナ膜 (Whatman社製、ポアサイズ200 nm、直径47 mm)に、前記カーボン前駆体を4 ml滴下し、15時間室温で乾燥させた。乾燥した前駆体・アルミナ膜を、イナートガスオーブンで空気中、105 ℃、6時間加熱し、レソルシノールとホルムアルデヒドからなるカーボン前駆体をポリマー化した。
得られたカーボン前駆体ポリマー被覆ポーラスアルミナ膜を、アルゴンガス雰囲気下で加熱した。加熱は、室温から400 ℃まで1 ℃/minで昇温後、400 ℃で3時間保持した。加熱後、ポーラスアルミナ膜表面に形成されたカーボン膜をアルミナ膜から剥離させるとカーボン自立膜が得られた。
得られたカーボン自立膜を、アルゴンガス雰囲気下、磁性るつぼ中で、600 ℃まで2 ℃/minで昇温後、600 ℃で3時間保持し、カーボン化を進めた。最終的にメソ多孔体カーボン膜は黒色の自立薄膜として得られた。面積は約20 mm2、膜厚は、約110 μmであった。
【0028】
(メソ多孔体カーボン膜のSEM観察)
上記で得たメソ多孔体カーボン膜を、電界放射走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7000F)を用いて観察した結果、細孔径7〜8 nm、壁間距離12〜14 nmの規則性の高いメソ細孔が観察された(図2)。また、メソ細孔は、膜面に対して垂直な方向に開口していた。
【0029】
(メソ多孔体カーボン膜の窒素吸着測定)
つぎに、上記で得たメソ多孔体カーボン膜の窒素吸着測定を独立マルチポート型比表面積/細孔分布測定装置 (Qantachrome製, QUADRASORB SI)を用いて行った。前処理として、真空中で200 ℃, 2時間乾燥させ、0.0180 gのメソ多孔膜カーボンの測定を行った。図3に示す窒素吸着等温線は、吸脱着でヒステリシスを有しておりメソ構造が存在していることが分かった。
吸着側の等温線をBJH法で解析した。その細孔分布曲線を図4に示す。図4から平均細孔径が7〜8 nmであることがわかった。また、BET比表面積は746 m2/gと高い表面積を有していた。これは、メソ細孔構造に由来すると考えられる。
【0030】
(メソ多孔体カーボン膜の断面観察)
更に、上記で得たメソ多孔体カーボン膜を、熱硬化樹脂に包埋してクロスセクションポリッシャ(日本電子製 SM-09010)を用いてアルゴンイオンで研磨して断面観察試料を作製した。作製した試料を観察した結果、垂直に並んだメソ構造が観察された(図5)。すなわち、図5は、樹脂包埋したカーボン膜をアルゴンイオンで研磨して作製した横断面写真である。写真の上半分は包埋樹脂、下半分は、カーボン膜である。この図5から、カーボン膜中にメソ構造(細孔)が垂直に並んでいるのが十分に観察される。
【0031】
(メソ多孔体カーボン膜の小角X線回折測定)
つぎに、小角X線散乱測定装置 (RIGAKU社製、Nano Viewer)を用いて、配向メソ多孔カーボン薄膜のX線構造解析を行った。図6に小角XRD測定の結果を示す。図6より、配向炭素膜では、二つのピークが観測された(図6中の(A)および(B))。(A)は2θ= 0.654° 、(B)は2θ= 0.775°である。測定に用いたX線(CuKα)の波長(0.154 nm)より、(A)は壁間距離にほぼ相当する d = 13.5 nmの構造に相当するピークであり、(B)はd = 11.4 nmに相当するピークである。X線回折パターン(1)〜(3)は、同一の膜試料をX線の光軸に対して回転させて測定したものであり、ピーク(B)は、膜の回転にともなって強度が変化することから、膜の法線方向の構造に由来するピークと推測される。膜と同じ処方の前駆体を用いて合成したメソ多孔体カーボン粒子(アルミナ膜に塗布しないで合成)(図中(4)のXRDパターン)と比較すると、粒子の場合(パターン4)にはピーク(B)が存在しないことから、得られたカーボン膜はより高い配向性を有していると考えられる。
【0032】
(メソ多孔体カーボン膜の耐熱性)
上記で得たメソ細孔カーボン膜に、物理的・化学的強度の向上ならびに高い電気伝導性の付与を目的として、より高い温度でカーボン化をおこなった。加熱処理は、実施例1で得られた試料を、アルゴン雰囲気下で、室温から1200 ℃まで4 ℃/minで昇温後、1200 ℃で3時間保持して行った。得られたカーボンメソ多孔体膜の窒素吸着特性を上記と同様な方法で測定した。その結果を図4に示す。図4に示されるように、その細孔径分布は、600 ℃でカーボン化処理した試料とほとんど変わらず、本発明のメソ多孔体カーボン膜は1200 ℃に加熱してもその細孔構造が維持され、耐熱性に極めて優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1の自立メソ多孔体カーボン薄膜の光学写真
【図2】実施例1の自立メソ多孔体カーボン薄膜の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)
【図3】実施例1の自立メソ多孔体カーボン薄膜の窒素吸着等温線
【図4】実施例1の自立メソ多孔体カーボン薄膜の細孔分布曲線
【図5】実施例1の自立メソ多孔体カーボン薄膜の断面(横断面)観察写真
【図6】実施例1の自立メソ多孔体カーボン薄膜の小角XRDパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を組み合わせることにより得られ、メソ細孔が膜面に対して垂直な方向に開口した規則的メソ多孔体構造を有する自立メソ多孔体(メソポーラス)カーボン薄膜。
(i)界面活性剤と、熱硬化性樹脂前駆体とその架橋剤からなるカーボン前駆体との混合物を基板上に塗布しその薄膜を形成する工程
(ii)該薄膜を、15〜30℃、大気圧条件下で、乾燥する工程
(iii)乾燥した薄膜を加熱してカーボン前駆体をポリマー化する工程
(iv)ポリマー化された薄膜を焼成炭化する工程
(v)焼成炭化されたカーボン薄膜を基板から剥離する工程
(vi)剥離した自立カーボン薄膜を更に焼成炭化する工程
【請求項2】
基板が多孔性アルミナであることを特徴とする請求項1に記載の自立メソ多孔体カーボン薄膜。
【請求項3】
熱硬化性樹脂前駆体がフェノール類であり、架橋剤がアルデヒド類であることを特徴とする請求項1に記載の自立メソ多孔体カーボン薄膜。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−221050(P2009−221050A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67013(P2008−67013)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)資源エネルギー庁委託研究「平成19年度 燃料電池先端科学研究」産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】