説明

自転歩行器

【課題】使用者の足の動きを歩行動作に規定して車輪を回転させることで、本来の歩行動作に則した足の動きが体現できる歩行訓練を促すと同時に、車輪移動により歩行動作移動の助勢をする歩行器の提供。
【解決手段】左右のフレーム11を連結した主車輪51を備える歩行器であり、前記主車輪51に回転を伝えるクランク棒31と、該クランク棒31にその摺動を規定限度内に許しながら回転を与える下部摺動溝23と倶に該下部摺動溝23の上側に前記フレームとの間に回動と規定限度内の摺動を許す係合を保持する振り脚21と、該振り脚21の下端に設けられる足を載せる踏板22とからなり、左右の前記踏板22の動作が歩行動作の足の動きに近似され、該踏板22の周期運動と前記主車輪51の回転とを連動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行の助勢および訓練に使用する歩行器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、特許文献1に示す運動器具のように、足の動作を車輪の回転運動に変えて前進する移動装置が考えられている。
しかしながら、この複雑なリンク機構を利用した方法では、歩行動作を忠実に再現することは難しく、実際の歩行においては躓きの要因ともなるつま先が下がった状態が続いたままであり、つま先を上げて踵から着地する本来の歩行動作の踏み出しを体現することができない。従って、歩行訓練のためにも、車輪の助勢を受けた歩行移動のためにも、本来の歩行動作に則した足の動きが体現できる、もっと有効な手段が望まれる。
【特許文献1】アメリカ 特許明細書 005611757
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、使用者の足の動きを歩行動作に規定して車輪を回転させることで、本来の歩行動作に則した足の動きが体現できる歩行訓練を促すと同時に、車輪移動により歩行動作移動の助勢をする歩行器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述の課題を解決するために、第一発明は、左右のフレームを連結した主車輪を備える歩行器であって、前記主車輪に回転を伝えるクランク棒と、該クランク棒にその摺動を規定限度内に許しながら回転を与える下部摺動溝と倶に該下部摺動溝の上側に前記フレームとの間に回動と規定限度内の摺動を許す係合を保持する振り脚と、該振り脚の下端に設けられる足を載せる踏板とからなり、左右の前記踏板の動作が歩行動作の足の動きに近似され、該踏板の周期運動と前記主車輪の回転とが連動する自転歩行器である。
【0005】
また、第二発明は、左右の前記フレームの少なくとも一方に、前記クランク棒の回転と前記主車輪の回転を相互に伝達する変速自由な伝動部を備える第一発明に記載の自転歩行器である。
【0006】
また、第三発明は、前記伝動部を左右の前記フレームに倶に設け、それぞれ独立に回転速度の伝達を変えたり切ったりする変速機あるいはクラッチ機構を備える第一発明または第二発明に記載の自転歩行器である。
【0007】
また、第四発明は、外部からの力あるいは発動機により前記主車輪を回転させるか、あるいは助勢することで前記振り脚を動作させる第一発明から第三発明のいずれかに記載の自転歩行器である。
【0008】
また、第五発明は、前記主車輪による移動が固定化され、前記踏板の周期運動が本体の移動を伴わない第一発明から第四発明のいずれかに記載の自転歩行器である。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成から第一発明により、歩行訓練と同時にその歩行動作で自転車のように車輪移動ができる。
また、第二発明により、主車輪の位置が限定されずに済み、また歩行動作にかかる負荷の調整ができるため、実際の歩行よりも負担の軽い、もしくは、重い歩行動作での訓練や移動ができる。
また、第三発明により、左右の歩行動作への負荷が個別に変えられると同時に左右の車輪の回転数が個別に変えられるので、直進だけでなく曲がることもできる。
また、第四発明により、歩行動作の倣い訓練ができ、麻痺等で思うように動かない下肢に運動能力の覚醒が図られる。
また、第五発明により、その場で、自他で、歩行動作の確認ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一実施形態を、図1〜3に示す。
自転歩行器本体1は、歩行動作に伴って前進する歩行器であって、フレーム部10と振り脚部20とクランク部30と伝動部40と車輪部50からなり、振り脚部20の下端に足を乗せて歩行動作をすることによりクランク部30を回転させ、その回転を伝動部40を介して主車輪51に伝えることで前進する。
【0011】
振り脚部20は、その骨格を形成する振り脚21の下端に踏板22が設置され、中間部には下部摺動溝23と上部摺動駒24が設けられ、上端には把持部25と肘掛26が備わる構造となっており、振り脚21は踏板22や肘掛26の取り付けやその位置関係のために屈曲した形状となって左右の足や腕に適応する様に左右の振り脚21Lと振り脚21Rが対称にフレーム部10に組み込まれている。
【0012】
クランク部30は、クランク状のハンドルを互い違いになるように連結した円断面をしたクランク棒31とストッパー32とからなり、クランク棒31の互い違いのそれぞれの対称位置にあたる直線部分が前述の左右の振り脚21の下部摺動溝23に通され、ストッパー32により挟み込まれることで、下部摺動溝23の縦方向の摺動だけを許しながら、振り脚21の横方向へのずれを防いでいる。
【0013】
伝動部40は、クランク棒31の回転が伝わる原動プーリー41と、その原動プーリー41の回転を伝達するベルト42と主車輪51と一体に回転する従動プーリー43とから構成されている。
【0014】
フレーム部10は、下部において伝動部40を保持するフレーム11と、その左右のフレーム11L、Rを前面側で連結する連結バー12と、フレーム11の中間部にあって前述の振り脚21の中間部に設けられた上部摺動駒24の摺動を規定限度内に許す上部摺動溝13を有する側面板14と、上部にある腋当15と後部に取っ手16を備え、最下部に主車輪51と従車輪52を設けている。尚、この一実施形態の場合には、フレーム11の高さ及び連結バー12の幅が締結ピン17により調節できるようになっている。
【0015】
いま、使用者は左右の踏板22L、Rに乗り、両脇を腋当15L、Rにあてがい、把持部25L、Rを握り、肘掛26L、Rに前腕を載せてフレーム部10に体を支えられている。この状態から左右いずれかの上側前方の踏板22を踏み込むと下部摺動溝23の上端部に接するクランク棒31は下側に回される。この時、クランク棒31の反対側は下部摺動溝23の中間部を摺動しながら、上部摺動溝13の下端部に位置する上部摺動駒24を中心に振り脚21を回転させて、反対側の踏板22を後方へと移動させる。
【0016】
次ぎに踏み込んだ側の踏板22を上部摺動駒24が上部摺動溝13の下端部に来るまで下げて、引き続き体重を利用して踏板22を下側後方に移動させると、上部摺動駒24を中心に振り脚21が回転し、クランク棒31が下部摺動溝23の中間部を移動しながら更に回される。この時、反対側のクランク棒31は下部摺動溝23の上端部に当接して、その上端部を持ち上げ、上部摺動駒24を上部摺動溝13に沿って上動させる。そして、上死点を過ぎたところで、今度は上側前方に来たこちらの踏板22を踏み込むと左右の踏板22を逆にして同じことが繰り返される。
【0017】
この時、クランク棒31の回転が軸を同じくする原動プーリー41を回転させ、その回転がベルト42を介して従動プーリー43に伝わり、その同じ軸に設けられる主車輪51を回転させ、自転歩行器本体1を前進させる。尚、クランク棒31の回転と踏板22の中心位置の軌跡は図2、3のようになり、歩行動作の足の動きに近似した踏板22の周期運動がクランク棒31の回転運動に換わる。
【0018】
一方、把持部25と肘掛26の振り脚21上端は上部摺動駒24を支点に踏板22とは逆に動くので、実際の歩行動作と同じような腕の動きで踏板22の動きを助勢できる。
尚、図3には図2とは逆に、上部摺動溝13が振り脚21側に、上部摺動駒24が側面板14側に設けられた場合が示されているが、回動と規定限度内の摺動を許す係合であれば図2、3に示される形態に限定されるものではなく、例えばストッパーの付いた振り脚21をフレーム11に設けた単なる水平な穴で受ける形態であっても良い。
また図3には、踏板22がローラー27の空回りを介してアジャスター28により弾性的に路面に接する場合が示されているが、これにより、車輪で移動しながらも路面に着地する感触が得られる歩行訓練ができる。
【0019】
また、伝動部40はベルトとプーリーの組合せに限定されるものではなく、チェーンとスプロケットの組合せ、複数歯車の組合せでも良く、ギヤ比を変えることにより歩行動作における負荷を自由に変えられるので、使用者の身体能力に合った負荷で使用できる。
また、変速機付の自転車のように手元で操作できる変速機を付けることで路面の傾斜や体調の変化に応じた移動時における適宜な負荷が選べる。尚、従動プーリー43の回転を主車輪51に伝えるときに、自転車と同じく一方向クラッチを介入させて惰性運転をさせることもできるが、その際には車輪を制動するブレーキも必要とされる。
【0020】
また、主車輪51は、片側だけの従動プーリー43の回転を連結軸53でつないで左右両側で一緒の回転をしているが、伝動部40を両側に設けてそれぞれの従動プーリー43の回転を主車輪51L、Rに伝えても良い。この際に連結軸53を無くし、左右の伝動部40でそれぞれ独立に、変速機あるいはクラッチ機構により回転の伝達を変えたり切ったりすることで、左右の歩行動作への負荷が個別に変えられると同時に左右の車輪の回転数が個別に変えられるので、進行方向を変えて曲がることもできる。そのため、麻痺の残る片足側だけに負荷を弱めて、同じ範囲内で円移動させながら訓練を観察すると云ったこともできる。
【0021】
また、腋だけではなくサドルやベルト等を利用してフレーム部10に体重を預けることで、水中歩行と同じように体重負荷を軽減しながら、水中歩行とは違って水圧の抵抗を受けない歩行訓練ができる。
【0022】
また、介助者が取っ手16を押すことにより、または、手元操作あるいは脳波信号等を利用した駆動装置で主車輪51を回転させることにより、それに起因するクランク棒31の回転運動が歩行動作の足の動きに近似した踏板22の周期運動に換わり、逆に歩行動作を誘導して使用者に歩行を倣わせることができるし、歩行をアシストすることもできる。
また、この自転歩行器1に使用者が逆向きに乗り、介助者が、取っ手16を引っ張りながら歩行動作を確認することも、主車輪51による移動を固定化してその場にとどまった状態で歩行動作を確認することもできる。
【0023】
尚、この一実施形態の場合は、クランク部30の回転の中心点と振り脚部20の回転の中心となる上部摺動溝13や上部摺動駒24の中心点の垂線とがずれているが、同一線上であっても良いし、振り脚21下端の踏板22も側面から見てL字型の取り付けに限られるものではなく、振り脚21の下端を二股に分けて逆T字型に取り付けても良い。また、同様に肘掛26もT字型に取り付けても良い。
【0024】
尚、図2、3上の円弧Aは上部摺動駒24を中心とする下部摺動溝23の上端限度位置の回動軌跡を表し、この一実施形態の場合は、歩行動作の歩き出しにあたる踏板22を前方から後方に移動させる死点Dにおいてクランク棒31に逆回転方向への力が加わらないように、該死点Dがクランク棒31の軌道上で水平軸より下になるように設定してある。
【0025】
また、この一実施形態の場合は、反対側の踏板22を後方に移動させて振り脚部20をクランク棒31により持ち上げる行程を助けるために、上部摺動溝13上部に上部摺動駒24を上方に引っ張るコイルばね133が備えてある。尚、この部品は上部摺動駒24を上方に付勢する弾性体であればコイルばねに限定されるものではないし、上部摺動溝13上部の位置に限定されるものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】クランク棒と踏板の位置と、その軌跡を示す動態図である。
【図3】他の実施形態のクランク棒と踏板の位置と、その軌跡を示す動態図である。
【符号の説明】
【0027】
1 自転歩行器本体
10 フレーム部
11 フレーム
12 連結バー
13 上部摺動溝 133 コイルばね
14 側面板
15 腋当
16 取っ手
17 締結ピン
20 振り脚部
21 振り脚
22 踏板
23 下部摺動溝
24 上部摺動駒
25 把持部
26 肘掛
27 ローラー
28 アジャスター
30 クランク部
31 クランク棒
32 ストッパー
40 伝動部
41 原動プーリー
42 ベルト
43 従動プーリー
50 車輪部
51 主車輪
52 従車輪
53 連結軸
A 円弧 D 死点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のフレームを連結した主車輪を備える歩行器であって、前記主車輪に回転を伝えるクランク棒と、該クランク棒にその摺動を規定限度内に許しながら回転を与える下部摺動溝と倶に該下部摺動溝の上側に前記フレームとの間に回動と規定限度内の摺動を許す係合を保持する振り脚と、該振り脚の下端に設けられる足を載せる踏板とからなり、左右の前記踏板の動作が歩行動作の足の動きに近似され、該踏板の周期運動と前記主車輪の回転とが連動する自転歩行器。
【請求項2】
左右の前記フレームの少なくとも一方に、前記クランク棒の回転と前記主車輪の回転を相互に伝達する変速自由な伝動部を備える請求項1に記載の自転歩行器。
【請求項3】
前記伝動部を左右の前記フレームの両方に設け、それぞれ独立に回転速度の伝達を変えたり切ったりする変速機あるいはクラッチ機構を備える請求項1または請求項2に記載の自転歩行器。
【請求項4】
外部からの力あるいは発動機により前記主車輪を回転させるか、あるいは助勢することで前記振り脚を動作させる請求項1から請求項3のいずれかに記載の自転歩行器。
【請求項5】
前記主車輪による移動が固定化され、前記踏板の周期運動が本体の移動を伴わない請求項1から請求項4のいずれかに記載の自転歩行器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−81033(P2012−81033A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229164(P2010−229164)
【出願日】平成22年10月10日(2010.10.10)
【特許番号】特許第4806094号(P4806094)
【特許公報発行日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(304050107)