説明

自転車用スプロケット

【課題】 スプロケットと支持体との接触部をより広く確保できるようにして、これらの摩耗を抑える。
【解決手段】 この自転車用スプロケットは、スプロケット本体(504)と、スプロケット本体(504)から半径方向外側に向かって延び自転車用チェーンと係合するように形成された複数の歯(512)と、スプロケット本体(504)から半径方向内側に向かって延びるスプライン(516)とを備えている。そして、スプライン(516)は半径方向外側に向く半径方向外面(520)を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用スプロケット、特に、厚みの厚いスプラインを有する自転車用スプロケット関する。
【背景技術】
【0002】
自転車用変速機は、通常、内装変速機または外装変速機により構成される。内装変速機は、通常、回転ハブに組み込まれた遊星ギア機構を備え、遊星ギア機構に連結されたスプロケットを駆動するのにチェーンが使用される。遊星ギア機構には、希望の速度ステップを選択するためのクラッチ機構が連結され、乗り手は、変速操作装置を操作してクラッチ機構を制御する。また、外装変速機は、複数の外部スプロケットの間でチェーンを切り替えるためのディレイラを備え、乗り手は、変速操作装置を操作してディレイラを制御する。一部の仕様では、複数のスプロケットを、ハブに取り付けられた遊星ギア機構に連結して、複数のスプロケットの間でチェーンをシフトするためにディレイラを用いることで、内装変速機及び外装変速機の両方の機能が組み合わされている。このような構成では、利用可能な速度ステップの数が倍増する。乗り手が操作する変速操作装置は、クラッチ機構及びディレイラを制御するために使用される。いずれにしろ、1つまたは複数のスプロケットを有利な方法で設置するのが常に望ましい。
【特許文献1】特開平06−307520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上のようなスプロケットを支持体に装着する場合、スプロケットと支持体との接触部の面積をある程度確保し、接触部におけるスプロケットの塑性変形を防止しなければならない。同時に、スプロケットの接触部以外の部分は軽量化のために薄くすることが望ましい。
【0004】
本発明の課題は、スプロケットと支持体との接触部をより広く確保しつつ、スプロケットの他の部分の厚みを薄くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る自転車用スプロケットは、回転軸を中心に回転するものであって、スプロケット本体と、スプロケット本体から半径方向外側に向かって延び自転車用チェーンと係合するように形成された複数の歯と、スプロケット本体から半径方向内側に向かって延びるスプラインとを備えている。そして、スプラインは半径方向外側に向く半径方向外面を有している。
【0006】
本発明のその他の特徴は、以下の説明から明らかになり、そのような特徴は、単独、あるいは上記の特徴との組合せにより、附随する請求事項や同等の請求に列挙されるように、さらなる発明の基礎を形成する可能性がある。
【発明の効果】
【0007】
以上のような本発明では、スプライン部分の幅を広く確保することができるので、スプロケットと支持体との接触部のみをより広く確保でき、軽量化とともに接触部におけるスプロケットの塑性変形を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[基本的構成]
図1は、例えば、自転車の後方フレーム部分に取付可能な、自転車用ハブ10の部分的断面図である。ハブ10は、クイックレリーズ軸18と、クイックレリーズ軸18の一端に螺合される固定ナット22と、クイックレリーズ軸18の他端と係合するカムナットアセンブリ26とにより構成されるクイックレリーズ軸アセンブリを備え、この構成によって、カムレバー30が回転すると、固定ナット22と、カムナットアセンブリ26との間の軸方向の距離が縮まり、それによってハブ10が従来の方法で自転車に固定される。クイックレリーズ軸18は、ハブ軸34によって囲まれている。ハブ軸34は、リテーナ38及びハブ軸34自体の端部42によってクイックレリーズ軸18上に保持される。ハブ軸34上には、ハブシェル46が軸受アセンブリ50及び54によって回転自在に支持されている。軸受アセンブリ50は、傾斜面58によってハブ軸34上に軸方向に固定され、軸受アセンブリ54は、ハブ軸34上に配置されたリテーナ62と、スペーサ66と、止めナット70とによって軸方向に固定される。ハブ軸34上には、スプロケット支持部74が、従来の方法で、軸受アセンブリ78及び82によって回転自在に支持されて、リテーナ38によって軸方向に支持されている。スプロケット支持部74は、ハブシェル46に対して一方向のみに回転するように、従来の方法で、一方向ラチェットつめ機構86を介してハブシェル46にも連結されている。
【0009】
図2Aはスプロケット支持部74の部分的断面図を示し、図2Bは図2Aの2B−2B線による断面図を示す。これらの図に示すように、スプロケット支持部74は、雌ねじ部92を有する第1外周面部分90と、第2外周面部分94と、フランジ部分96とを備えている。第1外周面部分90は、図2Bの参照文字Cで示された軸及び中心を有するクイックレリーズ軸18によって定められた回転軸の回りに回転するように、第1スプロケット(例えば、図3Aから図3Cのスプロケット200)の内周面を支持するように構成されている。同様に、第2外周面部分94は、クイックレリーズ軸18によって定められた回転軸の回りに回転するように、第2スプロケット(例えば、図4Aから図4Cのスプロケット300)の内周面を支持するように構成されている。
【0010】
第1外周面部分90は、複数の外側スプライン溝110と、複数の外側スプライン歯114とを有し、各外側スプライン溝110は、中心Cからの第1内半径距離RID1を持つ半径方向内面118を有し、各外側スプライン歯114は、中心Cからの第1外半径距離ROD1を持つ半径方向外面122を有している。同様に、第2外周面部分94は、複数の外側スプライン溝126と、複数の外側スプライン歯130とを有し、各外側スプライン溝126は、中心Cからの第2内半径距離RID2を持つ半径方向内面134を有し、各外側スプライン歯130は、中心Cからの第2外半径距離ROD2を持つ半径方向外面138を有している。図面から明らかなように、距離RID1は距離RID2とほぼ同じであるが、距離ROD1は距離ROD2以下である。さらに、複数の外側スプライン歯114の各々の距離ROD1は同じであり、複数の外側スプライン歯130の各々の距離ROD2も同じである。勿論、このような関係は必ずしも必要ではなく、その他の川迫として、距離RID2にほぼ等しい距離RID1が幾つ存在しても、距離RID2にほぼ等しい距離RID1が全く存在しなくてもよく、距離ROD2以下の距離ROD1が幾つ存在しても、ROD2以下の距離ROD1が全く存在しなくてもよく、また、本アプリケーションに適合する、望ましいいかなる距離の組合せを用いてもよい。
【0011】
第1外周面部分90の各外側スプライン歯114と、対応する第2外周面部分94の外側スプライン歯130との間には、遷移面部分142が半径方向に延びている。この構成による各々の遷移面部分142は、対応する外側スプライン歯114の半径方向外面122と、対応する外側スプライン歯130の半径方向外面138との両方に垂直である。本構成において、第1外周面部分90の外側スプライン溝110と、第2外周面部分94の外側スプライン溝126との間には、半径方向外側に向かって延びる面が存在しないので、図2Aの疑似(ファントム)線で示された疑似遷移面部分146は、周上で隣接する各対の外側スプライン歯114,130の遷移面部分142と同一の軸方向位置に存在すると仮定してもよい。各疑似遷移面部分146は、第1外周面部分90の外側スプライン溝110と、それに対応する第2外周面部分94の外側スプライン溝126との間の接合部分であると見なすことができる。勿論、その他の形態による疑似遷移面部分146が、見た目に明らかな軸方向の幅を備えていてもよく、その場合は、第1外周面部分90の各々の外側スプライン溝110と、それに対応する第2外周面部分94の外側スプライン溝126との間の接合部分が容易に識別可能になる。
【0012】
本構成による第1外周面部分90の各々の外側スプライン歯114は、遷移面部分142に垂直な方向(すなわち、図2Bの方向)に見て、対応する第2外周面部分94の外側スプライン歯130と少なくとも部分的に重なり合って(オーバーラップして)いる。さらに具体的には、遷移面部分142に垂直な方向に見た場合、各外側スプライン歯114は、対応する外側スプライン歯130と周方向に完全に重なり合って(オーバーラップして)いる。勿論、そのような関係は必ずしも必要ではなく、例え重なり合うとしても、その度合いは、仕様にしたがって変化してもよい。さらに、本構成による各外側スプライン歯114の周方向幅WROS1はすべて同一であり、各外側スプライン歯130の周方向幅WROS2もすべて同一である。また、各々の外側スプライン歯114の周方向幅WROS1は、対応する外側スプライン歯130の周方向幅WROS2とほぼ等しい長さである。したがって、各々の外側スプライン歯114は、対応する外側スプライン歯130と周方向に完全に整列される。勿論、そのような関係は必ずしも必要ではなく、仕様にしたがって変化してもよい。WROS1と、WROS2との間のそのような関係は、外側スプライン溝110及び126の各々の周方向幅WRIS1及びWRIS2に対応する関係をもたらしている。図2Bに、このスプロケット支持部74の構成を示している。
【0013】
本構成では、複数の外側スプライン歯114のうち、外側スプライン歯114aなどの少なくとも1つは、他の複数の外側スプライン歯114のいずれとも異なる周方向幅WPOS1を有し、複数の外側スプライン歯130のうち、外側スプライン歯130aなどの少なくとも1つは、他の複数の外側スプライン歯130のいずれとも異なる周方向幅WPOS2を有している。同様に、複数の外側スプライン溝110のうち、外側スプライン溝110aなどの少なくとも1つは、他の複数の外側スプライン溝110のいずれとも異なる周方向幅WPIS1を有し、複数の外側スプライン溝126のうち、外側スプライン溝126aなどの少なくとも1つは、他の複数の外側スプライン溝126のいずれとも異なる周方向幅WPIS2を有している。これによって、以下に説明する方法で、スプロケット支持部74に取り付けられたスプロケットが予め決められた回転位置に配置可能となる。
【0014】
図3Aは、12枚の歯を有するスプロケット200の部分的背面図を示し、図3Bは、スプロケット200の部分的側面断面図を示し、図3Cは、スプロケット200の正面図を示す。このスプロケット200は、スプロケット支持部74の第1外周面部分90上または第2外周面部分94上のいずれかに設置されるように構成されている。さらに具体的には、スプロケット200は、スプロケット支持部74の第1外周面部分90上に設置されるように構成されている。スプロケット200は、側面208,210を有するスプロケット本体204と、内周面212とを備えている。内周面212は、スプロケット取付用開口216を定め、内周面212の少なくとも一部分は、スプロケット支持部74に当接するよう構成されている。本構成では、内周面212全体がスプロケット支持部74に当接する。スプロケット200は、さらに、スプロケット本体204から半径方向外側に向かって延びる複数のスプロケット歯220を備え、スプロケット本体204の下方部分が複数のスプロケット歯220から軸方向(図3Bの左方向)にオフセットされている。
【0015】
スプロケット本体204の側面208からは、スプロケット支持部74に当接するように構成された内周面212の少なくとも一部分に近接して、少なくとも1つの横方向突起すなわち横方向スプライン224が横方向に延びている。本構成では、そのような突起224が複数存在し、隣接する横方向突起の間に横方向突起隙間233が設けられている。各々の横方向突起224は、半径方向内面228と半径方向外面232とを備えている。また、スプロケット200の内周面212は、少なくとも1つの内側スプライン歯236と、少なくとも1つの内側スプライン溝240とを定めている。本構成では、そのような内側スプライン歯236と、内側スプライン溝240とが複数存在している。各々の内側スプライン歯236は半径方向内面238を有し、各々の内側スプライン溝240は半径方向外面242を有している。本構成では、各々9個の横方向突起224と、内側スプライン歯236と、内側スプライン溝240とが存在し、各々の横方向突起224及び内側スプライン歯236は、対応する内側スプライン溝240と交互に配置されている。側面208に垂直な方向(すなわち、図3Aの方向)に見た場合、各横方向突起224は、対応する内側スプライン歯236と少なくとも部分的に重なり合うか、または整列している。本構成では、側面208に垂直な方向に見た場合、各々の横方向突起224は対応する内側スプライン歯236と完全に重なり合って整列し、各々の横方向突起隙間233は対応する内側スプライン溝240と整列するが、その他の形態において、一部の横方向突起224及び内側スプライン歯236が部分的に重なり合うか、または部分的に整列してもよく、もしくは、その他の横方向突起224及び内側スプライン歯236が全く重なり合わないか、または整列しなくてもよい。実際、横方向突起224の数は、内側スプライン歯236の数または内側スプライン溝240の数のいずれとも一致しなくてよい。
【0016】
一般に、少なくとも1つの横方向突起224の周方向幅WRLP200は、少なくとも1つの内側スプライン歯236の周方向幅WRIS200とほぼ同一である。本構成による各横方向突起224の周方向幅WRLP200は、対応する内側スプライン歯236の周方向幅WRIS200とほぼ同一である。さらに、横方向突起224の周方向幅WRLP200は、1個の横方向突起224aの周方向幅WPLP200を除き、すべて同一であり、横方向突起隙間233の周方向幅WRPS200は、1個の横方向突起隙間233aの周方向幅WPPS200を除き、すべて同一である。内側スプライン歯236の周方向幅WRIS200は、1個の内側スプライン歯236aの周方向幅WPIS200を除き、すべて同一であり、内側スプライン溝240の周方向幅WROS200は、1個の内側スプライン溝240aの周方向幅WPOS200を除き、すべて同一である。
【0017】
本構成では、スプロケット200の中心Cから少なくとも1つの横方向突起224の半径方向内面228までの距離RIPD200は、スプロケット200の中心Cから少なくとも1つの内側スプライン歯236の半径方向内面238までの距離RISD200とほぼ同一である。さらに具体的には、スプロケット200の中心Cから複数の横方向突起224の各々の半径方向内面228までの距離RIPD200はほぼ同一であり、スプロケット200の中心Cから複数の内側スプライン歯236の各々の半径方向内面238までの距離RISD200はほぼ同一である。その結果、スプロケット200の中心Cから複数の横方向突起224の各々の半径方向内面228までの距離RIPD200は、スプロケット200の中心Cから複数の内側スプライン歯236の各々の内面238までの距離RISD200とほぼ同一である。
【0018】
本構成では、スプロケット200の中心Cから少なくとも1つの横方向突起224の半径方向外面232までの距離ROPD200は、スプロケット200の中心Cから少なくとも1つの内側スプライン溝240の半径方向外面242までの距離ROSD200よりも長い。さらに具体的には、スプロケット200の中心Cから複数の横方向突起224の各々の半径方向外面232までの距離ROPD200はほぼ同一であり、スプロケット200の中心Cから複数の内側スプライン溝240の各々の半径方向外面242までの距離ROSD200はほぼ同一である。その結果、スプロケット200の中心Cから複数の横方向突起224の各々の半径方向外面232までの距離ROPD200は、スプロケット200の中心Cから複数の内側スプライン溝240の各々の外面242までの距離ROSD200よりも長い。
【0019】
図4Aは13枚の歯を有するスプロケット300の正面図を示し、図4Bはスプロケット300の部分的側面断面図を示す。このスプロケット300は、スプロケット支持部74の第1外周面部分90上または第2外周面部分94上のいずれかに設置されるように構成されている。スプロケット300は、側面308,310を有するスプロケット本体304と、スプロケット取付用開口316を定める内周面312とを備え、内周面312の少なくとも一部分は、スプロケット支持部74に当接するように構成されている。ここでは、内周面312全体がスプロケット支持部74に当接する。スプロケット300は、さらに、スプロケット本体304から半径方向外側に向かって延びる複数のスプロケット歯320を備え、スプロケット本体304の下方部分が複数のスプロケット歯320から軸方向(図4Bの左方向)にオフセットされている。
【0020】
また、スプロケット300の内周面312は、少なくとも1つの内側スプライン歯336と、少なくとも1つの内側スプライン溝340とを定めている。ここでは、そのような内側スプライン歯336及び内側スプライン溝340が複数存在している。各内側スプライン歯336は半径方向内面338を有し、各内側スプライン溝340は半径方向外面342を有している。ここでは、各々9個の内側スプライン歯336及び内側スプライン溝340が存在し、各々の内側スプライン歯336は対応する内側スプライン溝340と交互に配置されている。
【0021】
複数の内側スプライン歯336の周方向幅WRIS300は、1個の位置決め用スプライン歯336aの周方向幅WPIS300を除き、すべて同一である。また、複数の内側スプライン溝340の周方向幅WROS300は、1個の位置決め用スプライン溝340aの周方向幅WPOS300を除き、すべて同一である。
【0022】
スプロケット300の中心Cから複数の内側スプライン歯336の各々の半径方向内面338までの距離RISD300は同一であり、スプロケット300の中心Cから複数の内側スプライン溝340の各々の半径方向外面342までの距離ROSD300は同一である。さらに、スプロケット200の距離RISD200と、スプロケット300の距離RISD300とは同一である。スプロケット支持部74の距離RID1及びRID2は同一であるので、距離RID1,RID2,RISD200,RISD300がすべて同じであると仮定すると、スプロケット支持部74の第1外周面部分90及び第2外周面部分94の各々の外側スプライン歯110及び126は、スプロケット200及びスプロケット300の各々の内側スプライン歯236及び336に各々対応可能である。ただし、以下に言及するように、本構成によるスプロケット200は、スプロケット支持部74の第2外周面部分94に設置されない。
【0023】
前述のように、スプロケット200の中心Cから複数の内側スプライン溝240の各々の半径方向外面242までの距離ROSD200は同一であり、スプロケット300の中心Cから複数の内側スプライン溝340の各々の半径方向外面342までの距離ROSD300は同一である。スプロケット200の中心Cから複数の内側スプライン溝240の各々の半径方向外面242までの距離ROSD200は、スプロケット支持部74の中心Cから複数の外側スプライン歯114の各々の半径方向外面122までの距離ROD1とほぼ同一であると仮定してもよく、スプロケット300の中心Cから複数の内側スプライン溝340の各々の半径方向外面342までの距離ROSD300は、スプロケット支持部74の中心Cから複数の外側スプライン歯130の各々の半径方向外面138までの距離ROD2とほぼ同一であると仮定してもよい。ただし、スプロケット200の距離ROSD200はスプロケット300の距離ROSD300よりも短く、スプロケット支持部74の距離ROD1はスプロケット支持部74の距離ROD2よりも短い。その結果、スプロケット300がスプロケット支持部74の第1外周面部分90または第2外周面部分94のいずれにも設置可能になるので、複数のスプロケットの間での交換が容易になり、スプロケットの配置により大きな融通性がもたらされる。これに反して、スプロケット支持部74の第2外周面部分94のより長い距離ROD2に対して、スプロケット200の距離ROSD200は比較的短いので、スプロケット200は、典型的に、スプロケット支持部74の第2外周面部分94上には設置されない。
【0024】
周知のスプロケット支持部は、RID1=RID2であり、鋼または軽量合金で形成される。スプロケット支持部が鋼で形成される場合、ROD1−RID1のギャップは幾分小さくなるが、鋼の強度が高いので、スプロケット支持部のスプラインと、スプロケットのスプラインとの間の噛み合わせは十分に保たれる。しかし、スプロケット支持部が軽量合金で形成される場合は、ギャップが狭すぎると、スプロケットがスプロケット支持部のスプラインを削り取る傾向にある。この問題点を克服するために、ROD1−RID1のギャップを大きくして、スプロケット支持部の新しいスプライン距離に合致するように、新しいスプロケットが設計されている。ただし、RID1が既存のスプロケット支持部よりも小さく作られる場合は、新しいスプロケットを既存のスプロケット支持部と共に使用することができなくなり、互換性が失われる。ROD1が既存のスプロケット支持部よりも大きく作られる場合は、小型スプロケットのスプラインの半径方向距離を、それに合せて増加させる必要があり、小型スプロケットの強度が減少する。ここに開示するスプロケット支持部の第1外周面部分90は、周知のスプロケット支持部と同じ距離に作られている。ただし、以下に説明するように、スプロケットを強化するために、小型スプロケットのスプラインの半径方向距離を増加させるのではなく、横方向突起224が使用されている。
【0025】
図5は、スプロケット支持部74上に取り付けられた複数のスプロケットの部分的断面図を示す。ここでは、様々な数の歯を有するスプロケット404a及び404bが、スプロケットアダプタ420aを介してスプロケット支持部74の第2外周面部分94に取り付けられ、様々な数の歯を有するスプロケット404c及び404dが、スプロケットアダプタ420bを介してスプロケット支持部74の第2外周面部分94に取り付けられている。スプロケットアダプタ420a及び420bは、スプロケット300の内側スプライン歯336,336a及び内側スプライン溝340,340aと同様の方法で、内側スプライン歯及び内側スプライン溝(図示されていない位置決めスプラインを含む)を有している。また、別の様々な数の歯を有する複数のスプロケット404e,404f,404gが、スプロケット支持部74の第2外周面部分94に直接取り付けられている。スプロケット404e,404f,404gの内周面は、スプロケット300の内側スプライン歯336,336a及び内側スプライン溝340,340aと同様の方法で、内側スプライン歯及び内側スプライン溝(図示されていない位置決めスプラインを含む)を有している。スプロケット404eとスプロケット404fとは、スペーサ424aによって、互いに軸方向に分離されて、またスプロケット404fとスプロケット404gとは、スペーサ424bによって、互いに軸方向に分離されている。
【0026】
スプロケット300は、スプロケット支持部74の第2外周面部分94上に取り付けられ、スプロケット300のスプロケット本体304の下方部分がスプロケット404gの右側面に当接し、スペーサとして機能している。このような構成によって、スプロケット300の内側スプライン歯336,336aの軸方向の厚みをより大きくすることが可能になる。スプロケット300の内側スプライン歯336は、スプロケット支持部74の第2外周面部分94の外側スプライン溝126と完全に係合する(すなわち、内側スプライン歯336の半径方向内面338が、対応するスプロケット支持部74の外側スプライン溝126の半径方向内面134にあと少しで当接するか、あるいは完全に当接している)。さらに、スプロケット300の位置決め用スプライン歯336aは、スプロケット支持部74の位置決め用スプライン溝126aと完全に係合する。同様に、スプロケット300の内側スプライン溝340は、スプロケット支持部74の第2外周面部分94の外側スプライン歯130と完全に係合し、スプロケット300の内側スプライン溝340aは、スプロケット支持部74の外側スプライン歯130aと完全に係合する。
【0027】
図5に示すように、スプロケット200は、スプロケット支持部74の第1半径方向外周面90上に取り付けられる。この構成では、スプロケット200の内側スプライン歯236,236aがスプロケット支持部74の第1外周面部分90の対応する外側スプライン溝110,110aと完全に係合し、スプロケット200の内側スプライン溝240,240aがスプロケット支持部74の第1外周面部分90の対応する外側スプライン歯114,114aと完全に係合する。スプロケット本体204の下方部分が遷移面142に当接する。スプロケット300の内側スプライン歯336は、複数のスプロケット歯320から横方向にオフセットされているので、スプロケット200の横方向突起224の半径方向外面232が、スプロケット300の内周面312の下方に延び、内周面312に当接しても構わない。そうすることによって、スプロケット300がさらに支持され、安定化する。
【0028】
図5におけるスプロケット200のハッチング部分は、スプロケット支持部74の外側スプライン溝110と、対応するスプロケット200の内側スプライン歯236との間の係合を示している。ハッチング部分の右のハッチングが施されていない部分は、スプロケット支持部74の外側スプライン歯114と、対応するスプロケット200の内側スプライン溝240との間の係合を示している。スプロケット200上のスプラインは、異なる周方向幅224a,236a,240aを各々有し、スプロケット支持部74上のスプラインも異なる周方向幅110a,114aを各々有するので、スプロケット200を、スプロケット支持部74の第1外周面部分90上に予め決められた回転方向の位置で設置可能である。この点は、例えば、様々なスプロケット上にチェーンシフト促進構造がある場合など、スプロケット支持部74上に取り付けられた様々なスプロケットが互いに相対的に予め決められた回転位置を持つ必要があるときに非常に有益である。もう1枚のスプロケット404h(例えば、11枚の歯を有するスプロケット)が、スプロケット支持部74の雌ねじ部92に螺合される輪形ナット(図示せず)などの従来の手段を使用して、スプロケット支持部74の横方向最端部に装着される。
【0029】
[実施形態]
図6Aは本発明の一実施形態による13枚の歯を有するスプロケット500の正面図を示し、図6Bはスプロケット500の内側スプライン構成の詳細な断面図を示す。スプロケット500は、スプロケット支持部74の第1外周面部分90上に取り付けられる場合に、特に有用である。スプロケット支持部74の複数の外側スプライン歯114の半径方向外面122は、複数の外側スプライン歯130の半径方向外面138の外半径距離ROD2と比較して、短い外半径距離ROD1を有するので、複数の外側スプライン歯114は、複数の外側スプライン歯130ほど頑丈ではない。その結果、13枚の歯を有するスプロケット300の複数の内側スプライン歯336における回転軸C方向の厚みが薄すぎる場合には、自転車のチェーンから回転力が伝達される結果、内側スプライン歯336がスプロケット支持部74の複数の外側スプライン歯114を損傷する可能性がある。
【0030】
これに対してスプロケット500は、スプロケット支持部74の第1外周面部分90上に取り付けられた場合でさえも、スプロケット支持部74ヘの損傷の危険を減らすか、または危険を取り除く。これは、一般的に、回転軸Cの方向の厚みが比較的厚い内側スプラインを設けることで達成される。具体的には、スプロケット500は、側壁508を有するスプロケット本体504と、スプロケット本体504から半径方向外側に向かって延び、自転車用チェーンと係合するように寸法決めされた複数の歯512と、複数の内側スプライン歯516と、複数の内側スプライン溝518とを備えている。本実施形態によるスプロケット本体504と、複数の歯512と、複数の内側スプライン歯516と、複数の内側スプライン溝518とは一体である。その他の実施形態と同様、スプロケット500は、他の内側スプライン歯516とは異なる周方向幅を備えた内側スプライン歯516aと、他の内側スプライン溝518とは異なる周方向幅を備えた内側スプライン溝518aとを有している。
【0031】
スプロケット500は、各々の内側スプライン歯516に関係付けられた複数の半径方向外面520を備え、回転軸Cに垂直な方向に見た場合、各半径方向外面520は、対応する内側スプライン歯516と少なくとも部分的に重なり合っている。また、各々の半径方向外側面520は、ほぼ真直かつ回転軸Cに平行なスプロケット本体504の半径方向内面524に面している。本実施形態による各々の半径方向外面520は、対応する内側スプライン歯516に関係付けられるので、スプロケット500の周方向には、僅か部分しか延びていない。さらに具体的には、各半径方向外面520は、スプライン516と同一の周方向幅を有している。回転軸Cに平行な方向に見た場合、側壁508は半径方向外面520と重なり合っている。
【0032】
本実施形態による側壁508は、遷移壁部分538を介して相互に接続された、第1側壁部分530と第2側壁部分534とを備えている。その結果、第2側壁部分534は、第1側壁部分530から回転軸Cの方向に間隔を置いて配置されるよう、第1側壁部分530から横方向にオフセットされている。また、回転軸Cに平行な方向に見た場合、第2側壁部分534は複数の外面520と重なり合っている。第1側壁部分530は、ほぼ真直かつ互いに平行な第1側壁530a,530bを備え、第2側壁部分534は、ほぼ真直かつ互いに平行な第2側壁534a,534bを備えている。
【0033】
本実施形態による第2側壁部分534は、対応する内側スプライン歯516に各々関連付けられた複数のセグメントに分割されている。したがって、外面520の場合のように、各々のセグメントに分割された第2側壁部分534は、スプロケット500の周方向に僅か部分しか延びていない。さらに具体的には、各々のセグメントに分割された第2側壁部分534は、スプライン516とほぼ同じ周方向幅を有している。したがって、各々のセグメントに分割された第2側壁部分534と、それに対応する内側スプライン歯516とは、複合スプライン516xを形成し、第2側壁部分534は、複合スプライン516xの根元部分を形成し、スプライン516は、複合スプライン516xの半径方向内側部分を形成している。スプロケット500がスプロケット支持部74の第2外周面部分94上に取り付けられる際、複合スプライン516xが第2外周面部分94の外側スプライン歯130と係合する。
【0034】
本実施形態による内側スプライン歯516は、第1側壁部分530から回転軸Cの方向にオフセットされている。例えば、各々の内側スプライン歯516は、第2側壁534bから延び、第1側壁530bから回転軸Cの方向に間隔を置いた位置にある自由端516bで終端している。これにより、内側スプライン歯516の適切な軸方向厚みを維持しながら、遷移壁部分538の厚みTtを回転軸Cの方向に内側スプライン歯516の厚みTsよりも厚くすることによって、対応する内面524に対向する外面520を有することを可能にしている。また、厚みTsは、第1側壁部分530の厚みT1wまたは第2側壁部分534の厚みT2wのいずれの厚みよりも厚く、本実施形態では、T1wがT2wに等しくなっている。したがって、厚みTsは、回転軸Cの方向において、複合スプライン516xの根元部分の厚みT2wよりも厚い。厚みTs,T1w,T2wの望ましい一例は、各々1.6mm,1.6mm,2.3mmである。
【0035】
このような構成のスプロケットでは、厚みT1w=T2wのプレート材をプレス加工して第1側壁部分530、第2側壁部分534、内周スプライン及び外周歯を形成し、さらに内周スプラインをプレス加工して厚みTs部分を形成することによって製造することができる。
【0036】
上記では、発明の様々な特徴を備えた様々な実施形態について説明しているが、本発明の意図または範囲から離れることなく、さらなる修正を加えることができる。例えば、記載の発明の特徴は、説明された12枚の歯のスプロケットまたは13枚の歯のスプロケットに限定されるものではない。様々な部品の大きさ、形状、位置、方向などを希望に応じて変更してもよい。互いに直結または接触したように示されている部品は、それらの間に中間構造を備えても構わない。1つの要素の機能を2つの要素で実行するか、またはその逆を行ってもよい。1つの実施形態による構造及び機能が、その他の実施形態に適用されてもよい。特定の実施形態によるすべての利点が同時に存在する必要もない。従来の技術とは異なる独特な機能は、単独または他の機能との組合せのいずれであっても、そのような機能によって具体化された構造または機能(あるいは両方)の概念を含め、すべて出願者による独自の発明と見なされるべきである。したがって、本発明の範囲は、開示された特定の構造、あるいは特別な構造または機能に関する最初の焦点または強調点のみに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】自転車用ハブの部分的断面図。
【図2A】スプロケット支持部の部分的断面図。
【図2B】図2Aの2B−2B線による断面図。
【図3A】12枚の歯のスプロケットの部分的背面図。
【図3B】図3Aに示されたスプロケットの部分的側面断面図。
【図3C】図3Aに示されたスプロケットの正面図。
【図4A】13枚の歯のスプロケットの正面図。
【図4B】図4Aに示されたスプロケットの部分的側面断面図。
【図5】図2A及び図2Bに示されたスプロケット支持部上に取り付けられた複数のスプロケットの部分的断面図。
【図6A】本発明の一実施形態による13枚の歯のスプロケットの正面図。
【図6B】図6Aの6B−6B線による断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転する自転車用スプロケットであって、
スプロケット本体(504)と、
前記スプロケット本体(504)から半径方向外側に向かって延び、自転車用チェーンと係合するように形成された複数の歯(512)と、
前記スプロケット本体(504)から半径方向内側に向かって延びるスプライン(516)とを備え、
前記スプライン(516)は半径方向外側に向く半径方向外面(520)を有している、
自転車用スプロケット。
【請求項2】
前記スプラインの半径方向外面(520)は前記スプロケット本体(504)の半径方向内面(524)に面している、請求項1に記載の自転車用スプロケット。
【請求項3】
前記スプロケット本体の半径方向内面(524)は前記回転軸に沿ってほぼ真直である、請求項2に記載の自転車用スプロケット。
【請求項4】
前記スプロケット本体の半径方向内面(524)は前記回転軸とほぼ平行である、請求項2に記載の自転車用スプロケット。
【請求項5】
前記スプロケット本体(504)は第1側壁部分(530)と第2側壁部分(534)とを備えた側壁(508)を有し、
前記複数の歯(512)は前記第1側壁部分(530)から半径方向外側に向かって延び、前記第2側壁部分(534)は前記第1側壁部分(530)から横方向にオフセットされている、
請求項1に記載の自転車用スプロケット。
【請求項6】
前記第2側壁部分(534)は、前記回転軸に平行な方向に見て、前記半径方向外面(520)と重なり合っている、請求項5に記載の自転車用スプロケット。
【請求項7】
前記第2側壁部分(534)は前記第1側壁部分(530)から前記回転軸に沿った方向に間隔を置いて配置されている、請求項6に記載の自転車用スプロケット。
【請求項8】
前記スプライン(516)は前記第1側壁部分(530)から前記回転軸に沿った方向にオフセットされている、請求項6に記載の自転車用スプロケット。
【請求項9】
前記スプライン(516)は前記第2側壁部分(534)から延びて自由端で終端し、前記自由端は、前記自由端と同じ方向に向く前記第1側壁部分(530)の第1側壁(530b)から間隔を置いて配置されている、請求項5に記載の自転車用スプロケット。
【請求項10】
前記スプロケット本体(504)は第1側壁部分(530)と第2側壁部分(534)とを備えた側壁(508)を有し、
前記複数の歯(512)は前記第1側壁部分(530)から半径方向外側に向かって延び、
前記第2側壁部分(534)及び前記スプライン(516)は、共に複合スプライン(516X)を形成している、
請求項1に記載の自転車用スプロケット。
【請求項11】
前記スプライン(516)の回転軸方向の厚みは前記第2側壁部分(534)の回転軸方向の厚みよりも厚い、請求項10に記載の自転車用スプロケット。
【請求項12】
前記第1側壁部分(530)の回転軸方向の厚みは前記第2側壁部分(534)の回転軸方向の厚みとほぼ同一である、請求項11に記載の自転車用スプロケット。
【請求項13】
回転軸を中心に回転する自転車用スプロケットであって、
スプロケット本体(504)と、
前記スプロケット本体(504)から半径方向外側に向かって延び、自転車用チェーンと係合するように形成された複数の歯(512)と、
前記スプロケット本体(504)から半径方向内側に向かって延びるスプライン(516)とを備え、
前記スプライン(516)は、前記スプロケット本体(504)の半径方向内側に向かって延びる根元部分と、前記根元部分の半径方向内側に向かって延びる半径方向内側部分とを有し、
前記スプライン(516)の半径方向内側部分の回転軸に平行な方向の厚み(Ts)は、前記スプライン(516)の前記根元部分の回転軸に平行な方向の厚み(T2w)よりも厚い、
自転車用スプロケット。
【請求項14】
前記スプロケット本体(504)は第1側壁部分(530)を備えた側壁(508)を有し、
前記複数の歯(512)は前記第1側壁部分(530)から半径方向外側に向かって延び、前記第1側壁部分(530)の回転軸方向の厚み(T1w)は、前記スプライン(516)の前記根元部分の回転軸方向の厚み(T2w)とほぼ同一である、
請求項13に記載の自転車用スプロケット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2006−76562(P2006−76562A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255599(P2005−255599)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)