説明

臭気が少ない防湿紙及びその製造方法並びにそれを包装材として使用する方法

【課題】
本発明の課題は、天然繊維を主成分とする基紙の少なくとも一方の面に、防湿剤を塗工した防湿紙において、臭気が少なく、透湿度がより低い、防湿紙を提供することである。
【解決手段】
この課題は、天然繊維を主成分とする基紙の少なくとも一方の面に、スチレン−アクリル系樹脂を主成分とする防湿剤を塗工した防湿紙において、アウトガス発生速度(オーブンで80℃の加熱条件下において1時間アウトガスを捕集し、GC−MSにて分析、定量した質量1g当たりの数値)が、100,000ng/g/h以下であり、かつ、透湿度[JIS Z 0208:1976「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」による条件B(40℃、90%RH)]の値が、10g/m・24hr以下であることを特徴とする防湿紙によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維を主成分とする基紙の少なくとも一方の面に、防湿剤を塗工した防湿紙において、洗剤、タバコ、食品などを包装する際に臭気が少なく、透湿度が低い、防湿紙及びその製造方法並びにそれを包装材として使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洗剤、タバコ、食品などの保管には、湿度による変質を防ぐ為に、透湿度が低い資材で包装する必要がある。また、近年、洗剤、タバコ、食品などの保管時における臭気によるトラブルが発生しており、それに対する対応が必要とされている。したがって、それらの包装資材についても、低い透湿度と共に、臭気が少ないことが必要とされている。
【0003】
従来、透湿度が低い資材で包装材としては、例えば、合成樹脂と平板状顔料を含む防湿層を基紙の少なくとも一方の面に設ける技術が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
しかし、特許文献1で提案されている防湿紙の透湿度[JIS Z 0208(カップ法)B法(40℃,90%RH)]は、20〜30g/m・24hrと食品の長期間の保管に使用する包装材としては、透湿度が劣るレベルであった。さらに、合成樹脂として使用される合成樹脂エマルジョンは、例えば、乳化重合法によって重合されるが、これらの水系分散物には、未反応のモノマー及び樹脂を水に分散する為の分散剤も含まれている。それらは臭気トラブルの原因となり、保存時での臭気の観点からも問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−2516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、天然繊維を主成分とする基紙の少なくとも一方の面に、防湿剤を塗工した防湿紙において、臭気が少なく、透湿度がより低い、防湿紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前記課題を解決することを目的としてなされたもので、その手段としては、天然繊維を主成分とする基紙の少なくとも一方の面に、スチレン−アクリル系樹脂を主成分とする防湿剤を塗工した防湿紙において、アウトガス発生速度(オーブンで80℃の加熱条件下において1時間アウトガスを捕集し、GC−MSにて分析、定量した重量1g当たりの数値)が、100,000ng/g/h以下であり、透湿度[JIS Z 0208:1976「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」による条件B(40±0.5℃、90±2%RH)](以下、「透湿度B法」と略称することもある。)の値が、10g/m・24hr以下であること防湿紙を提供する。ここで、スチレン−アクリル系樹脂を主成分とする防湿剤を乾燥塗工量として10g/m〜30g/m塗工後、140℃〜200℃で20〜120秒の条件で熱処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、臭気が少なく、透湿度がより低い、防湿紙を提供できる。当該防湿紙は、洗剤、タバコ、又は食品用の包装材として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、防湿紙を製造する際、スチレン−アクリル樹脂を主成分とする防湿剤を乾燥塗工量として10g/m〜30g/m塗工後、140℃〜200℃で20〜120秒の条件で熱処理することによって、アウトガス発生速度(オーブンで80℃の加熱条件下において1時間アウトガスを捕集し、GC−MSにて分析、定量した質量1g当たりの数値)が、100,000ng/g/h以下であり、透湿度B法の値が、10g/m・24hr以下である防湿紙が得られることを見出し本発明に至った。
【0010】
本発明における天然繊維とは、叩解によって容易に紙力強度が向上する木材繊維、靱皮繊維、雁皮繊維などからなる天然由来の繊維である。本発明においては、特に木材繊維が、入手が容易である点で好ましい。木材繊維の具体例としては、針葉樹晒硫酸塩パルプ(N−BKP)、針葉樹晒亜硫酸塩パルプ(N−BSP)、広葉樹晒硫酸塩パルプ(L−BKP)、広葉樹晒亜硫酸塩パルプ(L−BSP)などがある。
【0011】
防湿剤には、主成分として合成樹脂を含む。合成樹脂としては、スチレン系モノマーとアクリル系又はメタクリル系モノマーを重合して得られる、スチレン−アクリル系樹脂が挙げられる。防湿剤には、スチレン−アクリル系樹脂が25〜80質量%含有されている。25質量%未満であれば、防湿の効果が小さくなるからである。また、80質量%を超えると、臭気が発生しやすいからである。さらに、防湿剤には、スチレン−アクリル系樹脂が30〜70質量%含有していることが好ましく、35〜60質量%含有していることが特に好ましい。
【0012】
本発明で使用するスチレン−アクリル系樹脂を主成分とする防湿剤には、臭気を発生させず、透湿度B法による値を高くしない範囲で、ワックス、顔料などを含有させてもよい。特に、ワックスを1%未満含有させるとよい。
【0013】
防湿剤の最低造膜温度としては、30℃以下が好ましい。30℃を超えると、造膜性が低下し、防湿性に悪影響があるからである。さらに好ましくは、最低造膜温度としては、10℃以下である。
【0014】
スチレン系単量体としては、特に制限されないが、例えば、スチレン,o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2、4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−フェニルスチレン、クロロスチレンなどの単官能単量体が挙げられる。その中でも、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、単独で又は2種以上の組合せで使用することができる。
【0015】
アクリル系又はメタクリル系単量体としては、特に制限されないが、例えば、アクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、メタアクリル酸、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸プロピル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ステアリルなどが挙げられる。
【0016】
スチレン−アクリル系樹脂としては、前記の成分以外にも、ビニル系単量体から導かれる構成単位を含有してもよい。ビニル系単量体としては、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であれば、特に制限されない。例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ジビニル化合物;ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3−ブチレングリコール、ビスフェノールA誘導体のジ(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの多官能化合物は、1種又は2種以上を併用して使用できる。
【0017】
本発明で用いるスチレン−アクリル系樹脂のガラス転移温度としては、−20℃〜10℃であることが好ましい。10℃を超えると、造膜性が低下し、防湿性に悪影響があるからである。−20℃未満であると、粘着性が強くなりすぎるからである。
【0018】
スチレン−アクリル系樹脂を主成分とする防湿剤を基紙に塗工するが、塗工方法としては、特に制限されないが、エアナイフコーター、ロッドコーター、バーコーター、ロールコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、リップコーター、カーテンコーター、スライドコーター、ダイコーター、コンマコーター、ゲートロールコーターなどから選択して使用し、塗工する。好ましい塗工方法としては、エアナイフコーターを使用する塗工方法である。
【0019】
本発明においては、防湿剤の乾燥塗工量としては、10g/m〜30g/m塗工することが好ましい。10g/mより少ない塗工量であれば、臭気が発生しにくいが、防湿の効果が小さくなる。30g/mより多い塗工量であれば、熱処理時に塗工層の膨れが生じ、防湿の効果が小さくなる。さらに、塗工量あたりの防湿の効果が相対的に小さくなり、コストが嵩み、かつ、臭気が発生し易くなる。さらに好ましくは、10g/m〜20g/m塗工する。より好ましくは、10g/m〜15g/mである。
【0020】
本発明においては、塗工の後、熱処理を行う。この熱処理によって、塗膜を乾燥させると共に、後の臭気の発生を低減することができる。熱処理としては、140℃〜200℃かつ20秒〜120秒の条件で行う。これを超える温度と時間とで熱処理を行うと、木材繊維などの熱劣化が生じ、また、塗膜の分解が生じ、防湿の効果が小さくなると共に臭気が発生しやすくなる。また、これより緩い条件下で熱処理を行っても、防湿の効果が小さくなり、臭気が発生しやすくなる。また、熱処理として好ましい条件は、150〜180℃かつ20〜120秒であり、更に好ましくは150〜180℃かつ20〜90秒である。
【0021】
本発明の防湿紙は、前記の製造方法で製造される。防湿紙のアウトガス発生速度(オーブンで80℃の加熱条件下において1時間アウトガスを捕集し、GC−MSにて分析、定量した質量1g当たりの数値)は小さければ小さいほど良好であるが、本発明の防湿紙において、アウトガス発生速度は100,000ng/g/h以下である。さらに、アウトガス発生速度は、20,000ng/g/h以下であることが好ましい。臭気が問題となる洗剤、タバコ、又は食品用の包装材として適しているからである。
【0022】
さらに、本発明において、防湿紙の透湿度B法の値は小さければ、小さいほど良好であるが、本発明の防湿紙において、透湿度B法の値が、10g/m・24hr以下である。さらに、透湿度B法の値は、5g/m/24hr以下であることが好ましい。湿気を嫌う洗剤、タバコ、又は食品の保存の際に用いる包装材として適しているからである。
【0023】
本発明の防湿紙は、防湿性を必要し、臭気の発生が問題となる包装材、具体的には、洗剤、タバコ、又は食品用の包装材として使用できる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例及び比較例によって、更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例1
天然繊維を主成分とする基紙(銘柄「はまゆう」、紀州製紙社製、坪量40g/m)の片面に、スチレン−アクリル樹脂を主成分とする防湿剤(T−XP276、星光PMC社製)を乾燥塗工量として15g/mになるように、エアナイフコーターを使用して塗工後、150℃で25秒の条件で熱処理して防湿紙を得た。
【0026】
実施例2
防湿剤の塗工後、150℃で30秒の条件で熱処理したほかは、実施例1と同様にして防湿紙を得た。
【0027】
実施例3
防湿剤の塗工後、150℃で35秒の条件で熱処理したほかは、実施例1と同様にして防湿紙を得た。
【0028】
実施例4
防湿剤を乾燥塗工量として10g/mになるように塗工したほかは、実施例1と同様にして防湿紙を得た。
【0029】
比較例1
防湿剤をブタジエン−スチレン樹脂(L−1432、旭化成社製)に変更したほかは、実施例1と同様にして防湿紙を得た。
【0030】
比較例2
防湿剤の塗工後、125℃で25秒の条件で熱処理したほかは、実施例1と同様にして防湿紙を得た。
【0031】
比較例3
防湿剤の塗工後、150℃で15秒の条件で熱処理したほかは、実施例1と同様にして防湿紙を得た。
【0032】
比較例4
防湿剤を乾燥塗工量として7.5g/mになるように塗工したほかは、実施例1と同様にして防湿紙を得た。
【0033】
比較例5
防湿剤の塗工後、100℃で25秒の条件で熱処理したほかは、実施例1と同様にして防湿紙を得た。
【0034】
(アウトガス発生速度の測定)
ダイナミックヘッドスペース法を用いた。発生ガス濃縮導入装置を(MS−TD−258、ジーエルサイエンス社製)を用い、試料約0.3gを99.999%のHe気流(流量50ml/min)中で80℃、1時間加熱し、試料から発生したアウトガスを吸着剤(TENAX TA)で捕集濃縮し、270℃で再脱離させたガスをクライオフォーカスユニットでサンプルバンドを狭めた後、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS−QP5050A、島津製作所社製)に導入して定量した。キャピラリーカラムは、TC−1(ジーエルサイエンス社製、0.25mm×60m、膜厚0.25μm)を用い、質量分析計のイオン化方法を電子衝撃法(イオン化電圧70eV)とした。このときの単位時間当たりのアウトガス発生量をアウトガス発生速度として、n−ヘキサデカン検量線によって相対評価した。したがって、数値が小さいほどアウトガス発生し難いことを表す。
【0035】
(透湿度B法の測定)
JIS Z 0208:1976「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」による条件B(40±0.5℃、90±2%RH)に従い、防湿剤の塗工面を外側にして測定した。したがって、数値が小さいほど湿度を透し難いことを表す。
【0036】
(臭気の官能評価)
無作為に選出した8名の人員によって、サンプルからの臭気の有無を評価した。
○:8名中7名以上の人が臭気を感じない。
△:8名中2〜6名が臭気を感じる。
×:8名中7名以上の人が臭気を感じる。
【0037】
これらの測定結果を表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の防湿紙は、防湿性を必要とし、従来の臭気の発生が問題となるものを代替できる包装材などとして利用が可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維を主成分とする基紙の少なくとも一方の面に、スチレン−アクリル系樹脂を主成分とする防湿剤を塗工した防湿紙において、アウトガス発生速度(オーブンで80℃の加熱条件下において1時間アウトガスを捕集し、GC−MSにて分析、定量した質量1g当たりの数値)が100,000ng/g/h以下であり、かつ、透湿度[JIS Z 0208(カップ法)による条件B(40℃、90%RH)]の値が10g/m・24hr以下であることを特徴とする、防湿紙。
【請求項2】
スチレン−アクリル系樹脂を主成分とする防湿剤を、天然繊維を主成分とする基紙の少なくとも一方の面に乾燥塗工量として10g/m〜30g/m塗工後、140℃〜200℃で20〜120秒の条件で熱処理したことを特徴とする請求項1記載の防湿紙。
【請求項3】
スチレン−アクリル系樹脂を主成分とする防湿剤がワックスを1%未満含み、かつ、該防湿剤が25〜80質量%のスチレン−アクリル樹脂を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の防湿紙。
【請求項4】
天然繊維を主成分とする基紙の少なくとも一方の面に、スチレン−アクリル系樹脂を主成分とする防湿剤を塗工する防湿紙を製造する方法において、該防湿剤を、天然繊維を主成分とする基紙の少なくとも一方の面に乾燥塗工量として10g/m〜30g/m塗工後、140℃〜200℃で20〜120秒の条件で熱処理してなる防湿紙の、アウトガス発生速度(オーブンで80℃の加熱条件下において1時間アウトガスを捕集し、GC−MSにて分析、定量した質量1g当たりの数値)が100,000ng/g/h以下であり、かつ、透湿度[JIS Z 0208(カップ法)による条件B(40℃、90%RH)]の値が10g/m・24hr以下であることを特徴とする、前記方法。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか一つに記載の防湿紙を洗剤、タバコ、又は食品用の包装材として使用する方法。

【公開番号】特開2012−41660(P2012−41660A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184770(P2010−184770)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】