説明

臭気が遮蔽された有機スルフィド組成物

本発明は、少なくとも1つのモノエステル、少なくとも1つのジエステルまたはトリエステル、少なくとも1つのアルコール、少なくとも1つのケトン、および場合により少なくとも1つのテルペンを含む少なくとも1つの臭気遮蔽剤を有機スルフィドに添加することによる、有機スルフィドの臭気、より具体的にはアルキルスルフィドまたはジアルキルスルフィド、とりわけジメチルスルフィドの臭気、およびまたこれらの酸化物の臭気、とりわけジメチルスルホキシドの臭気の遮蔽に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機スルフィドの分野、より具体的にはアルキルスルフィドまたはジアルキルスルフィドの分野、とりわけジメチルスルフィド(またはジメチルジスルフィド、またはDMDS)に関し、ならびにこれらの酸化物の分野、とりわけジメチルスルホキシド(またはDMSO)の分野にも関する。
【背景技術】
【0002】
有機スルフィドは、一般的に、強く不快な、または攻撃的ですらある臭気を有することがよく知られている。特に、DMDSは、一部には極めて臭気のある不純物の存在、および一部にはDMDSに固有のニンニクおよびエーテル臭のせいで、強力で攻撃的な臭気を有する。同じことが大半の有機スルフィドにも当てはまる。一般に、これらの有機スルフィドの酸化物、特にDMSOは攻撃的な臭気ではないが、不純物の濃度に応じて、この臭気はしかしながら、最終使用者にとって不快であり得、障害であり得る。
【0003】
この強力な臭気は、例えばDMDSの場合、触媒の硫化等の適用において、または水蒸気分解用の充填添加剤として、これらの生成物の成長増加を妨げる。しかしながら、tert−アルキルポリスルフィド等、これらの適用で使用される他の生成物と比較して、DMDSは多数の利点、特に高硫黄含量(68%)および非コークス分解生成物(CH、HS)を示す。さらに、これらの適用において、DMDSは、一般にtert−アルキルポリスルフィド等の他の生成物より優れた性能レベルをもたらす。
【0004】
しかしながら、これらの他の生成物は、DMDSの臭気レベルより低いレベルを有し、この結果として、ある場合には、これらの利用が好ましい可能性がある。
【0005】
今日、有機スルフィドおよびこれらの酸化物の多数の合成方法が存在する。最も広く用いられ、ならびに産業的観点から最も費用効率の高い方法は、しかしながら、最終生成物の不快な臭気の原因である副産物を生じるという欠点を有する。
【0006】
例えば、DMDS合成方法の中で、特に効果的で経済的な方法は、本発明の硫黄によるメチルメルカプタンの酸化である。
【0007】
【化1】

【0008】
この硫黄によるメチルメルカプタンの酸化は、バッチ式または連続条件下で、有機または無機、均一または不均一な塩基性剤により触媒され、硫化水素の放出および2より大きな硫黄等級xのジメチルポリスルフィド(CHCH)の放出を伴う。
【0009】
高収率でDMPS(2より大きな等級のジメチルポリスルフィド)の生成が限られるこの方法に従ってDMDSを製造するために、特許EP0446109(この内容は参照により本明細書に組み入れられる。)は、中間体の脱気領域、続いて蒸留領域により中断される2つの反応領域を含む調製方法について記載する。この方法は、DMDSの収率および選択性に関して優れた性能レベルを供するが、DMDSの合成中に使用または生成するメチルメルカプタンに由来する有意な量のメチルメルカプタン(MM、約4000ppm)および非常に少量のジメチルスルフィド(DMS、約300ppm)を生じ、最終生成物に残存することが見出される。
【0010】
これらの揮発性不純物の結果、DMDSの臭気を非常に不快で攻撃的にさせ、この強力な臭気は使用者がこの生成物を取り扱う際のトラブルの大きな原因と考えられる。
【0011】
有機ポリスルフィドの臭気を遮蔽するために、US Patent 5559271は、一定量の遮蔽物、特にバニリンまたはエチルバニリン等の添加を推奨する。この一般式はDMDSを含むが、この特許は、より具体的には、重ポリスルフィド、例えばジ−tert−ノニルペンタスルフィドの処理を対象とする。DMDSにこの方法を適用しても、この不快な臭気を効果的に遮蔽することはできない。
【0012】
特許EP0976726は、メチルメルカプタンおよびジメチルスルフィド等の極めて臭気のある揮発性不純物の含量が低下したDMDSの特定事例において、最も効果的な臭気遮蔽剤は、一般式RCO(式中、Rは、場合により、1から4の炭素原子を含む不飽和、直鎖または分岐の炭化水素系基を表し、Rは、場合により、2から8の炭素原子を含む不飽和、直鎖、分岐、または環状炭化水素系基を表す。)のエステルから選択されることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第0446109号明細書
【特許文献2】米国特許第5559271号明細書
【特許文献3】欧州特許第0976726号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、今日知られる有機スルフィドおよびこれらの酸化物の臭気を遮断する溶液は完全に満足できるものでなく、より効果的で、特に最終使用者の嗅ぐ臭気を可能な限り心地良いものとする臭気遮蔽剤が、常にこれらの生成物について探し求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って、本発明の目的は、とりわけ、
a)一般式(1):
【0016】
【化2】

(式中、Rは、1から4の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルキル基、および2から4の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルケニル基から選択され、nは0、1または2に等しく、xは0、1、2、3または4から選択される整数であり、好ましくはxは1、2、3または4を表し、R’は1から4の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐のアルキル基、および2から4の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐のアルケニレン基から選択され、またはn=x=0の場合のみ水素原子である。)
の、場合により酸化物形態である少なくとも1つの有機スルフィド、ならびに
b)少なくとも1つのモノエステル、少なくとも1つのジ−および/またはトリエステル、少なくとも1つのアルコール、少なくとも1つのケトン、ならびに場合により少なくとも1つのテルペンを含む少なくとも1つの臭気遮蔽剤
を含む、組成物である。
【0017】
好ましい一実施形態によると、臭気遮蔽剤は、
b1)1重量%から40重量%の少なくとも1つのモノエステル、
b2)10重量%から70重量%の少なくとも1つのジ−および/またはトリエステル、
b3)1%から30%の少なくとも1つのアルコール、
b4)0.5%から20%の式R−CO−R(式中、Rは、1から6の炭素原子を含む直鎖または分岐の炭化水素系鎖であって、場合により1以上の二重結合の形態で1以上の不飽和を含む鎖を表し、ならびにRは、環状炭化水素系鎖または場合により直鎖または分岐の炭化水素系鎖であるが、好ましくは環状構造で置換される鎖を表し、Rは、6から12の炭素原子を含み、場合により1以上の二重結合の形態で1以上の不飽和を含み、場合により1以上のヒドロキシル基で置換される。)の少なくとも1つのケトン、ならびに
b5)場合により、20%までの少なくとも1つのテルペン
を含む。
【0018】
本発明の記載において、百分率は、具体的に他に言及しない限り、重量で示される。b1、b2、b3、b4およびb5の百分率は、臭気遮蔽剤b)の総重量に対して表される重量百分率である。他に言及しない限り、「ppm」は、重量比100万分の1を意味する。
【0019】
一実施形態によると、本発明の組成物で使用される成分a)は、これ自体が既知の任意方法に従って得られ、または市販の、好ましくは揮発性不純物の含量が減少した、場合により酸化物形態の有機スルフィドである。このような不純物は、例えばDMDSの場合はメチルメルカプタン(MM)およびジメチルスルフィド(DMS)であり、DMSOに関して最も一般的に遭遇する不純物は、例えばDMS、DMDSおよび/またはBMTM(ビス(メチルチオ)メタン、2,4−ジチアペンタンとしても知られる。)である。
【0020】
上記の揮発性不純物を除去する、またはせめて減少させるための当業者に知られる任意の方法が適し得るが、該方法の中で、非限定的様式で言及がなされ得るのが、蒸留、窒素、空気等の不活性気体流下の蒸発である。
【0021】
具体的には、DMDSに存在するMMおよびDMSの量は、蒸留により有利にも大幅に減少し得る。この方法は、MMおよびDMSを一緒に除去する利点を有するのに対し、通常の臭気減少方法は、一般に、塩基の存在下においてメルカプタン機能と塩基またはアルケンオキサイド等の除去剤との特異反応による残留メルカプタンの除去に基づくものである。これらの方法はDMDSに存在するDMSに影響を及ぼさないであろう。
【0022】
好ましい一実施形態によると、MMおよびDMSの残留含量は、DMDSのトッピング後、DMDSに対して重量でそれぞれ100ppmおよび50ppmを超過しない。DMDS中のメチルメルカプタン(MeSH)の残留含量は、重量で500ppmを超過すべきでない。
【0023】
DMSOの場合、DMS、DMDSおよび/またはBMTM等の不純物の含量は、個別に採取された不純物のそれぞれについて、有利には100ppm未満であり、好ましくは50ppm未満、より好ましくは10ppm未満であるべきである。
【0024】
一実施形態において、本発明の組成物の成分a)は、式(1a):
【0025】
【化3】

(式中、同一または相違し得るRおよびR’は、1から4の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルキル基および1から4の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルケニル基から選択され、nは0に等しく、xは、1、2、3または4から、好ましくは2、3または4から選択される整数である。)
に対応する。
【0026】
好ましくは、式(1a)の成分a)はDMDSである。
【0027】
他の実施形態において、本発明の組成物の成分a)は、式(1b):
【0028】
【化4】

(式中、同一または相違し得るRおよびR’は、1から4の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルキル基および1から4の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルケニル基から選択され、nは0、1または2に等しく、ならびにxは0に等しい。)
に対応する。
【0029】
好ましくは、式(1b)の成分a)はDMSOである。
【0030】
本発明によると、上述の式(1)に対応する有機スルフィド、および/またはこの酸化物形態の臭気の遮蔽は、上記b)に定義される組成物を該スルフィドまたは酸化物に添加することにより得られる。
【0031】
本発明は、少なくとも1つの有機スルフィドおよび/またはこの酸化物の性質を化学修飾することなく、不快な臭気を遮蔽する利点を有する。従って、本発明は、a)上記に定義した式(1)の少なくとも1つの有機スルフィドの過半量を含む組成物を提示し、該組成物に対して、組成物a)の不快な臭気を遮蔽する少量の組成物b)が添加される。
【0032】
本発明の臭気が遮蔽された組成物は、少なくとも1つの成分a)を少なくとも1つの臭気遮蔽組成物b)と単に組み合わせることにより、これ自体が既知の任意の方法に従って調製され得る。例えば、少なくとも1つの組成物b)を少なくとも1つの成分a)に添加することは可能であり、または逆も同様に可能であり、場合により攪拌および/または場合により加熱を伴う。より一般的には、任意の既知の混合および/または加熱方法が用いられ得る。
【0033】
本発明の組成物の調製は、例えば大気圧下、0℃から100℃の間、好ましくは周囲温度から80℃の間の温度で実施され得る。調製は、加圧下または減圧下で、上記の範囲内の温度でも実施され得る。
【0034】
本発明の臭気が遮蔽された組成物の調製に必要な時間は、組成物a)および成分b)の性質および量に従って変化するが、温度および選択圧力の関数としても変化する。一般規則として、この時間は、均一な混合物を得るため、および成分a)の臭気を遮蔽する所望の効果を生じるために必要な時間に相当し、一般に数秒から数分の間、または1時間以上となることすらある。
【0035】
上記の調製方法は、バッチ式(バッチ方法)または連続的に調製できる。
【0036】
組成物b)は、当業者に知られる任意の方法に従って、組成物の総重量に対して、数ppm、例えば10ppmから2重量%、好ましくは10ppmから1重量%に及ぶ量で成分a)と混合する。遮蔽剤(組成物b))の量は、上記に示す範囲内で、所望する効果、遮蔽されるべき臭気の強度、上記に定義した成分a)に存在し得る様々な不純物の各残留含量等に応じ、大幅に変動し得る。
【0037】
数ppm未満の遮蔽剤の量は少なすぎて所望の効果を得られない可能性がある。2%より多い遮蔽剤の量は、有機スルフィドおよび/または酸化物に想定される適用に応じ、悪影響を及ぼし得る。
【0038】
DMDSの場合、例えば、この有機スルフィドの主たる利点の1つは高硫黄含量(68%)である。組成物中の遮蔽剤の含量が高すぎると、この硫黄力価の低下をもたらし、この主たる適用における該生成物の利点が減少する。
【0039】
好ましくは、非限定的な例として、臭気遮蔽剤b)の含量は、組成物の総重量に対して、0.001重量%から0.5重量%の間であり、より具体的には約0.1重量%から0.5重量%の間であり、特に臭気を遮蔽することが望まれる有機スルフィドがDMDSの場合、約0.3%に相当するのが有利である。
【0040】
また、非限定的な例として、DMSOの場合、臭気遮蔽剤の最大含量は組成物の総重量に対して0.001重量%から0.2重量%の間であることが有利であり、好ましくは100ppmから1000ppmの間であり、例えば重量で約500ppmである。
【0041】
上記に示すように、本発明の組成物は、少なくとも1つの臭気遮蔽剤b)の組成物を含み、該剤は、組成物b)の総重量に対して、1重量%から40重量%、好ましくは2重量%から35重量%、より好ましくは5重量%から30重量%の、b1)で言及した少なくとも1つのモノエステルを含む。
【0042】
b1)で言及したモノエステルの実例だが非限定的な例として、飽和または不飽和C−C20酸エステル、例えば、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、2−メチルブチル、イソアミル、ヘキシル、ベンジル、フェニルエチル、メンチル、またはカルビル酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、メチルブチレート、ペンタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘプタン酸塩、カプロン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩およびリノレン酸塩等、およびこれらの混合物も言及され得る。
【0043】
酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、酪酸2−メチルブチル、酪酸イソアミル、酢酸ベンジル、酢酸フェニルエチルおよびこれらの化合物の混合物は特により好ましい。
【0044】
臭気遮蔽剤組成物b)は、10重量%から70重量%の間、好ましくは15重量%から65重量%の間、より好ましくは20重量%から60重量%の間の量で、少なくとも1つのジ−および/またはトリエステルb2)、例えば、非限定的な様式において、オルト−フタル酸ジエチル等のオルト−フタル酸塩、クエン酸トリエチル等のクエン酸塩、およびマロン酸ジエチル等のマロン酸塩から選択される少なくとも1つのジ−および/またはトリエステル等も含む。
【0045】
臭気遮蔽剤b)は、組成物の総重量に対して1重量%から30重量%、好ましくは5重量%から25重量%の少なくとも1つのアルコールb3)、有利には1から30の炭素原子、好ましくは6から20の炭素原子、より好ましくは8から11の炭素原子を含む少なくとも1つのモノアルコールも含み、該炭素原子は、場合により1以上の二重結合の形態で1以上の不飽和を含む直鎖または分岐鎖を形成し、場合により飽和または完全もしくは部分的に不飽和の5−または6−員環構造を含む。
【0046】
上記に定義したアルコールはモノアルコールが好ましく、ヒドロキシル機能はsp炭素原子に担われるのが好ましい。ヒドロキシル機能は上記に定義した環状構造に含まれる炭素原子によっても担われ得ると理解されるべきである。
【0047】
臭気遮蔽剤で使用される、上記に定義されるアルコールは、非限定的な例として、メントール、ネオメントール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、シトロネロール、ジヒドロミルセノール、ジヒドロテルピネオール、ジメトール、エチルリナロール(ethyllinalol)、ゲラニオール、リナロール、テトラヒドロリナロール、テトラヒドロミルセノール、ネロール等、およびこれらの2以上の混合物からも選択されるのが有利である。
【0048】
上記b4)に示されるケトンまたはケトン類は、非限定的な例として、好ましくはダマスコン、ダマセノン、イオノン、イリソン、メチルイオノン、フランビノン(CAS No.5471−51−2)等、およびこれらの混合物からも選択される。ケトンの量は、組成物の総重量に対して0.5重量%から20重量%の間、好ましくは1重量%から10重量%の間が有利である。
【0049】
臭気遮蔽剤は、場合により、組成物の総重量に対して20重量%まで、好ましくは1重量%から10重量%の少なくとも1つのテルペンも含み得る。
【0050】
b5)に示され、使用され得るテルペンの例として、非限定的な様式において、テルピネン、ミルセン、リモネン、テルピノレン、ピネン、サビネン、カンフェン等、これらの2以上の混合物、およびテルペンに基づく精油、特にこれらの成分を含むものにも言及され得る。
【0051】
さらに、本発明の文脈で使用され得る臭気遮蔽剤は、香水分野で通例使用される他の成分(香料)、特に環状ケトンおよび/またはアルデヒド機能を有する1以上の化合物を少量含み、この中で、非限定的な様式で、ゲラニアール、ネラール、シトロネラル、メントン、イソメントン、1,8−シネオール、アスカリドール、フラボノン(flavonone)、およびこれらの混合物に言及され得る。
【0052】
有機スルフィドの臭気を遮蔽することを意図し、ならびに上述した組成物b)は、適切な場合には、または必要ならば、該分野で通常使用される1以上の添加剤も含み得る。このような添加剤は、例えば、非限定的な様式において、溶媒、顔料、染料、保存剤、殺生物剤等から選択され得る。
【0053】
溶媒の中で、特に最も好ましい例はアルコール、エーテル、エステルおよびグリコールである。溶媒は、ジエチルフタレート、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびこれらの混合物から選択されることが特に有利であり、ジエチルフタレート、ジプロピレングリコール、およびこれらの混合物から選択されることがさらにより有利である。
【0054】
臭気遮蔽剤組成物b)に存在するモノエステル、ジエステルまたはトリエステルは、成分b1)および/またはb2)として、上記に定義した溶媒の機能も有し得ると理解されるべきである。
【0055】
本発明によると、有機スルフィドおよびこれらの酸化物形態に適した典型的な臭気遮蔽剤組成物は、
酢酸イソアミル、酪酸エチル2−メチル、酪酸イソアミル、酢酸フェニルエチル、カプロン酸エチル、酢酸ベンジル、酢酸ヘキシルおよびこれらの混合物から選択される5重量%から30重量%の少なくとも1つのモノエステルb1)、
オルト−フタル酸ジエチル等のオルト−フタル酸塩、クエン酸トリエチル等のクエン酸塩、およびマロン酸ジエチル等のマロン酸塩、ならびにこれらの混合物から選択される20重量%から60重量%の少なくとも1つのジ−および/またはトリエステルb2)、
b3)で上述したように、5%から25%の少なくとも1つのアルコール、好ましくは少なくとも2つのアルコール、より好ましくは少なくとも3つのアルコール、
b4)で上述したように、1%から10%の少なくとも1つのケトン、好ましくは少なくとも2つのケトン、より好ましくは少なくとも3つのケトン、ならびに
b5)で上記に参照した1%から10%の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのテルペン、好ましくはテルペンの混合物
を重量で含む。
【0056】
この組成物は、この明細書の残りの記載においてCiと表示され、DMDSの臭気の遮蔽または改善に特に最適である。この同一の組成物Ciは、DMSOの臭気の遮蔽または改善にも有利に使用され得る。
【0057】
このような組成物Ciの代表例だが非限定的な例は以下に再現されるが、各成分は列挙化合物の1つ、幾つか、または全てを含む。
【0058】
成分b1)16.00%
酢酸ベンジル、酢酸ヘキシル、
酢酸イソアミル、酢酸フェニルエチル、
カプロン酸エチル、酪酸エチル2−メチルを含む。
【0059】
成分b2)50.00%
マロン酸ジエチル、フタル酸ジエチルを含む。
【0060】
成分b3)20.60%
フェニルエチルアルコール、シトロネロール、
ゲラニオール、リナロール、シス−3−ヘキセノールを含む。
【0061】
成分b4)4.50%
1−(4−ヒドロキシフェニル)ブタン−3−オン、
アルファ−イリソンを含む。
【0062】
成分b5)7.00%
オレンジテルペン
1.90%
シトラール、エチルマルトール、
グリシド酸エチルメチルフェニルを含む。
【0063】
これらの組成物は例として挙げられ、添付の特許請求の範囲によって定義される、本発明により許容される組成物の潜在的な多様性に関しては、全く制限されない。
【発明を実施するための形態】
【0064】
下記の実施例は、本発明を限定することなく説明するものである。
【実施例】
【0065】
[実施例1]
臭気が遮蔽されたDMDS組成物
DMDSの臭気の遮蔽または改善を可能にする香料組成物を特徴付けるために、嗅覚試験手法を用いた。この手法は様々な製剤を快不快で(hedonically)分類することを可能にする。
【0066】
操作条件:
この嗅覚試験を実施するために、30リットルのポリエチレン(PE)ドラムを用い、それぞれのドラムは蓋を備え、蓋には約10cm×10cmの揚げ蓋が切り取られ、操作者(パネリスト)がドラムに含まれる蒸気を嗅げるようにする。
【0067】
2枚の吸収紙(クロマトグラフィー紙)を含む結晶皿が各ドラムに設置される。1mlの試験組成物を各シート上に注ぐ。ドラムは周囲温度で24時間密閉保存する。続いて、盲目評価を実施する。
【0068】
パネリストの内、10人が順に1セッションにつき数生成物(1セッションにつき最大3つの生成物)を試験しに来る。この研究用の参照DMDSを含むドラム、次いで試験組成物の1つを含むドラムを嗅ぐことにより始まる。
【0069】
パネリストは、任意に5点を付けた参照に対して、好みに従って、試験組成物のそれぞれに点数を付ける。パネリストに付けられた点数は、1(最も心地良い生成物)から10(最も不快な生成物)に及ぶ。
【0070】
試験試料の調製:
臭気遮蔽剤を含まないDMDSは、Arkema社により製造される工業用DMDSであり、99.7%を上回る純度を有し、100ppm未満のメチルメルカプタンおよび50ppm未満のジメチルスルフィドを含む。
【0071】
このDMDSに、特許EP0976726に記載の通りの25%酢酸イソアミル、50%オルト−フタル酸ジエチル、15%酪酸2−メチルブチルおよび10%酢酸ベンジルの組成を有する、3000ppmの香料組成物を添加する。この試料は嗅覚試験用の参照試料であり、A1と呼ぶ。
【0072】
本発明に従う、ならびに上記に定義される3000ppmの香料組成物Ciは、Arkema社により製造される臭気遮蔽剤を含まない同一の工業用DMDSに添加される。この試料をA2と呼ぶ。
【0073】
結果:
嗅覚試験の結果は以下の表1に再現される。
【0074】
【表1】

これらの結果の統計的処理は、この試験で0.87のSSD(最小有意差)を研究することにより、標準偏差を計算し、試料を2つの群に分類することを可能にする。
【0075】
SSD試験は平均を比較するための統計的試験であり、統計学的見地から、2つの試料の平均が有意に異なるか否かを決定することを可能にする。
【0076】
本発明の実施例において、使用する統計条件は95%で固定される。平均が有意に相違しない場合、2つの試料は同一の群に分類される。平均が有意に相違する場合、2つの試料は2つの別個の群(本発明を説明する実施例においてAおよびB)を構成する。
【0077】
全試料を比較するために同一の操作が実施されることにより、最終的に、1または2以上の群を得ることを可能にし、各群は平均点が有意に相違しない試料を構成する。これらの様々な処理は、FIZZソフトウェア、2.01版(Biosystemes,Couternon,France)を用いて実施する。
【0078】
従って、非常に有意な統計的差異が存在し、試料Aより試料Aの臭気の方が格段に心地良い認知を示す。
【0079】
[実施例2]
臭気が遮蔽されたDMSO組成物
実施例1に記載した試験と同様の嗅覚試験をDMDSの代わりにDMSOを基礎として実施した。
【0080】
試験試料の調製:
参照DMSOは、99.97%に相当する純度を有し、Arkema社により製造され、次いで50ppmのジメチルスルフィド(DMS)を追加した工業用DMSOである。この試料をB1と呼ぶ。
【0081】
本発明の700ppmの香料組成物Ciは、50ppmのジメチルスルフィドを追加したDMSOの同じバッチに添加される。この試料をB2と呼ぶ。
【0082】
嗅覚試験の結果は、以下の表2に再現される。
【0083】
【表2】

実施例1に関して、これらの結果の統計的処理は、この試験で1.01のSSD(最小有意差)を研究することにより、標準偏差を計算し、試料を2つの群に分類することを可能にする。
【0084】
従って、非常に有意な統計的差異が存在し、試料B1より試料B2の臭気の方が格段に心地良い認知を示す。
【0085】
[実施例3]
臭気が遮蔽されたDMSO組成物
99.97%の純度を有し、Arkema社により製造される実施例2と同じ工業用DMSOは、50ppmのDMSを追加せずに、実施例2に記載の嗅覚試験に従って試験される。この試料をC1と呼ぶ。
【0086】
本発明の150ppmの香料組成物Ciは、この同一の工業用DMSOに添加される。この試料をC2と呼ぶ。
【0087】
C1およびC2の嗅覚試験結果は、試料C2が試料Cより統計的に格段に心地良いものであると判定されることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一般式(1):
【化1】

(式中、Rは、1から4の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルキル基、および2から4の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルケニル基から選択され、nは0、1または2に等しく、xは0、1、2、3または4から選択される整数であり、好ましくはxは1、2、3または4を表し、R’は1から4の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐のアルキル基、および2から4の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐のアルケニレン基から選択され、またはn=x=0の場合のみ水素原子である。)
の、場合により酸化物形態である少なくとも1つの有機スルフィド、ならびに
b)少なくとも1つのモノエステル、少なくとも1つのジ−および/またはトリエステル、少なくとも1つのアルコール、少なくとも1つのケトン、ならびに場合により少なくとも1つのテルペンを含む少なくとも1つの臭気遮蔽剤
を含む、組成物。
【請求項2】
成分a)がジメチルジスルフィドおよびジメチルスルホキシドから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
臭気遮蔽剤が、
b1)1重量%から40重量%の少なくとも1つのモノエステル、
b2)10重量%から70重量%の少なくとも1つのジ−および/またはトリエステル、
b3)1%から30%の少なくとも1つのアルコール、
b4)0.5%から20%の式R−CO−R(式中、Rは、1から6の炭素原子を含む直鎖または分岐の炭化水素系鎖であって、場合により1以上の二重結合の形態で1以上の不飽和を含む鎖を表し、ならびにRは、環状炭化水素系鎖または場合により直鎖または分岐の炭化水素系鎖であるが、好ましくは環状構造で置換される鎖を表し、Rは、6から12の炭素原子を含み、場合により1以上の二重結合の形態において1以上の不飽和を含み、場合により1以上のヒドロキシル基で置換される。)の少なくとも1つのケトン、ならびに
b5)場合により、20%までの少なくとも1つのテルペン
を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
臭気遮蔽剤b)が、組成物の総重量に対して、1重量%から40重量%、好ましくは2重量%から35重量%、より好ましくは5重量%から30重量%の少なくとも1つのモノエステルb1)を含み、b1)が飽和または不飽和C−C20酸エステル、例えば、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、2−メチルブチル、イソアミル、ヘキシル、ベンジル、フェニルエチル、メンチル、またはカルビル酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、メチルブチレート、ペンタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘプタン酸塩、カプロン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩およびリノレン酸塩等、およびまたこれらの混合物から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
臭気遮蔽剤組成物b)が、10重量%から70重量%の間、好ましくは15重量%から65重量%の間、より好ましくは20重量%から60重量%の間の量で、オルト−フタル酸塩(好ましくはオルト−フタル酸ジエチル)、クエン酸塩(好ましくはクエン酸トリエチル)、およびマロン酸塩(好ましくはマロン酸ジエチル)から選択される少なくとも1つのジ−および/またはトリエステルb2)を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
臭気遮蔽剤b)が、組成物b)の総重量に対して、1重量%から30重量%、好ましくは5重量%から25重量%の少なくとも1つのアルコールb3)を含み、有利には1から30の炭素原子、好ましくは6から20の炭素原子、より好ましくは8から11の炭素原子を含む少なくとも1つのモノアルコールを含み、該炭素原子が、場合により1以上の二重結合の形態で1以上の不飽和を含む直鎖または分岐鎖を形成し、場合により飽和または完全もしくは部分的に不飽和の5−または6−員環構造を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
アルコールが、メントール、ネオメントール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、シトロネロール、ジヒドロミルセノール、ジヒドロテルピネオール、ジメトール、エチルリナロール(ethyllinalol)、ゲラニオール、リナロール、テトラヒドロリナロール、テトラヒドロミルセノール、ネロール等、およびまたこれらの2以上の混合物から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
臭気遮蔽剤b)が、組成物b)の総重量に対して0.5重量%から20重量%の間、好ましくは1重量%から10重量%の間のダマスコン、ダマセノン、イオノン、イリソン、メチルイオノン、およびフランビノン等、ならびにまたこれらの混合物から選択される少なくとも1つのケトンb4)を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項9】
臭気遮蔽剤b)が、場合により、組成物の総重量に対して、20重量%まで、好ましくは1重量%から10重量%の少なくとも1つのテルペンb5)を含み、b5)がテルピネン、ミルセン、リモネン、テルピノレン、ピネン、サビネン、カンフェン等、これらの2以上の混合物、およびまたテルペンに基づく精油、特にこれらの成分を含むものから選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項10】
臭気遮蔽剤が、
酢酸イソアミル、酪酸エチル2−メチル、酪酸イソアミル、酢酸フェニルエチル、カプロン酸エチル、酢酸ベンジル、酢酸ヘキシルおよびこれらの混合物から選択される5重量%から30重量%の少なくとも1つのモノエステルb1)、
オルト−フタル酸塩(好ましくはオルト−フタル酸ジエチル)、クエン酸塩(好ましくはクエン酸トリエチル)、およびマロン酸塩(好ましくはマロン酸ジエチル)、ならびにこれらの混合物から選択される20重量%から60重量%の少なくとも1つのジ−および/またはトリエステルb2)、
5%から25%の少なくとも1つのアルコール、好ましくは少なくとも2つのアルコール、より好ましくは少なくとも3つのアルコール、b3)、
1%から10%の少なくとも1つのケトン、好ましくは少なくとも2つのケトン、より好ましくは少なくとも3つのケトン、b4)、ならびに
1%から10%の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのテルペン、好ましくはテルペンの混合物、b5)
を重量で含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
遮蔽剤b)が、組成物の総重量に対して、10ppmから2重量%、好ましくは10ppmから1重量%に及ぶ量で存在する、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
有機スルフィドa)がジメチルジスルフィドであり、ならびに臭気遮蔽剤b)の量が、組成物の総重量に対して、0.001重量%から0.5重量%の間であり、より具体的には約0.1重量%から0.5重量%の間であり、有利には約0.3%に等しい、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
有機スルフィドa)がジメチルスルホキシドであり、ならびに臭気遮蔽剤b)の量が、組成物の総重量に対して、0.001重量%から0.2重量%の間であり、好ましくは重量で100ppmから1000ppmの間であり、例えば約500ppmである、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。

【公表番号】特表2013−500954(P2013−500954A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522230(P2012−522230)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051607
【国際公開番号】WO2011/012815
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】