説明

舟状骨症候群の治療へのクロドロン酸の使用

【課題】骨粗鬆症を伴うウマの舟状骨症候群の治療に有効な医薬の提供。
【解決手段】有効成分としてのクロドロン酸、その付加塩、エステル、水和物又は水和物の塩を含有する、ウマの骨粗鬆症を伴う舟状骨症候群の治療用の注射可能な溶液又は懸濁液の形態の医薬。当該医薬を用いる場合、当該治療は、数日の期間内における、当該医薬を2〜5回筋内注射することによって実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウマにおける骨粗鬆症を伴う舟状骨症候群の治療への、クロドロン酸、その付加塩若しくはエステル、水和物又は水和物の塩の使用に関する。また本発明は、ウマの骨粗鬆症を伴う舟状骨症候群の治療用薬剤の調製への、有効成分としてのクロドロン酸、その付加塩又はエステルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウマの医学において、疾患「podotrochlitis」又は「podotrochlosis」(通常「舟状骨症候群」と呼ばれる)とは、ウマの前肢の末端部分における広範囲な疾患である。当該疾患はこれまで、形態的な観点から、足の舟状骨、舟状骨嚢及び屈筋腱における慢性、亢進及び変性疾患と言われていた。
【0003】
ウマにおいては、遺伝的素因、不適切な飼育環境、不十分若しくは不規則な訓練、高度の緊張及び加齢により、しばしば足の舟状骨の萎縮をもたらし、それはやがて骨中のミネラル分の減少に至る。更に軟骨下骨層が、骨に作用する反生理的なストレス負荷の結果として骨孔変化を被る。
【0004】
疾患の初期では、軟骨下骨層には、肉芽組織で満たされ、破骨細胞及び骨芽細胞によって囲まれた多くの脈管が存在する。病理発生の間、骨破壊の変化が生じ、それが腱の滑面の小組織に至り、それによって当該表面が薄くなり、手掌の小組織における微細孔の形成に至る。これにより、主に軟骨下骨層の骨溶解が引き起こされる。
【0005】
これらの疾患症が発生するとき、周期的な慢性跛行に至り、これにより、ほとんどの場合、長期にわたりウマを利用できなくなる。
【0006】
舟状骨症候群は、ウマの跛行の主要な原因の1つであり、上記の症状の頻度に照らして、薬学的、外科的及び自然治癒などの観点から、多くの治療試験が過去に行われてきた。
【0007】
特許文献1は、ウマの舟状骨症候群の治療を目的とする、クロドロン酸などのある特定のビスホスホネートの使用に関して記載している。疾患の原因に関しては、2つの理論が提案されている。第1は足の範囲内における循環の悪化であり、第2は問題となる脚の生化学的特性の変化である。当該医薬は経腸的、非経口的又は経真皮的に投与してもよく、好ましくは静脈注射で投与する。
【0008】
しかしながら、従来公知の治療的な試みでは、顕著な効果が見られなかった。動物は長期間にわたり痛感に悩まされ、特にレジャー用若しくは競技用の馬の動作の悪化及び利用価値の低下が生じ、その馬の所有者における相当な感情的及び財政的損失をもたらす。
【0009】
ビスホスホネート類の他の物質(すなわちチルドロン酸)が舟状骨症候群に対する治療効果を有することが最近明らかとなっている。しかしながら、この効果は疝痛などの顕著な副作用をもたらすこともあり、更に、注入及び静脈内注射による有効成分の一定量の投与を実施する必要を伴うことから、動物及び治療を担当する獣医師にとり相当な負担を強いるものとなる。
【特許文献1】欧州特許第0854724号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上より本発明は、骨粗鬆症を伴うウマの舟状骨症候群の治療に有効な医薬の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、クロドロン酸を、添付の特許請求の範囲の請求項1に記載される療法に従って投与することにより、ウマの舟状骨症候群を効率的に治療することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明により、特にウマの脚の舟状骨領域の骨孔症状を効果的に治療できる。
【0012】
すなわち本発明は、クロドロン酸、その付加塩、エステル、水和物又は水和物の塩の、ウマの骨粗鬆症を伴う舟状骨症候群の治療用の注射可能な溶液又は懸濁液の形態の医薬の調製への有効成分としての使用に関する。当該治療は、数日の期間内における、当該医薬を2〜5回筋内注射することによって実施する。
【0013】
好ましい(又は特に好適な)発明の実施態様に関しては、添付の特許請求の範囲の従属請求項に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
クロドロン酸は、(ジクロロメチレン)ビス(ホスホン酸)に関する国際一般名である。クロドロン酸のジナトリウム塩は、高カルシウム血症、特に固形癌の骨転移、又は骨転移を伴わない悪性腫瘍により誘導される骨溶解の結果として生じる高カルシウム血症を含んでいる疾患のヒト医学において使用される。例えば、クロドロン酸のジナトリウム塩4HOを含有する医薬が、商品名「Bonefos」(登録商標)として市販されている。
【0015】
本発明では、クロドロン酸の使用により、ウマの骨粗鬆症を伴う舟状骨症候群の治療において顕著な治療効果が得られることが明らかになり、それにより、治療を受けた大部分のウマにおいて、乗馬用のウマ又は競技用のウマとして通常通り再び利用できるようになった。
【0016】
本発明では、好適なクロドロン酸の付加塩はアルカリ金属塩、特にジナトリウム塩、最も好適にはジナトリウム塩・4HOである。
【0017】
本発明に係る注射可能な溶液状又は懸濁液状の形態の医薬は、公知のアジュバント及び賦形剤(例えば結合剤、バッファ、滑剤、希釈剤及び着色剤)を含有してもよい。注射可能な溶液又は懸濁液は、公知の方法で調製することができる。
【0018】
所望の治療効果若しくは予防効果を得るために、医薬を数日以内(例えばほぼ3日以内、好ましくは1日以内)に2〜5回筋肉注射により投与する薬剤投与計画が必要となる。この場合、1回の注入あたり、0.125〜2.5mg、好ましくは0.25〜1mgの投与量で医薬を投与してもよい。特に好適には約0.6mg/kg体重で有効成分を投与する。500kgの重量のウマの場合、250〜2500mg、好ましくは400〜1500mg、特に好ましくは約800〜1000mgの有効成分を、2〜5回の注射、好ましくは3回の注射により投与する。特に好適には、500kgの重量のウマの場合、900mgの有効成分を、各300mgずつ3回の注射に分割して、1日以内で投与する。好ましくはウマの頚部、胸部及び殿筋に当該医薬を筋肉注射する。3回注射を行う場合、好適には頸筋(左及び右面に)へ2回の注射、特に好適には首筋から1手幅分下に1回、及び肩甲骨から1手幅分上に1回注射し、更に胸部の筋肉へ1回注射する。2〜5回の注射を行うときは、同様に交互に行う。
【0019】
約14日後、ほとんど全てのウマにおいて、臨床症状の顕著な改良が観察される。約4〜6週後に、病像が安定し、治療効果が確実に見られたことが確認できる。約10〜14ヵ月後、臨床症状は通常悪化する。その後、同様の治療を1回又は2回以上反復し、同様の治療効果を得る。このようにして、治療を受けたウマは数年にわたり跛行がない状態に維持される。
【0020】
本発明では、従来の治療方法を事前に施し、効果が見られなかった、舟状骨症候群に罹患する350頭以上のウマを用い、本発明に係る医薬を投与した結果、副作用を伴うことなく、良好な治療効果が見られた。したがって、治療を受けたウマの多数は、この医薬の投与を定期的に受けることにより、数年間の跛行のない状態に維持された。例えば、去勢ウマの治療的な成功例を挙げると、約3年間、舟状骨症候群に罹患し、乗馬用のウマとして利用できず、当然ながら競技用ウマとしも利用できないでいたウマに対して、本発明に係る医薬を投与することにより、非常に良好な治療効果が得られ、当該去勢ウマはその後、ショージャンパーとして6年間活躍した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロドロン酸、その付加塩、エステル、水和物又は水和物の塩の、ウマの骨粗鬆症を伴う舟状骨症候群の治療用の注射可能な溶液又は懸濁液の形態の医薬の調製への、有効成分としての使用であって、前記治療が、数日の期間内に前記医薬を2〜5回筋内注射することによって実施される使用。
【請求項2】
使用される前記付加塩がアルカリ金属塩である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
クロドロン酸のジナトリウム塩を使用する、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
前記医薬が公知のアジュバント及び賦形剤を含んでなる、請求項1から3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
前記治療が、1日以内に前記医薬を2〜5回筋内注射することによって実施される、請求項1から4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
10〜14ヵ月経過後、前記治療を1回又は2回以上反復させる、請求項1から5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
1回の注射あたり、0.125〜2.5mg、好ましくは0.25〜1mg、特に好ましくは約0.6mg有効成分/kg体重の投与量で前記医薬を投与する、請求項1から6のいずれか1項記載の使用。

【公表番号】特表2009−514922(P2009−514922A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539340(P2008−539340)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2006/010753
【国際公開番号】WO2007/054309
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(508137246)
【Fターム(参考)】