説明

航空機の構造要素

本発明は、繊維で強化された幾何学的複合構造の樹脂をベースとする複合材料製で部分的に製作してあり、繊維で強化された幾何学的複合構造の樹脂をベースとする複合材料製の除霜装置通過のために用意してある孔部を包囲する少なくとも1つの部分(56)および少なくとも別の1の金属製部分(58)を含むことを特徴とする、航空機エンジン室の空気流入部の後枠に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ航空機エンジン室の後部枠のように高温に晒されやすい構造要素に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機は、航空機の各種部位間における応力の受容または伝達を特に確実にする構造要素を含む。同要素は、空気と接触しやすい航空機の外皮部を支承することを特に可能にしており、かなりな硬度を航空機に付与している。
【0003】
動力装置が内蔵されているエンジン室の前部に配設されている、航空機の空気流入部10のレベルに用意されている構造要素を図1に示したが、同構造要素は後枠12と呼ばれており、エンジン室の内側に配設されている皮部12と、エンジン室の外側に配設されている皮部16とを連結する。同後枠10は、例えば空気の流入の重量、空気力学上の気流で引き起こされる応力のように空気流入口にかかる、撓曲、回転またはその他の応力の受容を保証する。
【0004】
航空機の開発費に占める燃料面の大きさを考慮して、製造者は、航空機の構造要素を作成するために、特に複合材料を利用して、消費を減少させる傾向がある。
【0005】
同複合材料は、例えば熱可塑性または熱硬化性エポキシ樹脂のような有機プラスチックの原型の中に埋没させた、例えばとりわけ炭素、黒鉛、玄武岩、アラミドまたはガラス製繊維からなる。繊維は、場合に応じて布または不織布の形を呈し得る。
【0006】
後で使用しやすいように、同繊維は、通常、コーテイングされている。事実、製作されたとき、同繊維の表面は粗雑であり、故に有機プラスチックの付着が妨げられる。また、例えば製織作業時の粗製状態の繊維の取扱いは、繊維屑が主繊維束からはがれるので、取扱いに注意を要する。それであるから、乾燥している繊維は、表面の状態を回復させるために処理され、次いで、その後の浸透のための化学的付着を助ける有機プラスチックでコーテイングされる。このコーテイングは、繊維の表面処理と呼ばれている。市販されている、表面処理された繊維は、なめらかであり、直ぐ使用できる。
【0007】
表面処理された繊維とエポキシ樹脂の使用のための工業技術は発達した。この諸技術が活用されて、同部品の製造費は、同等の金属製部品の製造費と太刀打ちできるほどになっている。
【0008】
他方では、複合材料製部品は、金属製部品の機械的特性と少なくとも等しい機械的特性を備えており、金属製部品よりも明らかに軽い。
【0009】
しかしながら、構造要素の部品を製作する目的による複合材料の使用は、場合によって、例えば500℃を超える高温を受ける可能性のある区域に位置しているとき、とりわけ問題であり得る。それは、とりわけ空気流入部の後枠の場合が問題である。ところで、このような高温では、有機プラスチックをベースとする複合材料製部品は、その機械的および構造的特性を失うので、このような要素では、この傾向は、許容できないことである。
【発明の概要】
【0010】
第1の解決策は、この種の材料を使用しないで、チタンを使用することにある。部品が高温時に機械的および構造的特性を維持したとしても、この解決策は、航空機の大きさを減少させることができず、もっと高額の開発費と製作費の原因になる。
【0011】
別の解決策は、従来の複合材料を使用して、高熱遮蔽材とも呼ばれている断熱材で、高温に晒されやすい表面を被覆することにある。図2に示した例では、後枠12は、複合材料製であり、高温に晒されやすい複合材料製表面が高熱遮蔽材20で被覆されている。第1の変形態様では、高熱遮蔽材は、保持用の2つの金属製薄片の間に挿入されているガラスウールまたはロックウールからなることができる。
【0012】
別の変形態様では、高熱遮蔽材は、シリコン層からなることができる。
【0013】
後枠の場合、同後枠は、エンジンから得られる高温の空気を利用する、空気流入口の唇部26の霜除装置のために用意された管部24のためのフランジ22も含んでいる。複合材料製後枠を保護するために、フランジと同後枠との間に絶縁材28を用意する必要がある。
【0014】
したがって、従来の技術による複合材料の利用は、高熱遮蔽材のような絶縁要素の添加による構造要素の製作を複雑にしており、複合材料の使用による重量の軽減は、高熱遮蔽材の存在でほぼ帳消しになる。
【0015】
故に、本発明は、高温で機械的特性および構造的特性を保ち続ける可能性のある、一段と軽い航空機用エンジン室の空気流入部の後枠を提案することのよって、従来の技術の欠点を排除することを狙いとしている。
【0016】
そのために、本発明は、後枠が繊維で強化された幾何学的複合構造の樹脂をベースとする複合材料で部分的に製作してあり、繊維で強化された幾何学的複合構造の樹脂をベースとする複合材料製除霜装置を通過するための孔部を囲繞する、少なくとも1の強化樹脂製部分および少なくとも1の別の金属製部分を含むことを特徴とする、航空機のエンジン室の空気流入部を対象とする。
【0017】
それ以外の特性と利点は、添付図に照らして、単に例として示した記述で明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の技術による、後枠と呼ばれている構造要素を含む航空機用エンジン室の空気流入部の縦断面図である。
【図2】従来の技術による、後枠の詳細断面図である。
【図3】本発明による、後枠と呼ばれている構造要素を含む航空機用エンジン室の空気流入部の縦断面図である。
【図4】本発明による第1の変形態様による、後枠の詳細断面図である。
【図5】本発明による別の変形態様による、後枠の詳細断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図3では、航空機用エンジン室の空気流入部を30で示した。同空気流入部は、エンジン室の内側を流れる空気力学的流れと接触しやすい内側皮部32およびエンジン室の外側を流れる空気力学的流れと接触しやすい外側皮部34を含む。
【0020】
内側皮部32は、消音パネルまたは被覆材36を含むことができる。
内側皮部と外側皮部は、当業者に良く知られているので、ここで詳述しない。
【0021】
空気流入部30は、内側皮部32と外側皮部34とを連結し、例えば空気流入部にかかる重量、空気力学的流動で引き起こされる応力のような、撓曲、回転またはその他の応力の受容を保証する後枠38と呼ばれている構造要素を含む。
【0022】
同後枠38は、開口部を含むことができ、そのレベルには、エンジンから取得した高温の空気を利用する、空気流入部30の唇部46除霜装置のために予定された管部44を支承するフランジ40が用意してある。
【0023】
本発明では、後枠38は、繊維で強化された、少なくとも幾何学的複合構造の樹脂を含む複合材料で製作してある。
【0024】
高温で機械的強度を保ち得る材料を得るには、シアレート系幾何学的複合構造の樹脂(xSiOAlO)を利用するが、内、xは、1.75から50までの間に含まれる。コルデイ・ジェオポリメール社がMEYEBの名称で市販している樹脂を利用すると有利である。
【0025】
ここで言う幾何学的複合構造の樹脂とは、幾何学的複合構造の樹脂または幾何学的複合構造の樹脂の混合物を指す。
【0026】
適用上、繊維は、いろいろな断面があり得るのであり、例えば炭素、黒鉛、玄武岩、アラミドまたはガラスの如きいろいろな材料で製作できる。
【0027】
繊維は、織物、不織布またはシ−ツの形状にすることができる。
【0028】
後で利用できるために、同繊維は、通常、コーテイングされている。事実、製造すると、繊維の表面の状態は粗雑であるので、この状態は、有機プラスチックの付着を妨げる。また、粗雑な状態の繊維の取扱いは、繊維屑が主繊維束からはがれるので、細心の注意を必要とする。それであるから、乾燥している繊維は、表面の状態を回復させるために処理され、次いで、その後の浸透のための化学的付着を助ける有機プラスチックでコーテイングされる。このコーテイングは、繊維の表面処理と呼ばれている。市販されている、表面処理された繊維は、なめらかであり、直ちに使用できる。繊維の表面処理の量は、繊維に比して比較的少なく、表面処理される繊維の質量の約1%に相当するだけである。なお、表面処理に利用される有機プラスチックの性質は、製造者によってまちまちである。
【0029】
幾何学的複合構造の樹脂と繊維との付着を助けるには、少なくとも部分的に表面処理を無活性化する必要がある。有機プラスチックと幾何学的複合構造の樹脂が混合し得ないからである。
【0030】
熱処理または化学的処理によって表面処理の無活性化をすると、広く市販されている布を使用できる。
【0031】
1の実施態様では、繊維の表面処理の無活性化は、樹脂が繊維に付着しなくなるために、樹脂の熱による劣化温度まで繊維を加熱することにある。熱処理が不活性大気下で実施されると有利である。
【0032】
この処理は、処理されている繊維にかける温度および/または温度のサイクルを場合によって調節すれば、市販されている大抵の繊維を処理できる。同処理は、約数分間の比較的短い時間で処理が可能である。
【0033】
繊維の表面処理に使用されている樹脂の熱による劣化温度がカーボンファイバーの酸化温度にきわめて近いので、繊維が受ける温度および/または温度のサイクルを制限する必要がある。事実、繊維の大きすぎる劣化は、出来上がる製品の長所を著しく減少させるからである。
【0034】
一般に、繊維の表面処理期間の終りは、繊維の劣化期間の開始に対応する。
【0035】
満足すべき付着が得られ、繊維の劣化が限られるための良好な折り合いが得られるには、繊維の表面処理を50%ないし90%に抑えておく。
【0036】
加熱温度を確定するには、試料についてテストを行う。質量分析器と併用して、または併用しないで、熱重量分析による分析(ATG)によって、表面処理に使用された化合物を確認でき、無活性化の開始と終了の温度および無活性化による質量の減少を特定できる。
【0037】
したがって、熱処理は、熱重量分析による分析のときに特定した範囲で、炉の平均温度を維持するように注意しながら、不活性大気下で製品を加熱することからなる。質量の消失の最終的検査で、このプロセスは完了する。
【0038】
別の1の作業法では、表面処理の無活性化は、とりわけ溶媒を使用することになる化学処理で実施できる。
【0039】
溶媒を選定するために、表面処理に使用された化合物をあらかじめ確認する必要がある。この確認は、熱重量分析による分析で実施できる。化学的方法は、比較的簡単に実施でき、少なくとも例えば塩化メチレンのような溶媒浴を必要とする。処理時間は、とりわけ表面処理に使用された化合物で決まる。
【0040】
処理時間を短縮させる上で、満足すべき付着が得られ、限られた処理時間で済むための好ましい妥協点は、表面処理の50%ないし90%のときに引出すことにある。
【0041】
本発明の別の特性では、繊維への浸透を向上させるために、水を樹脂に添加する。同樹脂の流動性のために、および繊維内への同樹脂の移動の均一化が得られるために、質量で約3%ないし7%の水を同樹脂に添加する。水のこの添加は、樹脂の製造者が推奨する水の量に追加する。
【0042】
少なくとも部分的に幾何学的複合構造の樹脂で製造した後枠38は、
高温に対する抵抗力が強く、機械的および構造的特性を維持する。この解決策は、後枠38の表面を保護するための耐火材を全然必要とせず、同枠とフランジ40との間に断熱材を挿入する必要がないので、質量にとって実に有利である。
【0043】
後枠38は、内側皮部32から外側皮部34まで広がっていて、内側皮部との連結手段48および外側皮部との連結手段50があって、環状を呈している。唇部46の除霜装置を通過し得るために、同環状の形態の中に、フランジ40を受けるための孔部が配設されている。
【0044】
1の実施態様では、連結手段50は、T字状の形態54を呈しており、その頭部は、適切ななんらかの手段で、外側皮部に連結されており、足部は、適切ななんらかの手段で、枠に連結されている。
【0045】
連結手段48と50は、上記諸実施態様に限定されているのではなく、他の解決策を考慮できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
後枠38は、繊維で強化された幾何学的複合構造の樹脂をベースとする複合材料製で部分的に製作されており、除霜装置の通過のために用意されている孔部を少なくとも囲繞する部分が、幾何学的複合構造の樹脂をベースとする複合材料製であり、少なくとももう一つの部分が、衝撃の場合に変形して、衝撃エネルギーを吸収できるように金属製である。図5に示したように、後枠は、2の同心の部分を含んでおり、幾何学的複合構造の樹脂製のその第1の環状部分56は、外側皮部34と接触しており、金属製である第2の環状部分58は、内側皮部32と接触しており、2の部分56と58は、適切ななんらかの手段、とりわけ各部分のレベルで用意されている湾曲縁部60で連結してある。エンジン室が、大きい直径の送風装置を含んでいて、破損時のプロペラ羽根のエネルギーが大きいとき、この解決策は推奨される。後枠の金属製部分58が変形することによって、このエネルギーの一部を吸収できるからである。
【0047】
本発明は、もちろん、上記で表し、記述した実施態様に限定されているのではなく、その反対に、すべての変形態様を含むものとする。
【符号の説明】
【0048】
10空気流入部
12後枠
14内側皮部
16外側皮部
20高熱遮蔽材
22フランジ
24管部
26唇部
28絶縁材
30空気流入部
32外側皮部
34内側皮部
36消音被覆材
38後枠
40フランジ
44管部
46唇部
48連結手段
50連結手段
52湾曲縁部
54T字状形態
56第1の環状部
58第2の環状部
60湾曲縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維で強化された幾何学的複合構造の樹脂をベースとする複合材料で製作されており、繊維で強化された幾何学的複合構造の樹脂をベースとする複合材料製の除霜装置通過のために用意してある孔部を包囲する、少なくとも1の強化樹脂製部分56、ならびに少なくとも別の1の金属製部分を含むことを特徴とする、航空機用エンジン室の空気流入部の後枠。
【請求項2】
エンジン室の外側皮部(34)と接触している、繊維で強化された幾何学的複合構造の樹脂をベースとする複合材料製の第1の環状部(56)およびエンジン室の内側皮部(32)と接触している、金属製の第2の環状部分(58)である2の同心の部分を含むことを特徴とする、請求項1に記載の、航空機用エンジン室の空気流入部の後枠。
【請求項3】
シアレート系(xSiOAlO)で、内、xが1.75から50までの間に含まれる幾何学的複合構造の樹脂内に埋没されている繊維をベースとする複合材料を元にして製作してあることを特徴とする、請求項1または2に記載の、航空機用エンジン室の空気流入部の後枠。
【請求項4】
繊維が予め幾何学的複合構造の樹脂に浸透される前に、少なくとも部分的に表面処理の無活性化がしてあることを特徴とする、請求項3に記載の、航空機用エンジン室の空気流入部の後枠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−545695(P2009−545695A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522316(P2009−522316)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051751
【国際公開番号】WO2008/015362
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(508009851)エアバス フランス (19)