説明

航空機の翼及び尾部の前縁

【課題】鳥等の飛行物体の衝突に耐える翼前縁構造体を提供する。
【解決手段】航空機の翼及び尾部の前縁構造体10は、少なくとも部分的に重畳し、適度に湾曲して少なくとも部分的に一致した凹面を形成する2以上の多層パネル20を含む。各多層パネルは、少なくとも次の3層、(1)金属薄片から成る第1の層21、(2)第1の層21に固定されたガラス繊維の第2の中間層22、及び(3)第2の層22に固定された第3の金属蜂巣層23を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の翼及び尾部の前縁構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
翼及び尾部(垂直及び水平)は、飛行、着陸及び離陸の間に受ける空気力学的負荷に対し適度の剛性及び堅牢性を有するような大きさの主要構造体である。また、翼及び尾部の前縁構造体は、飛行物体の衝突に耐える大きさでなければならない。
【0003】
所謂「鳥の衝突」試験はFAR25.631に規定されており、これによれば、航空機が規定の重さと所定の速度を有する鳥に衝突した場合、その後航空機が最も近くて利用可能な空港に安全に着陸することを妨げるほどの損傷が主要構造体に生じてはならない。巡航状態で飛行しているときにこの種の衝突を受ける可能性がある第1の構造要素は前縁であるため、この構造体は、上記基準に十分適合しなければならない。上記要件に加え、前縁は、加えられる空気力学的負荷に耐える適度の大きさにする必要がある。
【0004】
上記構造体は、通常、前縁の貫通を防止し、結果的に構造体後部への損傷を避けるように設計・製造されるが、貫通が予測される場合には、損傷が一部に限られるように設計される。
【0005】
従来、翼構造体は、アルミニウム(外殻厚さは一般に僅か数ミリメートル)から成り、外形を形成することが主たる役割である横方向要素で強化されている。この種の構造体では、エネルギー吸収の役割は、前縁の一般に湾曲した形状とは別に行われ、特にその厚みで行われる。厚さが大きければ大きいほど、エネルギー吸収の程度も大きい。
【0006】
また、他の翼構造体は、前縁にGlare(登録商標、ガラス繊維とアルミニウムの積層体)のような複合材料を用いている。この他の構造体では、エネルギーは、前縁の湾曲形状だけでなく、特にガラス繊維とアルミニウムとの間の結合によって吸収される。ガラス繊維は衝突による弾塑性変形エネルギーの実質的な部分を吸収するという重要な点に貢献しており、この効果は、航空機材料の分野では「ブリッジング」と呼ばれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、翼又は尾部の前縁を改良した構造体を作成することを目的とし、主として、構造体の剛性を最適化するという課題に取り組み、飛行物体との衝突による損傷を最小化し、同時に翼又は尾部の全重量を減少する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これは、以下で明らかとなる他の目的及び効果と同様に、添付の特許請求の範囲に規定された特徴を有する本発明の前縁によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
ここで、本発明を限定するものではない幾つかの好適な実施形態について説明し、添付図面を参照する。
【図1】本発明による前縁構造体の第1実施形態を表す概略断面図である。
【図2】図1の形式の多層パネルの重畳による多層構造体の詳細を拡大して示す。
【図3】本発明による前縁構造体の第2実施形態の概略断面図である。
【図4】図3の形式の多層パネルの重畳による多層構造体を拡大して示す。
【図4−5】図1−3の多層パネルに適した蜂巣層の2例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず図1を参照すると、翼又は尾部の前縁構造体が参照符号10で示されている。以下の説明では、用語「前面」、「外部」及び「内部」を用いる。用語「前面」は、航空機の前方方向に関し、用語「外部」及び「内部」は、通常、前縁構造体が翼又は尾部の他の部分と組み立てられ「内部」要素が翼又は尾部の構造体内部に囲まれるようにされた状態に関する。
【0011】
前縁構造体10は、翼の外形の前面部分から成る。構造体10は、適度に湾曲して凹面が航空機の前方方向に対して「後方」として定義される方向に面する複数の多層パネル20の重畳によって形成される。
【0012】
各多層パネルは、少なくとも次の層を有する。
− 好ましくはアルミニウム又はアルミニウム合金の薄片から成り、好ましくは0.2mmないし0.5mmの厚さを有する第1の最外部金属層21
− 好ましくは0.1mmないし0.5mmで、1mmまでも可能な厚さを有するガラス繊維の第2の中間層22
− 約0.6cmないし約2.5cmの厚さを有し、層が存在する面に対して局所的に垂直な壁を含む第3の蜂巣金属層23
【0013】
ガラス繊維の中間層22は、隣接層に対してそれぞれ構造用接着フィルム層25で結合される。その替わりに自己粘着性ガラス繊維を選択することも可能である。
【0014】
モジュラーパネル20を形成する連続層21、22及び23は、設計条件に応じて何度も繰り返すことができる。実際に、第3の蜂巣層は、図1に示された実施形態では、次のパネル20の第1の最外部層を構成している次のアルミニウム薄片に接着剤により強固に固定され、最外部パネルの外形と同じ方向に向いた凸状外形を有する。しかし、図3及び4の実施形態では、各多層パネル20は、同じパネルの第3層23に接着剤で固定された最終アルミニウム薄片の第4層24を含む。そして、2つのパネルは、パネルの第4アルミニウム薄片層24と隣接パネルの第1アルミニウム薄片層との間の接着剤25により相互に固定される。
【0015】
Z形状のガラス繊維閉鎖横材が参照符号12で示されており、この横材は、多層パネル20の周辺端部封止に適したものである。好ましいのは、最内部パネルに更にアルミニウム薄片24を有する種類の多層パネルを選択し、前記位置にあるパネルの蜂巣層23を常に覆うことである。
【0016】
当業者に理解してもらいたいことは、重畳する湾曲パネル20の数とその結果としての前縁の全体的厚さとが製造する翼又は尾部の構造的条件に応じて変更可能なことである。
【0017】
アルミニウム薄片は、基本的にガラス繊維層の固定要素として用いられている。ガラス繊維の大きな機械的抵抗と弾性という構造的特徴は、金属蜂巣とアルミニウム薄片とに密接かつ強固に固定されて、ブリッジング効果を生じ、衝突変形の弾塑性エネルギーの実質的部分の吸収に貢献する。同時に、本発明は、衝突によるエネルギーの他の大部分を吸収するという金属蜂巣層の能力を活用している。実際に、蜂巣層は、衝突が起こった領域のみが潰れる。したがって、損傷は、翼又は尾部の他の部分まで伝わらない。蜂巣層は、主として構造的機能を有し、前縁の全体的剛性を決定し、従来構造に対して翼の全体的重量を大幅に減少するという効果を有する。例示として図4及び5に示された蜂巣層は、僅かに波打った壁を持ち、Flex-Core(登録商標)及びDouble-Flex(登録商標)の名前で市場に出回っており、理想的には連続する単一湾曲の外形、二重の僅かな湾曲の外形(図4)又は二重の大きな湾曲の外形(図5)を指している。
【0018】
出願人の行った実験では、本発明に従って製作された翼構造体は、Glare(登録商標)技術で製作され同等の剛性を有する構造体に対し、前縁の衝突区域の全体的変形が等しく、30%のオーダーで重量を減少できることが証明された。
【0019】
当然のことながら、本発明は、ここに記載し図示した実施形態に限定されず、上記実施形態は前縁の例示としての実施形態と考えるべきであり、また、本発明は、添付の特許請求の範囲で規定されているように、製作上の細部の形状、大きさ及び配置について変更を加えることが可能である。例えば、パネルを形成する単一層の順序は、例示されたものに対して反転することができ、翼又は尾部の構造体に対して第1の金属薄片層21を更に内部にし、第3の蜂巣層(又は、存在する場合は、第4の金属薄片層)を更に外側にすることができる。また更に、上記説明では金属層21、23及び24の構造についてアルミニウムとその合金を挙げたが、当業者には明らかなように、発明の実施に際しアルミニウムに加えて又はその替わりに他の金属(例えばチタニウム)とその合金をも使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の翼及び尾部の前縁構造体(10)であって、少なくとも部分的に重畳し、適度に湾曲して少なくとも部分的に一致した凹面を形成する2以上の多層パネル(20)を含むことを特徴とし、各多層パネルが少なくとも次の3層、
− 金属薄片から成る第1の層(21)、
− 第1の層(21)に固定されたガラス繊維の第2の中間層(22)、及び
− 第2の層(22)に固定された第3の蜂巣金属層(23)
を含む、前縁構造体。
【請求項2】
少なくともパネルの一つが更なる金属薄片から成る第4の層(24)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の前縁構造体。
【請求項3】
各パネル(20)の層が接着剤で相互に固定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の前縁構造体。
【請求項4】
2つの隣接し少なくとも部分的に重畳するパネル(20)が接着剤で相互に固定されることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の前縁構造体。
【請求項5】
所定のパネルの第3の金属蜂巣層(23)が、少なくとも該所定のパネルと部分的に重畳する他のパネルの第1の金属薄片層(21)に接着剤で固定されることを特徴とする、請求項1に従属する場合の請求項4に記載の前縁構造体。
【請求項6】
所定のパネルの第4の金属薄片層(24)が、少なくとも該所定のパネルと部分的に重畳する他のパネルの第1の金属薄片層(21)に接着剤で固定されることを特徴とする、請求項2に従属する場合の請求項4に記載の前縁構造体。
【請求項7】
上記金属薄片層(21、24)がアルミニウム又はその合金から成ることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の前縁構造体。
【請求項8】
上記金属薄片層(21、24)が約0.2mmから約0.5mmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の前縁構造体。
【請求項9】
第2のガラス繊維層(22)が約0.1から約1mm、好ましくは0.2から0.5mmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の前縁構造体。
【請求項10】
第3の金属蜂巣層(23)がアルミニウム又はその合金から成ることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の前縁構造体。
【請求項11】
第3の蜂巣金属層(23)が約0.6cmから約2.5cmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の前縁構造体。
【請求項12】
第3の蜂巣金属層(23)が層の存在する面に局所的に垂直な壁を含むことを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の前縁構造体。
【請求項13】
蜂巣層(23)の壁が波形であることを特徴とする、請求項12に記載の前縁構造体。
【請求項14】
各パネル(20)の第1の層(21)が最外部であることを特徴とする、請求項1から13のいずれかに記載の前縁構造体。
【請求項15】
各パネル(20)の第1の層(21)が最内部であることを特徴とする、請求項1から13のいずれかに記載の前縁構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−137850(P2010−137850A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−263592(P2009−263592)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(503056137)アレニア・アエロナウティカ・ソシエタ・ペル・アチオニ (8)
【氏名又は名称原語表記】ALENIA AERONAUTICA S.p.A.