説明

航空機用化粧室のドア構造

【課題】省スペースでコンパクトに構成されてスイング式のドア構造において、自動的に閉じることを可能にして化粧室を利用する乗客が使い勝手の良い航空機用化粧室のドア構造を提供する。
【解決手段】スイング式のドア40は、ドア枠の上部に設置されたレールに対して、上端縁44にてスライドピン46を含む案内構造にてスライド可能に吊り下げられているとともに、吊り下げ位置とは異なる所定位置でリンケージ60によってドア枠に回動可能に連結されている。ドア40を開ける際のスイング動作でオートクローズ装置50に備わるスプリングに変形が生じ、ドア40から手を離すと、ドア40は、スプリング復元力によりリンケージ60を介して常に閉じる方向に付勢され、自動的に閉じ位置に戻るので、化粧室の利用勝手が良好になるとともに、緊急時に化粧室前の通路が確保でき、非常口誤認による不測の事態を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、航空機に備わる化粧室に出入り用に設けられたドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機に備わる化粧室について、その出入り用に設けられる化粧室ドアには、開閉方式だけについてみても多種類のものが用いられてきたが、現在ではヒンジパネル式(外開き)及び中折れ式(内折れ)の2種類に統一されてきている。
【0003】
ヒンジパネル式のドアは、基本的に化粧室の外側に開く外開き方式であるので、ドアが開いた時に化粧室前を通る通路を塞いでしまうことがある。このようなドア構造は、緊急時に通路を通って避難する乗客・乗員にとって障害になることがある。また、開いたドアは自動では閉じるように設計されていないので、手動にて閉じる必要がある。中折れ式のドアは、住宅や一般建築では一般的でないため、乗客が取り扱いにとまどいがちで使いやすいとはいえない。また、中折れ式のドアは、開閉時には化粧室の内側に折れるので通路を塞ぐことはないが、その折れた状態で化粧室内部の空間を動くため、乗客はそうした動くドアを避ける必要があった。
【0004】
また、中折れ式のドアは、車椅子を用いる乗客が化粧室を使用したときには、ドアの軌跡が車椅子にかかるので、車椅子使用の化粧室ドアとしては使用できない。したがって、車椅子を使う乗客用として、ヒンジパネル式ドアを備えた化粧室が必要であり、同一機内に2種類のドアのバリエーションが必要な場合も多く利用者にとって不利益であった。更に、中折れ式のドアは、ドアの中央ヒンジ部分のハンドルを引いて開ける構造であるため、手に障害を持つ乗客は中から開くことが困難であるという問題もあった。
【0005】
このように、一般には、各種の動きをするドアはあるが、航空機特有の要求、即ち、機能、安全性、整備性、軽量等の各要求を満足する化粧室ドアは、現在のところ、提供されていない。
【0006】
航空機用化粧室ユニットの構造であって、小型飛行機等に搭載可能となるようにコンパクトに構成した航空機用化粧室ユニットの構造の一例が特許文献1に示されている。この航空機用化粧室ユニットによれば、ボックス状に一体的に成形された化粧室本体の側面には、開閉可能な扉が設けられているが、この扉は、左右に分割された扉を示すのみで、従来のものの域を出るものではない。
【0007】
また、通常時は通常のドア開閉動作を行ない得るとともに、逆方向にもドア開閉を行なうことができ、緊急時や救出時にも好適な開閉装置が提案されている(特許文献2)。この開閉装置は、扉枠と、この扉枠の開口部を開閉させる戸体(ドアパネル)と、この戸体を開口部に開閉可能に支持する戸体支持手段と、戸体を閉位置に保持する戸当りとを備えており、戸当りは扉枠で形成される開口部の側壁に設けられ、通常時は戸体を手前側に引くことにより、あるいは奥側に押圧することにより開閉させるが、通常の開閉方向と反対側に戸体を強制的に開放可能に構成したものである。通常時には戸体の開閉方向が戸当りにより規制され、戸体を手前側あるいは奥側に開閉させることができる一方、通常時の開閉方向と反対側に戸体を強制的に開放可能に取り付けているので、戸体の戸尻側が移動する室内側で人が倒れ、倒れた人が障害物となる場合にも、戸体を反対側に強制的に開放させることができるものとなっている。
【0008】
また、ドアパネルをその幅(横)方向にスライドさせながらその前後方向にスイングさせて開閉するスライド・スイング式ドア装置であり、ドアに本来的に求められている良好な仕切り性(密閉性、遮音性)、開閉操作の容易化、開閉時の省スペース化、装置全体としてのコンパクト化の確保に加え、立て付け工事や保守が容易で、美観的にも優れ、かつバリアフリーなどの使い勝手の面からの改善を図ったものが提案されている(特許文献3)。
【0009】
また、開口部を形成する枠体に、当該開口部の幅方向にスライドしながら且つその前後方向にスイングして開閉するようにドアパネルを設けたスライド・スイング式ドアであって、枠体の一方の縦枠に沿って固設された支柱と、この支柱の内部にその長手方向に沿って配置された軸体と、支柱の内部にて軸体をその軸周りに回動自在に支持する支持手段と、この回転軸体の上下端夫々に一端が固着され且つ夫々の他端がドアパネルの上端面及び下端面の所定位置に回動自在に支持された上部回転アーム及び下部回転アームとを備えたものが提案されている(特許文献4)。
【0010】
更に、ドアパネルがレール等の支持体に沿ってスイングしながらスライドすることによりドア開口を開閉するスイングスライド式ドア装置であって、ドア閉止状態におけるドアパネルの密閉性を確保することと、ドア開放動作を円滑に行わせることを図ったドア装置が提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−6915号公報
【特許文献2】特開平11−324473号公報
【特許文献3】特開2000−248822号公報
【特許文献4】特開2002−242524号公報
【特許文献5】特開2002−266548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、航空機用化粧室に出入りするための、省スペースでコンパクトに構成されてスイング式のドア構造において、化粧室の使用者がドアを閉め忘れたとしてもドアを自動的に閉じることを可能にする点で解決すべき課題がある。また、安全確保のため、閉じた状態のドアを乗務員等が工具を用いることなく容易に開けることやドアをドア枠から取り外す点で解決すべき課題がある。
【0013】
この発明の目的は、省スペースでコンパクトに構成されてスイング式のドア構造において、化粧室の使用者がドアを閉め忘れたとしても、ドアを自動的に閉じて使い勝手が良く、しかも、通路を塞いで他の乗客の邪魔になることがなく且つ緊急時に避難する乗客等の通路を確保する等、航空機の機内環境を害することのない航空機用化粧室のドア構造を提供することである。更にまた、万一、化粧室内で利用者が動けなくなる等の緊急事態が生じた場合には、乗務員等が中から閉じられているドアを開ける、或いはドア枠から容易に取り外すことができる航空機用化粧室のドア構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、この発明による航空機用化粧室のドア構造は、ドア枠の上部に設置されたレールに対して上端縁にてスライド可能に吊り下げられたドアと、前記ドアの前記上端縁に対して当該吊り下げ位置とは異なる所定位置で前記ドア枠に回動可能に連結するリンケージとを備えたスイング式のドア構造であって、スプリングの復元力を前記リンケージに作用させてドアを常に閉じる方向に付勢するオートクローズ装置を配設したことを特徴としている。
【0015】
この航空機用化粧室のドア構造によれば、ドアを開けると、その際のスイング動作でオートクローズ装置のスプリングに変形が生じ、そのときの復元力がリンケージに作用することによって、オートクローズ装置はドアを常に閉じる方向に付勢する。したがって、化粧室を利用した乗客がドアから手を離すと、常にドアは自動的に閉じる位置に戻り、利用勝手が良好になる。
【0016】
また、この航空機用化粧室のドア構造において、前記オートクローズ装置の前記スプリングは、前記リンケージの回動を捩じり変形に変換するトーションスプリングとすることができる。また、前記オートクローズ装置は、前記トーションスプリングの復元力によって戻り方向に回動する前記リンケージの回動速度を減衰させるダンパーを備えることができる。ドアは手をはなすと自動的に閉じる方向に動くが、ダンパーで調整することにより速度が速くなり過ぎないようし、これにより閉じた際の音量も低減するので、客室環境に配慮した構造となる。
【0017】
また、この航空機用化粧室のドア構造において、前記ドア枠の下部に設置されたレールに対して、前記吊り下げ位置に対応した位置において前記開閉ドアの下端縁にてスライド可能に係合させているので、ドアの開閉時の動作が安定し機体の振動対策にもなり、閉じる動作をする際にドアが共振することを防いで静粛性を持たせている。このレールによるガイドは、ドアをスムーズに動かすのにも役立っている。また、ドアとリンケージの枢着部には、当該枢着部を脱着するリリースレバーを設けているので、乗客が化粧室内で倒れるなどの緊急時には、特に工具なしでもドア全体を外せるようになっている。更に、前記開閉ドアのヒンジ側ドアトリムをソフトラバー製とすることで、ドアの隙間に指をはさんだとしても怪我を負わないようにすることができる。
【0018】
また、この航空機用化粧室のドア構造においては、ドアハンドルの形状を工夫して、前記開閉ドアの前記化粧室の外側に設けられたドアハンドルをパドル式ハンドルとし、前記開閉ドアの前記化粧室の内側に設けられたドアハンドルをレバー式ハンドルとすることができる。ハンドルは、化粧室の外側ではパドル式であるので指でつかまなくても操作可能となり、化粧室の内側ではレバー式であるので手に障害を持つ乗客でも容易にドア開き操作を行うことができる。
【0019】
また、この航空機用化粧室のドア構造においては、前記ドアハンドルの操作による主ロックとして、前記開閉ドアは、前記ドア枠に対して、前記開閉ドアの前記ドアハンドルに近接する側の側端縁において出没するメインラッチと、前記開閉ドアの前記ドアハンドルから遠い側の側端縁においてロッドを介して出没するサブラッチとでラッチ係合・係合離脱することができるので、この場合には、ラッチをドア左右に設置し閉じた際にドアをしっかりと固定することができ、しかも左右のラッチはロッドを介して連動して動くため別々に操作する必要はない。更に、前記レバー式ハンドルに隣接して補助ロックを行うスライドボルトを備えており、前記パドル式ハンドルには、工具無しで前記スライドボルトによる前記補助ロックを外すことができる隠しレバーを取り付けることができ、ラッチ故障や乗客が中から補助ロックをはずせなくなった場合のために、客室乗務員が隠しレバーを操作することで、工具無しでドアの補助ロックをはずせることができ、安全対策となる。更にまた、前記ドアパネルは、ハニカムパネルから構成することができ、この場合には剛性を保ったまま軽量化することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明による航空機用化粧室のドア構造は、上記のように構成されているので、開閉操作自体は一般的な住宅用ドアと同じパネル式ドアでありながら、ドア内側の軌跡は化粧室内側の壁に沿うように動くため、従来の中折れ式の軌跡にくらべると化粧室内側での障害になる範囲はより少なく、車椅子用化粧室への搭載も可能であって、使い勝手が頗る良好である。また、ドアを開いた時に大きく外に張り出さないので通路を大きく塞ぐことが無く、しかも化粧室の使用者がドアを閉める動作を忘れたとしてもドアは開いたままにならず自動で閉じるので、他の乗客の邪魔になることが無いとともに、航空機の機内の環境を害することも無い。これにより、緊急時には、化粧室の近傍において乗客等が避難するための通路が確保される。また、機内に煙が充満したような場合には、乗客は床に設置された誘導灯を目安にして避難することになるが、化粧室のドアが開いているとそこを非常口と勘違いして一層の混乱を招く可能性があるところ、ドアは自動で閉じて開いたままになることがないので、そのような事態を回避することができる。更に、機内全ての化粧室のドアを統一することが可能となり、取扱い、操作方法を一つにすることで乗客の利便性や整備性を向上することができる。
【0021】
また、化粧室外側の軌跡も狭い範囲におさまるため車椅子利用者が使用する場合もよりドアに近づくことが可能となり従来のパネル式ドアよりも操作性が遥かに向上している。安全性に関しても緊急時にドアを外す場合、従来の中折れ式ドアの場合はその機構上少しドアを内側に折る必要があったため中の人がドアに倒れ掛かっているとかなりの重さがあり、ヒンジパネル式ドアでは工具無しでドアを外すことはできないが、本発明による開閉ドアでは外側から摘みを操作してリンケージの枢着部のピンを外せば、横にスライドさせるようにして遥かに小さな力でドアを化粧室本体から外すことができる。一般住宅用にはもとよりこのような機構は搭載されていない。また、ラッチの操作部分は従来の化粧室ドアでは開閉用ハンドルとロック用のスライドボルトが別々であったが、これをコンパクトにまとめることにより操作性、経済性の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明による航空機用化粧室のドア構造の外観斜視図である。
【図2】図2は図1に示す航空機用化粧室のドア構造の開閉時における時間を置いたドア軌跡が描かれた化粧室の上面図である。
【図3】図3は図2に対応したドア軌跡を拡大して示す平面図である。
【図4】図4は図1に示す航空機用化粧室のドア構造の上縁部でのスライド案内構造を示す斜視図である。
【図5】図5は図4に示すスライド案内構造が着脱用切欠きを通して着脱される様子を示す斜視図である。
【図6】図6は図1に示す航空機用化粧室のドア構造の下縁部でのスライド案内構造を示す斜視図である。
【図7】図7は図6に示す航空機用化粧室のドア構造の下縁部でのスライド案内構造の断面図である。
【図8】図8は図1に示す航空機用化粧室のドア構造のオートクローズを行う構造を示す部分拡大斜視図である。
【図9】図9は図1に示す開閉ドアの外側ハンドルを含む一部をドア外側から見た部分斜視図である。
【図10】図10は図9に対応して開閉ドアの内側ハンドルを含む一部をドア内側から見た部分斜視図である。
【図11】図11は、ハンドル部の内部機構を示す斜視図である。
【図12】図12は、ハンドル部で主ロックも補助ロックもロック状態にあるときのサブラッチの状態を示す斜視図である。
【図13】図13は、ハンドル部で主ロックがロック状態にあるが補助ロックがロック解除状態にあるときのサブラッチの状態を示す斜視図である。
【図14】図14は、ハンドル部で主ロックも補助ロックもロック解除状態にあるときのサブラッチの状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付した図面に基づいて、この発明による航空機用化粧室のドア構造の実施例を説明する。図1は、本発明による航空機用化粧室のドア構造の外観斜視図であり、図2は図1に示す航空機用化粧室のドア構造の開閉時における時間を置いてドア軌跡が描かれた化粧室の上面図(ただし、左右配置違え)である。図3は図1に示すドア構造が開閉される際のドア軌跡を拡大して示す平面図であり、図4は図1及び図2に示す航空機用化粧室のドア構造の上縁部でのスライド案内構造を示す斜視図であり、図5は図4に示すスライド案内構造の詳細を示す斜視図であり、図6は図1及び図2に示す航空機用化粧室のドア構造の下縁部でのスライド案内構造を示す斜視図である。
【0024】
図1において、全体を符号1で示す化粧室ユニットは、パネル材を組み立てて構成される箱形の化粧室本体5を有し、航空機の床板上の適宜位置に設置される。化粧室本体5は、正面パネル10、側壁パネル11、床パネル12、天井パネル13及び後壁パネル(図示しない)から箱状に形成されている。航空機の通路に面する化粧室本体5の正面には開閉ドア(以下、「ドア」と略す)40が設けられており、乗客等はドア40を開閉し、開いたドア40を通じて化粧室本体5の内部に出入りすることができる。
【0025】
ドア40は、正面パネル10の一部を切り欠くように形成されたドア用開口部を閉鎖可能に設けられており、その大きさは、左右幅方向には正面パネル10全体幅のうちの一部範囲を占め、上下方向には上部にドア開閉機構が配設される領域15を残して全体高さの殆どを占めている。ドア40にはハニカムパネルを使用することにより、剛性を保ったままで軽量化が図られている。ドア40に関連して、開閉操作に用いられるドアハンドル部41、通路側からの空気流入用のルーバ部43が設けられている。ドア40の下方には、床パネルの高さに対応した躓き防止用のスロープ状の敷居18が設けられている。ドアハンドル部41の近傍には、化粧室を使用中か或いは空き状態であるかを、例えば色表示で示す表示部を設けることができる。
【0026】
図2は図1に示す化粧室ユニットとは配置違えのタイプのユニットであるが、図2に示すように、化粧室本体5の内部にはラバトリー設備として、正面奥方に配置されたトイレユニット20と、その側方で側壁パネル11に沿って置かれた洗面ユニット30とが配設されている。これらの設備については周知のもので良く、ここでの詳細な説明を省略する。化粧室本体5の前面には、全体が一枚のドア板から成るスイング式のドア40が設けられている。
【0027】
スイング式のドア40は、上部において、化粧室ユニットの箱形上隅部に取り付けられているオートクローズ装置50に対してリンケージ60を介して連結されている。リンケージ60は、一端部がオートクローズ装置50に回動可能に連結されているとともに、他端部でドア40の上辺の上端縁44に枢着部(ジョイントピン)45において回動可能に連結されている。リンケージ60は、ドア40の上端縁44よりも上方に配置されているので、ドア40のパネルと直接に干渉することはない。ドア40の上端縁44における枢着部45は、上端縁44の中央位置よりもドア駆動部50寄りの位置に置かれている。図3は、図1に示すドア40が開閉される際にその側端縁42が描く軌跡Lを示している。ドア40の他方の側端縁42aは、ドア40が開閉される際に、側壁パネル11に沿って移動する。
【0028】
図4には、ドア40の上部におけるスライド案内構造が斜視図として示されている。図5は図4に示すスライド案内構造の詳細を示す斜視図である。ドア40の上端縁44には中央よりもドアハンドル部41側寄りの位置に、上端縁44挟み跨ぐ態様で設けられているブラケット46aが固定されており、ブラケット46aにスライドピン46が上方に突出する態様で設けられている。パネルの領域15の下縁部にはその長手方向に沿ってレール16が配置されており、レール16にはその幅方向中央位置にレール16の長手方向に延びるように溝16aが形成されている。溝16aの両側には、後述するローラが転動可能なレール軌道16b,16bと、レール軌道16b,16bと直角に近接した内壁面16c,16cとが形成されている。スライドピン46がこの溝16aに嵌入しており、ドア40の開閉に伴って、スライドピン46が溝16a内をスライド可能である。
【0029】
スライドピン46の先端には、ローラユニット47が取り付けられている。ローラユニット47は、スライドピン46を挟んで配置されており且つ横軸を有しレール16のレール軌道16b,16b上を転動可能な二組(合計4個)の転動ローラ47aと、スライドピン46を挟んで配置されており且つ縦軸を有しレール16の内壁面16c,16cに接触可能であってガイドされる一組のガイドローラ47bを備えた吊り車の構造を有している。即ち、スライドピン46を挟んで各片側に3個(2個の転動ローラ47aと1個のガイドローラ47b)のローラが配設されている。ドア40の開閉に伴ってスライドピン46が溝16a内をスライドするとき、ローラユニット47は、各転動ローラ47aがレール軌道16b,16b上を転動し、ガイドローラ47bが内壁面16c,16cに接触して案内される。したがって、ドア40は、上端縁44において中央位置を挟んだ異なる二つの位置、即ちリンケージ60と、スライド案内構造を介してのレール16とで吊り下げられた状態となっている。緊急時等にドア40を取り外す場合には、スライドピン46とローラユニット47とをレール16から抜け出させることが必要である。このため、ローラユニット47の開閉に伴う通常の移動範囲を少し外れた位置に、ローラユニット47の大きさよりも大きな脱着用切欠き17が形成されている。ローラユニット47が脱着用切欠き17の位置に合うまでドア40をレール16に沿って移動させると、ローラユニット47を脱着用切欠き17から抜け出させることができ、ドア40を正面パネル10の上部領域15から外すことができる。
【0030】
図6には、ドア40の下部におけるスライド案内構造が斜視図として示されている。ドア40は、上端縁44側のスライドピン46が設けられている位置に対応した下端縁48の位置にブラケット49aを介してスライドピン49が設けられている。スライドピン49は、敷居18に配設されているレール19に形成されたレール溝19aにスライド可能に係合している。その結果、ドア40は、開閉時には、その上下縁部においてスライドピン46,49がパネル領域15や敷居18に対してレール16,19によって規制・案内されるので、振動が抑制されて安定した滑らかな開閉動作が得られる。図7は図6に示すドア下部におけるスライド案内構造の横断断面図である。スライドピン49はドア40のパネル内にスプリング49bを介して取り付けられており、スライドピン49はスプリング49bの付勢力によってレール溝19a内に係合している。ドア40を取り外すときには、レール19を踏むなどしてスプリング49bの付勢距離以上に撓ませることで、スライドピン49をレール溝19aから抜け出させることができる。
【0031】
図2及び図3に示すように、開閉されるドア40は時間を置いた開閉途中の複数の位置・姿勢で示されている。矢印で開き方向を示すように、全閉状態のドア40は、ドアハンドル部41を操作して開くとき、ドア駆動部50の回りに回動するリンケージ60によって連結された枢着部45と、レール16に沿ってスライドするスライドピン46との二点で拘束された状態で順次に開度が大きくなる。ドア40は、化粧室本体5の側壁パネル11に略沿った位置で最大開き状態となる。
【0032】
図8は、図1に示す航空機用化粧室のドア構造の自動閉鎖を行う構造を示す部分拡大斜視図である。図8に示すように、ドア40の上端縁44は、オートクローズ装置50とリンケージ60とを介して化粧室本体5に連結されている。オートクローズ装置50は、内部において、例えば一端部52aがケース51に固定され他端部52bがリンケージ60に立設されたピン61に係合されたトーションプリング52を備えている。ドア40を開くとき、リンケージ60の回動動作によってトーションスプリング52は、ピン61を介して巻き方向に捩じられ、ばねの捩じり変形によってエネルギーが蓄えられる。ドア40から手を離すと、トーションスプリング52の巻き戻り力がピン61を介してリンケージ60に図示の閉じ方向に力を作用するので、ドア40は自動閉鎖される。このように、ドア40は手を離すと自動的に閉じる方向に動くが、ドア40の閉じ速度が速くなりすぎないようにダンパーで調整し、閉じた際の音量も低減し客室環境に配慮している。
【0033】
ダンパーは、例えば、トーションスプリング52の下方においてリンケージ60とドア40のフレームとの間に配設されたロータリダンパー53とすることができる。ダンパー53は、リンケージ60とドアフレームとの間で、トーションスプリング52と並列関係に配置されているので、トーションスプリング52の巻き戻り力でドア40が閉じようとする際に、リンケージ60の回転がロータリダンパー53に入力され、その回転を減速させ、ドア40の閉じようとする勢いを緩和させる働きをする。
【0034】
ドア40の上縁部44とリンケージ60とを回動可能に連結する枢着部(ジョイントピン)45には、その下部にリリースレバー62が連結して設けられている。ドア40の外側、即ち、航空機通路側からリリースレバー62にアクセス可能にするため、ドア40の上縁部44には切欠き63が形成されており、リリースレバー62が切欠き63内に露出した状態に設けられている。リリースレバー62を押し下げることにより、枢着部45のリンケージ60との係合を外すことができる。したがって、乗客が化粧室内で倒れる等の緊急時又は化粧室の清掃時には、特に工具なしでも、ドア40とリンケージ60との係合を外すことができ、リンケージ60との係合が外れたドア40を、通常の移動範囲を超えてスライド案内構造を脱着用切欠き17の位置までスライドさせ、その位置でスライド案内構造を脱着用切欠き17を通してレール16から外すことにより、ドア40を正面パネル10から取り外すことができる。なお、図8に示すように、ドア40のハンドル41側とは反対側の側端縁42aに沿ってソフトラバートリム56が付設されているので、ドア40を閉じる際に間違って指等を挟んでも、ダメージを与えることがない。
【0035】
図9は図1に示す開閉ドアのハンドル部41を含む一部をドア外側から見た部分斜視図であり、図10は図9に対応してドア内側から見た部分斜視図である。いずれの図も、ドア40の表面パネルを取り外した状態で内部の構造を示している。図9、図10に示すように、開閉ドア40のハンドル部41は、ドア40の内側と外側とではドアハンドルの形状が異なっている。即ち、外側は指で掴まなくても指先で引っかけることで操作できるパドル式のハンドル70とし、化粧室内側では操作の容易なレバー式のハンドル80とされている。このような内外で別型式のハンドルすることで、手に障害を持つ乗客もドアを開閉することができる。
【0036】
ドア40の外側からパドル式ハンドル70を指に掛けてパドル式ハンドル70を引き起こす操作をするとき、又はドア40の内側からレバー式ハンドル80をいずれかの方向に回転操作するとき、これらの操作は、内部機構(詳細は後述する)を介して、ドア40のハンドル70,80の近傍側の側端縁42から突出して設けられているメインラッチ71の突出・後退動作と、ドア40を横切るロッド72を介してハンドル70,80から遠い側の側端縁42aから突出して設けられているサブラッチ73の突出・後退動作とに変換される。メインラッチ71とサブラッチ73とは、それぞれラッチボルトから成り、突出したときには化粧室本体5のフレームに配置されたメインラッチ係合穴部及びサブラッチ係合穴部に同時に係合することにより、ドア40は両側で主ロックされて確実にドア閉めを行うことができ、又は両ラッチ71,73が後退して両係合穴部から係合離脱するときはドア40をそのまま引いて開けることができる。このように、ドア40のラッチ構造により、パドル式又はレバー式のハンドル70,80のどちらを操作しても、またレバー式のハンドル80の場合には、時計方向又は反時計方向のいずれの方向に操作しても、ドア左右にそれぞれ設置されているメインラッチ71とサブラッチ73とが連動して作動するので、各ラッチ71,73を別々に操作する必要はなく、ラッチ71,73を閉じた際にはドア40をしっかりと固定することができる。
【0037】
化粧室内に乗客等が入りハンドル80を操作してドア40を主ロックしたとしても、それだけでは、外部からハンドル70を操作してドア40の主ロック解除することができる。したがって、化粧室内の乗客等が、化粧室内側から操作してドア40をロックする別のロック機構として補助ロックが設けられている。即ち、ハンドル80の近傍には、スライドレバー81がスロット84内を左右方向にスライド可能である。スライドレバー81はハンドル部41の内部においてスライドボルト82に連結されており、図10でスライドレバー81を右側へスライドさせるときには、側端縁42から突出して相手側の係合穴部に係合し、ドア40を補助ロックすることができる。また、スライドボルト82のこの動きはドア40を横切るロッド83を介して、サブラッチ86において側端縁42aから突出する動作に変換され、サブラッチ86においてもドア40を補助ロックする。このスライドボルト82による補助ロックは、ドア40の外部からするパルスドル式ハンドル70の操作では解除できない。スライドレバー81を反対側にスライドさせるときには、係合穴部に係合していたスライドボルト82とサブラッチ86とを係合離脱させ、補助ロックを解除できる。
【0038】
化粧室内側からスライドレバー81を操作してスライドボルト82とサブラッチ86とを係合させた状態で、ドア40の補助ロックを外せなくなった場合の安全対策として、客室乗務員が工具無しでドアロックをはずせるように、パドル式ハンドル70内に、隠しレバー85が配置されている。隠しレバー85はスライドボルト82に連結されており、隠しレバー85を操作することで、スライドボルト82とサブラッチ86とによる補助ロックを外すことができる。なお、スライドボルト82を磁石体として、ロック時に連動して、化粧室への電源供給を行うことができる。
【0039】
図11には、ハンドル部41の内部機構が斜視図として示されている。パドル式ハンドル70においては、その基部アッタチメント75がハンドル部41のフレーム90に対して縦軸91の周りに回動可能に支持されている。フレーム90には、メインラッチ71と一体的に連なるラッチ本体92が左右方向にスライド可能に支持されており、スプリング93によってメインラッチ71が側端縁42から突出する向き(即ち、ドア40にロックを掛ける向き)に常時付勢されている。したがって、ドア40を閉めた状態では、スプリング93のラッチ本体92への付勢力によって、メインラッチ71が側端縁42から突出し、ロッド72を介してサブラッチ73が側端縁42aから突出し、ドア40には両ラッチ71,73によるロックが掛かる。パドル式ハンドル70を引き起こすように操作すると、基部アッタチメント75が縦軸91の周りに回動してラッチ本体92をスプリング93の付勢力に抗してスライドさせ、メインラッチ71を側端縁42内に後退させ、同時にロッド72を介してサブラッチ73を側端縁42a内に後退させて、両ラッチ71,73によるロック(主ロック)を解除する。
【0040】
レバー式ハンドル80は、ラッチ本体92内に収容された回動レバー94に対して中央軸95で連結されている。中央軸95は、ラッチ本体92の長孔96内にあって、パドル式ハンドル70の操作によるラッチ本体92のスライド移動と干渉することが回避されている。レバー式ハンドル80を時計方向及び反時計方向のどちらに回動操作するときでも、回動レバー94が中央軸95の回りに回動し、回動方向に応じて回動レバー94の二つの先端部97,97のいずれかがラッチ本体92と当接し、ラッチ本体92をスプリング93の付勢力に抗してスライドさせる。その後の動作はパドル式ハンドル70の操作の場合と同様であるので、再度の説明を省略する。
【0041】
フレーム90内の上部には、隠しレバー85に連結されているスライドボルト82がスライド可能に配置されている。スライドボルト82には、色表示部98が設けられており、外部に対してドア40の表面に形成されている窓99を通して色表示部98を選択的に表示させることにより化粧室の利用状態(例えば、赤であれば使用中、緑であれば空き状態)を知らせることができる。
【0042】
図12〜図14は、この航空機用化粧室のドア構造のサブラッチの係合及び解除状態を示す図であり、図12は、ハンドル部41側でメインラッチ71もスライドボルト82も係合状態にあるときのサブラッチ73,86の状態を示す斜視図である。ドア40を閉めているときには、ロッド72がドアパネル内に引込み状態にあり、プレート100を中央部の横軸101にて回動させて、サブラッチ73を突出させている。同様に、スライドボルト82を係合状態にしているので、ロッド83もドアパネル内に引込み状態にあり、プレート102を中央部の横軸101にて回動させて、スライドボルト82に対応したサブラッチ86を突出させている。したがって、両サブラッチ73,86によってドア40は主ロックと補助ロックともロック状態にある。
【0043】
図13は、図12に示す状態からスライドボルト82による補助ロックを解除した状態を示す。ロッド83の先端部はドアパネルから突出するので、プレート102が横軸101の回りに回動して、サブラッチ86が後退する。したがって、補助ロックが解除されるが、このとき、サブラッチ73(即ち、主ロック)はまだ係合状態にある。図14は図12に示す状態から更に主ロックを解除させたときの状態を示している。主ロックを構成するロッド72の先端部もドアパネルから突出するので、プレート100が横軸101の回りに回動して、サブラッチ73も後退する。これにより、両サブラッチ73,86が係合離脱状態になり、ドア40のロックは全て解除されている。
【0044】
このように、本発明によれば、ラッチ71,73の操作部分は従来の化粧室のドア構造では開閉用ハンドルとロック用のスライドボルトが別々であったが、本発明ではこれをコンパクトに纏めることにより、操作性・経済性の向上を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上、航空機用化粧室のドア構造の実施例を説明したが、本発明は、軽量化が求められる他の乗り物の化粧室のドア構造にも適用できることは明らかである。
【符号の説明】
【0046】
1 化粧室ユニット 5 化粧室本体
10 正面パネル 11 側壁パネル
12 床パネル 13 天井パネル
15 領域 16 レール
16a 溝 16b,16b レール軌道
16c,16c 内壁面 17 脱着用切欠き
18 敷居 19 レール 19a レール溝
20 トイレユニット 30 洗面ユニット
40 ドア 41 ハンドル部
42,42a 側端縁 43 ルーバ部
44 上端縁 45 枢着部(ジョイントピン)
46 スライドピン 47 ローラユニット
47a 転動ローラ 47b ガイドローラ 48 下端縁
49 スライドピン 49a ブラケット 49b スプリング
50 オートクローズ装置 51 ケース
52 トーションスプリング 52a 一端部 52b 他端部
53 ダンパー 56 ソフトラバートリム
60 リンケージ 61 ピン
62 リリースレバー 63 切欠き
70 パドル式ハンドル
71 メインラッチ 72 ロッド
73 サブラッチ 75 基部アッタチメント
80 レバー式ハンドル 81 スライドレバー
82 スライドボルト 83 ロッド
85 隠しレバー 86 サブラッチ
90 フレーム 91 縦軸
92 ラッチ体 93 スプリング
94 回動レバー 95 中央軸
96 長孔 97 先端部
98 色表示部 99 窓
100 プレート 101 横軸
102 プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドア枠の上部に設置されたレールに対して上端縁にてスライド可能に吊り下げられたドアと、前記ドアの前記上端縁に対して当該吊り下げ位置とは異なる所定位置で前記ドア枠に回動可能に連結するリンケージとを備えたスイング式のドア構造であって、
スプリングの復元力を前記リンケージに作用させてドアを常に閉じる方向に付勢するオートクローズ装置を配設したことを特徴とする航空機用化粧室のドア構造。
【請求項2】
前記オートクローズ装置の前記スプリングは、前記リンケージの回動を捩じり変形に変換するトーションスプリングであることを特徴とする請求項1に記載の航空機用化粧室のドア構造。
【請求項3】
前記オートクローズ装置は、前記トーションスプリングの復元力によって戻り方向に回動する前記リンケージの回動速度を減衰させるダンパーを備えていることを特徴とする請求項2に記載の航空機用化粧室のドア構造。
【請求項4】
前記ドア枠の下部に設置されたレールに対して、前記吊り下げ位置に対応した位置において前記開閉ドアの下端縁にてスライド可能に係合していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の航空機用化粧室のドア構造。
【請求項5】
前記ドアと前記リンケージの枢着部には前記枢着部を脱着するリリースレバーが設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の航空機用化粧室のドア構造。
【請求項6】
前記開閉ドアのヒンジ側ドアトリムをソフトラバー製としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の航空機用化粧室のドア構造。
【請求項7】
前記開閉ドアの前記化粧室の外側に設けられたドアハンドルはパドル式ハンドルであり、前記開閉ドアの前記化粧室の内側に設けられたドアハンドルはレバー式ハンドルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の航空機用化粧室のドア構造。
【請求項8】
前記ドアハンドルの操作による主ロックとして、前記開閉ドアは、前記ドア枠に対して、前記開閉ドアの前記ドアハンドルに近接する側の側端縁において出没するメインラッチと、前記開閉ドアの前記ドアハンドルから遠い側の側端縁においてロッドを介して出没するサブラッチとでラッチ係合・係合離脱することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の航空機用化粧室のドア構造。
【請求項9】
前記レバー式ハンドルに隣接して補助ロックを行うスライドボルトを備えており、前記パドル式ハンドルには、工具無しで前記スライドボルトによる前記補助ロックを外すことができる隠しレバーを取り付けたことを特徴とする請求項8に記載の航空機用化粧室のドア構造。
【請求項10】
前記ドアパネルは、ハニカムパネルから構成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の航空機用化粧室のドア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−215095(P2010−215095A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63886(P2009−63886)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000132013)株式会社ジャムコ (53)