説明

船体ブロックの塗装方法及び塗装バージ

【課題】IMOの塗装基準を満たすばかりでなく、船体ブロックの塗装時間を、見掛け上、零にする。
【解決手段】船体ブロックの一種であるバラストタンク部27をバージB2に搭載する。このバージB2の海上移動中に、バージB2上に設けた塗装工場32内でバラストタンク部27を塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体ブロックをバージ上に設けた塗装工場内で塗装する船体ブロックの塗装方法及び船体ブロックの塗装に使用する塗装バージに関する。
【背景技術】
【0002】
建造船の船体ブロックの塗装は、従来、屋外で行われてきたが、国際海事機関(IMO)において、バラストタンク部の塗装基準として、「適用期間15年」と言う厳格な仕様を2008年7月以降の建造契約船、並びに、2012年7月以降の竣工船から適用することが決定された。
【0003】
この結果、バラストタンク部の塗装に関しては、屋外で塗装を行う限り、IMOの要求を満足することができなくなった。このため、各造船所では、バラストタンク部の塗装を屋内で行うため、塗装及びブラスト工場建設の必要性が出てきた。しかし、敷地に余裕がない造船所にとって敷地内に塗装及びブラスト工場を新設することは至難の業である。
【0004】
ところで、造船所の敷地内に塗装工場を新設する場合を想定すると、上記のように、塗装工場用の敷地が必要になる。また、外注先や自社の他事業所など、製作を行う造船所以外のエリアで船体ブロックを製作する場合は、ブロック搬入後、ブロックの塗装完了までに要する日数は、合計3日間が必要となる。
(a)ブロックの仮置(造船所:1日間)
(b)ブロックの塗装(塗装工場内)(造船所:2日間)
(c)船体建造
【0005】
他方、浮体構造物の甲板上に、資材工場、浮体ユニット組立工場、塗装工場を順次隣接して設け、これらの工場によって流れ作業方式で浮体ユニットを生産する浮体式メガフロート生産設備が提案されているが(例えば、特許文献1参照。)、この浮体式メガフロート生産設備は、所定の水域に係留された浮体構造物上で使用され、浮体構造物の海上移動中は稼働しないものと推察される。
【特許文献1】特開平10−147289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、外注先や自社の他事業所など、製作を行う造船所以外のエリアで製作されたブロックの海上運搬に着目して発明したものであり、船体ブロックを海上運搬中に塗装することにより、IMOの塗装基準を満たすばかりでなく、塗装工場の新設が不要になり、その上、船の建造日数の短縮を図ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、請求項1に記載の発明に係る船体ブロックの塗装方法は、船体ブロックをバージ上に設けた塗装工場で塗装することを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の発明に係る船体ブロックの塗装方法は、船体ブロックをバージに搭載し、前記バージの移動中に、前記船体ブロックを前記バージ上に設けた塗装工場内で塗装することを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2記載の船体ブロックの塗装方法において、前記船体ブロックを塗装するバージとして、浮体構造物本体と、該浮体構造物本体の下方に設けた複数の没水体と、該没水体を前記浮体構造物本体に接続する複数の接続部よりなる半没水式の塗装バージを適用することを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2記載の船体ブロックの塗装方法において、前記船体ブロックを塗装するバージとして、浮体構造物本体に複数のジャッキアップ式の脚部を設けたジャッキアップ式の塗装バージを適用することを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載の発明に係る塗装バージは、浮体構造物本体上に、ブラスト室と塗装室とを有する塗装工場を設けると共に、該塗装工場の屋根を移動屋根にしてクレーンで船体ブロックを搬出入可能とし、更に、前記塗装工場の床面に敷設したレール上にブロック移送台車を設けたことを特徴としている。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5記載の塗装バージにおいて、前記浮体構造物本体と、該浮体構造物本体の下方に設けた複数の没水体と、該没水体を前記浮体構造物本体に接続する複数の接続部によって半没水式のバージを形成することを特徴としている。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項5記載の塗装バージにおいて、前記浮体構造物本体に、複数の脚部を昇降可能に設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の船体ブロックの塗装方法は、船体ブロックをバージ上に設けた塗装工場で塗装するので、IMOの塗装基準を満たすことができるばかりでなく、造船所の敷地難を回避することができる。また、造船所における船体ブロックの製作と並行してバージの塗装工場内で船体ブロックを塗装することができるため、船の建造日数を短縮することが可能となる。
【0015】
また、請求項2に記載の船体ブロックの塗装方法は、船体ブロックをバージに搭載し、前記バージの移動中に、前記船体ブロックを前記バージ上に設けた塗装工場内で塗装するので、IMOの塗装基準を満たすことができるばかりでなく、船体ブロックの塗装時間を、見掛け上、零にすることが可能になった。
【0016】
即ち、造船所の敷地内に塗装工場を新設する場合を想定すると、既に説明したように、ブロック搬入後、ブロックの塗装完了までに要する日数が合計3日間となるが、この発明によれば、ブロック搬入後、直接、船台に搭載できるので、3日間の時間短縮となる。このため、その分、船の建造日数を短縮することが可能となる。
【0017】
また、この発明によれば、造船所の敷地内に塗装及びブラスト工場を新設する必要が無いので、敷地難を回避できるほか、造船所の敷地内に塗装及びブラスト工場を新設する場合の基礎工事が不要になり、コストダウンが可能になる。更に、この発明によれば、既存の塗装場も使用可能であるから、既存の塗装場による屋外塗装と、塗装バージによる屋内塗装とを並行して行うことができる。
【0018】
更に、次のような効果も期待できる。即ち、
(1)非稼働時に塗装バージを他社や他工場にリースできる。
(2)非稼働時に塗装バージをブロック置き場として使用できる。
(3)増設が容易である。
(4)騒音、公害を避ける位置に移動できる。
【0019】
請求項3に記載の船体ブロックの塗装方法は、船体ブロックを塗装するバージとして、浮体構造物本体と、該浮体構造物本体の下方に設けた複数の没水体と、該没水体を前記浮体構造物本体に接続する複数の接続部よりなる半没水式の塗装バージを適用するため、海上運搬中の動揺も小さくなり、船体ブロックを安全に、かつ、確実に塗装することが可能になった。
【0020】
請求項4に記載の船体ブロックの塗装方法は、船体ブロックを塗装するバージとして、浮体構造物本体に複数のジャッキアップ式の脚部を設けたジャッキアップ式の浮体構造物を適用するので、ジャッキアップ式の脚部を着地することにより、陸上構造物と同様に使用でき、且つ、地震、津波、高潮に対して安全な構造物にできる。
【0021】
請求項5に記載の塗装バージは、浮体構造物本体上に、ブラスト室と塗装室とを有する塗装工場を設けると共に、該塗装工場の屋根を移動屋根にしてクレーンで船体ブロックを搬出入可能とし、更に、前記塗装工場の床面に敷設したレール上にブロック移送台車を設けたので、船体ブロックの海上運搬中に船体ブロックのブラストや塗装を連続して実施することができる。
【0022】
請求項6に記載の塗装バージは、浮体構造物本体と、該浮体構造物本体の下方に設けた複数の没水体と、該没水体を前記浮体構造物本体に接続する複数の接続部によって半没水式の塗装バージを形成したので、海上運搬中の動揺も小さくなり、船体ブロックを安全に、かつ、確実に塗装することが可能になった。
【0023】
請求項7に記載の塗装バージは、前記浮体構造物本体に、複数の脚部を昇降可能に設けたので、ジャッキアップ式の脚部を着底することにより、陸上構造物と同様に使用でき、且つ、地震、津波、高潮に対して安全な構造物にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
尚、この実施の形態では、外注先で製作されたバラストタンク部を例に取るが、この発明は、自社の他のエリアで製作されたバラストタンク部にも適用することができる。
【0025】
外注メーカー100(図2参照)にて製作されたバラストタンク部27は、図1に示すように、造船所所有の塗装バージB2に搭載され、外注メーカー100から造船所1に向けて海上運搬される。そした、この海上運搬中に、塗装バージB2上に設けた塗装工場32内でバラストタンク部27のブラストおよび塗装が行われる。
【0026】
塗装バージB2は、図1に示すように、偏平な箱形の浮体構造物本体31の甲板上に塗装工場32を設けたものである。塗装工場32は、ブラスト室33と、塗装室34及び35とを有する共に、塗装工場32の複数(例えば、3面。)の屋根36a〜36cを移動屋根にして陸上工場の大型クレーンによってバラストタンク部27を上方より搬出入可能にしている。更に、塗装工場32の床面に敷設したレール37上にブロック移送台車38を走行自在に設けている。
【0027】
図2に示すように、造船所1の第2の岸壁13に塗装バージB2が接岸すると、海上運搬中に、塗装バージB2上に設けた塗装工場32内で塗装されたバラストタンク部27が造船工場の大型クレーンを使って船台14に、直接、搬送される。
【0028】
尚、塗装バージは、浮体構造物本体31が偏平な箱型のままでも支障がないが、図3に示すように、浮体構造物本体41と、体構造物本体41の下方に設けた複数の没水体42と、没水体42を浮体構造物本体41に接続する複数の接続部43よりなる半没水式の塗装バージB3とすることによって航行中の揺れを防止することができる。
【0029】
また、図4に示すように、浮体構造物本体41に複数のジャッキアップ式の脚部45を設けたジャッキアップ式の塗装バージB4とすることによって陸上構造物と同様に使用できるとともに、地震、津波、高潮に対して安全性を高めることができる。
【0030】
尚、上記の説明では、バラストタンク部の塗装について説明したが、バラストタンク部の以外の船体ブロックの塗装にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る塗装バージの斜視図である。
【図2】塗装バージによるブロック搬入時の説明図である。
【図3】本発明に係る塗装バージの他の例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る塗装バージの更に他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 造船所
27 バラストタンク部
32 塗装工場
100 外注メーカー
B2 塗装バージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体ブロックをバージ上に設けた塗装工場で塗装することを特徴とする船体ブロックの塗装方法。
【請求項2】
船体ブロックをバージに搭載し、前記バージの移動中に、前記船体ブロックを前記バージに設けた塗装工場内で塗装することを特徴とする船体ブロックの塗装方法。
【請求項3】
船体ブロックを塗装するバージとして、浮体構造物本体と、該浮体構造物本体の下方に設けた複数の没水体と、該没水体を前記浮体構造物本体に接続する複数の接続部よりなる半没水式の塗装バージを適用することを特徴とする請求項1又は2記載の船体ブロックの塗装方法。
【請求項4】
船体ブロックを塗装するバージとして、浮体構造物本体に複数のジャッキアップ式の脚部を設けたジャッキアップ式の塗装バージを適用することを特徴とする請求項1又は2記載の船体ブロックの塗装方法。
【請求項5】
浮体構造物本体上に、ブラスト室と塗装室とを有する塗装工場を設けると共に、該塗装工場の屋根を移動屋根にしてクレーンで船体ブロックを搬出入可能とし、更に、前記塗装工場の床面に敷設したレール上にブロック移送台車を設けたことを特徴とする塗装バージ。
【請求項6】
前記浮体構造物本体と、該浮体構造物本体の下方に設けた複数の没水体と、該没水体を前記浮体構造物本体に接続する複数の接続部によって半没水式のバージを形成することを特徴とする請求項5記載の塗装バージ。
【請求項7】
前記浮体構造物本体に、複数の脚部を昇降可能に設けたことを特徴とする請求項5記載の塗装バージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−56198(P2008−56198A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238860(P2006−238860)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(592245638)四国ドック株式会社 (2)