説明

船体動揺の粘性境界層による減衰比の予測方法

【課題】低コストで高速、高精度な計算が行え、パラメータスタディが容易である船体動揺の粘性境界層による減衰比の予測方法を提供する。
【解決手段】船体がxy平面内で回転動揺している場合を対象とし、船体形状を、船体の静的平衡位置における船体幅方向の対称軸yと液面xとの交点を原点Oとする角座標関数R=R(θ)で表示し、船体から見て境界層の内側の接線方向の流速νt.inと、船体から見て境界層の外側の接線方向の流速νt.outを極座標表示で表し、境界層内の、船体に対して相対的な接線方向の流速νを、粘性境界層が薄い点に着目して境界条件を満たす式で表し、これから境界層内の流速の極座標成分を求め、液体運動に関する支配方程式系の変分表示を極座標表示で求め、変分直接法に基づき、任意定数に関して変分をとり、各変分の係数を零において、これから固有振動数、固有モードおよび減衰比を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体動揺の粘性境界層による減衰比の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船体の運動特性を把握するために、フルスケールの実モデルを用いて試験を実施することは通常困難である。そのため、従来から小型模型を用いて試験し、その結果から相似則を用いてフルスケールの実モデルの運動特性を予測することが行われている。
しかし、船体動揺の減衰には、粘性境界層による減衰と、形状抵抗(じゃま板等による剥離渦)による減衰の2つが寄与し、この2つの減衰に関して小型模型と実モデル間の相似則が異なっていて、小型模型では粘性境界層による減衰の寄与が無視できないことが知られている。そのため、粘性境界層による減衰の寄与の正確な評価が重要となる。
【0003】
そこで船体の横揺れに対する摩擦抵抗及び減衰力について、従来から非特許文献1、2が発表されている。非特許文献1は数値的方法、非特許文献2は実験推定式による方法によるものである。
なお本発明に関連する方法は、非特許文献3および特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−257654号、「大振幅スロッシング挙動予測方法」
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】池田良穂、姫野洋司、田中紀男、「横揺れ減衰力について(摩擦成分とビルジキールの直圧力成分)」、関西造船協会誌 第161号 昭和51年6月
【非特許文献2】加藤弘、「船の横揺れに対する摩擦抵抗について」、造船協会論文集 第102号 昭和32年11月
【非特許文献3】林毅、村外志夫、「変分法」、応用数学講座第13巻、コロナ社、昭和62年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、粘性境界層による減衰の寄与の正確な評価のために、従来から数値的方法[非特許文献1]や実験推定式による方法[非特許文献2]が適用されているが、これらには計算時間、手間、およびコストが多大であり、パラメータスタディが不便であり、理論的根拠に限界があるという問題がある。
【0007】
また、CFD(流体解析ソフト)等では全減衰を一括して解かざるを得ないため、2つの減衰の寄与の分離評価ができず、小型模型の実験結果から実モデルの減衰を求めるためには適切でないという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、低コストで高速、高精度な計算が行え、パラメータスタディが容易である船体動揺の粘性境界層による減衰比の予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、船体がxy平面内で回転動揺している場合を対象とし、
船体形状を、船体の静的平衡位置における船体幅方向の対称軸yと液面xとの交点を原点Oとする角座標関数R=R(θ)(M:船体と液体の界面の静的平衡位置、θ:y軸からの回転角度)で表示し(後述する式(1))、
船体から見て境界層の内側の接線方向の流速νt.inと、船体から見て境界層の外側の接線方向の流速νt.outを極座標表示で表し(後述する式(31)(32))、
境界層内の、船体に対して相対的な接線方向の流速νを、粘性境界層が薄い点に着目して境界条件を満たす式で表し(後述する式(39)(40))、これから境界層内の流速の極座標成分(式(41))を求め、
液体運動に関する支配方程式系の変分表示を極座標表示で求め、変分直接法に基づき、任意定数に関して変分をとり、各変分の係数を零において、これから固有振動数、固有モードおよび減衰比を求める、ことを特徴とする船体動揺の粘性境界層による減衰比の予測方法が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、ラグランジュアン密度が液圧に等しいことに基づき、所要の支配方程式系の変分表示を極座標表示で求め(後述する式(16))、
液体運動の連続性を示すラプラス方程式の解φ(R,θ,t)(t:時間)を極座標表示で求め(後述する式(17))、
船体の回転変位の自由振動解θ(t)を極座標表示で表し(後述する式(22))、
前記φ(R,θ,t)とθ(t)を前記支配方程式系の変分表示に代入して任意定数に関して変分をとり、各変分の係数を零において、任意定数に関する斉次方程式を標準固有値問題の形に導き(後述する式(23))、これから固有振動数と固有モードを決定する。
【0011】
また、前記φ(R,θ,t)とθ(t)において、eiωt→モード座標q(t)の置き換えを行い、その結果(後述する式(24)(25))を前記支配方程式系の変分表示(式(16))に代入してモード座標に関して変分をとり、モード座標の時間微分に関する変分に対して部分積分を行って、モード方程式を導き(後述する式(26))、
前記境界層内の流速の極座標成分を、R,θ方向のNavier−Stokes方程式から生じる境界層内の仮想仕事に代入して、粘性仮想仕事のモード座標を求め、
前記モード方程式に粘性仮想仕事のモード座標(後述する式(44))を加算して、粘性を考慮したモード方程式の変分形を得(後述する式(45))、この式から減衰比ζを計算する(後述する式(46))。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、本発明の発明者は、極座標の導入によって船体表面の動径座標を角度の関数(後述する式(1))として与えることにより、任意形状の実船に対して、変分直接法に基づく解析的方法で粘性境界層による減衰が評価できる方法を創案した。
また、変分直接法に基づく解析的方法を用いるために、粘性境界層が薄い点に着目して境界層内流れ場の適切な関数近似(後述する式(41))を行った。
これにより、低コストで高速、高精度な計算が行え、かつパラメータスタディが容易である効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】解析モデルの模式図である。
【図2】固有振動数と無次元減衰定数との関係図である。
【図3】慣性モーメントと重心位置の関係図である。
【図4】慣性モーメントと減衰比の関係図である。
【図5】式(46)中の諸定数の変化を示す図である。
【図6】形状b/aに対する諸パラメータの変化を示す図である。
【図7】回転中心yに対する諸パラメータの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
1. 予測方法
1.1 問題の設定と座標系
図1のように、船体がxy平面内で回転動揺している場合を考える。
ここで、C:回転中心、G:重心、θ(t):回転変位、M:船体と液体の界面の静的平衡位置である。
船体は剛体とし、xy平面に直交するz方向に変化のない2次元問題を考える。定式化は、液体領域の境界を有限の位置にある剛体面W(図には示していない)として行う。
【0016】
本発明による予測方法は、図1のように、液面(Liquid surface)とy軸(船体の静的平衡位置における船体幅方向の対称軸)の交点を原点Oとする極座標(R,θ)(0≦θ≦θmax=π/2)を設定することによって、MとWの動径座標を角座標の関数として数1の式(1)(2)の形に表す。
このような極座標の設定により、θが液面上で一定(θ=±90°)となるため、液体運動の解の基底となる直交関数系が解析的に決定でき、任意の船体形状に応じて式(1)の関数R(θ)を与えることにより直交関数展開法による低コストの高速計算が可能となる。図1には一例として、船体形状が式(3)によって与えられる楕円形状の場合を示している。
船体の動揺減衰の模型実験では、固定軸回りに動揺させ粘性摩擦減衰力を計測する。本発明の解析モデルは、このような模型実験のシミュレートを目的とする。
【0017】
【数1】

【0018】
1.2 変分原理による支配方程式の導出
直交関数展開法を用いるためには、支配方程式を変分原理に基づき重み付きの形に導く必要がある。液体運動に関する変分原理は、ラグランジュアン密度(単位体積当たりのラグランジュアン)が液圧に等しいことに基づき、数2の式(4)のように表される。ここで、L:液体のラグランジュアン、V: 液体の占める空間、P:液圧である。
液圧Pは、渦なし非定常流に関する圧力方程式より、速度ポテンシャルφを用いて式(5)のように表される。ここでφ:速度ポテンシャル、ρ:液体の密度、g:重力加速度、・付G(t):任意の時間関数である。
なお、この出願において、式中に「・」を上に付した記号は、1回微分を示し、式中に「・・」を上に付した記号は、2回微分を示す。また文中では便宜上、それぞれ「・付」「・・付」と記載する。
【0019】
液体領域が、液面変位と、船体との界面の法線方向変位を介して可変分となることに注意して、式(4)の変分計算を実行する。
次に、船体の回転変位θによるラグランジュアン時間積分の変分式(6)を加算して、系全体のラグランジュアン時間積分の停留条件を導くと、所要の支配方程式系の変分表示が式(7)のように得られる。ここで、θ:船体の回転変位、I:回転中心回りの慣性モーメント、m:船体の質量である。
【0020】
速度ポテンシャル、液面変位、船体の変位、任意時間関数の変分が任意かつ独立であることから、支配方程式と境界条件が次のように導かれる。
すなわち、式(7)の第1項より、液体運動の連続性を表すラプラス方程式(8)が導かれる。第2項より、剛体と仮定された境界面で、その法線方向の流速成分が零となる境界条件(9)が導かれる。第3項より、液体Fで、その法線方向の液面振動速度と流体粒子速度が等しい条件が導かれる。第4項より、液面で圧力が零となる境界条件が導かれる。第5項より、船体と液体との界面で、その法線方向の船体と液体の速度が等しい条件が導かれる。第6から8項(船体の変位の変分を含む)より、重力と液圧を受ける船体の運動方程式が導かれる。最後の項(第9項)より、液体の非圧縮性の仮定に基づく体積一定条件が導かれる。体積一定条件は、他の運動学的条件から導けるので、以下では考慮しない。
【0021】
【数2】

【0022】
1.3 変分原理の極座標表示
解析的方法を導入するため、上に導いた変分原理(7)の極座標表示を導く。
まず、式(7)第8項では、運動界面の法線ベクトルNs方向の変位uとその変分、静圧、運動界面の面積要素の極座標表示を数3の式(10)〜(13)のように導いて代入する。
次に、式(7)第5項では、上と異なり、残差(0となるべき括弧中の式)に静的項がないため、運動界面Sを静的位置Mで近似し、Mの面積要素、法線ベクトルを式(1)より式(14)(15)のように導いて代入する。
式(7)第2項についても同様に、式(2)より面積要素と法線ベクトルを導いて代入する。
式(7)第3、4項では、次の処理をする:式(5)の液圧の動的項を静的液面上(θ=θmax=π/2)で評価する。
式(5)の液圧の静圧項を運動液面上y=ηで評価する。
静的液面で、式(15a)となることを用いる。
以上により、式(7)の極座標表示が式(16)のように導かれる。
【0023】
【数3】

【0024】
1.4 自由振動解析
式(8)の解は、数4の式(17)のように表される。ここでaは任意の定数で、固有関数と固有値は式(18)〜式(20)によって与えられる。
液面の変位ηは、式(16)第3項から式(21)によって定められる。
船体の回転変位の自由振動解を式(22)のように表す。ここで、θG0は任意定数である。
式(17)、(22)を式(16)に代入して任意定数a、θG0に関して変分をとり、各変分の係数を零におくと、任意定数に関する斉次方程式系が式(23)の標準固有値問題の形に導かれる。ここで行列M、K:質量行列および剛性行列、行列X:任意定数a(n≧1)、θG0を集めた列ベクトルである。
式(23)から固有振動数と固有モードが決定される。
【0025】
【数4】

【0026】
1.5 粘性減衰比の計算
このモードに関する粘性減衰比を計算するため、モード座標に関する方程式を導く。式(17)、(22)で
iωt→ モード座標q(t)
の置き換えることによって解を数5の式(24)(25)のように設定する。
式(24)、(25)を式(16)に代入してモード座標に関して変分をとり、モード座標の時間微分に関する変分に対しては部分積分を行うと、モード方程式が式(26)の形に導かれる。ここでM、K:積分によって生じる定数であり、それぞれ質量および剛性パラメータである。
式(26)に、粘性境界層による減衰項を導入する。船体から見て境界層の内側の接線方向の流速νt.inは、船体の接線方向の速度として次式(27)によって与えられる。ここで、tは接線方向の単位ベクトルであり、式(15)によって与えられるNとの直交条件より式(28)のように求められる。
船体から見て境界層の外側の接線方向の流速νt.outは、R,θ方向の流速成分の接線方向成分を加算することにより、式(29)のように計算できる。
式(29)の計算に対してtは、式(27)と異なり内積計算の便宜のため座標(R,θ)を用いて表す必要があり、式(15)の法線ベクトルとの直交性より、式(30)のようになる。
【0027】
【数5】

【0028】
式(27)、(29)を数6の式(31)(32)のように記す。ここで、式(33)(34)である。
境界層内の、船体に対して相対的な接線方向の流速νは、式(35)〜(37)の境界条件を満たす。ここで、ξ:境界層に垂直に船体表面から液体に向ってとった座標、ξ:液体と剛体との相対運動がそれらの界面の接線方向に、前節で求めた固有振動数で生じる場合の境界層厚さである。
境界層厚さは、式(38)で表される。
式(37)は、粘性応力が零になる主流に応力が連続的に接続する条件である。
境界層は非常に薄いので、式(35)、(36)、(37)を満たすνを式(39)のように表す。ここで式(40)である。
【0029】
【数6】

【0030】
Navier−Stokes方程式の粘性項から粘性応力のなす仮想仕事を計算するために、まず、流速の極座標成分を数7の式(41)のように表す。
ここでf(R,θ)は、式(40)の関数を式(42)の極座標の関数として書いたものである。
R,θ方向のNavier−Stokes方程式から生じる境界層内の仮想仕事は式(43)によって計算できる。
式(41)を式(43)に代入することによって、粘性仮想仕事は式(44)の形にモード座標で表せる。ここで、Cは積分によって生じる定数である。
式(44)を式(26)に加算することによって粘性を考慮したモード方程式の変分形が式(45)のように得られる。
式(45)より減衰比ζは式(46)によって計算できる。
ここで、式(47)のωは前節で求めた固有振動数に等しい。
【0031】
【数7】

【実施例1】
【0032】
2. 数値例題
本発明では、船体の形状を式(3)によって表される楕円によって与え、まず、数8の式(48)に示すパラメータについて数値計算を行った。
最初に、過去の文献の結果との比較による妥当性検証のため、固有振動数(Eigenfrequency)と式(49)の無次元減衰定数(Dimensionless damping constant)との関係を計算した。その結果を図2に示す。
ここで、Δは排水容積、Bは船体の幅2bであり、Δ=35.34m、B=0.3mである。比較のため、[非特許文献1]の図6に与えられた、[非特許文献2]の方法に基づく値を丸印で示した。この値の妥当性は[非特許文献1]で実施された実験でも確認されている。この実験での重りをのせることによる固有振動数の変化は、図3のような慣性モーメントと重心位置の関係と、m=I/(0.1)(kg)によって模擬している。
図2より、本論文の解析と[非特許文献1、2]による計算、実験との一致は、良好であることが確認できる。
【0033】
【数8】

【0034】
図4に、減衰比(Damping ratio)の慣性モーメントIに対する依存性を示す。図4より、減衰比は慣性モーメントIが増大すると減少することが分かる。
【0035】
図5(a)、(b)、(c)に、物理的考察のため、減衰比を与える式(46)に現れる諸定数(減衰定数C、質量パラメータM、固有振動数ω/2π)の慣性モーメント依存性を示す。まず、図5(c)のように、慣性モーメントIが増加すると固有振動数ω/2πが高くなることが分かる。これは、図3によって与えられる重心低下に伴う式(7)の重力復元力項の増加を意味する。固有振動数ω/2πが高くなると、式(38)に基づき境界層が薄くなる。減衰定数Cを与える式(43)において支配的となる∂f/∂Rは式(42)に示すように(境界層厚さ)−2に比例し、Rに関する積分範囲は(境界層厚さ)に比例する。したがって減衰定数は(境界層厚さ)−1に比例し、固有振動数が高くなると増加する。このように、図5(a)に示された、慣性モーメントIの増大による減衰定数Cの増加は、固有振動数ω/2πの増加に起因する。このように、減衰定数Cは、慣性モーメントIが増加すると増加する。しかし、式(46)の分母にある質量パラメータMと固有振動数ω/2πが、図5(b)、(c)に示すように慣性モーメントIの増加と共に大きくなるため、減衰比は、図4に示すように慣性モーメントIが増加すると減少する。
【0036】
図6(a)〜(d)に、形状b/aの変化に対する、減衰比と式(46)右辺の諸定数(減衰定数C、質量パラメータM、固有振動数ω/2π)の変化を示す。慣性モーメントはI=1kgmとし、y=−0.02(m)の場合について計算している。図6(a)より、b/aが1から遠ざかると減衰比が増加することが分かる。図6(a)、(b)を比較すると、b/aが1から増加していく場合には、減衰比が減衰定数Cよりかなり顕著に増加していくことが分かる。これは、図6(d)に示すように、b/aが1を超えると、固有振動数ω/2πのb/aの増加に対する減少率が大きくなり、式(46)の分母が減少するためである。一方、b/aが1から減少していく場合には、図6(c)、(d)に示すように質量パラメータM、固有振動数ω/2πともに増加するので、式(46)の分母は増加する。このため、減衰比の増加は、減衰定数Cの増加に比べて緩和される。
【0037】
図7(a)〜(d)に、回転中心位置yの零からの下降に対する、減衰比と式(46)右辺の諸定数(減衰定数C、質量パラメータM、固有振動数ω/2π)の変化を示す。慣性モーメントはI=1kgmとし、yはy=y−0.02(m)として変化させている。yが下降すると、図7(c)、(d)のように、質量パラメータMと固有振動数ω/2πが増加して式(46)の分母が増加する。このため、図7(a)に示されている、yの下降による減衰比の増加は、図7(b)に示されている減衰定数Cの増加に比べて、わずかに緩和される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
上述したように、本発明の発明者は、極座標の導入によって船体表面の動径座標を角度の関数(式(1))として与えることにより、任意形状の実船に対して、変分直接法に基づく解析的方法で粘性境界層による減衰が評価できる方法を創案した。
また、変分直接法に基づく解析的方法を用いるために、粘性境界層が薄い点に着目して境界層内流れ場の適切な関数近似(式(41))を行った。
これにより、低コストで高速、高精度な計算が行え、かつパラメータスタディが容易である効果が得られる。
【0039】
すなわち、実施例1に示すように、船体の形状を任意に変化させて、船体の固有振動数、減衰比、減衰定数、質量パラメータ等のパラメータスタディを行い、船体の形状を適正化することができる。
また、この計算を、従来のように、実験に基づく推定式や、多大な計算時間を必要とするCFD等を必要とせずに、純粋に解析的手法のみで行うことができ、計算時間、手間、およびコストを大幅に低減することができる。
【0040】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0041】
a 船体形状を現す楕円の半幅、
b 船体形状を現す楕円の高さの半分、
C 回転中心、
モード方程式の減衰定数、
,eθ R、θ方向の単位ベクトル、
F 液面、
G 重心、
・付G(t):任意の時間関数、
g 重力加速度、
I 回転中心のまわりの慣性モーメント、
行列K 剛性行列、
モード方程式の剛性パラメータ
液体のラグランジュアン、
M 船体と液体の界面の静的平衡位置、
モード方程式の質量パラメータ、
行列M 質量行列、
m 船体の質量、
Fの単位法線ベクトル(液体から見て外向き)、
Mの単位法線ベクトル(液体から見て内向き)、
Sの単位法線ベクトル(液体から見て内向き)、
Wの単位法線ベクトル(液体から見て外向き)、
液圧、
(θ) MのR座標、
Mθ dR(θ)/dθ、
(θ) WのR座標、
θ dR(θ)/dθ、
S 動的変位後の船体と液体との界面、
船体のNs方向の変位、
,uθ R,θ方向の流体変位成分、
ν,νθ R,θ方向の流体変位成分、
V 液体の占める空間、
W 液体領域の,液面と,船体と液体との界面を除く境界、
行列X 任意定数a(n≧1)、θG0を集めた列ベクトル
θ(t) 船体の回転変位、
θG0 任意定数、
φ 速度ポテンシャル、
ξ 船体表面から境界層に垂直に計った座標、
ξ 境界層厚さ、
η 液面変位、
μ 液体の粘性係数、
ρ 液体の密度、
ω 固有振動数、
ζ 減衰比、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体がxy平面内で回転動揺している場合を対象とし、
船体形状を、船体の静的平衡位置における船体幅方向の対称軸yと液面xとの交点を原点Oとする角座標関数R=R(θ)(M:船体と液体の界面の静的平衡位置、θ:y軸からの回転角度)で表示し、
船体から見て境界層の内側の接線方向の流速νt.inと、船体から見て境界層の外側の接線方向の流速νt.outを極座標表示で表し、
境界層内の、船体に対して相対的な接線方向の流速νを、粘性境界層が薄い点に着目して境界条件を満たす式で表し、これから境界層内の流速の極座標成分を求め、
液体運動に関する支配方程式系の変分表示を極座標表示で求め、変分直接法に基づき、任意定数に関して変分をとり、各変分の係数を零において、これから固有振動数、固有モードおよび減衰比を求める、ことを特徴とする船体動揺の粘性境界層による減衰比の予測方法。
【請求項2】
ラグランジュアン密度が液圧に等しいことに基づき、所要の支配方程式系の変分表示を極座標表示で求め、
液体運動の連続性を示すラプラス方程式の解φ(R,θ,t)(t:時間)を極座標表示で求め、
船体の回転変位の自由振動解θ(t)を極座標表示で表し、
前記φ(R,θ,t)とθ(t)を前記支配方程式系の変分表示に代入して任意定数に関して変分をとり、各変分の係数を零において、任意定数に関する斉次方程式を標準固有値問題の形に導き、これから固有振動数と固有モードを決定する、ことを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
前記φ(R,θ,t)とθ(t)において、eiωt→モード座標q(t)の置き換えを行い、その結果を前記支配方程式系の変分表示に代入してモード座標に関して変分をとり、モード座標の時間微分に関する変分に対して部分積分を行って、モード方程式を導き、
前記境界層内の流速の極座標成分を、R,θ方向のNavier−Stokes方程式から生じる境界層内の仮想仕事に代入して、粘性仮想仕事のモード座標を求め、
前記モード方程式に粘性仮想仕事のモード座標を加算して、粘性を考慮したモード方程式の変分形を得、この式から減衰比ζを計算する、ことを特徴とする請求項1に記載の予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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