説明

船体建造工場

【課題】建造ドックを用いることなく、水平な陸上建造ヤードで船体を建造でき、建造期間を短縮可能で、船体をバージ上へ容易に安全に移載可能な船体建造工場を提供する。
【解決手段】第1搬送路4の片側に、船体後部Sbを建造する第1建造ステージ20と、その前方に船体主要部Saを建造する第2建造ステージ30を設け、第1搬送路を挟んで第2建造ステージの反対側に船体モジユールSmを建造する第3建造ステージ40を設け、第1搬送路の前方の岸壁にバージ接岸部3を設ける。船体モジユールSmを第4搬送路15a,15bにより第2建造ステージへ移送して船体主要部Saの一部に組み込み、船体後部Sbを第2搬送路13により第2建造ステージへ移送し、船体主要部Saと合体して船体Sを建造し、第3搬送路14a〜14hにより船幅方向へ第1搬送路まで移送し、その船体Sを第1搬送路によりバージ50上まで移送し、バージを沈降させ、進水させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陸上の水平な建造ヤードにおいて船体を建造する為の船体建造工場に関し、特に建造期間を短縮し、設備コストを低減し、バージを利用して進水するようにした船体建造工場に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船体を建造する場合は船台又は建造ドックが利用されており、特に大型船の場合には、後者の建造ドックが多く用いられている。この建造ドックの建設には莫大な建設費がかかる。そこで、船体を建造ドック内ではなく、陸上の水平な建造ヤードにおいて建造し、この建造した船体をバージ上へ搬送した後、バージを沈降させることで船体を進水させる技術も公知である。
【0003】
特許文献1の船舶建造工場においては、陸上の組立て場において船体を2分割した船体分割体を各々組立てた後、これらの船体分割体を岸壁に接岸されたバージまで船長方向に移送し、バージ上で各船体分割体を結合して船体を完成させる。船体の完成後、船体とバージを進水地点まで移動させ、バージを沈下して船体を進水させる。
【0004】
特許文献2の横方向進水装置では、陸上で建造した船体を複数のスキッドシュー及び油圧ジャツキによって支持し、船体とスキッドシューと油圧ジャツキを搬送路としてのスキッドビームに沿って船幅方向へ横滑りさせてバージ上へ横移動により移動させ、その後、バージを沈降させることで船体を自己浮上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−182296号公報
【特許文献2】特表2007−523011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の船舶建造工場は、建造用ドックではなく、陸上の組立て場において2つの船体分割体を建造した後、海上のバージに移載して船体の建造を完成するので、設備費用の面で有利である。しかし、この船舶建造工場では、バージ上で船体分割体を結合する建造工事を行う必要があるため、バージを組立て場として長期間占用することになるため、バージのチャター費用等が高価になる上、バージ上における作業能率を高めにくいという問題がある。
【0007】
特許文献2の横方向進水装置は、陸上において船体を建造した後、船体をスキッドビームに沿って船幅方向へ横移動させ、船幅方向への横方向移動によりバージ上へ移載するため、バージの占用期間を短縮できる。しかし、船体を船幅方向へ移動させてバージ上へ移載するため、陸側からバージへの船体重量の移載の際に、バージに作用する単位移動距離当たりの移載重量が大きくなるためバージに作用するローリングモーメントが非常に大きくなるため、船体移載の安定性と安全性に欠けるうえ、バラスト水を大流量で注排水する為の特別のポンプ設備を装備した特殊仕様のバージが必要となる。
【0008】
本発明の目的は、建造ドックを用いることなく陸上の水平な建造ヤードで船体を建造できる船体建造工場、建造期間を短縮可能な船体建造工場、船体をバージ上へ容易に安全に移載可能な船体建造工場、などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の船体建造工場は、陸上において船体を建造する為の船体建造工場において、陸上の水平な建造ヤードと、この建造ヤードの岸壁に設けたバージ接岸部とを有し、前記建造ヤードは、前記船体を船長方向へ移動させる為に前記バージ接岸部まで直線的に配設された第1搬送路と、この第1搬送路の片側に第1搬送路と平行に配置された、エンジンルームを含む船体後部を建造する船体後部建造ステージと、前記第1搬送路の前記片側に、前記船体後部建造ステージの前方への延長線上に配置され、前記船体後部以外の船体主要部を建造すると共に船体後部と船体主要部とを合体した船体を建造する船体建造ステージとを備えたことを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記船体後部建造ステージから船体後部を船体建造ステージまで移動させる為の第2搬送路を設けたことを特徴としている。
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記船体建造ステージから前記第1搬送路まで船体を船幅方向へ移動させる為の第3搬送路を設けたことを特徴としている。
【0011】
請求項4の発明は、請求項2の発明において、前記第1搬送路を挟んで前記船体建造ステージと反対側に、船体主要部の一部である船体モジュールを建造するモジュール建造ステージを設け、このモジュール建造ステージから船体建造ステージまで船体モジュールを移動させる為の第4搬送路を設けたことを特徴としている。
【0012】
請求項5の発明は、請求項2〜4の何れか1つの発明において、前記船体後部建造ステージと船体建造ステージと第2搬送路と第3搬送路とが、第1搬送路の片側又は両側に2組設けられ、前記第1搬送路が前記2組の船体建造設備に亙って直線的に配設されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、陸上の水平な建造ヤードで船体の建造を行い且つバージへ移載してバージを介して船体を進水させることができるため、建造ドックを用いることなく建造できるから設備費の面で有利である。
前記建造ヤードは、バージ接岸部まで直線的に延びた第1搬送路と、この第1搬送路の片側に第1搬送路と平行に配置した船体後部建造ステージと、第1搬送路の前記片側に船体後部建造ステージの前方への延長線上に配置された船体建造ステージであって、船体後部以外の船体主要部を建造すると共に船体後部と船体主要部とを合体した船体を建造する船体建造ステージとを有するため、次のような効果が得られる。
【0014】
船体後部と船体主要部とを直線状に並べて分割建造し、その後船体後部を船体主要部の方へ直線的に移動させてそれらを合体するため、船体主要部に比べて長い建造期間を要する船体後部を2つのステージ(場所)で建造することで船体主要部に合わせて船体後部を建造できるから、船体の建造期間を短縮することができる。第1搬送路の片側に船体後部建造ステージと船体建造ステージとを設けるため、第1搬送路を別の船体の移送や、自走式のクレーンの走行路などに兼用することができるため、設備費を節減できる。
【0015】
建造ヤードに設けた第1搬送路に沿って船体を船長方向へ直線的に移動させてバージ上へ移載するため、移載時、船体の単位移動距離当たりの移載重量を小さくし、バージに作用するピッチングモーメントを小さく維持しながら時間をかけて移載できるため、バージ上への移載作業を安定的に安全に行うことができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、船体後部を船体建造ステージまで移動する為の第2搬送路を設けたため、船体後部の船体建造ステージへの移動を能率的に行うことができる。
請求項3の発明によれば、船体建造ステージから第1搬送路まで船体を船幅方向へ移動させる為の第3搬送路を設けたため、船体を建造している間、第1搬送路を占用することがないので、別の場所で建造された別の船体の移送用の搬送路として、また、その他の用途に使用することができるため、設備費の節減を図ることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、第1搬送路を挟んで船体建造ステージと反対側に船体主要の一部である船体モジュールを建造するモジュール建造ステージを設け、このモジュール建造ステージから船体建造ステージまで船体モジュールを移動させる為の第4搬送路を設けたため、船体建造ステージに極力近い位置にモジュール建造ステージを設けることができ、船体モジュールを船体建造ステージに搬送する第4搬送路を短くし、第4搬送路の為の設備費を節減することができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、船体後部建造ステージと船体建造ステージと第2,第3搬送路が、第1搬送路の片側又は両側に2組設けられ、第1搬送路が2組の船体建造設備に亙って直線的に配設されたので、2組の船体建造設備で建造される船体の移動に活用することができ、第1搬送路を複数のクレーンの走行路などにも活用することもできるため、設備費の面で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例に係る船体建造工場の部分レイアウト図である。
【図2】図1のII−II線断面拡大図である。
【図3】第1搬送路上の移動装置の側面図である。
【図4】図3の移動装置の正面図である。
【図5】図3の移動装置の平面図である。
【図6】第1建造ステージの平面図である。
【図7】図6のVII −VII 線断面図である。
【図8】第2建造ステージと第3建造ステージの平面図である。
【図9】図8のIX−IX線断面図である。
【図10】図8のX −X 線断面図である。
【図11】バージの正面図である。
【図12】船体建造方法の概略工程図である。
【図13】進水前の船体とバージの正面図である。
【図14】進水後の船体とバージの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。但し、以下の説明は、船体建造工場及び船体建造方法についての説明を含む。
【実施例1】
【0021】
図1に示すように、この船体建造工場及び船体建造方法においては、船体Sを船体主要部Saと船体後部Sbとに分けて分割建造し、船体主要部Saの一部を船体モジュールSmとして分割建造し、その船体モジュールSmを移動させて船体モジュールSmを含む船体主要部Saを建造し、船体後部Sbを移動装置10と移動用ジャッキ装置34によって直線移動させて船体主要部Saに合体し、船体Sを完成後、船幅方向へ移動させて第1搬送路4に移し、第1搬送路4に沿って船長方向前方へ移動させて、バージ50上へ移載し、その後バージ50を沈降させて進水させる。尚、図1において船体Sはその船首を図1の右方へ向けているが、以下、この船体の前後左右を前後左右として説明する。
【0022】
図1に示す船体建造工場Fは、船体Sを建造するための設備であり、船体建造用の多数の部品を加工し、船体ブロックを組み立てる工場は、図示外の場所に設けてある。この船体建造工場Fは、陸上の水平な建造ヤード1と、この建造ヤード1の岸壁2から海側へ延設されたバージ接岸部3と、バージ50等を備えている。建造ヤード1の表面は装置や構築物を除いてコンクリート製のヤード面となっている。
【0023】
建造ヤード1は、船体Sをその船長方向へ移動させる為にバージ接岸部3の先端部まで前後方向に直線状に配設された第1搬送路4と、岸壁2の後方において第1搬送路4の左右方向両側において船体Sを分割して建造可能な第1建造エリア5と、第1建造エリア5の後方に隣接し且つ第1搬送路4の左右両側において船体Sと同様の船体SAを分割して建造可能な第2建造エリア6などを有する。尚、この第1建造エリア5と第2建造エリア6は同様の構成とされ、第1搬送路4は両方の建造エリア5,6に亙って前後方向へ直線的に延びるように配設されている。この第1,第2建造エリア5,6は、同様の構成であるため、以下、第1建造エリア5について説明する。
【0024】
図1,図2に示すように、第1搬送路4は、その左右両側部位に沿って直線状に配設された1対の搬送路面7と、一方の搬送路面7に沿って直線状に配設され且つ移動装置10(図3〜5参照)をガイド可能な1対のガイドレール8と、他方の搬送路面7に沿って直線状に配設され且つ移動装置10をガイド可能な1対のガイドレール9と、1対の搬送路面7の間に直線状に配設され且つ塔型クレーン11が走行可能な1対の走行レール12等を有する。搬送路面7は鋼板で構成され、第1搬送路4の長さ方向全長に亙って設けられている。各ガイドレール8,9は小間隔を空けて配置した2枚の帯状板で構成され、ガイドレール8,9は夫々の搬送路面7上に夫々突設されている。走行レール12上には、3台の塔型クレーン11が第1建造エリア5と第2建造エリア6に亙って移動可能に配置されている。
【0025】
次に、移動装置10について図3〜図5に基づいて説明する。尚、ガイドレール8側の移動装置10について説明するが、ガイドレール9側の移動装置10も同様の構成を有する。移動装置10は、上端部に船体Sを載置可能な略長方形形状の支持台10aと、格子状の下部フレーム10bと、支持台10aと下部フレーム10bを上下方向に連結する6本の縦フレーム10cと、下部フレーム10bの1対の長辺部に装備された6個のキャスター輪10d及び1対の短辺部に装備された4個のキャスター輪10dとからなる計10個のキャスター輪10dと、支持台10aの側壁外周に固定された計12個のブラケット10eと、1対のエア噴出機構10Aなどを備えている。
【0026】
エア噴出機構10Aは、支持台10aの下端面に固着され且つ支持台10aを上昇させる為の複動エアシリンダを内蔵した本体部10fと、本体部10fの下部に固定され搬送路面7に加圧エアを噴出可能なエア噴出パッド10gと、エア噴出パッド10gの4隅に回転自在に装着され1対のガイドレール8の内側面に接触して移動装置10の進行方向をガイドするガイドローラ10hなどを備えている。図3、図4において、ガイドレール8は、ガイドローラ10hと下部フレーム10bの長辺部のキャスター輪10dとの間に位置し、ガイドローラ10hと接触可能である。本体部10fの複動エアシリンダには、外部の加圧エア供給源からエアホースにて加圧エアが給排され、エア噴出パッド10gにも、外部の加圧エア供給源からエアホースにて加圧エアが給排される。
【0027】
以上により、船体Sを陸上に設けられた支持ブロック26(図7参照)上に載置して支持しながら建造を行うとき、移動装置10は、そのエア噴出機構10Aを非作動として支持台10aは船体Sの底面から離隔している。船体Sを移送するとき、エア噴出機構10Aは、その本体部10fの複動エアシリンダを伸長させ、支持台10aを所定高さ浮上させて船体Sを支持台10aで支持し、エア噴出パッド10gから搬送路面7に加圧エアを噴出することで、キャスター輪10dの輪荷重を小さく又は零にし、船体Sを支持した移動装置10を搬送路面7に対して移動させる際の抵抗を非常に小さくすることができる。それ故、ブラケット10eに連結されたプッシュプル・グリッパージャツキ等の移動用ジャッキ装置34(図8参照)を用いて船体Sを押動又は牽引にて移動させる。
【0028】
図1に示すように、第1建造エリア5は、第1搬送路4の左側に第1搬送路4と平行に配置された船体後部Sbを建造する第1建造ステージ20(船体後部建造ステージ)と、第1搬送路4の左側に第1搬送路4と平行に配置され且つ第1建造ステージ20の前方(岸壁2側)に配置された第2建造ステージ30(船体建造ステージ)であって、船体主要部Saを建造すると共に船体後部Sbを船体主要部Saに結合して船体Sを建造する第2建造ステージ30と、第1搬送路4を挟んで第2建造ステージ30と反対側に配置され且つ船体モジュールSmを建造する第3建造ステージ40(モジュール建造ステージ)と、船体後部Sbを第1建造ステージ20から第2建造ステージ30まで移動させる為の第2搬送路13と、第2建造ステージ30から第1搬送路4まで船体Sを船幅方向へ移動させる為の複数の第3搬送路14a〜14hと、第3建造ステージ40から第2建造ステージ30まで船体モジュールSmを移動させる為の第4搬送路15a,15bと、搬送路13,14a〜14h,15a,15bに夫々配置された複数の移動装置10と、船体後部Sbや船体モジュールSmや船体Sを移動させる為の複数の移動用ジャッキ装置34などを有する。
【0029】
図6〜図8に示すように、第1建造ステージ20は、エンジンルームを含む船体後部Sbを建造するステージである。建造中の船体後部Sbは、コンクリート製ブロック体とその頂部の材製厚板とからなる多数の支持ブロック26(図7参照)に載置支持されている。船体後部Sbを第2建造ステージ30へ移送する移送時には、例えば4台の移動装置10により船体後部Sbの底部の4ヶ所を支持した状態で、複数の移動用ジャッキ装置34で前方へ移動させる。尚、第1建造ステージ20には、自走式のクローラクレーン21と、種々の艤装部品を搬送可能な運搬車22などが配置されている。
【0030】
第1建造ステージ20の第2搬送路13は、船体後部Sbを4台の移動装置10によって第2建造ステージ30まで移動させる為のものであり、第1搬送路4と平行に直線状に延びている。第2搬送路13は、その左部と右部に直線状に形成された1対の搬送路面23と、一方の搬送路面23に沿って直線状に設けられ且つ移動装置10を第2建造ステージ30まで移動させる際に移動装置10をガイドする為の1対のガイドレール24と、他方の搬送路面23に沿って直線状に配設され且つ移動装置10を第2建造ステージ30まで移動させる際に移動装置10をガイド可能な1対のガイドレール25などを備えている。1対の搬送路面23には、船体後部Sbの底部の4ヶ所を支持できるように夫々2台の移動装置10と、1対の移動用ジャッキ装置34とが配置されている。
【0031】
各搬送路面23はコンクリート上に固定された鋼板で構成されている。ガイドレール24,25はガイドレール8,9と同様のもので、搬送路面23に夫々立設されている。各移動装置10は、その左右両側のガイドローラ10hが左右両側のガイドレール24,25でガイドされ、搬送路面23に沿って移動するようになっている。移動用ジャッキ装置34は、1対のガイドレール24又は25をグリップした状態で、移動装置10を押動可能である。
【0032】
船体後部Sbを第1建造ステージ20から第2建造ステージ30まで船長方向(前方)へ移動させるとき、1対の搬送路面23に1対の移動用ジャッキ装置34(図8参照)をセットして1対の移動装置10に連結する。各移動装置10は、その本体部10f内の複動エアシリンダを伸長させることで支持台10aを上昇させて船体後部Sbを支持し、エア噴出パッド10gから搬送路面23に対して加圧エアを噴出する。この状態で、各移動用ジャッキ装置34のグリッパーにて1対のガイドレール24又は25をグリップした状態で、各移動装置10を押動することで、船体後部Sbを第2建造ステージ30へ移送する。
【0033】
図1,図8〜図10に示すように、第2建造ステージ30は、第1建造ステージ20の前方への延長線上に配置され、船体後部Sb以外の船体主要部Saを建造すると共に船体後部Sbと船体主要部Saとを結合(合体)した船体Sを建造するようになっている。建造中の船体主要部Saや船体Sや船体モジュールSmは、図7に示す支持ブロック26と同様の複数の支持ブロック(図示略)で支持される。
船体後部Sbは、第2搬送路13に配置した4つの移動装置10に載せて第1建造ステージ20から第2建造ステージ30まで移送され、第2建造ステージ30において、複数の支持ブロック上に支持される。その移送後、4つの移動装置10は第1建造ステージ20に戻される。
【0034】
第2建造ステージ30においてほぼ完成した船体Sを第2建造ステージ30から第1搬送路4へ船幅方向へ横移動させる為の左右方向向きの8つの第3搬送路14a〜14hが設けられ、これら第3搬送路14a〜14hは第1搬送路4と交差している。尚、この交差部において、ガイドレール8,9,32は分断されている。
第3搬送路14a〜14hは、移動装置10を移動させる為の鋼板製の搬送路面33を夫々備えており、各搬送路面33には、搬送路面7に立設されたガイドレール8,9と同様の1対のガイドレール32が設けられている。
【0035】
第2建造ステージ30に移送された船体後部Sbの前部に対応するエリアとその右方のエリアには、2つの第3搬送路14g,14 hが配置されている。第1建造ステージ20から延びた搬送路面23の前端部が第3搬送路14hに達している。2つの第3搬送路14c,14eの右方への延長上には、第3建造ステージ40で建造した船体モジュールSmを第2建造ステージ30へ搬送する第4搬送路15a,15bが設けられている。尚、2つの第3搬送路14c,14eは第4搬送路の一部として兼用されている。
【0036】
第3搬送路14a〜14 hの各々には、船体Sを第2建造ステージ30から第1搬送路4へ移動させるため、2つの移動装置10がその長手方向を前後方向に向けて設置される。これら2つの移動装置10の間隔は、第1搬送路4の1対の搬送路面7の間隔と等しく設定され、船体Sを第2建造ステージ30から第1搬送路4へ移動後、引き続いて第1搬送路4に沿ってバージ50まで移動させるようになっている。尚、第3搬送路14c,14eの移動装置としては、船体モジュールSmの移送に用いる2つの移動装置10が共用される。第3搬送路14a〜14 hの各々において、右側の移動装置10の左側近傍位置には、船体Sを移動させる推進力を発生させる移動用ジャッキ装置34が配置される。
【0037】
船体Sを第2建造ステージ30から第1搬送路4まで船幅方向へ移動させるとき、各移動装置10は、その本体部10fのエアシリンダを伸長状態にして支持台10aを上昇させて船体Sを支持台10a上に支持し、エア噴出パッド10gから搬送路面33に対して加圧エアを噴出する。一方、各移動用ジャッキ装置34のグリッパーにより第3搬送路14a〜14hの1対のガイドレール32をグリップした状態で、移動装置10を右方へ押動し、移動装置10と船体Sを第1搬送路4の方へ移送する。
【0038】
図8に示すように、第3建造ステージ40は、船体主要部Saの一部である船体モジュールSmを建造するステージである。第3建造ステージ40は、第1搬送路4を挟んで第2建造ステージ30と反対側に配置されている。船体モジュールSmを第2建造ステージ30へ移動させる際には、第4搬送路15a,15bに夫々2つの移動装置10と、移動用ジャッキ装置34をセットし、船体Sを第1搬送路4へ移動させるのと同様に行う。
尚、第3建造ステージ40には、第1建造ステージ20と同様に、自走式のクローラクレーンと、種々の艤装部品を運搬可能な運搬車などが配置されている。
【0039】
図8,図10に示すように、第4搬送路15a,15bは、鋼板製の搬送路面43を夫々備えており、搬送路面43には移動装置10を第2建造ステージ30まで移送する際に移動装置10をガイドする1対のガイドレール42が立設されている。
【0040】
以上により、第3建造ステージ40で建造した船体モジュールSmを第2建造ステージ30へ移送し、第2建造ステージ30において船体モジュールSmを含む船体主要部Saを建造後、第1建造ステージ20で建造された船体後部Sbを第2建造ステージ30へ移送し、船体後部Sbと船体主要部Saを結合して船体Sを建造する。その後、第2建造ステージ30においてほぼ完成した船体Sを、複数の移動装置10と複数の移動用ジャッキ装置34により第1搬送路4に移送する。
【0041】
その後、1対の搬送路7に沿って移動する複数の移動用ジャッキ装置34と複数の移動装置10により、船体Sを第1搬送路4に沿ってバージ50まで移動させる。尚、上記の移動用ジャッキ装置34は、1対のガイドレール8,9,24,25,32をグリップ可能に構成され、船体Sを第2建造ステージ30から第1搬送路4に移送する前に、予め図8に鎖線で図示の位置にセットされる。船体Sを第1搬送路4に移送してから、船体Sを複数の移動装置10で支持した状態で、ガイドレール8,9により移動装置10をガイドしながら、複数の移動用ジャッキ装置34の推進力によりバージ50まで移送する。
【0042】
図1,図11に示すように、海上のバージ50は、前後方向に細長い長方形状のもので、岸壁2に設けたバージ接岸部3に長手方向を前後方向に向けて接岸され、複数のワイヤロープ51により岸壁2に固定されている。バージ50は、バージ本体50aと、バージ本体50a内に形成された複数のバラストタンク52と、エンジンルームに設置されたエンジン及びポンプやバルブ類と、注排水用配管類を有し、複数のバラストタンク52内のバラスト水の量を調節することで、浮上状態と沈降状態とに切換え可能である。
【0043】
バージ50は、甲板近傍部に形成された格子梁53と、格子梁53の上面に形成された鋼板製の甲板54と、バージ50の長さ方向に直線状に配設された1対のガイドレール55と、バージ50の長さ方向に直線状に配設されガイドレール55に平行な1対のガイドレール56と、ガイドレール55,56に比べて上方に突設された船体Sを支持する載置台57と、第1搬送路4から移送されてくる船体Sを支持する多数の支持ブロックなどを備えている。
【0044】
1対のガイドレール55は、甲板54の上面に岸壁2側端部から反対側に亙って延びている。1対のガイドレール55の岸壁2側端部は、バージ接岸部3の先端部まで延びている1対のガイドレール8と連結可能に構成されている。同様に、1対のガイドレール56は、甲板54の上面に岸壁2側端部から反対側の端部に亙って延びている。ガイドレール56の岸壁2側端部は、バージ接岸部3の先端部まで延びている1対のガイドレール9と連結可能に構成されている。
【0045】
以上により、船体Sは第2建造ステージ30から第1搬送路4へ移送され、第1搬送路4に沿ってパージ50へ移送する。このとき、船体Sを支持した複数の移動装置10は、ガイドレール8,9によってバージ接岸部3の先端部まで直線的にガイドされ、バージ接岸部3の先端部においてガイドレール8,9に連結されたガイドレール55,56によってガイドされて甲板54に乗り移ることができる。それ故、船体Sを、船長方向へバージ接岸部3の先端部まで直線的に移送し、複数の移動装置10の移動によってバージ50上に移送することができる。
【0046】
複数の移動装置10をバージ50上に移送するとき、船体Sは船長方向の前方へ船首部分から移送されるため、船体Sを船幅方向に横移動させる場合と比べてバージ50に作用する単位移動距離当たりの移載荷重を小さくすることができる。それ故、船体Sのバージ50への移載を、バージ50に作用する単位移動距離当たりのピッチングモーメントを小さく維持したまま、時間をかけて容易に安定的に、安全に行うことができる。
【0047】
移動装置10によって船体Sがバージ50上に移載されたとき、複数の移動装置10への加圧エアの供給を停止し、それら移動装置10のエアシリンダを収縮させて支持台10aを下降させ、船体Sを複数の支持ブロックと載置台57に支持させる。その後、移動装置10と移動用ジャッキ装置35は役目を終えたので、ガイドレール55,56に沿って陸上へ移送し、その後ガイドレール8,9に沿って移送する。
【0048】
次に、船体Sの建造方法は既述したとおりであるが、建造方法について図12に基づいて補足説明する。尚、Si(i=1,2…)は、各建造工程を示す。
始めに、S1の船体後部建造工程では、第1建造ステージ20において船体後部Sbを建造する。S2の船体主要部建造工程では、第2建造ステージ30において船体主要部Saを建造する。第2建造ステージ30では、第3建造ステージ40から移送された船体モジュールSmと、第2建造ステージ30において予め建造された船体主要部Saの一部とを結合して船体主要部Saを建造する。ここで、S1とS2が分割建造工程(第1工程)に相当する。
【0049】
S3の移動工程では、第1建造ステージ20において建造された船体後部Sbを、第1建造ステージ20から第2搬送路13によって第2建造ステージ30まで直線的に移送し、第2建造ステージ30にある船体主要部Saの後端部に当接させる。このとき、4つの移動装置10と2つの移動用ジャッキ装置34によって第2建造ステージ30まで移送する。次に、S4の結合・建造工程(第2工程)では、第2建造ステージ30において、第1建造ステージ20で建造された船体後部Sbと、船体モジュールSmを含む船体主要部Saを溶接により結合し、この結合に付随する建造作業を行って船体Sとする。
【0050】
次にS5の横移動工程においては、第2建造ステージ30においてほぼ完成した船体Sを、第1搬送路4と直交状に配置された第3搬送路14a〜14hを移動可能な複数の移動装置10と複数の移動用ジャッキ装置34により第1搬送路4まで移送する。第2建造ステージ30において、第2建造ステージ30において建造された船体Sは船長方向が第1搬送路4と平行であり、この船体Sを船幅方向に移送して第1搬送路4へ移送するため、第1搬送路4上において船体Sの船長方向は第1搬送路4の搬送方向と一致している。
【0051】
S6の縦移動工程(第3工程)において、第1搬送路4まで移送された船体Sを、複数の移動装置10と複数の移動用ジャッキ装置34によって第1搬送路4に沿って船長方向(前方)へ直線的に移送し、第1搬送路4の終端となるバージ接岸部3に接岸したバージ50上へ移載する。このとき、船体Sをその船長方向へ直線的に移送するため、バージ50上への移載時、バージ50に作用する単位移動距離当たりの移載荷重を小さくすることができ、バージ50に作用するピッチングモーメントを小さく維持した状態で、時間をかけて安定的に安全に移載することができる。
【0052】
S7の進水工程において、船体Sを載せたバージ50を、タグボートによって進水可能な所定の進水位置まで牽引してから停止する(図13参照)。この進水位置において、バラストタンク52内に海水を注入してバージ50を沈降させる。すると、図14に示すように、バージ50から船体Sの底部が離隔して船体Sが自己浮上し、こうして船体Sを進水させることができる。その後、沈降したバージ50を再浮上させ、タグボートにより曳航する。
【0053】
次に、本船体建造工場の作用、効果について説明する。
陸上の水平な建造ヤード1で船体Sの建造を行い且つバージ50上へ移載してバージ50を介して船体Sを進水させることができるため、船台や建造ドックを用いることなく建造できるから設備費の面で有利である。
【0054】
エンジンルーム等を含む船体後部Sbと、この船体後部Sb以外の船体主要部Saを直線状に並べて分割建造し、その後船体後部Sbを船体主要部Saの方へ直線的に移動させてそれらを合体するため、船体主要部Saに比べて長い建造期間を要する船体後部Sbを2つのステージ(場所)で建造することで船体主要部Saに合わせて(遅れないように、同期的に)船体後部Sbを建造できるから、船体Sの建造期間を短縮することができる。 第1搬送路4の片側に第1建造ステージと第2建造ステージとを設けるため、第1搬送路4を別の船体の移送や、自走式のクレーンの走行路などに兼用することができるため、設備費を節減することができる。
【0055】
船体Sは建造ヤード1に設けた第1搬送路4に沿って船長方向へ直線的に移動させてバージ50上へ移載するため、バージ50まで移送距離を短縮化でき、移載時、バージ50に作用する単位移動距離当たりのピッチングモーメントを小さく維持しながら時間をかけて移載できるため、バージ上への移載作業を簡単に安定的に安全に行うことができる。
【0056】
船体後部Sbを第2搬送路13により第2建造ステージ30の方へ直線的に移動させることで、船体後部Sbを船体主要部Saに合体させるので、船体後部Sbの移動を能率的に、無駄なく、低コストで行うことができる。陸上にて船体Sを完成又はほぼ完成させてからバージ50上へ移載するため、船体後部Sbを船体主要部Saに合体する建造作業を陸上で能率的に行うことができる。
【0057】
縦移動工程の前に第2建造ステージ30の船体Sを船幅方向へ移動させて、第1搬送路4上へ移動させる第3搬送路を設けたため、船体Sを建造している間、第1搬送路4を占用することがないので、第2建造エリア6で別途建造された別の船体の移送用に第1搬送路4を使用することができるため、また、第2,第3建造ステージ30,40の建造作業の為の3台の塔型クレーンの走行路面として第1搬送路4を使用するため、第1搬送路4を二重、三重に効率的に活用することができ、設備費の節減を図ることができる。
【0058】
第1搬送路4を挟んで第2建造ステージ30と反対側に船体主要部Saの一部である船体モジュールSmを建造する第3建造ステージ40を設け、この第3建造ステージ30から第2建造ステージ30まで船体モジュールSmを移動させる為の第4搬送路15a,15bを設けたため、第2建造ステージ30に極力近い位置に第3建造ステージ40を設けることができ、船体モジュールSmを第2建造ステージ30に搬送する第4搬送路15a,15bを短くし、第4搬送路15a,15bの為の設備費を節減することができる。
【0059】
第1建造ステージ20と第2建造ステージ30と第2,第3搬送路13,14a〜14hが、第1搬送路4の片側に2組設けられ、第1搬送路4が2組の船体建造設備に亙って直線的に配設されたので、2組の船体建造設備で建造される船体の移動に活用することができ、第1搬送路4を複数のクレーン11の走行路にも活用するため、設備費の面で有利である。
【0060】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1]前記実施例における第2建造エリア6は省略してもよく、また、第2建造エリア6の他に、第3の建造エリアを後方に並べて配置してもよい。
【0061】
2]第1搬送路4の片側に第1建造エリア5の第1,第2建造ステージ20,30と第2建造エリア6の第3建造ステージ40を配置し、第1搬送路4の他側に第1建造エリア5の第3建造ステージ40と第2建造エリア6の第1,第2建造ステージ20,30を配置してもよい。
【0062】
3]前記第3建造ステージ40を省略し、第1搬送路4の片側に第1,第2建造ステージ20,30を設けた建造エリアとすることも可能である。
4]前記実施例の移動装置10は一例を示すものであり、移動用ジャッキ装置も一例を示すものであるので、これらに限定されるものではない。
【0063】
5]その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能で、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、建造ドックを用いることなく陸上の建造ヤードにおいて船体後部と船体主要部とを直線上に並べてを分割建造し、船体後部を直線的に移動させて船体主要部に合体してから、その船体を船長方向に移動させてバージ上へ移載して進水させる種々の船体建造工場に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
F 船体建造工場
S,SA 船体
Sa 船体主要部
Sb 船体後部
Sm 船体モジュール
1 建造ヤード
4 第1搬送路
5 第1建造エリア
6 第2建造エリア
10 移動装置
13 第2搬送路
14a〜14h 第3搬送路
15a,15b 第4搬送路
20 船体後部建造ステージ
30 船体建造ステージ
40 モジュール建造ステージ
50 バージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸上において船体を建造する為の船体建造工場において、
陸上の水平な建造ヤードと、この建造ヤードの岸壁に設けたバージ接岸部とを有し、
前記建造ヤードは、
前記船体を船長方向へ移動させる為に前記バージ接岸部まで直線的に配設された第1搬送路と、
この第1搬送路の片側に第1搬送路と平行に配置された、エンジンルームを含む船体後部を建造する船体後部建造ステージと、
前記第1搬送路の前記片側に、前記船体後部建造ステージの前方への延長線上に配置され、前記船体後部以外の船体主要部を建造すると共に船体後部と船体主要部とを合体した船体を建造する船体建造ステージとを備えたことを特徴とする船体建造工場。
【請求項2】
前記船体後部建造ステージから船体後部を船体建造ステージまで移動させる為の第2搬送路を設けたことを特徴とする請求項1に記載の船体建造工場。
【請求項3】
前記船体建造ステージから前記第1搬送路まで船体を船幅方向へ移動させる為の第3搬送路を設けたことを特徴とする請求項2に記載の船体建造工場。
【請求項4】
前記第1搬送路を挟んで前記船体建造ステージと反対側に、船体主要部の一部である船体モジュールを建造するモジュール建造ステージを設け、
このモジュール建造ステージから船体建造ステージまで船体モジュールを移動させる為の第4搬送路を設けたことを特徴とする請求項2に記載の船体建造工場。
【請求項5】
前記船体後部建造ステージと船体建造ステージと第2搬送路と第3搬送路とが、第1搬送路の片側又は両側に2組設けられ、前記第1搬送路が前記2組の船体建造設備に亙って直線的に配設されたことを特徴とする請求項2〜4の何れか1つに記載の船体建造工場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−56973(P2011−56973A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205559(P2009−205559)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(509251394)辻産業重機(江蘇)有限公司 (2)