船外機の制御装置、方法及びプログラム
【課題】トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する構成とする共に、そのトリム操作により操船者に違和感を与えない制御装置を提供する。
【解決手段】トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御装置52を備え、制御装置52は、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定する。所定の閾値は、船体速度又はエンジン回転数に対応付けて管理されている。
【解決手段】トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御装置52を備え、制御装置52は、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定する。所定の閾値は、船体速度又はエンジン回転数に対応付けて管理されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力手段を用いて船外機をトリム操作する船外機の制御装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船体に取り付けられた船外機では、傾斜角を変更するチルト及びトリム操作が可能になっている。そして、このトリム及びトリム操作をパワートリム&チルト装置により油圧制御することも行われている。チルト操作とは、停船中や船体の陸揚げ時等に船外機を水面上に上昇させるものである。また、トリム操作とは、船外機の角度、即ちトリム角を調整するものである。船舶に搭載される船外機のトリム角を適切に調整することで、船体の姿勢角が変化して船体抵抗が低減し、結果として、同一のエンジン出力においても船体速度が増加し、燃費が向上することが知られている。
【0003】
従来、燃費の向上のためには、航走時の姿勢角、乗員や積載物の重量や位置等の航走状態に応じて、操船者が、メータ類を確認しながら最適トリム角に調整する必要がある。しかしながら、波、風、潮流等の自然現象が時々刻々と変化する状況で、エンジン回転数や姿勢角の微妙な変化を感じ取ってトリム操作を行うことは、操船者に大きな負荷を強いることになる。そのため、熟練者でも煩わしさからトリム操作を頻繁に行うことは少ないのが実情である。また、初心者に至っては、トリム角を調整するといった知識や経験に乏しいため、トリム操作を行うことなく、燃費の悪い状態のまま航走することがほとんどである。
【0004】
上記のような点に鑑みて、例えば特許文献1には、感知手段により感知されるエンジン回転数あるいは船速の航走状態量の変化に基づいて、推進ユニットをアップさせるアップ信号又はダウンさせるダウン信号を制御する船舶推進機の自動トリム角調整装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−79920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にあるようにフィードバック制御を行って最適トリム角を演算し、フィードバック制御値を決定するシステムでは、風、波、潮流等の外乱によって航走状態量の計測誤差が生じるため、フィードバック制御値の決定に時間を要する。しかも、常にフィードバック制御を続けることにより、電気エネルギを消費してしまい、燃費の面でも不利となる。
【0007】
また、特許文献1では、最大速度を与える状態に自動制御することを目標としているが、最大速度だけを指標としてフィードバック制御するシステムでは、操舵安定性が低下するおそれもある。
【0008】
さらに、トリム操作を自動制御する場合、自動的に船外機のトリム角が調整されることにより船体速度が変化するため、その速度変化が大きいと、操船者に違和感を与えることもある。例えばトリム角が最小で、且つスロットル開度を一定にして航走しているときに、目標のトリム角に向かってパワートリム&チルト装置の最大速度で自動駆動すると、操船者がスロットルを開く操作を行っていないにも関わらず、継続して船体速度が上昇することになり、違和感を感じることになる。また、操船者が手動操作していないのに、即ち操船者の意思とは関係なく自動的にトリム角が調整されて船外機が上下動することに違和感を感じることもある。
【0009】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する構成とする共に、そのトリム操作により操船者に違和感を与えないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の船外機の制御装置は、動力手段を用いて船外機をトリム操作する船外機の制御装置であって、トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御手段を備え、前記制御手段は、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とする。
また、本発明の船外機の制御装置の他の特徴とするところは、前記所定の閾値は、船体速度又はエンジン回転数に対応付けて管理されている点にある。
また、本発明の船外機の制御装置の他の特徴とするところは、前記制御手段は、操船者の減速意思が検出された場合、及び減速意思がなくなったことが検出されてから既定時間だけ経過していない場合、トリムアップしない点にある。
また、本発明の船外機の制御装置の他の特徴とするところは、前記制御手段は、自動トリムモード時に滑走状態となっているか否かを判定し、滑走状態となっていなければ、トリムアップしない点にある。
本発明の船外機の制御方法は、動力手段を用いて船外機をトリム操作する船外機の制御装置が実行する船外機の制御方法であって、トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御手順を有し、前記制御手順では、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とする。
本発明のプログラムは、動力手段を用いて船外機をトリム操作するコンピュータに実行させるためのプログラムであって、トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御処理をコンピュータに実行させ、前記制御処理では、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する構成にしたので、フィードバック制御を行って最適トリム角を演算し、フィードバック制御値を決定するシステムに比べて、トリム角の調整に時間がかかったり、電気エネルギの消費により燃費の面で不利となったりするのを避けることができる。そして、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定するので、操船者に違和感を与えないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用可能な船舶を斜め後方から眺めた斜視図である。
【図2】本発明を適用可能な船外機の左側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るPTT装置の回路図である。
【図4】ブラケット装置の拡大側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る制御装置の構成を示すシステム図である。
【図6】学習モード時における制御装置内の演算部の処理動作を示すフローチャートである。
【図7】図6の学習開始条件成立の可否を判定する処理を示すフローチャートである。
【図8】図6の学習継続条件成立の可否を判定する処理を示すフローチャートである。
【図9】学習モード時における学習モード選択スイッチ及びPTTスイッチ(UP、DN)の状態、エンジン回転数、船体速度、トリム角、スロットル開度を示すタイムチャートである。
【図10】トリム角と、燃費向上率、エンジン回転数及び船体速度との関係の例を示す特性図である。
【図11】最適トリム角のマップを示す図である。
【図12】トリム角と、航走時の船体の姿勢角との一例を示す図である
【図13】時間と、トリム角、エンジン回転数及び船体速度との関係の例を示す特性図である。
【図14】時間と、ハンドル保持力、エンジン回転数、トリム角、トリム駆動速度、船体加速度及びエンジン回転数の変化率との関係の例を示す特性図である。
【図15】自動トリムモード時における制御装置内の演算部の処理動作を示すフローチャートである。
【図16】図15の船体加速度を検出し、それに基づいてトリムアップのトリム駆動速度を変更する処理を示すフローチャートである。
【図17】時間と、スロットル開度、吸気圧及びエンジン回転数との関係の例を示す特性図である。
【図18】自動トリムモード時における制御装置内の演算部の処理動作を示すフローチャートである。
【図19】自動トリムモード時における自動トリムモード選択スイッチ及びPTTスイッチ(UP、DN)の状態、エンジン回転数、船体速度、トリム角、スロットル開度を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用可能な船舶を斜め後方から眺めた斜視図である。また、図2は、本発明を適用可能な船外機の左側面図である。図1及び図2に示すように、船舶1の船体2の後部に位置するトランサム2aに船外機3がブラケット装置4を介して取り付けられる。
【0014】
船体2の略中央部は操舵室5であり、操舵席6が設置されると共に、操舵席6の前方には計器パネル7が配置される。計器パネル7にはタコメータ8等の計器類、不図示のモニタ、警告用のブザー9等が設けられると共に、操舵ハンドル10も設けられる。また、操舵席6の側方には例えばスロットルレバー11及びシフトレバー12を備えたリモコンボックス13が配置される。
【0015】
図2に示すように、船外機3はエンジンホルダ14を備え、このエンジンホルダ14の上方にエンジン15が設置される。また、エンジンホルダ14の下方にはオイルパン16が配置されると共に、この船外機3のエンジン15、エンジンホルダ14及びオイルパン16の周囲はエンジンカバー17よって覆われる。エンジン15は、例えばシリンダヘッド29、シリンダブロック30及びクランクケース31等を組み合わせて構成された水冷4サイクル四気筒エンジンであり、クランクシャフト18を略垂直に配置したバーティカル(縦)型のエンジンである。
【0016】
オイルパン16の下部にはドライブシャフトハウジング19が設置される。エンジンホルダ14、オイルパン16及びドライブシャフトハウジング19内にはドライブシャフト20が略垂直に配置され、その上端部がクランクシャフト18の下端部に連結される。ドライブシャフト20はドライブシャフトハウジング19内を下方に向かって延び、ドライブシャフトハウジング19の下部に設けられたギヤケース21内のベベルギヤ22及びプロペラシャフト23を介してプロペラ24を駆動するように構成される。
【0017】
ギヤケース21内には遠隔操作によってプロペラシャフト23の回転方向を正・逆(フォワード・リバース)又は中立状態(ニュートラル)に切り換えるシフト装置25が設けられる。このシフト装置25からはシフトロッド26が上方に向かって延び、リンク27を介して操作ロッド28(又はケーブル)によって上記リモコンボックス13のシフトレバー12に連結される。
【0018】
エンジン15の最前部、図2においては最も左側に配置されるクランクケース31の後方(右側)にはシリンダブロック30が配置される。また、シリンダブロック30の後方にはシリンダヘッド29が配置される。
【0019】
ブラケット装置4は主にスイベルブラケット32及びトランサムブラケット33から構成され、スイベルブラケット32は船外機3に、トランサムブラケット33は船体2のトランサム2aにそれぞれ固定される。
【0020】
スイベルブラケット32は左右一対のトランサムブラケット33間に架設されたチルト軸34を介して上下方向に傾動可能に軸支され、このスイベルブラケット32内にパイロットシャフト35が鉛直方向に、且つ回動自在に軸支される。また、このパイロットシャフト35の上下端にアッパーマウントブラケット36及びロアーマウントブラケット37がそれぞれ回動一体に設けられる。そして、アッパーマウントブラケット36にはステアリングブラケット38が設けられ、図示しないケーブル等によって操舵ハンドル10に連結される。
【0021】
一方、エンジンホルダ14の前部には左右一対のアッパーマウントユニット39が設けられ、アッパーマウントブラケット36に連結される。また、ドライブシャフトハウジング19の両側部には一対のロアーマウントユニット40が設けられ、ロアーマウントブラケット37に連結される。そして、以上により船外機3は、操舵ハンドル10の操作によって、ブラケット装置4に対しパイロットシャフト35を中心に左右に操舵可能になると共に、チルト軸34を中心に上下向方にチルト及びトリム操作が可能になる。
【0022】
ここで、チルト操作とは、停船中や船体2の陸揚げ時等に船外機3を水面上に上昇させるものである。また、トリム操作とは、船外機3の角度、即ちトリム角を調整するものである。図12(a)、(b)は、トリム角と、航走時の船体2の姿勢角との一例を示す図である。図12(a)は、トリム角が0°の状態、換言すれば船外機3がブラケット装置4のストッパに当接して船体2に最も近接した状態である。このとき、図示例では、水平面に対するプロペラシャフト23の軸方向の角度は−6°、水平面に対する船体2の角度は0°となる。そして、図12(b)は、トリムアップしてトリム角が11°の状態である。このとき、図示例では、水平面に対するプロペラシャフト23の軸方向の角度は2.5°、水平面に対する船体2の角度は2.5°となる。このようなトリム及びチルト操作はパワートリム&チルト装置41(以下、PTT装置と略す)により油圧制御される。
【0023】
図3は、本発明の実施形態に係るPTT装置41の回路図、図4は、ブラケット装置4の拡大側面図である。また、図5は、本発明の実施形態に係るPTT装置41を含む船外機3全体の制御装置52の構成を示すシステム図である。図3に示すように、リモコンボックス13や船外機3に設けられたPTTスイッチ46、47のUP側とDN(DOWN)側とはそれぞれPTTリレー53(UP及びDN)に結線され、船外機3を上下に傾動させる図示しない動力手段である油圧装置の動力源となるPTTモータ54を駆動する。なお、リモコンボックス13側のPTTスイッチ46はPTTモータ54とこのモータ54の動力源であるバッテリ55(制御装置52の電源も兼ねる)との間に配置される。
【0024】
船体2と船外機3との相対位置、一般的には相対角度、即ち船外機3のトリム角(及びチルト角)を検出する傾斜角検出器48が例えばブラケット装置4に設けられる。図4(a)は船外機3がDN(DOWN)状態、図4(b)は船外機3がUP状態をそれぞれ示す。図4(a)、(b)に示すように、傾斜角検出器48は主に例えば固定側であるトランサムブラケット33に設けられた可変抵抗やホール素子等の回動検出素子49と、この回動検出素子49に回動自在に設けられたレバー50と、可動側であるスイベルブラケット32に設けられた凸部51とから構成され、レバー50の自由端部が図示しないスプリング等で凸部51に常時付勢されて当接する。そして、船外機3が例えばトリムアップされることによりスイベルブラケット32がチルト軸34を介して上方向に傾動すると、この傾動に伴って凸部51が移動し、レバー50が回動検出素子49を軸に回動してその回動量、即ち船外機3の傾斜角信号が出力される。なお、この傾斜角検出器48は従来のトリムメータ45(トリム角度表示装置)に信号を出力するトリム角度検出器(図示せず)の信号を併用してもよい。
【0025】
図5に示すように、制御装置52は、入力回路59、CPU、RAM及びROMにより構成される演算部60、メモリ78、出力回路71、点火装置75、電源回路76を備える。制御装置52には、船外機3内外の各機器から各種の情報が入力される。具体的には、船体速度検出器79から、例えばGPS機能により測定した船体速度が入力回路59を経由して制御装置52内の演算部60に入力される。
【0026】
同様に、カム軸信号検出器58から、エンジン15の図示しないカム軸の信号(カム角信号)が演算部60に入力される。また、クランク角信号検出器61(回転数検出器)からエンジン15の回転数信号が、スロットル開度検出器62から図示しないエンジン吸気装置を構成するスロットル開度が、吸気圧力検出器63及び大気圧力検出器64からそれぞれ吸気圧及び大気圧が、吸気温度検出器65、エンジン温度検出器66(冷却水温度検出器)及び排気温度検出器67からそれぞれ吸気の温度、エンジン15の温度(冷却水温度)及び排気通路の温度が演算部60に入力される。また、傾斜角検出器48から船外機3の傾斜角信号が、例えばシフト装置25に設けられるシフト(ニュートラル)スイッチ68からシフト位置信号が演算部60に入力される。さらに、ストップ(エマージェンシーストップ)スイッチ69、後述する学習モード選択スイッチ70及びPTTスイッチ46(47)からの信号も演算部60に入力される。
【0027】
制御装置52に入力された各機器からの情報は演算部60で適宜演算処理され、その演算結果が出力回路71を介して船外機3内外の各機器に出力される。具体的には、演算部60は、PTT装置41を操作してPTTモータ54を駆動する。また、演算部60は、燃料の噴射量情報をインジェクタ72に、吸気空気量の調整信号をアクチュエータ73の図示しないステップモータやソレノイドバルブ等に、エンジン回転数信号や各機器の異常を伝達する信号をモニタ44の警告灯42(LED)やブザー9、タコメータ8等に、燃料の供給量情報をフューエルポンプ74にそれぞれ出力する。さらに、演算部60は、出力回路71から点火装置75(電源回路76が接続される)を介してイグニッションコイル77に点火信号を出力する。
【0028】
(学習モード)
ここで、既述したように、船外機3のトリム角を適切に調整することで、船体2の姿勢角が変化して船体抵抗が低減し、結果として、同一のエンジン出力においても船舶1の船体速度が増加し、燃費が向上することが知られている。一方で、船外機3は、自動車や自動二輪車等のエンジンとは異なり、一般的に、搭載される船舶は既定されておらず、様々の船舶に搭載されうる。船舶の大きさ、重量、船体や船底の形状が多種多様であるため、燃費が向上する最適トリム角を予め定めておくことは困難である。そこで、本実施形態に係る船外機3では、主に燃費を向上させることを目的として、船舶毎に最適トリム角を学習により設定する学習モードを有している。
【0029】
学習モードは、例えば船外機3を船舶1に新たに搭載して試運転するときに実行されるものであり、学習モード選択スイッチ70を操作することにより学習モードに移行することができる。船外機3を船舶1に新たに搭載して試運転するときに、滑走状態(プレーニング)を維持できる速度域でスロットルを固定して、学習モード選択スイッチ70を操作して学習モードに移行する。このとき、トリム角は0°又は0°に近い角度としておく。
【0030】
図6は、学習モード時における制御装置52内の演算部60の処理動作を示すフローチャートである。また、図9は、学習モード時における学習モード選択スイッチ70及びPTTスイッチ(UP、DN)46又は47の状態、エンジン回転数、船体速度、トリム角、スロットル開度を示すタイムチャートである。学習モードに移行した後、操船者は学習開始のための所定の操作、本例ではPTTスイッチ(UP)46又は47の2度押しを行う(ステップS1)。2度押しとしたのは、通常のPTT操作であるPTTスイッチ(UP)46又は47の1度押しとは異なる操作にして誤操作をなくすと共に、操船者の意思を確実に反映させるためである。
【0031】
PTTスイッチ(UP)46又は47の2度押しが入力されると、演算部60は、学習開始条件が成立しているかどうかを判定する(ステップS2)。図7に、学習開始条件成立の可否を判定する処理のフローチャートを示す。演算部60は、スロットル開度検出器62で検出されるスロットル開度、クランク角信号検出器61で検出されるエンジン回転数及び傾斜角検出器48で検出されるトリム角がそれぞれ所定の範囲内にあれば(ステップS21、S22、S23)、条件成立として(ステップS24)、本処理を抜ける。それに対して、スロットル開度、エンジン回転数、トリム角のいずれかが所定の範囲から外れていれば(ステップS21、S22、S23)、条件不成立として本処理を抜ける。
【0032】
図6に説明を戻して、ステップS2で学習開始条件が成立している場合、ステップS3に進み、演算部60は、スロットル開度検出器62でスロットル開度を検出する。また、クランク角信号検出器61で検出したエンジン回転数の例えば所定の時間分の移動平均を算出することにより平均エンジン回転数を演算して(ステップS4)、平均エンジン回転数の変化率を演算する(ステップS5)。なお、ステップS2で学習開始条件が成立していない場合、ステップS20に進み、演算部60は、ブザー9を鳴らしたり、モニタに表示したりする等のエラーメッセージ通知を行った後、ステップS1に戻る。
【0033】
ステップS5の後、演算部60は、学習継続条件が成立しているかどうかを判定する(ステップS6)。図8に、学習継続条件成立の可否を判定する処理のフローチャートを示す。演算部60は、スロットル開度検出器62で検出されるスロットル開度の変化率、ステップS5で演算した平均エンジン回転数の変化率がそれぞれ所定の範囲内にあり、操船者によるPTT操作がなければ(ステップS61、S62、S63)、条件成立として(ステップS64)、本処理を抜ける。それに対して、スロットル開度の変化率、エンジン回転数の変化率のいずれかが所定の範囲から外れている、又は操船者によるPTT操作があれば(ステップS61、S62、S63)、条件不成立として本処理を抜ける。スロットル開度の変化率が所定の範囲から外れているときは、操船者がスロットルレバー11を操作してスロットル開度が変化したと考えられるため、最適トリム角の学習を中断する。また、エンジン回転数の変化率が所定の範囲から外れているときは、以下の理由により最適トリム角の学習を中断する。即ち、船体2への負荷、例えば積載物の重量、高さ、位置、角度等によっては、あるトリム角を超えるとプロペラ24が水中で空回りして推力が低下する現象が発生する。この場合、図13の丸で囲んだ箇所に示すように、エンジン回転数が急上昇し、船体速度が低下する。図13は、時間と、トリム角、エンジン回転数及び船体速度との関係の例を示す特性図である。そこで、エンジン回転数の変化率が所定の範囲から外れているときは、このような現象が発生したと考えられるため、最適トリム角の学習を中断する。また、PTT操作があるときは、操船者による操作を優先させるため、最適トリム角の学習を中断する。なお、ステップS6で学習継続条件が成立していない場合、ステップS20に進み、演算部60は、ブザー9を鳴らしたり、モニタに表示したりする等のエラーメッセージ通知を行った後、ステップS1に戻る。また、最適トリム角の学習を中断した場合、そのときのトリム角を所定の角度だけトリムダウンさせる等してもよい。
【0034】
図6に説明を戻して、ステップS6で学習継続条件が成立している場合、ステップS7に進み、演算部60は、現在のトリム角θAが下限値、即ち0°でないかどうかを判定する。ステップS7で現在のトリム角θAが0°でない場合ステップS8に進み、0°である場合ステップS10に進む。
【0035】
トリム角0°の状態で学習を開始した場合、学習開始直後はトリム角が0°であるので、ステップS10に進む。ステップS10で、演算部60は、PTT装置41を用いて予め設定されているトリム角θBだけトリムアップする。そして、演算部60は、現在のトリム角θAが予め設定されている上限値を達したかどうかを判定する(ステップS11)。ステップS11で現在のトリム角θAが上限値に達していない場合ステップS3に戻り、上限値に達した場合ステップS12に進む。
【0036】
ステップS11からステップS3に戻り、ステップS4〜S6を経てステップS7に進むと、現在のトリム角θAは0°でないので、ステップS8に進む。ステップS8では、ステップS5で演算した平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値gを下回ったかどうかを判定する。ステップS8で平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値gを下回っていない場合ステップS10に進み、所定の閾値gを下回った場合ステップS9に進む。
【0037】
ここで、図10を参照して、学習モードで狙う最適トリム角について説明する。図10は、トリム角と、燃費向上率、エンジン回転数及び船体速度との関係の例を示す特性図である。図10に示すように、トリム角を大きくしていくと、燃費向上率、エンジン回転数及び船体速度が増加する。そして、トリム角θ1と達すると、エンジン回転数の変化率が小さくなり、それ以降は上限値で略安定する。また、トリム角θ2(>θ1)に達すると、船体速度がピークとなり、それ以降はエンジン回転数と共に減少傾向となる。このような特性において、船体速度及び燃費向上率の面からいえば、トリム角θ2を最適トリム角とするのが理論上最適である。しかしながら、トリム角θ2では水中翼部の舵の機能が低下し、操舵が不安定となることがある。そこで、トリム角θ2に比べると燃費向上率はやや低くなるが、十分な燃費の向上効果があり、且つ操舵安定性に優れたトリム角θ1を最適トリム角とする。
【0038】
ステップS3〜S8、S10、S11のループを繰り返して、トリム角θBずつ段階的にトリムアップさせた結果、ステップS8で平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回ったということは、図10に示すように、現在のトリム角θAがトリム角θ1を超え、エンジン回転数の変化が安定したと考えられる。そこで、ステップS9に進み、暫定の最適トリム角θCを演算する。ステップS9では、例えば暫定の最適トリム角θCを、
θC=現在のトリム角θA−トリム角θB
として求める。現在のトリム角θAをそのまま暫定の最適トリム角θCとしてもよいが、エンジン回転数の変化が安定した結果として、平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回ることから、その間に時間的な差がある。そこで、現在のトリム角θAからトリム角θBを減算する、即ちステップS10でトリムアップする一回前のトリム角を暫定の最適トリム角θCとしている。
【0039】
なお、ステップS8で平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回ることなく、ステップS11で現在のトリム角θAが上限値に達することもありうる。その場合、ステップS12に進み、暫定の最適トリム角θCを演算する。ステップS12でも、ステップS9と同様、例えば暫定の最適トリム角θCを、
θC=現在のトリム角θA−トリム角θB
として求める。
【0040】
ステップS9又はステップS12で暫定の最適トリム角θCが演算されたならば、演算部60はその暫定の最適トリム角θCをメモリ78に記憶する(ステップS13)。そして、演算部60は、ブザー9を鳴らしたり、モニタに表示したりする等して、今回の学習が終了したことを通知するメッセージ通知を行う(ステップS14)。メッセージ通知を受けた操船者は、学習終了の確認のための所定の操作、本例ではPTTスイッチ(DN)46又は47の2度押しを行う(ステップS15)。
【0041】
本実施形態では、ステップS1〜S15の学習を2回繰り返すようになっている。即ち、ステップS16で、ステップS1〜S15の学習が2回繰り返されたかどうかを判定する。ステップS16で学習が2回繰り返されていない場合、ステップS21に進み、演算部60は、PTT装置41を用いてトリム角を下限値0°にトリムダウンしてから、ステップS1に戻る。
【0042】
ステップS16で学習が2回繰り返されている場合、ステップS17に進み、1回目の暫定の最適トリム角θCと2回目の暫定の最適トリム角θCとが所定の閾値θDを超えて異なるかどうか判定する。ステップS17で所定の閾値θDを超えて異ならない場合、ステップS18に進み、演算部60は最適トリム角θC´をメモリ78に記憶する。最適トリム角θC´は、1回目の暫定の最適トリム角θCと2回目の暫定の最適トリム角θCとの平均値としてもよいし、最後の回(2回目)の暫定の最適トリム角θCとしてもよい。そして、演算部60は、ブザー9を鳴らしたり、モニタに表示したりする等して、最終的に学習が終了したことを通知するメッセージ通知を行う(ステップS19)。
【0043】
一方、ステップS17で所定の閾値θDを超えて異なる場合、風(風速や風向き)、波、潮流等の影響のために、1回目の暫定の最適トリム角θCと2回目の暫定の最適トリム角θCとが大きく異なったものとする。そこで、学習条件が適当でないとし、最適トリム角θC´を求めることなく、ステップS20に進み、演算部60は、ブザー9を鳴らしたり、モニタに表示したりする等のエラーメッセージ通知を行った後、ステップS1に戻る。
【0044】
以上述べた学習を一定のスロットル開度T10で実行させ、スロットル開度T10での最適トリム角θC´(T10)を記憶させる。メモリ78には、例えば図11に示すように、エンジン回転数及びスロットル開度に対応付けられた最適トリム角のマップMAが構築されており、スロットル開度T10と、ステップS4で演算した平均エンジン回転数を含む所定のエンジン回転数域(図11の例ではエンジン回転数R12〜R15)との対応欄に、学習した最適トリム角θC´(T10)を記述する。エンジン回転数が大幅に異ならない限り、最適トリム角は同程度であるので、所定のエンジン回転数域R12〜R15にて、学習した最適トリム角θC´(T10)を利用するようにしている。
【0045】
次に、以上述べた学習を一定のスロットル開度T14(>T10)で実行させ、スロットル開度T14と、ステップS4で演算した平均エンジン回転数を含む所定のエンジン回転数域(図11の例ではエンジン回転数R15〜R18)との対応欄に、学習した最適トリム角θC´(T14)を記述する。同様に、以上述べた学習を一定のスロットル開度T18(>T14)で実行させ、スロットル開度T18と、ステップS4で演算した平均エンジン回転数を含む所定のエンジン回転数域(図11の例ではエンジン回転数R18〜R20)との対応欄に、学習した最適トリム角θC´(T14)を記述する。このように複数のスロットル開度T10、T14、T18で学習を繰り返すことにより、それらの間の欄の最適トリム角(図11に斜線で示す欄の最適トリム角)は、スロットル開度T10、T14、T18での最適トリム角θC´(T10)、θC´(T14)、θC´(T18)を用いた補間演算により求めることができる。
【0046】
なお、学習を行うスロットル開度T10、T14、T18は操船者が任意に指定可能にしてもよいし、演算部60が、学習すべきスロットル開度T10、T14、T18を操船者に通知するようにしてもよい。学習すべきスロットル開度T10、T14、T18を操船者に通知する方式としては、学習すべきスロットル開度をモニタに表示したり、学習すべきスロットル開度近傍でブザー音を鳴らしたりすればよい。
【0047】
本実施形態では、船外機3を船舶1に新たに搭載して試運転するときに学習モードを実行させる例を説明したが、それに限定されるものではない。通常の航走時でも、学習モードを随時実行させてよい。例えば乗員や積載物の重量等が普段と大きく異なる状態で航走するような場合に学習モードを実行させてもよい。航走の最初の段階で学習モードの実行のためにスロットル開度を一定にするという制約が課されるが、学習モードは数分程度で完了するので、それ以降の航走では、操舵の安定性を確保しつつ、燃費を向上させた航走が可能になる。
【0048】
また、船外機3のメーカ側で、ボートメーカの各種モデルに対する最適トリム角を既定したマップMAを制御装置52に予め保持させておくようにしてもよい。船外機3を船舶1に搭載する際に、当該船体2の製造メータ、モデル名を制御装置52に入力することで、船体2に適したマップMAを呼び出して利用することができる。また、制御装置52に通信機能を持たせ、船体2の製造メータ、モデル名に応じたマップMAを外部から取得するような形態としてもよい。
【0049】
また、例えば図6のステップS8では、所定の条件に合致するかどうかとして、ステップS5で演算した平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回ったかどうかを判定するようにしたが、船体速度検出器79で検出される船体速度がピークとなったかどうか、即ち図10に示すトリム角θ2に達したかどうかを判定するようにしてもよい。この場合、図10の説明で述べたように、トリム角θ2では水中翼部の舵の機能が低下し、操舵が不安定となることがあるので、ステップS9では、現在のトリム角θA(即ち、トリム角θ2)から所定のトリム角を減算し、トリム角θ2の手前のトリム角を暫定の最適トリム角θCとする。
【0050】
(自動トリムモード)
次に、上述した学習モードによりマップMAに記述された最適トリム角θC´に基づいてトリム操作を自動制御する自動トリムモードについて説明する。自動トリムモード時には、制御装置52は、スロットル開度検出器62で検出されるスロットル開度、クランク角信号検出器61で検出されるエンジン回転数に基づいて、マップMAから最適トリム角θC´を読み出して、その最適トリム角θC´になるようにPTT装置41を自動制御する。これにより、エンジン回転数や姿勢の微妙な変化を感じ取ってトリム操作を行うといった負荷を操船者に強いることなく、また、初心者であっても、操舵の安定性を確保しつつ、燃費を向上させた航走が可能になる。
【0051】
ここで、既述したように、自動的に船外機3のトリム角が調整されることにより船体速度が変化する際、特に自動的にトリムアップして船体速度が増加する際に、船体加速度が大きいと、操船者に違和感を与えることもある。図14に、同量だけトリムアップするときにトリム駆動速度を遅くした場合(図14(a))及び速くした場合(図14(b))での、時間と、ハンドル保持力、エンジン回転数、トリム角、トリム駆動速度、船体加速度及びエンジン回転数の変化率との関係の例を示す。図14(b)に示すように、トリム駆動速度が速いと、船体加速度が急峻となると共に、ハンドル保持力が大きくなるため、操船者に違和感を与えるおそれがある。そこで、本実施形態に係る船外機3では、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定するようにしている。
【0052】
図15は、自動トリムモード時における制御装置52内の演算部60の処理動作を示すフローチャートである。不図示の自動トリムモード選択スイッチにより自動トリムモードに移行すると、演算部60は、自動駆動条件が成立しているかどうかを判定する(ステップS101)。ここでは、滑走状態(プレーニング)となっているか否かを判定し、プレーニングとなっていれば自動駆動条件が成立していると判定する。具体的には、図7と同様に、演算部60は、スロットル開度検出器62で検出されるスロットル開度、クランク角信号検出器61で検出されるエンジン回転数及び傾斜角検出器48で検出されるトリム角がそれぞれ所定の範囲内にあれば、条件成立とする。
【0053】
自動駆動条件が成立している場合、操船者によるPTT操作の有無を判定する(ステップS102、S103)。ステップS102、S103で操船者によるPTT操作がある場合、操船者による操作を優先させ、PTT操作に従ってトリムアップ又はトリムダウンを行う(ステップS104、S105)。
【0054】
ステップS102、S103で操船者によるPTT操作がない場合、ステップS106に進み、操船者の減速意思が検出されたか、及び減速意思があった場合それがなくなったことが検出されてから既定時間だけ経過しているか否かを判定する(以下、「減速検出」と称する)。ステップS106で減速検出がない場合、即ち操船者の減速意思が検出されず、且つ減速意思がなくなったことが検出されてから既定時間だけ経過している場合ステップS107に進み、そうでない場合ステップS101に戻る。
【0055】
ステップS107で、演算部60は、メモリ78のマップMBからトリムアップのトリム駆動速度を読み出して、そのトリム駆動速度でPTT装置41を用いてトリムアップする。マップMBには、船体速度とトリムアップのトリム駆動速度とが対応付けられている。例えば船体速度の低速領域ではトリム駆動速度が高く、船体速度の高速領域ではトリム駆動速度が低く設定されている。さらに、マップMBには、船体速度に、次のステップS108で用いる船体加速度の閾値が対応付けられている。同等の船体加速度でも、そのときの船体速度によって操船者に与える違和感は異なり、高速航走時には操船者に違和感を与えやすい。そこで、船体速度毎に、トリム駆動速度を決定するための船体加速度の閾値が設定されている。
【0056】
ステップS108で、演算部60は、船体加速度を検出し、それに基づいてトリムアップのトリム駆動速度を変更する。図16に、船体加速度を検出し、それに基づいてトリムアップのトリム駆動速度を変更する処理のフローチャートを示す。演算部60は、船体速度検出器79で検出される船体速度から船体加速度を検出し(ステップS1801)、その船体加速度がマップMBに既述されている現在の船体速度に対応する船体加速度の閾値を下回っているか否かを判定する(ステップS1802)。その結果、ステップS1801で検出した船体加速度が閾値を下回っている場合ステップS109に進み、閾値を超えている場合ステップS1803に進む。ステップS1803で、演算部60は、マップMBに記述されている現在の船体速度に対応するトリム駆動速度を、船体加速度が低くなるように書き換えた後、ステップS109に進む。
【0057】
図15に説明を戻して、ステップS109で、演算部60は、傾斜角検出器48で検出されるトリム角がマップMAから読み出した最適トリム角θC´に達した否かを判定する。その結果、最適トリム角θC´に達している場合本処理を抜け、達していない場合ステップS101に戻る。
【0058】
なお、本実施形態では、GPS機能等により測定した船体速度が制御装置52に入力されることを前提に説明したが、船体速度が入力されない場合は、プレーニング状態では船体速度と略同じ挙動となるエンジン回転数を利用してもよい。この場合、マップMBには、エンジン回転数とトリムアップのトリム駆動速度とが対応付けられているとともに、エンジン回転数にエンジン回転数の変化率の閾値が対応付けられている。そして、図16のフローチャートにおいて、演算部60は、エンジン回転数の変化率を検出し(ステップS1801)、その変化率がマップMBに既述されている現在のエンジン回転数に対応する変化率の閾値を下回っているか否かを判定する(ステップS1802)。その結果、ステップS1801で検出したエンジン回転数の変化率が閾値を下回っている場合ステップS109に進み、閾値を超えている場合ステップS1803に進む。ステップS1803で、演算部60は、マップMBに記述されている現在のエンジン回転数に対応するトリム駆動速度を、エンジン回転数の変化率が低くなるように書き換えた後、ステップS109に進む。
【0059】
また、ステップS106で減速検出がある場合、即ち操船者の減速意思が検出された場合、及び減速意思がなくなったことが検出されてから既定時間だけ経過していない場合、トリムアップしないでステップS101に戻るが、その理由は以下の通りである。自動トリムモード時にはスロットル開度が所定の範囲から外れないようにすることが求められるが(図7のステップS21を参照)、略一定の船体速度となるようにスロットルを開閉調整する場合がある。このとき、特に減速操作であるスロットルを閉じる操作を行っている最中や、閉じる操作をやめた直後に、トリムアップにより船体速度が増加すると、操船者に違和感を与えることになる。そこで、減速検出がある場合、トリムアップを停止する。図17の区間t1、t2ではスロットル開度を微調整しているが、スロットルを閉じる操作が検出されなくなってから既定時間経過するまでトリムアップを停止している。そして、操船者がスロットル開度を一定又は開いているときにはトリムアップして、最適トリム角θC´に達した時点でトリムアップを停止する(図17のタイミングt3)。なお、減速検出をスロットル開度で判定する例を述べたが、図17の区間t1、t2に示すように、スロットル開度の変化に応じて吸気圧やエンジン回転数も同様に変化するので、スロットル開度以外の減速検出でもかまわない。
【0060】
また、船舶ではブレーキ機構はなく、操船者は所望の船体速度以上のときはスロットルを閉じる操作を行う。この場合も、トリムアップにより船体速度が高くなると操船者に違和感を与えることになるので、スロットルを閉じる操作が検出されなくなってから既定時間経過するまでトリムアップを停止する。
【0061】
以上のようにして制御装置52は、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定する。これにより、エンジン回転数や姿勢の微妙な変化を感じ取ってトリム操作を行うといった負荷を操船者に強いることなく、また、初心者であっても、操舵の安定性を確保しつつ、操船者に違和感を与えることなく、燃費を向上させた航走が可能になる。なお、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することにより、場合によってはトリム駆動速度を落とすことにもなるが、自動車や自動二輪車等と比較して、船舶の場合は略一定の船体速度で連続運転する頻度が高く、最適トリム角θC´に達するまでにある程度の時間(数秒〜数十秒程度)要しても、その後の連続運転時間と比較するとわずかな時間である。
【0062】
また、同量のトリムアップでも、船体形状、乗員や積載物の重量等によって船体加速度は異なるが、上述したようにマップMBそのものを書き換えるようにしたので、その時々の状況に合わせて最適な値をマップMBに記述することができる。
【0063】
ここまでは、自動トリムモード時に操船者に違和感を与えないようにトリムアップする例を述べたが、操船者の意思により最適トリム角θC´に素早く調整できるようにしてもよい。図18は、自動トリムモード時における制御装置52内の演算部60の処理動作を示すフローチャートであり、操船者の意思により最適トリム角θC´に素早く調整するときの処理動作を示す。
【0064】
最適トリム角θC´に素早く調整したい場合、操船者は所定の操作、本例ではPTTスイッチ(UP)46又は47の2度押しを行う。2度押しとしたのは、通常のPTT操作であるPTTスイッチ(UP)46又は47の1度押しとは異なる操作にして誤操作をなくすと共に、操船者の意思を確実に反映させるためである。
【0065】
PTTスイッチ(UP)46又は47の2度押しが入力されると、演算部60は、予め定められたトリム駆動速度、例えばPTT装置41の最大速度でPTT装置41を用いてトリムアップする(ステップS201)。そして、演算部60は、操船者によるPTT操作の有無を判定すると共に(ステップS202、S203)、傾斜角検出器48で検出されるトリム角がマップMAから読み出した最適トリム角θC´に達した否かを判定する(ステップS206)。その結果、最適トリム角θC´に達している場合本処理を抜け、達していない場合ステップS201に戻る。図19は、自動トリムモード時における自動トリムモード選択スイッチ及びPTTスイッチ(UP、DN)46又は47の状態、エンジン回転数、船体速度、トリム角、スロットル開度を示すタイムチャートである。図19の例では、タイミングt4でPTTスイッチ(UP)46又は47の2度押しが行われており、その結果、実線に示すように、最適トリム角θC´に素早くトリムアップしている。
【0066】
なお、最適トリム角θC´に素早く調整する場合も、操船者によるPTT操作がある場合(ステップS202、S203)、操船者による操作を優先させ、PTT操作に従ってトリムアップ又はトリムダウンを行う(ステップS204、S205)。図19の例では、タイミングt5でPTTスイッチ(UP)46又は47が操作され、操船者の意思があったとして最適トリム角θC´以上にトリムアップしている。逆に、PTTスイッチ(DN)46又は47が操作されれば、最適トリム角θC´を下回るようにトリムダウンさせることも可能である。
【0067】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。本実施形態では、学習モードで構築した最適トリム角のマップMAを利用しているが、それに限定されるものではなく、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する船外機の制御装置であれば本発明を適用することができる。
【0068】
また、本発明の船外機の制御装置は、具体的にはCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータシステムにより構成することができ、CPUがプログラムを実行することによって実現され、プログラム自体も本発明を構成することになる。
【符号の説明】
【0069】
1:船舶、2:船体、3:船外機、41:パワートリム&チルト装置、52:制御装置、60:演算部、61:クランク角信号検出器、62:スロットル開度検出器、70:学習モード選択スイッチ、78:メモリ、79:船体速度検出器
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力手段を用いて船外機をトリム操作する船外機の制御装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船体に取り付けられた船外機では、傾斜角を変更するチルト及びトリム操作が可能になっている。そして、このトリム及びトリム操作をパワートリム&チルト装置により油圧制御することも行われている。チルト操作とは、停船中や船体の陸揚げ時等に船外機を水面上に上昇させるものである。また、トリム操作とは、船外機の角度、即ちトリム角を調整するものである。船舶に搭載される船外機のトリム角を適切に調整することで、船体の姿勢角が変化して船体抵抗が低減し、結果として、同一のエンジン出力においても船体速度が増加し、燃費が向上することが知られている。
【0003】
従来、燃費の向上のためには、航走時の姿勢角、乗員や積載物の重量や位置等の航走状態に応じて、操船者が、メータ類を確認しながら最適トリム角に調整する必要がある。しかしながら、波、風、潮流等の自然現象が時々刻々と変化する状況で、エンジン回転数や姿勢角の微妙な変化を感じ取ってトリム操作を行うことは、操船者に大きな負荷を強いることになる。そのため、熟練者でも煩わしさからトリム操作を頻繁に行うことは少ないのが実情である。また、初心者に至っては、トリム角を調整するといった知識や経験に乏しいため、トリム操作を行うことなく、燃費の悪い状態のまま航走することがほとんどである。
【0004】
上記のような点に鑑みて、例えば特許文献1には、感知手段により感知されるエンジン回転数あるいは船速の航走状態量の変化に基づいて、推進ユニットをアップさせるアップ信号又はダウンさせるダウン信号を制御する船舶推進機の自動トリム角調整装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−79920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にあるようにフィードバック制御を行って最適トリム角を演算し、フィードバック制御値を決定するシステムでは、風、波、潮流等の外乱によって航走状態量の計測誤差が生じるため、フィードバック制御値の決定に時間を要する。しかも、常にフィードバック制御を続けることにより、電気エネルギを消費してしまい、燃費の面でも不利となる。
【0007】
また、特許文献1では、最大速度を与える状態に自動制御することを目標としているが、最大速度だけを指標としてフィードバック制御するシステムでは、操舵安定性が低下するおそれもある。
【0008】
さらに、トリム操作を自動制御する場合、自動的に船外機のトリム角が調整されることにより船体速度が変化するため、その速度変化が大きいと、操船者に違和感を与えることもある。例えばトリム角が最小で、且つスロットル開度を一定にして航走しているときに、目標のトリム角に向かってパワートリム&チルト装置の最大速度で自動駆動すると、操船者がスロットルを開く操作を行っていないにも関わらず、継続して船体速度が上昇することになり、違和感を感じることになる。また、操船者が手動操作していないのに、即ち操船者の意思とは関係なく自動的にトリム角が調整されて船外機が上下動することに違和感を感じることもある。
【0009】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する構成とする共に、そのトリム操作により操船者に違和感を与えないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の船外機の制御装置は、動力手段を用いて船外機をトリム操作する船外機の制御装置であって、トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御手段を備え、前記制御手段は、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とする。
また、本発明の船外機の制御装置の他の特徴とするところは、前記所定の閾値は、船体速度又はエンジン回転数に対応付けて管理されている点にある。
また、本発明の船外機の制御装置の他の特徴とするところは、前記制御手段は、操船者の減速意思が検出された場合、及び減速意思がなくなったことが検出されてから既定時間だけ経過していない場合、トリムアップしない点にある。
また、本発明の船外機の制御装置の他の特徴とするところは、前記制御手段は、自動トリムモード時に滑走状態となっているか否かを判定し、滑走状態となっていなければ、トリムアップしない点にある。
本発明の船外機の制御方法は、動力手段を用いて船外機をトリム操作する船外機の制御装置が実行する船外機の制御方法であって、トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御手順を有し、前記制御手順では、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とする。
本発明のプログラムは、動力手段を用いて船外機をトリム操作するコンピュータに実行させるためのプログラムであって、トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御処理をコンピュータに実行させ、前記制御処理では、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する構成にしたので、フィードバック制御を行って最適トリム角を演算し、フィードバック制御値を決定するシステムに比べて、トリム角の調整に時間がかかったり、電気エネルギの消費により燃費の面で不利となったりするのを避けることができる。そして、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定するので、操船者に違和感を与えないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用可能な船舶を斜め後方から眺めた斜視図である。
【図2】本発明を適用可能な船外機の左側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るPTT装置の回路図である。
【図4】ブラケット装置の拡大側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る制御装置の構成を示すシステム図である。
【図6】学習モード時における制御装置内の演算部の処理動作を示すフローチャートである。
【図7】図6の学習開始条件成立の可否を判定する処理を示すフローチャートである。
【図8】図6の学習継続条件成立の可否を判定する処理を示すフローチャートである。
【図9】学習モード時における学習モード選択スイッチ及びPTTスイッチ(UP、DN)の状態、エンジン回転数、船体速度、トリム角、スロットル開度を示すタイムチャートである。
【図10】トリム角と、燃費向上率、エンジン回転数及び船体速度との関係の例を示す特性図である。
【図11】最適トリム角のマップを示す図である。
【図12】トリム角と、航走時の船体の姿勢角との一例を示す図である
【図13】時間と、トリム角、エンジン回転数及び船体速度との関係の例を示す特性図である。
【図14】時間と、ハンドル保持力、エンジン回転数、トリム角、トリム駆動速度、船体加速度及びエンジン回転数の変化率との関係の例を示す特性図である。
【図15】自動トリムモード時における制御装置内の演算部の処理動作を示すフローチャートである。
【図16】図15の船体加速度を検出し、それに基づいてトリムアップのトリム駆動速度を変更する処理を示すフローチャートである。
【図17】時間と、スロットル開度、吸気圧及びエンジン回転数との関係の例を示す特性図である。
【図18】自動トリムモード時における制御装置内の演算部の処理動作を示すフローチャートである。
【図19】自動トリムモード時における自動トリムモード選択スイッチ及びPTTスイッチ(UP、DN)の状態、エンジン回転数、船体速度、トリム角、スロットル開度を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用可能な船舶を斜め後方から眺めた斜視図である。また、図2は、本発明を適用可能な船外機の左側面図である。図1及び図2に示すように、船舶1の船体2の後部に位置するトランサム2aに船外機3がブラケット装置4を介して取り付けられる。
【0014】
船体2の略中央部は操舵室5であり、操舵席6が設置されると共に、操舵席6の前方には計器パネル7が配置される。計器パネル7にはタコメータ8等の計器類、不図示のモニタ、警告用のブザー9等が設けられると共に、操舵ハンドル10も設けられる。また、操舵席6の側方には例えばスロットルレバー11及びシフトレバー12を備えたリモコンボックス13が配置される。
【0015】
図2に示すように、船外機3はエンジンホルダ14を備え、このエンジンホルダ14の上方にエンジン15が設置される。また、エンジンホルダ14の下方にはオイルパン16が配置されると共に、この船外機3のエンジン15、エンジンホルダ14及びオイルパン16の周囲はエンジンカバー17よって覆われる。エンジン15は、例えばシリンダヘッド29、シリンダブロック30及びクランクケース31等を組み合わせて構成された水冷4サイクル四気筒エンジンであり、クランクシャフト18を略垂直に配置したバーティカル(縦)型のエンジンである。
【0016】
オイルパン16の下部にはドライブシャフトハウジング19が設置される。エンジンホルダ14、オイルパン16及びドライブシャフトハウジング19内にはドライブシャフト20が略垂直に配置され、その上端部がクランクシャフト18の下端部に連結される。ドライブシャフト20はドライブシャフトハウジング19内を下方に向かって延び、ドライブシャフトハウジング19の下部に設けられたギヤケース21内のベベルギヤ22及びプロペラシャフト23を介してプロペラ24を駆動するように構成される。
【0017】
ギヤケース21内には遠隔操作によってプロペラシャフト23の回転方向を正・逆(フォワード・リバース)又は中立状態(ニュートラル)に切り換えるシフト装置25が設けられる。このシフト装置25からはシフトロッド26が上方に向かって延び、リンク27を介して操作ロッド28(又はケーブル)によって上記リモコンボックス13のシフトレバー12に連結される。
【0018】
エンジン15の最前部、図2においては最も左側に配置されるクランクケース31の後方(右側)にはシリンダブロック30が配置される。また、シリンダブロック30の後方にはシリンダヘッド29が配置される。
【0019】
ブラケット装置4は主にスイベルブラケット32及びトランサムブラケット33から構成され、スイベルブラケット32は船外機3に、トランサムブラケット33は船体2のトランサム2aにそれぞれ固定される。
【0020】
スイベルブラケット32は左右一対のトランサムブラケット33間に架設されたチルト軸34を介して上下方向に傾動可能に軸支され、このスイベルブラケット32内にパイロットシャフト35が鉛直方向に、且つ回動自在に軸支される。また、このパイロットシャフト35の上下端にアッパーマウントブラケット36及びロアーマウントブラケット37がそれぞれ回動一体に設けられる。そして、アッパーマウントブラケット36にはステアリングブラケット38が設けられ、図示しないケーブル等によって操舵ハンドル10に連結される。
【0021】
一方、エンジンホルダ14の前部には左右一対のアッパーマウントユニット39が設けられ、アッパーマウントブラケット36に連結される。また、ドライブシャフトハウジング19の両側部には一対のロアーマウントユニット40が設けられ、ロアーマウントブラケット37に連結される。そして、以上により船外機3は、操舵ハンドル10の操作によって、ブラケット装置4に対しパイロットシャフト35を中心に左右に操舵可能になると共に、チルト軸34を中心に上下向方にチルト及びトリム操作が可能になる。
【0022】
ここで、チルト操作とは、停船中や船体2の陸揚げ時等に船外機3を水面上に上昇させるものである。また、トリム操作とは、船外機3の角度、即ちトリム角を調整するものである。図12(a)、(b)は、トリム角と、航走時の船体2の姿勢角との一例を示す図である。図12(a)は、トリム角が0°の状態、換言すれば船外機3がブラケット装置4のストッパに当接して船体2に最も近接した状態である。このとき、図示例では、水平面に対するプロペラシャフト23の軸方向の角度は−6°、水平面に対する船体2の角度は0°となる。そして、図12(b)は、トリムアップしてトリム角が11°の状態である。このとき、図示例では、水平面に対するプロペラシャフト23の軸方向の角度は2.5°、水平面に対する船体2の角度は2.5°となる。このようなトリム及びチルト操作はパワートリム&チルト装置41(以下、PTT装置と略す)により油圧制御される。
【0023】
図3は、本発明の実施形態に係るPTT装置41の回路図、図4は、ブラケット装置4の拡大側面図である。また、図5は、本発明の実施形態に係るPTT装置41を含む船外機3全体の制御装置52の構成を示すシステム図である。図3に示すように、リモコンボックス13や船外機3に設けられたPTTスイッチ46、47のUP側とDN(DOWN)側とはそれぞれPTTリレー53(UP及びDN)に結線され、船外機3を上下に傾動させる図示しない動力手段である油圧装置の動力源となるPTTモータ54を駆動する。なお、リモコンボックス13側のPTTスイッチ46はPTTモータ54とこのモータ54の動力源であるバッテリ55(制御装置52の電源も兼ねる)との間に配置される。
【0024】
船体2と船外機3との相対位置、一般的には相対角度、即ち船外機3のトリム角(及びチルト角)を検出する傾斜角検出器48が例えばブラケット装置4に設けられる。図4(a)は船外機3がDN(DOWN)状態、図4(b)は船外機3がUP状態をそれぞれ示す。図4(a)、(b)に示すように、傾斜角検出器48は主に例えば固定側であるトランサムブラケット33に設けられた可変抵抗やホール素子等の回動検出素子49と、この回動検出素子49に回動自在に設けられたレバー50と、可動側であるスイベルブラケット32に設けられた凸部51とから構成され、レバー50の自由端部が図示しないスプリング等で凸部51に常時付勢されて当接する。そして、船外機3が例えばトリムアップされることによりスイベルブラケット32がチルト軸34を介して上方向に傾動すると、この傾動に伴って凸部51が移動し、レバー50が回動検出素子49を軸に回動してその回動量、即ち船外機3の傾斜角信号が出力される。なお、この傾斜角検出器48は従来のトリムメータ45(トリム角度表示装置)に信号を出力するトリム角度検出器(図示せず)の信号を併用してもよい。
【0025】
図5に示すように、制御装置52は、入力回路59、CPU、RAM及びROMにより構成される演算部60、メモリ78、出力回路71、点火装置75、電源回路76を備える。制御装置52には、船外機3内外の各機器から各種の情報が入力される。具体的には、船体速度検出器79から、例えばGPS機能により測定した船体速度が入力回路59を経由して制御装置52内の演算部60に入力される。
【0026】
同様に、カム軸信号検出器58から、エンジン15の図示しないカム軸の信号(カム角信号)が演算部60に入力される。また、クランク角信号検出器61(回転数検出器)からエンジン15の回転数信号が、スロットル開度検出器62から図示しないエンジン吸気装置を構成するスロットル開度が、吸気圧力検出器63及び大気圧力検出器64からそれぞれ吸気圧及び大気圧が、吸気温度検出器65、エンジン温度検出器66(冷却水温度検出器)及び排気温度検出器67からそれぞれ吸気の温度、エンジン15の温度(冷却水温度)及び排気通路の温度が演算部60に入力される。また、傾斜角検出器48から船外機3の傾斜角信号が、例えばシフト装置25に設けられるシフト(ニュートラル)スイッチ68からシフト位置信号が演算部60に入力される。さらに、ストップ(エマージェンシーストップ)スイッチ69、後述する学習モード選択スイッチ70及びPTTスイッチ46(47)からの信号も演算部60に入力される。
【0027】
制御装置52に入力された各機器からの情報は演算部60で適宜演算処理され、その演算結果が出力回路71を介して船外機3内外の各機器に出力される。具体的には、演算部60は、PTT装置41を操作してPTTモータ54を駆動する。また、演算部60は、燃料の噴射量情報をインジェクタ72に、吸気空気量の調整信号をアクチュエータ73の図示しないステップモータやソレノイドバルブ等に、エンジン回転数信号や各機器の異常を伝達する信号をモニタ44の警告灯42(LED)やブザー9、タコメータ8等に、燃料の供給量情報をフューエルポンプ74にそれぞれ出力する。さらに、演算部60は、出力回路71から点火装置75(電源回路76が接続される)を介してイグニッションコイル77に点火信号を出力する。
【0028】
(学習モード)
ここで、既述したように、船外機3のトリム角を適切に調整することで、船体2の姿勢角が変化して船体抵抗が低減し、結果として、同一のエンジン出力においても船舶1の船体速度が増加し、燃費が向上することが知られている。一方で、船外機3は、自動車や自動二輪車等のエンジンとは異なり、一般的に、搭載される船舶は既定されておらず、様々の船舶に搭載されうる。船舶の大きさ、重量、船体や船底の形状が多種多様であるため、燃費が向上する最適トリム角を予め定めておくことは困難である。そこで、本実施形態に係る船外機3では、主に燃費を向上させることを目的として、船舶毎に最適トリム角を学習により設定する学習モードを有している。
【0029】
学習モードは、例えば船外機3を船舶1に新たに搭載して試運転するときに実行されるものであり、学習モード選択スイッチ70を操作することにより学習モードに移行することができる。船外機3を船舶1に新たに搭載して試運転するときに、滑走状態(プレーニング)を維持できる速度域でスロットルを固定して、学習モード選択スイッチ70を操作して学習モードに移行する。このとき、トリム角は0°又は0°に近い角度としておく。
【0030】
図6は、学習モード時における制御装置52内の演算部60の処理動作を示すフローチャートである。また、図9は、学習モード時における学習モード選択スイッチ70及びPTTスイッチ(UP、DN)46又は47の状態、エンジン回転数、船体速度、トリム角、スロットル開度を示すタイムチャートである。学習モードに移行した後、操船者は学習開始のための所定の操作、本例ではPTTスイッチ(UP)46又は47の2度押しを行う(ステップS1)。2度押しとしたのは、通常のPTT操作であるPTTスイッチ(UP)46又は47の1度押しとは異なる操作にして誤操作をなくすと共に、操船者の意思を確実に反映させるためである。
【0031】
PTTスイッチ(UP)46又は47の2度押しが入力されると、演算部60は、学習開始条件が成立しているかどうかを判定する(ステップS2)。図7に、学習開始条件成立の可否を判定する処理のフローチャートを示す。演算部60は、スロットル開度検出器62で検出されるスロットル開度、クランク角信号検出器61で検出されるエンジン回転数及び傾斜角検出器48で検出されるトリム角がそれぞれ所定の範囲内にあれば(ステップS21、S22、S23)、条件成立として(ステップS24)、本処理を抜ける。それに対して、スロットル開度、エンジン回転数、トリム角のいずれかが所定の範囲から外れていれば(ステップS21、S22、S23)、条件不成立として本処理を抜ける。
【0032】
図6に説明を戻して、ステップS2で学習開始条件が成立している場合、ステップS3に進み、演算部60は、スロットル開度検出器62でスロットル開度を検出する。また、クランク角信号検出器61で検出したエンジン回転数の例えば所定の時間分の移動平均を算出することにより平均エンジン回転数を演算して(ステップS4)、平均エンジン回転数の変化率を演算する(ステップS5)。なお、ステップS2で学習開始条件が成立していない場合、ステップS20に進み、演算部60は、ブザー9を鳴らしたり、モニタに表示したりする等のエラーメッセージ通知を行った後、ステップS1に戻る。
【0033】
ステップS5の後、演算部60は、学習継続条件が成立しているかどうかを判定する(ステップS6)。図8に、学習継続条件成立の可否を判定する処理のフローチャートを示す。演算部60は、スロットル開度検出器62で検出されるスロットル開度の変化率、ステップS5で演算した平均エンジン回転数の変化率がそれぞれ所定の範囲内にあり、操船者によるPTT操作がなければ(ステップS61、S62、S63)、条件成立として(ステップS64)、本処理を抜ける。それに対して、スロットル開度の変化率、エンジン回転数の変化率のいずれかが所定の範囲から外れている、又は操船者によるPTT操作があれば(ステップS61、S62、S63)、条件不成立として本処理を抜ける。スロットル開度の変化率が所定の範囲から外れているときは、操船者がスロットルレバー11を操作してスロットル開度が変化したと考えられるため、最適トリム角の学習を中断する。また、エンジン回転数の変化率が所定の範囲から外れているときは、以下の理由により最適トリム角の学習を中断する。即ち、船体2への負荷、例えば積載物の重量、高さ、位置、角度等によっては、あるトリム角を超えるとプロペラ24が水中で空回りして推力が低下する現象が発生する。この場合、図13の丸で囲んだ箇所に示すように、エンジン回転数が急上昇し、船体速度が低下する。図13は、時間と、トリム角、エンジン回転数及び船体速度との関係の例を示す特性図である。そこで、エンジン回転数の変化率が所定の範囲から外れているときは、このような現象が発生したと考えられるため、最適トリム角の学習を中断する。また、PTT操作があるときは、操船者による操作を優先させるため、最適トリム角の学習を中断する。なお、ステップS6で学習継続条件が成立していない場合、ステップS20に進み、演算部60は、ブザー9を鳴らしたり、モニタに表示したりする等のエラーメッセージ通知を行った後、ステップS1に戻る。また、最適トリム角の学習を中断した場合、そのときのトリム角を所定の角度だけトリムダウンさせる等してもよい。
【0034】
図6に説明を戻して、ステップS6で学習継続条件が成立している場合、ステップS7に進み、演算部60は、現在のトリム角θAが下限値、即ち0°でないかどうかを判定する。ステップS7で現在のトリム角θAが0°でない場合ステップS8に進み、0°である場合ステップS10に進む。
【0035】
トリム角0°の状態で学習を開始した場合、学習開始直後はトリム角が0°であるので、ステップS10に進む。ステップS10で、演算部60は、PTT装置41を用いて予め設定されているトリム角θBだけトリムアップする。そして、演算部60は、現在のトリム角θAが予め設定されている上限値を達したかどうかを判定する(ステップS11)。ステップS11で現在のトリム角θAが上限値に達していない場合ステップS3に戻り、上限値に達した場合ステップS12に進む。
【0036】
ステップS11からステップS3に戻り、ステップS4〜S6を経てステップS7に進むと、現在のトリム角θAは0°でないので、ステップS8に進む。ステップS8では、ステップS5で演算した平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値gを下回ったかどうかを判定する。ステップS8で平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値gを下回っていない場合ステップS10に進み、所定の閾値gを下回った場合ステップS9に進む。
【0037】
ここで、図10を参照して、学習モードで狙う最適トリム角について説明する。図10は、トリム角と、燃費向上率、エンジン回転数及び船体速度との関係の例を示す特性図である。図10に示すように、トリム角を大きくしていくと、燃費向上率、エンジン回転数及び船体速度が増加する。そして、トリム角θ1と達すると、エンジン回転数の変化率が小さくなり、それ以降は上限値で略安定する。また、トリム角θ2(>θ1)に達すると、船体速度がピークとなり、それ以降はエンジン回転数と共に減少傾向となる。このような特性において、船体速度及び燃費向上率の面からいえば、トリム角θ2を最適トリム角とするのが理論上最適である。しかしながら、トリム角θ2では水中翼部の舵の機能が低下し、操舵が不安定となることがある。そこで、トリム角θ2に比べると燃費向上率はやや低くなるが、十分な燃費の向上効果があり、且つ操舵安定性に優れたトリム角θ1を最適トリム角とする。
【0038】
ステップS3〜S8、S10、S11のループを繰り返して、トリム角θBずつ段階的にトリムアップさせた結果、ステップS8で平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回ったということは、図10に示すように、現在のトリム角θAがトリム角θ1を超え、エンジン回転数の変化が安定したと考えられる。そこで、ステップS9に進み、暫定の最適トリム角θCを演算する。ステップS9では、例えば暫定の最適トリム角θCを、
θC=現在のトリム角θA−トリム角θB
として求める。現在のトリム角θAをそのまま暫定の最適トリム角θCとしてもよいが、エンジン回転数の変化が安定した結果として、平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回ることから、その間に時間的な差がある。そこで、現在のトリム角θAからトリム角θBを減算する、即ちステップS10でトリムアップする一回前のトリム角を暫定の最適トリム角θCとしている。
【0039】
なお、ステップS8で平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回ることなく、ステップS11で現在のトリム角θAが上限値に達することもありうる。その場合、ステップS12に進み、暫定の最適トリム角θCを演算する。ステップS12でも、ステップS9と同様、例えば暫定の最適トリム角θCを、
θC=現在のトリム角θA−トリム角θB
として求める。
【0040】
ステップS9又はステップS12で暫定の最適トリム角θCが演算されたならば、演算部60はその暫定の最適トリム角θCをメモリ78に記憶する(ステップS13)。そして、演算部60は、ブザー9を鳴らしたり、モニタに表示したりする等して、今回の学習が終了したことを通知するメッセージ通知を行う(ステップS14)。メッセージ通知を受けた操船者は、学習終了の確認のための所定の操作、本例ではPTTスイッチ(DN)46又は47の2度押しを行う(ステップS15)。
【0041】
本実施形態では、ステップS1〜S15の学習を2回繰り返すようになっている。即ち、ステップS16で、ステップS1〜S15の学習が2回繰り返されたかどうかを判定する。ステップS16で学習が2回繰り返されていない場合、ステップS21に進み、演算部60は、PTT装置41を用いてトリム角を下限値0°にトリムダウンしてから、ステップS1に戻る。
【0042】
ステップS16で学習が2回繰り返されている場合、ステップS17に進み、1回目の暫定の最適トリム角θCと2回目の暫定の最適トリム角θCとが所定の閾値θDを超えて異なるかどうか判定する。ステップS17で所定の閾値θDを超えて異ならない場合、ステップS18に進み、演算部60は最適トリム角θC´をメモリ78に記憶する。最適トリム角θC´は、1回目の暫定の最適トリム角θCと2回目の暫定の最適トリム角θCとの平均値としてもよいし、最後の回(2回目)の暫定の最適トリム角θCとしてもよい。そして、演算部60は、ブザー9を鳴らしたり、モニタに表示したりする等して、最終的に学習が終了したことを通知するメッセージ通知を行う(ステップS19)。
【0043】
一方、ステップS17で所定の閾値θDを超えて異なる場合、風(風速や風向き)、波、潮流等の影響のために、1回目の暫定の最適トリム角θCと2回目の暫定の最適トリム角θCとが大きく異なったものとする。そこで、学習条件が適当でないとし、最適トリム角θC´を求めることなく、ステップS20に進み、演算部60は、ブザー9を鳴らしたり、モニタに表示したりする等のエラーメッセージ通知を行った後、ステップS1に戻る。
【0044】
以上述べた学習を一定のスロットル開度T10で実行させ、スロットル開度T10での最適トリム角θC´(T10)を記憶させる。メモリ78には、例えば図11に示すように、エンジン回転数及びスロットル開度に対応付けられた最適トリム角のマップMAが構築されており、スロットル開度T10と、ステップS4で演算した平均エンジン回転数を含む所定のエンジン回転数域(図11の例ではエンジン回転数R12〜R15)との対応欄に、学習した最適トリム角θC´(T10)を記述する。エンジン回転数が大幅に異ならない限り、最適トリム角は同程度であるので、所定のエンジン回転数域R12〜R15にて、学習した最適トリム角θC´(T10)を利用するようにしている。
【0045】
次に、以上述べた学習を一定のスロットル開度T14(>T10)で実行させ、スロットル開度T14と、ステップS4で演算した平均エンジン回転数を含む所定のエンジン回転数域(図11の例ではエンジン回転数R15〜R18)との対応欄に、学習した最適トリム角θC´(T14)を記述する。同様に、以上述べた学習を一定のスロットル開度T18(>T14)で実行させ、スロットル開度T18と、ステップS4で演算した平均エンジン回転数を含む所定のエンジン回転数域(図11の例ではエンジン回転数R18〜R20)との対応欄に、学習した最適トリム角θC´(T14)を記述する。このように複数のスロットル開度T10、T14、T18で学習を繰り返すことにより、それらの間の欄の最適トリム角(図11に斜線で示す欄の最適トリム角)は、スロットル開度T10、T14、T18での最適トリム角θC´(T10)、θC´(T14)、θC´(T18)を用いた補間演算により求めることができる。
【0046】
なお、学習を行うスロットル開度T10、T14、T18は操船者が任意に指定可能にしてもよいし、演算部60が、学習すべきスロットル開度T10、T14、T18を操船者に通知するようにしてもよい。学習すべきスロットル開度T10、T14、T18を操船者に通知する方式としては、学習すべきスロットル開度をモニタに表示したり、学習すべきスロットル開度近傍でブザー音を鳴らしたりすればよい。
【0047】
本実施形態では、船外機3を船舶1に新たに搭載して試運転するときに学習モードを実行させる例を説明したが、それに限定されるものではない。通常の航走時でも、学習モードを随時実行させてよい。例えば乗員や積載物の重量等が普段と大きく異なる状態で航走するような場合に学習モードを実行させてもよい。航走の最初の段階で学習モードの実行のためにスロットル開度を一定にするという制約が課されるが、学習モードは数分程度で完了するので、それ以降の航走では、操舵の安定性を確保しつつ、燃費を向上させた航走が可能になる。
【0048】
また、船外機3のメーカ側で、ボートメーカの各種モデルに対する最適トリム角を既定したマップMAを制御装置52に予め保持させておくようにしてもよい。船外機3を船舶1に搭載する際に、当該船体2の製造メータ、モデル名を制御装置52に入力することで、船体2に適したマップMAを呼び出して利用することができる。また、制御装置52に通信機能を持たせ、船体2の製造メータ、モデル名に応じたマップMAを外部から取得するような形態としてもよい。
【0049】
また、例えば図6のステップS8では、所定の条件に合致するかどうかとして、ステップS5で演算した平均エンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回ったかどうかを判定するようにしたが、船体速度検出器79で検出される船体速度がピークとなったかどうか、即ち図10に示すトリム角θ2に達したかどうかを判定するようにしてもよい。この場合、図10の説明で述べたように、トリム角θ2では水中翼部の舵の機能が低下し、操舵が不安定となることがあるので、ステップS9では、現在のトリム角θA(即ち、トリム角θ2)から所定のトリム角を減算し、トリム角θ2の手前のトリム角を暫定の最適トリム角θCとする。
【0050】
(自動トリムモード)
次に、上述した学習モードによりマップMAに記述された最適トリム角θC´に基づいてトリム操作を自動制御する自動トリムモードについて説明する。自動トリムモード時には、制御装置52は、スロットル開度検出器62で検出されるスロットル開度、クランク角信号検出器61で検出されるエンジン回転数に基づいて、マップMAから最適トリム角θC´を読み出して、その最適トリム角θC´になるようにPTT装置41を自動制御する。これにより、エンジン回転数や姿勢の微妙な変化を感じ取ってトリム操作を行うといった負荷を操船者に強いることなく、また、初心者であっても、操舵の安定性を確保しつつ、燃費を向上させた航走が可能になる。
【0051】
ここで、既述したように、自動的に船外機3のトリム角が調整されることにより船体速度が変化する際、特に自動的にトリムアップして船体速度が増加する際に、船体加速度が大きいと、操船者に違和感を与えることもある。図14に、同量だけトリムアップするときにトリム駆動速度を遅くした場合(図14(a))及び速くした場合(図14(b))での、時間と、ハンドル保持力、エンジン回転数、トリム角、トリム駆動速度、船体加速度及びエンジン回転数の変化率との関係の例を示す。図14(b)に示すように、トリム駆動速度が速いと、船体加速度が急峻となると共に、ハンドル保持力が大きくなるため、操船者に違和感を与えるおそれがある。そこで、本実施形態に係る船外機3では、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定するようにしている。
【0052】
図15は、自動トリムモード時における制御装置52内の演算部60の処理動作を示すフローチャートである。不図示の自動トリムモード選択スイッチにより自動トリムモードに移行すると、演算部60は、自動駆動条件が成立しているかどうかを判定する(ステップS101)。ここでは、滑走状態(プレーニング)となっているか否かを判定し、プレーニングとなっていれば自動駆動条件が成立していると判定する。具体的には、図7と同様に、演算部60は、スロットル開度検出器62で検出されるスロットル開度、クランク角信号検出器61で検出されるエンジン回転数及び傾斜角検出器48で検出されるトリム角がそれぞれ所定の範囲内にあれば、条件成立とする。
【0053】
自動駆動条件が成立している場合、操船者によるPTT操作の有無を判定する(ステップS102、S103)。ステップS102、S103で操船者によるPTT操作がある場合、操船者による操作を優先させ、PTT操作に従ってトリムアップ又はトリムダウンを行う(ステップS104、S105)。
【0054】
ステップS102、S103で操船者によるPTT操作がない場合、ステップS106に進み、操船者の減速意思が検出されたか、及び減速意思があった場合それがなくなったことが検出されてから既定時間だけ経過しているか否かを判定する(以下、「減速検出」と称する)。ステップS106で減速検出がない場合、即ち操船者の減速意思が検出されず、且つ減速意思がなくなったことが検出されてから既定時間だけ経過している場合ステップS107に進み、そうでない場合ステップS101に戻る。
【0055】
ステップS107で、演算部60は、メモリ78のマップMBからトリムアップのトリム駆動速度を読み出して、そのトリム駆動速度でPTT装置41を用いてトリムアップする。マップMBには、船体速度とトリムアップのトリム駆動速度とが対応付けられている。例えば船体速度の低速領域ではトリム駆動速度が高く、船体速度の高速領域ではトリム駆動速度が低く設定されている。さらに、マップMBには、船体速度に、次のステップS108で用いる船体加速度の閾値が対応付けられている。同等の船体加速度でも、そのときの船体速度によって操船者に与える違和感は異なり、高速航走時には操船者に違和感を与えやすい。そこで、船体速度毎に、トリム駆動速度を決定するための船体加速度の閾値が設定されている。
【0056】
ステップS108で、演算部60は、船体加速度を検出し、それに基づいてトリムアップのトリム駆動速度を変更する。図16に、船体加速度を検出し、それに基づいてトリムアップのトリム駆動速度を変更する処理のフローチャートを示す。演算部60は、船体速度検出器79で検出される船体速度から船体加速度を検出し(ステップS1801)、その船体加速度がマップMBに既述されている現在の船体速度に対応する船体加速度の閾値を下回っているか否かを判定する(ステップS1802)。その結果、ステップS1801で検出した船体加速度が閾値を下回っている場合ステップS109に進み、閾値を超えている場合ステップS1803に進む。ステップS1803で、演算部60は、マップMBに記述されている現在の船体速度に対応するトリム駆動速度を、船体加速度が低くなるように書き換えた後、ステップS109に進む。
【0057】
図15に説明を戻して、ステップS109で、演算部60は、傾斜角検出器48で検出されるトリム角がマップMAから読み出した最適トリム角θC´に達した否かを判定する。その結果、最適トリム角θC´に達している場合本処理を抜け、達していない場合ステップS101に戻る。
【0058】
なお、本実施形態では、GPS機能等により測定した船体速度が制御装置52に入力されることを前提に説明したが、船体速度が入力されない場合は、プレーニング状態では船体速度と略同じ挙動となるエンジン回転数を利用してもよい。この場合、マップMBには、エンジン回転数とトリムアップのトリム駆動速度とが対応付けられているとともに、エンジン回転数にエンジン回転数の変化率の閾値が対応付けられている。そして、図16のフローチャートにおいて、演算部60は、エンジン回転数の変化率を検出し(ステップS1801)、その変化率がマップMBに既述されている現在のエンジン回転数に対応する変化率の閾値を下回っているか否かを判定する(ステップS1802)。その結果、ステップS1801で検出したエンジン回転数の変化率が閾値を下回っている場合ステップS109に進み、閾値を超えている場合ステップS1803に進む。ステップS1803で、演算部60は、マップMBに記述されている現在のエンジン回転数に対応するトリム駆動速度を、エンジン回転数の変化率が低くなるように書き換えた後、ステップS109に進む。
【0059】
また、ステップS106で減速検出がある場合、即ち操船者の減速意思が検出された場合、及び減速意思がなくなったことが検出されてから既定時間だけ経過していない場合、トリムアップしないでステップS101に戻るが、その理由は以下の通りである。自動トリムモード時にはスロットル開度が所定の範囲から外れないようにすることが求められるが(図7のステップS21を参照)、略一定の船体速度となるようにスロットルを開閉調整する場合がある。このとき、特に減速操作であるスロットルを閉じる操作を行っている最中や、閉じる操作をやめた直後に、トリムアップにより船体速度が増加すると、操船者に違和感を与えることになる。そこで、減速検出がある場合、トリムアップを停止する。図17の区間t1、t2ではスロットル開度を微調整しているが、スロットルを閉じる操作が検出されなくなってから既定時間経過するまでトリムアップを停止している。そして、操船者がスロットル開度を一定又は開いているときにはトリムアップして、最適トリム角θC´に達した時点でトリムアップを停止する(図17のタイミングt3)。なお、減速検出をスロットル開度で判定する例を述べたが、図17の区間t1、t2に示すように、スロットル開度の変化に応じて吸気圧やエンジン回転数も同様に変化するので、スロットル開度以外の減速検出でもかまわない。
【0060】
また、船舶ではブレーキ機構はなく、操船者は所望の船体速度以上のときはスロットルを閉じる操作を行う。この場合も、トリムアップにより船体速度が高くなると操船者に違和感を与えることになるので、スロットルを閉じる操作が検出されなくなってから既定時間経過するまでトリムアップを停止する。
【0061】
以上のようにして制御装置52は、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定する。これにより、エンジン回転数や姿勢の微妙な変化を感じ取ってトリム操作を行うといった負荷を操船者に強いることなく、また、初心者であっても、操舵の安定性を確保しつつ、操船者に違和感を与えることなく、燃費を向上させた航走が可能になる。なお、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することにより、場合によってはトリム駆動速度を落とすことにもなるが、自動車や自動二輪車等と比較して、船舶の場合は略一定の船体速度で連続運転する頻度が高く、最適トリム角θC´に達するまでにある程度の時間(数秒〜数十秒程度)要しても、その後の連続運転時間と比較するとわずかな時間である。
【0062】
また、同量のトリムアップでも、船体形状、乗員や積載物の重量等によって船体加速度は異なるが、上述したようにマップMBそのものを書き換えるようにしたので、その時々の状況に合わせて最適な値をマップMBに記述することができる。
【0063】
ここまでは、自動トリムモード時に操船者に違和感を与えないようにトリムアップする例を述べたが、操船者の意思により最適トリム角θC´に素早く調整できるようにしてもよい。図18は、自動トリムモード時における制御装置52内の演算部60の処理動作を示すフローチャートであり、操船者の意思により最適トリム角θC´に素早く調整するときの処理動作を示す。
【0064】
最適トリム角θC´に素早く調整したい場合、操船者は所定の操作、本例ではPTTスイッチ(UP)46又は47の2度押しを行う。2度押しとしたのは、通常のPTT操作であるPTTスイッチ(UP)46又は47の1度押しとは異なる操作にして誤操作をなくすと共に、操船者の意思を確実に反映させるためである。
【0065】
PTTスイッチ(UP)46又は47の2度押しが入力されると、演算部60は、予め定められたトリム駆動速度、例えばPTT装置41の最大速度でPTT装置41を用いてトリムアップする(ステップS201)。そして、演算部60は、操船者によるPTT操作の有無を判定すると共に(ステップS202、S203)、傾斜角検出器48で検出されるトリム角がマップMAから読み出した最適トリム角θC´に達した否かを判定する(ステップS206)。その結果、最適トリム角θC´に達している場合本処理を抜け、達していない場合ステップS201に戻る。図19は、自動トリムモード時における自動トリムモード選択スイッチ及びPTTスイッチ(UP、DN)46又は47の状態、エンジン回転数、船体速度、トリム角、スロットル開度を示すタイムチャートである。図19の例では、タイミングt4でPTTスイッチ(UP)46又は47の2度押しが行われており、その結果、実線に示すように、最適トリム角θC´に素早くトリムアップしている。
【0066】
なお、最適トリム角θC´に素早く調整する場合も、操船者によるPTT操作がある場合(ステップS202、S203)、操船者による操作を優先させ、PTT操作に従ってトリムアップ又はトリムダウンを行う(ステップS204、S205)。図19の例では、タイミングt5でPTTスイッチ(UP)46又は47が操作され、操船者の意思があったとして最適トリム角θC´以上にトリムアップしている。逆に、PTTスイッチ(DN)46又は47が操作されれば、最適トリム角θC´を下回るようにトリムダウンさせることも可能である。
【0067】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。本実施形態では、学習モードで構築した最適トリム角のマップMAを利用しているが、それに限定されるものではなく、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する船外機の制御装置であれば本発明を適用することができる。
【0068】
また、本発明の船外機の制御装置は、具体的にはCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータシステムにより構成することができ、CPUがプログラムを実行することによって実現され、プログラム自体も本発明を構成することになる。
【符号の説明】
【0069】
1:船舶、2:船体、3:船外機、41:パワートリム&チルト装置、52:制御装置、60:演算部、61:クランク角信号検出器、62:スロットル開度検出器、70:学習モード選択スイッチ、78:メモリ、79:船体速度検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力手段を用いて船外機をトリム操作する船外機の制御装置であって、
トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御手段を備え、
前記制御手段は、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とする船外機の制御装置。
【請求項2】
前記所定の閾値は、船体速度又はエンジン回転数に対応付けて管理されていることを特徴とする請求項1に記載の船外機の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、操船者の減速意思が検出された場合、及び減速意思がなくなったことが検出されてから既定時間だけ経過していない場合、トリムアップしないことを特徴とする請求項1又は2に記載の船外機の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、自動トリムモード時に滑走状態となっているか否かを判定し、滑走状態となっていなければ、トリムアップしないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船外機の制御装置。
【請求項5】
動力手段を用いて船外機をトリム操作する船外機の制御装置が実行する船外機の制御方法であって、
トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御手順を有し、
前記制御手順では、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とする船外機の制御方法。
【請求項6】
動力手段を用いて船外機をトリム操作するコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御処理をコンピュータに実行させ、
前記制御処理では、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とするプログラム。
【請求項1】
動力手段を用いて船外機をトリム操作する船外機の制御装置であって、
トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御手段を備え、
前記制御手段は、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とする船外機の制御装置。
【請求項2】
前記所定の閾値は、船体速度又はエンジン回転数に対応付けて管理されていることを特徴とする請求項1に記載の船外機の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、操船者の減速意思が検出された場合、及び減速意思がなくなったことが検出されてから既定時間だけ経過していない場合、トリムアップしないことを特徴とする請求項1又は2に記載の船外機の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、自動トリムモード時に滑走状態となっているか否かを判定し、滑走状態となっていなければ、トリムアップしないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船外機の制御装置。
【請求項5】
動力手段を用いて船外機をトリム操作する船外機の制御装置が実行する船外機の制御方法であって、
トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御手順を有し、
前記制御手順では、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とする船外機の制御方法。
【請求項6】
動力手段を用いて船外機をトリム操作するコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
トリム操作を自動制御する自動トリムモード時に、予め設定されている最適トリム角に基づいて船外機を自動的にトリム操作する制御処理をコンピュータに実行させ、
前記制御処理では、トリム操作を自動制御する際に、船体加速度又はエンジン回転数の変化率が所定の閾値を下回るようにトリム駆動速度を設定することを特徴とするプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−162234(P2012−162234A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26199(P2011−26199)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
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