説明

船外機の操舵装置

【課題】操舵ハンドルからヘルム機構までの全長を短く抑えて多種の船体に設置可能な船外機の操舵装置を提供する。
【解決手段】船外機の操舵装置16は、ステアリングホイール37の操作でヘルム機構42を作動して船外機を操舵するものである。この操舵装置16は、ステアリングホイールに作用した操舵トルクに基づいてステアリングホイールの操作をアシストする電動アシスト機構41が設けられている。そして、ステアリングホイールのハンドル出力軸48に対してヘルム機構の駆動軸67が並列に設けられている。さらに、ハンドル出力軸の回転をヘルム機構に伝達可能な動力伝達手段44でハンドル出力軸およびヘルム機構が連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体に設けた操舵ハンドルを操作してヘルム機構(操舵機構)を作動し、作動するヘルム機構で船外機を操舵する船外機の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船体の後部に支持した船外機を操舵する操舵装置としてステアリングホイールやティラーハンドルが用いられる。
操舵装置のなかには、ステアリングホイール(以下、「操舵ハンドル」という)および油圧ヘルムポンプ(ヘルム機構)間にアシスト機構を設け、このアシスト機構で操舵ハンドルの操舵力(操作力)をアシスト(補助)するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1の操舵装置によれば、操舵ハンドルを操作したとき、操舵ハンドルの操舵力をアシスト機構でアシストすることで、ヘルム機構の駆動軸を比較的小さな操舵力で作動させることができる(すなわち、操舵ハンドルの操舵力を軽減できる)。
ヘルム機構の駆動軸を作動することで、ヘルム機構からオイルが吐出され、吐出されたオイルが舵取り手段に導かれる。舵取り手段にオイルが導かれることで、オイルで舵取り手段を作動させて船外機を操舵することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−231383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の操舵装置は、操舵ハンドルやアシスト機構にヘルム機構が同軸上に設けられ、操舵ハンドルからヘルム機構までの全長が長くなる。
よって、特許文献1の操舵装置を船体に設置するためには船体に比較的大きな設置空間を必要とする。このため、特許文献1の操舵装置を設置できる船体は、船体に比較的大きな設置空間を確保できるものに限られていた。
【0006】
本発明は、操舵ハンドルからヘルム機構までの全長を短く抑えて多種の船体に設置可能な船外機の操舵装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、船体に設けた操舵ハンドルを操作してヘルム機構を作動し、前記ヘルム機構の作動で船外機を操舵する船外機の操舵装置において、前記操舵ハンドルに作用した操舵トルクを検出し、検出した操舵トルクに基づいて前記ヘルム機構の操作をアシストする電動アシスト機構が設けられ、前記操舵ハンドルの出力軸に対して前記ヘルム機構の駆動軸が並列に設けられ、前記操舵ハンドルの出力軸の回転を前記ヘルム機構に伝達可能な動力伝達手段で前記操舵ハンドルの出力軸および前記ヘルム機構が連結されたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記動力伝達手段は、ギヤ、チェーン、ベルトのうちいずれかで構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記ヘルム機構は、前記船外機を油圧で操舵する油圧ヘルムポンプ、または、前記船外機を機械的に操舵するメカニカルヘルム機構であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記電動アシスト機構は、前記検出した操舵トルク、および前記船外機の推進プロペラを駆動するエンジンの回転数に基づいて制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、操舵ハンドルの出力軸(以下「ハンドル出力軸」という)に対してヘルム機構(操舵機構)の駆動軸を並列に設けた。そして、ハンドル出力軸およびヘルム機構を、ハンドル出力軸の回転をヘルム機構に伝達可能な動力伝達手段で連結した。
ハンドル出力軸に対してヘルム機構の駆動軸を並列に設けることで、ヘルム機構をハンドル出力軸の端部間に配置(レイアウト)することが可能になる。
【0012】
よって、ハンドル出力軸の端部からヘルム機構をハンドル出力軸の軸線方向に突出させないように配置でき、操舵ハンドルからヘルム機構までの全長を短く抑えることができる。
これにより、船外機の操舵装置のコンパクト化を図ることができ、この操舵装置を多種の船体に設置することができる。
【0013】
請求項2に係る発明では、動力伝達手段をギヤ、チェーン、ベルトのうちいずれかで構成した。
よって、操舵ハンドルの出力軸の回転をヘルム機構に簡単な構成で伝達できる。これにより、操舵ハンドルからヘルム機構までの全長を短く抑えるとともに、構成の簡素化やコスト低減を図ることができる。
【0014】
また、動力伝達手段としてギヤを用いた場合にはギヤ比、チェーンを用いた場合にはスプロケット比、ベルトを用いた場合にはプーリ比を変更することで、操舵ハンドルの転舵角を好適に調整することができる。
これにより、例えば、操舵ハンドルの転舵角を、船体を離岸させる場合や着岸させる場合の操作性に合わせて好適に調整することができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、ヘルム機構として油圧ヘルムポンプ(油圧操舵ポンプ)やメカニカルヘルム機構(メカニカル操舵機構)の両方を使用可能とした。
これにより、船外機の操舵装置を船体に取り付ける際に、油圧ヘルムポンプやメカニカルヘルム機構のうちから船体に適したものを選択でき、設計の自由度を高めることができる。
【0016】
請求項4に係る発明では、検出した操舵トルクに基づいて電動アシスト機構を制御するとともに、推進プロペラを駆動するエンジンの回転数に基づいて電動アシスト機構を制御するようにした。
ここで、エンジンの回転数を高くすると船体が高速状態(高速域)になり、推進プロペラの反力が大きくなる。このため、高速域では、操舵ハンドルの操舵力(操作力)が大きくなる。
一方、エンジンの回転数を低くすると船体が低速状態(低速域)になり、推進プロペラの反力が小さくなる。このため、低速域では、操舵ハンドルの操舵力が軽くなる。
【0017】
そこで、請求項4において、推進プロペラを駆動するエンジンの回転数に基づいて電動アシスト機構を制御するようにした。
よって、高速滑走域において、電動アシスト機構による操舵ハンドルの操舵力(アシスト力)が大きくなるように制御することで、操作者による操舵ハンドルの操舵力を軽減することができる。
【0018】
一方、低速滑走域において、電動アシスト機構による操舵ハンドルの操舵力(アシスト力)を小さく抑えるように制御することで、操作者による操舵ハンドルの操舵力を適正に保つことができる。
このように、高速域において操舵ハンドルの操舵力を軽減し、低速域において操舵ハンドルの操舵力を適正に保つことで、操舵ハンドルの操縦安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る船外機の操舵装置(実施例1)を備えた船体を示す平面図である。
【図2】図1の操舵装置を示す側面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】実施例1に係る操舵装置のトルクセンサを示す断面図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】本発明に係る船外機の操舵装置(実施例2)を示す側面図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】本発明に係る動力伝達手段(実施例3)を示す側面図である。
【図9】本発明に係る動力伝達手段(実施例4)を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は操作者から見た方向にしたがい、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【実施例1】
【0021】
実施例1に係る船外機の操舵装置16について説明する。
図1に示すように、船外機10は、船体11の船尾12に設けられた船外機本体13と、船外機本体13を操舵するシリンダユニット14と、シリンダユニット14を操作する船外機の操舵装置(以下、「操舵装置」という)16とを備えている。
【0022】
船外機本体13は、船体11の船尾12にスイベル軸21を介して左右方向に揺動自在(スイング自在)に支持されている。
船外機本体13は、エンジン22が内蔵され、エンジン22の出力軸に推進プロペラ23が連結されている。
【0023】
シリンダユニット14は、船体11の船尾12に設けられた操舵シリンダ25と、操舵シリンダ25の操舵ピストン26にアーム27を連結するロッド28とを備えている。
アーム27は船外機本体13に設けられている。
操舵シリンダ25は、左端部25aが左操舵用配管31を介してヘルム機構42(後述する)の左ポート部77に連通されるとともに、右端部25bが右操舵用配管32を介してヘルム機構42の右ポート部78に連通されている。
【0024】
左操舵用配管31にヘルム機構(操舵機構)42から油圧が作用することで操舵ピストン26が右方向に矢印Aの如く移動する。これにより、船外機本体13がスイベル軸21を中心にして左方向に矢印Bの如く揺動する。
一方、右操舵用配管32にヘルム機構42から油圧が作用することで操舵ピストン26が左方向に矢印Cの如く移動する。これにより、船外機本体13がスイベル軸21を中心にして右方向に矢印Dの如く揺動する。
【0025】
図2、図3に示すように、操舵装置16は、船体11のインストルメントパネル15に設けられたアッパホルダ34と、アッパホルダ34に設けられたロアホルダ35と、ロアホルダ35内に回転自在に設けられたハンドル軸ユニット36と、ハンドル軸ユニット36の上部に設けられたステアリングホイール(操舵ハンドル)37とを備えている。
【0026】
さらに、操舵装置16は、ハンドル軸ユニット36の下部に連結された電動アシスト機構41と、電動アシスト機構41から離れた位置に設けられたヘルム機構42と、ヘルム機構42および電動アシスト機構41を連結する動力伝達手段44と、電動アシスト機構41を制御する制御部43(図1参照)とを備えている。
【0027】
この操舵装置16は、船体11に設けられたステアリングホイール37を操作してヘルム機構42を作動し、ヘルム機構42の作動で船外機本体13(図1参照)を操舵する機能を備えている。
さらに、操舵装置16は、ステアリングホイール37を操作する際に、ステアリングホイール37の操作性を電動アシスト機構41で高める機能を備えている。
【0028】
図4、図5に示すように、ハンドル軸ユニット36は、ステアリングホイール37に連結されたハンドル軸45と、ハンドル軸45の下端部45aに上端部47aが連結された中空状のハンドル入力軸47と、ハンドル入力軸47の下方に同軸上に設けられたハンドル出力軸(出力軸)48とを備えている。
ハンドル出力軸48は、ハンドル入力軸47に対して同軸上に回動自在に支持されている。
【0029】
電動アシスト機構41は、ハンドル入力軸47に伝えられた操舵トルクを検出するトルクセンサ51と、検出した操舵トルクに基づいて作動する電動アクチュエータ52と、電動アクチュエータ52の出力軸53をハンドル出力軸48に連結するアシストギヤ機構54とを備えている。
【0030】
トルクセンサ51は、ハンドル入力軸47に上端部56aが連結されるとともにハンドル出力軸48に下端部56bが連結されたトーションバー56と、トーションバー56(具体的には、ハンドル入力軸47)に軸線方向に移動自在に支持されたトルクリング57と、トルクリング57の外側に設けられたコイル58とを備えた一般的なセンサである。
【0031】
このトルクセンサ51は、ハンドル入力軸47に操舵トルクが伝えられたとき、トーションバー56に捩れが生じ、トーションバー56の捩れに基づいてトルクリング57をハンドル入力軸47の軸線方向に移動し、トルクリング57の移動量をコイル58で検出し、検出した移動量に基づいて操舵トルクを検出するものである。
【0032】
検出された操舵トルクは制御部43(図1参照)に伝えられる。
制御部43は、伝えられた操舵トルクに基づいて電動アクチュエータ52に駆動信号を出力する。
電動アクチュエータ52は、制御部43からの駆動信号に基づいて駆動する(具体的には、出力軸53を回転する)通常の電動モータである。
出力軸53にはアシストギヤ機構54のピニオン61(図5参照)が設けられている。
【0033】
アシストギヤ機構54は、電動アクチュエータ52の出力軸53に設けられたピニオン61と、ピニオン61に噛み合うとともにハンドル出力軸48に設けられたヘリカルギヤ(はすば歯車)62とを備えている。
ここで、電動アクチュエータ52の出力軸53は、ステアリングホイール37に連結されたハンドル軸ユニット36(ハンドル出力軸48)に対して直交に配置されている。
【0034】
ピニオン61をヘリカルギヤ62に噛み合わせることで、ピニオン61の回転をヘリカルギヤ62を介してハンドル出力軸48に伝えることができる。
ピニオン61は、検出した操舵トルクに基づいて電動アクチュエータ52が作動することにより出力軸53と一体に回転する。
よって、電動アクチュエータ52(電動アシスト機構41)でハンドル出力軸48の回転をアシスト(補助)することができる。
【0035】
これにより、ステアリングホイール37の操舵力(操舵トルク)を電動アシスト機構41でアシスト(補助)することができる。
したがって、ステアリングホイール37を操作する際に、ステアリングホイール37を比較的小さな操舵力で操作することができ、操作性を高めることができる。
【0036】
加えて、電動アシスト機構41は、後述するように、図1に示すエンジン22の回転数(以下、「エンジン回転数」という)に基づいて、ステアリングホイール37の操舵力(操舵トルク)をアシスト(補助)する機能を備えている。
すなわち、電動アシスト機構41は、検出した操舵トルクや、エンジン回転数に基づいてステアリングホイール37の操作を好適に制御可能に構成されている。
【0037】
電動アシスト機構41(具体的には、アシストギヤ機構54)のヘリカルギヤ(はすば歯車)62から下方にハンドル出力軸48が突出されている。
ハンドル出力軸48の下端部(端部)48aが動力伝達手段44を介してヘルム機構42(図2参照)に連結されている。
【0038】
図2、図3に示すように、動力伝達手段44は、ハンドル出力軸48の下端部48aに同軸上に設けられた駆動ギヤ(ギヤ)64と、駆動ギヤ64に噛み合うとともにヘルム機構42の駆動軸67に同軸上に設けられた従動ギヤ(ギヤ)65とで構成されている。
よって、ハンドル出力軸48の回転を駆動ギヤ64に伝え、駆動ギヤ64の回転を従動ギヤ65に伝え、従動ギヤ65の回転をヘルム機構42の駆動軸67に伝えることができる。
このように、動力伝達手段44を駆動ギヤ64および従動ギヤ65で構成することで、ハンドル出力軸48の回転をヘルム機構42に簡単な構成で伝達できる。
【0039】
また、動力伝達手段44(すなわち、駆動ギヤ64および従動ギヤ65)のギヤ比を変更することで、ステアリングホイール37の転舵角を好適に調整することができる。
これにより、例えば、ステアリングホイール37の転舵角を、船体11(図1参照)を離岸させる場合や着岸させる場合の操作性に合わせて好適に調整することができる。
【0040】
さらに、ハンドル出力軸48およびヘルム機構42の駆動軸67を、動力伝達手段44を介して連結することで、駆動軸67をハンドル出力軸48に対して並列に設けることが可能になる。
ハンドル出力軸48に対して駆動軸67を並列に設けることで、ステアリングホイール37およびハンドル出力軸48の下端部48a間、具体的には下端部48aの上方にヘルム機構42を配置(レイアウト)できる。
【0041】
よって、ハンドル出力軸48の下端部48aからヘルム機構42をハンドル出力軸48の軸線方向(下方)に突出させないように配置することができる。
これにより、ステアリングホイール37からヘルム機構42までの全長L1を短く抑えることができる。
したがって、操舵装置16のコンパクト化を図ることができ、この操舵装置16を多種の船体11(図1も参照)に設置することができる。
【0042】
加えて、前述したように、動力伝達手段44を駆動ギヤ64および従動ギヤ65で構成することで、ハンドル出力軸48の回転をヘルム機構42に簡単な構成で伝達できる。
これにより、ステアリングホイール37からヘルム機構42までの全長L1を短く抑えるとともに、動力伝達手段44の簡素化やコスト低減を図ることができる。
【0043】
ヘルム機構42は、船外機本体13を油圧で操舵する油圧ヘルムポンプ(油圧操舵ポンプ)である。
このヘルム機構42は、駆動軸67が回転することで駆動軸67と一体に回転体71が回転する。回転体71が回転することで、回転体71と一体にピストン72が回転する。
ピストン72はベアリング73を介して斜板74に対して摺接しながら回転することで、ピストン72が軸線方向に摺動してシリンダ75内のオイルを吐出する。
すなわち、ヘルム機構42は、通常用いられているピストンポンプ(プランジャポンプ)である。
【0044】
ここで、ヘルム機構42の左ポート部77に左操舵用配管31が連通され、ヘルム機構42の右ポート部78に右操舵用配管32が連通されている。
ヘルム機構42からオイルを吐出することで、操舵シリンダ25の左操舵用配管31および右操舵用配管32の何れか一方に油圧が作用する。
【0045】
よって、図1に示す操舵シリンダ25の操舵ピストン26を左方向および右方向の一方に移動する。
これにより、船外機本体13(図1参照)がスイベル軸21を中心にして左方向および右方向の一方に揺動することにより、船体11を左方向および右方向の一方に転舵することができる。
このように、ヘルム機構42を用いることで、船外機本体13を油圧で操舵することが可能になる。
【0046】
図1、図4に示すように、制御部43は、トルクセンサ51で検出した操舵トルクに基づいて電動アシスト機構41(電動アクチュエータ52)に駆動信号を伝える機能を備えている。
よって、前述したように、ステアリングホイール37を操舵する際に、ステアリングホイール37の操舵力(操舵トルク)F1を電動アシスト機構41でアシスト(補助)することができる。
これにより、ステアリングホイール37を比較的小さな操舵力F1で操作することができ、操作性を高めることができる。
【0047】
ここで、エンジン22の回転数を高くすると船体11が高速滑走状態(高速滑走域)になり、推進プロペラ23の反力が大きくなる。このため、高速滑走域では、ステアリングホイール37の操舵力F1が大きくなる。
一方、エンジン22の回転数を低くすると船体11が低速滑走状態(低速滑走域)になり、推進プロペラ23の反力が小さくなる。このため、低速滑走域では、ステアリングホイール37の操舵力F1が軽くなる。
【0048】
そこで、制御部43は、エンジン回転数に基づいて電動アシスト機構41(電動アクチュエータ52)に駆動信号を伝える機能を備えるようにした。
具体的には、エンジン回転数を回転数検出手段81(図1参照)で検出し、検出した信号を制御部43に伝える。
エンジン回転数が高回転の場合、電動アシスト機構41によるアシストを促進するような信号を制御部43から電動アクチュエータ52に伝える。
よって、高速滑走域において、ステアリングホイール37に作用する操舵力(アシスト力)が大きくなるように電動アシスト機構41を制御できる。
これにより、操作者によるステアリングホイール37の操舵力F1を軽減することができる。
【0049】
一方、エンジン回転数が低回転の場合、電動アシスト機構41によるアシストを抑えるような信号を制御部43から電動アクチュエータ52に伝える。
よって、低速滑走域において、ステアリングホイール37に作用する操舵力(アシスト力)を小さく抑えるように電動アシスト機構41を制御できる。
これにより、操作者によるステアリングホイール37の操舵力F1を適正に保つことができる。
【0050】
このように、高速滑走域においてステアリングホイール37の操舵力F1を軽減し、低速滑走域においてステアリングホイール37の操舵力F1を適正に保つことで、操作者によるステアリングホイール37の操縦安定性を向上させることができる。
【0051】
つぎに、実施例2〜4を図6〜図9に基づいて説明する。
なお、実施例2〜4において実施例1の操舵装置16と同一・類似部材については同じ符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0052】
実施例2に係る船外機の操舵装置90について説明する。
図6〜図7に示すように、操舵装置90は、実施例1のヘルム機構42に代えてメカニカルヘルム機構(メカニカル操舵機構)92を設けたものでその他の構成は実施例1の操舵装置16と同じである。
【0053】
メカニカルヘルム機構92は、駆動軸67にプーリ93(図7参照)が同軸上に設けられ、プーリ93の外周93aに操作ケーブル94が取り付けられている。
操作ケーブル94は、ケース95から外部に引き出され、一対の端部94a,94bが船外機本体13(図1も参照)まで延出されている。
一端部94aが操舵ロッド97の右端部97aに連結され、他端部94bが操舵ロッド97の左端部97bに連結されている。
【0054】
メカニカルヘルム機構92によれば、ステアリングホイール37を左方向に操舵することで、ハンドル出力軸48が反時計回り方向に回転し、動力伝達手段44を介して駆動軸67が左側面視で時計回り方向に回転する。
駆動軸67と一体にプーリ93が左側面視で時計回り方向に回転することで、操作ケーブル94の一端部94aが矢印Eの如く引き戻される。
よって、操舵ロッド97が右方向に移動し、船外機本体13がスイベル軸21を中心にして左方向に揺動する。
【0055】
一方、ステアリングホイール37を右方向に操舵することで、ハンドル出力軸48が時計回り方向に回転し、動力伝達手段44を介して駆動軸67が左側面視で反時計回り方向に回転する。
駆動軸67と一体にプーリ93が左側面視で反時計回り方向に回転することで、操作ケーブル94の他端部94bが矢印Fの如く引き戻される。
よって、操舵ロッド97が左方向に移動し、船外機本体13がスイベル軸21を中心にして右方向に揺動する。
すなわち、メカニカルヘルム機構92は、船外機本体13を機械的に操舵する機構である。
【0056】
実施例2でメカニカルヘルム機構92を使用可能とすることで、ヘルム機構としてヘルム機構42(実施例1)やメカニカルヘルム機構92(実施例2)の両方を用いることができる。
これにより、ヘルム機構42やメカニカルヘルム機構92のうちから船体11に適したヘルム機構を選択することが可能になり、設計の自由度を高めることができる。
【0057】
さらに、実施例2に係る操舵装置90によれば、実施例1に係る操舵装置16と同様に、ハンドル出力軸48およびメカニカルヘルム機構92の駆動軸67を、動力伝達手段44を介して連結することで、駆動軸67をハンドル出力軸48に対して並列に設けることが可能になる。
ハンドル出力軸48に対して駆動軸67を並列に設けることで、ステアリングホイール37およびハンドル出力軸48の下端部48a間、具体的には下端部48aの上方にメカニカルヘルム機構92を配置(レイアウト)できる。
【0058】
よって、ハンドル出力軸48の下端部48aからメカニカルヘルム機構92をハンドル出力軸48の軸線方向(下方)に突出させないように配置することができる。
これにより、ステアリングホイール37からメカニカルヘルム機構92までの全長L2を短く抑えることができる。
したがって、操舵装置90のコンパクト化を図ることができ、この操舵装置90を多種の船体11(図1も参照)に設置することができる。
【0059】
加えて、実施例2に係る操舵装置90によれば、実施例1に係る操舵装置16と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0060】
実施例3に係る動力伝達手段100について説明する。
図8に示すように、動力伝達手段100は、実施例1(動力伝達手段44)の駆動ギヤ64および従動ギヤ65に代えてチェーン102を設けたものでその他の構成は実施例1、2の動力伝達手段44と同じである。
【0061】
具体的には、ハンドル出力軸48の下端部48aに駆動スプロケット103が同軸上に設けられている。
また、駆動軸67の下端部67aに従動スプロケット104が同軸上に設けられている。
そして、駆動スプロケット103および従動スプロケット104に無端状のチェーン102が巻回されている。
この状態で、駆動スプロケット103の周壁に形成された複数の突起がチェーン102に噛み合うとともに、従動スプロケット104の周壁に形成された複数の突起がチェーン102に噛み合っている。
【0062】
よって、動力伝達手段100によれば、実施例1、2の動力伝達手段44と同様に、ハンドル出力軸48の回転を駆動スプロケット103に伝え、駆動スプロケット103の回転をチェーン102を介して従動スプロケット104に伝え、従動スプロケット104の回転をメカニカルヘルム機構92の駆動軸67に伝えることができる。
【0063】
このように、動力伝達手段100をチェーン102で構成することで、ハンドル出力軸48の回転をメカニカルヘルム機構92に簡単な構成で伝達できる。
これにより、ステアリングホイール37からメカニカルヘルム機構92までの全長L2を短く抑えるとともに、動力伝達手段100の簡素化やコスト低減を図ることができる。
【0064】
また、動力伝達手段100(すなわち、駆動スプロケット103および従動スプロケット104)のスプロケット比(すなわち、各スプロケット径の比)を変更することで、ステアリングホイール37の転舵角を好適に調整することができる。
これにより、例えば、ステアリングホイール37の転舵角を、船体11(図1参照)を離岸させる場合や着岸させる場合の操作性に合わせて好適に調整することができる。
【実施例4】
【0065】
実施例4に係る動力伝達手段110について説明する。
図9に示すように、動力伝達手段110は、実施例1(動力伝達手段44)の駆動ギヤ64および従動ギヤ65に代えてベルト112を設けたものでその他の構成は実施例1、2の動力伝達手段44と同じである。
【0066】
具体的には、ハンドル出力軸48の下端部48aに駆動プーリ113が同軸上に設けられている。
また、駆動軸67の下端部67aに従動プーリ114が同軸上に設けられている。
そして、駆動プーリ113および従動プーリ114に無端状のベルト112が巻回されている。
よって、動力伝達手段110によれば、実施例1、2の動力伝達手段44と同様に、ハンドル出力軸48の回転をベルト112を介してメカニカルヘルム機構92の駆動軸67に伝えることができる。
【0067】
このように、動力伝達手段110をベルト112で構成することで、ハンドル出力軸48の回転をメカニカルヘルム機構92に簡単な構成で伝達できる。
これにより、ステアリングホイール37からメカニカルヘルム機構92までの全長L2を短く抑えるとともに、動力伝達手段110の簡素化やコスト低減を図ることができる。
【0068】
また、動力伝達手段110(すなわち、駆動プーリ113および従動プーリ114)のプーリ比(すなわち、各プーリ径の比)を変更することで、ステアリングホイール37の転舵角を好適に調整することができる。
これにより、例えば、ステアリングホイール37の転舵角を、船体11(図1参照)を離岸させる場合や着岸させる場合の操作性に合わせて好適に調整することができる。
【0069】
なお、本発明に係る船外機の操舵装置16,90は、前述した実施例に限定されるものではなく適宜変更、改良などが可能である。
例えば、前記実施例1〜4では、操舵ハンドルとしてステアリングホイール37を例示したが、これに限定しないで、ティラーハンドルなどの他の操舵ハンドルを用いることも可能である。
【0070】
また、前記実施例1では、ヘルム機構42としてピストンポンプ(プランジャポンプ)を用いた例について説明したが、これに限らないで、ヘルム機構42としてシリンダ形式の油圧発生デバイスなどの他のポンプを用いることも可能である。
シリンダ形式の油圧発生デバイスは、例えば、駆動軸が回転することで駆動軸と一体にピニオンが回転し、ピニオンの回転でラックがシリンダの軸線方向に移動し、ラックの移動で一対のピストンがシリンダの軸線方向に移動し、ピストンの移動でシリンダ内のオイルを吐出するように構成されている。
【0071】
さらに、前記実施例1〜4で示した船外機10、船体11、エンジン22、推進プロペラ23、ステアリングホイール37、電動アシスト機構41、ヘルム機構42、制御部43、動力伝達手段44,100,110、ハンドル出力軸48、電動アクチュエータ52、駆動ギヤ64、従動ギヤ65、ヘルム機構の駆動軸67、メカニカルヘルム機構92、チェーン102およびベルト112などの形状や構成は例示したものに限定するものではなく適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、船体に設けた操舵ハンドルを操作してヘルム機構を作動し、作動するヘルム機構で船外機を操舵する操舵装置を備えた船外機への適用に好適である。
【符号の説明】
【0073】
10…船外機、11…船体、16,90…操舵装置(船外機の操舵装置)、22…エンジン、23…推進プロペラ、37…ステアリングホイール(操舵ハンドル)、41…電動アシスト機構、42…ヘルム機構、43…制御部、44,100,110…動力伝達手段、48…ハンドル出力軸(出力軸)、52…電動アクチュエータ、64…駆動ギヤ(ギヤ)、65…従動ギヤ(ギヤ)、67…ヘルム機構の駆動軸、92…メカニカルヘルム機構、102…チェーン、112…ベルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に設けた操舵ハンドルを操作してヘルム機構を作動し、前記ヘルム機構の作動で船外機を操舵する船外機の操舵装置において、
前記操舵ハンドルに作用した操舵トルクを検出し、検出した操舵トルクに基づいて前記ヘルム機構の操作をアシストする電動アシスト機構が設けられ、
前記操舵ハンドルの出力軸に対して前記ヘルム機構の駆動軸が並列に設けられ、
前記操舵ハンドルの出力軸の回転を前記ヘルム機構に伝達可能な動力伝達手段で前記操舵ハンドルの出力軸および前記ヘルム機構が連結されたことを特徴とする請求項1記載の船外機の操舵装置。
【請求項2】
前記動力伝達手段は、
ギヤ、チェーン、ベルトのうちいずれかで構成されていることを特徴とする請求項1記載の船外機の操舵装置。
【請求項3】
前記ヘルム機構は、
前記船外機を油圧で操舵する油圧ヘルムポンプ、または、前記船外機を機械的に操舵するメカニカルヘルム機構であることを特徴とする請求項1記載の船外機の操舵装置。
【請求項4】
前記電動アシスト機構は、
前記検出した操舵トルク、および前記船外機の推進プロペラを駆動するエンジンの回転数に基づいて制御されることを特徴とする請求項1記載の船外機の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−105222(P2011−105222A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264041(P2009−264041)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)