説明

船外機用多気筒エンジン

【課題】船外機用多気筒エンジンに、良好な排気効率と消音効果とが得られるようにし、かつ、このようにした場合でも、エンジンを小型にできると共に、構成を簡単にできるようにする。
【解決手段】船外機用多気筒エンジンのエンジン本体14は、縦方向に延びる軸心19のクランク軸20を支持するクランクケース18と、このクランクケース18から水平方向の外方に突出し、縦方向に複数並設されるシリンダ24とを備える。これら各シリンダ24のシリンダヘッド26に、各シリンダ24毎に個別に排気ポート34を形成する。各排気ポート34の下流端からそれぞれ延出して、これら各排気ポート34と個別に互いに連通する複数の排気通路52と、これら各排気通路52の延出端と互いに連通する膨張室53とを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各シリンダのシリンダヘッドに形成された排気ポートの下流端からそれぞれ延出する排気通路と、これら各排気通路の延出端と互いに連通する膨張室とが形成された船外機用多気筒エンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記船外機用多気筒エンジンには、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、エンジンのエンジン本体は、縦方向に延びる軸心のクランク軸を支持するクランクケースと、このクランクケースから水平方向の外方に突出し、縦方向に複数並設されるシリンダとを備えている。これら各シリンダのシリンダヘッドに、上記各シリンダ毎に個別に排気ポートが形成されている。これら各排気ポートの下流端からそれぞれ延出して、これら各排気ポートと互いに連通する複数の排気通路が形成されている。
【0003】
また、点火順序が連続しない上記各シリンダから延出する上記排気通路の各下流端が互いに合流させられて複数の合流排気通路が形成され、また、これら合流排気通路の各下流端が互いに合流させられた後、膨張室を通り大気側に連通させられている。
【0004】
上記エンジンの駆動時に、上記各シリンダから排出される排気は、上記各排気通路を通った後、各合流排気通路に流入させられる。この場合、一つの合流排気通路に連通する各排気通路に対応した上記各シリンダの点火順序は、前記したように連続しておらず、このため、上記各シリンダからの排気のタイミングはより明確に互いに相違する。よって、上記合流排気通路で上記各シリンダからの排気同士が干渉し合うということは防止され、良好な排気効率が得られることとなる。
【0005】
そして、その後、上記各排気は、上記合流排気通路の各下流端で互いに合流させられた後、膨張室を通ることにより消音させられて、大気側に排出されるようになっている。
【特許文献1】特開平9−49425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の技術によれば、上記したように、各シリンダからの排気同士の干渉が防止されて良好な排気効率が得られ、また、排気についての消音効果も得られる。しかし、これらを得るために、上記各排気通路は、2段階で合流させられていて、その全長が長くなっている。このため、上記各排気通路の占有空間が大きくなって、エンジンが大型になりがちであり、また、構成が複雑になるという不都合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、船外機用多気筒エンジンに、良好な排気効率と消音効果とが得られるようにし、かつ、このようにした場合でも、エンジンを小型にできると共に、構成を簡単にできるようにすることである。
【0008】
請求項1の発明は、エンジン本体14が、縦方向に延びる軸心19のクランク軸20を支持するクランクケース18と、このクランクケース18から水平方向の外方に突出し、縦方向に複数並設されるシリンダ24とを備え、これら各シリンダ24のシリンダヘッド26に、上記各シリンダ24毎に個別に排気ポート34を形成した船外機用多気筒エンジンにおいて、
上記各排気ポート34の下流端からそれぞれ延出して、これら各排気ポート34と個別に互いに連通する複数の排気通路52と、これら各排気通路52の延出端と互いに連通する膨張室53とを形成したものである。
【0009】
請求項2の発明は、船外機5の平面視(図1,5,7)で、上記各シリンダ24に隣接するよう上記膨張室53を形成したものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1、もしくは2の発明に加えて、船外機5の平面視(図1)で、上記エンジン11が一対のバンク21,22を有するV型エンジンであり、これら両バンク21,22の間に上記排気通路52と膨張室53との少なくとも一部分を位置させると共に、上記各バンク21,22のシリンダ孔28の軸心32同士の間に上記排気通路52と膨張室53とを位置させたものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3の発明に加えて、上記各排気通路52を形成する排気管49と膨張室53を形成する膨張室ケース50とを互いに一体成形し、これら排気管49と膨張室ケース50との一体物59を、上記シリンダヘッド26とは別体に設けて、このシリンダヘッド26に取り付けたものである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項3、もしくは4の発明に加えて、船外機5の平面視(図1)で、上記シリンダ24の突出端部の外面に沿うよう上記排気通路52を屈曲させたものである。
【0013】
請求項6の発明は、請求項4の発明に加えて、上記シリンダヘッド26と上記一体物59との互いの接合面60に、上記各排気ポート34の下流端部開口、この開口に連通する上記各排気通路52の上流端部開口、上記膨張室53を上記一体物59の外部に連通させる排出口54、および上記シリンダヘッド26に形成されて上記排出口54に連通する他の排気通路56の上流端部開口をそれぞれ形成し、上記両接合面60を平坦面としたものである。
【0014】
請求項7の発明は、特に、図4−7に例示するように、請求項1、もしくは2の発明に加えて、点火順序が連続しない各シリンダ24から延出する上記排気通路52の各下流端を互いに合流させる複数の合流通路70,71を形成し、これら合流通路70,71の各下流端側を上記膨張室53に連通させたものである。
【0015】
請求項8の発明は、特に、図4−7に例示するように、請求項1の発明に加えて、上記膨張室53を上記エンジン本体14に形成したものである。
【0016】
請求項9の発明は、請求項7、もしくは8の発明に加えて、上記各排気通路52の長さを互いにほぼ同じとしたものである。
【0017】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0018】
本発明による効果は、次の如くである。
【0019】
請求項1の発明は、エンジン本体が、縦方向に延びる軸心のクランク軸を支持するクランクケースと、このクランクケースから水平方向の外方に突出し、縦方向に複数並設されるシリンダとを備え、これら各シリンダのシリンダヘッドに、上記各シリンダ毎に個別に排気ポートを形成した船外機用多気筒エンジンにおいて、
上記各排気ポートの下流端からそれぞれ延出して、これら各排気ポートと個別に互いに連通する複数の排気通路と、これら各排気通路の延出端と互いに連通する膨張室とを形成している。
【0020】
このため、上記各排気通路は互いに合流することなく、それぞれ膨張室に連通させられる。よって、上記各排気通路を通る排気同士が互いに干渉し合う、ということは防止されて良好な排気効率が得られる。また、上記各排気通路を通る排気は、上記膨張室に流入させられるため、良好な消音効果が得られる。
【0021】
また、上記各排気通路は、上記シリンダヘッドの各排気ポートを単に膨張室に連通させるためのものであって、短くて足りる。よって、エンジンを小型にでき、これにより、このエンジンを覆うカウリングを小型にできるなど、船外機を小型にできる。また、上記各排気通路は互いに合流する部分がなくて、単純な形状であるため、上記エンジンの構成を簡単にできる。
【0022】
請求項2の発明は、船外機の平面視で、上記各シリンダに隣接するよう上記膨張室を形成している。
【0023】
このため、上記各シリンダと膨張室とは互いに緊密に配置されて、エンジンを小型にできる。また、上記各シリンダのシリンダヘッドに形成された排気ポートを上記膨張室に連通させる各排気通路は短くて足りる。よって、上記エンジンの構成を簡単にできる。
【0024】
請求項3の発明は、船外機の平面視で、上記エンジンが一対のバンクを有するV型エンジンであり、これら両バンクの間に上記排気通路と膨張室との少なくとも一部分を位置させると共に、上記各バンクのシリンダ孔の軸心同士の間に上記排気通路と膨張室とを位置させている。
【0025】
このため、上記両バンクの間の空間が上記排気通路や膨張室の配置に有効利用されると共に、これら各バンク、排気通路、および膨張室が互いに緊密に配置される。よって、上記エンジンを小型にできる。
【0026】
請求項4の発明は、上記各排気通路を形成する排気管と膨張室を形成する膨張室ケースとを互いに一体成形し、これら排気管と膨張室ケースとの一体物を、上記シリンダヘッドとは別体に設けて、このシリンダヘッドに取り付けている。
【0027】
このため、上記シリンダヘッド、各排気管、および膨張室ケースを一体成形することに比べて、上記シリンダヘッドの形状や大きさの影響を受けることなく、上記各排気管と膨張室ケースとを所望形状に成形することが容易にできる。
【0028】
また、上記両バンクの間にノックセンサなどの構成部品を組み付ける場合、この組み付け作業は、上記両バンクの各シリンダヘッドに上記一体物を取り付ける以前にすればよい。このようにすれば、上記組み付け作業において、上記一体物が邪魔になることが防止されて、この作業が容易にできる。
【0029】
請求項5の発明は、船外機の平面視で、上記シリンダの突出端部の外面に沿うよう上記排気通路を屈曲させている。
【0030】
このため、上記シリンダから上記排気通路が外方に大きく突出する、ということが防止されて、エンジンを小型にできる。
【0031】
また、上記したように排気通路を屈曲させたため、上記エンジンを小型にしつつ上記排気通路の通路長を長くできる。よって、排気脈動による負圧の吸出しなどの効果を十分に利用でき、エンジン出力を向上させることができる。
【0032】
請求項6の発明は、上記シリンダヘッドと上記一体物との互いの接合面に、上記各排気ポートの下流端部開口、この開口に連通する上記各排気通路の上流端部開口、上記膨張室を上記一体物の外部に連通させる排出口、および上記シリンダヘッドに形成されて上記排出口に連通する他の排気通路の上流端部開口をそれぞれ形成し、上記両接合面を平坦面としている。
【0033】
このため、上記各通路の開口を形成している上記両接合面に、その面方向で段差の生じることが防止されて、上記シリンダヘッドと一体物との各接合面同士の面接合が精度よくできる。よって、上記両接合面間のシール性が向上する。
【0034】
請求項7の発明は、点火順序が連続しない各シリンダから延出する上記排気通路の各下流端を互いに合流させる複数の合流通路を形成し、これら合流通路の各下流端側を上記膨張室に連通させている。
【0035】
このため、上記シリンダから各排気通路を通り一つの合流通路に流入させられる各排気のタイミングは、より明確に互いに相違する。よって、上記合流通路で上記各排気が互いに干渉し合う、ということが防止され、より良好な排気効率が得られて、エンジン出力を向上させることができる。
【0036】
請求項8の発明は、上記膨張室を上記エンジン本体に形成している。
【0037】
このため、上記膨張室を形成する膨張室ケースを上記エンジン本体とは別体として設けることに比べて、エンジンの部品点数が少なくできる。よって、このエンジンの構成を、より簡単にできる。
【0038】
請求項9の発明は、上記各排気通路の長さを互いにほぼ同じとしている。
【0039】
このため、上記各排気通路における排気脈動による効果を、それぞれムラなく均一に向上させることができる。よって、各シリンダからの排気において安定した排気効率が得られて、エンジン出力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の船外機用多気筒エンジンに関し、船外機用多気筒エンジンに、良好な排気効率と消音効果とが得られるようにし、かつ、このようにした場合でも、エンジンを小型にできると共に、構成を簡単にできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0041】
即ち、船外機用多気筒エンジンのエンジン本体は、縦方向に延びる軸心のクランク軸を支持するクランクケースと、このクランクケースから水平方向の外方に突出し、縦方向に複数並設されるシリンダとを備えている。これら各シリンダのシリンダヘッドに、上記各シリンダ毎に個別に排気ポートが形成されている。上記各排気ポートの下流端からそれぞれ延出して、これら各排気ポートと個別に互いに連通する複数の排気通路と、これら各排気通路の延出端と互いに連通する膨張室とが形成されている。
【実施例1】
【0042】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例1を添付の図1−3に従って説明する。
【0043】
図2において、符号1は水2の表面に浮かべられる船である。また、矢印Frは、この船1の推進方向の前方を示している。
【0044】
上記船1は、船体3と、この船体3の船尾4に支持される船外機5とを備えている。この船外機5は、上記船体3の後方に配置され、推進力を生じて上記船体3を推進可能とさせる船外機本体6と、この船外機本体6を船尾4に対し、着脱可能に支持させるブラケット7とを備えている。
【0045】
上記船外機本体6は、縦方向に延びて、その上部が上記ブラケット7により船尾4に支持され、下部が水2に没入されるケース9と、このケース9の下端部に支持されるプロペラ10と、上記ケース9の上端部に支持されるエンジン11と、上記ケース9内に収容され、上記エンジン11に上記プロペラ10を連動連結させる動力伝達機構12と、上記エンジン11をその外方から開閉可能に覆うカウリング13とを備えている。
【0046】
図1−3において、上記エンジン11は4サイクルV型多気筒(シリンダ)エンジンであって、上記ケース9の上面側に支持されるエンジン本体14、吸気装置15、および排気装置16を備えている。
【0047】
上記エンジン本体14は、上記ケース9の上面側に支持され、内部がクランク室17とされるクランクケース18と、縦方向に延びる軸心19回りに回転可能となるよう上記クランクケース18に支持されるクランク軸20と、上記クランクケース18から水平方向の外方である後方に向かって、平面視(図3)でV型に突出する左右バンク21,22とを備えている。
【0048】
上記各バンク21,22は、それぞれ縦方向に並設される複数(4つ)のシリンダ24を備えている。具体的には、上記各バンク21,22は、上記クランクケース18から後方に突出するシリンダブロック25と、このシリンダブロック25の突出端に取り付けられるシリンダヘッド26と、このシリンダヘッド26の突出端面側に取り付けられるシリンダヘッドカバー27と、上記シリンダブロック25に形成された複数(4つ)のシリンダ孔28にそれぞれ軸方向摺動可能に嵌入されるピストン29と、上記クランク軸20と各ピストン29とを互いに連動連結させる連接棒30とを備えている。
【0049】
上記各シリンダ孔28内で、上記シリンダヘッド26と上死点近傍のピストン29とで挟まれた空間が燃焼室31とされている。上記各シリンダ24は、1つのシリンダ孔28が形成されたシリンダブロック25の部分と、このシリンダブロック25の部分に対応するシリンダヘッド26およびシリンダヘッドカバー27の各部分とで構成される。
【0050】
上記シリンダヘッド26には、上記各シリンダ24毎に上記燃焼室31とシリンダヘッド26の外部とを互いに連通させる吸、排気ポート33,34が形成されている。これら吸、排気ポート33,34を開閉可能とする吸、排気弁35,36が設けられる。また、上記クランク軸20に連動して上記吸、排気弁35,36を開、閉弁動作させる動弁装置37が設けられる。上記各吸気ポート33の上流端は、上記両バンク21,22の各外側面に形成されている。一方、上記各排気ポート34の下流端は、上記両バンク21,22の互いの対向面に形成されている。
【0051】
上記動弁装置37は、上記シリンダヘッド26とシリンダヘッドカバー27との間に形成されたカム室38に配置される吸、排気カム軸39,40を備えている。これら吸、排気カム軸39,40は、上記クランク軸20の軸心19と平行な軸心回りに回動可能となるよう上記シリンダヘッド26に支持され、上記吸、排気弁35,36にカム係合している。上記吸、排気カム軸39,40は上記クランク軸20に連動して、上記吸、排気弁35,36を適宜開、閉弁動作させる。
【0052】
前記吸気装置15は、上記各バンク21,22毎で、上記エンジン本体14のシリンダヘッド26から前方に向かって延出する吸気管43と、この吸気管43の延出端部に取り付けられるスロットル弁44とを備えている。上記吸気管43の内部は、上記スロットル弁44を通し大気側を上記吸気ポート33に連通させる吸気通路45とされている。
【0053】
前記排気装置16は、上記各バンク21,22毎で、上記エンジン本体14のシリンダヘッド26から後方に向かって延出する排気管49と、この排気管49の延出端部に互いに一体成形される膨張室ケース50と、上記シリンダヘッド26に上記排気管49を締結により結合させる締結具51とを備えている。
【0054】
上記排気管49には、上記各排気ポート34の下流端からそれぞれ延出して、これら各排気ポート34と個別に互いに連通する複数の排気通路52が形成されている。また、上記膨張室ケース50には、上記各排気通路52の延出端と互いに連通する容積の大きい膨張室53が形成されている。この場合、船外機5の平面視(図1)で、上記各シリンダ24に隣接するよう上記膨張室53が形成されている。また、この膨張室53の下流端部である内底部を上記膨張室ケース50の外部であるシリンダヘッド26側に向かって開口する排出口54が上記膨張室ケース50の下部に形成されている。
【0055】
上記エンジン本体14のシリンダヘッド26の下端部とケース9との各内部には、一端部が上記各バンク21,22毎の膨張室53の各排出口54にそれぞれ連通し、他端部が上記エンジン11よりも下方に延びて上記ケース9の下端部から水2中に向かって開口する他の排気通路56が形成されている。また、この他の排気通路56の中途部に他の膨張室57が形成されている。
【0056】
上記排気管49と膨張室ケース50との一体物59は、上記シリンダヘッド26とは別体に設けられている。上記シリンダヘッド26と上記一体物59との互いの接合面60には、上記各排気ポート34の下流端部開口、この開口に連通する上記各排気通路52の上流端部開口、上記膨張室53を上記一体物59の外部に連通させる排出口54、および上記シリンダヘッド26に形成されて上記排出口54に連通する他の排気通路56の上流端部開口がそれぞれ形成されている。上記両接合面60はその全体が、それぞれ連続する単一の平坦面とされ、これら両接合面60の間には不図示のシール材が介設されている。
【0057】
上記船外機5の平面視(図1)で、上記両バンク21,22の間に上記排気通路52と膨張室53との少なくとも一部分(図例では、排気通路52の基部)が位置させられている。また、上記各バンク21,22のシリンダ孔28の軸心32同士の間に上記各排気通路52と膨張室53との全体が位置させられている。上記各排気通路52はシリンダ24の突出端部であるシリンダヘッドカバー27の外面に沿う円弧形状となるよう屈曲させられている。具体的には、上記両排気通路52は船外機5の幅方向で、互いに逆向きとなるよう屈曲させられている。そして、上記各膨張室53は、上記シリンダ24の突出端部の後方近傍に位置させられている。また、上記各排気通路52の長さは互いにほぼ同じとされている。
【0058】
上記エンジン11の駆動時には、大気側の空気62が上記スロットル弁44、吸気通路45、各吸気ポート33を順次通って各シリンダ孔28に吸入され、上記空気62と燃料との混合気が燃焼させられる。このように燃焼させられた燃焼ガスは、排気63として上記各排気ポート34、各排気通路52、膨張室53、排出口54、他の排気通路56、および他の膨張室57を通って水2中に排出される。そして、上記混合気の燃焼に基づくエンジン11の駆動力が、上記クランク軸20から動力伝達機構12を介しプロペラ10に伝達されて、船1が推進させられる。
【0059】
その他、符号65は、冷却水ジャケットである。
【0060】
上記構成によれば、各排気ポート34の下流端からそれぞれ延出して、これら各排気ポート34と個別に互いに連通する複数の排気通路52と、これら各排気通路52の延出端と互いに連通する膨張室53とを形成している。
【0061】
このため、上記各排気通路52は互いに合流することなく、それぞれ膨張室53に連通させられる。よって、上記各排気通路52を通る排気63同士が互いに干渉し合う、ということは防止されて良好な排気効率が得られる。また、上記各排気通路52を通る排気63は、上記膨張室53に流入させられるため、良好な消音効果が得られる。
【0062】
また、上記各排気通路52は、上記シリンダヘッド26の各排気ポート34を単に膨張室53に連通させるためのものであって、短くて足りる。よって、エンジン11を小型にでき、これにより、このエンジン11を覆うカウリング13を小型にできるなど、船外機5を小型にできる。また、上記各排気通路52は互いに合流する部分がなくて、単純な形状であるため、上記エンジン11の構成を簡単にできる。
【0063】
また、前記したように、船外機5の平面視(図1)で、上記各シリンダ24に隣接するよう上記膨張室53を形成している。
【0064】
このため、上記各シリンダ24と膨張室53とは互いに緊密に配置されて、エンジン11を小型にできる。また、上記各シリンダ24のシリンダヘッド26に形成された排気ポート34を上記膨張室53に連通させる各排気通路52は短くて足りる。よって、上記エンジン11の構成を簡単にできる。
【0065】
また、前記したように、船外機5の平面視(図1)で、上記エンジン11が一対のバンク21,22を有するV型エンジンであり、これら両バンク21,22の間に上記排気通路52と膨張室53との少なくとも一部分を位置させると共に、上記各バンク21,22のシリンダ孔28の軸心32同士の間に上記排気通路52と膨張室53とを位置させている。
【0066】
このため、上記両バンク21,22の間の空間が上記排気通路52や膨張室53の配置に有効利用されると共に、これら各バンク21,22、排気通路52、および膨張室53が互いに緊密に配置される。よって、上記エンジン11を小型にできる。
【0067】
また、前記したように、各排気通路52を形成する排気管49と膨張室53を形成する膨張室ケース50とを互いに一体成形し、これら排気管49と膨張室ケース50との一体物59を、上記シリンダヘッド26とは別体に設けて、このシリンダヘッド26に取り付けている。
【0068】
このため、上記シリンダヘッド26、各排気管49、および膨張室ケース50を一体成形することに比べて、上記シリンダヘッド26の形状や大きさの影響を受けることなく、上記各排気管49と膨張室ケース50とを所望形状に成形することが容易にできる。
【0069】
また、上記両バンク21,22の間にノックセンサなどの構成部品を組み付ける場合、この組み付け作業は、上記両バンク21,22の各シリンダヘッド26に上記一体物59を取り付ける以前にすればよい。このようにすれば、上記組み付け作業において、上記一体物59が邪魔になることが防止されて、この作業が容易にできる。
【0070】
また、前記したように、船外機5の平面視(図1)で、上記シリンダ24の突出端部であるシリンダヘッドカバー27の外面に沿うよう上記排気通路52を屈曲させている。
【0071】
このため、上記シリンダ24から上記排気通路52が外方に大きく突出する、ということが防止されて、エンジン11を小型にできる。
【0072】
また、上記したように、排気通路52を屈曲させたため、上記エンジン11を小型にしつつ上記排気通路52の通路長を長くできる。よって、排気脈動による負圧の吸出しなどの効果を十分に利用でき、エンジン出力を向上させることができる。
【0073】
また、前記したように、シリンダヘッド26と上記一体物59との互いの接合面60に、上記各排気ポート34の下流端部開口、この開口に連通する上記各排気通路52の上流端部開口、上記膨張室53を上記一体物59の外部に連通させる排出口54、および上記シリンダヘッド26に形成されて上記排出口54に連通する他の排気通路56の上流端部開口をそれぞれ形成し、上記両接合面60を平坦面としている。
【0074】
このため、上記各通路34,52,53,56の開口を形成している上記両接合面60に、その面方向で段差の生じることが防止されて、上記シリンダヘッド26と一体物59との各接合面60同士の面接合が精度よくできる。よって、上記両接合面60間のシール性が向上する。
【0075】
以下の図4−7は、実施例2,3を示している。これら各実施例は、前記実施例1と構成、作用効果において多くの点で共通している。そこで、これら共通するものについては、図面に共通の符号を付してその重複した説明を省略し、異なる点につき主に説明する。また、これら各実施例における各部分の構成を、本発明の目的、作用効果に照らして種々組み合せてもよい。
【実施例2】
【0076】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例2を添付の図4−6に従って説明する。
【0077】
図4−6において、エンジン11は、そのエンジン本体14の上部から下部に向けて第1−第4シリンダ24a−24dの複数(偶数)シリンダ24を備える並列多気筒(シリンダ)エンジンである。
【0078】
上記エンジン本体14の各シリンダ24a−24dを構成するシリンダブロック25とシリンダヘッド26との各一部分が水平方向の外方に延出させられて、延出部67,68とされ、これら延出部67,68は、上記シリンダブロック25とシリンダヘッド26との平坦な接合面の延長面上で互いに接合させられている。
【0079】
上記各延出部67,68に上記各排気通路52が形成されている。また、上記シリンダブロック25の延出部67に上記膨張室53が形成されている。つまり、上記シリンダブロック25の延出部67は、上記シリンダブロック25に一体的に形成された膨張室ケース50とされている。
【0080】
上記第1−第4シリンダ24a−24dの点火順序は、例えば、第1シリンダ24a、第3シリンダ24c、第4シリンダ24d、第2シリンダ24bである。そして、点火順序が連続しない各シリンダ24から延出する上記シリンダ24の各下流端を互いに合流させる複数の第1、第2合流通路70,71が上記シリンダブロック25の延出部67に形成されている。また、これら第1、第2合流通路70,71の下流端側は上記膨張室53に連通させられている。
【0081】
具体的には、上記第1、第4シリンダ24a,24dの各排気通路52の各上流側52aは、上記シリンダヘッド26の延出部68に形成されている。また、上記第1、第4シリンダ24a,24dの各排気通路52の各下流側52bは上記両延出部67,68の合い面間に形成され、その各下流端が互いに対向するよう縦方向に延出して、これら各下流端が上記第1合流通路70で合流させられている。一方、上記第2、第3シリンダ24b,24cの各排気通路52は、上記シリンダヘッド26の延出部68に形成されている。
【0082】
上記船外機5の背面視(図6)で、上記第1、第2合流通路70,71の断面形状は、互いに平行に縦方向に延び、上記第1合流通路70は、上記第2合流通路71よりもシリンダ24に近い側に配置されている。そして、上記第1、第4シリンダ24a,24dの各排気通路52(上流側52a+下流側52b)、および上記第2、第3シリンダ24b,24cの各排気通路52の各長さは互いにほぼ同じとされている。
【0083】
上記構成によれば、点火順序が連続しない各シリンダ24から延出する上記排気通路52の各下流端を互いに合流させる複数の合流通路70,71を形成し、これら合流通路70,71の各下流端側を上記膨張室53に連通させている。
【0084】
このため、上記シリンダ24から各排気通路52を通り一つの合流通路70,71に流入させられる各排気63のタイミングは、より明確に互いに相違する。よって、上記合流通路70,71で上記各排気63が互いに干渉し合う、ということが防止され、より良好な排気効率が得られて、エンジン出力を向上させることができる。
【0085】
また、前記したように、膨張室53を上記エンジン本体14のシリンダブロック25に形成している。
【0086】
このため、上記膨張室53を形成する膨張室ケース50を上記エンジン本体14とは別体として設けることに比べて、エンジン11の部品点数が少なくできる。よって、このエンジン11の構成を、より簡単にできる。
【0087】
また、前記したように、上記各排気通路52の長さを互いにほぼ同じとしている。
【0088】
このため、上記各排気通路52における排気脈動による効果を、それぞれムラなく均一に向上させることができる。よって、各シリンダ24からの排気63において安定した排気効率が得られて、エンジン出力を向上させることができる。
【実施例3】
【0089】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例3を添付の図7に従って説明する。
【0090】
図7において、上記実施例2にいう第1、第4シリンダ24a,24dの各排気通路52(上流側52a+下流側52b)は、シリンダヘッド26の延出部68に形成され、上記第1合流通路70は上記両延出部67,68に跨るよう形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施例1を示し、エンジンの平面断面図である。
【図2】実施例1を示し、船外機の側面図である。
【図3】実施例1を示し、エンジンの背面部分断面図である。
【図4】実施例2を示し、エンジンの部分側面図である。
【図5】実施例2を示し、図1に相当する図である。
【図6】実施例2を示し、図3に相当する図である。
【図7】実施例3を示し、図5の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0092】
1 船
5 船外機
9 ケース
10 プロペラ
11 エンジン
14 エンジン本体
15 吸気装置
16 排気装置
17 クランク室
18 クランクケース
19 軸心
20 クランク軸
21 バンク
22 バンク
24 シリンダ
26 シリンダヘッド
31 燃焼室
34 排気ポート
37 動弁装置
38 カム室
49 排気管
50 膨張室ケース
52 排気通路
53 膨張室
54 排出口
59 一体物
60 接合面
62 空気
63 排気
67 延出部
68 延出部
70 合流通路
71 合流通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン本体が、縦方向に延びる軸心のクランク軸を支持するクランクケースと、このクランクケースから水平方向の外方に突出し、縦方向に複数並設されるシリンダとを備え、これら各シリンダのシリンダヘッドに、上記各シリンダ毎に個別に排気ポートを形成した船外機用多気筒エンジンにおいて、
上記各排気ポートの下流端からそれぞれ延出して、これら各排気ポートと個別に互いに連通する複数の排気通路と、これら各排気通路の延出端と互いに連通する膨張室とを形成したことを特徴とする船外機用多気筒エンジン。
【請求項2】
船外機の平面視で、上記各シリンダに隣接するよう上記膨張室を形成したことを特徴とする請求項1に記載の船外機用多気筒エンジン。
【請求項3】
船外機の平面視で、上記エンジンが一対のバンクを有するV型エンジンであり、これら両バンクの間に上記排気通路と膨張室との少なくとも一部分を位置させると共に、上記各バンクのシリンダ孔の軸心同士の間に上記排気通路と膨張室とを位置させたことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の船外機用多気筒エンジン。
【請求項4】
上記各排気通路を形成する排気管と膨張室を形成する膨張室ケースとを互いに一体成形し、これら排気管と膨張室ケースとの一体物を、上記シリンダヘッドとは別体に設けて、このシリンダヘッドに取り付けたことを特徴とする請求項3に記載の船外機用多気筒エンジン。
【請求項5】
船外機の平面視で、上記シリンダの突出端部の外面に沿うよう上記排気通路を屈曲させたことを特徴とする請求項3、もしくは4に記載の船外機用多気筒エンジン。
【請求項6】
上記シリンダヘッドと上記一体物との互いの接合面に、上記各排気ポートの下流端部開口、この開口に連通する上記各排気通路の上流端部開口、上記膨張室を上記一体物の外部に連通させる排出口、および上記シリンダヘッドに形成されて上記排出口に連通する他の排気通路の上流端部開口をそれぞれ形成し、上記両接合面を平坦面としたことを特徴とする請求項4に記載の船外機用多気筒エンジン。
【請求項7】
点火順序が連続しない各シリンダから延出する上記排気通路の各下流端を互いに合流させる複数の合流通路を形成し、これら合流通路の各下流端側を上記膨張室に連通させたことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の船外機用多気筒エンジン。
【請求項8】
上記膨張室を上記エンジン本体に形成したことを特徴とする請求項1に記載の船外機用多気筒エンジン。
【請求項9】
上記各排気通路の長さを互いにほぼ同じとしたことを特徴とする請求項7、もしくは8に記載の船外機用多気筒エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−283894(P2007−283894A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113229(P2006−113229)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)