説明

船外機

【課題】大型化を招くことがないと共に、簡易な構成でギヤ機構の磨耗粉の量を検出し、よって磨耗粉によるギヤ機構の損傷などを防止するようにした船外機を提供する。
【解決手段】原動機の駆動力をプロペラに伝達するギヤ機構を収容するギヤケース64を備えた船外機において、ギヤケースに穿設されたドレン孔80に閉塞自在に取り付けられると共に、磁性体からなるドレンボルト82と、ドレンボルトのギヤケースの内部に露出される部位(露出部位)82a1に設けられると共に、導電体86aと第1絶縁体86bと前記導電体に局部的に接触する抵抗体86cとが重力方向に積層されてなる積層部86とを備え、導電体86aに電圧を印加して導電体86aからドレンボルト82に通電される通電電流値を検出すると共に、検出された通電電流値に基づいてドレンボルト82に堆積されたギヤ機構の磨耗粉の量を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は船外機に関し、より詳しくはギヤ機構の磨耗粉を検出するようにした船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関などの原動機の駆動力をギヤ機構を介してプロペラに伝達するようにした船外機は広く知られている。ギヤ機構は、上記した駆動力を伝達する際、ギヤ同士が擦りあわされるため、磨耗して磨耗粉(具体的には金属粉など)が生じることがある。この磨耗粉が生じると、例えばギヤ機構に異物として噛み込まれてギヤ機構を損傷させるなどの不具合が発生する恐れがある。
【0003】
そこで、下記特許文献1記載の技術にあっては、ギヤ機構を収容するギヤケースにオイル(潤滑油)を循環させる分岐通路を接続すると共に、その分岐通路にオイルの透過度に基づいて磨耗粉の量を検出する検出部を設けるように構成される。これにより、例えば磨耗粉の量の増加が検出されるときにオイルの交換などのメンテナンス作業を行うことが可能となり、よって上記した不具合の発生を未然に防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−33730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術の如く分岐通路や検出部を備えるように構成すると、その分だけ船外機の大型化や構造の複雑化を招くという不都合が生じていた。
【0006】
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、大型化を招くことがないと共に、簡易な構成でギヤ機構の磨耗粉の量を検出し、よって磨耗粉によるギヤ機構の損傷などを防止するようにした船外機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、原動機の駆動力をプロペラに伝達するギヤ機構を収容するギヤケースを備えた船外機において、前記ギヤケースに穿設されたドレン孔に閉塞自在に取り付けられると共に、磁性体からなるドレンボルトと、前記ドレンボルトの前記ギヤケースの内部に露出される部位に設けられると共に、導電体と絶縁体と前記導電体に局部的に接触する抵抗体とが重力方向に積層されてなる積層部と、前記導電体に電圧を印加して前記導電体から前記ドレンボルトに通電される通電電流値を検出する電流値検出手段と、前記検出された通電電流値に基づいて前記ドレンボルトに堆積された前記ギヤ機構の磨耗粉の量を検出する磨耗粉量検出手段とを備える如く構成した。
【0008】
尚、この明細書において、「磨耗粉」はギヤ機構の磨耗によって生じる磨耗粉(例えば金属粉など)の他に、ギヤ機構を構成する部品のクラック片(切子)なども含む意味で用いる。
【0009】
請求項2に係る船外機にあっては、前記電流値検出手段は、前記導電体に所定の電圧を印加して前記通電電流値を検出すると共に、前記磨耗粉量検出手段は、前記検出された通電電流値が所定値以上のとき、前記検出された磨耗粉の量が許容範囲を超えたと判定する如く構成した。
【0010】
請求項3に係る船外機にあっては、前記磨耗粉量検出手段によって前記検出された磨耗粉の量が前記許容範囲を超えたと判定されるとき、操船者に報知する報知手段を備える如く構成した。
【0011】
請求項4に係る船外機にあっては、前記導電体は金属体からなる如く構成した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る船外機にあっては、ギヤ機構を収容するギヤケースに穿設されたドレン孔に閉塞自在に取り付けられると共に、磁性体からなるドレンボルトと、ドレンボルトのギヤケースの内部に露出される部位に設けられると共に、導電体と絶縁体と前記導電体に局部的に接触する抵抗体とが重力方向に積層されてなる積層部とを備え、導電体に電圧を印加して導電体からドレンボルトに通電される通電電流値を検出すると共に、検出された通電電流値に基づいてドレンボルトに堆積されたギヤ機構の磨耗粉の量を検出するように構成したので、簡易な構成でギヤ機構の磨耗粉の量を検出でき、よって磨耗粉によるギヤ機構の損傷などの発生を防止することができる。
【0013】
即ち、ドレンボルトが磁性体からなるように構成したので、ギヤ機構の摩擦によって生じた磨耗粉はドレンボルトに引き寄せられて吸着されると共に、ドレンボルトの積層部付近に徐々に堆積されることとなる。積層部の導電体に電圧を印加した状態で、磨耗粉が堆積されないときは電流は導電体からドレンボルトに流れず、磨耗粉が抵抗体の位置まで堆積されると、電流は導電体から抵抗体、磨耗粉を介してドレンボルトに流れるようになる。さらに、磨耗粉が抵抗体の重力方向において上方に配置される絶縁体を越えて導電体の位置まで堆積されると、電流は導電体から磨耗粉を介してドレンボルトに流れる、換言すれば、抵抗体には流れないようになってドレンボルトに通電される通電電流値が変化する。
【0014】
このように、導電体からドレンボルトに通電される通電電流値がドレンボルトに堆積された磨耗粉の量に応じて変化するように構成し、それを利用することで、簡易な構成でありながら磨耗粉の量(換言すればギヤ機構の磨耗状態)を検出することができる。そのため、操船者は航行中であっても磨耗粉の量を把握でき、例えば検出された磨耗粉の量が増加したときに最適なタイミングでオイルの交換などのメンテナンス作業を行うことも可能となり、よって磨耗粉によるギヤ機構の損傷などの不具合の発生を未然に防止することができる。また、特許文献1で用いられる分岐通路や検出部を不要にすることができるため、船外機の大型化や構造の複雑化を招くこともない。
【0015】
請求項2に係る船外機にあっては、電流値検出手段は、導電体に所定の電圧を印加して通電電流値を検出すると共に、磨耗粉量検出手段は、検出された通電電流値が所定値以上のとき、検出された磨耗粉の量が許容範囲を超えたと判定するように構成したので、上記した効果に加え、ギヤ機構の磨耗粉の量が許容範囲を超えたこと、具体的には、磨耗粉の量が増加して前記したギヤ機構の損傷などの不具合が発生する恐れがあり、船外機のメンテナンス作業を行うべき状態であることを、導電体からドレンボルトに通電される通電電流値を用いて容易に判定することができる。
【0016】
請求項3に係る船外機にあっては、磨耗粉量検出手段によって磨耗粉の量が許容範囲を超えたと判定されるとき、操船者に報知するように構成したので、請求項3で述べた効果に加え、磨耗粉の量が許容範囲を超えたことを操船者に確実に認識させることが可能となる。
【0017】
請求項4に係る船外機にあっては、導電体は金属体からなるように構成したので、上記した効果に加え、より一層簡易な構成でギヤ機構の磨耗粉の量を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施例に係る船外機を船体も含めて全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す船外機の部分断面拡大側面図である。
【図3】図1に示す船外機の拡大側面図である。
【図4】図2に示すギヤケース付近を拡大して示す部分断面拡大側面図である。
【図5】図4などに示すドレンボルトを拡大して示す拡大断面図である。
【図6】図5の破線Aで囲まれた部位をさらに拡大して示す拡大断面図である。
【図7】図1に示す電子制御ユニットによるギヤ機構の磨耗粉の量の検出動作を示すフロー・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に即してこの発明に係る船外機を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0020】
図1はこの発明の実施例に係る船外機を船体も含めて全体的に示す概略図である。
【0021】
図1において、符号1は船外機10が船体(艇体)12に搭載されてなる船舶を示す。船外機10は、図示の如く、船体12の後尾(船尾)12aに装着される。
【0022】
船外機10は、内燃機関(原動機。以下「エンジン」という(図1で見えず))と、エンジンを被覆するエンジンカバー14とを備える。エンジンカバー14の内部空間(即ちエンジンルーム)には、エンジンの他に、電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)16が配置される。ECU16はCPU,ROM,RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなり、船外機10の動作を制御する。
【0023】
船体12の操縦席20の付近には、操船者(図示せず)によって回転操作自在なステアリングホイール22が配置される。ステアリングホイール22のシャフト(図示せず)には操舵角センサ24が取り付けられ、操船者によって入力されたステアリングホイール22の操舵角に応じた信号を出力する。
【0024】
操縦席20付近には、操船者によって操作自在なシフトレバー(シフト・スロットルレバー)26が設けられる。シフトレバー26は、初期位置から前後方向に揺動操作自在とされ、操船者からのシフトチェンジ指示(フォワード/リバース/ニュートラル切り替え指示)と、エンジン回転数の調節指示を入力する。シフトレバー26の付近にはレバー位置センサ28が取り付けられ、シフトレバー26の位置に応じた信号を出力する。各センサ24,28の出力はECU16に入力される。
【0025】
また、操縦席20のダッシュボードには、後述する如くギヤ機構の磨耗粉の量が許容範囲を超えたと判定されるとき、その旨を表示して操船者に報知するためのディスプレイ(モニタ画面(メータ)。報知手段)30が配置される。
【0026】
図2は図1に示す船外機の部分断面拡大側面図、図3は図1に示す船外機の拡大側面図である。
【0027】
船外機10は、図2に良く示すように、スイベルケース32、チルティングシャフト34およびスターンブラケット36を介して船体12に取り付けられる。
【0028】
スイベルケース32の付近には、スイベルケース32の内部に鉛直軸回りに回転自在に収容されるスイベルシャフト40を駆動する転舵用電動モータ(アクチュエータ)42が配置される。転舵用電動モータ42の回転出力は減速ギヤ機構44、マウントフレーム46を介してスイベルシャフト40に伝達され、よって船外機10はスイベルシャフト40を転舵軸として左右に(鉛直軸回りに)転舵される。
【0029】
船外機10の上部には、前記したエンジン50が搭載される。エンジン50は火花点火式の水冷ガソリンエンジンで、排気量2200ccを備える。エンジン50は水面上に位置するように配置される。
【0030】
エンジン50の吸気管52には、スロットルボディ54が接続される。スロットルボディ54はその内部にスロットルバルブ56を備えると共に、スロットルバルブ56を開閉するスロットル用電動モータ(アクチュエータ)60が一体的に取り付けられる。
【0031】
スロットル用電動モータ60の出力軸は減速ギヤ機構(図示せず)を介してスロットルバルブ56に接続され、スロットル用電動モータ60を動作させることでスロットルバルブ56が開閉され、エンジン50の吸気量が調整されてエンジン回転数が調節される。
【0032】
エンジン50を覆うエンジンカバー14の重力方向において下方には、エクステンションケース62が取り付けられ、エクステンションケース62の下方には、さらにギヤケース64が取り付けられる。
【0033】
エクステンションケース62とギヤケース64の内部には、鉛直軸と平行に配置されて回転自在に支持されるドライブシャフト66が配置される。ドライブシャフト66の上端にはエンジン50のクランクシャフト(図示せず)が接続される一方、下端にはギヤ機構(シフト機構)70を介して水平軸回りに回転自在に支持されたプロペラシャフト72が接続される。
【0034】
プロペラシャフト72の一端にはプロペラ74が取り付けられる。ギヤ機構70は、ドライブシャフト66の下端に設けられるピニオンギヤ70a、ピニオンギヤ70aに係合(噛合)されて相反する方向に回転させられる前進ベベルギヤ70bと後進ベベルギヤ70c、プロペラシャフト72を前進ベベルギヤ70bと後進ベベルギヤ70cのいずれかに係合自在とするクラッチ70dなどからなる。
【0035】
エンジンカバー14の内部には、ギヤ機構70を動作させてシフトチェンジを行うシフト用電動モータ(アクチュエータ)76が配置される。尚、船外機10はエンジン50に取り付けられたバッテリなどの電源(図示せず)を備え、それから電動モータ42,60,76などに動作電源が供給される。
【0036】
シフト用電動モータ76の出力軸は、減速ギヤ機構78を介してギヤ機構70のシフトロッド70eの上端に接続される。従って、シフト用電動モータ76を駆動することにより、シフトロッド70eとシフトスライダ70fが適宜に変位させられ、それによってクラッチ70dを動作させてシフトポジションがフォワード、リバースおよびニュートラルの間で切り替え自在とされる。
【0037】
ギヤ機構70がフォワードポジションあるいはリバースポジションのとき、ドライブシャフト66の回転(換言すれば、エンジン50の駆動力)はギヤ機構70を介してプロペラシャフト72に伝達され、よってプロペラ74は回転させられ、船体12を前進あるいは後進させる方向の推力(推進力)を生じる。
【0038】
このように、ギヤ機構70はエンジン50の駆動力をプロペラ74に伝達すると共に、ギヤケース64に収容される。
【0039】
ギヤケース64の内部空間には、ギヤ機構70用のオイル(潤滑油)が貯留され(別言すれば、ギヤケース64の内部はオイルで満たされ)、ギヤ機構70の回転部分、例えばピニオンギヤ70aや前進ベベルギヤ70b、後進ベベルギヤ70cなどを潤滑する。
【0040】
図4は図2に示すギヤケース64付近を拡大して示す部分断面拡大側面図である。
【0041】
図4などに示す如く、ギヤケース64は、前記したギヤ機構70の大部分を収容すると共に、略円筒形状を呈する円筒部64aと、円筒部64aから連続するように形成されると共に、進行方向側の端部に近づくにつれて徐々に縮径する縮径部64bとを備える。
【0042】
ギヤケース64の底部(正確には、ギヤケース64の縮径部64bの底部)には、オイル交換するときにオイルを排出するためのドレン孔80が穿設される。ドレン孔80には雌ネジが螺刻され、ドレンボルト82が閉塞自在に取り付けられる。
【0043】
このドレン孔80とドレンボルト82は、ギヤケース64においてギヤ機構70の磨耗粉が最も吸着され易い(沈殿し易い)位置に配置される。具体的には、ギヤケース64内のオイルはギヤ機構70の動作によって攪拌されるが、ドレン孔80とドレンボルト82はギヤ機構70から僅かに離間されて、その攪拌による影響が比較的少ない位置、換言すれば、オイルの流動が比較的少ない位置に配置される。
【0044】
図5は図4などに示すドレンボルト82を拡大して示す拡大断面図、図6は図5の破線Aで囲まれた部位をさらに拡大して示す拡大断面図である。
【0045】
図5に示す如く、ドレンボルト82は、外周に雄ねじが螺刻されるねじ部82aと、ねじ部82aから連続して形成されると共に、径がねじ部82aのそれより大きい頭部82bとからなる。ドレンボルト82は、例えば鋼鉄など磁性を帯びることが可能な物質から製作される。
【0046】
ドレンボルト82は、ドレン孔80に取り付けられるとき、ギヤケース64の内部(即ち、オイルで満たされた室)に部分的に露出されるように設計、詳しくはねじ部82aの先端部分が露出するように設計される。尚、図5,6において、ドレンボルト82の露出される部位を符号82a1で示した。
【0047】
ドレンボルト82の露出部位82a1の内部には、例えば永久磁石などの磁性材84が設けられる。これによりドレンボルト82は全体として磁性を帯びることとなる、即ち、ドレンボルト82は磁性体からなるように構成される。
【0048】
図6に良く示すように、ドレンボルト82の露出部位82a1には、導電体86aと、第1絶縁体(絶縁体)86bと、導電体86aに局部的に接触する抵抗体86cと、第2絶縁体86dとが重力方向に積層されてなる積層部86が設けられる。
【0049】
導電体86aは、具体的に金属体からなるように構成される。また、導電体86aは、図5に良く示す如く、一部がドレンボルト82の内部に配置されると共に、先端部分が露出部位82a1から突出するように形成される。具体的には、導電体86aは、ギヤケース64の内部に露出される露出部86a1と、ドレンボルト82の内部に配置される共に、中空に形成されて後述するハーネスを接続自在なハーネス接続部86a2と、露出部86a1とハーネス接続部86a2を連結する連結部86a3とを備える。
【0050】
連結部86a3の径は、露出部86a1やハーネス接続部86a2のそれに比して小さくなるように形成される。また、連結部86a3の露出部86a1側の端部は、露出部位82a1から突出するように位置される一方、残余の部分はねじ部82a(詳しくは、ねじ部82aの磁性材84が設けられる部位)の内部に配置される。
【0051】
ハーネス接続部86a2には、想像線で示す如く、先端にギボシ端子が形成されたハーネス90が接続される。ハーネス接続部86a2と連結部86a3の外周は、第3絶縁体92によって被覆され、よって導電体86aのハーネス接続部86a2や連結部86a3とドレンボルト82の内部は電気的に絶縁される。
【0052】
抵抗体86cは例えば抵抗ペーストから製作されると共に、その抵抗値は例えば1.2kΩに設定される。第1絶縁体86bと抵抗体86cと第2絶縁体86dはそれぞれ、環状を呈するように形成されると共に、導電体86aの連結部86a3のうち、露出部位82a1から突出する部位に接触して覆うように配置される。また、導電体86aの露出部86a1と第1絶縁体86bと抵抗体86cと第2絶縁体86dは、相互に密着するように配設される。
【0053】
これにより、積層部86の側面の外周にあっては、重力方向において上から導電体86a(露出部86a1)、第1絶縁体86b、抵抗体86c、第2絶縁体86dの順で配置されることとなる。
【0054】
図4に示す如く、ギヤケース64の前方(進行方向)側の適宜位置には、船速センサ用の水路(ピトー管)94が設けられる。水路94は図示しない船速センサに接続されると共に、船速センサは水路内の水圧に基づいて船速(船体12の速度)を検出する。
【0055】
導電体86aのハーネス接続部86a2に接続されたハーネス90は、ギヤケース64の縮径部64bの形状に沿うように配線された後、前述した水路94に挿通される。ハーネス90は水路94を通過して、図2に示すように、ギヤケース64からエクステンションケース62を介してスターンブラケット36に向けて延びる。ハーネス90は、スターンブラケット36の数箇所で適宜に固定された後、エンジンカバー14内のECU16に接続される。
【0056】
これにより、ギヤケース64などの外形を設計変更することなく、ハーネス90をドレンボルト82からECU16まで配線できると共に、ハーネス90が船外機10の走行性能(具体的には、ギヤケース64の流体抵抗)に影響を及ぼすこともない。
【0057】
図3に示す如く、スロットルバルブ56の付近にはスロットル開度センサ100が配置され、スロットル開度を示す出力を生じる。エンジン50のクランクシャフトの付近にはクランク角センサ102が取り付けられ、所定のクランク角度ごとにパルス信号を出力する。また、ドレンボルト82の付近には電流センサ(電流値検出手段)104が設けられ、導電体86aからドレンボルト82に通電される通電電流値γを示す出力を生じる。
【0058】
上記した各センサの出力はECU16に入力され、ECU16は入力された各センサ出力に基づいて船外機10の動作を制御する。尚、ECU16と各センサとディスプレイ30は、例えばNMEA(National Marine Electronics Association。米国船舶用電子機器協会)で規格された通信方式(例えばNMEA2000。具体的にはCAN(Controller Area Network))で通信自在に接続される。
【0059】
ECU16は具体的に、入力された操舵角センサ24の出力に基づいて転舵用電動モータ42の動作を制御し、船外機10の転舵を行う。また、ECU16は、入力されたレバー位置センサ28の出力などに基づいてスロットル用電動モータ86bの動作を制御し、スロットルバルブ56を開閉させて吸入空気量を調整してエンジン回転数を制御すると共に、シフト用電動モータ76の動作を制御してギヤ機構70を駆動させ、シフトチェンジを行う。
【0060】
上記した如く、この実施例に係る船外機の制御装置は、操作系(ステアリングホイール22やシフトレバー26)と船外機10の機械的な接続が断たれたDBW(Drive By Wire)方式の制御装置である。
【0061】
さらに、ECU16は、導電体86aにハーネス90を介して所定の電圧(例えば5V)を印加すると共に、そのときの電流センサ104の出力(通電電流値γ)に基づいてドレンボルト82に堆積されたギヤ機構70の磨耗粉の量を検出する。
【0062】
図7は、ECU16によるギヤ機構70の磨耗粉の量の検出動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは、ECU16によって所定の周期(例えば100msec)ごとに実行される。
【0063】
図7フロー・チャートの説明に入る前に、先ず磨耗粉の量の検出について図6を参照しつつ以下に説明する。ギヤ機構70は、エンジン50の駆動力をプロペラ74に伝達する際の回転動作によって、ギヤ同士が擦りあわされて磨耗し、磨耗粉(具体的には金属粉など。図6において符号106で示す)が生じることがある。この磨耗粉106はオイル内を浮遊した後、磁性体からなるドレンボルト82に引き寄せられて吸着されると共に、ドレンボルト82の積層部86付近に徐々に堆積される。
【0064】
導電体86aには前述したように所定の電圧が印加されるが、磨耗粉106がドレンボルト82に堆積されないとき、あるいは破線で示す如く積層部86の第2絶縁体86d部分に堆積する程度の比較的少量のときは、導電体86aからドレンボルト82に電流は流れないため、電流センサ104の検出値、即ち通電電流値γは0mAとなる。
【0065】
その後、磨耗粉106がドレンボルト82にさらに堆積し、一点鎖線で示す如く積層部86の抵抗体86c部分に到達すると、一点鎖線の矢印で示すように導電体86aから抵抗体86c、磨耗粉106を介してドレンボルト82に電流が流れる(導通される)。このときの通電電流値γは、比較的低い値、例えば10mAまたは10mAより僅かに大きい値となるように設定される。尚、ドレンボルト82はギヤケース64に取り付けられることで、接地(アース)されているものとする(ボディアース)。
【0066】
そして、さらに磨耗粉106がドレンボルト82に堆積し、二点鎖線で示す如く積層部86の導電体86aの露出部86a1部分にまで到達した場合、電流は、二点鎖線の矢印で示すように導電体86aから磨耗粉106を介してドレンボルト82に流れる(換言すれば、抵抗体86cを通らずに電流が流れる)。このときの通電電流値γは、磨耗粉106が抵抗体86cまで堆積したときの電力値に比して高い値、例えば50mAまたは50mAより僅かに大きい値となるように設定される。
【0067】
このように、この実施例にあっては、導電体86aからドレンボルト82に通電される通電電流値γがドレンボルト82の積層部86に堆積された磨耗粉106の量に応じて変化するように構成した。
【0068】
上記を前提に図7フロー・チャートを説明すると、先ずS(ステップ)10において、電流センサ104の出力に基づき、導電体86aからドレンボルト82に通電される通電電流値γを検出する。
【0069】
次いでS12に進み、検出された通電電流値γに基づいてドレンボルト82の積層部86に堆積されたギヤ機構70の磨耗粉の量を検出し、検出された磨耗粉の量が許容範囲を超えたか否か判定する。具体的には、検出された通電電流値γと所定値γ1とを比較し、通電電流値γが所定値γ1以上のとき、検出された磨耗粉の量が許容範囲を超えたと判定、換言すれば、磨耗粉の量が増加してギヤ機構70に異物として噛み込まれてギヤ機構70を損傷させるなどの不具合が発生する恐れがあり、オイルの交換やギヤ機構70の点検などの船外機のメンテナンス作業を行うべき状態であると判定する。
【0070】
従って、前記した所定値γ1は、堆積されたギヤ機構70の磨耗粉の量が許容範囲を超えた、より具体的には磨耗粉の量がドレンボルト82の積層部86の抵抗体86cまで到達してメンテナンス作業を行うべき状態であると判定できるような値、例えば10mAに設定される。
【0071】
S12で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS14に進み、検出された磨耗粉の量が許容範囲を超えたと判定されたことを、磨耗粉量警告としてディスプレイ30に表示して操船者に報知し、メンテナンス作業を促す。
【0072】
以上の如く、この発明の実施例にあっては、原動機(エンジン)50の駆動力をプロペラ74に伝達するギヤ機構70を収容するギヤケース64を備えた船外機10において、前記ギヤケースに穿設されたドレン孔80に閉塞自在に取り付けられると共に、磁性体からなるドレンボルト82と、前記ドレンボルトの前記ギヤケースの内部に露出される部位(露出部位)82a1に設けられると共に、導電体86aと絶縁体(第1絶縁体)86bと前記導電体に局部的に接触する抵抗体86cとが重力方向に積層されてなる積層部86と、前記導電体に電圧を印加して前記導電体から前記ドレンボルトに通電される通電電流値γを検出する電流値検出手段(ECU16、電流センサ104。S10)と、前記検出された通電電流値γに基づいて前記ドレンボルトに堆積された前記ギヤ機構の磨耗粉106の量を検出する磨耗粉量検出手段(ECU16。S12)とを備える如く構成した。
【0073】
これにより、簡易な構成でギヤ機構70の磨耗粉の量を検出でき、よって磨耗粉によるギヤ機構70の損傷などの発生を防止することができる。即ち、ドレンボルト82が磁性体からなるように構成したので、ギヤ機構70の摩擦によって生じた磨耗粉はドレンボルト82に引き寄せられて吸着されると共に、ドレンボルト82の積層部86付近に徐々に堆積されることとなる。積層部86の導電体86aに電圧を印加した状態で、磨耗粉が堆積されないときは電流は導電体86aからドレンボルト82に流れず、磨耗粉106が抵抗体86cの位置まで堆積されると、電流は導電体86aから抵抗体86c、磨耗粉106を介してドレンボルト82に流れるようになる。さらに、磨耗粉106が抵抗体86cの重力方向において上方に配置される第1絶縁体86bを越えて導電体86aの位置まで堆積されると、電流は導電体86aから磨耗粉106を介してドレンボルト82に流れる、換言すれば、抵抗体86cには流れないようになってドレンボルト82に通電される通電電流値γが変化する。
【0074】
このように、導電体86aからドレンボルト82に通電される通電電流値γがドレンボルト82に堆積された磨耗粉106の量に応じて変化するように構成し、それを利用することで、簡易な構成でありながら磨耗粉106の量(換言すればギヤ機構70の磨耗状態)を検出することができる。そのため、操船者は航行中であっても磨耗粉の量を把握でき、例えば検出された磨耗粉106の量が増加したときに最適なタイミングでオイルの交換などのメンテナンス作業を行うことも可能となり、よって磨耗粉によるギヤ機構70の損傷などの不具合の発生を未然に防止することができる。また、特許文献1で用いられる分岐通路や検出部を不要にすることができるため、船外機10の大型化や構造の複雑化を招くこともない。
【0075】
また、前記電流値検出手段は、前記導電体86aに所定の電圧(5V)を印加して前記通電電流値γを検出すると共に(S10)、前記磨耗粉量検出手段は、前記検出された通電電流値γが所定値γ1以上のとき、前記検出された磨耗粉106の量が許容範囲を超えたと判定する如く構成したので(S12)、ギヤ機構70の磨耗粉106の量が許容範囲を超えたこと、具体的には、磨耗粉106の量が増加して前記したギヤ機構70の損傷などの不具合が発生する恐れがあり、船外機10のメンテナンス作業を行うべき状態であることを、導電体86aからドレンボルト82に通電される通電電流値γを用いて容易に判定することができる。
【0076】
また、前記磨耗粉量検出手段によって前記検出された磨耗粉106の量が前記許容範囲を超えたと判定されるとき、操船者に報知する報知手段(ECU16、ディスプレイ30。S12,S14)を備える如く構成したので、磨耗粉106の量が許容範囲を超えたことを操船者に確実に認識させることが可能となる。
【0077】
また、前記導電体86aは金属体からなる如く構成したので、より一層簡易な構成でギヤ機構70の磨耗粉の量を検出することができる。
【0078】
尚、上記においては、原動機としてエンジン50を例にとって説明したが、電動モータでも良く、さらにはエンジンと電動モータのハイブリッドであっても良い。
【0079】
また、船外機を例にとって説明したが、船内外機についても本発明を適用することができる。また、所定値γ1や導電体86aに印加される電圧値(所定の電圧)、抵抗体86cの抵抗値、エンジン50の排気量などを具体的な値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。
【0080】
また、ドレンボルト82に堆積されたギヤ機構70の磨耗粉の量が許容範囲を超えたと判定されるとき、その旨をディスプレイ30に表示して操船者に報知するように構成したが、それに代えて、あるいはそれに加えてブザーやスピーカなどを設け、磨耗粉量警告を鳴動音や音声で報知するようにしても良い。
【符号の説明】
【0081】
10 船外機、16 ECU(電子制御ユニット)、30 ディスプレイ(報知手段)、50 エンジン(原動機)、64 ギヤケース、70 ギヤ機構、74 プロペラ、80 ドレン孔、82 ドレンボルト、82a1 (ドレンボルトの)露出部位、86 積層部、86a 導電体、86b 第1絶縁体(絶縁体)、86c 抵抗体、104 電流センサ(電流値検出手段)、106 磨耗粉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機の駆動力をプロペラに伝達するギヤ機構を収容するギヤケースを備えた船外機において、
a.前記ギヤケースに穿設されたドレン孔に閉塞自在に取り付けられると共に、磁性体からなるドレンボルトと、
b.前記ドレンボルトの前記ギヤケースの内部に露出される部位に設けられると共に、導電体と絶縁体と前記導電体に局部的に接触する抵抗体とが重力方向に積層されてなる積層部と、
c.前記導電体に電圧を印加して前記導電体から前記ドレンボルトに通電される通電電流値を検出する電流値検出手段と、
d.前記検出された通電電流値に基づいて前記ドレンボルトに堆積された前記ギヤ機構の磨耗粉の量を検出する磨耗粉量検出手段と、
を備えることを特徴とする船外機。
【請求項2】
前記電流値検出手段は、前記導電体に所定の電圧を印加して前記通電電流値を検出すると共に、前記磨耗粉量検出手段は、前記検出された通電電流値が所定値以上のとき、前記検出された磨耗粉の量が許容範囲を超えたと判定することを特徴とする請求項1記載の船外機。
【請求項3】
e.前記磨耗粉量検出手段によって前記検出された磨耗粉の量が前記許容範囲を超えたと判定されるとき、操船者に報知する報知手段、
を備えることを特徴とする請求項2記載の船外機。
【請求項4】
前記導電体は金属体からなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の船外機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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