船尾曳波軽減装置およびこれを装備した双胴船
【課題】 簡素な構成で、曳波の波高を小さくすることができる双胴船を提供することを目的とする。
【解決手段】 デミハル2aとデミハル2bとを跨いで設置された前部水中翼3および後部水中翼4とを具備する双胴船1において、デミハル2aとデミハル2bとの間で船尾部に、船尾方向に向かって後縁側が上方に傾斜する(アタックアングルがマイナス)後部補助翼6を設ける。また、後部補助翼6が船速に応じて制御され、さらに、後部補助翼6が後部水中翼4の一部を構成する。したがって、デミハル2a、2bの後方の波と、デミハル2a、2bに挟まれた間の波とが、船尾から離れた後方で干渉して相殺される。
【解決手段】 デミハル2aとデミハル2bとを跨いで設置された前部水中翼3および後部水中翼4とを具備する双胴船1において、デミハル2aとデミハル2bとの間で船尾部に、船尾方向に向かって後縁側が上方に傾斜する(アタックアングルがマイナス)後部補助翼6を設ける。また、後部補助翼6が船速に応じて制御され、さらに、後部補助翼6が後部水中翼4の一部を構成する。したがって、デミハル2a、2bの後方の波と、デミハル2a、2bに挟まれた間の波とが、船尾から離れた後方で干渉して相殺される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船尾波による曳波の波高を小さくすることができる双胴船に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に高速で航行する船舶について、船尾端の後方に発生する船尾波による曳波(以下「曳波」と称す)は波高が高いため、これによる影響が問題視されている。すなわち、近くを航行する船舶、航路に近い施設(養殖筏や養殖生け簀等)、港湾作業(荷役や係留等)、および海岸線や護岸等に対して、その運転や作業が阻害したり、さらには装置や構造物に損傷を与えたりする懸念がある。
特に、島に挟まれた狭い航路を航行する際には、減速航行しても、曳波の問題が解決されないでいた。
そこで、下記技術が開示されているものの、双胴船においては、船首から発した波が双胴(以下「デミハル」と称す)間で干渉し、これが曳波に影響するため現象を複雑にしている(これについては、別途説明する)。
【0003】
(あ)たとえば、船尾端の底面に略三角形状のウエッジを設けたり、船尾端の端面から後方に向かって斜め下方に延びる略三角形状のフラップを設けたりして、船尾端を持ち上げて曳波の波高を小さくする技術が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
(い)また、船尾端から後方に所定間隔をおいて複数の翼形断面の翼体を平行に配置し、船尾波を前後に分断して曳波の波高を小さくする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
(う)さらに、一対のデミハルを前後方向で対称な両頭双胴船とし、その外側は互いに略平行な略直線状にして、対峙する内側は平面視で弓状に膨らませて、デミハル間で波の干渉を促進したり、デミハルの内側に水中翼を設置して、船尾においてデミハルの内側の水位と外側の水位とを等しくしたりして、曳波の波高を小さくする技術が開示されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
【非特許文献1】21st UJNR Marine Facilities Panel Meeting Tokyo,Japan May 17-28,1997(255頁、図1)
【特許文献1】特開平11−180379号公報(2頁、図1)
【非特許文献2】西部造船学会々報 第99号(48頁、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記(あ)は、単胴船において船尾端を持ち上げることによって曳波の波高を小さくしようとする発明、すなわち、船尾後方の水位と船体の外側後方の水位との差を小さくしようとする発明であるところ、双胴船には、船尾端(デミハルの後端部に同じ)を持ち上げることができるだけの大きさのウエッジやフラップを設置するスペースがないという問題があった。また、双胴船では、デミハルの後端部が持ち上がったとしても、デミハルに挟まれた内側の波と、デミハルの外側の波とがそれぞれ存在するため、曳波の波高が小さくならないという問題があった。
【0006】
また、前記(い)は、単胴船において船尾端の後方に発生する船尾波を前後に分断する発明であるところ、双胴船では、デミハルの後方に発生する船尾波が前後に分断されたとしても、デミハルに挟まれた内側の波と、デミハルの外側の波とがそれぞれ存在するため、曳波の波高が小さくならないという問題があった。
【0007】
さらに、前記(う)は、船尾におけるデミハルの内側と外側との水位差を小さくして、該水位差が原因となり発生する引波(曳波に同じ)を小さくする発明であるところ、該水位差が小さいだけでは、船形(デミハルの形状、長さや間隔等)および航行速度によって、曳波低減効果が発揮されないことがあり、該発明の適用が制限されるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みて実施された広範な試験研究の過程において、発明者によって発見された新たな知見に基づくものであって、船型を変更することなく、簡素な構成で、曳波の波高を小さくすることができる双胴船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る双胴船は、一方のデミハルと他方のデミハルとの間で船尾部に配置され、船尾方向に向かって後縁側が上方になるように傾斜する翼体を有することを特徴とする双胴船。
【0010】
(2)また、前記翼体の傾動角度が、前記双胴船の航行速度に応じて制御されることを特徴とする。
【0011】
(3)前記一対のデミハルを跨いで前部水中翼および後部水中翼が設置されてなることを特徴とする。
【0012】
(4)前記翼体が、後部水中翼の一部を構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
したがって、翼体によって形成されたデミハルの内側の波と、デミハルの後方に形成される波とが、船尾の後方の離れた位置で干渉するから、簡素な構成でもって、曳波の波高を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、実施形態1として本発明の実施形態に係る双胴船を、実施形態2として船尾曳波軽減装置を説明する。なお、以下の各図において、同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。また、同一または相当する内容のものについては添え字「a、b、またはc」を省略する。
【0015】
[実施形態1]
(翼付双胴船1)
図1および図2は、本発明の実施形態1に係る双胴船を模式的に示すものであって、図1は一部断面の斜視図、図2の(a)は側面図、図2の(b)は後部水中翼の位置における断面図、図2の(c)は後部水中翼を示す平面断面図、図2の(d)は前部水中翼の位置における断面図、図2の(e)は前部水中翼を示す平面断面図、図2の(f)はセンターストラップを示す断面図、図2の(g)はサイドストラップを示す断面図、図2の(h)は翼端板を示す断面図である。
図1および図2において、翼付双胴船1(以下「双胴船1」と称す)は、船底部に左右一対の船首尾方向で扁平な脚部2a、2b(以下「デミハル2a、2b」と称す)が突設され、デミハル2aとデミハル2bとを跨いで水没型の前部水中翼3と後部水中翼4が固定されている。なお、デミハル2a、2bを跨いで、これを連結する部位をクロスデッキと称し、クロスデッキの下面1aで船尾にはセンターストラップ9が設置されている。
【0016】
前部水中翼3は、中央が僅かに折れ曲がった略V字状であって、左右に前部補助翼5a、5b(以下、まとめて前部補助翼5と称す)が傾動自在に設置されている。
一方、後部水中翼4は、略平面状であって、3枚の後部補助翼6a、6b、6c(以下、まとめて後部補助翼6と称す)が並んで設置され、後部水中翼4の後側縁の略全幅を構成している。このとき、後部補助翼6は船尾方向に向かって後縁側が上方に傾斜可能になっている。すなわち、アタックアングルをマイナス(俯角に同じ)にすることができる。
また、後部水中翼4の両端部には、略鉛直方向に断面翼形状(扁平略楕円、扁平水滴状を含む)の翼端板7a、7bが固定されている。そして、後部水中翼4の両端近くは断面翼形状のサイドストラップ8a、8bによって、中央は断面翼形状のセンターストラップ9によって支持されている。
さらに、デミハル2a、2bの後部端面には、推進力を付与するためのウォータージェット機構が設置されているが、本発明は推進力がその他の手段(たとえば、プロペラ等)によって付与されてもよい。
【0017】
図3は、単胴船に一般に発生する波を模式的に示す説明図である。
図3の(a)は、天状の撹乱が水面上を動くときのケルビン波を模式的に示している。すなわち、移動する撹乱点99から、後方に向かってV字状の縦波(ダイバージェントウェーブ)100Dが形成される。縦波100Dは、水面をV字状にかき分けるように進行するものであって、所定の波長で、一対の山(縦波山)110Dと一対の谷(縦波谷)120Dとが交互に形成されている。このとき、前記一対の縦波山110D同士の間隔および前記一対の縦波谷120D同士の間隔が、それぞれ進行前方になる程狭くなっているから、平面視でこれらは進行前方になる程尖って見える。
【0018】
また、前記V字状の範囲内で、進行方向に略垂直は横波(トランスバースウェーブ)100Tが形成されている。横波100Tは、縦波100Dの縦波山110Dを結ぶ位置に形成される山(横波山)110Tと、縦波100Tの縦波谷110Dを結ぶ位置に形成される谷(横波谷)110Tとを有し、横波山110Tおよび横波谷120Tは、いずれも、前記V字状の中央位置から遠ざかる程、遅れている(進行後方に位置してする)。なお、前記V字状の範囲の外側には波が存在しない。
【0019】
図3の(b)は、単胴船90に一般に発生する波を模式的に示している。
すなわち、単胴船99の船首部92から、縦波200D(以下「船首縦波200D」と称す)と横波200T(以下「船首横波200T」と称す)とが発生する。そして、船首縦波200Dは、図示しない船首縦波山と船首縦波谷とを有し、船首横波200Tは、図示しない船首横波山と船首横波谷とを有している。以下、船首縦波200Dと船首横波200Tとをまとめて「船首波200」と総称する。
【0020】
一方、単胴船99の船尾部93から、縦波300D(以下「船尾縦波300D」と称す)と横波300T(以下「船尾横波300T」と称す)とが発生する。そして、船尾縦波300Dは、図示しない船尾縦波山と船尾縦波谷とを有し、船尾横波300Tは、図示しない船尾横波山と船尾横波谷とを有している。以下、船尾縦波300Dと船尾横波300Tとをまとめて「船尾波300」と総称する。
そして、単胴船99の後方で船首波200および船尾波300が複雑に競合して「曳波」を形成し、そのうちの比較的減衰の遅い成分が、海岸や岸壁に到達する。
【0021】
図4は、本発明の実施形態1に係る双胴船の航行状況および発生する波を説明するものであって、比較的低速(静止時〜15ノット程度)で航行しているときの模式図である。
図4の(a)および(b)は、正面図(船尾から見た図に同じ)および側面図(船側より見た図に同じ)である。このとき、前部水中翼3および後部水中翼4は、双胴船1の浮上にほとんど寄与しないから、双胴船1の一対のデミハル2a、2bの大半が水中にあって、クロスデッキの下面1aは海面WLに比較的近い位置にある。また、デミハル2a、2bが水面を分ける幅(図中「イ−ロ」)が広くなっている。
【0022】
図4の(c)は、平面図(船底から上を見た図に同じ)である。一対のデミハル2a、2bの両方から、それぞれ船首波200a、200bと、船尾波300a、300bとが発生している。なお、以下の説明で、同様の内容については添え字「a、b」の記載を省略する。
船首波200および船尾波300は、いずれも前述のように船首縦波200Dと船首横波200T、および船尾縦波300Dと船尾横波300Tとを有している。
さらに、デミハル2b側の船首波200aとデミハル2a側の船首波2bとは、一対のデミハル2a、2bに挟まれた範囲で互いに干渉し、やがて、該挟まれた範囲から船尾後方に伝播している。以下、かかる干渉した波を「胴間波400」と称す。
そして、双胴船1の後方で、船首波200と船尾波300と胴間波400とは互いに干渉し、後述するように曳波の波高が低減している(これについては別途説明する)。
【0023】
図5は、本発明の実施形態1に係る双胴船の航行状況および発生する波を説明するものであって、中速(15〜25ノット程度)で航行しているときの模式図である。
図5の(a)および(b)は、正面図(船尾から見た図に同じ)および側面図(船側より見た図に同じ)である。このとき、双胴船1は、前部水中翼3および後部水中翼4の作用による浮力によって浮上している。このとき、デミハル2a、2bは正面視で下方が狭くなった略台形であるため、水面を分ける幅(図中「ハ−ニ」)が狭くなっている。
【0024】
図5の(c)は、平面図(船底から上を見た図に同じ)である。一対のデミハル2a、2bの両方から、それぞれ船首波200と、船尾波300とが発生している。
このとき、双胴船1は比較的速く航行しているものの、浮上して、水面を分ける幅(図中「ハ−ニ」)が狭くなっているから、船首波200および船尾波300は、前述の低速航行時よりも小さくなっている。
なお、通常、双胴船1は海岸や岸壁等から離れてた航路で、速度を速めるため、仮に大きな船首波200および船尾波300が発生したとしても、曳波としての実害は問題にならない。
【0025】
図6は、本発明の実施形態1に係る双胴船における船尾の波の様子を模式的に示すものであって、側面視の船体中央部における断面図である。
図6の(a)は航行速度が比較的遅い場合であって、船体の浮上量が少ないものの、クロスデッキの下面1aは水面から離れている。
そして、後部補助翼6は船尾方向に向かって後縁側が上方(マイナスのアタックアングル)で傾斜しているから、胴間波400は後部補助翼6の位置において後方に向かって持ち上げられ(盛り上がるに同じ、図中、実線の矢印にて示す)、その後、所定波長の波になる。
一方、デミハル2aおよびデミハル2b(以下、まとめてデミハル2と称す)の後端部の後方直近では、水面は喫水線の下方にあるものの、後端部から所定の距離だけ後方に離れると喫水線の上方に高く盛り上がり(図中、破線の矢印にて示す)、その後、所定波長の波になる。
したがって、後部補助翼6の位置で盛り上がった流れ(たとえば、波の谷)と、デミハル2の後方の離れた位置で盛り上がった流れ(たとえば、波の山)とが、船尾の後方で略扇状に広がりながら干渉し、その結果、曳波の高さが小さくなると考えられる。
なお、デミハル2の後方に発生する波の波長は、航行速度に応じて変動するため、後部補助翼6のアタックアングルのマイナス(俯角)量も又、航行速度に応じて制御する。
【0026】
図6の(b)3は航行速度が比較的速い場合であって、たとえば、外洋を高速で航行する際など、曳波の問題がないから、後部補助翼6のアタックアングルをプラス(仰角)にすることによって船体浮上効果を得たり、複数枚の後部補助翼6をそれぞれ別個に傾動することによって船体の揺動低減効果を得たりしている。
【0027】
なお、図1において後部補助翼6を3枚の翼で構成しているが、その枚数は限定するものではない。
また、後部補助翼6は、後部水中翼4の一部を構成するものとして後部水中翼4内に組み込まれたものに限定するものではなく、後部水中翼4とは別体にして、デミハル2の側面に片端支持(片持ち)で、あるいはデミハル2を跨いで両端支持で設置してもよい。このとき、後部補助翼6を後部水中翼4よりも高い位置に設置して、航行速度が比較的遅いときは水中に沈み、且つ、航行速度が比較的速いときは水上に露出するようにしてもよい。
また、後部補助翼6の傾動機構は限定するものではない。
【0028】
また、前部補助翼5a、5b(以下、まとめて前部補助翼5と称す)は、前部水中翼3に傾動自在に設置されている。したがって、前部水中翼3の船体浮上効果を補完すると共に、揺動低減効果を奏する。また、後部補助翼6の曳波軽減効果が最大になるように、前部水中翼3および前部補助翼5の傾斜角度を調整することができる。
【0029】
(試験結果)
図7〜図10は、本発明の実施形態1に係る船尾曳波軽減装置の曳波軽減効果を確認するための試験結果であって、図7は小型模型、図8は大型模型、図9は実船によるものである。
図7は、前部補助翼および後部補助翼のアタックアングルを変更した場合の、曳波の高さを比率で比較したものである。すなわち、前部補助翼5が基準迎角で後部補助翼6も基準迎角であるときの曳波の高さを100%とすると、前部補助翼5が正迎角で後部補助翼6も正迎角であるとき、曳波の高さは前記基準に対して概ね10%増大している。一方、前部補助翼5が正迎角で後部補助翼6が負迎角(マイナス)であるとき、曳波の高さは前記基準に対して概ね30%低減しているから、このとき、曳波のエネルギは概ね50%低減している。
【0030】
すなわち、この小型模型によって、排水量が小さい程、曳波の高さは小さくなること、曳波の周期や波長は、速力に比例するものであって、航行速度によって決定され排水量には無関係であること、曳波の高さは、水中翼の取り付け角度やフラップ角度に左右され、後部フラップを俯角(負迎角)にすることが有効であることが示されている。
【0031】
図8は、図7に準じるものであって、前部補助翼および後部補助翼が設置されていない場合の曳波の高さを100%とすると、前部補助翼5が基準迎角で後部補助翼6も基準迎角であるときの曳波の高さは僅かに減少し、前部補助翼5が基準迎角で後部補助翼6が0(ゼロ)であるとき、曳波は前記基準に対して概ね5%低減している。一方、前部補助翼5が基準迎角で後部補助翼6が負迎角(マイナス)であるとき、曳波は前記基準に対して概ね15%低減しているから、このとき、曳波のエネルギは概ね30%低減している。
このとき、曳波の高さを低減するには、後部フラップを俯角(負迎角)にすることが有効であることが確認されている。
【0032】
図9は、岸壁に略平行して走行する実船から生じた曳波の高さを、岸壁に設置した波高計によって測定したものである。図中、実線は後部フラップ角度が負迎角(マイナス)のもの、破線は後部フラップ角度が基準状態のものである。図9より、実線で示す後部フラップ角度が負迎角(マイナス)の曳波は、基準状態のもの(破線にて示す)に比較して明らかに小さくなっている。
【0033】
図10は、図9に示す実測値をフーリエ解析により周波数分析したものである。すなわち、曳波は0.3Hzにピークを有し、0.2〜0.4Hzの範囲に表れている。このとき、実線で示す後部フラップ角度が負迎角(マイナス)のときの曳波の高さは、基準状態のものに比較して、概ね30%低減し、前記小型模型と同様の結果が表れている。
かかる曳波の高さの低減は、岸壁を洗うエネルギに換算すると約50%減少に相当する大きな効果が得られている。
なお、航行速度12ノット付近では後部フラップを俯角にしても、航走船体姿勢に影響がないことが確認されている。
【0034】
以上より、本発明が曳波の高さ低減に有効であることが確認された。すなわち、従来の曳波低減技術が、デミハルの後方近傍で、デミハルに挟まれた範囲とデミハルの外側における水面の高さを揃えることを主眼にしていたのに対し、本発明は、デミハルの後方の波と、デミハルに挟まれた範囲の後方の波との干渉、つまり、船尾から所定距離離れた位置における波の干渉による相殺を図っている。
このため、デミハルに挟まれた範囲の波と、デミハルの外側における波との周波数や波長が相違する場合、従来技術では曳波の低減が困難であったのに対し、本発明ではこれが可能になる。
【0035】
[実施形態2]
(翼付双胴船2)
図11は本発明の実施形態2に係る双胴船を模式的に示すものであって、(a)は裏面図、(b)は正面図である。図11において、双胴船10は後部水中翼4の前方斜め上方で、デミハル2aの側面にデミハル2bに向かって後部補助翼6aが、デミハル2bの側面にデミハル2aに向かって後部補助翼6b(以下まとめて「後部補助翼6」と称す)が、それぞれ設置されている。よって、双胴船10が低速航行する際、後部補助翼6は海中、すなわち、胴間波400の中にあって、後縁部が上になるように設置されている(マイナスのアタックアングルを有している)。一方、双胴船10が比較的速く(前記中速に相当する)以上の速度で航行する際、後部補助翼6は海面上に表れ、すなわち、胴間波400の中から脱出している。
【0036】
したがって、双胴船10は前述の双胴船1と同様、低速航行する際、後部補助翼6によってコントロールされた胴間波400が、後方において船尾波300等と干渉して、相互に弱め合うから、曳波の波高が低下する。
なお、後部補助翼6は所定の傾斜角度でデミハル2に固定しても、また、所定の範囲で傾斜角度を変更自在にしてもよい。さらに、中速ないし高速航行中は、デミハル2内に収納自在にしてもよい。
また、前部水中翼3および後部水中翼4には、それぞれ前部フラップ3a、3bおよび後部フラップ4a、4bが設置され、これの傾斜角度を制御することによって、中速ないし高速航行中に所定の浮力と姿勢の安定とが図られている。
【0037】
[実施形態3]
(排水量型双胴船)
図12は本発明の実施形態3に係る双胴船を模式的に示す正面図である。 図12において、双胴船20は、前述の双胴船10における前部水中翼3および後部水中翼4を撤去したものに相当する。
したがって、双胴船20は前述の双胴船1と同様、低速航行する際、後部補助翼6によってコントロールされた胴間波400が、後方において船尾波300等と干渉して、相互に弱め合うから、曳波の波高が低下する。
なお、双胴船20航行速度が増しても浮上することがないから、航行速度に応じて後部補助翼6の傾斜角度を変更自在にするのが望ましい。また、中速ないし高速航行中は、後部補助翼6をデミハル2内に収納自在にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は以上の構成であるから、各種複胴船の船尾曳波の高さ軽減装置として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態1に係る双胴船を模式的に示す一部断面の斜視図。
【図2】本発明の実施形態1に係る双胴船を模式的に示す、部位毎の側面図等。
【図3】単胴船に一般に発生する波を模式的に示す説明図。
【図4】本発明の実施形態1に係る双胴船の航行状況および発生する波を説明する模式図(比較的低速(静止時〜15ノット程度)で航行しているとき)。
【図5】本発明の実施形態1に係る双胴船の航行状況および発生する波を説明する模式図(中速(15〜25ノット程度)で航行しているとき)。
【図6】本発明の実施形態1に係る双胴船における船尾の波の様子を模式的に示す側面視の船体中央部における断面図。
【図7】本発明の実施形態2に係る船尾曳波軽減装置の曳波軽減効果を確認するための実船による試験結果(小型模型)。
【図8】本発明の実施形態2に係る船尾曳波軽減装置の曳波軽減効果を確認するための実船による試験結果(大型模型)。
【図9】本発明の実施形態2に係る船尾曳波軽減装置の曳波軽減効果を確認するための実船による試験結果(実船)。
【図10】図9に示す実測値をフーリエ解析により周波数分析したもの。
【図11】本発明の実施形態2に係る双胴船を模式的に示す裏面図および正面図。
【図12】本発明の実施形態3に係る双胴船を模式的に示す正面図。
【符号の説明】
【0040】
1 ウォータージェット式水中翼付双胴船(双胴船)
2 デミハル
3 前部水中翼
4 後部水中翼
5 前部補助翼
6 後部補助翼
7 翼端板
8 サイドストラップ
9 センターストラップ
10 翼付双胴船
20 排水量型双胴船
【技術分野】
【0001】
本発明は、船尾波による曳波の波高を小さくすることができる双胴船に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に高速で航行する船舶について、船尾端の後方に発生する船尾波による曳波(以下「曳波」と称す)は波高が高いため、これによる影響が問題視されている。すなわち、近くを航行する船舶、航路に近い施設(養殖筏や養殖生け簀等)、港湾作業(荷役や係留等)、および海岸線や護岸等に対して、その運転や作業が阻害したり、さらには装置や構造物に損傷を与えたりする懸念がある。
特に、島に挟まれた狭い航路を航行する際には、減速航行しても、曳波の問題が解決されないでいた。
そこで、下記技術が開示されているものの、双胴船においては、船首から発した波が双胴(以下「デミハル」と称す)間で干渉し、これが曳波に影響するため現象を複雑にしている(これについては、別途説明する)。
【0003】
(あ)たとえば、船尾端の底面に略三角形状のウエッジを設けたり、船尾端の端面から後方に向かって斜め下方に延びる略三角形状のフラップを設けたりして、船尾端を持ち上げて曳波の波高を小さくする技術が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
(い)また、船尾端から後方に所定間隔をおいて複数の翼形断面の翼体を平行に配置し、船尾波を前後に分断して曳波の波高を小さくする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
(う)さらに、一対のデミハルを前後方向で対称な両頭双胴船とし、その外側は互いに略平行な略直線状にして、対峙する内側は平面視で弓状に膨らませて、デミハル間で波の干渉を促進したり、デミハルの内側に水中翼を設置して、船尾においてデミハルの内側の水位と外側の水位とを等しくしたりして、曳波の波高を小さくする技術が開示されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
【非特許文献1】21st UJNR Marine Facilities Panel Meeting Tokyo,Japan May 17-28,1997(255頁、図1)
【特許文献1】特開平11−180379号公報(2頁、図1)
【非特許文献2】西部造船学会々報 第99号(48頁、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記(あ)は、単胴船において船尾端を持ち上げることによって曳波の波高を小さくしようとする発明、すなわち、船尾後方の水位と船体の外側後方の水位との差を小さくしようとする発明であるところ、双胴船には、船尾端(デミハルの後端部に同じ)を持ち上げることができるだけの大きさのウエッジやフラップを設置するスペースがないという問題があった。また、双胴船では、デミハルの後端部が持ち上がったとしても、デミハルに挟まれた内側の波と、デミハルの外側の波とがそれぞれ存在するため、曳波の波高が小さくならないという問題があった。
【0006】
また、前記(い)は、単胴船において船尾端の後方に発生する船尾波を前後に分断する発明であるところ、双胴船では、デミハルの後方に発生する船尾波が前後に分断されたとしても、デミハルに挟まれた内側の波と、デミハルの外側の波とがそれぞれ存在するため、曳波の波高が小さくならないという問題があった。
【0007】
さらに、前記(う)は、船尾におけるデミハルの内側と外側との水位差を小さくして、該水位差が原因となり発生する引波(曳波に同じ)を小さくする発明であるところ、該水位差が小さいだけでは、船形(デミハルの形状、長さや間隔等)および航行速度によって、曳波低減効果が発揮されないことがあり、該発明の適用が制限されるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みて実施された広範な試験研究の過程において、発明者によって発見された新たな知見に基づくものであって、船型を変更することなく、簡素な構成で、曳波の波高を小さくすることができる双胴船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る双胴船は、一方のデミハルと他方のデミハルとの間で船尾部に配置され、船尾方向に向かって後縁側が上方になるように傾斜する翼体を有することを特徴とする双胴船。
【0010】
(2)また、前記翼体の傾動角度が、前記双胴船の航行速度に応じて制御されることを特徴とする。
【0011】
(3)前記一対のデミハルを跨いで前部水中翼および後部水中翼が設置されてなることを特徴とする。
【0012】
(4)前記翼体が、後部水中翼の一部を構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
したがって、翼体によって形成されたデミハルの内側の波と、デミハルの後方に形成される波とが、船尾の後方の離れた位置で干渉するから、簡素な構成でもって、曳波の波高を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、実施形態1として本発明の実施形態に係る双胴船を、実施形態2として船尾曳波軽減装置を説明する。なお、以下の各図において、同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。また、同一または相当する内容のものについては添え字「a、b、またはc」を省略する。
【0015】
[実施形態1]
(翼付双胴船1)
図1および図2は、本発明の実施形態1に係る双胴船を模式的に示すものであって、図1は一部断面の斜視図、図2の(a)は側面図、図2の(b)は後部水中翼の位置における断面図、図2の(c)は後部水中翼を示す平面断面図、図2の(d)は前部水中翼の位置における断面図、図2の(e)は前部水中翼を示す平面断面図、図2の(f)はセンターストラップを示す断面図、図2の(g)はサイドストラップを示す断面図、図2の(h)は翼端板を示す断面図である。
図1および図2において、翼付双胴船1(以下「双胴船1」と称す)は、船底部に左右一対の船首尾方向で扁平な脚部2a、2b(以下「デミハル2a、2b」と称す)が突設され、デミハル2aとデミハル2bとを跨いで水没型の前部水中翼3と後部水中翼4が固定されている。なお、デミハル2a、2bを跨いで、これを連結する部位をクロスデッキと称し、クロスデッキの下面1aで船尾にはセンターストラップ9が設置されている。
【0016】
前部水中翼3は、中央が僅かに折れ曲がった略V字状であって、左右に前部補助翼5a、5b(以下、まとめて前部補助翼5と称す)が傾動自在に設置されている。
一方、後部水中翼4は、略平面状であって、3枚の後部補助翼6a、6b、6c(以下、まとめて後部補助翼6と称す)が並んで設置され、後部水中翼4の後側縁の略全幅を構成している。このとき、後部補助翼6は船尾方向に向かって後縁側が上方に傾斜可能になっている。すなわち、アタックアングルをマイナス(俯角に同じ)にすることができる。
また、後部水中翼4の両端部には、略鉛直方向に断面翼形状(扁平略楕円、扁平水滴状を含む)の翼端板7a、7bが固定されている。そして、後部水中翼4の両端近くは断面翼形状のサイドストラップ8a、8bによって、中央は断面翼形状のセンターストラップ9によって支持されている。
さらに、デミハル2a、2bの後部端面には、推進力を付与するためのウォータージェット機構が設置されているが、本発明は推進力がその他の手段(たとえば、プロペラ等)によって付与されてもよい。
【0017】
図3は、単胴船に一般に発生する波を模式的に示す説明図である。
図3の(a)は、天状の撹乱が水面上を動くときのケルビン波を模式的に示している。すなわち、移動する撹乱点99から、後方に向かってV字状の縦波(ダイバージェントウェーブ)100Dが形成される。縦波100Dは、水面をV字状にかき分けるように進行するものであって、所定の波長で、一対の山(縦波山)110Dと一対の谷(縦波谷)120Dとが交互に形成されている。このとき、前記一対の縦波山110D同士の間隔および前記一対の縦波谷120D同士の間隔が、それぞれ進行前方になる程狭くなっているから、平面視でこれらは進行前方になる程尖って見える。
【0018】
また、前記V字状の範囲内で、進行方向に略垂直は横波(トランスバースウェーブ)100Tが形成されている。横波100Tは、縦波100Dの縦波山110Dを結ぶ位置に形成される山(横波山)110Tと、縦波100Tの縦波谷110Dを結ぶ位置に形成される谷(横波谷)110Tとを有し、横波山110Tおよび横波谷120Tは、いずれも、前記V字状の中央位置から遠ざかる程、遅れている(進行後方に位置してする)。なお、前記V字状の範囲の外側には波が存在しない。
【0019】
図3の(b)は、単胴船90に一般に発生する波を模式的に示している。
すなわち、単胴船99の船首部92から、縦波200D(以下「船首縦波200D」と称す)と横波200T(以下「船首横波200T」と称す)とが発生する。そして、船首縦波200Dは、図示しない船首縦波山と船首縦波谷とを有し、船首横波200Tは、図示しない船首横波山と船首横波谷とを有している。以下、船首縦波200Dと船首横波200Tとをまとめて「船首波200」と総称する。
【0020】
一方、単胴船99の船尾部93から、縦波300D(以下「船尾縦波300D」と称す)と横波300T(以下「船尾横波300T」と称す)とが発生する。そして、船尾縦波300Dは、図示しない船尾縦波山と船尾縦波谷とを有し、船尾横波300Tは、図示しない船尾横波山と船尾横波谷とを有している。以下、船尾縦波300Dと船尾横波300Tとをまとめて「船尾波300」と総称する。
そして、単胴船99の後方で船首波200および船尾波300が複雑に競合して「曳波」を形成し、そのうちの比較的減衰の遅い成分が、海岸や岸壁に到達する。
【0021】
図4は、本発明の実施形態1に係る双胴船の航行状況および発生する波を説明するものであって、比較的低速(静止時〜15ノット程度)で航行しているときの模式図である。
図4の(a)および(b)は、正面図(船尾から見た図に同じ)および側面図(船側より見た図に同じ)である。このとき、前部水中翼3および後部水中翼4は、双胴船1の浮上にほとんど寄与しないから、双胴船1の一対のデミハル2a、2bの大半が水中にあって、クロスデッキの下面1aは海面WLに比較的近い位置にある。また、デミハル2a、2bが水面を分ける幅(図中「イ−ロ」)が広くなっている。
【0022】
図4の(c)は、平面図(船底から上を見た図に同じ)である。一対のデミハル2a、2bの両方から、それぞれ船首波200a、200bと、船尾波300a、300bとが発生している。なお、以下の説明で、同様の内容については添え字「a、b」の記載を省略する。
船首波200および船尾波300は、いずれも前述のように船首縦波200Dと船首横波200T、および船尾縦波300Dと船尾横波300Tとを有している。
さらに、デミハル2b側の船首波200aとデミハル2a側の船首波2bとは、一対のデミハル2a、2bに挟まれた範囲で互いに干渉し、やがて、該挟まれた範囲から船尾後方に伝播している。以下、かかる干渉した波を「胴間波400」と称す。
そして、双胴船1の後方で、船首波200と船尾波300と胴間波400とは互いに干渉し、後述するように曳波の波高が低減している(これについては別途説明する)。
【0023】
図5は、本発明の実施形態1に係る双胴船の航行状況および発生する波を説明するものであって、中速(15〜25ノット程度)で航行しているときの模式図である。
図5の(a)および(b)は、正面図(船尾から見た図に同じ)および側面図(船側より見た図に同じ)である。このとき、双胴船1は、前部水中翼3および後部水中翼4の作用による浮力によって浮上している。このとき、デミハル2a、2bは正面視で下方が狭くなった略台形であるため、水面を分ける幅(図中「ハ−ニ」)が狭くなっている。
【0024】
図5の(c)は、平面図(船底から上を見た図に同じ)である。一対のデミハル2a、2bの両方から、それぞれ船首波200と、船尾波300とが発生している。
このとき、双胴船1は比較的速く航行しているものの、浮上して、水面を分ける幅(図中「ハ−ニ」)が狭くなっているから、船首波200および船尾波300は、前述の低速航行時よりも小さくなっている。
なお、通常、双胴船1は海岸や岸壁等から離れてた航路で、速度を速めるため、仮に大きな船首波200および船尾波300が発生したとしても、曳波としての実害は問題にならない。
【0025】
図6は、本発明の実施形態1に係る双胴船における船尾の波の様子を模式的に示すものであって、側面視の船体中央部における断面図である。
図6の(a)は航行速度が比較的遅い場合であって、船体の浮上量が少ないものの、クロスデッキの下面1aは水面から離れている。
そして、後部補助翼6は船尾方向に向かって後縁側が上方(マイナスのアタックアングル)で傾斜しているから、胴間波400は後部補助翼6の位置において後方に向かって持ち上げられ(盛り上がるに同じ、図中、実線の矢印にて示す)、その後、所定波長の波になる。
一方、デミハル2aおよびデミハル2b(以下、まとめてデミハル2と称す)の後端部の後方直近では、水面は喫水線の下方にあるものの、後端部から所定の距離だけ後方に離れると喫水線の上方に高く盛り上がり(図中、破線の矢印にて示す)、その後、所定波長の波になる。
したがって、後部補助翼6の位置で盛り上がった流れ(たとえば、波の谷)と、デミハル2の後方の離れた位置で盛り上がった流れ(たとえば、波の山)とが、船尾の後方で略扇状に広がりながら干渉し、その結果、曳波の高さが小さくなると考えられる。
なお、デミハル2の後方に発生する波の波長は、航行速度に応じて変動するため、後部補助翼6のアタックアングルのマイナス(俯角)量も又、航行速度に応じて制御する。
【0026】
図6の(b)3は航行速度が比較的速い場合であって、たとえば、外洋を高速で航行する際など、曳波の問題がないから、後部補助翼6のアタックアングルをプラス(仰角)にすることによって船体浮上効果を得たり、複数枚の後部補助翼6をそれぞれ別個に傾動することによって船体の揺動低減効果を得たりしている。
【0027】
なお、図1において後部補助翼6を3枚の翼で構成しているが、その枚数は限定するものではない。
また、後部補助翼6は、後部水中翼4の一部を構成するものとして後部水中翼4内に組み込まれたものに限定するものではなく、後部水中翼4とは別体にして、デミハル2の側面に片端支持(片持ち)で、あるいはデミハル2を跨いで両端支持で設置してもよい。このとき、後部補助翼6を後部水中翼4よりも高い位置に設置して、航行速度が比較的遅いときは水中に沈み、且つ、航行速度が比較的速いときは水上に露出するようにしてもよい。
また、後部補助翼6の傾動機構は限定するものではない。
【0028】
また、前部補助翼5a、5b(以下、まとめて前部補助翼5と称す)は、前部水中翼3に傾動自在に設置されている。したがって、前部水中翼3の船体浮上効果を補完すると共に、揺動低減効果を奏する。また、後部補助翼6の曳波軽減効果が最大になるように、前部水中翼3および前部補助翼5の傾斜角度を調整することができる。
【0029】
(試験結果)
図7〜図10は、本発明の実施形態1に係る船尾曳波軽減装置の曳波軽減効果を確認するための試験結果であって、図7は小型模型、図8は大型模型、図9は実船によるものである。
図7は、前部補助翼および後部補助翼のアタックアングルを変更した場合の、曳波の高さを比率で比較したものである。すなわち、前部補助翼5が基準迎角で後部補助翼6も基準迎角であるときの曳波の高さを100%とすると、前部補助翼5が正迎角で後部補助翼6も正迎角であるとき、曳波の高さは前記基準に対して概ね10%増大している。一方、前部補助翼5が正迎角で後部補助翼6が負迎角(マイナス)であるとき、曳波の高さは前記基準に対して概ね30%低減しているから、このとき、曳波のエネルギは概ね50%低減している。
【0030】
すなわち、この小型模型によって、排水量が小さい程、曳波の高さは小さくなること、曳波の周期や波長は、速力に比例するものであって、航行速度によって決定され排水量には無関係であること、曳波の高さは、水中翼の取り付け角度やフラップ角度に左右され、後部フラップを俯角(負迎角)にすることが有効であることが示されている。
【0031】
図8は、図7に準じるものであって、前部補助翼および後部補助翼が設置されていない場合の曳波の高さを100%とすると、前部補助翼5が基準迎角で後部補助翼6も基準迎角であるときの曳波の高さは僅かに減少し、前部補助翼5が基準迎角で後部補助翼6が0(ゼロ)であるとき、曳波は前記基準に対して概ね5%低減している。一方、前部補助翼5が基準迎角で後部補助翼6が負迎角(マイナス)であるとき、曳波は前記基準に対して概ね15%低減しているから、このとき、曳波のエネルギは概ね30%低減している。
このとき、曳波の高さを低減するには、後部フラップを俯角(負迎角)にすることが有効であることが確認されている。
【0032】
図9は、岸壁に略平行して走行する実船から生じた曳波の高さを、岸壁に設置した波高計によって測定したものである。図中、実線は後部フラップ角度が負迎角(マイナス)のもの、破線は後部フラップ角度が基準状態のものである。図9より、実線で示す後部フラップ角度が負迎角(マイナス)の曳波は、基準状態のもの(破線にて示す)に比較して明らかに小さくなっている。
【0033】
図10は、図9に示す実測値をフーリエ解析により周波数分析したものである。すなわち、曳波は0.3Hzにピークを有し、0.2〜0.4Hzの範囲に表れている。このとき、実線で示す後部フラップ角度が負迎角(マイナス)のときの曳波の高さは、基準状態のものに比較して、概ね30%低減し、前記小型模型と同様の結果が表れている。
かかる曳波の高さの低減は、岸壁を洗うエネルギに換算すると約50%減少に相当する大きな効果が得られている。
なお、航行速度12ノット付近では後部フラップを俯角にしても、航走船体姿勢に影響がないことが確認されている。
【0034】
以上より、本発明が曳波の高さ低減に有効であることが確認された。すなわち、従来の曳波低減技術が、デミハルの後方近傍で、デミハルに挟まれた範囲とデミハルの外側における水面の高さを揃えることを主眼にしていたのに対し、本発明は、デミハルの後方の波と、デミハルに挟まれた範囲の後方の波との干渉、つまり、船尾から所定距離離れた位置における波の干渉による相殺を図っている。
このため、デミハルに挟まれた範囲の波と、デミハルの外側における波との周波数や波長が相違する場合、従来技術では曳波の低減が困難であったのに対し、本発明ではこれが可能になる。
【0035】
[実施形態2]
(翼付双胴船2)
図11は本発明の実施形態2に係る双胴船を模式的に示すものであって、(a)は裏面図、(b)は正面図である。図11において、双胴船10は後部水中翼4の前方斜め上方で、デミハル2aの側面にデミハル2bに向かって後部補助翼6aが、デミハル2bの側面にデミハル2aに向かって後部補助翼6b(以下まとめて「後部補助翼6」と称す)が、それぞれ設置されている。よって、双胴船10が低速航行する際、後部補助翼6は海中、すなわち、胴間波400の中にあって、後縁部が上になるように設置されている(マイナスのアタックアングルを有している)。一方、双胴船10が比較的速く(前記中速に相当する)以上の速度で航行する際、後部補助翼6は海面上に表れ、すなわち、胴間波400の中から脱出している。
【0036】
したがって、双胴船10は前述の双胴船1と同様、低速航行する際、後部補助翼6によってコントロールされた胴間波400が、後方において船尾波300等と干渉して、相互に弱め合うから、曳波の波高が低下する。
なお、後部補助翼6は所定の傾斜角度でデミハル2に固定しても、また、所定の範囲で傾斜角度を変更自在にしてもよい。さらに、中速ないし高速航行中は、デミハル2内に収納自在にしてもよい。
また、前部水中翼3および後部水中翼4には、それぞれ前部フラップ3a、3bおよび後部フラップ4a、4bが設置され、これの傾斜角度を制御することによって、中速ないし高速航行中に所定の浮力と姿勢の安定とが図られている。
【0037】
[実施形態3]
(排水量型双胴船)
図12は本発明の実施形態3に係る双胴船を模式的に示す正面図である。 図12において、双胴船20は、前述の双胴船10における前部水中翼3および後部水中翼4を撤去したものに相当する。
したがって、双胴船20は前述の双胴船1と同様、低速航行する際、後部補助翼6によってコントロールされた胴間波400が、後方において船尾波300等と干渉して、相互に弱め合うから、曳波の波高が低下する。
なお、双胴船20航行速度が増しても浮上することがないから、航行速度に応じて後部補助翼6の傾斜角度を変更自在にするのが望ましい。また、中速ないし高速航行中は、後部補助翼6をデミハル2内に収納自在にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は以上の構成であるから、各種複胴船の船尾曳波の高さ軽減装置として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態1に係る双胴船を模式的に示す一部断面の斜視図。
【図2】本発明の実施形態1に係る双胴船を模式的に示す、部位毎の側面図等。
【図3】単胴船に一般に発生する波を模式的に示す説明図。
【図4】本発明の実施形態1に係る双胴船の航行状況および発生する波を説明する模式図(比較的低速(静止時〜15ノット程度)で航行しているとき)。
【図5】本発明の実施形態1に係る双胴船の航行状況および発生する波を説明する模式図(中速(15〜25ノット程度)で航行しているとき)。
【図6】本発明の実施形態1に係る双胴船における船尾の波の様子を模式的に示す側面視の船体中央部における断面図。
【図7】本発明の実施形態2に係る船尾曳波軽減装置の曳波軽減効果を確認するための実船による試験結果(小型模型)。
【図8】本発明の実施形態2に係る船尾曳波軽減装置の曳波軽減効果を確認するための実船による試験結果(大型模型)。
【図9】本発明の実施形態2に係る船尾曳波軽減装置の曳波軽減効果を確認するための実船による試験結果(実船)。
【図10】図9に示す実測値をフーリエ解析により周波数分析したもの。
【図11】本発明の実施形態2に係る双胴船を模式的に示す裏面図および正面図。
【図12】本発明の実施形態3に係る双胴船を模式的に示す正面図。
【符号の説明】
【0040】
1 ウォータージェット式水中翼付双胴船(双胴船)
2 デミハル
3 前部水中翼
4 後部水中翼
5 前部補助翼
6 後部補助翼
7 翼端板
8 サイドストラップ
9 センターストラップ
10 翼付双胴船
20 排水量型双胴船
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のデミハルと該デミハルを跨いで設置された前部水中翼および後部水中翼とを具備する双胴船において、一方のデミハルと他方のデミハルとの間で船尾部に配置され、船尾方向に向かって後縁側が上方になるように傾斜する翼体を有することを特徴とする船尾曳波軽減装置。
【請求項2】
前記翼体の傾動角度が、前記双胴船の船速に応じて制御されることを特徴とする請求項1記載の船尾曳波軽減装置。
【請求項3】
前記翼体が、後部水中翼の一部を構成することを特徴とする請求項1または2記載の船尾曳波軽減装置。
【請求項4】
一対のデミハルと該デミハルを跨いで設置された前部水中翼および後部水中翼と、一方のデミハルと他方のデミハルとの間で船尾部に配置され、船尾方向に向かって後縁側が上方になるように傾斜する翼体とを有することを特徴とする双胴船。
【請求項5】
前記翼体の傾動角度が、船速に応じて制御されることを特徴とする請求項4記載の双胴船。
【請求項6】
前記翼体が、後部水中翼の一部を構成することを特徴とする請求項4または5記載の双胴船。
【請求項1】
一対のデミハルと該デミハルを跨いで設置された前部水中翼および後部水中翼とを具備する双胴船において、一方のデミハルと他方のデミハルとの間で船尾部に配置され、船尾方向に向かって後縁側が上方になるように傾斜する翼体を有することを特徴とする船尾曳波軽減装置。
【請求項2】
前記翼体の傾動角度が、前記双胴船の船速に応じて制御されることを特徴とする請求項1記載の船尾曳波軽減装置。
【請求項3】
前記翼体が、後部水中翼の一部を構成することを特徴とする請求項1または2記載の船尾曳波軽減装置。
【請求項4】
一対のデミハルと該デミハルを跨いで設置された前部水中翼および後部水中翼と、一方のデミハルと他方のデミハルとの間で船尾部に配置され、船尾方向に向かって後縁側が上方になるように傾斜する翼体とを有することを特徴とする双胴船。
【請求項5】
前記翼体の傾動角度が、船速に応じて制御されることを特徴とする請求項4記載の双胴船。
【請求項6】
前記翼体が、後部水中翼の一部を構成することを特徴とする請求項4または5記載の双胴船。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−168692(P2006−168692A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368014(P2004−368014)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
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