説明

船舶とその車両甲板構造

【課題】積載する車両の車高と、甲板桁の深さとの設計上の干渉を低減する。
【解決手段】車両4が走行する車両甲板1の船首と船尾を結ぶ船長方向に延長する縦桁2を、その車両甲板の上面に設置する。その縦桁により車両が通行するレーンを形成する。更に、車両甲板1の下側に配置され、車両甲板に垂直な方向から見て縦桁と直交する甲板梁3を備える。甲板を支持する主要な桁を甲板の下側に設置する必要がないため、甲板の高さを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶とその車両甲板構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フェリーやRO/RO(Roll On/Roll Off)船などの船舶の車両区画において、車両甲板の甲板縦桁、甲板横桁、甲板梁等の甲板補強材が甲板下面に設置されることにより、甲板上面に平坦な床面が形成される。図1は、そのような船舶の車両区画の参考例を示す側面図である。図1の例では、複数の車両甲板101が鉛直方向に並んで設置される。各車両甲板101は、車両甲板101の下に設置され水平方向に延長する甲板桁102によって支持されることにより構造的な強度を与えられる。車両甲板101の下には更に、横桁103などの構造部材が設置される。
【0003】
各車両甲板101の上面に車両104が載せられる。車両104を載せるために、車両104の車高よりも高い空間が必要とされる。具体的には、各車両区画の床側の車両甲板101の上面と、天井側の車両甲板101を支持する甲板桁102の下端側の面との間の高さH2が、車高よりも大きい必要がある。この高さH2は、上下方向に隣接する車両甲板101間の距離H1に比べて、甲板桁102の深さ分だけ低い。
【0004】
特許文献1に、客船の甲板構造の一例が記載されている。この文献に記載の技術は、ダクトやパイプ等のぎ装品の配置設計を容易とするための甲板構造に関し、甲板の上面に甲板横桁および縦通肋骨を配設するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−82880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両区画の甲板高さ(車両甲板101間の距離H1)は、積載する車両104の車高、上方の車両甲板101の甲板桁(図1の例では甲板縦桁102)の深さなどから決定される。甲板桁の深さは、車両甲板101に要求される強度に基づいて決定される。甲板桁の深さが大きくなると、車両走行及び車載に対するクリア高さ(図1の高さH2)を保持するために、甲板の位置を高くする必要が生じる。甲板高さが増すと、船の深さが増す。その結果、船が大型化し重量が増加し、船の性能が圧迫される。
【0007】
積載する車両の車高と、甲板桁の深さとの設計上の干渉を低減する技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、[発明を実施するための形態]で使用される番号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための形態]との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0009】
本発明の一側面において、船舶は、車両(4)が走行する車両甲板(1)と、車両甲板の船首と船尾を結ぶ船長方向に延長する縦桁(2)とを備える。縦桁を車両甲板の上面(1a)に設置して、縦桁により車両が通行するレーンを形成する。
【0010】
本発明の他の側面において、船舶は更に、車両甲板(1)の下側に配置され、車両甲板に垂直な方向から見て縦桁と直交する甲板梁(3)を備える。
【0011】
本発明の更に他の側面において、船舶は更に、車両甲板(1)の下側に形成され、車両甲板に垂直な方向から見て縦桁と直交する横桁(10)と、車両甲板の下側に形成され、縦桁に平行な甲板梁(9)とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、積載する車両の車高と、甲板桁の深さとの設計上の干渉を低減する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、参考例における船舶の車両区画を示す。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態における甲板を側面から見た断面図を示す。
【図3】図3は、甲板の一部を示す鳥瞰図である。
【図4】図4は、甲板の正面図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態における甲板を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図2は、フェリーやRO/RO等の船舶の車両甲板構造を側面から見た断面図を示す。図3は車両甲板構造の一部を示す鳥瞰図である。図4は車両甲板構造の正面図である。
【0015】
各車両甲板1には、水平方向に並んで互いに平行な複数の縦桁2が設置される。車両甲板1には縦桁の組が何種類か取り付けられることがあるが、この縦桁2は、桁高さが最も大きい主甲板桁である。縦桁2は例えば支柱のような船舶の車両区画を形成する構造部材に固定される。図4には、左右の船側肋骨7の間に配置された車両甲板1が描かれている。縦桁2は、車両甲板1の上面1a、すなわち船舶が水平な状態における鉛直方向上側に取り付けられるオンデッキガーダーである。車両甲板1の強度は、主として縦桁2によって保たれる。図3の例では、縦桁2は車両甲板1に対して直立するウェブ5と、ウェブ5の上端面から左右に延びるフランジ6とを有するT字型の断面の構造梁である。
【0016】
本実施形態では、車両甲板1の下面1bの側に、縦桁2に対して垂直な長手方向を有する複数の甲板梁(縦通肋骨)3が設置される。甲板梁3は縦桁2よりも強度が小さい部材(例えば縦桁2よりも高さが小さい部材)であり、車両甲板1を補助的に支持する。図2、図3の例では、甲板梁3はL字型の断面形状を有する構造梁である。
【0017】
同一の車両甲板1上に、複数の縦桁2が並ぶ。本実施形態では、複数の縦桁2の間の空間が、1台又は複数台の車両4の幅を有する走行レーンA又は収納スペースとして使用される。複数の縦桁2は、その走行レーンAを通過する車両を案内するガードとして用いられる。船舶が岸壁に停泊しているとき、車両4は船舶のランプから船内に乗り込み、所定の動線上を走行し、車両甲板1上の縦桁2の間の走行スペース乃至停車スペースに移動することができる。
【0018】
車両4から見ると、縦桁2は車両の走行レーンAに沿って設置されているため、走行の妨げにならない。車両甲板1の上面に設置されるのが鋼壁でなく縦桁2であるため、車両4の運転手や歩行中の乗客の視界を妨げず、車両走行に対する安全性を確保することができる。
【0019】
図2に示すように、上下方向に隣接する複数の車両甲板1の距離(甲板高さ)はH3である。車両4を安全に収納するために、車両甲板1の床面と、その天井側に隣接する車両甲板1の下側の甲板梁(船体横方向に延設される梁)3の下端との距離H4は、車高よりも大きい値に設定される。なお、車両甲板1の下面1bには船体の幅方向と長さ方向に梁や桁材などの骨材を強度部材として設置しており、本実施形態では、アングル材の梁よりも(高さ方向が)大きな骨材を桁(ウェッブ材)、縦桁2と表記している。
【0020】
このような構成においては、縦桁2の深さ(車両甲板1の床面上の高さ)を大きくしても、その深さ分の空間がデッドスペースとならないため、車両の収納スペースが狭くなることが無い。従って、縦桁2を大型化し、又はその数を増やすことによって、甲板梁3の荷重負荷を軽減し、甲板梁3の深さを減じることができる。その結果、車高によって決定される距離H4を保ちつつ、甲板高さH3を減じることが可能となる。
【0021】
図5は、本発明の第2実施形態における甲板を示す。本実施形態において、車両甲板1を支持する主要な強度部材である縦桁2が車両甲板1の上面1a側に設置され、その間が車両4の走行レーンAとして用いられる点は、第1実施形態と同様である。本実施形態においては更に、車両甲板1の下面1bに、縦桁2と垂直な長手方向を有するT字型断面の構造梁である互いに平行な複数の横桁10が設置される。
【0022】
横桁10は縦桁2に支持される。横桁10の車両甲板1に近い位置に孔が形成され、その孔を通って、車両甲板1の下面側に甲板梁9が設置される。甲板梁9は、縦桁2と平行に配置される。甲板梁9と横桁10とはブラケット11によって固定される。横桁10及び甲板梁9は、縦桁2に比べて副次的に車両甲板1の強度を維持すればよいため、その深さ(取り付けられた状態における鉛直方向の高さ)は、縦桁2に比べて小さくてよい。
【0023】
このような構成によっても、車両甲板1上の縦桁2の高さを大きくする又は数を増やすことによって、強度を向上することができる。そのため車両甲板1下の横桁10の高さを小さくすることができる。その結果、要求される車高の設計値を保ちながら甲板高さを抑えることが可能である。第1、第2実施形態のいずれも甲板高さを抑える効果が得られる。第2実施形態の場合は、図5に示されるように、甲板梁9は船の首尾方向に延設される。一般的に甲板梁は船の首尾方向に延設されるため、この実施形態は実現性が高い。第1実施形態では、図2、図3に示されるように、甲板梁が横置きされる。そのため甲板下に甲板横桁を配置する必要が無く、その分甲板高さを低くできる点で有利である。
【0024】
以上、説明したように、本実施形態においては、車両4が走行する車両甲板1と、車両甲板1下面1bの船首・船尾方向に設置する縦桁102と、縦桁102に直交して設置する横桁103とを具えたフェリーや自動車運搬船などの車両運搬船において、縦桁を車両甲板1の上面1aに設置して、縦桁2により車両4が通行するレーン(案内路)Aを形成する車両運搬船が提案される。レーンAは複数本あるいは1本の縦桁2で形成できる。1本の縦桁2の場合には、支柱7(又は縦隔壁)とでレーンAを形成すればよい。
【0025】
要するに、本実施形態においては、通常、車両甲板1の下面に配設されている横桁と縦桁の内、縦桁のみを車両甲板1の上面に設置すると共に、その縦桁2が車両の案内路(所謂、ガードレール)として活用される。
【0026】
以上に説明した本発明の幾つかの実施形態は、互いに矛盾しない範囲で任意に組み合わせが可能であることは当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0027】
1 車両甲板
1a 上面
1b 上面
2 縦桁
3 甲板梁
4 車両
5 ウェブ
6 フランジ
7 船側肋骨
9 甲板梁
10 横桁
11 ブラケット
101 車両甲板
102 甲板縦桁
103 横桁
104 車両
A レーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する車両甲板と、
前記車両甲板の船首と船尾を結ぶ船長方向に延長する縦桁とを具備し、
前記縦桁を前記車両甲板の上面に設置して、前記縦桁により車両が通行するレーンを形成する
車両運搬船。
【請求項2】
更に、前記車両甲板の下側に配置され、前記車両甲板に垂直な方向から見て前記縦桁と直交する甲板梁を具備する
請求項1に記載の車両運搬船。
【請求項3】
更に、前記車両甲板の下側に形成され、前記車両甲板に垂直な方向から見て前記縦桁と直交する横桁と、
前記車両甲板の下側に形成され、前記縦桁に平行な甲板梁とを具備する
請求項1に記載の車両運搬船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35505(P2013−35505A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175213(P2011−175213)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)