説明

船舶の操舵装置

【課題】推進手段が他の推進手段等により干渉を生じることなく転回し得るようにした船舶の操舵装置を提供する。
【解決手段】操縦者のステアリング操作による操舵角に基づいて推進手段1,2,3を転回させる制御転回角を算出する制御部14と、前記制御部により算出された前記制御転回角に基づいて前記推進手段を転回させる転回装置15,16,17とを備え、前記制御部は、前記船舶の機種と、前記推進手段の機種と、前記推進手段が複数基設置されている場合に隣接する推進手段の実転回角と、前記推進手段が複数基設置されている場合に自機のスイベル軸と隣接する推進手段のスイベル軸との間の距離と、前記推進手段の船体12への設置位置とのうちの少なくとも一つの実態認識に基づいて前記推進手段の転回を制限する転回制限角を設定し、前記設定した転回制限角を超えて前記推進手段が転回しないように前記転回装置を制御するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船外機、若しくはスターンドライブ等の推進手段をスイベル軸を中心として転回させて操舵するようにした船舶の操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船尾に船外機を備えた小型船舶等の操舵装置として、スイベル軸の廻りに船外機を左方向又は右方向に回動させて船舶の推進方向を制御し船舶を操舵するように技術が提案されている(例えば特許文献1)。特許文献1に示された従来の装置は、船尾に設けられた2台の船外機を連動して操舵する、所謂、多機掛け操舵装置であって、夫々の船外機をタイロッドを介してディファレンシャルレバーに連結し、このディファレンシャルレバーをステアリングケーブルを介してステアリングホイールの操作により回動させ、2台の船外機を夫々のスイベル軸の周りに同一の方向に連動して回動させるものである。特許文献1に示された従来の船舶の操舵装置の場合、ステアリングホイールの操作に応じて船外機を回動させるためのアクチュエータとして、油圧シリンダを用いた機構を採用することができる。
【0003】
又、従来、船舶の操舵装置に於いて、電動モータを用いて船外機をスイベル軸を中心として回転させて船舶を操舵するようにした技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に示された従来の装置は、1台の船外機をスイベル軸の周りに回転させるための電動アクチュエータと、ステアリングホイールの回転角及び回転方向を検出する舵輪センサと、この舵輪センサからの出力信号に基づいて電動アクチュエータを制御するコントローラとを備えている。特許文献2に示された従来の船舶の操舵装置の場合、ステアリングホイールと船外機を駆動する電動アクチュエータとは、ケーブルを介して電気的にのみ接続されている。
【0004】
更に、従来、複数の推進ユニットを搭載した船舶に於いて、複数の推進ユニットの推力方向が互いに異なる角度となるように制御し、夫々の推進ユニットの推力方向の合成ベクトルによる推進力により船舶の横移動等を可能とした多機掛け操舵装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3に示された従来の装置は、夫々の推進ユニットを舵取り動作させる操作用駆動部と、夫々の推進ユニットを何れかのシフト位置に駆動するシフト駆動部と、中立位置を中心として任意の方向にマニュアル操作される一つの操作スティックと、操作スティックの操作位置に対応する信号に基づいて夫々の駆動部の電動モータを制御する制御部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2734041号公報
【特許文献2】特許第2959044号公報
【特許文献3】特開2000−313398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示された従来の多機掛け操舵装置は、前述したように船外機を回動させるためのアクチュエータを油圧シリンダにより構成することができる。しかし、油圧シリンダを用いる場合、操舵装置の周辺には油圧シリンダのための油圧配管スペースが必要となり、且つ構造が複雑となる課題を有する。
【0007】
又、特許文献3に示された従来の多機掛け操舵装置は、各々の推進ユニットの舵角を夫々独立して自在に制御し得るように構成されており、従って、夫々の推進ユニットを構成する駆体間に干渉が生じる場合が発生し、アクチュエータの故障、躯体の損傷するという課題がある。
【0008】
前述の夫々の推進ユニットの駆体が干渉するに至る角度は、推進ユニットを構成する船外機等の大きさ、形状、取り付け位置等に依存する。従って、前述の干渉が生じないようにするには、船外機等の推進ユニットの機種毎、若しくは推進ユニットを船舶へ取り付ける作業毎に、夫々の推進ユニットの取り付け位置や舵角の制御範囲を調整する必要である。若し、推進ユニットの船舶への取り付け毎に夫々の推進ユニットの取り付け位置や舵角の制御範囲を調整することが出来ない場合、互いの推進ユニットの駆体が絶対に干渉しないように夫々の推進ユニットを配置しようとすると、船尾の全幅の広い船体が必要となる。
【0009】
尚、特許文献1に示された従来の多機掛け操舵装置の場合は、その構造上、前述の夫々の船外機の駆体が干渉することはないが、特許文献3に示された従来の装置の場合、特許文献1に示された従来の装置に於けるタイロッドのようなリンク機構により夫々の推進ユニットを連結することはできない。
【0010】
この発明は、従来の船舶の操舵装置に於ける前述のような課題を解決するためになされたもので、推進手段が他の推進手段等により干渉を生じることなく転回し得るようにした船舶の操舵装置を提供することを目的としてものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明による船舶の操舵装置は、船体に設置された推進手段をスイベル軸を中心として転回させることにより操舵するようにした船舶の操舵装置であって、操縦者のステアリング操作による操舵角に基づいて前記推進手段を転回させる制御転回角を算出する制御部と、前記制御部により算出された前記制御転回角に基づいて前記推進手段を転回させる転回装置とを備え、前記制御部は、前記船舶の機種と、前記推進手段の機種と、前記推進手段が複数基設置されている場合に隣接する推進手段の実転回角と、前記推進手段が複数基設置されている場合に自機のスイベル軸と隣接する推進手段のスイベル軸との間の距離と、前記推進手段の前記船体への設置位置とのうちの少なくとも一つの実態認識に基づいて前記推進手段の転回を制限する転回制限角を選定し、前記選定した転回制限角を超えて前記推進手段が転回しないように前記転回装置を制御することを特徴とするものである。
【0012】
この発明に於いて、推進手段とは、船外機若しくはスターンドライブ等の、船舶を推進させる手段を意味し、スクリュー方式のみならずジェット水流方式をも含む。
【発明の効果】
【0013】
この発明による船舶の操舵装置によれば、制御部は、船舶の機種と、推進手段の機種と、推進手段が複数基設置されている場合に隣接する推進手段の実転回角と、推進手段が複数基設置されている場合に自機のスイベル軸と隣接する推進手段のスイベル軸との間の距離と、推進手段の船体への設置位置とのうちの少なくとも一つの実態認識に基づいて推進手段の転回を制限する転回制限角を選定し、前記選定した転回制限角を超えて前記推進手段が転回しないように転回装置を制御するように構成されているので、船舶若しくは推進手段の実態に対応して可変に転回制限角を設定することができ、推進手段を他の推進手段若しくは他の構造体等により干渉を生じることなく転回させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける船外機の転回方向と転回角の関係を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角特性記憶手段に記憶されている転回制限角特性マップの構成を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(右舷方向)左舷機用マップの内容を示す表である。
【図6】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(右舷方向)左舷機用マップの内容を示すグラフである。
【0015】
【図7】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(左舷方向)左舷機用マップの内容を示す表である。
【図8】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(左舷方向)左舷機用マップの内容を示すグラフである。
【図9】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(右舷方向)右舷機用マップの内容を示す表である。
【図10】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(右舷方向)右舷機用マップの内容を示すグラフである。
【図11】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(左舷方向)右舷機用マップの内容を示す表である。
【図12】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(左舷方向)右舷機用マップの内容を示すグラフである。
【0016】
【図13】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(右舷方向)中央機用マップの内容を示す表である。
【図14】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(右舷方向)中央機用マップの内容を示すグラフである。
【図15】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(左舷方向)中央機用マップの内容を示す表である。
【図16】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角(左舷方向)中央機用マップの内容を示すグラフである。
【図17】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角特性の選択動作を説明するフローチャートである。
【図18】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角特性のダウンロードを説明するフローチャートである。
【0017】
【図19】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於けるスイベル軸間距離の記憶動作を説明するフローチャートである。
【図20】この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角演算動作を示すフローチャートである。
【図21】この発明の実施の形態2による船舶の操舵装置を示す構成図である。
【図22】この発明の実施の形態3による船舶の操舵装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置の構成図である。図1に示す船舶の操舵装置は、3台の船外機による3機掛けシステムの例を示している。図1に於いて、船舶の船体12には、左舷側船尾に設置された左舷側船外機1と、右舷側船尾に設置された右舷側船外機2と、左舷側船外機1と右舷側船外機2との中間部の船尾に設置された
中央船外機3とが設置されている。左舷側船外機1と右舷側船外機2と中央船外機3は、夫々同一構成の船外機であり、夫々船舶の推進装置を構成している。尚、夫々の船外機は同一構成ではなく、例えば夫々の船外機のエンジンの排気量が異なっていてもよい。
【0019】
左舷側船外機1、右舷側船外機2、及び中央船外機3は、夫々、鉛直に設置されたスイベル軸5を中心として左舷方向(時計方向)及び右舷方向(半時計方向)に自在に回動することができるように船体12の船尾に設置されている。左舷側転回装置15は、ステアリングアーム22を介してスイベル軸5を転回させることにより、左舷側船外機1をそのスイベル軸5を中心として転回させる。右舷側転回装置16は、ステアリングアーム22を介してスイベル軸5を転回させることにより、右舷側船外機2をそのスイベル軸5を中心として転回させる。中央転回装置17は、ステアリングアーム22を介してスイベル軸5を転回させることにより、中央船外機3をそのスイベル軸5を中心として転回させる。
【0020】
左舷側転回角検出センサ18は、スイベル軸5を中心とする左舷側船外機1の転回角を検出し、その検出した転回角に相当する左舷側転回角信号を発生して制御部14に入力する。右舷側転回角検出センサ19は、スイベル軸5を中心とする右舷側船外機2の転回角を検出し、その検出した転回角に相当する右舷側転回角信号を発生して制御部14に入力する。中央転回角検出センサ20は、スイベル軸5を中心とする中央船外機1の転回角を検出し、その検出した転回角に相当する中央転回角信号を発生して制御部14に入力する。
【0021】
操舵角検出手段13は、操縦者が操作するステアリングホイール11の操舵角をステアリングコラム10を介して検出し、その検出した操舵角に相当する操舵角信号を発生して制御部14に入力する。又、制御手段14は、転回制限角特性選択手段25と転回制限角特性ダウンロード手段26とスイベル軸間距離指示手段27とを備えた外部ツール28からの信号が入力される。尚、外部ツール28の詳細については後述する。
【0022】
図2は、この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける船外機の転回方向と転回角の関係を示す説明図である。図2に示すように、後述する目標転回角、制御転回角、転回角制限特性、実転回角、等の転回方向と転回角の関係は、スイベル軸5を中心とする船外機21の右舷方向転回を正、左舷方向転回を負として表現する。船外機21は、後述する転回制限角による制限が加えなければ、「−60」[deg]〜「60」[deg]の範囲で転回するように構成されている。これは図1に示す左舷側船外機1、右舷側船外機2、中央船外機3についても同様である。
【0023】
次に、制御部14の構成について説明する。図3は、この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける制御部の構成を示すブロック図である。図3に於いて、制御部14は、目標転回角設定手段29と、転回角制御手段30と、転回角制限手段31と、転回制限角特性記憶手段32と、スイベル軸間距離記憶手段33と、船外機状態認識手段34とを備える。
【0024】
目標転回角設定手段29は、操舵角検出手段13から入力された操舵角信号に基づいて、左舷側船外機1のための左舷側目標転回角と、右舷側船外機2のための右舷側目標転回角と、中央船外機3のための中央目標転回角とを、夫々演算により算出して設定する。
【0025】
転回角制御手段30は、左舷側転回角検出センサ18が検出した左舷側船外機1の転回
角と前述の左舷側目標転回角とに基づいて左舷側船外機1のための制御転回角を演算し、更に、右舷側転回角検出センサ19が検出した右舷側船外機2の転回角と前述の右舷側目標転回角とに基づいて右舷側船外機2のための制御転回角を演算し、更に、中央転回角検
出センサ20が検出した中央船外機2の転回角と前述の中央目標転回角とに基づいて中央
船外機2のための制御転回角を演算して夫々の値を算出する。
【0026】
転回角制限手段31は、転回制限角特性記憶手段32から読み出した後述する転回制限角特性マップと、隣接機の実転回角と、スイベル軸間距離記憶手段33から読み出した隣接機とのスイベル軸間距離とに基づいて、左舷側船外機1の転回角を制限するための転回制限角と、右舷側船外機2の転回角を制限するための転回制限角と、中央船外機3の転回角を制限するための転回制限角とを演算により夫々算出し、この算出した夫々の転回制限角により制限した後の左舷側船外機1ようの制御転回角と右舷側船外機2用の制御転回角と中央船外機3用の制御転回角と基づき、左舷側転回装置15と右舷側転回装置16と中央転回装置17とを夫々駆動して、夫々対応する左舷側船外機1と右舷側船外機2と中央船外機3とを転回させる。
【0027】
転回制限角特性記憶手段32は、後述する転回制限角特性マップを記憶している。スイベル軸間距離記憶手段33は、隣接する船外機とのスイベル軸5間の距離を、搭載している船外機の基数に応じて記憶している。船外機状態認識手段34は、船外機の搭載数、各船外機毎の船体に対する搭載位置(左舷側、右舷側、中央、等)の状態を認識する。
【0028】
次に、前述の転回制限角特性記憶手段32に記憶されている転回制限角特性マップの構成について説明する。図4は、転回制限角特性記憶手段に記憶されている転回制限角特性マップの構成を示す説明図である。図4に於いて、転回制限角特性パッケージAは、船舶の機種A用に設定され、転回制限角特性パケージZは船舶の機種Z用に設定されている。実際には必要に応じて想定される任意の船舶の機種に対応した任意の数の転回制限角特性パッケージが転回制限角特性記憶手段32に記憶されているが、図4では、例示としてそのうちの転回制限角特性マップAと転回制限特性パッケージZの2つのみを示している。
【0029】
尚、転回制限角特性記憶手段32に記憶されている転回制限角特性パッケージは、船舶の機種毎に設定される代わりに、船外機の機種毎、又は船舶の機種と船外機の機種との組み合わせ毎に対応して設定されていても良い。
【0030】
転回制限角特性パッケージA、及び転回制限角特性パッケージZは、転回制限角(右舷方向)左舷機用マップL1と転回制限角(左舷方向)左舷機用マップL2とからなる左舷側船外機1用の一組のマップと、転回制限角(右舷方向)右舷機用マップR1と転回制限角(左舷方向)右舷機用マップR2とからなる右舷側船外機2用の一組のマップと、転回制限角(右舷方向)中央機用マップS1と転回制限角(左舷方向)中央機用マップS2とからなる中央船外機3用の一組のマップと、更に、転回制限角(右舷方向)一機掛け用マップT1と転回制限角(左舷方向)一機掛け用マップT2とからなる一機掛け用の一組のマップとを備える。
【0031】
即ち、換言すれば、夫々の船舶機種に対応した転回制限角特性パッケージA、Bは、夫々、右舷方向転回に用いる転回制限角のマップと左舷方向転回に用いる転回制限角のマップとを一組とし、その組を、「一機掛け用」、「左舷側船外機用」、「中央船外機用」、「右舷側船外機用」に夫々備えている。従って、一つの船舶機種に対応した転回制限角特性パッケージは、全体として8種類の転回制限角特性マップを1パッケージとして備えている。
【0032】
次に、前述の8種類の転回制限角特性マップについて個々に説明する。夫々の転回制限角特性マップは、隣接機実転回角をX軸とし、転回制限角をY軸とし、スイベル軸間の距離をZ軸とする3次元マップにより構成されている。
【0033】
先ず、左舷側船外機1に用いる一組の転回制限角特性マップについて説明する。図5は
、左舷側船外機1に用いる一組の転回制限角特性マップのうちの一つである転回制限角(右舷方向)左舷機用マップL1の内容を示す表である。図6は、その転回制限角(右舷方向)左舷機用マップL1の内容を示すグラフである。
【0034】
図5及び図6に於いて、X軸の「隣接機実転回角」には、左舷側船外機1に対する隣接機、つまり中央船外機3の実転回角が「10」[deg]間隔で「−60」[deg]〜「60」[deg]まで設定されており、Z軸の「スイベル軸間」には、左舷側船外機1のスイベル軸5と中央船外機3のスイベル軸5との距離が「100」[mm]間隔で「100」[mm]〜「600」[mm]まで設定されている。
【0035】
Y軸には、X軸の隣接機実転回角の値とZ軸のスイベル軸間の距離の値とに基づいて転回制限角[deg]が設定されている。このY軸の転回制限角は、左舷側船外機1を中央船外機3の転回と干渉しない範囲で右舷方向に転回させるために、左舷側船外機1の右舷方向の転回角を制限するための角度である。
【0036】
例えば、図5及び図6に於いて、左舷側船外機1と中央船外機3とのスイベル軸5間の距離が「300」[mm]である場合に、隣接機実転回角つまり中央船外機3の実転回角が「10」[deg]であれば、左舷側船外機1の右舷方向の転回制限角は「26」[deg]となり、左舷側船外機1は、スイベル軸5を中心として右舷方向に「26」[deg]を越えて転回することができないことになる。
【0037】
図7は、左舷側船外機1に用いる一組の転回制限角特性マップのうちの他の一つである転回制限角(左舷方向)左舷機用マップL2の内容を示す表である。図8は、その転回制限角(左舷方向)左舷機用マップL2の内容を示すグラフである。図7及び図8に於いて、X軸の「隣接機実転回角」には、左舷側船外機1に対する隣接機、つまり中央船外機3の実転回角が「10」[deg]間隔で「−60」[deg]〜「60」[deg]まで設定されており、Z軸の「スイベル軸間」には、左舷側船外機1のスイベル軸5と中央船外機3のスイベル軸5との距離が「100」[mm]間隔で「100」[mm]〜「600」[mm]まで設定されている。
【0038】
Y軸には、X軸の隣接機実転回角の値とZ軸のスイベル軸間の距離の値とに基づいて転回制限角[deg]が設定されている。このY軸の転回制限角は、左舷側船外機1を中央船外機3の転回と干渉しない範囲で左舷方向に転回させるために、左舷側船外機1の左舷方向の転回角を制限するための角度である。
【0039】
図7及び図8から明らかなように、左舷側船外機1の左舷方向の転回は、隣接機である中央船外機3による干渉を受けないので、左舷方向の転回制限角は、隣接機実転回角及びスイベル軸間の距離の如何にかかわらず全て最大左舷方向転回角である「−60」[deg]に設定されている。
【0040】
次に、右舷側船外機1に用いる一組の転回制限角特性マップについて説明する。図9は、右舷側船外機1に用いる一組の転回制限角特性マップのうちの一つである転回制限角(右舷方向)右舷機用マップR1の内容を示す表である。図10は、その転回制限角(右舷方向)右舷機用マップR1の内容を示すグラフである。図9及び図10に於いて、X軸の「隣接機実転回角」には、右舷側船外機2に対する隣接機、つまり中央船外機3の実転回角が「10」[deg]間隔で「−60」[deg]〜「60」[deg]まで設定されており、Z軸の「スイベル軸間」には、右舷側船外機2のスイベル軸5と中央船外機3のスイベル軸5との距離が「100」[mm]間隔で「100」[mm]〜「600」[mm]まで設定されている。
【0041】
Y軸には、X軸の隣接機実転回角の値とZ軸のスイベル軸間の距離の値とに基づいて転回制限角[deg]が設定されている。このY軸の転回制限角は、右舷側船外機2を中央船外機3の転回と干渉しない範囲で右舷方向に転回させるために、右舷側船外機2の右舷方向の転回角を制限するための角度である。
【0042】
図9及び図10から明らかなように、右舷側船外機2の右舷方向の転回は、隣接機である中央船外機3による干渉を受けないので、右舷方向の転回制限角は、隣接機実転回角及びスイベル軸間の距離の如何にかかわらず全て最大右舷方向転回角である「60」[deg]に設定されている。
【0043】
図11は、右舷側船外機1に用いる一組の転回制限角特性マップのうちの他の一つである転回制限角(左舷方向)右舷機用マップR2の内容を示す表である。図12は、その転回制限角(左舷方向)右舷機用マップR2の内容を示すグラフである。図11及び図12に於いて、X軸の「隣接機実転回角」には、右舷側船外機2に対する隣接機、つまり中央船外機3の実転回角が「10」[deg]間隔で「−60」[deg]〜「60」[deg]まで設定されており、Z軸の「スイベル軸間」には、右舷側船外機2のスイベル軸5と中央船外機3のスイベル軸5との距離が「100」[mm]間隔で「100」[mm]〜「600」[mm]まで設定されている。
【0044】
Y軸には、X軸の隣接機実転回角の値と、Z軸のスイベル軸間の距離の値とに基づいて転回制限角[deg]が設定されている。このY軸の転回制限角は、右舷側船外機2を中央船外機3の転回と干渉しない範囲で左舷方向に転回させるために、右舷側船外機2の左舷方向の転回角を制限するための角度である。
【0045】
例えば、図11及び図12に於いて、右舷側船外機2と中央船外機3とのスイベル軸5間の距離が「200」[mm]である場合に、隣接機実転回角つまり中央船外機3の実転回角が「−20」[deg]であれば、右舷側船外機2の転回制限角は「−34」[deg]となり、右舷側船外機2は、スイベル軸5を中心として左舷方向に「−34」[deg]を越えて転回することができないことになる。
【0046】
次に、中央船外機3に用いる一組の転回制限角特性マップについて説明する。図13は、中央船外機3に用いる一組の転回制限角特性マップのうちの一つである転回制限角(右舷方向)中央機用マップS1の内容を示す表である。図14は、その転回制限角(右舷方向)中央機用マップS1の内容を示すグラフである。図13及び図14に於いて、X軸の「隣接機実転回角」には、中央船外機2が右舷方向に転回する場合にその転回に影響を及ぼす可能性のある隣接機、つまり右舷側船外機2の実転回角が「10」[deg]間隔で「−60」[deg]〜「60」[deg]まで設定されており、Z軸の「スイベル軸間」には、中央船外機3のスイベル軸5と右舷側船外機2のスイベル軸5との距離が「100」[mm]間隔で「100」[mm]〜「600」[mm]まで設定されている。
【0047】
Y軸には、X軸の隣接機実転回角の値とZ軸のスイベル軸間の距離の値とに基づいて転回制限角[deg]が設定されている。このY軸の転回制限角は、中央船外機3を右舷側船外機2の転回と干渉しない範囲で右舷方向に転回させるために、中央船外機2の右舷方向の転回角を制限するための角度である。
【0048】
例えば、図13及び図14於いて、中央船外機3と右舷側船外機2とのスイベル軸5間
の距離が「300」[mm]である場合に、隣接機実転回角つまり右舷側船外機2の実転回角が「40」[deg]であれば、中央船外機3の転回制限角は「56」[deg]となり、中央船外機3は、スイベル軸5を中心として左舷方向に「56」[deg]を越えて転回することができないことになる。
【0049】
図15は、中央船外機3に用いる一組の転回制限角特性マップのうちの他の一つである転回制限角(左舷方向)中央機用マップS2の内容を示す表である。図16は、その転回制限角(左舷方向)中央機用マップS2の内容を示すグラフである。図15及び図16に於いて、X軸の「隣接機実転回角」には、中央船外機2が左舷方向に転回する場合にその転回に影響を及ぼす可能性のある隣接機、つまり左舷側船外機1の実転回角が「10」[deg]間隔で「−60」[deg]〜「60」[deg]まで設定されている。Z軸の「スイベル軸間」には、中央船外機3のスイベル軸5と左舷側船外機1のスイベル軸5との距離が「100」[mm]間隔で「100」[mm]〜「600」[mm]まで設定されている。
【0050】
Y軸の値は、X軸の隣接機実転回角の値とZ軸のスイベル軸間の距離の値とに基づいて転回制限角[deg]が設定されている。このY軸の転回制限角は、中央船外機3を左舷側船外機1の転回と干渉しない範囲で左舷方向に転回させるために、中央船外機3の左舷方向の転回角を制限するための角度である。
【0051】
例えば、図15及び図16於いて、中央船外機3と左舷側船外機2とのスイベル軸5間
の距離が「600」[mm]である場合に、隣接機実転回角つまり右舷側船外機2の実転回角が「−30」[deg]であれば、中央船外機3の転回制限角は「−52」[deg]となる。従って、中央船外機3は、スイベル軸5を中心として左舷方向に「−52」[deg]を越えて転回することができないことになる。
【0052】
次に、一機掛け用の一組のマップである転回制限角(右舷方向)一機掛け用マップT1と転回制限角(左舷方向)一機掛け用マップT2とについて説明する。これらのマップは、図示していないが、一機掛けの場合は隣接船外機が存在しないので、右舷方向転回及び左舷方向向転回の何れも、その転回制限角は、船舶の機種、若しくは船外機の機種により定まる最大転回角に設定されている。例えば、右舷方向の転回制限角は「60」[deg]、左舷方向の転回制限角は「−60」[deg]に夫々設定されている。
【0053】
尚、一機掛け用の一組のマップのうちの一方である転回制限角(右舷方向)一機掛け用マップT1の転回制限角の値は、前述の転回制限角(右舷方向)右舷機用マップR1の転回制限角の値と同一の特性を備え、更に、一機掛け用の一組のマップのうちの他方である転回制限角(左舷方向)一機掛け用マップT2の転回制限角の値は、前述の転回制限角(左舷方向)左舷機用マップL2の転回制限角の値と同一の特性を備えているので、夫々これらのマップを流用することが可能である。その場合、前記の転回制限角特性パッケージの記憶領域をシュリンクすることができる。
【0054】
次に、図1において、外部ツール28は、制御部14に接続される。外部ツール28は、ノートパソコン等で構成されており、転回制限角特性選択手段25と、転回制限角特性ダウンロード手段26と、スイベル軸間距離指示手段27とを有している。外部ツール28と制御部14との接続手段は、シリアル通信により行なわれる。若し、CANバスにより接続可能であれば、CAN接続としても良い。
【0055】
以上のように構成されたこの発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於いて、次に動作を説明する。図1に於いて、例えばボードビルダー若しくはディラーの作業者は、先ず外部ツール28を操作し、外部ツール28に於ける転回制限角選択手段25から転回制限角特性選択指示コマンドを制御部14へ送信する。
【0056】
ここに、転回制限角特性選択指示コマンドとは、具体的には前述の転回制限角特性記憶手段32に記憶されている転回制限角特性パッケージのうち何れのパッケージを選択する
かの指示であり、夫々の船舶の機種若しくは船外機の機種に対応する複数の転回制限角特性パッケージのうち何番目かのパッケージを選択する数値等により構成される。
【0057】
図17は、この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角特性の選択動作を説明するフローチャートである。制御部14では、図17に示す転回角制限特性選択のルーチンを、後述する図20に示す転回制限角演算ルーチンの実行前の初期化処理時、又は、図20のルーチンの実行中に、外部ツール28から転回制限角特性選択指示コマンドを受信した際に実行する。
【0058】
図17に示す処理ルーチンは、先ずステップS210からその処理を開始する。今、例えば、外部ツール28に於ける転回制限角選択手段25から転回制限角特性選択指示コマンドとして、第1番目の転回制限角特性パッケージを示す数値が制御部14へ送信されたとすると、制御部14ではステップS210に於いてその転回制限角特性指示を検知する。
【0059】
次に、ステップS220に於いて、回制限角特性記憶手段32の最も小さいアドレスに格納されている転回角制限特性パッケージ、例えば転回制限角特性パッケージAを選択し、ステップS230にて転回制限角特性選択ルーチンが終了し、元の処理位置に戻る。
【0060】
尚、前述の転回制限角特性選択の指示は、制御部14と外部ツール28との間で相互に情報を交換することにより行われるものであっても良い。即ち、具体的には、外部ツール28が制御部14に対して、「転回制限角特性記憶手段32に記憶されている全パッケージの読み出し」コマンドを送出し、制御部14は「転回制限角特性記憶手段32に記憶されている全パッケージ」を外部ツール28へ返信する。
【0061】
返信された転回制御角特性パッケージには文字列で表される機種ヘッダ、例えば「機種A」というヘッダが付属しており、外部ツール28は、その機種ヘッダを画面に表示する。ユーザである船舶の操船者等は、その表示された機種名を選択することによって、その船舶の機種に合致した転回制限角特性パッケージを得る等の、簡便なユーザインタフェースを提供することができる。外部ツール28は、ユーザにより選択された機種名を、先に読み出した順序番号に変換して制御部14に指示し、制御部14ではその指示に基づき転回制限角特性パッケージを選択するものである。
【0062】
次に、制御部14に於ける転回制限角特性のダウンロードについて説明する。図18は、この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角特性のダウンロードを説明するフローチャートである。制御部14では、図18に示す処理を、後述する図20に示す処理の実行前の初期化処理時、又は、図20の処理の実行中に、外部ツール28から転回制限角特性ダウンロードコマンドを受信した際に実行する。
【0063】
図18に示す処理ルーチンは、先ずステップS310からその処理が開始される。ステップS310に於いて、制御部14では外部ツール28に於ける転回制限角特性ダウンロード手段26からの転回制限角特性ダウンロード指示を受信することにより、転回制限角特性パッケージのダウンロードを行う。
【0064】
ここに、転回制限角特性ダウンロード指示とは、具体的には、制御部14の所定の記憶部の内容を指定した転回制限角特性パッケージの内容に書き換えを指示するコマンド、又は、全パッケージの内容の書き換えを指示するコマンドである。例えば、外部ツール28が保持している、船舶若しくは船外機の新機種に対応する転回制限角特性パッケージを外部ツール28上でユーザが選択すると、外部ツール28は制御部14に対して、その選択された新機種に対応する転回制限角特性パッケージのダウンロードを指示する。
【0065】
制御部14では、予め確保されている転回制限角特性記憶手段32中にパッケージ記憶領域の空きがあれば、その記憶領域に指示された機種の転回制限角特性パッケージの内容を記憶し、若し記憶領域に空きが無ければ拒否応答を外部ツール28に送信する。この記憶領域は、不揮発性メモリにより構成されている。
【0066】
尚、拒否応答した後の処理は特に図示しないが、例えば、拒否応答を制御部14から受けたとき、外部ツール28から特定の転回制限角特使パッケージを指定して消去させる消去コマンドを制御部14へ送信し、制御部14ではその消去コマンドを受けてその指定された転回制限角特性パッケージを消去し、前述の指示された機種の転回制限角特性パッケージを記憶する記憶領域を用意する等の処理が考えられる。
【0067】
次にステップS320では、ステップS310にてダウンロードされた転回制限角特性パッケージの内容を、制御部14に於ける転回制限角特性記憶手段32の空いているパッケージ記憶領域、又は前述の消去コマンドを受けて用意された記憶領域に記憶処理する。次にステップS330にて転回制限角特性ダウンロードルーチンが終了し、元の処理位置に戻る。
【0068】
次に、制御部14に於けるスイベル軸間距離の記憶動作について説明する。図19は、この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於けるスイベル軸間距離の記憶動作を説明するフローチャートである。制御部14では、図19に示す処理を、後述する図20に示す処理の実行前の初期化処理時、又は、図20の処理の実行中に、外部ツール28から転回制限角特性ダウンロードコマンドを受信した際に実行する。
【0069】
図19に示す処理ルーチンは、先ずステップS310からその処理が開始される。ステップS310では、外部ツール28に於けるスイベル軸間距離指示手段27からスイベル軸間距離記憶指示を受信する。
【0070】
ここに、スイベル軸間距離記憶指示とは、具体的には、制御部14に於けるスイベル軸間距離記憶手段33に記憶されているスイベル軸間距離御の中の、第x番エンジンと第y番エンジンとの間のスイベル軸5間の距離を示す数値である。例えば、船外機の搭載基数が3機の場合、第1番目の数値は、左舷が船外機1と中央船外機3のスイベル軸5間の距離、第2番目の数値は、中央船外機3と右舷側船外機2のスイベル軸5間の距離である。
【0071】
制御部14では、ステップS410にて外部ツール28からのスイベル軸間距離記憶指示を検知し、次にステップS420にて指示されたスイベル軸間距離を実際に記憶領域に記憶処理する。次に、ステップS430にてスイベル軸間距離記憶ルーチンが終了し、元の処理位置に戻る。
【0072】
次に、制御部14に於ける転回制限角演算動作について説明する。図20は、この発明の実施の形態1による船舶の操舵装置に於ける転回制限角演算動作を示すフローチャートである。制御部14では、所定周期毎に図20に示す処理ルーチンを実行する。図20に示す処理ルーチンは、ステップS110から処理が開始される。図20に於いて、先ず、ステップS11では船外機状態を認識する。ここで、船外機状態とは、船体12の船尾に設置されている船外機の搭載数、及び、船外機毎の船体12に対する搭載位置(左舷側、右舷側、中央、等)、及び、スイベル軸間距離を示す。
【0073】
船舶の操縦者が、ステアリングホイール11を任意の方向に任意の角度転回すると、その操作されたステアリングホイール11の転回方向と転回角度が、ステアリングコラム10を介して操舵角検出手段13により検出され、その検出値に対応した操舵角信号が電圧
値若しくはパルス値等として、操舵角検出手段13から制御部14に入力される。ステップS120に於いて、制御部14はその入力された操舵角信号に基づいて操舵角信号を検知する。
【0074】
次にステップS130では、検知した操舵角信号から得た操舵角に基づいて船外機の目標転回角[deg])を演算する。前述したように、操舵角信号はステアリングホイール
11の転回方向及び転回角に対応した電圧値、若しくはパルス値等により構成されているので、「操舵角信号―目標転回角特性マップ」(図示せず)等を用いて、操舵角信号に対応した左舷側船外機1、右舷側船外機2、及び中央船外機3の夫々の目標転回角を演算する。
【0075】
尚、この発明の実施の形態1では、制御部14にて目標転回角の演算を実行しているが、操舵角検出手段13を電子制御ユニットとした場合、目標転回角設定手段(操舵角検知部及び目標転回角演算部を含む)を操舵角検出手段13に含めた構成とし、この操舵角検出手段13により目標転回角の演算を実行しても良い。この場合、ステップS130は、操舵角検出手段13により演算した目標転回角をCAN通信等により制御部14にて受信する受信処理となる。
【0076】
ステップS140では、左舷側船外機1の実転回角を左舷側転回角センサ18により検知し、右舷側船外機2の実転回角を左舷側転回角センサ18により検知し、中央船外機3の実転回角を中央転回角センサ20により検知する。
【0077】
次に、ステップS150に於いて、制御部14は、ステップS130にて得た夫々の船外機1、2、及び3の目標転回角と、夫々の転回角センサ18、19、及び20から得た夫々の船外機の実回転角とから、左舷側船外機1、右舷側船外機2、及び中央船外機3の制御転回角を夫々演算する。
【0078】
次に、ステップS160に於いて、制御部14は、転回制限角の演算、及び、その演算結果に基づいた制御転回角の制限を行う。即ち、先ず、船外機状態認識手段34から前述のステップS110にて既に得ている夫々の船外機毎の船体12に対する搭載位置(左舷側、右舷側、中央)に基づいて、制御対象の船外機の搭載位置に対応するマップを、前述の図18の処理ルーチンにより制御部に記憶されている転回制限角特性パッケージから選択する。
【0079】
具体的には、前述したようにこの発明の実施の形態1では、転回制限角特性パッケージAが制御部14の所定の記憶部にダウンロードされて記憶されているので、その転回制限角特性パッケージAから、左舷側船外機1に対しては図4に示す転回制限角(右舷方向)左舷機用マップL1と転回制限角(左舷方向)左舷機用マップL2を選択し、右舷側船外機2に対しては転回制限角(右舷方向)右舷機用マップR1と転回制限角(左舷方向)右舷機用マップR2とを選択し、中央船外機3に対しては転回制限角(右舷方向)中央機用マップS1と転回制限角(左舷方向)中央機用マップS2とを選択する。
【0080】
同様に、前述の船外機状態認識手段34から得ている制御対象の夫々の船外機の搭載位置から、左舷側船外機1と中央船外機3とのスイベル軸5間の距離、及び右舷側船外機2と中央船外機3とのスイベル軸5間の距離を、前述のスイベル軸間距離記憶手段33に記憶されているスイベル軸間距離から選択する。
【0081】
次に、前述のステップS140にて検知した左舷側船外機1、右舷側船外機2、及び中央船外機3の夫々の実転回角と、前述のスイベル軸間距離記憶手段33に記憶されているスイベル軸間距離から選択した左舷側船外機1と中央船外機3とのスイベル軸5間の距離
、及び右舷側船外機2と中央船外機3とのスイベル軸5間の距離とを引数として、前述の選択された夫々の転回制限角特性マップから夫々の船外機に対する転回制限角を演算する。
【0082】
夫々の転回制限角特性マップL1、L2、R1、R2、S1、S2からの具体的な転回制限角の演算については、前述の図5乃至図16により説明したので、ここでの説明は省力する。
【0083】
制御部14は、前述の演算から得た夫々の船外機に対する転回制限角に基づいて、前述のステップS160にて得た夫々の船外機の制御転回角を制限する。具体的には、左舷側船外機1、右舷側船外機2、及び中央船外機3の夫々について、右舷方向の転回(0〜60[deg])の場合には、[転回制限角(右舷方向)>制御転回角]であれば、転回制限角(右舷方向)により制限されることなく制御転回角に対応した右舷方向への転回が可能であり、[転回制限角(右舷方向)<制御転回角]であれば、[制御転回角=転回制限角(右舷方向)]とし転回制限角(右舷方向)を超えて右舷方向に転回できないように転回が制限される。
【0084】
一方、左舷方向の転回(0〜−60[deg])の場合には、[転回制限角(左舷方向)>制御転回角]であれば、[制御転回角=転回制限角(左舷方向方向)]とし転回制限角(左舷方向)を超えて左舷方向に転回できないように転回が制限され、[転回制限角(左舷方向)<制御転回角]であれば、転回制限角(左舷方向)により制限されることなく制御転回角に対応した左舷方向への転回を可能とするものである。
【0085】
前述のステップS130〜ステップS160の処理は、船外機状態認識手段34から得ている船外機の位置と基数分繰り返す(図示せず)ものであり、この発明の実施の形態1の場合は、3機掛けであり、左舷側船外機1、右舷側船外機2、中央船外機3夫々について行われるので3回繰り返される。
【0086】
前述のようにして求めた左舷側船外機1用の制御転回角、右舷側船外機2用の制御転回角、及び中央船外機3用の制御転回角に夫々相当する制御指令が、制御部14から左舷側転回装置15、右舷側転回装置16、及び中央転回装置17に与えられる。制御部14からの制御指令を受けた左舷側転回装置15、右舷側転回装置16、及び中央転回装置17は、夫々の制御指令に基づいて、ステアリングアーム22を駆動してスイベル軸5を転回させ、左舷側船外機1、右舷側船外機2、及び中央船外機3を夫々スイベル軸5を中心として左舷方向若しくは右舷方向に転回制御する。その結果、船体12は、操船者の操作するステアリングハンドル11の操舵角に従って操舵されることになる。
【0087】
実施の形態2.
図21は、この発明の実施の形態2による船舶の操舵装置を示す構成図である。この実施の形態2による船舶の操舵装置は、船外機が1基のみ船体12の船尾に設置されている、所謂、一機掛けの構成に対応したものである。
【0088】
図21に於いて、船外機21は、鉛直に設置されたスイベル軸5を中心として左舷方向(時計方向)及び右舷方向(半時計方向)に自在に回動することができるように船体12の船尾の中央部に設置されている。転回装置24は、ステアリングアーム22を介してスイベル軸5を転回させることにより、船外機21をスイベル軸5を中心として転回させる。転回角検出センサ23は、スイベル軸5を中心とする船外機21の転回角を検出し、その検出した転回角に相当する回角信号を発生して制御部14に入力する。その他の構成は、実施の形態1に於ける図1と同様である。
【0089】
一機掛けの場合は隣接機がないので、船外機21は、常に、操舵機構の最大制限角、例えば「60」[deg]及び「−60」[deg]の範囲で転回可能である。従って、前述の実施の形態1に於ける転回制限角特性パッケージの転回制限角(左舷方向)一機掛け用マップT2と、転回制限角(右舷方向)一機掛け用マップT1の値は、実施の形態2に於ける操舵機構の最大制限角となる。
【0090】
従って、制御部14の転回制限角特性記憶手段32に記憶されている転回制限角特性マップのうちから船舶の機種若しくは船外機の機種に対応した転回制限角特性パッケージが選択されてダウンロードされ、且つその転回制限角特性パッケージに於ける転回制限角(左舷方向)一機掛け用マップT2と、転回制限角(右舷方向)一機掛け用マップT1とが、用いられる。
【0091】
この実施の形態2の場合、操舵角検出手段13は舵輪センサとし、この舵輪センサからの信号の検知、及び目標転回角の演算は、制御部14の目標転回角設定手段29により行われる。
【0092】
尚、転回制限角はマップでなく、左右方向各々の所定の値を用意するようにしても良い。又、操舵角検出手段13は、舵輪センサとその検知を行う電子制御ユニットとしても良く、この場合は、目標転回角の演算はその電子制御ユニットが行う。更に、操舵角検出手段13から制御部14への信号線はCAN等の通信線としても良い。
【0093】
実施の形態3.
図22は、この発明の実施の形態3による船舶の操舵装置を示す構成図である。この実施の形態2による船舶の操舵装置は、2基の船外機が船体12の船尾に設置された、所謂、二機掛けの構成に対応したものである。
【0094】
図22に於いて、左舷側船外機1は、鉛直に設置されたスイベル軸5を中心として左舷方向(時計方向)及び右舷方向(半時計方向)に自在に回動することができるように船体12の船尾の左舷側に設置されている。左舷側転回装置18は、ステアリングアーム22を介してスイベル軸5を転回させることにより、左舷側船外機1をスイベル軸5を中心として転回させる。右舷側船外機2は、鉛直に設置されたスイベル軸5を中心として左舷方向(時計方向)及び右舷方向(半時計方向)に自在に回動することができるように船体12の船尾の右舷側に設置されている。右舷側転回装置19は、ステアリングアーム22を介してスイベル軸5を転回させることにより、右舷側船外機2をスイベル軸5を中心として転回させる。
【0095】
左舷側転回角検出センサ18は、スイベル軸5を中心とする左舷側船外機1の転回角を検出し、その検出した転回角に相当する回角信号を発生して制御部14に入力する。右舷側転回角検出センサ19は、スイベル軸5を中心とする右舷側船外機2の転回角を検出し、その検出した転回角に相当する回角信号を発生して制御部14に入力する。その他の構成は、実施の形態1に於ける図1と同様である。
【0096】
二機掛けの場合は、3機掛けの場合に比して中央船外機がなく中央船外機のための演算が不要である点で異なるのみであり、その他の制御は前述の実施の形態1に於ける3機掛けの場合と同様である。
【0097】
この発明による船舶の操舵装置は、以上述べた実施の形態1乃至3に限定されるものではなく、3機掛け以上の構成にも適用することができる。その場合は、三機掛けの場合に比して中央船外機の基数が増えるだけであり、その増えた中央船外機に対しては、中央船外機の転回制限角マップを使用することになる。
【0098】
尚、以上の夫々の実施の形態では、予め設定されたパラメータとして、隣接する船外機の実転回角をX軸とし前記転回制限角をY軸とし自己の船外機に於ける前記スイベル軸と隣接する前記船外機に於ける前記スイベル軸との間の距離をZ軸とする転回制限角特性マップを用いた場合について説明したが、予め設定されたパラメータとして、隣接する船外機の実転回角をX軸とし前記転回制限角をY軸とする転回制限角特性マップを用いるようにしても良い。
【0099】
又、この発明の実施の形態1及び2による船舶の操舵装置では、夫々の船外機の転回制限角を、制御部の記憶手段に記憶した転回制限角特性つまり予め設定されたパラメータを用いて設定したが、自機が転回する方向の隣接機の実舵角を自機の転回制限角としても良い。例えば三機掛けの場合に、中央船外機3の実転回角が「−10」[deg]であったとすれば、左舷側船外機1の右舷側への転回に対する転回制限角を「−10」[deg]とし、左舷側船外機1を右舷側に「−10」[deg]を超えて転回できないようにするものである。
【0100】
又、この発明の実施の形態1乃至3では、転回制限角により制御転回角を制限するようにしたが、図20に於けるステップS160にて行う転回制限角の演算を、ステップS150にて行う制御転回角の演算の前に実行し、転回制限角により目標転回角を制限するようにしても良い。
【符号の説明】
【0101】
1 左舷側船外機 2 右舷側船外機
3 中央船外機 5 スイベル軸
11 ステアリングホイール 12 船体
13 操舵角検出手段 14 制御部
15 左舷側転回装置 16 右舷側転回装置
17 中央転回装置 18 左舷側転回角センサ
19 右舷側転回角センサ 20 中央転回角センサ
21 船外機 22 ステアリングアーム
23 転回角センサ 24 転回装置
25 転回制限角特性選択手段 26 転回制限角特性ダウンロード手段
27 スイベル軸間距離指示手段 28 外部ツール
29 目標転回角設定手段 30 転回角制御手段
31 転回角制限手段 32転回制限角特性記憶手段
33 スイベル軸間距離記憶手段 34 船外機状態認識手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に設置された推進手段をスイベル軸を中心として転回させることにより操舵するようにした船舶の操舵装置であって、
操縦者のステアリング操作による操舵角に基づいて前記推進手段を転回させる制御転回角を算出する制御部と、前記制御部により算出された前記制御転回角に基づいて前記推進手段を転回させる転回装置とを備え、
前記制御部は、前記船舶の機種と、前記推進手段の機種と、前記推進手段が複数基設置されている場合に隣接する推進手段の実転回角と、前記推進手段が複数基設置されている場合に自機のスイベル軸と隣接する推進手段のスイベル軸との間の距離と、前記推進手段の前記船体への設置位置とのうちの少なくとも一つによる識別に基づいて前記推進手段の転回を制限する転回制限角を選定し、前記選定した転回制限角を超えて前記推進手段が転回しないように前記転回装置を制御することを特徴とする船舶の操舵装置。
【請求項2】
前記転回制限角は、予め設定されたパラメータであることを特徴とする請求項1に記載の船舶の操舵装置。
【請求項3】
前記予め設定されたパラメータは、隣接する推進手段の実転回角をX軸とし前記転回制限角をY軸とする転回制限角特性マップであることを特徴とする請求項2に記載の船舶の操舵装置。
【請求項4】
前記予め設定されたパラメータは、隣接する推進手段の実転回角をX軸とし前記転回制限角をY軸とし自己の推進手段に於ける前記スイベル軸と隣接する前記推進手段に於ける前記スイベル軸との間の距離をZ軸とする転回制限角特性マップであることを特徴とする請求項2に記載の船舶の操舵装置。
【請求項5】
前記制御部は、内容の異なる複数の前記転回制限角特性マップを記憶した記憶手段を備え、前記認識に基づいて前記複数の転回制限角特性マップのうちの一つを選択して前記転回制限角を設定することを特徴とする請求項3又は4に記載の船舶の操舵装置。
【請求項6】
前記記憶手段は、不揮発性メモリにより構成されていることを特徴とする請求項5に記載の船舶の操舵装置。
【請求項7】
前記転回制限角特性マップの選択は、前記制御部に接続された外部ツールからの指示に基づき行われることを特徴とする請求項5又は6に記載の船舶の操舵装置。
【請求項8】
前記複数の転回制限角特性マップのうち何れが選択されたかの情報を不揮発性メモリに保持することを特徴とする請求項5乃至7に記載の船舶の操舵装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記転回制限角特性マップを記憶した外部ツールに接続成され、前記外部ツールに記憶された前記転回制限角特性マップが記憶手段にダウンロードされ、前記ダウンロードされた前記転回制限角特性マップに基づいて前記転回制限角を設定することを特徴とする請求項3又は4に記載の船舶の操舵装置。
【請求項10】
前記転回制限角は、前記船体に対する自機の設置位置に基づいて選定されることを特徴とする請求項1乃至9のうち何れか一項に記載の船舶の操舵装置。
【請求項11】
前記船体に対する自機の設置位置は、前記制御部に接続された外部ツールからの指示に基づくものであることを特徴とする請求項10に記載の船舶の操舵装置。
【請求項12】
前記船舶の機種と、前記推進手段の機種と、前記推進手段の前記船体への設置位置とのうちの少なくとも一つの識別は、前記船舶又は前記推進手段から通信により前記制御部へ伝達された識別信号に基づき行われることを特徴とする請求項1乃至11のうち何れか一項に記載の船舶の操舵装置。
【請求項13】
前記自機のスイベル軸と隣接する推進手段のスイベル軸との間の距離は、前記制御部の記憶手段に記憶されていることを特徴とする請求項1乃至12のうち何れか一項に記載の船舶の操舵装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記設定した転回制限角により前記制御転回角を制限することにより、前記推進手段が前記転回制限角を超えて転回しないように前記転回装置を制御することを特徴とする請求項1乃至13のうち何れか一項に記載の船舶の操舵装置。
【請求項15】
前記制御手段は、前記操縦者のステアリング操作による操舵角に基づいて算出した目標転回角と前記推進手段の実転回角とに基づいて前記制御転回角を算出するように構成されると共に、前記設定した転回制限角により前記算出した制御転回角を制限することにより、前記推進手段が前記転回制限角を超えて転回しないように前記転回装置を制御することを特徴とする請求項1乃至13のうち何れか一項に記載の船舶の操舵装置。
【請求項16】
前記推進手段が複数基設置されている場合に、隣接する推進手段の実転回角を自機の転回制限角とすることを特徴とする請求項1に記載の船舶の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−93497(P2011−93497A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252008(P2009−252008)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)