説明

船舶推進機

【課題】 滑走の開始時に極めて迅速、円滑に船舶推進機、船尾を上方に持ち上げ、極めて短時間に、滑走する船体の姿勢を水平に近い状態とすることができるようにし、船舶推進機を取り付けた船艇の高速滑走に迅速、円滑に移行し得るようにした船舶推進機を提供する。
【解決手段】 揚力装置を有する船舶推進機であって、プロペラ8の上方にアンチキャビテーションプレート11を備え、アンチキャビテーションプレートよりも上方に空間を空けて揚力装置20を設け、揚力装置は、アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方に延出されており、揚力装置は、前部が高位置で、後部が低位置となるように後下傾した下向きの面を有する揚力装置を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進機を装着した船艇において、停船状態から滑走し始めた際、船舶推進機を上方に持ち上げ、円滑な滑走に移行し得るようにした揚力装置を備える船舶推進機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶推進機で滑走する船艇は、滑走していない状態や、滑走の開始に際し、船尾が下がって水中に沈み込み、即ち、船首が上がった前上傾の状態、船尾が下がった後下傾した状態の斜めの状態であり、滑走開始に際しては、このように傾斜した状態で滑走し始める。
滑走開始に際しては抵抗が大きく、十分な船速が得られ難い。ある程度の船速を得るには、船尾がある程度持ち上がり、船体の姿勢が水平に近い状態になる必要があり、この姿勢に近づくには長い時間がかかり、円滑な加速が得られ難い。
【0003】
そこで、従来、滑走開始に際し、船尾、船舶推進機を持ち上げる揚力装置が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開昭57−60995号公報。
【特許文献2】特開昭59−130799号公報。
【0004】
特許文献1に開示された発明は、船舶推進機のロアケーシングのプロペラ上方にキャビテーションプレート、スプラッシュプレートを有し、この上方に加速プレートを取り付けた構成である。加速プレートは、ロアケーシングの左右に突出し、前部の突出量が少なく、後部の突出量が大きく、平坦な板状体で構成されている。
【0005】
特許文献2に開示された発明は、船舶推進機のプロペラの上方にキャビテーション防止板を設け、この上方に翼断面形状を有する浮力プレートを取り付けたものである。
【0006】
特許文献1に開示される加速プレートは平坦な板状であり、後端部がプロペラの後方まで大きく延出されていないこともあって、船舶推進機の滑走開始に際し、沈み込んだ船尾の、迅速、円滑な持ち上げがなされ難く、船体の姿勢が水平に近い状態に移行させるには長い時間がかかり、円滑な加速が得られ難い。
【0007】
特許文献2に開示される浮力プレートは、翼状断面を有するが、前後方向の長さがキャビテーション防止板よりも短く、その後端部はキャビテーション防止板よりも前方に位置し、特許文献1の加速プレートと同様に船舶推進機の滑走開始に際し、沈み込んだ船尾の、迅速、円滑な持ち上げがなされ難く、船体の姿勢が水平に近い状態に移行させるには長い時間がかかり、円滑な加速が得られ難い。
本発明は、以上の従来技術に鑑みなされたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、船舶推進機を取り付けた船艇において、滑走の開始時に極めて迅速に、そして円滑に船舶推進機、船尾を上方に持ち上げ、極めて短時間に、滑走する船体の姿勢を水平に近い状態(所謂滑走状態(プレーニング))とすることができるようにし、船舶推進機を取り付けた船艇の高速滑走に迅速、円滑に移行し得るようにした船舶推進機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、揚力装置を備える船舶推進機において、船舶推進機は、プロペラの上方にアンチキャビテーションプレートを備え、揚力装置はアンチキャビテーションプレートよりも上方に空間を空けて設けられ、且つ該揚力装置は、アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方に延出されており、揚力装置は、前部が高位置で、後部が低位置となるように後下傾した下向きの面を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、揚力装置を備える船舶推進機において、船舶推進機は、プロペラの上方にアンチキャビテーションプレートを備え、揚力装置はアンチキャビテーションプレートよりも上方に間を空けて設けられた下向きの面を有し、且つ該揚力装置はアンチキャビテーションプレートの後端よりも後方に位置する範囲で後下がりに傾斜面を有することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2において、揚力装置は、板状体であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、揚力装置を備える船舶推進機において、船舶推進機は、プロペラの上方にアンチキャビテーションプレートを備え、揚力装置はアンチキャビテーションプレートよりも上方に間を空けて設けられ、且つ該揚力装置は、アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方で、プロペラよりも後方に、その後半部を延出させたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項4において、揚力装置は断面が翼型の翼状体であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1〜請求項5の何れか1項において、揚力装置の幅は、船舶推進機の幅と同等か、或いはこの幅よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、船舶推進機に設けた揚力装置は、アンチキャビテーションプレートよりも上方に空間を空けて設けられ、且つ揚力装置は、アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方に延出されており、揚力装置は、前部が高位置で、後部が低位置となるように後下傾した下向きの面を有するので、前上傾した面を備えることとなり、停船状態から滑走し始めた時の後ろ下がり、前上がりの面、つまりは後下がりの傾斜面により、効率的、効果的な揚力が得られ、又揚力装置の後部は、アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方にまで延出して設けられていることから、プロペラ駆動によるキャビテーションの影響を受けることなく、船舶推進機は円滑、迅速に上方に持ち上げられ、船体の姿勢(ハンプ時の姿勢)を円滑、且つ迅速に水平に近い状態に移行させることができる。
従って、滑走し始めからハンプ時の姿勢を乗り越え、水平に近い状態への移行時間を大幅に短縮することができ、円滑、迅速な加速を得ることができる。
【0016】
加速後は、揚力装置は喫水上方に出るので、滑走時の水中抵抗となることがなく、高速運動性能を損ねることがなく、高い高速運動性能を確保することができ、しかも、揚力装置はアンチキャビテーションプレートよりも上方に配置されていてこの間が空いているので、アンチキャビテーションプレート上を流れる水が円滑に導かれ、滞留によって揚力装置の下向きの面の効果が損なわれるのを回避することができる。
そして、以上の効果を、揚力装置をアンチキャビテーションプレートよりも上方に配置し、前部が高位置で、後部が低位置となるように後下傾した下向きの面を有する、という簡素な構成で実現することができる。
【0017】
請求項2に係る発明は、アンチキャビテーションプレートよりも上方に下向きの面を有し、停船時の喫水以下の範囲に下向きの面で、且つアンチキャビテーションプレートの後端よりも後方に位置するように後下がりの傾斜面を有するので、停船状態から滑走し始めた時の下向きの面、アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方に位置するように後下がりの傾斜面により、効率的、効果的な揚力が得られ、又揚力装置の後部の後下がりの傾斜面は、アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方にまで延出して設けられていることから、プロペラ駆動によるキャビテーションの影響を受けることなく、船舶推進機は円滑、迅速に上方に持ち上げられ、船体の姿勢(ハンプ時の姿勢)を円滑、且つ迅速に水平に近い状態に移行させることができる。
従って、滑走し始めからハンプ時の姿勢を乗り越え、水平に近い状態への移行時間を大幅に短縮することができ、円滑、迅速な加速を得ることができる。
【0018】
加速後は、揚力装置は喫水上方に出るので、航行時の水中抵抗となることがなく、高速運動性能を損ねることがなく、高い高速運動性能を確保することができ、しかも、揚力装置はアンチキャビテーションプレートよりも上方に配置されていてこの間が空いているので、アンチキャビテーションプレート上を流れる水が円滑に導かれ、滞留によって揚力装置の下向きの面の効果が損なわれるのを回避することができる。
そして、以上の効果を、アンチキャビテーションプレートよりも上方に配置し、下向きの面を有する揚力装置の後端部をアンチキャビテーションプレート後端部よりも後方に延長し、後下方への傾斜面とする、という簡素な構成で実現することができる。
【0019】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2において、揚力装置を板状体としたので、請求項1又は請求項2の効果に加えるに、揚力装置の構造が簡素化し、また面構成、後端部の後方への延出等、揚力装置の構成が簡素で、製作上も容易に形成することができる。
【0020】
請求項4に係る発明では、船舶推進機は、プロペラの上方にアンチキャビテーションプレートを備え、揚力装置はアンチキャビテーションプレートよりも上方に間を空けて設けられ、且つ該揚力装置は、アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方で、プロペラよりも後方に、その後半部を延出させたので、船尾に船舶推進機の取り付け、船舶推進機の停止状態では、船尾が下がって後下がり状態となり、船舶推進機は後下がり状態で水没した状態にあり、この状態で船舶推進機を運転し、停船状態から滑走し始めた際、揚力装置は後下がりの傾斜面となり、推進で効率的、効果的な揚力が得られ、又揚力装置の後部は、アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方にまで延出して設けられていることから、プロペラ駆動によるアンチキャビテーションプレートの影響を受けることなく、船舶推進機は円滑、迅速に上方に持ち上げられ、船体の姿勢(ハンプ時の姿勢)を円滑、且つ迅速に水平に近い状態に移行させることができる。
従って、滑走し始めからハンプ時の姿勢を乗り越え、水平に近い状態への移行時間を大幅に短縮することができ、円滑、迅速な加速を得ることができる。
【0021】
加速後は、揚力装置は喫水上方に出るので、航行時の水中抵抗となることがなく、高速運動性能を損ねることがなく、高い高速運動性能を確保することができ、しかも、揚力装置はアンチキャビテーションプレートよりも上方に配置されていてこの間が空いているので、アンチキャビテーションプレート上を流れる水が円滑に導かれ、滞留によって揚力装置の下向きの面の効果が損なわれるのを回避することができる。
そして、以上の効果を、アンチキャビテーションプレートよりも上方に配置し、揚力装置の後端部をアンチキャビテーションプレート後端部よりも後方に延長するように形成すれば良いので、簡素な構成で実現することができる。
【0022】
請求項5に係る発明は、請求項4において、揚力装置は断面が翼型の翼状体としたので、揚力装置による船舶推進機の持ち上げ作用を、効率良く、一層円滑化、迅速化することができ、船体の姿勢(ハンプ時の姿勢)を一層円滑、且つ迅速に水平に近い状態に移行させることができ、滑走し始めからハンプ時の姿勢を乗り越え、水平に近い状態への移行時間を大幅に短縮することができ、円滑、迅速な加速を得ることができる。
【0023】
請求項6は、請求項1〜請求項5の何れか1項において、揚力装置の幅を船舶推進機の幅と同等か、或いはこの幅よりも小さくしたので、船舶推進機を船尾に複数並設するように取り付け、運転した場合、船舶推進機の操舵時やチルトアップ状態時に、並設された船舶推進機相互の干渉を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は、船体(艇体)の船尾に船舶推進機を取り付けた状態の要部の図で、船舶推進機と船体の関係を示す説明図である。
200は船舶推進機を取り付ける船体で、船尾201に船舶推進機1を取り付ける。船舶推進機1はスターンブラケット10で船尾に取り付けられ、上下動(チルト動)自在で、左右動(操舵)自在である。船体200は、船舶推進機1よりも前方の中央寄り部分に重心(不図示)が位置する。
船舶推進機1は、図で明らかなようにプロペラを含む下半部が、常態では水没している。船舶推進機については後述する。
【0025】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る船舶推進機の側面図、図3は、同船舶推進機の後面斜視図、図4は、同船舶推進機の背面図である。
これらの図面に従って船舶推進機を説明する。
船舶推進機1は、外観的には最上部のエンジンカバー2、この下方のアンダーカバー3、この下方のエクステンションケース4及びこの下方のギヤケース5からなる。実施例ではエクステンションケース4及びギヤケース5はアルミ合金等の軽金属で形成されている。
【0026】
エンジンカバー2内にはクランクシャフト及びカムシャフトが縦置きのバーチカルエンジンからなるエンジン6が収容され、エンジン6は軸線が横を向いたシリンダを、上下に複数個並べた多気筒エンジンである。
エンジン6は船舶推進機1の後部側がシリンダヘッドやヘッドカバーを含むエンジンヘッド6aであり、中間部側がシリンダブロック及びクランクケースからなるエンジン本体6bであり、エンジン6の下部はアンダーカバー3に臨む。アンダーカバー3内にはエンジン本体の底部6cが臨み、且つこれの下方にオイルパン6dを内装したマウントケース7が配設されており、スロットル弁6f等により、運転を制御する。
【0027】
アンダーカバー3内の底部6c、マウントケース7を通して縦向きの駆動軸6eがエクステンションケース4,ギヤケース5の上部を縦通し、駆動軸6eでギヤケース5の中間部に設けたギヤボックス5a内のギヤ機構5cを駆動し、ギヤ機構5cで駆動される軸出力軸5bの後端部には推進力を発生するプロペラ8を結合し、推進器を構成する。
船舶推進機1の前側には縦長の凹部1aを設け、凹部1aはアンダーカバー3の前部下半、エクステンションケース4の前部にかけて設けられおり、この凹部にスイベルケース9及びスターンブラケット10を設け、スイベル軸9aで操舵し、スターンブラケット10により船舶推進機は上下動(チルト動)する。このスターンブラケット10を介して前記したように船体の船尾に船舶推進機を取り付ける。
【0028】
以上の船舶推進機1の下部で、プロペラ8の上方には、該プロペラ8と離間し、アンチキャビテーションプレート11を前方、且つ両側方に、フランジ状に突出するように設ける。アンチキャビテーションプレート11は、プロペラ8の上方にかかるように設けられている。ラインP1は、アンチキャビテーションプレート11の高さ平面を示し、船体200の船底の高さと等しく合わせる。
す。
前記アンチキャビテーションプレート11の上方には、離間してアンチスプラッシュプレート12を設け、アンチスプラッシュプレート12は船舶推進機の前後方向の前部から中間部の両側方にフランジ状に突出するように設ける。
実施例では、アンチキャビテーションプレート11、アンチスプラッシュプレート12はギヤケース5上方のエクステンションケース4の下部及びギヤボックス5a上部の下端部に設けた。また、アンチスプラッシュプレート12は上下に離間して12a,12bの2枚設けた。図中4bは、エクステンションケース4とギヤケース5との合わせ面である。
【0029】
以上の船舶推進機1に揚力装置20を設ける。
揚力装置20は、図2〜図4に示す通りで、図3は、船舶推進機の後面斜視図、図4は、船舶推進機の後面図である。これらの図面を参照しつつ説明する。
揚力装置20は、アンチキャビテーションプレート11、アンチスプラッシュプレート12、特に上方のアンチスプラッシュプレート12aの上方に、空間を空けて離間して設けられており、板状体21で構成されている。
板状体21は、船舶推進機1の中間部の前後方向中間部から後方に向けて設けられている。実施例では、前端部21aがエクステンションケース4の前後方向中間部の前部寄り部位の両側部に臨み、後方に延出されている。
【0030】
板状体21は、前半部21bがエクステンションケース4の両側部から突出しており、後半部21cは一枚板であり、平面視で二股状である。エクステンションケース4との連続部分は、左右方向への広がり部分の根元に相当する。
後半部21cは前述のようにフラットな一枚板であり、後半部21cがエクステンションケース4の後方に延出しており、後端部21dはプロペラ8の後方で上方に位置する。 板状体21は、前半部21b〜後半部21cの中間部までが水平であり、後部21eが後下方に傾斜している。
【0031】
後下傾した後部21eは、プロペラ8の後方の上方に位置し、アンチキャビテーションプレート11の後端部11aよりも後方に位置する。
後部21eの傾斜角、即ち水平面に対する傾斜面23のなす角θは、鋭角側(ラインP2とラインP4とのなす角)で、実施例では略々30°とした。
θは0°≦θ≦45°の範囲とする。
ラインP2は、板状体21の下面21gの高さ平面を示し、アンチキャビテーションプレート11の高さ平面P1よりも上方に空間を空けて位置していることが理解できる。
そして、板状体21の後傾した後部21eの下面21hと水平な下面21gとの屈曲部21iは、板状体21の下面21gとアンチキャビテーションプレート11の後端部11aとを垂直に結ぶラインP3よりも後方に位置する。
板状体21の下面21gとアンチキャビテーションプレート11の上面との離間距離aと、板状体21の後端部21d及び/又は下面21hとの離間距離bとは、実施例では概ね等しいか、bが大きい(a≦b)。a>bの場合でも、aの90%以内の距離を保つ。
【0032】
以上の板状体21により揚力装置20を形成し、揚力装置20を構成する板状体21には水平な下を向く下向面22、これの後部で、この面22に連続する下向きの後下傾する傾斜面23を有する。
上記した板状体21の説明で明らかなように、揚力装置20を構成する板状体21の下面の下向面22、傾斜面23は、アンチキャビテーションプレート11、アンチスプラッシュプレート12の上方に空間を空けて離間して配設され、傾斜面23はプロペラ8の後方の上方に空間を空けて配設されている。
【0033】
揚力装置20を構成する板状体21の幅Wであるが、揚力と面積とは略々比例するが、次の理由で、図4に示したように、船舶推進機1の最大幅略々近い幅か、或いはこれより少し小さ目に設定し、また、プロペラ8の外径よりも充分に大き目に設定することが好ましい。
揚力装置20の幅Wであるが、船舶推進機1は、船体の大きさ等よって船尾に2機、或いは3機、更には4機等、所謂2機掛け、3機掛け、4機掛け等して、船尾に複数の船舶推進機を取り付けて推進する場合がある。
この場合、複数の船舶推進機を左右に振って操行するが、この操行の際、船舶推進機の幅よりも揚力装置20の幅が大きいと、揚力装置が操行時に干渉してしまう虞があるためである。
【0034】
以上の板状体21(揚力装置20)には、船体の推進、従って船舶推進機1の推進で傾斜面23の後下傾した面の上下面の圧力差により上方へ持ち上げる揚力が生じる。
船艇の浮力と重心のバランスにより、停船状態、船体は船首側がやや上がった姿勢である。この状態下で、下面21gは水平面に対し多少の角度を有することとなり、所謂迎え角を作る。推進の始めでは船舶推進機側が沈むように力がかかる。
【0035】
停船状態での前後傾斜角を約5°とし、加速により、そこから更に船尾が沈んで、前後傾斜角が最大15°となった場合、前記下面21hの水平面に対する角度θは、前記30°に15°が加わり、45°となる。従って、この場合でも、抗力の上方成分が後方成分を上回らないので、加速性能を高めることができる。
この揚力により、板状体21には下方から上方へ持ち上げる力が作用し、この持ち上げる力は、後部21eが下傾しているので、この部分を通して屈曲した連続部、さらにはこれの周辺部に繰り返し荷重として作用する。
【0036】
この繰り返し荷重に対処するために本実施の形態では、板状体21の後半部21cの上面21fとエクステンションケース4の後面4aの上部との間に斜めに支持部材24…(…は複数を表す。以下同じ)を介装し、支持を施した。
支持部材24…は厚手の板状部材で形成し、実施例では図3及び図4で示した通り、左右に離間して3本平行に配設し、支持部材24…の下端部は後下傾する後部21eと後半部21cとの境界部近傍との間に斜めに配設し、後部21eの上面とエクステンションケース4の後面4aの上部との間を一体に繋げる。
【0037】
以上により、船舶推進機の運転で船体は滑走を開始し、開始時には図1のように船舶推進機1の揚力装置20を含む下半は水没しており、船舶推進機の重量で船艇の重心と浮心(不良)とのバランスで、船尾は下がった状態にある。
滑走の開始とともに揚力装置20の作用で、船舶推進機を含む船尾は持ち上げられる。船舶推進機1の推進で、揚力装置20のプロペラ8の上方で後方まで延出された後下傾する傾斜面23の作用で、揚力装置20(板状体21)を上方へ持ち上げる揚力が迅速に、円滑に生じる。
【0038】
前述のように、アンチキャビテーションプレート11の上面及び後端部11aに対する下面21gの離間距離aと下面21hの離間距離bとは、a≠b、若くはa<b、或いは0.9a≦bであるので、アンチキャビテーションプレート11の上面に沿って後方に流れる水は、下面21hの傾きに沿って偏向されるが、後端部21d付近が障害にならずにスムーズに後方に排出されていく。
これにより、滑走開始時に極めて迅速に、そして円滑に船舶推進機、船尾を上方に持ち上げ、極めて短時間に、滑走する船体の姿勢を水平に近い状態とすることができるようにし、船舶推進機を取り付けた船艇の高速滑走に迅速、円滑に移行することができることとなる。
【0039】
図5は、本発明の変更実施例を示す斜視図で、船舶推進機を後方から見た斜視図である。
変更実施例は、揚力装置を船舶推進機とは別体で形成し、船舶推進機に後付した実施例である。船舶推進機の基本構造は上記と同様なので、同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0040】
図5は、変更実施例を示し、船舶推進機1のエクステンションケース4には一体に板状体からなる揚力装置を備えず、揚力装置は別体で、エクステンションケース4に組み付けて一体化したものである。
揚力装置30は板状体31からなり、水平な板部31bの前半部の幅方向中間部にはエクステンションケース4の筒状周壁の下端部4bを囲む弧状の凹部31aを備える。後部31eは後下傾し、前部〜中間部の水平な面により、水平で下を向く下向面32、これの後部で、この面32に連続する下向きの後下傾する傾斜面33が前記と同様に形成される。
【0041】
板状体31の上面の前後方向中間部には左右一対の支持部材34,34を斜め前上方に延出し、支持部材34,34の基部は板状体31から一体に突設されている。支持部材34,34の先端部には、縦長でエクステンションケース4の左右の周壁の部分の上半部のアールと合致するように、平断面が弧状の取付片34a(図の左側は隠れて現れていない。)を一体に備える。
また、板状体31の前半部の凹部31aの左右の部分31b(図の左側は隠れて現れていない。)には取付ボス部31gが起設されている。
【0042】
板状体31は凹部31aがエクステンションケース4の下端部後面4bを囲むように当接し、支持部材34,34の取付片34aをエクステンションケース4の上半部の左右の部分に当接し、取付片34aをボルト35でエクステンションケース4の当接部に結合し、凹部31a左右の取付ボス部31gをボルト35でエクステンションケース4の当接部に結合する。
以上により、船舶推進機とは別体に形成した板状体31を、船舶推進機のエクステンションケース後方に突出するように取り付け、揚力装置30を構成する。
揚力装置30は、前記と同様にスプラッシュプレート12,12、アンチキャビテーションプレート11の上方に下向面32が離間して配設され、傾斜面33はプロペラ8の後方に延出されており、また幅は上記と同様に船舶推進機の幅以内である。
【0043】
図6は、本発明の第2の実施の形態を示す側面図である。
図において、船舶推進機の基本構造は前記と同様なので、同一部分には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
本実施の形態は、後部が下方に傾斜した前記第1の実施の形態と同じ構造の揚力装置を採用している。
本実施の形態では、板状体21の上面と船舶推進機本体、即ちエクステンションケース4の後面とを繋ぐ支持部材を備えない構造である。
【0044】
板状体21は金属製のエクステンションケース4の後方に、これと一体成形されて延設されているか、金属製の板状体21をエクステンションケース4の中間部両側〜後部、後面に溶接等して一体化した構造である。
この実施の形態は、比較的小型の船を推進する小馬力の船舶推進機に好適する。
【0045】
図7は、本発明の第3の実施の形態を示す側面図である。
本実施の形態においても、船舶推進機の基本構造は前記と同様なので、同一部分には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
揚力装置40は板状体であり、板状体41は全長にわたり平坦である。板状体41は、前部が高位置で、後部が低位置で、前上がり、後ろ下がりの構造である。
板状体41は、中間部〜前半部が船舶推進機1のエクステンションケース4の中間部〜後半部外周に接合されており、板状体41はエクステンションケース4と一体に形成しても、別体に形成し、溶接等で一体化しても良い。
【0046】
板状体41は、前記と同様にスプラッシュプレート12,12、アンチキャビテーションプレート11の上方に空間を空けて配設され、後端部41bはアンチキャビテーションプレート11の後端部11aよりも後方、且つ上方に位置する。
以上により、揚力装置40を構成する。
本実施例では、揚力装置の前半部分も傾斜しており、船艇の喫水がより深い場合にも効果を発揮することができ、適用範囲が広がる。
尚、本実施の形態では、板状体41と船舶推進機本体との間に支持部材を介設していないが、板状体41の上面とエクステンションケース4の後半部との間、又は板状体41の下面とエクステンションケース4の後半部との間の一方、或いは双方に支持部材を介設しても良い。
【0047】
図8〜図10は、本発明の第4の実施の形態を示し、図8は、船舶推進機の斜視図、図9は、船舶推進機の外観側面図、図10は、同背面図である。これらの図面に従って説明する。
図において、船舶推進機の基本構造は前記と同様なので、同一部分には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
アンチキャビテーションプレート11の上方で、この上方に上下に配設されたスプラッシュプレート12(12a,12b)の上方に揚力装置50を設ける。実施例では、上部のスプラッシュプレート12aと揚力装置50は略々同レベルに設けられ、スプラッシュプレート12aは前半部にのみ設けられ、この後方に揚力装置50が配設されている。
【0048】
揚力装置50は、エクステンションケース4の高さ方向下部で、前後方向の中間部両側から後部周を囲むように後方に延設されている。揚力装置50は、前記と同様にアンチキャビテーションプレート11の後端部11aの後方に、その後端部50aが臨むように後部50bが後方に延出されている。
揚力装置50は板状体51からなり、板状体51の断面は、図8、図9で明示されているように翼型をなす。
板状体51の前縁51a〜後縁51bの上面51cは横弓形の緩やかな勾配、つまり緩やかなキャンバーラインが付されている。下面51dは予めわずかな迎え角が付されており、前後の縁の高さは略々同じレベルか、僅かに下がるが、水の流れを防げない程度であり、翼状体をなす。
【0049】
翼型断面の板状体51の上面51cの後部〜後端部近傍とエクステンションケース4の後面4aとの間に、支持部材54…を架設する。
支持部材54…は実施例では左右に間隔を開けて3個設けられており、板状体51の上面51cの後部〜後端部近傍とエクステンションケース4の後面4aとの間を繋ぐように斜めに設けられており、厚手の板状体をなす。
【0050】
上記した支持部材54…の各前端部54aは、エクステンションケース4の後面4aの左右及び中心部に接続されて後下傾するように延び、各後端部54bは、板状体51の上面51cの後端部54b近傍に接続され、板状体51とエクステンションケース4の後面との間を連結している。
又板状体51の中間部〜後部のエクステンションケース4の平面視U形の後部周を囲む翼根部51eは、エクステンションケース4の後部周を囲繞してこれに接合されている。
以上の板状体からなる揚力装置50の幅Wも、前記と同様に船舶推進機1の最大幅と同じか、或いはこれよりも小さく設定する。
尚、何れの実施例もエンジンを船外に有する船外機であったが、縦の周壁を備える船内外機であっても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、船体の船尾に取り付ける船舶推進機において、船舶推進機による推進初期における迅速、円滑な高速滑走への移行を行わせる船舶推進機に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】船体(艇体)の船尾に船舶推進機を取り付けた状態の要部の図で、船舶推進機と船体の関係を示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る船舶推進機の側面図である。
【図3】同船舶推進機の後面斜視図である。
【図4】同船舶推進機の後面図図である。
【図5】本発明の変更実施例を示す斜視図で、船舶推進機を後方から見た斜視図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態を示す側面図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態を示す側面図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る船舶推進機の斜視図である。
【図9】同船舶推進機の側面図である。
【図10】同船舶推進機の背面図である。
【符号の説明】
【0053】
1…船舶推進機、 8…プロペラ、 11…アンチキャビテーションプレート、 20,30,40,50…揚力装置、 21,31,41,51…板状体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚力装置を備える船舶推進機において、
前記船舶推進機は、プロペラの上方にアンチキャビテーションプレートを備え、
前記揚力装置は、前記アンチキャビテーションプレートよりも上方に空間を空けて設けられ、且つ該揚力装置は、前記アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方に延出されており、
前記揚力装置は、前部が高位置で、後部が低位置となるように後下傾した下向きの面を有する、
ことを特徴とする船舶推進機。
【請求項2】
揚力装置を備える船舶推進機において、
前記船舶推進機は、プロペラの上方にアンチキャビテーションプレートを備え、
前記揚力装置は、前記アンチキャビテーションプレートよりも上方に間を空けて設けられた下向きの面を有し、且つ該揚力装置は前記アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方に位置する範囲で後下がりに傾斜面を有する、
ことを特徴とする船舶推進機。
【請求項3】
前記揚力装置は、板状体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶推進機。
【請求項4】
揚力装置を備える船舶推進機において、
前記船舶推進機は、プロペラの上方にアンチキャビテーションプレートを備え、
前記揚力装置は、前記アンチキャビテーションプレートよりも上方に間を空けて設けられ、且つ該揚力装置は、前記アンチキャビテーションプレートの後端よりも後方で、プロペラよりも後方に、その後半部を延出させた、
ことを特徴とする船舶推進機。
【請求項5】
前記揚力装置は断面が翼型の翼状体であることを特徴とする請求項4に記載の船舶推進機。
【請求項6】
前記揚力装置の幅は、船舶推進機の幅と同等か、或いはこの幅よりも小さいことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の船舶推進機。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−55302(P2007−55302A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239970(P2005−239970)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)