説明

船舶用推進装置

【課題】プロペラが障害物に接触して破損するような場合でも、超電導モータがその機能を維持することができる船舶用推進装置を提供する。
【解決手段】船舶用推進装置1をプロペラ推進装置2と超電導モータ3によって構成し、超電導モータ2に、円筒状に電機子を配設した固定子4と、超電導界磁を配設した回転子5と、回転子の端板7に固定された超電導コイルからなる電磁クラッチ用界磁用コイル8と、固定子4と回転子5と電磁クラッチ用界磁用コイル8とを水密に内包する超電導モータ側ケーシング10と、を備え、プロペラ推進装置2に、複数の永久磁石12を有する回転板11と、プロペラ回転軸13と、プロペラ14とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用推進装置に関する。
【0002】
特に、本発明は、プロペラ推進装置と超電導モータとによって船舶用推進装置を構成し、プロペラ推進装置と超電導モータとを分離して別々の水密のケーシングに格納し、プロペラ推進装置と超電導モータの間の動力の伝達は電磁クラッチによって行い、プロペラ推進装置が障害物に接触した際に超電導モータへの浸水を防止することができる船舶用推進装置に関する。
【0003】
また、本発明は、超電導界磁を有する回転子の端板に、超電導コイルからなる電磁クラッチ用界磁用コイルを設けることにより、回転子の超電導界磁のための冷却装置を共用でき、かつ、在来機に比して小寸法でありながら大きなトルクを伝達することができる小型で高効率の船舶用推進装置に関する。
【背景技術】
【0004】
従来から、船舶用推進装置に超電導モータを使用することが種々考案されていた。
【0005】
しかし、従来の船舶用推進装置は、室外機にプロペラを設け、機関部(電動機、ディーゼル機関)と室外機のプロペラは直結されていた。
【0006】
一方、電磁クラッチの技術自体は従来から実開平6−45358号公報等により知られていた。
【0007】
実開平6−45358号公報はガスレーザー装置に使用する電磁クラッチが示されている。実開平6−45358号公報の図5および明細書のそれに対応する記載には、モータの回転軸の先端に、永久磁石を有する大気側磁気継手を接続し、隔壁を介して前記大気側磁気継手と対向して永久磁石を有するガス側磁気継手を設け、大気側磁気継手の動力をガス側磁気継手に伝達する電磁クラッチが開示されている。
【特許文献1】実開平6−45358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年においては、より高出力の船舶用推進装置を得るために、船舶用推進装置の機関部の電動機に、超電導モータが使用する船舶用推進装置が多く提案されている。
【0009】
これらの船舶用推進装置は上述したとおりプロペラと超電導モータが直結されている構造であった。
【0010】
しかし、船舶用推進装置において、プロペラは船外で高速で回転するため、障害物に接触することによりプロペラ等が破損する可能性がある。
【0011】
従来のように機関部(電動機、ディーゼル機関)と室外機が直結されている場合、プロペラが障害物に接触したときは、プロペラ回転軸のシール部を通って水が機関部に進入する。
【0012】
特に、船舶用推進装置の機関部の電動機に超電導モータが使用されている場合、水の進入により、超電導モータがその機能を維持することができなくなり、深刻な場合は回復不能のダメージを受けることがある。
【0013】
そこで、本願発明が解決しようとする一つの課題は、障害物に接触する可能性が高いプロペラが、万一障害物に接触して破損した場合でも、超電導モータがその機能を維持することができる船舶用推進装置を提供することにある。
【0014】
なお、実開平6−45358号公報に示されている従来の電磁クラッチは、ガスレーザー装置の大気側とガス側の間の動力伝達に使用されているが、船舶用推進装置のように水の進入に対して超電導モータの機能を維持し続けるようにする課題およびそれを解決する手段を有していない。なおまた、従来、低速高トルクの条件で電磁クラッチを使用すると大型化するため、船舶用推進装置には電磁クラッチは使用されていなかった。
【0015】
また、実開平6−45358号公報等に示されている従来の電磁クラッチは、常電導状態での電磁カップリングであった。
【0016】
超電導界磁を使用すれば、より強い磁力で大きなトルクを伝達させ、小寸法・小体格とすることができることは知られている。
【0017】
しかし、超電導状態を維持するためには、超電導状態を実現できるきわめて低い温度を維持しなければならず、超電導界磁を使用した電磁クラッチを実現することは構造が複雑になり技術的に困難であった。
【0018】
ところが、超電導モータは、超電導界磁を超電導状態に維持するための、冷却装置、断熱構造等を有している。
【0019】
この超電導モータの冷却装置、断熱構造等を利用することができれば、合理的な構造で大きな動力を伝達できる超電導電磁クラッチを実現することができる。
【0020】
そこで、本願発明が解決しようとするもう一つの課題は、従来構造が複雑で技術的に困難であった超電導電磁クラッチに対して、超電導モータの構造を利用することにより、簡単な構造で大きな動力を伝達できる超電導電磁クラッチを提供することにある。
【0021】
さらにまた、従来の船舶用推進装置はプロペラと超電導モータとを直結していたため、プロペラの回転数の制御は超電導モータの回転数制御によって行っていた。
【0022】
本願発明者の研究によれば、超電導モータにおいて、出力効率の改善が低回転・大トルク領域において可能であることが予見される。ところが、プロペラに必要な回転数は、超電導モータのメリット(高出力効率)が得られる低回転数に比して一般的に高回転領域にある。
【0023】
そのため、プロペラと超電導モータとを直結し、プロペラの回転数の制御を超電導モータの回転数制御によって行うようにすると、超電導モータの回転数は高出力効率を得られる低回転領域より高い高回転領域で稼働するようになる。
【0024】
そこで、本願発明が解決しようとするさらにもう一つの課題は、高出力効率が得られる低回転領域で超電導モータを駆動し、かつ、船舶用推進装置として必要な高回転領域でもプロペラを駆動することができる船舶用推進装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明による船舶用推進装置は、
プロペラ推進装置と超電導モータとからなる船舶用推進装置において、
前記超電導モータは、円筒状に超電導または常電導の電機子を配設した固定子と、前記固定子の電機子に対向してその内側に超電導界磁を配設した回転子と、前記回転子の端板に固定された超電導コイルからなる電磁クラッチ用界磁用コイルと、前記固定子と回転子と電磁クラッチ用界磁用コイルとを水密に内包する超電導モータ側ケーシングと、を有し、
前記プロペラ推進装置は、前記電磁クラッチ用界磁用コイルと対向する位置に配設された複数の永久磁石を有し前記超電導モータの回転子端板とほぼ平行に対向配設された回転板と、前記回転板に接続されたプロペラ回転軸と、前記プロペラ回転軸の先端部に接続されたプロペラと、前記回転板と前記プロペラ回転軸の一部とを内包するプロペラ側ケーシングと、を有することを特徴とする。
【0026】
また、本発明による船舶用推進装置は、
プロペラ推進装置と超電導モータとからなる船舶用推進装置において、
前記超電導モータは、該超電導モータの回転軸に垂直な固定板に超電導または常電導の電機子を配設した固定子と、前記固定子と平行な回転板に超電導界磁を配設した回転子と、前記回転子の端板に固定された超電導コイルからなる電磁クラッチ用界磁用コイルと、前記固定子と回転子と電磁クラッチ用界磁用コイルとを水密に内包する超電導モータ側ケーシングと、を有し、
前記プロペラ推進装置は、前記電磁クラッチ用界磁用コイルと対向する位置に配設された複数の永久磁石を有し前記超電導モータの回転子端板とほぼ平行に対向配設された回転板と、前記回転板に接続されたプロペラ回転軸と、前記プロペラ回転軸の先端部に接続されたプロペラと、前記回転板と前記プロペラ回転軸の一部とを内包するプロペラ側ケーシングと、を有することを特徴とする。
【0027】
前記電磁クラッチ用界磁用コイルに、静止磁界および回転磁界を発生させることにより、電磁クラッチにより加速と減速の駆動制御を行うインバータ制御部を備えるようにすることができる。
【0028】
前記プロペラ推進装置は、プロペラ回転軸のシール部と、前記シール部より内側のプロペラ回転軸と、前記回転板とを水密に内包するプロペラ側ケーシングをさらに有しているのが好ましい。
【0029】
船体の外側に配設されたポッドの内部に、上記プロペラ推進装置と超電導モータとを収納することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、プロペラ推進装置と超電導モータによって船舶用推進装置を構成し、プロペラ推進装置と超電導モータとを分離する構造を採り、超電導モータとプロペラ推進装置の間の動力伝達は電磁クラッチによって行い、プロペラ推進装置にその固定子と回転子と電磁クラッチ用界磁用コイルとを水密に内包する超電導モータ側ケーシングを設け、超電導モータに回転板と前記プロペラ回転軸の一部とを内包するプロペラ側ケーシングを設けている。
【0031】
上記構成により、超電導モータは物理的にプロペラ推進装置と分断された独立の構造になっている。
【0032】
これにより、運航中に船外でプロペラが障害物に接触し、プロペラ回転軸のシール部に大きな力がかかって漏水が生じた場合でも、超電導モータが超電導モータ側ケーシングによって水密に格納されているために、超電導モータはその機能を維持し続けることができる。
【0033】
特に、プロペラ回転軸のシール部と、前記シール部より内側のプロペラ回転軸と、回転板がプロペラ側ケーシングに水密に内包されている構造である場合には、水はプロペラ側ケーシングにしか浸水しない。
【0034】
このような場合に、本発明によれば、停船し、プロペラの修復、取り替え等の作業を行い、機能が維持された超電導モータによって運航を再開することができる。
【0035】
本発明によれば、電磁クラッチ用界磁用コイルに静止磁界および回転磁界を発生させることにより、電磁クラッチにより加速と減速の駆動制御を行うインバータ制御部を備えることができる。
【0036】
この発明によれば、インバータ制御部によって電磁クラッチ用界磁用コイルに回転磁界を発生させることにより、プロペラ推進装置側の回転板を、超電導モータの回転子より高速で回転させることができる。
【0037】
このことを利用して、高出力効率を得られる低回転領域で、電磁クラッチ用界磁用コイルに静止磁界を発生させて、プロペラと超電導モータを同期させ、かつ、高回転領域では電磁クラッチ用界磁用コイルに回転磁界を発生させて、超電導モータより高速でプロペラを回転させることができる。
【0038】
これにより、超電導モータの高出力効率の低回転領域を利用でき、かつ、船舶の航行に必要な高回転領域でプロペラを駆動することができる船舶用推進装置を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、本発明による船舶用推進装置の実施形態について以下に説明する。
【0040】
図1は、本発明の一実施形態による船舶用推進装置を示している。
【0041】
本実施形態による船舶用推進装置1は、いわゆるポッド型推進装置と呼ばれるものであって、船舶用推進装置1の全体が円筒状の容器(ポッド)に収納され、ポッドは船の本体の外側に配設されている。
【0042】
以下の本実施形態の説明では、ポッド型推進装置を用いて説明するが、これは本発明をポッド型推進装置に限るものではない。以下の説明から明らかになるように、本発明は、船舶用推進装置をプロペラ推進装置と超電導モータとによって構成し、プロペラ推進装置と超電導モータを物理的に分離してその間の動力の伝達を超電導コイルを用いた電磁クラッチによって行うものであるので、ポッド型推進装置のみならず、船舶用推進装置を船内に設ける従来型の船舶用推進装置として構成することもできる。
【0043】
図1に示すように、船舶用推進装置1は、プロペラ推進装置2と超電導モータ3とからなる。
【0044】
超電導モータ3は、いわゆるラジアル型同期機と呼ばれるものであって、円筒状に超電導または常電導の電機子を配設した固定子4を有し、固定子4の電機子に対向するように固定子4の内側に超電導界磁を配設した回転子5とを有している。
【0045】
回転子5の超電導界磁は、本実施形態においては、図1に示すように、トラック形状に超電導コイル6を巻いて形成され、回転子5の円筒状外表面に等間隔で配設されている。なお、本実施形態では回転子5の超電導界磁はコイルからなるが、バルクを使用することもできる。「超電導界磁」は超電導コイルおよび超電導バルク体を含む。
【0046】
回転子5のプロペラ側には回転子端版7が設けられている。
【0047】
回転子端板7には、超電導コイルからなり、電磁クラッチの片側をなす電磁クラッチ用界磁用コイル8が周方向に等間隔に設けられている。
【0048】
回転子5の内部には、冷却材の流通路が形成されており、冷却材の流通路の末端には冷却装置9が接続されている。冷却装置9は、冷却材を冷却し、回転子5の内部に送給し、超電導コイル6を超伝導状態以下の温度に冷却する。なお、本実施形態では、冷却装置9によって冷却材を冷却し、冷却材の流通路を介して冷却材を送給して回転子を冷却するが、本発明はこれに限られず、冷却材の流通路を有さず、その代わりに固体の伝熱部材を回転子の内部に配し、冷却装置によって該伝熱部材を冷却することにより、回転子の超電導界磁を超電導状態に冷却するようにすることもできる。また、冷却材は液体であっても気体であってもよい。 本実施形態において、冷却装置9の冷却材は、電磁クラッチ用界磁用コイル8にも送給され、電磁クラッチ用界磁用コイル8を超伝導状態以下の温度に冷却する。
【0049】
固定子4が超電導電機子である場合には、固定子4にも冷却材を送給する冷却装置が設けられる。
【0050】
超電導モータ3は、固定子4と回転子5と電磁クラッチ用界磁用コイル8とを内包する超電導モータ側ケーシング10を備えている。
【0051】
超電導モータ側ケーシング10は、水が浸入できないように、水密の構造を有している。さらに好ましくは、熱の進入を可能な限り少なくするために、超電導モータ側ケーシング10の内部は真空にすることができる。
【0052】
プロペラ推進装置2は、前記超電導モータ3の回転子端板7とほぼ平行に対向配設された回転板11を有している。回転板11上には、電磁クラッチ用界磁用コイル8と対向するように複数の永久磁石12が配置されている。
【0053】
電磁クラッチは、回転板11、永久磁石12、電磁クラッチ用界磁用コイル8、回転子端版7によって構成されている。
【0054】
回転板11は、プロペラ回転軸13の内端部に固定されている。プロペラ回転軸13の先端部にはプロペラ14が固定されている。
【0055】
プロペラ14はハブ15を有し、ハブ15は、支持構造体16に回転可能に接続されている。
【0056】
プロペラ推進装置2は、回転板11とその上に配置された永久磁石12とプロペラ回転軸の一部とを内包するプロペラ側ケーシング17を有している。
【0057】
本実施形態では、プロペラ側ケーシング17は、プロペラ回転軸のシール部18と、シール部18より船内側のプロペラ回転軸13と、プロペラ回転軸支承部19と、回転板11と永久磁石12とを、水密に内包するように構成されている。
【0058】
なお、超電導モータ3を水密に内包するように超電導モータ側ケーシング10のみを設け、プロペラ側ケーシング17は水密構造としない構成もあり得る。
【0059】
あるいは、図5に示すように、超電導モータ3を水密に内包するように超電導モータ側ケーシング10のみを設け、プロペラ側ケーシング17を設けない構成もあり得る。
【0060】
電磁クラッチをなす、回転板11と永久磁石12、および、電磁クラッチ用界磁用コイル8と回転子端版7の間には、少なくとも超電導モータ側ケーシング10の隔壁が存在している。
【0061】
本実施形態の船舶用推進装置1は、さらに、電磁クラッチ用界磁用コイル8に、静止磁界および回転磁界を発生させ、電磁クラッチにより加速と減速の駆動制御を行うインバータ制御部20を備えている。
【0062】
さて、以上の構成を有する船舶用推進装置1は以下のように作動し、以下の作用効果を奏することができる。
【0063】
船舶用推進装置1は、運航に先立って、冷却装置9を起動し、回転子5の超電導コイル6および電磁クラッチ用界磁用コイル8を、超電導状態を実現する温度以下の温度に十分に冷却する。
【0064】
低回転領域では、インバータ制御部20により、電磁クラッチ用界磁用コイル8に静止磁界を発生させるように電流を制御する。
【0065】
ここで、静止磁界とは、各電磁クラッチ用界磁用コイル8について固定の磁界を発生させ、磁極を変化させない磁界である。換言すると、回転子端板7に対して相対的に静止した磁界である。
【0066】
電磁クラッチ用界磁用コイル8に静止磁界を発生させることにより、永久磁石12と回転板11は、電磁クラッチ用界磁用コイル8と回転子端版7の回転に同期し、低速で回転する。低回転領域では、超電導モータ3のトルクをフルに使用する。
【0067】
船速が高速になると、プロペラ14は高回転領域で回転させなければならない。
【0068】
高回転領域では、インバータ制御部20により、電磁クラッチ用界磁用コイル8に回転磁界を発生させるように電流を制御する。
【0069】
ここで回転磁界とは、回転子端版7の回転と同方向であって、回転子端版7の回転より高速で回転する磁界である。換言すると、回転子端板7に対して相対的に回転する磁界である。
【0070】
電磁クラッチ用界磁用コイル8に回転磁界を発生させることにより、永久磁石12と回転板11は、電磁クラッチ用界磁用コイル8と回転子端版7に比して高速で回転する。
【0071】
本発明によれば、特別な変速機を要することなく、インバータ制御部20の制御により、低速から高速までの船速に対応して、プロペラ14を回転駆動することができる。
【0072】
図4は各種の電動機のモータ出力効率を比較したグラフである。
【0073】
図4において、横軸はモータ出力(%)、縦軸はモータ出力効率(%)を示している。図4のグラフにおいて、実線は超電導界磁同期電動機、一点鎖線は永久磁石界磁同期電動機、二点鎖線は銅線等の常電導コイル界磁による巻線型同期電動機、点線は誘導電動機の各モータ出力(%)におけるモータ出力効率(%)を示している。
【0074】
図4の点線で楕円に囲んで示すように、超電導界磁同期電動機は、モータ出力約30%以下の低回転領域で、永久磁石界磁同期電動機および巻線型同期電動機に比してモータ出力効率(%)が大幅に高い。すなわち、モータ出力約30%以下の低回転領域で、超電導界磁同期電動機を使用することにより、永久磁石界磁同期電動機や巻線型同期電動機を使用する場合に比して、大幅にモータ出力効率を改善できる。
【0075】
本発明によれば、低速では電磁クラッチ用界磁用コイル8に静止磁界を発生させてプロペラと超電導モータの回転を同期させ、高速では電磁クラッチ用界磁用コイル8に回転磁界を発生させてプロペラを超電導モータより高速で回転させることにより、超電導モータの高出力効率の低回転領域を多用し、高効率の船舶推進を行うことができる。
【0076】
そればかりか、超電導モータのメリットは低速大トルクにも拘わらず小型化小寸法小体格となることにあるが、本発明の電磁クラッチにも適用でき、従来製品には存在しなかった大トルク低速伝達の電磁クラッチの小型化を実現することができる
さらにまた、本発明によれば、超電導モータ3が超電導モータ側ケーシング10によって、水密に内包されているため、万一漏水があった場合に、超電導モータ3の機能を維持することができる。
【0077】
船舶用推進装置において、プロペラ14は船外で高速で回転するため、障害物に接触する可能性がある。
【0078】
プロペラ14が障害物に接触した場合、従来の船舶用推進装置では、プロペラ回転軸のシール部に大きな力がかかり、シール部を通って水が進入し、さらに超電導モータが水に浸かった場合は、超電導モータの機能が損なわれ、修復が困難なこともある。
【0079】
また、水の進入のみならず、プロペラ推進装置と超電導モータが直結されている場合には、プロペラが障害物に接触すると、その力が超電導モータに直接伝わって超電導モータの機能を損なわせることがある。
【0080】
これに対して、本発明は、プロペラ推進装置2と超電導モータ3が物理的に分離されているため、プロペラ14が障害物に接触した場合でも、超電導モータ3に大きな力がかかることがない。
【0081】
これによって、超電導モータ3を物理的な大きな力から守ることができる。
【0082】
また、本発明によれば、超電導モータ3が超電導モータ側ケーシング10に水密に格納されていることにより、水が進入した場合でも、超電導モータ3を浸水から保護することができる。
【0083】
特に、本実施形態のように、プロペラ側ケーシング17が、プロペラ回転軸のシール部18と、シール部18より船内側のプロペラ回転軸13と、プロペラ回転軸支承部19と、回転板11と永久磁石12とを、水密に内包する場合は、シール部18から水が進入した場合であっても、水はプロペラ側ケーシング17の内側に格納される。
【0084】
本発明によれば、プロペラが障害物に接触した場合では、超電導モータの機能が維持され、停船してプロペラの修復や取り替えの作業を行うことにより、船の運航を再開することができる。
【0085】
本発明によれば、簡単な構造により、大きな動力を伝達することができる超電導電磁クラッチを実現することができる。
【0086】
本発明は、電磁クラッチ用界磁用コイル8が超電導コイル6からなる回転子の端版7に設けられている。この構造により、回転子の超電導コイル6を冷却する冷却装置9、回転子内に設けられた冷却材流路や固体の伝熱部材、真空構造等を共用あるいは利用して、電磁クラッチの片側を超電導コイルにすることができる。これにより、電磁クラッチ用界磁用コイル8専用の冷却設備を設ける必要がなく、超電導コイルを電磁クラッチの界磁として使用でき、小型で大トルクを伝達可能な電磁クラッチを得ることができる。
【0087】
電磁クラッチ用界磁用コイル8を超電導コイルとすることにより、常電導電機子あるいは永久磁石に比して、大きな動力を伝達することができる。さらに、伝達する動力に対して従来の製品に比して格段に小型化することができる。
【0088】
図2は、図1に示した実施形態と異なるポッド型推進装置の構造を示している。
【0089】
図1の船舶用推進装置1では、プロペラ14のハブ15が舵支持構造体16に支持される構造であったのに対して、図2のプロペラ14のハブ15は他の構造体によって支持されていない構造である。図2において、図1と同一部分には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0090】
本発明は、ポッド型推進装置ではない従来の船内型の船舶用推進装置に適用することができることはむろん、種々の構造の船舶用推進装置に適用することができ、図2はその一変形例を示したものである。
【0091】
図3は、超電導モータをいわゆるアキシャル型同期機とした本発明の船舶用推進装置を示している。
【0092】
図3において、船舶用推進装置21は、プロペラ推進装置22と超電導モータ23とからなる。
【0093】
超電導モータ23は、超電導モータの回転軸に垂直な固定板24に超電導または常電導の電機子25を配設した固定子26と、固定子26と平行な回転板27に超電導界磁28を配設した回転子29を有している。
【0094】
超電導モータ23は、回転子29の端板30に固定された超電導コイルからなる電磁クラッチ用界磁用コイル31を有している。さらに、超電導モータ23は、固定子26と回転子29と電磁クラッチ用界磁用コイル31とを水密に内包する超電導モータ側ケーシング32を有している。
【0095】
一方、プロペラ推進装置22は、超電導モータの回転子端板30とほぼ平行に対向配設された回転板33と、回転板33に接続されたプロペラ回転軸34と、プロペラ回転軸34の先端部に接続されたプロペラ35と、を有している。
【0096】
回転板33には、電磁クラッチ用界磁用コイル31と対向するように、複数の永久磁石36が配設されている。
【0097】
さらに、プロペラ推進装置22は、回転板33とプロペラ回転軸34の一部とを内包するプロペラ側ケーシング37を有している。
【0098】
船舶用推進装置21は、インバータ制御部38を有している。
【0099】
本実施形態のその他の構成は図1の実施形態と同様である。
【0100】
本実施形態によれば、プロペラ推進装置22と超電導モータ23が独立の構造を有し、プロペラ35が障害物に接触したときに力が直接超電導モータ23にかからず、超電導モータ23を外力から保護することができる、水が進入した場合に超電導モータ23が超電導モータ側ケーシング32によって水密に格納されていることにより超電導モータ23を浸水から保護することができる、超電導モータ23の冷却装置や冷却構造を利用することにより構造簡単な超電導電磁クラッチを実現することができる、インバータ制御部38に静止磁界や回転磁界を発生させることにより超電導同期電動機の高モータ出力効率の低回転領域を利用して高効率の船舶用推進装置を得ることができる等の作用効果は図1の実施形態の場合と同様である。
【0101】
それに加えて、本実施形態は、アキシャル型構造を有し、固定子26の固定板24と回転子29の回転板27の数を増加させることにより、進行方向に対して小さな断面積を有しつつ、大きな出力の船舶用推進装置21を得ることができる。
【0102】
特に、ポッド型推進装置の場合、ポッドの進行方向に対する断面積がポッドの抵抗になるため、上述したように、進行方向に対して小さな断面積を有しつつ大きな出力を出すことができることは船舶用推進装置の性能上非常に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の一実施形態による船舶用推進装置の構造を示した概略構造図。
【図2】本発明の図1の実施形態による船舶用推進装置の構造の変形例を示した概略構造図。
【図3】本発明の他の実施形態による船舶用推進装置の構造を示した概略構造図。
【図4】各種の同期電動機の各モータ出力におけるモータ出力効率を比較して示したグラフ。
【図5】図1の実施形態の変形例による船舶用推進装置の構造を示した概略構造図。
【符号の説明】
【0104】
1 船舶用推進装置
2 プロペラ推進装置
3 超電導モータ
4 固定子
5 回転子
6 超電導コイル
7 回転子端版
8 電磁クラッチ用界磁用コイル
9 冷却装置
10 超電導モータ側ケーシング
11 回転板
12 永久磁石
13 プロペラ回転軸
14 プロペラ
15 ハブ
16 支持構造体
17 プロペラ側ケーシング
18 シール部
19 プロペラ回転軸支承部
20 インバータ制御部
21 船舶用推進装置
22 プロペラ推進装置
23 超電導モータ
24 固定板
25 電機子
26 固定子
27 回転板
28 超電導界磁
29 回転子
30 端板
31 電磁クラッチ用界磁用コイル
32 超電導モータ側ケーシング
33 回転板
34 プロペラ回転軸
35 プロペラ
36 永久磁石
37 プロペラ側ケーシング
38 インバータ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラ推進装置と超電導モータとからなる船舶用推進装置において、
前記超電導モータは、円筒状に超電導または常電導の電機子を配設した固定子と、前記固定子の電機子に対向してその内側に超電導界磁を配設した回転子と、前記回転子の端板に固定された超電導コイルからなる電磁クラッチ用界磁用コイルと、前記固定子と回転子と電磁クラッチ用界磁用コイルとを水密に内包する超電導モータ側ケーシングと、を有し、
前記プロペラ推進装置は、前記電磁クラッチ用界磁用コイルと対向する位置に配設された複数の永久磁石を有し前記超電導モータの回転子端板とほぼ平行に対向配設された回転板と、前記回転板に接続されたプロペラ回転軸と、前記プロペラ回転軸の先端部に接続されたプロペラと、を有することを特徴とする船舶用推進装置。
【請求項2】
プロペラ推進装置と超電導モータとからなる船舶用推進装置において、
前記超電導モータは、該超電導モータの回転軸に垂直な固定板に超電導または常電導の電機子を配設した固定子と、前記固定子と平行な回転板に超電導界磁を配設した回転子と、前記回転子の端板に固定された超電導コイルからなる電磁クラッチ用界磁用コイルと、前記固定子と回転子と電磁クラッチ用界磁用コイルとを水密に内包する超電導モータ側ケーシングと、を有し、
前記プロペラ推進装置は、前記電磁クラッチ用界磁用コイルと対向する位置に配設された複数の永久磁石を有し前記超電導モータの回転子端板とほぼ平行に対向配設された回転板と、前記回転板に接続されたプロペラ回転軸と、前記プロペラ回転軸の先端部に接続されたプロペラと、を有することを特徴とする船舶用推進装置。
【請求項3】
前記電磁クラッチ用界磁用コイルに、静止磁界および回転磁界を発生させることにより、電磁クラッチにより加速と減速の駆動制御を行うインバータ制御部を備えたことを特徴とする、請求項1または2に記載の船舶用推進装置。
【請求項4】
前記プロペラ推進装置は、プロペラ回転軸のシール部と、前記シール部より内側のプロペラ回転軸と、前記回転板とを水密に内包するプロペラ側ケーシングをさらに有している、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の船舶用推進装置。
【請求項5】
船体の外側に配設されたポッドの内部に、請求項1〜請求項4のプロペラ推進装置と超電導モータとを収納したことを特徴とするポッド式船舶用推進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−183986(P2008−183986A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17995(P2007−17995)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【出願人】(503018032)北野精機株式会社 (4)