説明

船舶用煙突

【課題】船体清掃を容易とすると共に、居住区に対する煙害を防止する船舶用煙突を提供することを課題とする。
【解決手段】排気の際に風を利用して煤を船尾より後方に遠くに飛ばし得る場合には、排ガス管3の吹出口3aの方向が上方向を向くようにし、一方、排気の際に風を殆ど利用できない場合、及び、排気の際に風を利用できるが排気が居住区に向かう場合には、排ガス管3の吹出口3aの方向が下方向を向くようにし、煤を所定の箇所に集めるのを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用煙突に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船内のエンジンやボイラ等の燃焼排ガスは、船舶用煙突を通して船外に排気されるが、航行中、船体長さ方向と異なる風向きになると、煙突後方で乱流が生じ、この乱流に煤煙が巻き込まれて煤が船体上に飛散するため、これを防止するための船舶用煙突が種々提案されている。このような船舶用煙突としては、上下方向に延在する排ガス管直管部の上部に、L字を逆さにした形状で吹出口が水平方向を向き且つ吸込口が下方を向く排ガス管吹出部のその吸込口を外挿して当該排ガス管吹出部を回転可能に連結し、この排ガス管吹出部に風受けフィンを設けて、当該風受けフィンが風を受けると、排ガス管直管部に対して排ガス管吹出部が回転し風向きと同一向きとなって乱流の発生を防止し、これにより、煙突からの煤煙を高く吹き上げ風に乗せて遠くに飛ばし、煤を船体上に飛散させないようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平6−30652号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記船舶用煙突にあっては、例えば、停泊中や航行中の無風時や、低速航行時等にあっては、排気の際に風を殆ど利用できず、煤が船体上に飛散してしまい船体清掃が大変になるという問題がある。また、一般的に船舶では、船尾側に居住区、当該居住区よりさらに船尾側に煙突が立設されているため、排気の際に風を利用できる場合であっても追い風の場合には、煤が居住区に進入し煙害が発生してしまう。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、船体清掃を容易にできると共に居住区に対する煙害を防止できる船舶用煙突を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による船舶用煙突は、排ガス管の吹出口から排ガスを吹き出す船舶用煙突において、排ガス管の吹出口の方向が上下方向に変更可能とされていることを特徴としている。
【0006】
このような船舶用煙突によれば、排気の際に風を利用して煤を船尾より後方に遠くに飛ばし得る場合には、排ガス管の吹出口の方向が上方向を向き、一方、排気の際に風を殆ど利用できない場合、及び、排気の際に風を利用できるが排気が居住区に向かう場合には、排ガス管の吹出口の方向が下方向を向くように変えられ、煤が所定の箇所に集められる。このため、船体清掃を容易にできると共に居住区に対する煙害を防止できる。
【0007】
ここで、風圧を利用し当該風圧に応じて吹出口の方向が変更されると、吹出口の方向を変えるための専用の動力が不要とされ、低コスト化が図られる。
【0008】
また、船舶の船首方向進行速度成分をVs、風の船首方向成分をVwとし(但し、Vs、Vwは船首方向を向いている場合に正、船首方向と反対方向を向いている場合に負とし)、予め設定した正の所定値をαとした場合に、Vs−Vw>αの場合には、吹出口が上を向き、Vs−Vw≦αの場合には、吹出口が下を向くように、構成されていると、上記作用が好適に奏される。
【0009】
また、下を向く吹出口に対応する位置に、煤回収部が設けられていると、船体清掃が一層容易とされる。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明によれば、船体清掃を容易とすることが可能になると共に居住区に対する煙害を防止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による船舶用煙突の好適な実施形態について図1〜図9を参照しながら説明する。なお、各図において、同一の要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1〜図5は、本発明の第一実施形態を、図6〜図9は、本発明の第二実施形態を各々示すもので、図1は、本発明の第一実施形態に係る船舶用煙突を示す側面図であって吹出口が下方を向いた状態図、図2は、図1の断面図、図3は、船舶用煙突の吹出口が上方を向いた状態図、図4は、図3の断面図、図5は、船舶の船首方向進行速度成分及び風の船首方向成分と吹出口の方向との関係を説明するための図である。なお、図1、図3、図5、図6及び図8においては、図示右側が船首側とされ、図示左側が船尾側とされ、図2、図4、図7及び図9においては、図示右側が右舷側とされ、図示左側が左舷側とされている。
【0013】
図5に示すように、本実施形態の船舶用煙突1は、船尾側に居住区Sを有する船舶100に採用されているもので、居住区Sよりさらに船尾側に立設され、船内のエンジンやボイラ等からの燃焼排ガスを船外に排気するための固定排ガス管2に、回動自在な排ガス管3を連結したものである。
【0014】
図1、図2及び図5に示すように、固定排ガス管2は、上下方向に延びて船外に導出され船外で水平且つ後方に延びる構成とされている。
【0015】
図1及び図2に示すように、排ガス管3は、円環状に構成されたガス管を略1/4長に切断して成るもので、固定排ガス管2の管末端に外挿されると共に、船幅方向(図2の左右方向)に対向して立設された一対の支柱6,6に固定されている軸受7に内挿され、固定排ガス管2及び軸受7に回動自在に支持されている。
【0016】
右舷側の支柱6には、揚力板10を上下方向に案内するための揚力板ガイド9が上下方向に延びるように連結されている。そして、この揚力板ガイド9に対して、揚力板10が貫通配置されている。
【0017】
揚力板10は、平板状に構成され、船首側(図1の右側)に向かって上方に傾斜するように配設されている。このため、揚力板10は、船首側から所定の風圧を受けると揚力板ガイド9にガイドされながら上昇し、それ以外の場合(船首側から所定の風圧以下の風圧を受けた場合や船尾側から風圧を受ける場合や無風時等の場合)には揚力板ガイド9にガイドされながら下降するか、若しくは、図1に示す位置にあって動かない。
【0018】
また、揚力板ガイド9の上端部には、揚力板10のそれ以上の上昇を阻止するための上昇ストッパ11aが設けられ、揚力板ガイド9の下端部には、揚力板10のそれ以上の下降を阻止するための下降ストッパ11bが設けられている。
【0019】
また、排ガス管3の外周面の所定箇所、具体的には、排ガス管3の吹出口3aが下方を向いている状態において排ガス管3の外周面の左舷水平位置には、バランスウェイト12が固設され、このバランスウェイト12に、ワイヤ13の一端が連結されている。このワイヤ13は、排ガス管3の下側に沿って回され、その他端が上記揚力板10に連結され、当該ワイヤ13にテンションが作用している状態で、揚力板10が下降ストッパ11bに当接した状態とされている。
【0020】
従って、揚力板10の上昇/下降に従い、揚力板10にワイヤ13を介して連結されている排ガス管3が、固定排ガス管2に対してほぼ1/2回転し、これにより、排ガス管3の吹出口3aが、図1に示すように下方を向くことと、図3に示すように上方を向くことが可能とされている。
【0021】
具体的には、揚力板10が上昇して上昇ストッパ11aに当接すると、排ガス管3の吹出口3aが図3に示すように上方を向き、揚力板10が下降して下降ストッパ11bに当接すると、排ガス管3の吹出口3aが図1に示すように下方を向く構成とされている。
【0022】
そして、本実施形態では、排ガス管3、支柱6、軸受7、揚力板ガイド9、揚力板10、ストッパ11a,11b、バランスウェイト12、ワイヤ13等により、吹出口3aの方向を上下方向に変えるための排ガス吹出方向変更手段が構成されている。なお、揚力板ガイド9の下端部には、ワイヤ13を円滑に案内するための滑車15が設けられている。
【0023】
また、本実施形態にあっては、図1に示すように、排ガス管3の下方を向く吹出口3aに対応する船体位置に、煤回収部5が設置されている。この煤回収部5は、ここでは、煤回収水タンクとされている。この煤回収水タンク5は、海水供給管5aを通して供給される海水を貯水し、これに排ガス管3の吹出口3aから吹き出される煤を受けて回収するものである。なお、煤回収水タンク5に対しては、溢水を排出するための溢水排出管5bが接続されている。
【0024】
ここで、本実施形態にあっては、図5に示すように、船舶100の船首方向進行速度成分をVs、風の船首方向成分をVwとし(但し、Vs、Vwは船首方向を向いている場合に正とし、船首方向と反対方向を向いている場合に負とする)、予め設定した正の所定値をαとすると、
Vs−Vw>αの場合には、吹出口3aが上を向き、
Vs−Vw≦αの場合には、吹出口3aが下を向くように、前述した排ガス吹出方向変更手段が構成されている。なお、ここでいう風の船首方向成分Vwとは、船舶100の進行とは関係ない風(船舶が進行することにより例えば乗員が受ける風とは関係無く吹いている風)のことである。
【0025】
このように構成された船舶用煙突1によれば、VsとVwの関係が相対的な向かい風(0<Vs−Vw)の関係且つ正の所定値αより高い(α<Vs−Vw)関係となる場合には、相対的な向かい風が強いため、図3及び図4に示すように、揚力板10が上昇して上昇ストッパ11aに当接しこれに対応するように排ガス管3が回動して吹出口3aが上を向く。従って、排ガス管3の吹出口3aからの排気の際に相対的な向かい風が利用され煤が船尾より後方に遠くに飛ばされて煤が船体上に飛散することが防止される。
【0026】
一方、VsとVwの関係が相対的な向かい風(0<Vs−Vw)の関係且つ正の所定値α以下(Vs−Vw≦α)の関係となる場合には、相対的な向かい風が弱いため、図1及び図2に示すように、揚力板10が下降して下降ストッパ11bに当接しこれに対応するように排ガス管3が回動して吹出口3aが下を向き、煤回収部5を向く。従って、排ガス管3の吹出口3aからの排気の際に風が殆ど利用できずく煤を遠くに飛ばせない場合には、排ガス管3の吹出口3aからの煤が煤回収部5で回収され船体清掃が大幅に容易とされる。
【0027】
また、VsとVwの関係が相対的な追い風(Vs−Vw<0)の関係となる場合には、排ガス管3の吹出口3aからの排気が居住区Sに向かってしまうため、図1及び図2に示すように、揚力板10が下降して下降ストッパ11bに当接しこれに対応するように排ガス管3が回動して吹出口3aが下を向き、煤回収部5を向く。従って、排ガス管3の吹出口3aからの煤が煤回収部5で回収され船体清掃が大幅に容易とされると共に居住区Sに対する煙害が防止される。
【0028】
また、VsとVwの関係が相対的な無風(Vs−Vw=0)の関係となる場合には、図1及び図2に示すように、揚力板10が下降して下降ストッパ11bに当接した状態で吹出口3aが下を向き、煤回収部5を向く。従って、排ガス管3の吹出口3aからの煤が煤回収部5で回収され船体清掃が大幅に容易とされる。
【0029】
このように、本実施形態においては、排気の際に風を利用して煤を船尾より後方に遠くに飛ばし得る場合には、排ガス管3の吹出口3aの方向が上方向を向き、一方、排気の際に風を殆ど利用できない場合、及び、排気の際に風を利用できるが排気が居住区Sに向かう場合には、排ガス管3の吹出口3aの方向が下方向を向くように変えられるため、船体清掃が容易とされると共に居住区Sに対する煙害が防止される。
【0030】
また、風圧を利用し当該風圧に応じて吹出口3aの方向が変更されるため、吹出口3aの方向を変えるための専用の動力が不要とされ、低コスト化が図られている。
【0031】
図6は、本発明の第二実施形態に係る船舶用煙突を示す側面図であって吹出口が下方を向いた状態図、図7は、図6の断面図、図8は、図6に示す船舶用煙突の吹出口が上方を向いた状態図、図9は、図8の断面図である。
【0032】
この第二実施形態の船舶用煙突101が第一実施形態の船舶用煙突1と違う点は、排ガス管3、支柱6、軸受7、揚力板ガイド9、揚力板10、ストッパ11a,11b、バランスウェイト12、ワイヤ13等より成る排ガス吹出方向変更手段を、以下の構成に変更した点である。
【0033】
すなわち、排ガス吹出方向変更手段は、図6及び図7に示すように、排ガス管3の吹出口3aが下方を向いている状態において排ガス管3の外周面の左右舷水平位置に、平板状に構成された排ガス管回動用翼16a,16bを備えている。図6に隠れ線で示される左舷側の排ガス管回動用翼16aは、船首側(図6の右側)に向かって下方に傾斜するように配設され、図6に実線で示される右舷側の排ガス管回動用翼16bは、船首側に向かって上方に傾斜するように配設されている。
【0034】
このため、排ガス管3は、船首側から所定の風圧を受けると排ガス管回動用翼16a,16bにより船尾側から見て(図7において)反時計方向に回動し、それ以外の場合(船首側から所定の風圧以下の風圧を受けた場合や船尾側から風圧を受ける場合や無風時等の場合)には排ガス管回動用翼16a,16bにより船尾側から見て時計方向に回動するか、若しくは、図6に示す位置にあって動かない。
【0035】
また、図6及び図7に示すように、排ガス管3の吹出口3aが下方を向いている状態において排ガス管3の最下点には、排ガス管側ストッパ17が設けられていると共に、軸受7の下端部には、排ガス管側ストッパ17が当接し排ガス管3のそれ以上の時計方向の回動を阻止するためのストッパ18aが設けられている。さらに、軸受7の上端部には、図8及び図9に示すように、排ガス管3の吹出口3aが固定排ガス管2に対してほぼ1/2回転し上方を向いている状態において排ガス管側ストッパ17が当接し排ガス管3のそれ以上の反時計方向の回動を阻止するためのストッパ18bが設けられている。
【0036】
そして、この第二実施形態にあっても、排ガス吹出方向変更手段が前述した第一実施形態の式を満足する構成とされているため、排気の際に風を利用して煤を船尾より後方に遠くに飛ばし得る場合(Vs−Vw>αの場合)には、排ガス管回動用翼16a,16bを有する排ガス吹出方向変更手段によって、図8及び図9に示すように、排ガス管3が図9の反時計方向に回動して排ガス管3の吹出口3aの方向が上方向を向き、一方、排気の際に風を殆ど利用できない場合、及び、排気の際に風を利用できるが排気が居住区Sに向かう場合(Vs−Vw≦αの場合)には、排ガス管回動用翼16a,16bを有する排ガス吹出方向変更手段によって、図6及び図7に示すように、排ガス管3が図7の時計方向に回動して排ガス管3の吹出口3aの方向が下方向を向くように変えられるため、船体清掃が容易とされると共に居住区Sに対する煙害が防止される。
【0037】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記実施形態においては、船体清掃が大幅に容易になるとして、煤回収部5を設けるようにしているが、煤回収部5を設けずに、排ガス管3の下方を向く吹出口3aに対応する場所を定期的に清掃するようにしても、従来に比して船体清掃は容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第一実施形態に係る船舶用煙突を示す側面図であり、吹出口が下方を向いた状態図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】図1に示す船舶用煙突の吹出口が上方を向いた状態図である。
【図4】図3の断面図である。
【図5】船舶の船首方向進行速度成分及び風の船首方向成分と吹出口の方向との関係を説明するための図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る船舶用煙突を示す側面図であり、吹出口が下方を向いた状態図である。
【図7】図6の断面図である。
【図8】図6に示す船舶用煙突の吹出口が上方を向いた状態図である。
【図9】図8の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1,101…船舶用煙突、3…排ガス管、3a…吹出口、5…煤回収水タンク(煤回収部)、100…船舶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス管の吹出口から排ガスを吹き出す船舶用煙突において、
前記排ガス管の前記吹出口の方向が上下方向に変更可能とされていることを特徴とする船舶用煙突。
【請求項2】
風圧を利用し当該風圧に応じて前記吹出口の方向が変更されることを特徴とする請求項1記載の船舶用煙突。
【請求項3】
船舶の船首方向進行速度成分をVs、
風の船首方向成分をVwとし(但し、Vs、Vwは船首方向を向いている場合に正、船首方向と反対方向を向いている場合に負とし)、
予め設定した正の所定値をαとした場合に、
Vs−Vw>αの場合には、前記吹出口が上を向き、
Vs−Vw≦αの場合には、前記吹出口が下を向くように、構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の船舶用煙突。
【請求項4】
下を向く吹出口に対応する位置に、煤回収部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の船舶用煙突。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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