説明

船舶

【課題】非常用消火ポンプの配置を従来技術の配置から変更することにより、非常用消火ポンプにかかるサクションヘッドを減少又はゼロにして、非常用消火ポンプの性能をより確保し易くすると共に、非常用消火ポンプや消火用の海水の取入口の配置が容易となるような船舶を提供する。
【解決手段】船舶1の機関区域2内に所定の要件を満たす防火構造の区画3を設けて、該区画3内に前記機関区域2を消火するための非常用消火ポンプ4を配置する。更には、前記区画3を、前記機関区域2内に設けられ、船員が前記機関区域2内から前記機関区域2外へ移動するための脱出用トランクと兼用とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の機関区域内の消火を行うための非常用消火ポンプに配置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の船舶においては、機関区域外の船倉などの消火を行うために消火ポンプを用いる場合には、その消火ポンプは機関区域内に配置されている。また、機関区域内の消火を行うために、局所消火システム等が配置されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、機関区域内の火災が燃え広がった時には、機関区域内の消火装置だけでは消火が困難になるので、非常用消火ポンプ(Emergency Fire Pump)が設けられており、この非常用消火ポンプは、機関区域に火災が発生した状況でも稼働できるように、機関区域外に配置されている。
【0004】
これは、船舶の安全性を確保するための「海上人命安全条約(SOLAS)第10条規則、2.2.3.2.1区画の位置」に規定されている「非常用消火ポンプのある区域は、A類機関区又は消火ポンプのある区域の境界に隣接してはならない。これが実行不可能な場合は、前記2つの区域間の共通隔壁は9.2.3.3規則の規定により制御場所に要求されるものと同じ防火基準により防熱する。」に従っているためである。
【0005】
この規定があるために、非常用消火ポンプの配置は,A類機関区域又は消火ポンプのある区域の境界に隣接しない配置となり、船尾に機関区域がある場合には、図3及び図4に示すような機関区域2外の船尾側に非常用消火ポンプ区画3Xを設けて、その区画3X内に非常用消火ポンプ4を配置する構成となる。また、それと共に、消火用の海水の取入口5Xaが設けられるシーチェスト(Sea Chest )5Xは、プロペラ6の前方のプロペラ軸SC上部になる。なお、この非常用消火ポンプ4は、機関区域外に配置された非常用発電機からの給電により稼働する。
【0006】
しかしながら、このような配置であると、この配置位置の船体形状の理由から非常用消火ポンプ4の吸込口4aがバラスト喫水線WLよりも上方に離れた位置に配置されることになり、サクションヘッドhsがかかる。そのため、高いポンプ能力が必要になり、吸い上げ能力が高い真空ポンプ等が必要になるという問題があった。
【特許文献1】特開2002−269651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、非常用消火ポンプの配置を従来技術の配置から変更することにより、非常用消火ポンプにかかるサクションヘッドを減少又はゼロにして、非常用消火ポンプの性能をより確保し易くすると共に、非常用消火ポンプや消火用の海水の取入口の配置が容易となるような船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の船舶は、船舶の機関区域内に所定の要件を満たす防火構造の区画を設けて、該区画内に前記機関区域を消火するための非常用消火ポンプを配置する。更には、上記の船舶において、前記区画を、前記機関区域内に設けられ、船員が前記機関区域内から前記機関区域外へ移動するための脱出用トランクと兼用とする。
【0009】
この所定の要件を満たす防火構造とは、当該船舶が適用を受ける船級を査定する船級協会が認める非常用消火ポンプに配置箇所に対して要求される防火構造や、「海上人命安全条約(SOLAS)」で非常用消火ポンプに配置箇所に対して要求される防火構造のことである。通常、船級協会の要求は「海上人命安全条約(SOLAS)」の要求と同じかそれよりも厳しい。なお、この船級協会は、政府の認定の下に、船級(認定された船の資格)を査定して船級証書を交付し、また、船名録の発行、船舶用材の検定などを行う機関である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の船舶によれば、非常用消火ポンプの配置を、機関区域内に設けた所定の要件を満たす防火構造の区画内に配置することにより、非常用消火ポンプにかかるサクションヘッドを減少又はゼロにして、非常用消火ポンプの性能をより確保し易くすると共に、非常用消火ポンプの配置や消火用の海水の取入口の配置を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下図面を参照して本発明に係る船舶の実施の形態について説明する。この船舶1では、機関区域2内に、所定の要件を満たす防火構造の仕切り3aで仕切られた区画3を設けて、この区画3内に機関区域2を消火するための非常用消火ポンプ4を配置する。また、消火用の海水の取入口5aが設けられるシーチェスト(Sea Chest )5を、プロペラ6前方のプロペラ軸線SC下部に設ける。
【0012】
この所定の要件を満たす防火構造は、当該船舶が適用を受ける船級を査定する船級協会が認める非常用消火ポンプに配置箇所に対して要求される防火構造や、「海上人命安全条約(SOLAS)」で非常用消火ポンプに配置箇所に対して要求される防火構造の仕切りで仕切られた区画であり、例えば、「海上人命安全条約(SOLAS)1974」の各級仕切のA−60仕切りで仕切られた区画等である。なお、この「A級仕切り(隔壁及び甲板)」とは、「標準火災試験」で、「炉内温度927℃」で「時間60分」に対応し、「裏面温度℃」が、「平均≦to+139,最高≦to+180」(toは初期温度を示す。)であり、保全性については「煙及び炎の通過を60分間阻止すること」であり、材料については「鋼又は同等でかつ適当に補強する。防熱値を満足する防熱を施す。」となっている。
【0013】
この機関区域2内の防火構造の区域3の内部に非常用消火ポンプ4を配置することにより、従来技術における配置よりも船体の前方に配置することができるので、従来よりも船体形状が幅広になっている部分に配置できることになる。その結果、非常用消火ポンプ4を配置するためのスペース3の確保が容易となる。
【0014】
そのため、従来よりも下方に非常用消火ポンプ4を配置することができ、バラスト喫水時においても非常用消火ポンプ4の吸込口4aの位置が喫水線WL近く又は下方に配置できるようになり、サクションヘッドhsが少ないかゼロとなる。従って、非常用消火ポンプ4の吸引力に余裕を持たせることができる。また、非常用消火ポンプ4の吸込口4aの位置をバラスト喫水線WLよりも下方に配置できる場合には、ポンプの種類を真空ポンプ以外のものに変更することができる。
【0015】
そして、この非常用消火ポンプ4を配置する区画3として、機関区域2内に設けられ、船員が機関区域2内から機関区域2外へ移動するための脱出用トランクと兼用とする場合には、脱出用トランクの防火構造の仕切りと非常用消火ポンプ4を配置する区画3の防火構造の仕切り3aを兼用することができるので、スペースの節約及び防火構造の節約ができる。その上に、脱出用トランク内に非常用消火ポンプ4があるため、機関室火災の非常時において、船員が脱出の際に非常用消火ポンプ4の場所を通過するため、非常用消火ポンプ4の作動をより確実に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の船舶の非常用消火ポンプの配置構造を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態の船舶の非常用消火ポンプの配置位置の線体形状を示すボディライン図である。
【図3】従来技術の船舶の非常用消火ポンプの配置構造を示す側面図である。
【図4】従来技術の船舶の非常用消火ポンプの配置位置の線体形状を示すボディライン図である。
【符号の説明】
【0017】
1 船舶
2 機関区域
3 防火構造の区画
3a 防火構造の仕切り
4 非常用消火ポンプ
4a 非常用消火ポンプの吸込口
5 シーチェスト
5a 海水の取入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の機関区域内に所定の要件を満たす防火構造の区画を設けて、該区画内に前記機関区域を消火するための非常用消火ポンプを配置することを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記区画を、前記機関区域内に設けられ、船員が前記機関区域内から前記機関区域外へ移動するための脱出用トランクと兼用とすることを特徴とする請求項1記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−149798(P2008−149798A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337826(P2006−337826)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)