説明

船舶

【課題】舵本体とフラップとを連動させる機構を確実に実現可能な船舶を提供する。
【解決手段】船舶10は、船体12と、シューピース14と、舵本体18と、フラップ20とを備える。シューピース14は、船体12の船底12cから後方に向けて突設されており、シューピース14の後端部には、軸部材36を有する軸受け部材22が設けられている。舵本体18は、船体12に対し回動可能となるように、舵軸26を介して船体12に取り付けられている。フラップ20は、舵本体18に対して回動可能となるように、軸部材30を介して舵本体18の後端部18dに取り付けられている。フラップ20と軸部材36とは、軸部材36に枢設された棒状部材38が、フラップ20に棒状部材32を介して設けられた管状部材34に摺動可能に挿通されることで連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舵本体に取り付けられたフラップによって旋回性能を向上させた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、舵軸を介して船体に回動可能に取り付けられた主舵と、主舵の後端部に回動可能に取り付けられたフラップと、船体から下方に向けて突設された縦型ピンと、一端が縦型ピンと回動可能に接続されると共にフラップの上端から上方に突出する受動金具と摺動可能に係合された水平リンクとを備える船舶が知られている。この船舶では、主舵の回動に伴いフラップも連動して回動し、フラップの前後方向と船体の全長方向とがなす角が主舵の舵角よりも大きくなるので、船舶の旋回性能の向上が図られている。
【特許文献1】特開昭60−113799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、肥大船等の大型船を地上にて造船する際、舵軸の船体への取り付け位置は、地上から14m程度の高所となる。そのため、従来の船舶のような主舵とフラップとを連動させる機構(リンク機構)を肥大船等の大型船に対して適用する場合には、縦型ピンを船体に取り付けて舵軸と縦型ピンとを位置合わせする作業を高所にて行う必要があったので、足場等を組む手間を要し、作業員が危険に晒され、作業に時間がかかっていた。従って、舵軸と縦型ピンとの位置合わせが高精度に行われず、リンク機構による舵本体とフラップとの連動が十分に機能しない虞があるという問題があった。
【0004】
本発明は、肥大船等の大型船であっても、舵本体とフラップとを連動させる機構を確実に実現可能な船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る船舶は、船体と、船体に対して回動可能となるように、舵軸を介して船体に取り付けられた舵本体と、舵本体に対して回動可能となるように、第1軸部材を介して舵本体の後端部に取り付けられたフラップと、船体の船底部分から後方に向けて突設されると共に、舵軸とは異なる第2軸部材を有する軸受け部材が後端部に設けられたシューピースと、フラップと第2軸部材とを連結すると共に、フラップの前後方向と船体の全長方向とがなす角が舵本体の舵角よりも大きくなるように制御する連結手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る船舶では、シューピースが、後方に向けて船体の船底部分から突設されている。また、シューピースの後端部に、第2軸部材を有する軸受け部材が設けられており、フラップの前後方向と船体の全長方向とがなす角が舵本体の舵角よりも大きくなるように制御する連結手段によって、フラップと第2軸部材とが連結されている。そのため、高所での作業を要していた従来と比較して、安全な地上付近にて作業を行うことができ、舵軸と第2軸部材との位置合わせを精度よく且つ効率的に行えることとなる。その結果、舵本体とフラップとを連動させる機構を確実に実現することが可能となる。
【0007】
ところで、従来の船舶においては、縦型ピンが船体から下方に向けて突設されており、フラップ上端の受動金具と係合される水平リンクがフラップ及び主舵と船体との間に配置されていたので、フラップ及び主舵と船体との間において十分な空間を確保する必要があった。そのため、船体の形状及び主舵の形状が制限されていた。しかしながら、本発明に係る船舶では、船底側(地上側)におけるシューピース部分で舵本体とフラップとを連動させる構造が構成されているので、従来の船舶のように制限を受けることなく、船体の形状や舵本体の形状についての設計の自由度を高めることが可能となる。
【0008】
また、連結手段は、第2軸部材に枢設された第2軸側部材と、フラップが有するフラップ側部材とが結合されて構成されており、舵本体が舵軸を中心として回動するのに伴い、第2軸部材と、第2軸側部材及びフラップ側部材の結合部分との直線距離が変化するようになっていてもよい。
【0009】
また、第2軸側部材は、第2軸部材に枢設された棒状部材であり、フラップ側部材は、フラップに設けられると共に棒状部材が摺動可能に挿通された管状部材であってもよい。
【0010】
また、舵本体は、その上端部の少なくとも一部が船体のうち舵本体の上方における部分の形状に沿う形状とされていてもよい。このようにすると、舵本体の面積を大きくすることができるので、大きな揚力が得られることとなる。その結果、旋回性能をより向上させることが可能となる。
【0011】
また、船体のうち舵本体及びフラップの上方における部分から下方に向けて突設されたスケグを更に備えることが好ましい。このようにすると、船舶がフラップとスケグとの両方を備えることとなるので、フラップによる旋回性能の向上を図ることができると共に、スケグによる、保針性能向上の機能や、氷海域における後進時の舵本体及びフラップの保護を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、肥大船等の大型船であっても、舵本体とフラップとを連動させる機構を確実に実現可能な船舶を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0014】
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態に係る船舶10の構造について説明する。船舶10は、船体12と、シューピース14と、スクリュー16と、舵本体18と、フラップ20と、軸受け部材22とを備える。
【0015】
船体12は、図1及び図2に示されるように、後方に向いた後向船尾部12aと、下方に向いた下向船尾部12bと、船底部12cとを有している。船底12cには、後方(船体12の船首から船尾に向かう方向)に向けてシューピース14が突設されている。
【0016】
スクリュー16は、後向船尾部12aに設けられた突出部24の先端に設置されている。スクリュー16は、自身が回転することにより、スクリュー16よりも後方に位置する舵18及びフラップ20に向けて回転流を発生させることができるようになっている。船舶10は、この回転流によって推力を得て前進する。
【0017】
舵本体18は、船体12に対し回動可能となるように、その上端部18aから上方に延びる舵軸26を介して下向船尾部12bに取り付けられていると共に、その下端部18bがシューピース14から上方に延びる軸部材28と枢着されている。そのため、スクリュー16を回転させた状態で、図示しない舵取機によって舵軸26を介して舵本体18の角度を変えることで、船舶10の進行方向を変更し、針路に合わせることができる。なお、舵軸26の軸心と軸部材28の軸心とは一致している。
【0018】
舵本体18は、図2に示されるように、船首寄りの先端部18cと、先端部18cに対して船首よりも離れた後端部18dとを有している。舵本体18は、先端部18cから後端部18dに向かうにつれて徐々に厚くなりその後徐々に薄くなる翼形状を呈している。
【0019】
図1に戻って、舵本体18の後端部18dには、後方に向けて突出する一対の凸部18eがその上端及び下端に設けられている。
【0020】
フラップ20には、一対の凸部18eに対応する一対の凹部20aが設けられており、フラップ20の凹部20aは、凸部18eと係合している。フラップ20は、舵本体18に対し回動可能となるように、凹部20a及び凸部18eを縦通する軸部材(第1軸部材)30を介して舵本体18の後端部18dに取り付けられている。
【0021】
フラップ20は、図2に示されるように、船首寄りの先端部20bと、先端部20bに対して船首よりも離れた後端部20cとを有している。フラップ20は、先端部20bから後端部20cに向かうにつれて徐々に厚くなりその後徐々に薄くなる翼形状を呈している。
【0022】
図1に戻って、フラップ20には、その下端部20dから下方に向けて延びる棒状部材(連結手段)32が設けられている。棒状部材32の下端部には、水平方向に貫通された管状部材(連結手段)34が設けられている。
【0023】
軸受け部材22は、シューピース14の後端部に設けられている。軸受け部材22は、シューピース14とは反対側が二股に分岐されており、その二股部分を縦通する軸部材(第2軸部材)36を有している。
【0024】
軸部材36には、棒状部材38が枢設されている。棒状部材38には、管状部材34が挿通されており、管状部材34が棒状部材38に沿って摺動可能とされている。そのため、棒状部材32、管状部材34及び棒状部材38によって、フラップ20と軸部材36とが連結されることとなる。
【0025】
続いて、図2を参照して、舵本体18及びフラップ20の動作について説明する。
【0026】
舵本体18及びフラップ20の前後方向が船体12の全長方向に揃った状態(図2(a)参照)から、舵軸26を介して舵本体18を回動させた場合、フラップ20が舵本体18の後端部18dに回動可能に取り付けられているので、舵本体18の回動に伴いフラップ20も回動する。このとき、舵本体18、フラップ20、棒状部材32及び管状部材34は互いに接続されているので、管状部材34は、舵軸26の軸心(軸部材28の軸心)を中心とし、舵軸26の軸心(軸部材28の軸心)までの直線距離を半径とした円運動を行う。一方、管状部材34には棒状部材38が挿通されているので、フラップ20の先端部20bと後端部20cとを結ぶ直線は、常に、棒状部材38の延在方向に一致する。その結果、舵本体18の回動に伴い、管状部材34が、棒状部材38の後端に向かって棒状部材38に沿って摺動し、フラップ20の前後方向と船体12の全長方向とがなす角θが、舵本体の舵角φよりも大きくなるように制御されることとなる(図2(b)参照)。
【0027】
ところで、従来、船体12の下向船尾部12bから下方に向けて突設された縦型ピン102と、一端が縦型ピン102と回動可能に接続されると共にフラップ20の上端から上方に突出する受動金具104と摺動可能に係合された水平リンク106とを備える船舶100が知られている(図3参照)。このような従来の船舶100においても、舵本体18の回動に伴い、フラップ20が連動して回動し、フラップ20の前後方向と船体12の全長方向とがなす角θが舵本体の舵角φよりも大きくなるので、船舶100の旋回性能の向上が図られる。ところが、船舶100が肥大船等の大型船を地上にて造船する際、舵軸26の船体12への取り付け位置や縦型ピン102の船体への取り付け位置は、地上から14m程度の高所となる。そのため、縦型ピン102を船体12に取り付けて舵軸26と縦型ピン102とを位置合わせする作業を高所にて行う必要があったので、足場等を組む手間を要し、作業員が危険に晒され、作業に時間がかかっていた。従って、舵軸26と縦型ピン102との位置合わせが高精度に行われず、舵本体18とフラップ20との連動機構が十分に機能しない虞があるという問題があった。
【0028】
しかしながら、本実施形態においては、後方に向けて船体12の船底部12cから突設されたシューピース14の後端部に、軸部材36を有する軸受け部材22が設けられている。そのため、高所での作業を要していた従来と比較して、安全な地上付近にて作業を行うことができ、舵軸26と軸部材36との位置合わせを精度よく且つ効率的に行えることとなる。その結果、舵本体18とフラップ20とを連動させる機構を確実に実現することが可能となる。
【0029】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態に係る船舶10では、船体12と舵本体18との間に水平リンク106が配置されていた従来の船舶100のように船体12の形状や舵本体18の形状について制限を受けることがないので、船体12の形状や舵本体18の形状を船舶10の用途に応じて設計するようにしてもよい。
【0030】
具体的には、図4に示されるように、舵本体18の上端部18aの一部が、側方から見て、船体12の下向船尾部12bの形状に沿う形状とされていてもよい。このようにすると、舵本体18の面積を大きくすることができるので、大きな揚力が得られることとなる。その結果、旋回性能をより向上させることが可能となる。なお、図4においては、舵本体18の上端部18aの半分以上が、側方から見て、船体12の下向船尾部12bの形状に対して略平行とされている。
【0031】
また、図5に示されるように、船体12のうち舵本体18及びフラップ20の上方における下向船尾部12bから下方に向けて、スケグ40を設けてもよい。このようにすると、船舶10がフラップ20とスケグ40との両方を備えることとなるので、フラップ20による旋回性能の向上を図ることができると共に、スケグ40による、保針性能向上の機能や、氷海域における後進時の舵本体及びフラップの保護を行うことが可能となる。
【0032】
また、本実施形態では、棒状部材32、管状部材34及び棒状部材38によって、フラップ20と軸部材36とを連結していたが、フラップ20の前後方向と船体12の全長方向とがなす角θを舵本体の舵角φよりも大きくすることができれば、これに限られず、種々の連結手段を採用可能である。例えば、図6及び図7に示されるように、フラップ20の下端からシューピース14に向けて延びる連結部材(連結手段)42を、フラップ20の下端に設けるようにしてもよい。この連結部材42は、薄い板状部材であり、その延在方向に延びる長孔状のスリット42aを有しており、軸部材36がスリット42aと係合している。そのため、図7に示されるように、舵本体18の回動に伴い、軸部材36が連結部材42のスリット42a内を相対的に摺動し、フラップ20の前後方向と船体12の全長方向とがなす角θが、舵本体の舵角φよりも大きくなることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本実施形態に係る船舶の船尾部分を示す側面図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る船舶における舵本体及びフラップの動作を説明するための図である。
【図3】図3は、従来の船舶の船尾部分を示す側面図である。
【図4】図4は、本実施形態の第1変形例に係る船舶の船尾部分を示す側面図である。
【図5】図5は、本実施形態の第2変形例に係る船舶の船尾部分を示す側面図である。
【図6】図6は、本実施形態の第3変形例に係る船舶の船尾部分を示す側面図である。
【図7】図7は、本実施形態の第3変形例に係る船舶における舵本体及びフラップの動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0034】
10…船舶、12…船体、14…シューピース、18…舵本体、20…フラップ、22…軸受け部材、26…舵軸、30…軸部材(第1軸部材)、34…管状部材(連結手段)、36…軸部材(第2軸部材)、38…棒状部材(連結手段)、40…スケグ、42…連結部材(連結手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と、
前記船体に対して回動可能となるように、舵軸を介して前記船体に取り付けられた舵本体と、
前記舵本体に対して回動可能となるように、第1軸部材を介して前記舵本体の後端部に取り付けられたフラップと、
前記船体の船底部分から後方に向けて突設されると共に、前記舵軸とは異なる第2軸部材を有する軸受け部材が後端部に設けられたシューピースと、
前記フラップと前記第2軸部材とを連結すると共に、前記フラップの前後方向と前記船体の全長方向とがなす角が前記舵本体の舵角よりも大きくなるように制御する連結手段とを備えることを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記連結手段は、前記第2軸部材に枢設された第2軸側部材と、前記フラップが有するフラップ側部材とが結合されて構成されており、
前記舵本体が前記舵軸を中心として回動するのに伴い、前記第2軸部材と、前記第2軸側部材及び前記フラップ側部材の結合部分との直線距離が変化するようになっていることを特徴とする船舶。
【請求項3】
前記第2軸側部材は、前記第2軸部材に枢設された棒状部材であり、
前記フラップ側部材は、前記フラップに設けられると共に前記棒状部材が摺動可能に挿通された管状部材であることを特徴とする請求項2に記載された船舶。
【請求項4】
前記舵本体は、側方から見て、その上端部の少なくとも一部が前記船体のうち前記舵本体の上方における部分の形状に沿う形状とされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載された船舶。
【請求項5】
前記船体のうち前記舵本体及び前記フラップの上方における部分から下方に向けて突設されたスケグを更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載された船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−308140(P2008−308140A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160647(P2007−160647)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)