説明

船首

本発明に係る船首は、船底傾斜面(9)と、双胴船状の構造になるようその左右両舷に配されたランナ(6,7)と、を備える。船底傾斜面(9)及びランナ(6,7)は首尾線と平行な仮想竜骨線(4)を介し相互に連なる。本発明の目的は、様々な種類の船舶に装備できまた様々な水域にて使用できる船首、特にそのモジュール化が可能で運航効率改善に資するものを提供することにある。この目的を達成するため、ランナ(6,7)を幅狭搾形状とし、それらの先端部間を通った水流を、所定勾配(α)を有する船底傾斜面(9)で受けるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本願請求項1の前提部分に記載の船首に関する。
【背景技術】
【0002】
本願請求項1の前提部分に記載の船首は、近代造船技術を用い1個のモジュールとして製造することができる。製造された船首モジュールは、コンテナ船、タンカー、汎用船等、様々な船舶に装備することができる。
【0003】
これと類似した外観を有する船首構造としては例えば特許文献1乃至3に記載の記載のものがあるが、それらは次の点で基本的に相違している。
【0004】
まず、特許文献1には三竜骨形状等の輪郭を有する船体が記載されているが、こうした輪郭では貨客積載スペースが狭くなってしまう。また、その船首をモジュール化して各種船舶に装備することや、その船底に気泡案内装置を設けて摩擦を低減することは、ほとんど不可能である。
【0005】
次に、特許文献2にはその外面に2本の竜骨線がある船首が記載されている。また、その船底は、スポーツ用或いはヨット用にひときわ適した面になっている。しかし、貨物船/貨客船でこれを採用するにしても、近代的駆動系の搭載や船体のモジュール化はほとんど可能と認め得ない。
【0006】
そして、特許文献3には、横並べにした2個の浮きの間に船体を配することで双胴船状にした船舶が記載されている。船体の位置は浮きよりもやや高く、従ってその下方は流路になっており、前部から入った水は後部のほぼ中央に位置するプロペラまで流れていく。このように船体の全長に亘り水流が縦貫する構造では、貨客積載スペースが少なくてもそれを甘受せざるを得ない。また、その船首をモジュール化したとしても、それを好適に装備できるのはこの文献に明示されている種類の船舶に限られる。
【0007】
【特許文献1】独国特許第2928634号明細書(B1)
【特許文献2】独国特許出願公開第3838791号明細書(A1)
【特許文献3】独国特許出願公開第3712534号明細書(A1)
【特許文献4】特開昭58−47689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
なお、独国特許出願第10343078.4号に記載の通り推進装置を船体の前部に収め船首の水力学的基本構造を改変することは、有益なことである。
【0009】
このように、上掲の各特許文献に記載の船首には、モジュール化することができない、或いはモジュール化したとしてもそれを装備できる貨物船/貨客船の種類が限られる、といった難点がある。
【0010】
本発明の目的は、船舶運航コストを抑えることができ、モジュール化した場合ひときわ多種類の船舶に装備できる船首モジュールとなり、しかも浅瀬や深海を含め様々な水域にて使用できる船首を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するため、本発明に係る船首は、本願請求項1の特徴部分に記載した構成を有する。
【0012】
本発明の基本的着想は、船首を双胴船状にしその左右両舷間に水上滑走部状の船底傾斜面を設けたことにある。この半双胴船状構造を採るのは船首のみとし、船首より後方の部分例えば船体中央部は半双胴船状構造にしない。これにより、貨客積載スペースを最大限確保することができる。また、船底傾斜面はその下端から上端にかけて無段差的に延びるようにし、またそれより低い位置にある船底平坦面への後部遷移面及び高い位置にある船首先端面への舳先遷移面も無段差的な面にする。こうした構造では、船首近傍に向かってきた水流が船底下方に滑入し引き込まれていくので、より効率的な推進が可能になる。
【0013】
また、好ましくは、仮想竜骨線に対する船底傾斜面主要部の勾配を約10〜25°とし、後部遷移面及び舳先遷移面を例えば約10〜40mという大きな曲率半径の弧状面とする。こうすると、船底傾斜面下に先窄まりの後向き高さ狭搾空間が形成されるので、船底傾斜面に打ち寄せた波がほとんどせき止められずに後方に流れていくことになる。この空間があれば氷水域も好適に運航できよう。
【0014】
更に、双胴船状の構造を形成すべく船首の左右両舷に配置するランナ乃至ロッカは幅狭搾形状の柱状部分である。その間にあり水流が入ってくる部分の間隔は、例えば船首先端部で最大値Aになるようにする。
【0015】
ランナは、その内輪郭線が首尾線に対しほぼ平行、好ましくは厳密に平行な直線となり、且つその外輪郭線がランナ先端部からランナ最大幅部に亘る弧となるような形状にする。好ましくは、外輪郭線線に対する外接角λが中点では約6〜20°になり、先端部近傍では約30°になるようにする。また、ランナ先端部間隔Aに対する船首最大幅B(ランナまで含めた船首乃至船体全幅の最大幅)の比率は、その船舶の用途及び設計に応じて決めればよいが、例えば1.5〜3.5の範囲内にするのが望ましい。
【0016】
とりわけ、推進装置が船体前部に搭載されており且つ水力学的考察下に船底に摩擦低減装置が設けられている場合、ランナの内輪郭線は、船体長手方向軸即ち首尾線に対して±約5°の角度βで交差する(±約5°の精度で平行になる)ようにするとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る船首はモジュール化することができる。それによって得られる船首モジュールは用途が広く、例えばコンテナ船、タンカー、バラ積み船等、かなり多種類の船舶に装備することができる。また、本発明に係る船首構造は、様々なサイズの船舶で好適に使用できる。更に、模型実験で確認したところによれば、内水路用、沿岸用、深海用等にひときわ適している。
【0018】
また、本発明に係る船首では、ランナをほぼ直立体勢で首尾線と平行に延設し、左舷ランナと右舷ランナの先端部間に水流進入用開口Aを設け、そして左右両舷のランナ間に船底傾斜面を設けてあるため、打ち寄せてきた波をその開口Aを介し船底平坦面側に引き込むことができる。また、この構造は、船底傾斜面から船底平坦面にかけて気泡摩擦装置を設けるのに好都合である。
【0019】
本発明に係る船首は、浅瀬とりわけ内水路での高速運航に特に適している。水力学的に見てかなり高速で運航してもほとんど高い波が立たない構造であるため、経済的且つ効率的に運航することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について図示実施形態を参照しつつより詳細に説明する。
【0021】
図1に、モジュール化された船首1の断面をその首尾線30と共に示す。図中の左舷ランナ6は直立した柱状の部材であり、その先端部3はほぼ垂直に切り立っている。また、船首1の下端には首尾線30と平行に延びた仮想竜骨線4がある。この仮想竜骨線4は船体中央にある船底平坦面5の延長上にある。
【0022】
船首1は首尾線30を挟み左右対称な形状であり、その左舷ランナ6と右舷ランナ7の間には水上滑走部状の船底傾斜面9がある。船底傾斜面9は仮想竜骨線4に対し約10〜25°の勾配αで傾斜している。図1に示されているように、船底傾斜面9の主要部と船底平坦面5の間には後部遷移面14がある。後部遷移面14は曲率半径Cの弧を描き、船底傾斜面9の主要部と船底平坦面5を無段差的に連ねている。曲率半径Cの値は約10〜45mであり、40m以下にするのが望ましい。
【0023】
同様に、船底傾斜面9の前部には舳先遷移面15がある。舳先遷移面15は曲率半径Dの弧を描き、船底傾斜面9の主要部をその上方にある船首先端部に無段差的に連ねている。曲率半径Dの値は約10〜30mである。また、主要部と舳先遷移面15との境目における船底傾斜面9の反り角ψは、ランナ先端部3方向に対し1〜20°である。
【0024】
図2に示す底面から看取できるように、ランナ6,7の内面を表す線即ち内輪郭線18は直線状であり、外面を表す線即ち外輪郭線19は最大幅25の部分に至る弧を描いている。左舷ランナ6の先端部3と右舷ランナ7の先端部3の間には間隔Aがあり、船首1に向かってくる水はこの開口を介し左右両舷間に流れ込んでいく。この間隔Aは船首1のほぼ全長に亘り一定で、左舷ランナ6と右舷ランナ7の内法はこの間隔Aを保っている。
【0025】
この水流の挙動を改善するには、例えば船首1又はその近傍に駆動装置を配する等、状況に見合った改変を施すことや、首尾線30に対し内輪郭線18をほぼ平行即ち±5°の角度βにすることが、有益である。
【0026】
また、船底傾斜面9及び船底平坦面5に跨り縦長なウェブ23を設け、それを気泡導入装置として使用して船底の摩擦を抑えることができる。細かな気泡の集まりを好適に案内するには、このウェブ23の高さを約2〜3cmに抑えた方がよい。
【0027】
更に、ランナ6,7の外輪郭線19たる弧に対する外接線の傾斜角λは、平均して約6〜20°である。この外接角はランナ先端部3ではより大きく例えば約30°になる。
【0028】
また、模型実験の結果から判明したところによれば、最も効率がよくなるのは間隔Aに対する船首1全体の最大幅Bの比率が1.5〜3.5のときである。但し、船体の総合設計、駆動力及び船体自重によっては、この範囲外にすることも十分に考えられる。
【0029】
そして、図1及び図2には本発明に係る船首の概略寸法がおおよそ正確な比率で示されているので、それらの図から本発明に係る船首のおおよその寸法比をデータとして知ることができる。基本的には、本発明に係る船首は多種類の船舶に装備でき、また氷水を含め様々な水域にて使用でき、更にかなり多種類の駆動装置と共に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】首尾線を中心に船首縦断面を描いた図である。
【図2】図1に示した船首モジュールの底面基本形状を仔細に描いた図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船首(1)の左右両舷に位置し双胴船状の構造を呈するランナ(6,7)と、ランナ(6,7)間に位置する船底傾斜面(9)と、を備え、船底傾斜面(9)及びランナ(6,7)が仮想竜骨線(4)を介し相互に無段差的に連なる船首であって、
各ランナ(6,7)がその最大幅(25)部分から幅が狭まっていく形状であり、
ランナ先端部(3)間に船底傾斜面(9)方向水流流入口たる間隔(A)があり、
船底傾斜面(9)が水上滑走部状でその勾配(α)が約10〜25°であることを特徴とする船首。
【請求項2】
請求項1記載の船首であって、その水平断面にて見たとき、ランナ(6,7)の内面を表す内輪郭線(18)が首尾線(30)とほぼ平行な直線で、首尾線(30)に対するその角度(β)が±約5°の範囲内であり、ランナ(6,7)の外面を表す外輪郭線(19)が弧状で、その外接線が首尾線(30)に対して約6〜20°の角度(λ)をなすことを特徴とする船首。
【請求項3】
請求項1又は2記載の船首であって、ランナ先端部間隔(A)に対する船首最大全幅(B)の比率Vが約1.5〜3.5の範囲内であることを特徴とする船首。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項記載の船首であって、首尾線方向に沿って見たとき、船底傾斜面(9)は弧状の後部遷移面(14)を介し仮想竜骨線(4)又は船底平坦面(5)に、また弧状の舳先遷移面(15)を介し船首先端部に、それぞれ大曲率半径で無段差的に連なっており、後部遷移面(14)の曲率半径(C)が約10〜45m、また舳先遷移面(15)の曲率半径(D)が約10〜30mであることを特徴とする船首。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項記載の船首であって、首尾線方向に沿って見たとき、船底傾斜面(9)の前寄りの一端に船首先端部に連なる舳先遷移面(15)があり、その舳先遷移面(15)が約1〜20°の反り角(ψ)で上向きに反り返っていることを特徴とする船首。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項記載の船首であって、ランナ内輪郭線(18)間隔がランナ先端部間隔(A)で一定であり、且つランナ外輪郭線(19)が先端部(3)から最大幅(25)部分へと無段差的に弧状に連なることを特徴とする船首。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項記載の船首であって、その各部寸法比が図1又は図2に示した寸法比とほぼ一致することを特徴とする船首。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項記載の船首であって、気泡を案内するウェブ(23)を船底傾斜面(9)及び船底平坦面(5)に跨り首尾線方向に沿って設け、且つその高さを2〜3cm以下に抑えたことを特徴とする船首。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−528375(P2008−528375A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553468(P2007−553468)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010496
【国際公開番号】WO2006/081846
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(506386387)ニュー ロジスティクス ゲーエムベーハー (2)