説明

色度および風味に優れた発酵アルコール飲料およびその製造方法

【課題】色度および風味に優れた発酵アルコール飲料およびその製造方法の提供。
【解決手段】ビール酵母を用いた発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵飲料中の3−デオキシグルコソンの量を指標にして発酵アルコール飲料の液色および風味を調整することを特徴とする、発酵アルコール飲料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール酵母を用いた発酵アルコール飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖質ゼロ(発酵後に残存する糖質が栄表表示基準上約0.5g/100ml以下)のアルコール飲料は、近年の健康志向を反映して国内消費が増大する方向にある。一般的にこれらの飲料はビールに比べると原料に麦や麦芽を使用する量が少なかったり、アルコール度数が低かったりするため、所謂コクを感じ難い仕上がりになっている。
【0003】
これまでビール酵母を用いた発酵アルコール飲料の風味や液色の調整は製造現場での経験や勘によるところが大きかった。
【0004】
ところで、飲食品の褐変反応や生体内での糖化反応は、タンパク質のアミノ酸と糖のカルボニル基の間で起きる脱水縮合であり、メイラード反応やアミノカルボニル反応とも言われている。当該反応の中間体の一種として生成される3−デオキシグルコソンは、清酒に45〜73ppm含まれていることが知られている(非特許文献1)。しかし、3−デオキシグルコソンがビール酵母を用いた発酵アルコール飲料の風味や液色の指標となりうることはこれまで報告がなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】吉澤淑編集、「酒の科学」、p67、朝倉書店(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ビール様の自然な風味や液色が付与された、色度および風味に優れた発酵アルコール飲料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、今般、発酵アルコール飲料中のメイラード反応に関わる物質のうちその中間体の一種である3−デオキシグルコソンの含有量がビール酵母を用いた発酵アルコール飲料の液色や風味の指標となることを見出した。本発明者らは、また、麦芽の色度調整と原材料の加工条件を制御することでカラメル色素のような色素原料を用いることなくコクのあるビールらしいアルコール飲料を製造できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
【0009】
(1)ビール酵母を用いた発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵飲料中の3−デオキシグルコソンの量を指標にして発酵アルコール飲料の液色および風味を調整することを特徴とする、発酵アルコール飲料の製造方法。
【0010】
(2)発酵飲料中の3−デオキシグルコソンの含有量が25ppm〜50ppmの範囲内である、上記(1)に記載の製造方法。
【0011】
(3)上記(1)または(2)に記載の製造方法により製造された発酵アルコール飲料。
【0012】
本発明の製造方法によれば、発酵アルコール飲料中の3−デオキシグルコソンの含有量を指標にすることで所望の液色や風味が付与された発酵飲料を製造することができる。また、本発明の製造方法によれば、麦芽の色度を調整し、原材料の加工条件を制御することでカラメル色素等の色素原料を用いることなくコクのあるビールらしいアルコール飲料を製造することができる。一般的に、糖質ゼロの発酵アルコール飲料は液色が淡白でコクを感じ難い飲料となりがちで、液色はカラメル色素等で付与することが多いが、本発明の製造方法によれば、糖質ゼロでありながらコクのあるビールらしいアルコール飲料を製造することができる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた発酵液(No.1からNo.12)の色彩aとbをプロットした図である。
【図2】実施例1で得られた発酵液(No.1からNo.12)の3DG含有量を示した図である。
【発明の具体的な説明】
【0014】
本発明の製造方法では、発酵飲料中の3−デオキシグルコソンの量を指標にして発酵アルコール飲料の液色および風味が調整される。発酵飲料中の3−デオキシグルコソンの含有量は25ppm以上、好ましくは、25ppm〜50ppmの範囲内、より好ましくは、35〜50ppmの範囲内に調整することができる。発酵飲料中の3−デオキシグルコソンの含有量はLC/MS法で測定することができる。
【0015】
3−デオキシグルコソンの含有量は後記実施例で示される通りメイラード反応や着色麦芽の使用比率と相関している。従って、メイラード反応の反応温度や反応時間を制御することで、また、着色麦芽の使用比率を制御することで、発酵飲料中の3−デオキシグルコソンの量を調整することができ、結果として発酵アルコール飲料の液色および風味を調整することができる。
【0016】
ここで、「液色」は色度と色彩によって評価することができる。
【0017】
本発明において「色度」とは欧州醸造協会(European Brewery Convention)により定められた色度の単位(EBC単位)により特定される。数値が小さいほど色が薄く明るく、数値が大きいほど色が濃く暗い。
【0018】
本発明において「色彩」とはL表色系による色差式(JIS Z 8729)により特定される。色彩の測定は当業者に周知であり、市販されている色彩色差計(例えば、CR-5、コニカミノルタ社)を用いて色彩を測定することができる。
【0019】
ラガータイプのビールの液色を目指す場合には、発酵アルコール飲料の色度(EBC)が8〜12の範囲であり、色彩がa:−1.5〜−0.1およびb:20〜25の範囲が望ましい。
【0020】
また、「風味」は香味評価によって特定され、通常にビール等の発酵アルコール飲料を製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビール等の発酵アルコール飲料を製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを意味する。本発明では、ビールらしい「麦芽感」や味のボリュームや後味に感じる飲み応えなどを総合的に示す「ボディ感」を風味として評価することができる。「麦芽感」と「ボディ感」の強弱はビール系飲料の香味を判断する際によく用いられているが、「麦芽感」とは麦芽がもたらすいい意味でのビールらしい麦感を示し、「ボディ感」とは味のボリュームや後味に感じる飲み応えなどを総合的に示す言葉として使用した。なお、本発明では、前記「麦芽感」と「ボディ感」とを併せて「コク」と呼ぶものとする。
【0021】
本発明の製造方法ではビール酵母を用いた発酵アルコール飲料が製造される。このような発酵アルコール飲料としては、原料に麦芽を使用した発酵麦芽飲料が挙げられる。すなわち、本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料としてビール酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。このような発酵麦芽飲料としては、ビール、発泡酒、リキュール類(例えば、酒税法上、リキュール(発泡性)(1)などに分類される飲料)などが挙げられる。
【0022】
本発明の製造方法で製造される発酵アルコール飲料としては、また、原料に麦や麦芽を使用しない所謂ビールテイストの発酵アルコール飲料が挙げられる。本発明において「ビールテイストの発酵アルコール飲料」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを有する発酵アルコール飲料を意味し、酒税法上その他の醸造酒(発泡性)(1)に分類される飲料が挙げられる。
【0023】
本発明の製造方法で製造される発酵アルコール飲料は糖質ゼロの発酵アルコール飲料として提供できる。ここで、「糖質ゼロ」の発酵アルコール飲料とは発酵後に残存する糖質が栄表表示基準上約0.5g/100ml以下のアルコール飲料を意味する。
【0024】
本発明の製造方法では、3−デオキシグルコソンの量を指標にして発酵アルコール飲料の液色および風味が調整される以外は、ビール酵母を用いた発酵麦芽飲料の製造手順に従って実施することができる。すなわち、麦芽、ホップ、水等の醸造原料から調製された麦汁(発酵前液)に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、発酵アルコール飲料を醸成させることができる。発酵液は場合によって炭酸水などで適宜希釈してもよい。得られた発酵麦芽飲料は、低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することができる。
【0025】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。
【0026】
本発明では、発酵前液に添加される糖源のすべて(100重量%)を液糖とすることができる。また、糖源として、液糖以外の成分(例えば、麦芽あるいは麦芽以外の麦、米、トウモロコシ、サトウキビ、テンサイなどの穀物や穀物由来の加工澱粉等の原料、食物繊維)を発酵前液に添加してもよい。液糖以外の糖源を添加する場合には、発酵前液中の糖源の少なくとも約75重量%、好ましくは、少なくとも約85重量%を液糖とし、残りを液糖以外の糖源とすることができる。
【0027】
本発明の製造方法が麦や麦芽を使用しない所謂ビールテイストの発酵アルコール飲料の製造方法である場合には、発酵麦芽飲料の製造手順に準じて、少なくとも水およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。すなわち、発酵前液を煮沸した後、発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、ビールテイストの発酵アルコール飲料を醸成させることができる。発酵液は場合によって炭酸水などで適宜希釈してもよい。得られたビールテイストの発酵アルコール飲料はろ過工程により酵母を除去した後、低温にて貯蔵することができる。発酵前液には、水、ホップの他に炭素源(例えば、液糖などの糖類)、窒素源(例えば、タンパク質分解物や酵母エキスなどのアミノ酸供給源)を添加することができ、必要に応じて、香料、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物等を添加することができる。
【0028】
本発明において糖源として液糖以外の成分を使用した場合には、発酵前液調製過程において、必要に応じてβ−グルカナーゼ、アミラーゼ、プルラナーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ等の分解酵素を添加して糖化を行ってもよい。この場合には、まず液糖以外の糖源(例えば、麦芽やコーンスターチのような穀物や穀物由来の加工澱粉等の原料)を発酵前液に添加し、糖分解酵素を作用させて穀物等の糖質を酵母資化性糖類に転換することができる。液糖の添加のタイミングは、糖化スタート時、糖化終了時、煮沸スタート時、仕込み工程中のいずれであってもよい。
【0029】
本発明の製造方法では、麦芽原料として、大麦や小麦等の麦類の着色麦芽を当該麦類の淡色麦芽と組み合わせて使用するか、あるいは着色麦芽を単独で使用することができる。着色麦芽としては、種々の色度を有するカラメル麦芽、アンバー麦芽、黒麦芽などが挙げられる。適度なコクや香味を付与する観点から着色麦芽を淡色麦芽と組み合わせて使用することが好ましい。着色麦芽のうち本発明の実施例で使用したカラメル麦芽EBC220を用いる場合、淡色麦芽と着色麦芽(カラメル麦芽EBC220)の加重平均色度は5〜150、好ましくは、15〜150とすることができる。また、着色麦芽としてカラメル麦芽EBC220を用いる場合には、麦芽中の着色麦芽の使用比率(重量比)は、1〜60%が好ましく、より好ましくは5〜60%、最も好ましくは40〜60%である。
【0030】
また本発明の製造方法では、麦芽原料以外に、或いは麦芽原料に一部または全部を代替して、上述したコーンスターチのような穀物や穀物由来の加工澱粉等の原料を高温で焙煎することで得られるカラメル化物を使用することもできる。
【0031】
本発明の製造方法では、メイラード反応物を発酵前液に添加することができる。メイラード反応物はアミノ酸等のタンパク分解物と糖とを混合して加熱することによって得ることができる褐色の液体であり、アミノ酸等のタンパク分解物と糖との加熱反応によって付与される芳香を有する。
【0032】
メイラード反応物に用いる原料のうち、糖は、結晶グルコースや水飴等の液糖、あるいは麦芽や麦、米等植物澱粉の液糖等、糖が含有されているものであれば限定はされないが、取り扱いや反応の効率化の観点からは、液糖が好ましい。また、メイラード反応に寄与するのは、還元糖であることから、より好ましくは、単糖主体の液糖が用いられる。
【0033】
また、メイラード反応させる原料のうち、タンパク分解物は、麦類、豆類、トウモロコシ、馬鈴薯、米等のタンパクをプロテアーゼやペプチダーゼで分解したものを用いてもよく、また、工業的に精製されたアミノ酸またはその混合物を用いることもできるが、費用や風味の観点からは、ビール酵母を用いた発酵アルコール飲料の製造原料として用いられている前者が好ましい。更に、前者の中で、大豆タンパク分解物は、より好ましいタンパク分解物として挙げることができる。また、本発明においては、メイラード反応物の添加によって付与される風味と原料として用いられるタンパクによって付与される発酵アルコール飲料の風味との調和を図る目的で、メイラード反応物調製に用いられるタンパク分解物として、その発酵アルコール飲料の製造において窒素源として用いられているタンパク質原料の分解物を用いることができる。本発明において、タンパク分解物の調製に用いるタンパク分解酵素としては、市販の酵素を用いることができる。例えば、プロテアーゼAアマノG、プロテアーゼPアマノG、ペプチダーゼR(天野エンザイム社製)などいずれの酵素を用いても良く、またこれらの酵素を組み合わせることもできる。
【0034】
本発明において、メイラード反応物の調製に用いられる反応温度は、反応時間短縮の観点からは、高い温度が好ましいが、過度に高くすると糖そのものがカラメル化反応を起こし、目的の色調や風味は得られなくなる。従って、好ましくは、105〜121℃の温度が採用される。本発明の発酵アルコール飲料の製造方法において、メイラード反応物の添加時期は、特に制限されないが、メイラード反応物中に残存している糖およびアミノ酸を酵母に消費させるためには、発酵前の段階での添加が好ましい。すなわち、本発明においては、メイラード反応物を予め調製し、発酵アルコール飲料の製造工程の発酵工程前に添加する。また、該反応物を添加する代わりに、発酵アルコール飲料の製造工程の発酵工程前に、反応温度105℃以上、121℃以下を用いた原料中の糖とタンパク分解物とのメイラード反応物生成工程を挿入することによって行なうこともできる。
【0035】
本発明において、メイラード反応物の調製のための装置としては、加圧式の加熱装置を用いることができる。
【0036】
本発明の製造方法においてラガータイプのビールの液色と風味を目指す場合には、発酵アルコール飲料の色度(EBC)は8〜12の範囲であり、色彩がa:−1.5〜−0.1およびb:20〜25の範囲が望ましい。この場合、原料麦芽として着色麦芽に淡色麦芽を組み合わせて使用するとともに、メイラード反応物およびその調製物を発酵前液に添加することが好ましい。また、発酵飲料中の3−デオキシグルコソンの量は25ppm〜50ppmの範囲内であることが望ましく、35〜50ppmの範囲内であることがさらに望ましい。また、着色麦芽としてカラメル麦芽EBC220を用いることができ、淡色麦芽とカラメル麦芽EBC220の加重平均色度は5〜150、好ましくは、15〜150とすることができる。
【実施例】
【0037】
本発明を下記実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0038】
実施例1:ビール風味アルコール飲料(発酵液)の製造
特許3836117号の実施例1に記載された手順に従って、大豆タンパク5gを湯200mlに溶解し、ペプチダーゼ0.1gで分解し、得られた液に市販の還元糖含有液糖を加えて120℃で加熱した。得られたメイラード液にショ糖57gと食物繊維51gとホップ2.4gを加えて100℃にて60分煮沸を行い、仕込液Aを得た。また、大麦麦芽(淡色麦芽EBC4.3、カラメル麦芽EBC220を混合):水=1:7で糖化させた麦芽汁にショ糖19gとホップ0.8gを加えて煮沸したものを仕込液Bとした。仕込液A調製時の120℃工程の時間、仕込液B調製時に使用した麦芽中のカラメル麦芽比率は表1に記載された通りの組み合わせとした。
【表1】

【0039】
仕込液AおよびBを3:1で混合し、12°Pに希釈調整したものを発酵前液とした。この発酵前液を用いて実験室スケールの500ml発酵管で下面発酵酵母による発酵を15℃にて7日間行った。次いで、発酵管の底に沈降した酵母を除去し、発酵液(いわゆる若ビール)を得た。
【0040】
実施例2:各種分析
(1)予備分析
淡色麦芽(EBC4.3)とカラメル麦芽(EBC220)中の3−デオキシグルコソン(3DG)の量を把握するために、3DG含有量の分析を行った。具体的には、1)淡色麦芽(EBC4.3)とカラメル麦芽(EBC220)それぞれをロールミル(間隙1mm)で粉砕して得られた粉砕麦芽を、2)70%(W/W)エタノール5mlの入った15ml容量のコーニングチューブに0.5gずつ入れて、3)ボーテックス(vortex)をかけ、4)ローテーターで5分振とうした後、5)遠心分離し(3200rpm、4℃、3分)、6)上清を得た。更に残りの沈殿物に対して上記3)〜5)を3回繰り返し、全ての上清を合わせて抽出液とした。この抽出液をYamada H. et al.(JBC 269: 20275-20280, 1994)に従って、LC/MSにて分析した。
【0041】
淡色麦芽とカラメル麦芽中の3DGは下表のとおりであった。小数点以下第1位まで表示した。
【表2】

【0042】
淡色麦芽(EBC4.3)およびカラメル麦芽(EBC220)ともに3DGを含むことが確認された。また、淡色麦芽(EBC4.3)はカラメル麦芽(EBC220)に比べて3DG含量が少なく、カラメル麦芽(EBC220)には元々比較的多くの3DGが含まれていること確認された。
【0043】
(2)発酵液の分析
実施例1で得られた発酵液について色彩色差計により色度と色彩を分析した。また、実施例1で得られた発酵液について3−デオキシグルコソン(3DG)の濃度を上記(1)の手順に従って分析した。
【0044】
実施例1で得られた発酵液の色度および色彩を分析した結果は表3に示される通りであった。また、図2に実施例1で得られた発酵液の3DG含有量の測定結果を示した。
【表3】

【0045】
カラメル麦芽比率の増加、120℃メイラード反応時間の増長に従い、色度が高くなっているが、明るさを表す色彩Lの値は下がっており、濃色かつ色調が暗くなる傾向が示された。また、カラメル麦芽比率の増加、120℃メイラード反応時間の増長に従い、3DGの含有量が増加することも確認された。
【0046】
また、表1に示された各発酵液の色彩a(緑⇔赤)とb(青⇔黄)のプロット図(図1)から、カラメル麦芽比率の増大がオレンジ方向の色味を強くさせ、120℃メイラード反応時間の増長によって、黄色〜オレンジ色方向の色味を強くさせる傾向が読み取れた。すなわち、カラメル麦芽の使用比率やメイラード反応時間を上記のように調整することにより、ラガータイプのビールの色である「黄金色」を達成可能であることが判明した。
【0047】
更に、実施例1で得られた発酵液の3DG量を図2に示した。図2から、カラメル麦芽比率によらず、120℃メイラード反応の時間が3DG増加に大きく寄与しており、3DGをコントロールして発酵前液を調製しようとするときに、メイラード反応の強度をコントロールすれば良いことが確認できた。以上より、適切な色度範囲でメイラード反応とカラメル麦芽をうまく組み合わせて、自然でビールらしい色味を調製することが必要であり、それには3DGの生成度合いをコントロールすることで実現可能だと判断した。
【0048】
実施例3:香味評価
実施例1と同様にして、仕込液Aと仕込液Bの条件を組み合わせて、12°Pの発酵前液を調製し、下面発酵酵母による発酵を行い、発酵液を得た。得られた発酵液を官能評価に供した。官能評価には主に舌や鼻で感じる味質の他に、視覚的な色の濃淡が先入観となり、大きな影響を及ぼす。当該飲料は色度に大きな差を有することから、視覚印象をゼロにして純粋に香味の判断をするため赤色のコップを用いることとした。評価項目としては、「麦芽感」と「ボディ感」の2つに絞り、パネル5名にフリーコメントと共に5段階評価してもらった。さらに、外観品質として色が濃すぎず薄すぎず、少し濃い目の淡色ビールとして適切な範囲として色度8〜12EBCを設定し、試飲時のフリーコメントと共に評価項目に加えた。試飲評価は、麦芽感、ボディ感共に3点以上を○、2点以上3点未満を△、2点未満を×とし、片方でもその得点を満たしていない場合は得点を下げることとした。コメント評価では、マイナス表現がなければ○、2人以上が同一マイナス表現の指摘をした場合に×、それ以外を△とした。色度については、8〜12EBC範囲内なら○、それ以外を×とした。以上3項目を○=2点、△=1点、×=0点として再計算し、総合評価を○=5〜6点、△=3〜4点、×=2点以下で示した。総合評価○は、糖質ゼロのアルコール飲料として適度のコクを感じる飲料として最も望ましい香味を有するものである。
【0049】
官能評価の結果は表4に示される通りであった。
【表4】

【0050】
表4から明らかなように、○、すなわち、最適の香味となったのは、120℃・25分でカラメル麦芽比率25%の場合と、120℃・5分でカラメル麦芽比率50%の場合の2条件であった。逆に120℃・0分条件では、△のカラメル麦芽50%の場合を除いて×の評価となっており、メイラード反応が香味形成に重要であることが明らかとなった。
【0051】
また、試飲時のパネラーのコメントは表5に示される通りであった。
【表5】

【0052】
表5においてNo.2は特に指摘がなかったため空欄とした。また、「(2)」は指摘したパネラーが2名いたことを指し、数字がないものは指摘したパネラーが1名であることを指す。
【0053】
同量の麦芽使用量であっても、カラメル麦芽比率が高まれば「麦芽感」が増すことが確認されたが、同時に焦げなどの指摘が増加する傾向も見られた。
【0054】
表6に、実施例1で得られた発酵液の3DGの分析値を示した。
【表6】

【0055】
表6に示した3DGの数値、図2、および実施例3の香味評価の結果から、発酵液中の3−デオキシグルコソンの量は25ppm〜50ppmの範囲内であることが望ましく、35〜50ppmの範囲内であることがさらに望ましいと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビール酵母を用いた発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵飲料中の3−デオキシグルコソンの量を指標にして発酵アルコール飲料の液色および風味を調整することを特徴とする、発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
発酵飲料中の3−デオキシグルコソンの含有量が25ppm〜50ppmの範囲内である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造された発酵アルコール飲料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−139162(P2012−139162A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293973(P2010−293973)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)