説明

色素化合物

【課題】高いマゼンタ色の発色性を有し、かつ高い耐光性、耐オゾン性を有する色素化合物を提供する。
【解決手段】例えば、式(2)で示されるアセチルアミノ基等のアシルアミノ基、及び、スルホ基を有する、C.I.Acid Red 289類似のキサンテン系色素化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
高いマゼンタ色の発色を有する色素化合物として、キサンテン系色素化合物が知られている。キサンテン系色素化合物の発色性が高い理由は、可視部に2つの高い吸収帯(x−bandとy−band)を有し、これら2つの吸収帯の補色が観測される色調となるためである。このようなキサンテン系色素化合物の中でも、C.I.Acid Red 289は、非常に良好なマゼンタ色としての発色性、透明性を有する色素化合物として、当業者に広く知られている。
【0003】
しかしながらC.I.Acid Red 289を含めキサンテン系色素化合物は、特に耐光性の点で課題がある。このようなキサンテン系色素化合物の耐光性を向上する方法として、特許文献1及び2に記載の色素化合物を用いる方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−241553号公報
【特許文献2】特開2008−094897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の色素化合物は、C.I.Acid Red 289と色相が異なり青味となってしまうため、良好なマゼンタ色を得ることが困難である。また、耐光性、耐オゾン性の点でも十分ではない。特許文献2に記載の色素化合物は、C.I.Acid Red 289より大きく青味となってしまうことから、青色の補色として使用することは好ましいが、マゼンタ色の色相を有する色素として使用することは困難である。
【0006】
従って、本発明は、C.I.Acid Red 289と同様に、高いマゼンタ色の発色性を有し、かつ高い耐光性、耐オゾン性を有する色素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は以下の本発明によって解決される。即ち、本発明は、下記一般式(1)で表される色素化合物である。
【0008】
【化1】

【0009】
[一般式(1)中、R、R、R及びR10は、それぞれ独立にアルキル基を表す。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を表す。R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は下記一般式(2)で表されるアシルアミノ基を表し、R、R、R及びRの少なくとも1つは下記一般式(2)で表されるアシルアミノ基である。Zは、SOH基、SOM基又はスルファモイル基を表し、Mはアンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンを表す。Zは芳香環の少なくとも1つの水素原子の位置に置換している。R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つがイオン性基で置換されている場合には、nは0乃至3の整数を表し、イオン性基で置換されていない場合には、nは1乃至3の整数を表す。]
【0010】
【化2】

【0011】
[一般式(2)中、R11は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環基の何れかを表す。*は一般式(1)の芳香環との結合部位を表す。]
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、C.I.Acid Red 289と同様に、高いマゼンタ色の発色性を有し、かつ高い耐光性、耐オゾン性を有する色素化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる色素化合物(8)のH NMRスペクトル図。
【図2】本発明にかかる色素化合物(11)のH NMRスペクトル図。
【図3】本発明にかかる色素化合物(14)のH NMRスペクトル図。
【図4】本発明にかかる色素化合物(15)のH NMRスペクトル図。
【図5】本発明にかかる色素化合物(8)、(11)、(14)、(15)と、C.I.Acid Red 289、52の、水中、25℃における紫外可視吸収スペクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。本発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した。この結果、C.I.Acid Red 289と同様に、高いマゼンタ色の発色性を有し、かつ高い耐光性、耐オゾン性を有する色素化合物として、下記一般式(1)で表される色素化合物を見出した。
【0015】
【化3】

【0016】
[一般式(1)中、R、R、R及びR10は、それぞれ独立にアルキル基を表す。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を表す。R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は下記一般式(2)で表されるアシルアミノ基を表し、R、R、R及びRの少なくとも1つは下記一般式(2)で表されるアシルアミノ基である。Zは、SOH基、SOM基又はスルファモイル基を表し、Mはアンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンを表す。Zは芳香環の少なくとも1つの水素原子の位置に置換している。R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つがイオン性基で置換されている場合には、nは0乃至3の整数を表し、イオン性基で置換されていない場合には、nは1乃至3の整数を表す。]
【0017】
【化4】

【0018】
[一般式(2)中、R11は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環基の何れかを表す。*は一般式(1)の芳香環との結合部位を表す。]
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を表す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシエチル基、シアノエチル基、トリフルオロメチル基、3−スルホプロピル基、4−スルホブチル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、メトキシエトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、3−カルボキシプロポキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、o−メトキシフェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、ヒドロキシル基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、イオン性基等が挙げられる。イオン性基としては、例えば、トリエチルアンモニウム基、トリメチルアンモニウム基等のカチオン性基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基が挙げられる。本発明においては、耐光性の点で、R及びRが、メチル基、エチル基、プロピル基であることが好ましい。また、合成上の点で、R及びRが置換基を有する場合は、置換基が全て同一であることが好ましい。
【0019】
一般式(1)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は上記一般式(2)で表されるアシルアミノ基を表し、R、R、R及びRの少なくとも1つは上記一般式(2)で表されるアシルアミノ基である。C.I.アシッドレッド289と同様に、一般式(1)の染料が高い発色性を有しながらも、高い耐光性及び耐オゾン性を有するためには、R、R、R、Rの少なくとも1つが上記一般式(2)で表されるアシルアミノ基であることが好ましい。本発明においては、発色性、耐光性の点で、一般式(2)のアシルアミノ基の数が2以上4以下であることが好ましい。また、一般式(1)の染料が一般式(2)のアシルアミノ基を複数個有する場合、合成上の点で、それぞれのアシルアミノ基が同一であることが好ましい。さらに、合成上の点で、一般式(1)におけるRとR、RとR、RとR、RとR、RとR10の組み合わせが、それぞれ同一であることが好ましい。
【0020】
一般式(2)中、R11は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、又はヘテロ環基を表す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシエチル基、シアノエチル基、トリフルオロメチル基、3−スルホプロピル基、4−スルホブチル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、p−トリル基、p−メトキシフェニル基、o−クロロフェニル基、m−(3−スルホプロピルアミノ)フェニル基等が挙げられる。アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、2−フェネチル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−メチルエテニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基等が挙げられる。ヘテロ環基としては、例えば、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ベンゾピラゾリル基、トリアゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、イソチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピロリル基、ベンゾピロリル基、インドリル基、イソオキサゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、フリル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、トリアジニル基等が挙げられる。
【0021】
11の各基は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シアノ基、アルキルアミノ基、スルホアルキル基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルホニルアミノ基、ハロゲン原子、イオン性基等が挙げられる。イオン性基は、例えば、トリエチルアンモニウム基、トリメチルアンモニウム基等のカチオン性基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基が挙げられる。本発明においては、発色性の点で、R11が、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基であることが好ましく、合成上の点で、アルキル基、アリール基であることが特に好ましい。中でも、特に優れた耐光性が得られる点で、R11が、直鎖のアルキル基、イオン性基が置換したアリール基であることが好ましい。
【0022】
一般式(1)中、Zは、SOH基、SOM基又はスルファモイル基を表し、Mはアンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンを表し、Zは芳香環の少なくとも1つの水素原子の位置に置換している。スルファモイル基としては、例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基等が挙げられる。SOM基におけるMはカウンターイオンであり、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、無置換のアンモニウム、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、n−プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウム、n−ブチルアンモニウム、テトラn−ブチルアンモニウム、イソブチルアンモニウム、モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム等が挙げられる。中でも、水に対する溶解性が良好である点で、Mがリチウムイオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオンであることが好ましい。本発明においては、一般式(1)の染料の水性媒体に対する溶解性に優れることから、ZがSOM基であることが好ましい。なお、インク中でSOM基の少なくとも一部はイオン解離を生じてカウンターイオンとなるため、本発明においては「カウンターイオンである」と記載しているが、イオン解離を生じていない場合も勿論本発明に含まれる。
【0023】
一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つがイオン性基で置換されている場合にはnは0乃至3の整数を表し、イオン性基で置換されていない場合にはnは1乃至3の整数を表す。水に対する溶解性が良好である点で、nが1乃至2であることが好ましい。
【0024】
一般式(1)におけるZの置換位置は、一般式(1)におけるその他の置換基の置換位置及びスルホン化又はクロロスルホン化の条件によって決定される。R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つが水素原子である場合、その水素原子とZが置換し、Zが芳香環に結合する。R11が芳香環を有し、かつ、芳香属性の水素原子が存在する場合、Zはその芳香環に結合していてもよい。R、R、R、R、R及びRの全てが水素原子以外の置換基であり、R11の置換基が芳香族性の水素原子をもたない場合は、キサンテン骨格の水素原子にZが置換し、Zが芳香環に結合する。本発明においては、合成上の点で、Zの置換位置がR、R、R、R、R又はRであることが好ましい。
【0025】
本発明にかかる一般式(1)で表される色素化合物は、公知の製造方法に基づき合成することができる。合成スキームの一例を以下に示す。
【0026】
【化5】

【0027】
[上記化合物(4)〜(7)におけるR〜R10は、前記一般式(1)におけるR〜R10と同義である。]
上記に例示したスキームでは、1段目に示した第1の縮合工程、2段目に示した第2の縮合工程、3段目に示したスルホン化あるいは、スルファモイル化工程によって、本発明の色素化合物(1)を合成する。ただし、R、R、R、R、R、Rの置換基にSOH基、カルボン酸基等のイオン性基がある場合は、3段目のスルホン化あるいは、スルファモイル化工程は行わなくてもよい。
【0028】
まず、1段目に示した第1の縮合工程では、化合物(3)と化合物(4)とを、有機溶剤や縮合剤の存在下で加熱し、縮合させる。次に、2段目に示すように、上記第1の縮合工程で得た化合物(5)と、上記に示した化合物(6)とを再び加熱縮合させることにより、化合物(7)を得る。最後に、化合物(7)をスルホン化剤(濃硫酸、発煙硫酸等)を用いてスルホン化すると、ZがSOH基である色素化合物(1)が得られる。また、クロロスルホン酸を用いて化合物(7)をクロロスルホン化後、濃アンモニア水、アルキルアミン、アリールアミンと反応させることにより、Zがスルファモイル基である色素化合物(1)が得られる。
【0029】
上記に例示した合成スキームの縮合反応において用いる有機溶剤について説明する。第1の縮合工程では、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール及びn−ブタノール等を単独で、若しくは混合して使用することが好ましい。第2の縮合工程では、例えば、エチレングリコール、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン及びニトロベンゼン等を単独で、若しくは混合して使用することが好ましい。
【0030】
上記第1の縮合工程における反応温度は、60℃以上100℃以下であることが好ましい。中でも、70℃以上であることがより好ましい。また、90℃以下であることがより好ましい。第2の縮合工程における反応温度は、120℃以上220℃以下であることが好ましい。また、180℃以下であることがより好ましい。
【0031】
一般式(1)中におけるR〜RとR〜R10が同一の基である化合物を合成する場合には、上記スキーム中の化合物(4)と(6)とは同一のものを用いることができる。従って、この場合は、化合物(3)より一段階の縮合工程で化合物(7)を得ることができる。その際における反応温度は、120℃以上220℃以下であることが好ましい。また、180℃以下であることがより好ましい。縮合剤としては、例えば酸化マグネシウム、塩化亜鉛及び塩化アルミニウム等を用いることが好ましい。
【0032】
上記反応スキームによって得られる最終生成物(色素化合物)は、通常の有機合成反応の後処理方法に従って処理した後、精製を行うことで、例えば水性記録液等、目的の用途に用いることができる。色素化合物は、H核磁気共鳴分光分析、LC/TOF MS、UV/Vis分光光度計等を用いて同定することができる。
【0033】
本発明にかかる色素化合物は、高いマゼンタ色の発色性を有し、かつ高い耐光性、耐オゾン性を有するため、印刷用記録液、塗料又は筆記具用記録液等の色材として、好ましく用いることができる。また、インクジェット用記録液の色材としても好ましく用いることができる。
【0034】
記録液とする場合は、色素化合物と水性媒体とを混合して用いることが好ましい。水性媒体としては、水や従来公知の水溶性有機溶剤等が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコール類、グルコールエーテル類、その他の含窒素化合物類等、公知のものが挙げられる。これらは、1種類で用いても、2種類以上を併用してもよい。特に好ましい水溶性有機溶剤としては、例えば2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン、2−ピロリドン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリジノン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0035】
また、記録液は界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、アセチレングリコール系の界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。中でも、アセチレングリコール系の界面活性剤が好ましい。特に、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加させた構造のものが好ましい。また、記録液中に、従来公知のpH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー等、種々の添加剤等を含有していてもよい。
【0036】
本発明の記録液は、調色のために、一般式(1)で表される色素化合物に加えて、一般式(1)とは別の構造の色素化合物(顔料、染料)を含有してもよい。記録液中の一般式(1)で表される色素化合物の含有量A(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下、さらには、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0037】
一般式(1)で表される色素化合物と併用する、一般式(1)とは別の構造の色素化合物(第2の色素化合物)は、アゾ系染料及び/又はアントラピリドン系染料であることが好ましい。アゾ系染料やアントラピリドン系染料としてはどのような構造を有する染料を用いてもよい。本発明においては、水溶性染料である場合、色調の点で、水中での最大吸収波長(λmax)が、380〜590nm、さらには480〜570nm、特には500〜560nmの範囲に存在するものが好ましい。
【0038】
アゾ系染料やアントラピリドン系染料の具体例としては、遊離酸の形で下記の構造を有する例示化合物(1)〜(4)が挙げられる。勿論、本発明は、下記の例示化合物に限られるものではない。
【0039】
アゾ系染料としては、例えば、特開平8−73791号公報及び特開2006−143989号公報に記載されたものが挙げられる。具体的には、下記の例示化合物(1)及び(2)が特に好適である。
【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
アントラピリドン系染料としては、例えば、国際公開第2004/104108号パンフレット及び特開2003−192930号公報に記載されたものが挙げられる。具体的には、下記の例示化合物(3)及び(4)が特に好適である。
【0043】
【化8】

【0044】
【化9】

【0045】
本発明においては、インク中の第2の色素化合物(アゾ系染料及び/又はアントラピリドン系染料)の含有量B(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下、さらには、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0046】
本発明者らが検討を行った結果、一般式(1)で表される色素化合物及び第2の色素化合物を特定の質量比率で用いることで、画像の耐光性及び発色性を特に高いレベルで両立することができるという知見を得た。本発明においては、画像の耐光性がさらに高いレベルで実現されるため、インク全質量を基準とした、一般式(1)で表される色素化合物の含有量A(質量%)が、第2の色素化合物の含有量B(質量%)に対して、質量比率で、9.0倍以下であることが好ましい。また、画像の耐光性を特に高いレベルで実現されるため、前記質量比率が、1.0倍以下であることがより好ましい。一方、画像の発色性がさらに高いレベルで実現されるため、前記質量比率が、0.05倍以上であることが好ましい。また、インク中の色材の合計含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0047】
本発明にかかる色素化合物を用いて調製された記録液は、インクジェット記録方式、特には熱エネルギーの作用により液滴を吐出させて記録を行うインクジェット記録方式に好適に用いられる。又、本発明にかかる色素化合物は、着色剤としての用途にとどまらず、光記録用色素やカラーフィルター用色素等の電子材料への応用にも適用できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<色素化合物の同定>
得られた色素化合物の同定は、下記に挙げる装置を用いて行った。即ち、H核磁気共鳴分光分析(ECA−400、日本電子製)、LC/TOF MS(LC/MSD TOF、Agilent Technologies製)、UV/Vis分光光度計(UV−36000形分光光度計、島津製作所製)である。尚、LC/TOF MSにおけるイオン化法はエレクトロスプレーイオン化法(ESI)を適用した。
【0050】
<色素化合物の合成>
<合成例1>
一般式(1)においてR、R、R、R、R、R10が各々メチル基でR及びRがアセチルアミノ基、R及びRが水素原子、ZがSOMであり、Mがナトリウムである、下記構造で表される色素化合物(8)の合成。
【0051】
【化10】

【0052】
3−アセチルアミノ−2,4,6−トリメチルアニリン(7.3g)と、上記合成スキームで示した化合物(3)(7.4g)とをスルホラン(20mL)中、塩化亜鉛(4.1g)の存在下、150℃で3時間加熱して反応させた。この溶液を冷却後、2規定の塩酸50mLに注ぎ込み、析出した結晶を濾別、水洗した後、乾燥させて乾燥物を得た。この乾燥物6gを、氷冷下、発煙硫酸30g中に加えた後、20〜25℃で4時間撹拌した。反応液を氷100g上に排出し、析出したスルホン化物を濾別した後、冷水で水洗し、析出物を得た。
【0053】
得られた析出物を水50mLに懸濁し、2規定の水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0として溶解させた後、アセトンで晶析することで、上記色素化合物(8)を得た。得られたものが上記式で表される構造を有することは、前記した各装置を用い、NMR分析、LC/TOF MS分析及びUV/Vis分光分析で確認した。以下に、分析結果を示す。
【0054】
[上記色素化合物(8)の分析結果]
[1]H NMR(400MHz、DMSO−d、室温)の結果(図1参照):
δ[ppm]=11.26(s、2H)、9.35(d、2H)、7.92(d、1H)、7.57(t、1H)、7.49(t、1H)、7.16(d、1H)、7.11(d、2H)、7.01(m、2H)、6.29(dd、2H)、3.38(s、18H)、2.09(s、6H)
[2]LC/TOF MS分析(溶離液:0.1%酢酸水溶液−メタノール、ESI)の結果:
保持時間 5.0分:純度=23.6面積%、m/z=795.21(n=1、[M−Na]
保持時間 6.4分:純度=75.0面積%、m/z=897.15(n=2、[M−Na])、875.16(n=2、[M−2Na+H]
[3]UV/Vis分光分析の結果(図5参照):
λmax=527nm、ε=95594M−1cm−1(溶剤:HO、25℃)
<合成例2>
一般式(1)においてR、R、R、R、R、R10が各々メチル基でR及びRがイソブチリルアミノ基、R及びRが水素原子、ZがSOMであり、Mがナトリウムである、下記構造で表される色素化合物(11)の合成。
【0055】
【化11】

【0056】
3−イソブチリルアミノ−2,4,6−トリメチルアニリン(8.4g)と、上記合成スキームで示した化合物(3)(7.4g)とをスルホラン(20mL)中、塩化亜鉛(4.1g)の存在下、150℃で3時間加熱して反応させた。この溶液を冷却後、2規定の塩酸50mLに注ぎ込み、析出した結晶を濾別、水洗した後、乾燥させて乾燥物を得た。この乾燥物6gを、氷冷下、発煙硫酸30g中に加えた後、20〜25℃で4時間撹拌した。反応液を氷100g上に排出し、析出したスルホン化物を濾別した後、冷水で水洗し、析出物を得た。
【0057】
得られた析出物を水50mLに懸濁し、2規定の水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0として溶解させた後、アセトンで晶析することで、上記色素化合物(11)を得た。得られたものが上記式で表される構造を有することは、前記した各装置を用い、NMR分析、LC/TOF MS分析及びUV/Vis分光分析で確認した。以下に、分析結果を示す。
【0058】
[上記色素化合物(11)の分析結果]
[1]H NMR(400MHz、DMSO−d、室温)の結果(図2参照):
δ[ppm]=11.27(s、2H)、9.35(s、1H)、9.25(s、1H)、8.02(d、1H)、7.70(t、1H)、7.61(t、1H)、7.56(s、2H)、7.31(m、1H)、7.13(m、2H)、5.98(s、2H)、2.64(m、2H)、2.15(m、6H)、2.09(m、12H)、1.13(m、12H)
[2]LC/TOF MS分析(溶離液:0.1%酢酸水溶液−メタノール、ESI)の結果:
保持時間 10.2分:純度=97.0面積%、m/z=931.1(n=2、[M−2Na+H]
[3]UV/Vis分光分析の結果(図5参照):
λmax=530nm、ε=78967M−1cm−1(溶剤:HO、25℃)
<合成例3>
前記一般式(1)において、R、R、R、R、R、R10が各々メチル基、R、R、R、Rが各々アセチルアミノ基、ZがSOMであり、Mがナトリウムである、下記構造で表される色素化合物(14)の合成。
【0059】
【化12】

【0060】
3,5−ジアセチルアミノ−2,4,6−トリメチルアニリン(6.7g)と、上記合成スキームで示した化合物(3)(7.4g)とを、スルホラン(20mL)中、塩化亜鉛(4.1g)の存在下、150℃で3時間加熱して反応させた。この溶液を冷却後、2規定の塩酸50mLに注ぎ込み、析出した結晶を濾別、水洗した後、乾燥させて乾燥物を得た。
【0061】
この乾燥物5gを、氷冷下、濃硫酸30g中に加えた後、20〜25℃で4時間撹拌した。反応液を氷100g上に排出し、析出したスルホン化物を濾別した後、冷水で水洗し、析出物を得た。
【0062】
得られた析出物を水50mLに懸濁し、6規定の水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0として溶解させた後、アセトンで晶析することで、上記色素化合物(14)を得た。得られたものが上記の構造を有することは、前記した各装置を用い、NMR分析、LC/TOF MS分析及びUV/Vis分光分析で確認した。以下に分析結果を示す。
【0063】
[上記色素化合物(14)の分析結果]
[1]H NMR(400MHz、DMSO−d、室温)の結果(図3参照):
δ[ppm]=10.19(brs、2H)、9.49(m、4H)、8.02(d、1H)、7.67(t、1H)、7.59(t、1H)、7.55(m、1H)、7.29(d、2H)、7.16(m、1H)、5.92(s、1H)、5.80(s、1H)、3.38(s、18H)、2.05(m、12H)
[2]LC/TOF MS分析(溶離液:0.1%酢酸水溶液−メタノール、ESI)の結果:
保持時間 3.8分:純度=86.0面積%、m/z=909.26(n=1、[M−Na]
保持時間 6.4分:純度=8.4面積%、m/z=1011.19(n=2、[M−H]
[3]UV/Vis分光分析の結果(図5参照):
λmax=528nm、ε=85888M−1cm−1(溶剤:HO、25℃)
<合成例4>
前記一般式(1)においてR、R、R、R、R、R10が各々メチル基でR及びRがカルボン酸(ナトリウム塩)基をするベンゾイルアミノ基、R及びRが水素原子である、下記構造で表される色素化合物(15)の合成。
【0064】
【化13】

【0065】
上記で得られた色素化合物(8)15.0gを濃塩酸中、30時間還流し冷却後、冷水200mLに排出した。排出液を20〜30℃で、25%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.0とし、30分撹拌後、結晶を濾別、水洗した。この後、乾燥することで色素化合物(8)の脱アセチル化物を得た。
【0066】
得られた色素化合物(8)の脱アセチル化物(2.5g)と、無水フタル酸(1.4g)とをN,N−ジメチルホルムアミド20mL中、50〜60℃で6時間反応させた。反応液を冷却後、2規定の塩酸50mLに注ぎ込み、析出した結晶を濾別した。得られた結晶を水洗し、2規定の水酸化ナトリウム水溶液で溶解させた後、エタノールで晶析することで、上記色素化合物(15)を得た。得られたものが上記式で表される構造を有することは、前記した各装置を用い、NMR分析、LC/TOF MS分析及びUV/Vis分光分析で確認した。以下に、分析結果を示す。
【0067】
[上記色素化合物(15)についての分析結果]
[1]H NMR(400MHz、DMSO−d、室温)の結果(図4参照):
δ[ppm]=12.37(brm、2H)、10.04(brs、2H)、8.00(dd、2H)、7.84(brm、2H)、7.62(brm、4H)、7.39(brd、4H)、7.23(d、2H)、7.11(brm、4H)、5.96(s、2H)、2.22(brs、6H)、2.11(brs、6H)、2.00(brs、6H)
[2]LC/TOF MS分析(溶離液:0.1%酢酸水溶液−メタノール、ESI)の結果:
保持時間 19.4分:純度=99.1面積%、m/z=949.24([M−Na])、927.26([M−2Na+H]
[3]UV/Vis分光分析の結果(図5参照):
λmax=530nm、ε=111574M−1cm−1(溶剤:HO、25℃)
<他の色素化合物の合成例>
上記合成例1〜4に準じた方法で、下記表1に示す色素化合物(8)〜(26)を合成した。これらの化合物の構造は、前記した色素化合物(8)、(11)、(14)、(15)と同様にして確認した。尚、表1中の「Me」はメチル基、「Et」はエチル基、「n−Pr」はノルマルプロピル基、「i−Pr」はイソプロピル基を表す。「*」は置換基の結合部位を表す。
【0068】
【表1】

【0069】
<記録液の調製>
下記表2及び3の上段に示す各成分(単位:質量%)を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズが0.2μmであるフィルターにて加圧ろ過を行い、各記録液を調製した。尚、比較用色素化合物(1)〜(4)及び併用色素化合物(1)〜(4)の構造は、下記に示す通りである。尚、比較用色素化合物(1)〜(4)及び併用色素化合物(1)〜(4)の構造は、下記に示す通りである。尚、併用色素化合物は酸の構造で示したが、併用色素化合物(1)及び(2)はLi塩、併用色素化合物(3)及び(4)はNa塩として用いた。また、アセチレノールE100は、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加させたノニオン性の界面活性剤(川研ファインケミカル製)である。
【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【化14】

【0073】
【化15】

【0074】
【化16】

【0075】
【化17】

【0076】
【化18】

【0077】
【化19】

【0078】
【化20】

【0079】
【化21】

【0080】
<評価>
<色素化合物単独>
先ず、色素化合物として、一般式(1)で表される色素化合物を単独で用いた場合の評価を行う。
【0081】
実施例1〜6及び比較例1〜4の記録液を、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置(PIXUS iP8600、キヤノン製)のインクカートリッジに充填し、上記装置に搭載した。記録条件として、温度23℃、相対湿度55%、記録密度600×600dpi、吐出量2.5pLとした。記録物は、光沢紙(キヤノン写真用紙・光沢 プロフェッショナル PR−201;キヤノン製)に、100%デューティの記録濃度20pLとし、記録デューティを0%から100%まで10%刻みで変化させた画像を形成した。画像形成後、画像を温度23℃、相対湿度55%で24時間自然乾燥した。
【0082】
上記の方法で得た各記録物について、記録デューティが100%の画像の部分について、CIE(国際照明委員会)により規定されたL表色系におけるL、a、bを反射濃度計Spectrolino(GretagMacbeth社製)にて、光源:D50、視野:2°の条件で測定し、下記のようにして評価した。
【0083】
(彩度評価)
記録物の彩度(c)を、色特性の測定値に基づき、下記式によって算出し以下のように評価した。
【0084】
上記で得られた記録物(光沢紙)における記録デューティが100%である画像の部分について、L、a、bの値を測定した。得られたL、a、bの値から、下記式に基づいて彩度(c)を求め、評価を行った。
【0085】
【数1】

【0086】
A:cが80以上であった
B:cが70以上80未満であった
C:cが70未満であった。
【0087】
(色相角評価)
更に、色度(L、a、b)の結果より、a75〜80の時の色相角(h°)を下記式より求め、評価を行った。
【0088】
【数2】

【0089】
A:h°が340以上、345未満であった
B:h°が335以上、340未満であった
C:h°が335未満であった。
【0090】
上記のようにして得た各記録物の画像の彩度(c)が80以上、色相角(h°)が340以上、345未満であれば、高いマゼンタ色の発色性を有する画像が得られると判断した。
【0091】
(耐光性評価)
先のようにして得た記録物における記録デューティが100%の画像の部分について、キセノン試験装置(アトラスウエザオメータ Ci4000、東洋精機製作所製)に投入し、温度24℃、湿度60%の条件下、100klxの雰囲気下に50時間曝露した。曝露試験前後の記録物のCIE(国際照明委員会)により規定されたL表色系における色度(L、a、b)を反射濃度計Spectrolino(GretagMacbeth社製)にて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した。そして、L、a、bの変化(ΔL、Δa、Δb)から、下記式によって色変化ΔEを算出し以下のように評価した。
【0092】
【数3】

【0093】
A:ΔEが5未満であった
B:ΔEが5以上10未満であった
C:ΔEが10以上であった。
【0094】
(耐オゾン性評価)
先のようにして得た記録物における記録デューティが100%の画像の部分について、オゾンウェザーメーター(OMS−H、スガ試験機製)にて、オゾン濃度10ppm、温度24℃、相対湿度60%の雰囲気下で印字物(記録物)を4時間曝露した。上記耐光試験と同様に、曝露試験前後の記録物のCIE(国際照明委員会)により規定されたL表色系における色度(L、a、b)を反射濃度計Spectrolino(GretagMacbeth社製)にて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した。そして、L、a、bの変化(ΔL、Δa、Δb)から、色変化ΔEを算出後、上記耐光性試験の場合と同様の基準で判断した。
【0095】
以上の結果を表4に示す。
【0096】
【表4】

【0097】
表4より、本発明の色素化合物を用いた実施例1〜6の記録液で形成した記録物は、本発明の色素化合物を用いていない比較例1〜4の記録液で形成した記録物に対し、色調、耐光性、耐オゾン性の点で良好であることが分かる。
【0098】
<色素化合物併用>
次に、色素化合物として、一般式(1)で表される色素化合物と、その他の色素化合物を併用した場合の評価を行う。
【0099】
実施例7〜19及び比較例5〜11の記録液を、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置(PIXUS iP8600、キヤノン製)のインクカートリッジに充填し、上記装置に搭載した。記録条件は、温度23℃、相対湿度55%、記録密度600dpi×600dpi、インク1滴当たりの吐出量2.5pLである。そして、後述する2種類の記録媒体に、それぞれ、記録デューティを0%から100%まで10%刻みで変化させた画像を形成した(記録デューティ100%の場合のインクの付与量は20pLとした)。記録媒体としては、光沢紙(キヤノン写真用紙・光沢 プロフェッショナル PR−201;キヤノン製)、及び、普通紙(PB PAPER GF−500;キヤノン製)を用いた。得られた記録物を、温度23℃、相対湿度55%の環境に24時間放置して、画像を十分に乾燥させた。以下の画像の評価は、CIE(国際照明委員会)により規定されたL表色系におけるL、a、bを、反射濃度計(Spectrolino;GretagMacbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件で測定して行った。
【0100】
(彩度評価)
上記で得られた記録物(普通紙)における記録デューティが100%である画像の部分について、L、a、bの値を測定した。得られたL、a、bの値から、下記式に基づいて彩度(c)を求め、評価を行った。
【0101】
【数4】

【0102】
AA:cが70以上であった
A:cが68以上70未満であった
B:cが66以上68未満であった
C:cが66未満であった。
【0103】
(耐光性(1)評価)
上記で得られた記録物(光沢紙)を、キセノン試験装置(アトラスウエザオメータ Ci4000、東洋精機製作所製)に投入し、温度24℃、湿度60%の条件下、100klxの条件下で50時間キセノン光に曝露させた。そして、記録デューティが100%の画像の部分について、曝露試験前後のL、a、bの変化(ΔL、Δa、Δb)から、下記式に基づいて色変化(ΔE)を求め、耐光性(1)の評価を行った。結果を表4に示す。この耐光性(1)の評価は、短期間の耐光性を評価するものである。
【0104】
【数5】

【0105】
A:ΔEが5未満であった
B:ΔEが5以上10未満であった
C:ΔEが10以上であった。
【0106】
(耐光性(2)評価)
上記で得られた記録物(光沢紙)を、キセノン試験装置(アトラスウエザオメータ Ci4000、東洋精機製作所製)に投入し、温度24℃、湿度60%の条件下、100klxの条件下で70時間キセノン光に曝露させた。上記の耐光性(1)の評価と同様にして、色変化(ΔE)を求め、耐光性(2)の評価を行った。この耐光性(2)の評価は、長期間の耐光性を評価するものである。
【0107】
AA:ΔEが7未満であった
A:ΔEが7以上10未満であった
B:ΔEが10以上15未満であった
C:ΔEが15以上であった。
【0108】
(耐オゾン性評価)
先のようにして得た記録物における記録デューティが100%の画像の部分について、耐オゾン性評価を行った。先ず、記録物をオゾンウェザーメーター(OMS−H、スガ試験機製)に投入し、オゾン濃度10ppm、温度24℃、相対湿度60%の雰囲気下で4時間曝露した。上記耐光性の評価と同様に、曝露試験前後の記録物のCIE(国際照明委員会)により規定されたL表色系における色度(L、a、b)を反射濃度計Spectrolino(GretagMacbeth製)にて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した。そして、L、a、bの変化(ΔL、Δa、Δb)から、色変化ΔEを算出後、上記耐光性(1)試験の場合と同様の基準で判断した。
【0109】
以上の結果を表5に示す。
【0110】
【表5】

【0111】
表5より、本発明の色素化合物を用いた実施例7〜19の記録液で形成した記録物は、本発明の色素化合物を用いていない比較例5〜11の記録液で形成した記録物に対し、色調、耐光性、耐オゾン性の点で良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される色素化合物。
【化1】


[一般式(1)中、R、R、R及びR10は、それぞれ独立にアルキル基を表す。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を表す。R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は下記一般式(2)で表されるアシルアミノ基を表し、R、R、R及びRの少なくとも1つは下記一般式(2)で表されるアシルアミノ基である。Zは、SOH基、SOM基又はスルファモイル基を表し、Mはアンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンを表す。Zは芳香環の少なくとも1つの水素原子の位置に置換している。R、R、R、R、R及びRの少なくとも1つがイオン性基で置換されている場合には、nは0乃至3の整数を表し、イオン性基で置換されていない場合には、nは1乃至3の整数を表す。]
【化2】


[一般式(2)中、R11は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環基の何れかを表す。*は一般式(1)の芳香環との結合部位を表す。]
【請求項2】
前記一般式(2)中のR11は、アルキル基またはアリール基である請求項1に記載の色素化合物。
【請求項3】
前記一般式(2)中のR11は、直鎖のアルキル基またはイオン性基が置換したアリール基である請求項1に記載の色素化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)中における一般式(2)で表されるアシルアミノ基の数は、2以上4以下である請求項1〜3の何れか1項に記載の色素化合物。
【請求項5】
前記一般式(1)中のZは、SOM基である請求項1〜4の何れか1項に記載の色素化合物。
【請求項6】
前記一般式(1)中のR、R、R、R10は、各々独立にメチル基、エチル基、プロピル基の何れかである請求項1〜5の何れか1項に記載の色素化合物。
【請求項7】
前記一般式(1)中のR、Rは、各々独立にメチル基、エチル基、プロピル基の何れかである請求項1〜6の何れか1項に記載の色素化合物。
【請求項8】
前記一般式(1)中のRとR、RとR、RとR、RとR、RとR10が、それぞれ同一の置換基である請求項1〜7の何れか1項に記載の色素化合物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の色素化合物を含有することを特徴とする記録液。
【請求項10】
一般式(1)で表される色素化合物に加えて、一般式(1)とは別の構造の色素化合物を含有する請求項9に記載の記録液。
【請求項11】
請求項1〜8の何れか1項に記載の色素化合物を含有することを特徴とするインクジェット用記録液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−148973(P2011−148973A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188488(P2010−188488)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】