説明

芝草のダラースポット病の発生抑制方法

【課題】粒状肥料組成物を用いた芝草のダラースポット病の発生抑制方法を提供すること。
【解決手段】樹脂被覆窒素肥料を含有する粒状肥料組成物を芝草の生育期中に芝草の生育している土壌に、好ましくは窒素肥料成分として1m2当り5〜20g施用する工程を有する、芝草のダラースポット病の発生抑制方法であり、該粒状肥料組成物中の全ての窒素肥料成分の60%以上が該樹脂被覆窒素肥料中、好ましくは樹脂被覆尿素中に含有されてなることを特徴とする芝草のダラースポット病の発生抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芝草のダラースポット病の発生抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ場、公園等における芝草の病害を防除する方法としては、一般的には農薬による防除が行われている。芝草、特にゴルフ場における芝草においては、芝草の美しさ(審美性)が重要視され、芝草の病害を防除する為に多量の農薬が散布されることがあった。しかしながら散布された農薬による環境汚染を考慮して、近年ではゴルフ場等の芝草の病害の防除において、低農薬又は無農薬で行うことが検討され、例えば非病原性の菌類を芝草に施用して芝草における病害を施用する方法(特許文献1)が提案されている。
ゴルフ場における芝草に発生する病害において、ダラースポット病は特に重要な病害のひとつである。ダラースポット病は土壌における肥料成分の中の窒素が不足すると、発病が助長され、窒素肥料を定期的に施用することでダラースポット病の発生を抑制する試みも検討されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−146185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定の粒状肥料組成物を用いた芝草のダラースポット病の発生抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は芝草に施用される肥料について鋭意検討を重ねた結果、樹脂被覆窒素肥料を含有する特定の粒状肥料組成物を芝草の生育期間中に芝草の生育している土壌に施用することにより、芝草のダラースポット病の発生抑制することができることを見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の発明を含む。
[発明1]
樹脂被覆窒素肥料を含有する粒状肥料組成物を芝草の生育期中に芝草の生育している土壌に施用する工程を有する芝草のダラースポット病の発生抑制方法であり、該粒状肥料組成物中の全ての窒素肥料成分の60%以上を該樹脂被覆窒素肥料が含有していることを特徴とする芝草のダラースポット病の発生抑制方法。
[発明2]
芝草の生育期中に施用される窒素肥料成分の合計量が1m2当り5〜20gの範囲である発明1に記載された発生抑制方法。
[発明3]
樹脂被覆窒素肥料が樹脂被覆尿素であることを特徴とする発明1又は2に記載された発生抑制方法。
[発明4]
樹脂被覆窒素肥料が25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が100〜220日である長期溶出型樹脂被覆尿素を含むことを特徴とする発明1又は2に記載された発生抑制方法。
[発明5]
芝草のダラースポット病の発生抑制の為の、全ての窒素肥料成分の60%以上を樹脂被覆窒素肥料が含有してなる、該樹脂被覆窒素肥料を含有する粒状肥料組成物の使用。
[発明6]
樹脂被覆窒素肥料が樹脂被覆尿素であることを特徴とする発明5に記載された粒状肥料組成物の使用。
[発明7]
樹脂被覆窒素肥料が25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が100〜220日である長期溶出型樹脂被覆尿素を含むことを特徴とする発明5に記載された粒状肥料組成物の使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法により、芝草のダラースポット病の発生抑制をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明を詳しく説明する。
本発明において、芝草とは日本のゴルフ場や公園において栽培されている、地上を這う根茎を有するイネ科の草を意味し、具体的にはベントグラス(Agrostis stolonifera、Agrostis tenuis)、ノシバ(Zoysia japonica)、コウライシバ(Zoysia matrella)、ビロードシバ(Zoysia tenuifolia)、バミューダグラス(Cynodon dactylon)、ブルーグラス(Poa annua、Poa pratensis、Poa trivialis)、ライグラス(Loium perenne)等が挙げられる。
芝草における生育期(通常、気温が生育適温域にあり、繁殖期に相当する期間)及び休眠期若しくは生育衰退期の時期及びその割合は、芝草の種類及び地域により多少変化するが、例えばコウライシバは北海度以北の寒冷地において5月〜10月の期間、本州以南においては3月〜12月の期間が生育期であり、ベントグラス及びブルーグラスは北海度以北の寒冷地において4月〜11月の期間、本州以南においては3月〜12月の期間が生育期である。
【0009】
芝草におけるダラースポット病は、Sclerotinia homoeocarpa菌を原因とする病害であり、病害が発生した芝草の芝地には窪んだ円形のパッチが観察される。このパッチは、茶色から淡黄色に変色し、最終的には融合して、不定形となる。ダラースポット病に感染した芝草の葉には、小さな病斑が現れ、黄色や緑から淡黄色に変わり、境界線が赤みを帯びた茶色になり、朝露がある時間には菌糸を確認することできる。
【0010】
本発明の方法で使用する粒状肥料組成物(以下、本粒状肥料組成物と記す。)は、窒素肥料成分を含有する粒状肥料組成物であり、粒状肥料組成物中の窒素肥料成分の60%以上を樹脂被覆窒素肥料(以下、本被覆窒素肥料と記す。)が含有する。
本被覆窒素肥料が含有する窒素肥料成分を含有する化合物としては、例えば尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸加里、石灰窒素等が挙げられる。
本被覆窒素肥料は通常、窒素肥料成分を含有する粒状肥料の表面を樹脂の被膜で被覆することにより製造することができる。その樹脂被覆の方法としては特に限定されず、公知の方法により被覆することができるが、例えば特開平9−208355号公報に記載されているように、攪拌装置自身の回転により、粒状肥料を転動させながら、未硬化の熱硬化性樹脂を添加し、粒状肥料の表面にて樹脂を硬化させて被膜を形成する方法や、特開平10−158084号公報に記載されているように、噴流塔内にて粒状肥料を噴流状態とし、熱可塑性樹脂の溶液を噴霧し、熱風にて溶媒を除去することにより被膜を形成する方法等を用いることができる。
本被覆窒素肥料に用いられる被膜材としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、ポリウレタン、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂が挙げられる。また、特開昭63−147888号、特開平2−275792号、特開平4−202078号、特開平4−202079号、特開平5−201787号、特開平6−56567号、特開平6−87684号、特開平6−191980号、特開平6−191981号、特開平6−87684号等に開示された各種の被覆材を挙げることができる。
【0011】
本発明の方法において、本被覆窒素肥料としては樹脂被覆尿素が好ましい。また、樹脂被覆尿素として、25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が異なる2種以上の樹脂被覆尿素を用いることが更に好ましい。
【0012】
本粒状肥料組成物は樹脂被覆窒素肥料の他に、窒素肥料成分を含有する無被覆の粒状肥料が配合されていてもよく、更にリン酸、カリウム、珪素、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ホウ素、鉄等の他の肥料成分を含有する粒状肥料が配合されていてもよい。
そのような窒素肥料成分を含有する化合物としては、例えば尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニアソ−ダ、硝酸カルシウム、硝安石灰、ホルムアルデヒド加工尿素(UF)、アセトアルデヒド加工尿素(CDU)、イソブチルアルデヒド加工尿素(IBDU)、グアニール尿素(GU)等が挙げられる。リン酸肥料成分を含有する化合物としては、例えば過リン酸石炭、重過リン酸石炭、苦土過リン酸、リン酸アンモニウム、苦土リン酸、硫リン安、リン硝安カリウム、塩リン安等が挙げられる。カリウム肥料成分を含有する化合物としては、例えば塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸カリソーダ、硫酸カリ苦土、重炭酸カリウム、リン酸カリウム、硝酸カリウム等が挙げられる。珪素肥料成分を含有する化合物としては、例えば珪酸カルシウム、珪酸カリウム等が挙げられる。マグネシウム肥料成分を含有する化合物としては、腐植酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
また本粒状肥料組成物は、肥料取締法で定められている有機質肥料が配合されていてもよい。有機質肥料としては、例えば、魚かす、魚荒かす、干魚肥料、魚節煮粕、肉粕、肉骨粉、蒸製てい角粉、蒸製毛粉、乾血、蒸製皮革粉、干蚕蛹、蚕蛹油かす、絹紡蚕蛹くず、大豆油かす、菜種油かす、米ぬか油かす、アミノ酸副産物、乾燥酵母、乾燥菌体、醗酵副産物、活性汚泥、醗酵乾ぷん、加工家きんふん等が挙げられる。
【0013】
本粒状肥料組成物において、窒素肥料成分の他にリン酸肥料成分とカリウム肥料成分とを含有していることが好ましく、窒素肥料成分とリン酸肥料成分との比が10:2〜10:7(N:P25)の範囲、窒素肥料成分とカリウム肥料成分との比が10:2〜10:7(N:K2O)の範囲であることが更に好ましい。
【0014】
本発明の方法は、芝生の生育期中に施用される窒素肥料成分の合計量が1m2当り5〜20gの範囲となるように、本粒状肥料組成物を施用することにより行われる。本粒状肥料組成物を施用する回数は特に限定されないが、通常は1〜8回である。施用する回数が1回の場合は、ダラースポット病の発生前である生育期初期に施用し、施用する回数が複数回の場合は、ダラースポット病の発生前である生育期初期に1回目の施用を行い、その後は適当な間隔を空けて施用し、窒素肥料成分換算で1m2×月当り、窒素肥料成分が0.5〜4gとなるように、1回当りの本粒状肥料組成物の施用量を調整する。
本発明の方法において、肥料施用に係る省力化及びダラースポット病の発生抑制効果(特に予防的な抑制効果)の観点から、本粒状肥料組成物の施用をダラースポット病の発生前に1回行うことが好ましく、その場合は通常、本被覆窒素肥料として25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が100〜220日である長期溶出型樹脂被覆尿素を含む本粒状肥料組成物を芝生の生育期初期に施用する。尚、25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が100〜220日である長期溶出型樹脂被覆尿素は、本粒状肥料組成物中の窒素肥料成分として20〜80%に相当する量が配合されることが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下に実施例にて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
試験例1
北海道内の芝地(芝草の種類:ベントグラス)において、3種類の異なる粒状肥料組成物を用いて、表1に記載の施用方法にて芝草を栽培した。
【0016】
【表1】

*1:肥料成分の配合割合は、N:P:K=24:6:7。樹脂被覆窒素肥料は樹脂被覆尿素であり、粒状肥料組成物中の窒素肥料成分の65%は樹脂被覆窒素肥料に由来し、粒状肥料組成物中の窒素肥料成分の40%は25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が100日である長期溶出型樹脂被覆尿素に由来する。施肥は40g×1回。
*2:肥料成分の配合割合は、N:P:K=22:5:10。樹脂被覆窒素肥料は樹脂被覆尿素であり、粒状肥料組成物中の窒素肥料成分の62%は樹脂被覆窒素肥料に由来する。施肥は15g×3回。
*3:肥料成分の配合割合は、N:P:K=10:10:10。施肥は25g×4回。
【0017】
その後、10月20日に試験地内のダラースポット病によるパッチ数(斑点数)及び葉緑素量(SPAD値;ミノルタ社製葉緑素計を使用)を調査した。結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

本粒状肥料組成物を施用した芝草においては、ダラースポット病の発生抑制をすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の方法により、芝草のダラースポット病の発生抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂被覆窒素肥料を含有する粒状肥料組成物を芝草の生育期中に芝草の生育している土壌に施用する工程を有する芝草のダラースポット病の発生抑制方法であり、該粒状肥料組成物中の全ての窒素肥料成分の60%以上が該樹脂被覆窒素肥料中に含有されてなることを特徴とする芝草のダラースポット病の発生抑制方法。
【請求項2】
芝草の生育期中に施用される窒素肥料成分の合計量が1m2当り5〜20gの範囲である請求項1に記載された発生抑制方法。
【請求項3】
樹脂被覆窒素肥料が樹脂被覆尿素であることを特徴とする請求項1又は2に記載された発生抑制方法。
【請求項4】
樹脂被覆窒素肥料が25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が100〜220日である長期溶出型樹脂被覆尿素を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載された発生抑制方法。
【請求項5】
芝草のダラースポット病の発生抑制の為の、全ての窒素肥料成分の60%以上が樹脂被覆窒素肥料中に含有されてなる、該樹脂被覆窒素肥料を含有する粒状肥料組成物の使用。
【請求項6】
樹脂被覆窒素肥料が樹脂被覆尿素であることを特徴とする請求項5に記載された粒状肥料組成物の使用。
【請求項7】
樹脂被覆窒素肥料が25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が100〜220日である長期溶出型樹脂被覆尿素を含むことを特徴とする請求項5に記載された粒状肥料組成物の使用。

【公開番号】特開2008−7447(P2008−7447A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177870(P2006−177870)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】